(39)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

日付が変わりかける頃、チャンミンは現地に到着した。

 

予定より数時間遅れだった理由は、途中仮眠休憩による時間ロスが生じたためだった。

 

三十路の寝不足は、ユノ以上に堪えていた。

 

スマートフォンの充電方法などいくらでもあっただろうに、そこまで頭が回らないほどチャンミンの思考力は低下していた。

 

ノンストップで車を走らせたいところだったが、居眠りで事故でも起こしてしまったら大変だ。

 

公共交通機関の利用の場合、現地での移動手段に困るため、長距離運転を選択するしかなかった。

 

運転中、チャンミンの脳内は2つの気がかりで占められていた。

 

家族のことと恋人のこと。

 

当然、事故を起こしてはならぬから、集中力を常時働かせながらの考え事だった。

 

隣にはユノはいない。

 

状況が違っていればロングドライブデートになったのに...と残念がってもいた。

 

 

半年ぶりの帰省だった。

 

チャンミンの生家は人家もまばらな地域にあり、お隣さんが数十メートル離れた距離にある。

 

車から降りた途端、カエルの鳴き声に全身包まれた。

 

家屋の3面が水田で囲まれており、暗闇のせいでどこにどれだけ潜んでいるのか捜しだせないが、草むらや水路のあちこちに潜んでいるのだろう。

 

チャンミンの到着のため、外灯は点いたままになっていた。

 

音をたてないようそっと引き戸を開けると、チャンミンを出迎えに家の奥から若い女性が出てきた。

 

寝ずに待っていたのを、車のエンジン音でチャンミンの到着を知ったのだろう。

 

彼女は2人いる妹のうちの1人で、兄妹だけあって、大きな二重まぶたや細身の長身などチャンミンとよく似ていた。

 

「お兄ちゃんったら!

全然連絡が取れないんだから。

事故に遭ったんじゃないかって、心配してたのよ?」

 

「ゴメン。

充電が切れちゃって」

 

「あっそ。

途中でバッテリーを買うなりなんなりすればいいじゃないの」

 

「あ...そっか!」

 

「も~、相変わらず抜けてるね」

 

兄を労う前に苦情を申し立てる妹Eの様子に、チャンミンはムッとする前に安堵を感じていた...それには理由があった。

 

「母さんは?」

 

「先に休んでもらった。

さっきまでお兄ちゃんを待ってたんだけど、明日のこともあるからね。

私とバトンタッチしたの」

 

「そっか。

遅くまで悪かったな。

...で、父さんは?

病院?」

 

「まさか!

家に帰ってきてるよ」

 

妹の言葉に、チャンミンは深々とため息をついた。

 

「取り越し苦労に終わるのでは?」の予想が当たったからだ。

 

「一応、顔を見てくるよ」と、チャンミンは靴を脱いだ。

 

「待って待って」

 

Eは両親の部屋へ突進するチャンミンの肘をつかんで引き留めた。

 

「安らかに眠っているから、

対面は明日にしてあげて」

 

「“安らか”...?」

 

「ぐっすり、気持ちよく寝てるっていう意味。

痛み止め飲んだら、おとなしくなった」

 

「誤解を生む言い方はよせよ」

 

「パパのことだから、ビタミン剤をあげても痛みが治まったかもね」

 

「だろうね」

 

「痛い痛いってうるさかったんだから。

痛みに弱いところはお兄ちゃんにそっくり」

 

「どこが似てるんだよ?」

 

(チャンミンは痛みに弱い、というより快楽に弱いといったところか)

 

「お兄ちゃんが悪いんだからね」

「僕が?」

 

「どうせ、ママが大げさなこと言ったんだろうって、お姉ちゃんと話してたの。

だからお兄ちゃんには、正確に説明しないとダメだってと思って電話をずっとかけてたのよ。

それなのに、電話は繋がらないし...」

 

「『父さんが大怪我をした、意識がない』なんて言われたら、びっくりするだろう?」

 

「きっと、ママの話を真に受けたお兄ちゃんは誤解しちゃったんだろうって

すぐにあたふたしちゃうんだから」

 

妹の指摘通で、黙り込むしかないチャンミンだった。

 

(今さらだけど思い出した!

母さんの言うことは話半分で聞いておくべき、ってことを忘れていた!)

 

痛がりの父親とあわてんぼうの母親に、何度振り回されてきたことか。

 

チャンミンが慌てていながらも、どこか呑気でいられていられたのも、頭の片隅でそうじゃないかと疑っていたためだった。

 

しかし、万が一ということもあるから、帰りを急ぐ必要があったのだ。

 

(こんなことなら、部屋に戻ればよかったよ。

ユノに連絡が取れたのに)

 

Eの話によると、先日の嵐で外れた雨どいの修理の最中、ハシゴから足を滑らしてしまったという。

 

危なっかしい素人仕事を心配した母親は、業者に依頼すればよいと止めたにもかかわらず、それを無視して強行してしまった結果だ。

 

幸い命には別条はなく、整形外科でギプスを巻いてもらい、鎮痛剤の処方のみで自宅へ返された(墜落のショックと激痛により、一瞬意識が飛んでしまったのは事実だった)

 

「慌てて帰る必要はなかったじゃないか!?」

つい大声が出てしまい、Eに口を塞がれた。

 

「必要は大ありよ。

明日が何の日か、分からない?」

 

「?」

 

チャンミンはきょとんとしている。

 

実のところチャンミンが呼び出された理由は、別にあった。

 

「...え、なんだろ?」

「花火大会...」

「あっ...!」

 

「夜祭があるでしょ?

