(8)俺の彼氏はオメガ君

 

 

<お赤飯を炊きましょうの巻>

 

2人の実家はお隣さん同士で、ユノの帰省についていくことは、チャンミンにとっても同じことだ。

 

ヒート臭をプンプンさせたチャンミンを連れて、公共交通機関を利用などできるはずがない。

 

同じ例えを繰り返しているが、ぷくぷくに肥えた子羊(チャンミン)を丸裸にし、バターとハチミツをたっぷり塗って、10日間絶食をさせ飢えたハイエナの群れ(アルファやベータ)に放り込むようなもの。

 

(俺のチャンミンはすこぶる可愛いときている。

ヒートじゃなくても、おちおち一人歩きさせられねぇ)

 

ヒート期(発情期)にアルファと交わったオメガの妊娠率は100%。

(ベータ相手の場合は、その確率は格段に下がる)

(アルファの生殖能力の高さがお分かりいただけるだろう)

 

万が一、襲われた結果、チャンミンは望まぬ妊娠を強いられる...これがオメガの運命であり、存在意義だと言われたら、あまりにチャンミンが可哀想だ。

 

『チャンミンが身ごもるのはユノの子だけだ』

 

これはユノとチャンミン、2人が共通して抱いている未来予想図だった。

 

他人との接触を減らすため交通手段は車で、チャンミンが横たえられるよう、大型ワンボックスカーをチョイス。

 

ユノが引っ越し作業で留守にする間は、チャンミンはホテルに引きこもる。

 

レンタカーとホテルの手配は済んだ。

 

狭い車内で、チャンミンのヒート臭に酔って具合が悪くならないよう、特殊フィルター付きガスマスクをバッグに詰めた。

 

「副作用がきついから、あまり増量させたくないのだが...」と、性欲抑制剤も多めに持ってゆく。

 

(俺の用意なんかより、チャンミンが道中、快適に過ごせるための用意の方が大事だ)

 

ユノは、毛布や枕、タブレットを出発時に持ち出せるよう、まとめて置いた。

 

(お菓子は行きがけに買えばヨシ)

 

最後に、電動ディルドとアナ●プラグを手に、しばしフリーズ。

 

(いるか?

いらないか?

いや、いるだろう。

運転中の俺は、疼き悶えるチャンミンの相手をしていられない。

...いる!)

 

気軽に出かけられない身体になったことが、情けなくて仕方がない。

 

(そうさ。

いっそのこと、持病があると思えばいい)

 

どう捉えるかによって、生きやすくも生きづらくもさせてくれる

 

ユノの隣でチャンミンは、ウキウキと荷造りをしている...のではなく、真剣な顔をして抑制剤をピルケースに詰める作業をしている。

 

根本的に楽観的で能天気なチャンミンだったが、今回ばかりは危機感を持っているらしい。

 

ユノはそのチャンミンの姿に、いじらしさを感じて胸が締め付けられそうになるのだった。

 

「チャンミン」

「なあに?」

 

くるくる天然パーマの前髪は、ヘアピンで留められている。

 

(気が狂いそうに可愛いぜ...と、萌えている間じゃない!

俺は真面目な話をしようとしているんだ!)

 

「アレも持っていけよ」

「アレ...」

 

チャンミンにはユノが何を指して言っているのか、直ぐに分かったし、それを持参していかないといけないオメガの身体を呪った。

 

「ユノが僕を守ってくれるから、必要ないよ」と、突っぱねた。

 

絶対必要なもので、必ず持っていくつもりでいたけれど、一度は抵抗してみるのだ。

 

「要らないよ。

それって、襲われるの前提にしてるじゃん。

僕は襲われないもん。

大丈夫だもん」

 

チャンミンは口を尖らせ、ユノを睨みつけた。

 

「分かっているさ。

俺はお前を全力で護るに決まってるだろう?

でもさ、俺も万能じゃない」

 

ユノの言う通りだ。

 

アルファは強くて賢い。

 

しかし、ベータやオメガと同じ人間なのだ。

 

「チャンミンの香りは、他のオメガよりも強烈で誘惑度が高いんだ。

お前は特別なオメガなんだよ。

その自覚はあるってことは、俺は知っている。」

 

チャンミンはずりずり四つん這いでユノに近づくと、ぴとっと身体を密着させて座った。

 

「ホテルの部屋で籠っていても、ドアを突破してくるヤツがいるかもしれない。

その時チャンミンが...!