うちの区が設営の当番がきてるの」

 

「そうなんだ?

去年も何かやっていなかったけ?」

 

「実家を出て行ったお兄ちゃんが知らなくて当然よね~。

去年は撤去。

パパも年なんだし、お兄ちゃんも協力してよね?」

 

「ごめん」

 

実家を出てはや十数年。

 

地元の行事にすっかり疎くなり、他所事のような感覚になっていた。

 

「...ということで、明日はパパの代わりに頑張ってね」

 

Eはチャンミンの肩をポンポン叩くと 「おやすみ~。お風呂は抜いていないから」と言って階段を上がっていってしまった。

 

(つまるところ、労働力要員として呼び出されたわけか...)

 

過疎化が進むこの町では、たった1人の欠員が労働力に大きく響く。

 

チャンミンは階段を1歩1歩、疲労で重くなった身体を...体重が100キロになったかのように...やっとのことで上がっていった。

 

ようやくチャンミンは、家族と同様大切な人の心配事に取り掛かることができたのだ。

 

明日のことを...日付は変わってしまったから今日のことを思うと、気が重くなる。

 

設営準備の共同作業が億劫なのではなく、他に懸念事項があったのだ。

 

会いたくない人がたくさんいる。

 

しかし、ユノとの問題を思えば些末なことに過ぎなかった。

 

 

チャンミンの部屋は物置化しており、収納ケースや季節外れの電化製品、段ボールやらで占められており、行動範囲はシングルベッドの上だけになり果てていた。

 

荷ほどきをする前に、リビングから拝借してきた充電ケーブルをコンセントに差し込んだ。

 

チャンミンが真っ先にしなくてはならないこととは、スマートフォンを充電することだった。

 

「やっぱり...」

 

電源スイッチを入れてみると、案の定ユノからの着信を知らせるSMSがいく通も届いていた。

 

(ユノ、ゴメン...。

心配かけちゃったね)

 

ユノにはたくさん伝えたいことがある。

 

発信ボタンを押しかけた指がぴたり、と止まった。

 

(ユノはアルバイト中かもしれないし、何から話せばいいか分からないし、頭の整理が必要だ!

勢い任せで電話をかけても、うまく話せる自信がない。

謝罪も説明も全部、朝になってからにしよう!)

 

スマートフォンを睨みつけた。

 

(...止めておこう)

 

シャワーは朝に浴びることにして布団にもぐりこんでみたが、疲労MAXのはずなのに眠りは一向に訪れてくれない。

 

枕元に置いたスマートフォンが気になって仕方がないのだ。

 

チャンミンはむくり、と起き上がった。

 

(やっぱり電話しよう!)

 

チャンミンはベッドの上で正座し、背筋を伸ばした。

 

鼓動が早い。

 

(ユノにはたくさん、謝らなければならないことがある)

 

チャンミンの震える指が、発信ボタンをタップした。

 

(つづく)

 

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(38)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

ユノは指導員専用の休憩部屋まで案内された。

 

テーブルとベンチがいくつかと冷蔵庫、壁際のカウンターにはポットとコーヒーサーバーが置かれ、窓から場内コースが一望できた。

 

強力な照明によって教習車や信号機が濃い影を作り、大量の虫が引き寄せられてい

る。

「ここまで押しかけてきてしまって...申し訳ないっす」

 

頭を下げるユノに、Kは「いいさ」と笑って言った。

 

「何があった?」

 

Kはユノに椅子に座るよう促すと、お茶を注いだ紙カップを手渡した。

 

「チャンミンが何かやらかしたのか?」

 

「“やらかす”...?」

 

チャンミンとは、何かを「やらかして」しまうような人物なのかと興味をそそられたが、今回はスルーすることにした。

 

「いえ。

俺が全部悪いんす...多分」

 

「そうなの?

ユノ君がチャンミンに何かするような風には見えないんだけどなぁ?」

 

Kはチャンミンのキャラクターを知っており、チャンミンに熱烈片想い中のユノを見てきた。

 

何かと屈折しているチャンミンがユノに対して失礼な言動をとることは予想できても、ユノがチャンミンを傷つけるような真似はしないだろうとみなしていたのだ。

 

「今朝...ポカやってしまって、せんせにどうしても謝りたいんす」

 

途中で萎えてしまって最後までできなかったことや、大人の玩具を見つけたことでチャンミンに恥をかかせてしまった等々、詳細までは語れない。

 

花火大会という名のコンパに参加した一件については、解決したとみなしていた。

 

「せんせと連絡を取りたいんすけど、全然電話に出てくれないんす。

朝からずっと、です」

 

掛け時計の針は19時を指している。

 

「チャンミンにはそういうところがあるかもなぁ」と、Kは思う。

 

「電話に気づかないとか?」

 

「いいえ。

電源を切ってるみたいっす。

それとも着信拒否かな、と思ったんすけど...」

 

「それはないと思うなぁ。

念のため、俺からも連絡を入れてみよう」

 

Kはブレザーからスマートフォンを取り出し、操作し始めた。

 

ヘソを曲げたチャンミンが、恋人からの着信を拒んでいる可能性もあると踏んだからだ。

 

「ああ...ユノ君が言った通りだね」

 

ユノが聞いた通り電源が切られているか、電話に出られない旨のアナウンスが流れるばかりだった。

 

「でしょう?

他に考えられる可能性としたら...あああっ!」

 

突然、椅子から立ち上がったユノの勢いに驚き、Kはスマートフォンを床へ取り落としてしまった。

 

「どうしようK先生!

事故か何かに遭ったのかもしれません!」

 

ユノはバリバリと髪をかきむしった。

 

事故の衝撃で粉々になったスマートフォン、海に水没したスマートフォン、強盗に盗まれてしまったスマートフォン...ユノの脳裏にいくつかのケースが思い浮かんだ。

 

「それはないない」

「ホントっすか?」

 

ユノは、即座に否定したKを疑わしげな目で見た。

 

「ああ。

運転中だから電源を切ってるのかもしれないよ?」

 

「なるほど」

 

教習指導員たるもの、運転中のスマートフォン操作は避けて当然だ。

 

「でも、1日中運転してるってことないでしょう?

長距離運転じゃないすか」

 

「そっか、そうだった!

実家に向かってる途中だったんだ。

あいつんち遠いからね。

2、3日仕事を休むって、学校に連絡があったよ」

 

「!?」

 

ユノは口に含んだお茶を吹き出した。

 

「実家に帰るって!?

そういう大事なことは、最初に言ってくださいよ。

俺、全然聞いてないっす」

 

「知ってるかと思ったんだ」

 

「だって、チャンミンの恋人なんだから」と、Kは心の中で付け加えた。

 

Kはユノに、ティッシュペーパーを取ってやった。

 

「...初耳っす」

 

ユノとチャンミンの間に不穏な空気が流れたことは確かだろうと、Kは判断した。

 

出立に慌て手間取るあまり、ユノへの連絡を怠った風ではないらしいと察したが、余計なストレスをユノに与えるのは止めることにした。

 

「チャンミンは慌てるとパニくることがあるからさ。

ユノ君に心配をかけないよう、落ち着いてから知らせようと思ったんじゃないかな?」

 

受付担当の職員曰く、チャンミンは要件だけを伝えるなり電話を切ってしまったそうだ。

 

Kの言葉を聞いて、ユノの口元が痙攣した。

 

「慌てるようなことなんすか?

せんせの実家で何かあったんすか?

せんせの実家とやらは、どこにあるんすか!?」

 

「ええっ?」

「教えてください」

 

チャンミンの実家は、この街から遠く離れた地にあることは知っていたが、町村番地までは把握していない。

 

「追いかけるつもりなのか?

今何時だと思ってる...」

「教えてください!」

 

Kは詰め寄るユノの勢いに負けてしまい、口を挟む隙なしだった。

 

「分かったよ」

 

Kは「この子は止めても無駄だ」と諦め、チャンミンのアドレスを呼び出した。

 

過去にチャンミンの実家を訪れたことがあったのだ。

 

「でもね、ユノ君。

不幸があったわけじゃないんだ」

 

詳細は知らされていないため、憶測を口にすることはできない。

 

「ありがとうございました」

「ユノ君、待ちなさい!」

 

ユノはKの制止も聞かず 部屋を飛び出していった。

 

「あ~あ。

いろいろ誤解してそうだな」

 

このパターンは以前にもあったことを、Kは思い出していた。

 

チャンミンに知らせてやろうと思ったが、やはり電話はつながらなかった。

 

「こりゃあ、バッテリー切れだな、きっと。

もしくは家に置き忘れたか」

 

 

ユノはチャンミンを追いかける気満々だった。

 

翌朝まで待てなかった。

 

大急ぎで帰らないといけないほどの出来事が、恋人へ連絡を入れられないほどの出来事が、チャンミンの実家で起こったに違いないのだ。

 

最悪の事態も考えられた。

 

「ちくしょう...っ」

 

ユノは自転車脇にしゃがみこんでしまった。

 

夜間になっても、アスファルトは熱をこもらせている。

 

特急列車、飛行機、高速バス...思いつく限りの移動手段ごとに時刻表を調べてみたが、僻地ゆえに最終便が終わっていた。

 

(せんせんち、どんだけ田舎なんすよ)

 

自転車などもってのほか、最後に残された手段は自動車だ。

 

(ヒッチハイクしかないかぁ)

 

とりあえず自転車を置くため アパートへの道を急いだ。

 

ペダルを漕ぐスニーカーの足が止まった。

 

前方に、レンタカーショップの巨大看板が目に入ったからだ。

 

『21時まで営業中!』とある。

 

店内も明るく、従業員らしき一人が車を洗っていた。

 

(俺、免許持ってるじゃん!)