...っく...!」

 

ユノはそのシーンを想像し、噛みしめた唇から血がにじんだ。

 

「ゆの...オメガな僕でごめんね」

 

チャンミンはぺろり、とユノのぽってり下唇を舐めた。

 

「謝るな。

守りきれない時もある俺こそ、チャンミンに謝らなければならない」

 

「ゆのぉ...」

 

2人は熱いハグをした...が、行為に及ぶ時ではない。

 

接着剤でべったりくっついた物を、むしりとるように、2人は互いの身体から引き離した。

 

チャンミンはペンダントのロケット部分に、緊急避妊薬を入れた。

 

一緒に、一時的に発情を止める劇薬も入れた。

 

 

ワガママ小悪魔に見えるチャンミンだが、オメガに変性して以降、彼なりに苦い思いをしてきている。

 

子宮を有したことで生理が訪れるようになり、ナプキンを入れたポーチのやり場に苦慮した。

 

常にアルファに犯されるのではないかと、怯える日々。

 

そして何よりも、年に数度、ヒートに振り回されることが最もつらかった。

 

 

少しずつ、実家への距離が縮まるにつれ、チャンミンは思い出すのだ。

 

自身がオメガであることを打ち明けた日のことを...。

 

オメガだと判明した時、チャンミンの家族たちの反応は普通じゃなかった。

 

...想像していたものと、随分違った。

 

憐みの涙を流すことも、嘆き悲しむのでもない。

 

なんと、くす玉を割らんばかりにチャンミンを祝福したのだった。

 

チャンミンは唖然とした。

 

我が家族は狂っている...と。

 

彼ら曰く、ベータだろうがオメガだろうが、チャンミン一家の一員に変わらない。

 

言いにくかっただろうに、カミングアウトしたチャンミンを褒めたたえたのだ。

 

「チャンミンは、とても貴重な存在になったのよ。

絶滅危惧種なんだから、国が、世界が、お前を大事にしてくれる」

 

家族の言うことももっともだが、現実はそう甘くはない...チャンミンも家族も承知していたけど、物事は捉えようによって、絶望から救ってくれるのだ。

 

もしアルファだったとしたら...そのオーラに圧倒され、恐れ多くて距離を置いた接し方をされていただろう。

 

と言いつつ、オメガであるよりアルファに変性した方が、圧倒的に喜ばしいことに変わりはない。

 

オメガになったことを、彼らは内心絶望していたかもしれないが、それを露ともチャンミンに悟られないよう振舞ったに違いない。

 

あっぱれである。

 

 

チャンミンの告白の翌日、夕飯の食卓に並んだものに彼は絶句した。

 

「マジですか...」

 

「お赤飯を炊いたの」

 

 

「...母さん...」

 

チャンミンはがっくりと首を折り、ため息をついた。

 

冗談なのか、本気なのか。

 

はたまた、息子がオメガになってしまい、そのショックでおかしくなってしまったのか...。

 

「どうりでおかしいと思ったのよねぇ」

 

チャンミンの妹は、兄に似て美人の類に入るが、オメガになったチャンミンには負ける。

(オメガは例外なく、美しい容貌をしている)

「お兄ちゃんは、妙に綺麗になるし」

 

「前はお風呂上がりに、パンツだけでウロウロしていたのが、ある日突然、うっかり脱衣所のドアを開けただけで、『きゃっ』って叫ぶし。

バスタオルを胸の位置で巻いてるし」

 

「私のナプキンがごっそり減ってるときもあったし」

 

(やべっ)

 

買い置きが無くて、妹のものを失敬した時があったのだ。

 

「最初は、お兄ちゃんに変な趣味が出来たかと疑っていたの」

 

「『変な趣味』って何だよ?」と、チャンミンはムッとした。

 

「オムツに執着する人がいるって聞いたことあるから、ナプキンを使っていろいろしてるんじゃないかって」

(※当時、チャンミンの妹は中学生だ)

 

「そうよ~。

お母さん、本気で心配してたのよ~」

 

チャンミンの母と妹は、「ね~」と顔を見合わせた。

 

「そうじゃなくて、安心したわ。

オメガになったのなら、アレがきても仕方がないわね」

 

恥ずかしさと悔しさで顔を真っ赤にさせたチャンミンに、母は優しく言った。

 

「運命のアルファと出逢って、子供を作って、アルファに大事にされて、幸せに生きて欲しいのよ」

 

「......」

 

チャンミンのこれからの苦労をよそに、キャッキャ賑やかな母と妹。

 

さすがに父は、複雑な心境になっただろう。

 

父はしばらく無言だったが、「チャンミン、お代わりいるか?」と、チャンミンの茶碗に赤飯をよそってくれた。

 

「うん...ありがと」

 