 

財布の中には、ぴかぴかの免許証が入っている。

 

素晴らしい気づきに、ユノの目前に光の道が現れた。

 

(せんせ、待っててください!

俺、せんせに会いにいきます!)

 

(つづく)

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(37)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

自動ドアから姿を現したのは、まるちゃんだった。

 

(彼はユノの友達!)

 

まるちゃん側も、目を丸くして突っ立っているチャンミンに気づいたようだが、彼の表情はぴくりとも動かない(付き合いの長いユノだったら、まるちゃんの1㎜単位の表情の変化に気づけただろう)

 

ユノと別れた後、3時間超えの昼寝から目覚めたまるちゃんは、予約していた声優専門雑誌の受け取りにコンビニエンスストアを訪れていたのだった。

 

深々と被ったフードの影のせいで、口元しか見えない。

 

「君はユノさんの友達の...?」

 

食い気味に近寄るチャンミンに、コミュ障のまるちゃんは後ずさりした。

 

「......」

 

「ごめん...!」

 

まるちゃんとの初対面の日、口をきくのも億劫そうで終始無言だったことを思い出した。

 

今のチャンミンにとって、頼みの綱はコミュ障のまるちゃんだった。

 

ユノと連絡を取りたくとも、自身のスマートフォンはバッテリー切れを起こしている。

 

(僕と連絡が取れないことに、ユノは焦っているかもしれないし)

 

そこへタイミングよく、ユノの親友まるちゃんと遭遇できたのだ。

 

チャンミンは前回と同様、ユノへの伝言をまるちゃんへ依頼する気満々だったのだ。

 

「出入口を塞いでる」と伝えたいのだろう、まるちゃんは脇へ退くよう顎をしゃくった。

 

「ごめんごめん!」

 

2人は店脇の駐輪スペースまで移動した。

 

「え~っと、僕のこと知ってるよね?」

 

1秒遅れて、まるちゃんはこくりと頷いた。

 

親友相手ならば、自分たちの交際のことを打ち明けているだろうと見込んでの質問だった。

 

「君にお願いがあるんだ」

 

まるちゃんの眉間にしわが寄った。

 

「面倒なことじゃないよ。

ユノさんへの伝言を頼みたいんだ」

 

「嫌です」

 

間髪入れずの返答にチャンミンはたじろぐが、前回もひどくそっけなかったことを思い出した。

 

「僕のスマホが電池切れなんだ。

どうしても連絡を入れたいんだ。

だから、君の方からユノさんに伝えて欲しいんだ」

 

両手を合わせ頭を下げるチャンミンに心動かされたのだろうか。

 

「ユノ...落ち込んでた」

 

「やっぱり!?」

 

まるちゃんのぼそぼそ声に、チャンミンは頭を跳ね上げた。

 

「あんたに追い出されたって...」

 

「追い出してなんか...!」

 

否定してみたが、今朝の言動は追い出したようなものだった。

 

(ユノの話を聞きもせず、一方的にまくしたてた挙句、部屋に引っ込んでしまったんだから)

 

「泣いてた(嘘だけど)」

 

「ああ...僕のせいだ」

 

チャンミンは顔を覆ってしまったが、まるちゃんの攻撃は止まない。

(親友のユノを守るために、口を開くこともごく稀にある。ユノに対する気持ちを確かめるために、チャンミンの反応を引き出したかったのかもしれない)

 

「ユノさんに謝りたいんだ。

僕は今すぐ出掛けなくちゃいけないんだ。

...だから、君に言付けを頼みたい」

 

「......」

 

無言を肯定ととらえたチャンミンは、今朝の出来事を説明しだした。

 

その内容とは、アナルビーズがベランダにあった言い訳や、男とのセックスはノンケのユノには時期尚早だったこと、それなのに急ぎ過ぎた自分が悪いのであってユノが自分自身を責める必要はないこと、デートの予定を台無しにしてしまって申し訳ないこと...伝言としては長すぎるメッセージを並べ立てた。

 

まるちゃんは、ぺらぺら動くチャンミンの口元を見つめながら思う。

 

(相手がユノの友人とは言え、よくここまでぶちまけられるんだ?

すげぇなこの人。

恥ずかしくないのか?

...それほど、ユノと連絡が取れなくて焦ってるんだな。

クソ真面目であぶなっかしくて、エロが好き。

あいつが好きになるだけある)

 

「...ってことを、ユノさんに伝えたいんだけど、これから出掛けなくちゃいけないんだ。

ここを留守にするってことも伝えたいんだ」

 

「......」

 

まるちゃんはパーカーのポケットからスマートフォンを出すと、ユノの番号を表示させた。

 

ユノに伝えたいことがあるならば、直接話せという意味なのだろう。

 

「ありがとう!」

 

目の前に突き出されたスマートフォンをうやうやしく受け取った。

 

震える指で発信ボタンをタップした。

 

ところが発信音が鳴るばかりだった。

 

「出ませんね。

もう一度」

 

30秒呼び出し続けてみたが、ユノは電話に出ない。

 

3度目も発信音が鳴るばかりだった。

 

(僕からの着信だからって無視しているわけではないか)

 

「あの時、時間的ロスがあっても自宅に引き返すべきだった!」と後悔しても、今となっては時間的余裕がない。

 

「...ダメですね。

諦めるしかないですね」

 

チャンミンはがっくりと肩を落とした。

 

「お手数おかけしました」と頭を下げた。

 

「ユノさんと連絡が取れるようになったら、さっきの伝言をお願いします。

僕もスマホが復活次第、彼に連絡します」

 

「その依頼の有効期限は?」

 

なんとまるちゃんは、車に乗り込もうとしたチャンミンを呼び止めたのだ。

 

「え~っと...」

 

チャンミンは宙を睨み、目的地到着時間を頭の中で計算して「日付が変わる頃までには」と答えた。

 

まるちゃんが頷いたことに安心したチャンミンは、頭を下げるとそそくさと車に乗り込んだ。

 

 

 

ユノはチャンミンの職場を訪れることにした。

 

チャンミンの友人であるK指導員ならば、チャンミンが行きそうな場所を知っているかもしれないと思いついたのだ。

 

夜間教習が行われている場内教習コースは、煌々とともる照明で明るい。

 

終業を知らせるチャイムの音や、教習簿を携えた教習生たちでにぎやかな待合室が懐かしいかった。

 

つい最近まで、ユノもここに通う生徒だったのだ。

 

受付カウンターでK指導員の居場所を案内してもらうと、学科教習から事務所に戻る彼を階段下で待つことにした。

 

学科教習を終えた教習生たちの最後に、K指導員が現れた。

 

「ユノ君じゃないか?」

 

Kはユノを認めるなり驚きの表情を見せたが、すぐにユノの目的を悟ったようだった。

 

「チャンミンのことかな?」

 

「ええっ!?

分かりました?」

 

「ユノ君が僕に会いにくるなんて、それしかないでしょ?」と、Kはくくくっと笑った。

 

(つづく)

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(35)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

 

ペダルを漕ぐユノの足は緩慢だった。

 

大人の玩具を発端とした口論の末、チャンミンは寝室に籠ってしまい、ユノは出てゆかざるを得なくなったのだ。

 

「せんせ...帰ります。

鍵は後で閉めてくださいよ?」

 

寝室のドアに向かって声をかけたが、応答は無かった。

 

ユノは、子供っぽいチャンミンの言動に新鮮な思いを抱いたりもしたが、機嫌を損ねていることは事実だから、暗い気持ちになってしまう。

 

出社登校中の人々と次々とすれ違う。

 

ふらふら運転は危なっかしく、何度か車と接触しそうになったユノは、自転車から下りて歩道へ移った。

 

大喧嘩をしたわけはなく、チャンミンがユノに対して一方的に腹を立てている図式になっているせいで、後味が非常に悪い。

 

仲直りしようにも、「なぜ?」の部分が不明で謝ることもできない...そもそも、ユノ自身、チャンミンを不機嫌にさせた言動が思い当たらないのだ。

 

(いや。

あると言えば、ある。

決定的な原因がある!)

 

考えないように自分を抑えていたけれど、やはりそこに行きついてしまう。

 

(俺のムスコが萎えてしまったせいだ!)

 

ユノはため息をついた。

 

「はあぁぁ...」

 

頭を垂れ、肩を落とし...その完璧なため息に、通行人の一人はすれ違いざまに、同情の視線をユノに送った。

 

モーニングサービスを供するベーカリーから、パンが焼ける香ばしい匂いが通りまで香ってきた。

 

本来のプランでは、今日は一日チャンミンと初デートの予定だったのに...。

 

ユノの腹の虫が鳴いた。

 

(腹減ったな...)

 

ユノの足が向かったのはもちろん、大親友のアパートだった。

 

 

「一体全体、なんでまた、そんなことになった?」

 

まるちゃんは目を閉じ、イギリス直輸入のアールグレイの香りを楽しむと、一口中身をすすり、「やれやれ」と呆れた風にそう言った。

 

本日のまるちゃんも、ボサボサ頭に膝の抜けたスゥエットパンツといった姿であっても、海外モデルばりのオーラを放っていた。

 

Tシャツだけはパリッとシワひとつない(なぜなら、推しキャラがプリントされたTシャツだから)

 

「それが分かんねぇんだよ」

 

ユノはデニッシュパン(さっきのベーカーリーで購入したもの)にかぶりついた。

 

「俺にもわけわかんないよ。

急に怒り出しちゃってさ、部屋を追い出されたみたいな感じなんだ」

 

「失礼なこと言ったんじゃねぇの?」

 

この軽口にムッとしたユノは、三白眼になってまるちゃんを睨みつけて「...俺がせんせに酷いこと言うと思うわけ?」と言った。

 

「言うわけないわな。

すまん。

お前のせんせLOVE度はすごいからなぁ」

 

「いいさ。

朝からあっちぃなぁ」

 

ユノはトレーナーの襟もとをパタパタと扇いで言った。

 