チャンミンはうつむいて、大盛り赤飯をモクモクと口に運んだ。

 

深刻な雰囲気にならないよう気を遣っている家族に、チャンミンは感謝したのだった。

 

(つづく)

 

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(7)俺の彼氏はオメガ君

 

<アルファ・コンプレックスの巻>

 

ユノはアルファである自分が嫌いだった。

 

アルファと言えば、才色兼備で社会的地位が高いゆえに傲慢で、支配欲とプライドが高く、劣者に厳しい...アルファだからと大目に見てもらえるが、傍にいて愉快な人種とは言えない。

 

さらにアルファは性欲と生殖力が著しく、特にオメガ相手となると獣になってしまう。

 

(あらゆる欲にどん欲なアルファ...大嫌いだ)

 

ところがユノはベータとして生きた17年後に、大嫌いなアルファ属の仲間入りしてしまった。

 

ユノの両親、妹ともに全員ベータで、彼らにはアルファへと転性してしまったことを内緒にしている。

 

もし家族に、アルファと知られてしまったらどうなるか...ユノは出世街道まっしぐら。

 

ユノを見る家族の目ががらりと変わってしまう。

 

ユノは人生の成功者へのレールに乗ることを、一切望んでいなかった。

 

チャンミンがオメガであることを隠し通せたとしても、ユノがアルファだと知られた時点で、チャンミンとの仲を引き離されてしまう可能性があった。

 

アルファとオメガという最高の組み合わせなのに、「引き離される」とはどういうことか?

 

(この辺りの説明は後述する)

 

 

ベータ一家にアルファのユノが誕生した理由は、不思議でも何でもなく、父方の祖父母がアルファだったからだ。

 

祖先の中で1名でもアルファがいた場合、アルファの子孫が誕生する確率はゼロではない。

 

アルファ遺伝子を一親等で受け継いだわけではなかったため、属性の発現が成人前になってしまっただけのことだ。

 

ユノがアルファ嫌いの根底には、祖父母の存在があった。

 

ユノは祖父母が嫌いだった。

 

祖父母はあからさまに、ユノの父親を小馬鹿にしていた。

 

アルファを両親に持つのにも関わらず、生まれた子ども全員がベータだったため、アルファに誕生しなかったことを心底嘆いていた。

 

そんな中、アルファが生まれたのだ。

 

彼らの喜びは想像に難くない。

 

すぐさま、現在の勤め先を辞めさせ、自身が勤める会社に放り込み、エリートへの道を歩ませる。

 

そして、遺伝子分析から最高に相性がよいオメガをあてがわれ、半ば強引に番(つがい)契約を結ばされる。

 

(俺たちは家畜かよ)

 

アルファとは、見上げるだけの存在だった。

 

アルファ社会に一度仲間入りしてしまったら、ベータの世界へ戻るのは困難なのだ。

 

住み慣れた街。

 

ベータが暮らすには、アルファたちが好んで暮らす高級住宅地は相応しくないため、ユノ一家は平凡な住宅街に暮らしている。

 

(チャンミン一家はお隣さんだ)

 

ユノがアルファのオーラを消したとしても、ベータの目は騙せても、同属のアルファの目は誤魔化せない。

 

なぜなら、ユノの実家に引き取られることになった祖母がアルファなのだ。

 

祖父母はユノが中学生の頃、熟年離婚した。

 

アルファ同士のカップルはプライドのぶつかり合いで離婚率が高いと言われているため、ユノの祖父母は長続きした方だ。

 

アルファの大半は社会的に成功するケースが多いが、一度道を外してしまった時の経済面、精神面での没落度合いがベータ社会よりも大きい傾向にある。

 

彼らや彼らを取り巻くすべてがダイナミックだ。

 

成功の道を歩むのが当然の彼らだが、万能ではないため失敗することもある。

 

ただ、成功して当然でいるため、失敗した時の経済的、心理的失ダメージも大きい。

 

感情豊かでタフだが、精神面でのほころびが生じたときの崩壊具合もは、ベータの比にならない。

 

世間体上離婚を差し控えていたが、十何回目かの祖父の浮気にとうとう切れた祖母は離婚届を突きつけた。

 

憎い夫が出て行ってせいせいしたかと思ったら、祖母の気落ち度合いは大きく、一人暮らしもままならなくないほど、ガタガタな精神状態になってしまったのだ。

 

祖母からはさんざん冷遇されてきたのに、家族である以上引き取らなければならない。

 

今後の両親の苦労が目に見える。

 