今日も暑くなりそうで、外はすでに30℃近くまで上昇していたが、エアコン修理が済んだまるちゃん宅は快適空間だった(先日は大汗をかきながら、アイスキャンディを食べていた)

 

まるちゃんはユノを横目でちらり、と見た。

 

「長袖だからだよ。

脱げよ。

お前にしてはラフ過ぎる格好だな」

 

ユノの衣服はチャンミン宅の洗濯機の中にあるため、チャンミンから借りたスウェットの上下姿のままだった。

 

「あ~...これ、せんせの服」

 

「セックスしたのか?」

 

「......」

 

相変わらずの最短距離&直球の質問に慣れているとはいえ、チャンミンがらみのことだけに、数秒間言葉に詰まってしまった。

 

恋人の部屋着を着ている理由は、すなわちお泊りしたことに他ならない。

 

「...できなかった」

「ふ~ん」

 

まるちゃんはもう一口紅茶を口に含んだ。

 

「勃たんかったのか?」

 

ユノは食べかけのパンを皿に戻すと、ぼそりと「勃ったさ」と答えた。

 

「萎えたってわけか?」

 

「まるちゃん...すげぇな。

なんでわかった?」

 

「初めて男とヤるんだろ?

しかも、ユノはノンケときた。

いくら先生が慣れてるといっても、ユノのが役に立たんかったら無理だろう?」

 

「好きな奴を前にしたら興奮するに決まってるだろ?

実際、興奮したさ。

でも...」

 

「男の尻を前にして我に返ってしまった」

 

「そんなとこ」

 

ユノは正直に答えた。

 

「せんせには見抜かれてたと思う。

付き合う前から、ノンケと付き合うことを気にしてたからさ。

前もそのことで口論になった」

 

「あの雨の日のことだろ?

ユノがバッグを忘れて行った時の?」

 

「あったなぁ、そんなこと」

 

当時は、チャンミンに心が届けと一心になっていた頃で、日に日にと心の距離が縮まる体感が確かにあった。

 

(けれども...今も変わらず探り合いの恋だ)

 

「あ~あ」

 

ユノはごろんと仰向けに寝転がった。

 

「まるちゃん...恋愛にセックスは必要なのだろうか?」

 

「ユノや~、急にどうしちゃったんだ?

もっと気楽に恋愛してたじゃん」

 

「う~ん。

せんせを前にすると、普通じゃいられなくなるんだ。

せんせを好きになったのも...そうだなぁ...性別を超えたんだろうな、うん」

 

「なるほどね。

性別を超えた愛情ならば、性欲はどうなるのか訳がわかんなくなってるわけね」

「まあ...そういうわけだ」

 

ユノはまるちゃんの側ににじりより、「で、セックスは必要なのか?」と再度尋ねた。

 

「必要ではない。

でも、それの優先順位が高い奴もいる。

先生はそのタイプなわけ?」

 

ユノは、大人の玩具や、下半身に顔面を埋めたチャンミンを思い出しながら、「どちらかというと、そうかもしれない」と答えた。

 

「そうなんじゃないかと思ったさ」

 

まるちゃんの言葉に、ユノは跳ね起きた。

 

「なんで分かった?」

 

「見るからにそうだろ?

ああいう朴訥で生真面目そうな奴は、うちに燃えたぎるものを秘めてるものなんだって」

 

「じゃあ、俺のが役に立たなかったから、せんせはがっかりしてるんだな」

 

「ユノや~」

 

まるちゃんはユノの額を突いた。

 

「先生の気持ちを勝手に想像するなって。

先生に直接訊いてみな」

 

ユノは突かれた額をこすりながら、「せんせは今、俺の顔見たくないみたいなんだよなぁ」とぼやいた。

 

「俺、せんせんちから追い出されたから、今まるちゃんちに居るわけ」

 

「先生に出て行け、って言われたのか?」

 

「雰囲気的に」

 

「なおさら当人に訊いてみなよ。

人の気持ちを読み取ってやるのも優しさかもしれんが、お前たちの場合、それが逆効果になってんじゃね?」

 

まるちゃんは立ち上がると、その場にごろりと横たわった。

 

枕代わりのクッションは、胸の大きな萌えアニメ女子がプリントされている。

 

「あのさ。

俺は徹夜してんだ。

今から寝るから、帰ってくれ」

 

しっしっと手を振られたが、ユノは気分を害する気配はない。

 

「わかった。

邪魔して悪かったな」

 

ユノはまるちゃんに炬燵の上掛けを放ってやった。

 

「なあ」

 

「ん?」

 

「一度、先生がどんな性格をしていそうか、じっくり考えてみな」

 

ユノはこれまで、ユノなりにチャンミンを見つめてきたつもりだった。

 

「先生は30過ぎの大人かもしれんが、悩み多き少年だと思って接してやりな。

でもなぁ、年食ってる分素直じゃないから、一筋縄じゃいかんし、ユノがノンケだってことをめちゃくちゃ気にしてると思う。

ユノも先生がゲイだってことを、なんだかんだ言ってても気にしてる」

 

まるちゃんはそこまで言うと、「じゃあな」とユノに背を向けたまま手を振った。

 

「ああ。

まるちゃん、ありがとな」

 

(まるちゃんと話していて、わかったことがある。

俺とせんせに必要なのは、会話だ)

 

ユノは自分に言い聞かせるように、何度も頷いた。

 

(セックスがどうのこうのじゃない!)