さらに、ユノがアルファだと知った時、喜ぶ以上に、アルファコンプレックスが刺激されて複雑な心境に襲われるだろう。

 

祖父母たちは、家族でありながらユノの両親が「アルファではない」と憐れみ、小馬鹿にしてきた。

 

ユノの両親にとって、アルファに対する印象はことごとく悪い。

 

以上のように、ユノが帰省を渋る理由はいくつもあるのだ。

 

 

チャンミンのヒート(発情期)まであと数時間。

 

ユノはチャンミンの熱っぽく潤んだ瞳に引き込まれないよう顔を反らし、尻をずらして 距離をとった。

 

腕で鼻を押さえているユノを見て、チャンミンは首にタオルを巻いた。

(誘惑フェロモンはうなじの辺りから発散されるため)

 

「はあ...」

 

ユノはため息をついた。

 

「俺やっぱ、チャンミンを置いていけないから、実家に帰るのは止めとく」

 

「駄目だよ!

ユノが来なくっちゃ、ご両親もAちゃん(ユノの姉)もBちゃん(ユノの妹)も大変だよ」

 

チャンミンはユノの手からスマホを取り上げた。

 

ユノは、パジャマの袖をつかんできたチャンミンの手をそっと外し、さらに距離をとった。

 

オメガは興奮するとヒート臭がきつくなるのだ...ユノは唇を噛みしめ、額には玉の汗が浮かんでいた。

 

「ごめん...」とチャンミンは謝ると、ユノとは反対側に距離をとった。

 

「お祖母ちゃんが家に来るのか...それは大変だね」

 

お隣さんのチャンミンは、ユノ一家の事情もよく知っていた。

 

「ユノを困らせることを言っててごめんね。

オメガになった自分の不幸にばかり目が行ってしまって...アルファはアルファなりに苦労してるのに」

 

「チャンミンに比べたら、大したことないさ」

 

「ううん。

ユノの方が大変だよ。

いっつもユノにお守りしてもらっているから、これからは僕がユノを守ってあげる」と言ってチャンミンは、ユノの頭を引き寄せて抱きしめた。

 

「チャンミン...」

 

チャンミンの胸に押し付けられたユノの頬に、ドクンドクンと鼓動が伝わってくる。

 

(チャンミン...好きだ)

 

ドンドン。

 

「!!」

「!!!」

 

ドアのノックの音に、2人は飛び上がった。

 

「おーい、ユノ。

早く下りて来いよ」

 

ノックの主は、同じ社員寮に暮らす同僚だ。

 

「なんで?」

 

ユノはチャンミンの胸から顔を起こすと、大声で応えた。

 

「今夜はビアガーデンだろ」

 

「あ、そういえば...!」

 

彼は時間になっても現れないユノとチャンミンを呼びに来たのだ。

 

2人が居住する社員寮では定期的にイベントが開催される。

 

ビアガーデンはひと夏に2,3度と開かれる人気イベントで、会場は社員寮の屋上だ。

 

窓の外は大嵐。

 

明日は休日。

 

会場を食堂に移し、一晩中どんちゃん騒ぎになるだろう。

 

「チャンミンもそこにいるんだろ?」

 

「はーい」

 

素直に答えるチャンミンに、ユノは「黙ってろ」と睨みつけた。

 

(ユノとチャンミンは周知の仲である)

 

「ごめんなさい、てへ」

 

頭こつんに舌ペロチャンミンの破壊力。

 

(ぐは~~...可愛いぜ、こんちくしょー)

 

天気予報サイトをチェックすると、明日いっぱい大雨だ。

 

天気が悪いからと帰りたがらない客たちによって、下手したら明日いっぱい飲み会が続くかもしれない。

 

「先に行ってるぞ」

 

「わかった」

 

ユノは明朝、実家へと出発し、ヒート期に突入したチャンミンはお留守番だ。

 

(この社員寮は幸い女人禁止だ。

チャンミンにちょっかいをかける女子はいないから安心...)

 

ビアガーデン参加者の内訳...寮生だけでなく、通いの者や友人知人も参加する...に思い至った時、ユノの顔色が青くなった。

 

寮生は全員ベータだが、ゲストたちの中にアルファがいたら...!

 

(安心じゃね~よ!)

 

ユノの脳裏に、屈強のアルファにチャンミンが押し倒されるシーンが浮かんだ。

 

(ああ...どうしたらいいんだ!

帰省は中止だ!)