 

ユノは愛車にまたがりペダルを漕ぎ始めた。

 

 

(やってしまった...)

 

チャンミンは枕に顔を埋め、「馬っ鹿じゃね」ともごもごつぶやいた。

 

ユノへフォローの言葉をかけてあげねばならない時に、怒りと不信の言葉をぶつけてしまったのだ。

 

今も昔も変わらず、ささいなことで感情的になってしまう自分が恥ずかしかった。

 

ユノを一方的に責めてしまったのも、今回で二度目だった。

 

(ユノに連絡しよう。

『ごめん』って言おう)

 

もそもそと起きだした、リビングに置いていたスマートフォンを手に取った。

 

ちょうどその時、震え出したスマートフォンに表示された名前に首を傾げた。

 

「もしもし?

...えっ...!?」

チャンミンの顔が青ざめた。

 

(つづく)

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(33)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

「...」

 

互いの身体のデティールは、あいにくの暗がりで確認することができない。

肌と肌が触れ合い、密着することで、互いが興奮と緊張のせいで噴き出す汗で肌が光っていることも、紅潮していることを知るのだ。

体調不良を疑いそうなほどの発汗と発熱で、シーツは湿りシワが寄っていた。

 

「...」

 

ユノはチャンミンの頭を力強く胸にかき抱いた。

チャンミンの下に目をやらないようにしていることを、彼に悟られないようにしたのだ。

けれども、自身の下腹あたりに意識が向いてしまうのはどうしようもない。

敏感になった肌が、押し付けられているものの温もりや弾力、大きさや形などを感じ取っていた。

さらに、身体を動かすたびに、互いのもの同士がぶつかり合う。

 

(すごくイケナイことをしているかのようだ)

 

なんだかんだ言っていてもユノはノンケの男であり、いくら好きな相手であっても、慣れるまでには、もう少しだけ時間と興奮が欲しかった。

この程度のユノの反応など、チャンミンにとって想定内だ。

 

(...そうでしょうね。

あまり見たいものじゃないでしょうね)

 

チャンミンは、激しく唇を重ねてくるユノに応えながら、手探りで1本のチューブを手に取ると、器用に片手でキャップを外した。

次にチャンミンは、それ専用のクリームをたっぷり手に取り、ユノのものに塗り付けたのだ。

 

「せんせっ!」

 

突然のことに、ユノは驚嘆し跳ね起きようとしたが、チャンミンはすかさず唇を塞いだ。

 

「しーっ。

ユノさんはそのままにしていて」

 

チャンミンは耳元で囁いた。

むずかる幼子に「お駄賃をあげるからおとなしくしていてね」とあやす、母のような口調で囁いた。

 

「...はい」

 

ユノは素直にうなずくと、覚悟を決めて眼をつむった。

 

「うっ...!」

 

チャンミンはユノのものを上下に扱いた。

しゅっしゅ、くちゅくちゅと、湿った摩擦音。

のけぞりもだえる年下の恋人の姿を前に、チャンミンの興奮もうなぎのぼりだ。

たまらず自身のものを扱いてしまうのだった。

 

(さすがに、僕のものも触って、とは未だ言えない)

 

「うっ...せんせ...きもちっ」

 

チャンミンは扱くものに顔を近づけ、膨れた頭の先をぺろりと舐めた。

 

「はうっ...!」

 

当然、ユノの腰は跳ね上がる。

目をつむっていられたのも限界で、ユノはいろいろ繰り広げられている股間に視線を落とした。

 

「!!!!!」

 

両膝を立てたユノの股間に、顔を埋めようとしているチャンミン。

目に飛び込んできた刺激的過ぎる光景に、ユノが目を剥いてしまっても仕方がない。

男に咥えられることに嫌悪感を示したのではなく、申し訳ない気持ちに襲われたのだ。

ユノはこれまでの経験上、恋人にそれを求めたことはなかった。

とは言いつつ、背徳感が欲情を煽るともいうから、チャンミンの口の中でユノのものがサイズを増した。

 

「それ以上は...やめて...くださ...。

限界...かも」

 

根元の奥が張り詰めているのが分かる。

 

「一度、抜いておきますか?」

 

上下に扱く、チャンミンの手のスピードが増した。

 

「いやっ、やめっ!

くっ」

 

ユノの返事は、イエスともノーともとれる。

 

「遠慮せず...イってしまいなさい」

 

チャンミンは囁いた。

チャンミンの手の中で、ユノのものがむくむくとたくましくなってゆくことに、ぞくぞくした。

それは、過去の男たちに制服されてきたチャンミンが、味わったことのない『征服感』だった。

今この時、もだえ喘ぐ恋人が可愛くて仕方がない。

 

(ああ、欲しい。

早く欲しい)

 

チャンミンはついに、自身のものを扱き始めていた。

ユノを先にイカせるより先に、チャンミン自身が我慢の限界に達しようとしていた。

チャンミンはコンドーム(いつの間にか用意してあった)のパッケージを咥え封を切ると、硬さを失っていないユノのものに、それを手早く被せた。

(このコンドームは決して、前の恋人との使い残しではない。ユノとこの日が訪れてもよいよう、新たに買い求めたものだ)

ユノはおとなしく装着されながら、快楽のあまりおかしくなってしまった意識で、近くで揺れるチャンミンのものに釘付けになっていた。

 

(何がなんだかよく分かんなくなったけれど、今はもうヤるしかないでしょ?)