 

「ねえねえ、ゆの」

 

チャンミンはつんつんと、髪をぐしゃぐしゃかきむしるユノの肩を突いた。

 

「僕もついてく」

 

「え?」

 

「ゆのんち、僕も一緒に行くよ」

 

「無理だって!」

 

ユノは即、反対した。

 

ヒート中のオメガを外出させるとは、ぷくぷくに肥えた子羊(オメガ)を丸刈りにし、バターとハチミツをたっぷり塗って、10日間絶食をさせ飢えたハイエナの群れ(アルファやベータ)に放り込むようなもの。

 

「ううん。

ユノが反対したって、僕はついてくよ!

僕を置いていくのが心配なら、その心配事を連れてゆけばいい」

 

アルファから襲われる危険に晒される以外にも、オメガ自身の肉体にも相当な負担がかかっている。

 

常に100を超える心拍数、身体は熱く、下半身は疼いてオメガの蜜の垂れ流し。

 

「レンタカーで行けばいいし、クスリもいっぱい持っていく。

ホテルに籠ってお利口さんしてる。

自分のことは自分で責任持つ。

大丈夫だから、僕を連れて行って!」

 

「う~~~~ん」

 

ユノはチャンミンから贈られたイチゴ柄のパジャマ、チャンミンはユノから贈られたバンビ柄のパジャマを着ている。

 

色白肌に薔薇色の頬、赤毛の癖っ毛...まん丸カーブを描いた大きな眼はキラキラ。

 

「...分かった」

 

「やったね。

これから作戦会議だ!」

 

ユノは苦笑しながらも、敵陣に乗り込むというのにウキウキと楽しそうなチャンミンを、優しい眼差しで見守った。

 

 

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(6)俺の彼氏はオメガ君

 

 

~1.5個目の穴の巻~

 

ベータのみで構成されていた世界に、アルファとオメガが誕生することになった原因の追究に、学者たちの研究は不要だった。

 

アルファとオメガは人為的に生み出された属性だったからだ。

 

人為的に誕生させられた、と言っても過言ではない。

 

なぜか?

 

恋だ。

 

恋が不足していた。

 

世の人間たちは恋を忘れつつあった。

 

誰しも手近に手軽に、エンターテインメントに触れることができるようになり、リアクションを予想しづらい生身の人間同士の付き合いよりも、都合よく物事が進むバーチャルの世界から抜け出せなくなり、自然と性欲も薄れ、子を成す行為も減り...。

(性欲を解消する手段はバーチャルで十分)

 

その結果、人口減少。

 

加えて、女性の比率が減ってきた。

 

このままでは、人類が滅びてしまう。

 

そこで、巨額の費用が投じられ、生殖に関する研究が加速したのである。

結果、生殖本能を著しく高めたアルファ属、オメガ属が誕生したのである。

アルファとオメガが性的に惹かれ合って当然なのだ。

じゃあ、恋はどこにある?

 

アルファとオメガに恋はないのか?

 

ある。

 

ここで、アルファとオメガだけが結ぶことができる「番(つがい)」という契約が関わってくる。

 

ベータ属には無いことだ。

 

番うとは、アルファが特定の刻印を、オメガの肉体に残すことを言う。

 

見ず知らずの者同士であっても、2人の間に恋が生まれる。

 

番の契約が結ばれた時、誰も引き裂くことは出来ない関係性が出来上がる。

 

片方が命を落とせば、もう片方もいずれ死んでしまうほどの強固なものだ。

 

さらに、「番」には最上級クラスの「番」が存在する。

 

運命の番という。

(学術名 unmei-no_tsugai)

 

運命の番とその場の雰囲気に流され結ばれた番とでは、格が違う。

 

番うための契約とは?

 

番った後の2人の変化は?

 

運命の番とは?

 

そのあたりの説明は、長くなるので後述する。

 

 

引っ越しの助っ人に呼ばれたユノ。

 

ユノが浮かない表情をしていた理由の2つ目は、ヒート期に突入するチャンミンをひとり社員寮に残すことへの不安だ。

 

ヒート臭を嗅ぎ分けられるのはアルファに限らず、ベータの中でも嗅覚が敏感な者も含まれる。

 

オメガのヒート臭は、アルファだけでなくベータをも狂わせる。

 

ぷくぷくに肥えた子羊(オメガ)を丸刈りにし、バターとハチミツをたっぷり塗って、10日間絶食をさせ飢えたハイエナの群れ(アルファやベータ)に放り込むようなもの。

 

厄介なのは、ヒート期のオメガは犯されたくないと心は拒否していても、身体は襲われたがっていることだ。

 

「気分はよくなった?」

 

「なんとか...」

 

(通常、アルファはオメガのヒート臭を嗅ぐと、尋常ならぬ性欲に襲われ、その衝動性は、とても理性で止められるものではない。

 