 

ユノの頭も下半身も暴発寸前だった。

 

(昼間は生真面目なせんせの裏の顔。

男の身体に興奮し、鼻息荒く求めてくるせんせ。

あたりまえだけど、せんせにはちんこが付いていた。

勃つかどうか心配してたけど、何とかなるものなんだな。

さすがせんせ、慣れていらっしゃる。

ああ...俺もいよいよ男デビューか。

せんせのことは好きだけれど、やっぱりイケナイことをしているように思えるよ)

 

ひとつひとつ挙げだしたらきりがない。

 

「ユノさん...こっち。

来て」

 

ユノはチャンミンに促されて身体を起こし、膝立ちになった。

チャンミンはユノの前で四つん這いになると、お尻を向けた。

そしてやおら、ユノのものをつかんで、自身の方へと引き付けた。

 

「!」

 

「ここ...ここです」

 

チャンミンはユノの先を、入口に押し付けた。

 

「うっ...」

 

入浴の際、十分に解されたそこは、つぷっとユノの先に吸い付いた。

 

「そのまま...来て」

 

「...は、はい」

 

ユノはチャンミンの細い腰を両手でつかんだ。

 

 

解してあったとしても、女性のそことは違う。

狭い入口で、最初はどうしてもねじこむ格好になる。

 

「...っ...!」

 

(マジでキツイ)

 

ユノの頭は、ぎゅうぎゅうに締め付けられる。

 

(ぶっちぎれそうだ)

 

一度腰を引くと、汗で滑るチャンミンの尻をつかみ直した。

そして、前後に抜き刺ししながら、奥へ奥へとねじ込んでいく。

 

「...くっ」

 

突き出されたチャンミンのお尻が、ぼうっと白く浮きだっている。

ユノのものを迎え入れながら、チャンミンは大きく深呼吸をした。

 

(想像以上にサイズが...)

 

「せんせっ...無理かも。

入んね...かも」

 

「大丈...夫です。

ゆっくりでいいから...」

 

「きっつ...。

おっかしいな...緊張してるせいっすかね?

くっ...」

 

ユノのものは徐々に力を失っていった。

 

「ユノさん...?」

 

「......」

 

ユノは無言で、チャンミンのそこから引き抜いた。

ずるりと引き抜いたユノのものは硬さを失い、首を垂れつつあった。

チャンミンはユノの方へ向き直ると、ユノの足元に伏せた。

 

「せんせっ...ダメっす...!」

 

チャンミンは、たった今まで自身の中に咥えこんでいたばかりのものを口に含んだのだ。

 

「やめて。

せんせ、そんなことしないでください!」

 

チャンミンはユノの制止を無視して、頭を動かした。

 

「せんせ、止めてくださいってば!」

 

チャンミンは必死だった。

 

(ここで中断してしまったら、ユノの自信を失わせてしまう!

トラウマになってしまう!

今日すぐに挿入は早すぎたのかも。

今はまだユノにはハードルが高かったのだ、きっと)

 

「やめて、って言ってるでしょう?」

 

「!!」

 

ユノに肩を押しのけられたせいで、チャンミンは尻もちをついてしまった。

 

「すみません!」

 

「いえ......大丈夫です」

 

チャンミンはユノの助けを借りて、身を起こした。

 

「せんせ...ごめん」

 

ベッドの上で、二人は向かい合わせになった。

ユノは両腿に乗せたこぶしを、ぎゅっと握りしめた。

 

「ごめん。

せんせ...ごめん」

 

「ユノさん、いいんです。

いいのですよ」

 

「うまいこといかなくて...すんません」

 

「ユノさん...。

初めては、こんなものですよ」

 

「でも...すんません」

 

チャンミンは手を伸ばし、ユノの柔らかな頬を撫ぜた。

ユノの熱い涙がチャンミンの指を濡らした。

 

「せんせが好きなのに...。

うまいことできなくて...すんません」

 

「ユノさん、もう謝らないで。

焦った僕が悪いんです」

 

「せんせが好きなのに...。

緊張してしまったみたいで...あははは。

俺って駄目だなぁ」

 

憧れと恋愛、そして性愛との距離がまだまだ離れていたユノだった。

 

「俺...アナル...初めてだったんで。

多分、それが原因だと思うっす。

せんせとはめっちゃ、したかったんですよ?」

 

チャンミンはユノの頭をかき抱いて、「そうあって欲しいなぁ」と思った。

 

(ユノは口に出さないけれど、男と関係を持つことに抵抗感がないはずはない。

急に我に返ってしまったんだろうなぁ)

 

(つづく)