ところがユノは、過量の抑制剤の副作用によりチャンミンのヒート臭に過敏反応を起こし、まともに嗅いでしまうと激しい吐き気に襲われる。

 

そうであっても、ユノは雄々しきアルファだ。

 

嘔吐感に襲われながら、下半身を膨らませているのはなかなか辛い。

 

吐き気止めの服用よりも、新鮮イチゴかレモンにかぶりつく方がよく効く。

 

オメガのヒート期中、性の奴隷と化してしまう彼らについての解説は後述する。

 

「チャンミン、今回のヒートは軽そうだな。

なら、大丈夫かな」

 

アルファの鋭い臭覚のおかげで、ヒート臭の濃度から「重い」「軽い」がユノには分かる。

 

「大丈夫って、何?」

 

「チャンミン、すまない。

明日からの休みはお前のそばにいられないんだ。

チャンミンはお留守番だ」

 

「え!?

なんでなんで!?」

 

「さっきの電話だけど、実家から呼び出されてしまって...」

 

「まさか!

とうとうバレちゃった!?」

 

目も口も大きくまん丸にしたチャンミンに、ユノは「それはないない!」と否定した。

 

アルファに変性してしまったことは、家族には絶対内緒だ。

(なぜ内緒なのかは、後述する)

 

バレないように細心の注意を払い続けて、はや数年。

 

「独り暮らしをしていたばあちゃんが家に引っ越してくることになったんだ。

それの手伝いだよ」

 

ユノの実家(チャンミンの実家も同様)は遠いため、日程はどうしても1泊2日になってしまう。

 

「チャンミンはヒートに入っちまうだろ?

そんな時にお前を独り残すのは、マジで心配なんだ」

 

チャンミンは眉をひそめ、ユノをじぃっと見つめる。

 

色白肌に薔薇色の頬、赤毛の癖っ毛...まん丸カーブを描いた大きな眼はキラキラだ。

 

ユノがプレゼントしたバンビ柄のパジャマを着ている。

 

ヒート期前後のオメガは、実に魅力的。

 

(か...可愛い...)

 

ユノの心と根元の奥がキュンとした。

 

「僕...寂しい」

 

チャンミンはベッドから下りると、ユノの膝に身を投げ出した。

 

「寂しいよぉ。

ユノがいないと...怖い...」

 

チャンミンはユノの太ももにすりすり、頬を擦りつけた。

 

「そうだね、怖いね」

 

ヒート期のオメガは、よだれを垂らしたハイエナたちに取り囲まれているようなもの。

 

「でも、僕...頑張る。

頑張るからさ。

ご褒美ちょうだい」

 

「褒美が先なんだ?」

 

「うん...」

 

この甘えた仕草は、ユノを煽ろうとする意図的なものではなく、「素」のものだから始末が悪い。

 

チャンミンを溺愛しているユノは、惚れる一方だ。

 

オメガに変性して以降、ウエストから腰にかけてくびれができたチャンミンだった。

 

床に横座りしたことで、S字にひねった身体のラインの色っぽいこと。

 

ユノの恋愛対象は男性だが、ヒート期のオメガを前にすると性別を問わなくなるため、本能的に女性らしさにも欲を覚えてしまう

(この点が、チャンミンを不安にさせる)

 

(俺...ヤバイかも)

 

ユノは、いよいよチャンミンの色気に流されそうになり、「ヤクを打たないと抑えられない」と、抑制剤を取りに立ち上がろうとした。

 

ところが、チャンミンに膝を抱えられて立ち上がれない。

 

「ユノ~ん」

 

「チャンミン、離れて!

俺、耐えらんね~から。

...っぷ!」

 

ユノは腕で鼻を覆った。

 

「おえっ、おぇっぷ」

 

チャンミンの首筋からゆらり立ち昇るフェロモンは、目に見えそうな程の濃さ。

 

「ユノ~」

 

(ったく...)

 

手の甲でチャンミンの頬を撫ぜると、熱々に火照っている。

 

(この様子じゃ今夜中に始まるな...)

 

チャンミンが心配で帰省を見送ろうか、ユノが迷っていたところ...。

 

「ユノ...ちょっとだけでいいから、ここに...」

 

ユノの指はチャンミンの秘密の入り口に誘われた。

 

「ここに指ツッコんで」

 

「駄目だよ、チャンミン。

俺を誘わないで」

 

「ううん。

いじってくれるだけでいいからぁ」

 

「それじゃあ、おさまんないんだよ。

チャンミンを襲っちゃう」

 

「う~ん」としばし、ユノは迷ってみせたが、チャンミンの魅力に既に屈していた。

 

「その前に注射を打たせて」と、通常の倍量の抑制剤を注射した。

 

「ズボン、べっちょべちょ。

脱いでみせて?」

 

ユノのお願いにチャンミンは素直に従い、下のものを全て脱いでしまった。

 

「とろっとろじゃん」

 

オメガの洪水はその名の通り。

 

チャンミンの内ももから床へ、「オメガの蜜」が滴り落ちカーペットにシミを作っていた。

 

「えっろ」

 

ユノは、指ですくいあげた蜜を、ちゅるりとすすってみせた。

 

「だってぇ...」

 

「チャンミンのここ...女の子みた~い」

 

「そうだもん、穴の奥に女の子の穴ができちゃったんだもん」

 

チャンミンは穴の縁に指を引っかけ、入り口を広げて中を見せつけるのだ。

 

中は真っ赤でぽてぽてに熟れており、うねっている。

 

オメガの男性には、1.5個目の穴がある。

 

外見上、排泄のための穴が1つだけに見えるが、入口から指の第一関節分奥に、脇道がある。

 

挿入されやすいようオメガの男性が「濡れる」のは、そこから「オメガの蜜」が大量に分泌されるためだ。

 

そして、アルファやベータの男性にはない器官が、脇道の先にある。

 

子宮だ。

 

オメガの男性が特別なのは、子宮を有し、子孫を宿せることにある。

 

アルファ、又はベータから放たれた精子は、1.5個目の穴の奥を目指す。

 

 

ユノの欲情はぐつぐつ煮えたぎり、間もなくピーっと沸騰音が鳴りそうだった。

 

(ヤバイヤバイヤバイ!)

 

「すとーーーっぷ!!」

 

ユノはチャンミンの尻から後ろに飛び退いた。

 

「待て待て待て待て!

話が途中だよ!

実家の手伝いの話!

チャンミンの留守番の話!」

 

「あ...そういえば!」

 

交尾の真似事が本気の交尾になりそうなところで、ギリギリ耐えられた。

 

チャンミンのヒート期前後は、ついつい欲に流されそうになって、まともな話し合いができないことが常だった。

 

...今回も前置きが長く、ユノはなかなか実家の手伝いに行けずにいる。

 

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(5)俺の彼氏はオメガ君

 

 

~潤いの大洪水の巻~

 

次の休日、引っ越し作業の助っ人に呼ばれたユノ。

 

実家に帰ることに気が進まない理由は、手伝いが面倒なわけでも、家族と不仲なわけでもない。

 

理由は2つあった。

 

1つ目は、アルファの能力を隠すために神経をすり減らさないといけないことだ。

 

オメガ属に仲間入りして2度目の生理が終わった頃、チャンミンの身体にさらなる変化が起きた頃を振り返ってみる。

 

ベータ時代、学力はチャンミンの方がやや上だったが、転性した以降の初めての中間試験で、ユノの学力がとんでもなく急上昇していたことが判明した。

 

そのことを知らなかったユノは、うっかり満点をとってしまったのだ。

 

職員室前に貼り出された成績一覧表に、ユノとチャンミンは喜ぶどころか内心で大汗をかいていた。

 

一番端に、ユノの名前があったのだ。

 

学年成績の中間あたりをウロウロしていたユノが、いきなりの学年トップ。

 

生徒たちはザワザワ。

 

(...マズい)

 

ユノはカンニングを疑われ、職員室に呼び出されたほどだった。

 

その日の放課後、チャンミンはユノを緊急ミーティングに呼び出した。

 

「手を抜かないとアルファだってバレるよ」

 

「気を付ける」

 

「普通でいるんだよ。

分かった?

目立ったら駄目だよ。

お馬鹿なフリをするんだよ」

 

「お馬鹿ぁ?

ベータだった時の俺は、馬鹿だったってことか?」

 

チャンミンは抑制剤をピルケースに移す作業の手を止め、拗ねたユノをなだめた。

 

「違うよ。

アルファ目線のお馬鹿は、ベータで言う“中の中”レベルってこと。

意識して手を抜きなよ、ってことだ」

 

(お兄さんぶるチャンミン...かわゆす)

 

「分かった」

 

以降、宿題は2回に1回は忘れる、教諭に指されたら「分かりません」、試験では3問に1問は敢えて間違える...。

 

学問については注意深く中の中の維持を心がけていたが、それ以外の能力UPに関して油断していた。

 

部員不足の陸上部の助っ人に、無理やり出場させられた陸上大会の800m走。

 

大会出場選手の多くはベータ属で、公平を期する為アルファ属は事前申告が義務付けられている。

 

ユノはベータとして出場。

 

そして、ぶっちぎりの1位。

 

大会新記録、地区新記録を叩き出してしまったのだ。

 

(アルファ...すげぇ)

 

結果、ニュース記者や大学のスカウトマン、大会関係者の注目を浴びてしまった。

 

その夜、ユノはチャンミンにこってり絞られた。

 

2人は向かい合わせに正座し、ユノはしょぼんと背を丸めている。

 

「だ~か~ら!

本気を出したら駄目だって」

 

「ごめん...」

 

「ユノがアルファだってことは、秘密なんだからね」

 

「分かってるって」

 

「ホントに気を付けてね!

分かった?」

 

「分かったよ」

 

「僕はいつも心配してるんだからね」

 

(お兄さんぶってるチャンミン...すげぇカワユス)

 

「じゃあ、チャンミンのいう事聞くから、キスしていい?」

 

チャンミンは、にじり寄ってきたユノを一旦押しとどめると、ユノの唇に人差し指をあてた。

 

「いいけど...。

ディープはダメ」

 

「なんで?」

 

「えっろいキスすると、お尻が変になるんだ」

 

「どんな風に?」

 

「キスしながら、お尻に触ってみてよ。

どこが変なのか、よく分かるから」

 

「触っていいの?」

 

オメガになってから、チャンミンの尻の触り心地が変わってきた。

 

ユノはその触り心地が好きで、隙あればさわさわもみもみしていた。

 

「うん...いいよ。

触って...」

 

チャンミンはもじもじと、頬を赤らめ俯いた。

 

「よしよし。

抱っこしてやるから、ちこう寄れ」

 

手招きするユノの傍へ、チャンミンは四つん這いになって近づいた。

 

そして、ユノの広げた両脚の間にすっぽりとおさまった。

 

ユノはチャンミンの顎に手を添え、自身の方へ振り向かせて口づけた。

 

唇を重ねなおすたび、チャンミンの甘い吐息が漏れる。

 

(甘たれ坊やなのに、こういう時は色っぽいんだよなぁ。

なんなの、このギャップ)

 

ねっとりと粘着質なキスを交わしながら、ユノの片手はチャンミンの後ろに落とされた。

 

ユノの指と手の平は、制服のスラックスの上からチャンミンの感触を楽しんだ。

 

(やわっこ~い。

小さなお尻は変わらないのに、触り心地は最高だ)

 

オメガになってから、チャンミンの尻は明らかに変化した。

 

丸みを帯び、柔らかな揉み心地となった。

 

(ほっぺを楽しんだ次は、谷間を...。

パンツに手を入れるのはまだだ)

 

ベータの頃からもそうだったが、アルファになってからのユノは、よりチャンミンの身体に夢中になっていた。

 

人目がある所のユノは、チャンミンに危険が及ばないよう常に周囲に目を光らせ、まるで過保護な兄然としている。

 

ユノの苦労を知らず、呑気で無邪気なチャンミンの突飛な言動に、ユノは毎度肝を冷やしている。

 

神経を擦り減らした結果、ユノは恋人気分を味わうどころではない。

 

だからこそ、2人きりになった時は、ここぞとばかりチャンミンの身体を堪能してしまうのだ(まるで、エロ親父のような表現をしてしまった)

 

ユノの指は、チャンミンの谷間をそろりとなぞった。

 

「はあぁ...ん」

 

「!!!」

 

初めて聞くチャンミンの声に、興奮するどころか正気に戻ってしまったユノ。

 

「はあはあはあ...」

 

ユノの首筋に吹きかかるチャンミンの吐息が熱い。

 

「はあはあはあ...」

 

先ほどより深く、谷間を探ってみた。

 

「あっ、はぁぁぁん!」

 

「!!!!」

 

チャンミンはユノの肩に頭をもたせかけ、呼吸を乱していた。

 

まぶたは半分落とされ、潤んだ目はうつろ。

 

(うつろどころか...白目になってる...!)

 

伏せた長いまつ毛の先が震えていた。

 

(チャンミン!

目がいっちゃってるぞ!)

 

唇を離すと、きつく吸った覚えがないのに鬱血し赤くなっている。

 

半開きの口の端から、唾液がだらだら垂れている。

 

チャンミンのこれほどエロい顔は、初めて目にしたユノだった。

 

「チャンミン...大丈夫か?」

 

「はあはあはあ...ゆのぉ。

...変、変なのぉ。

僕の後ろがぁ...」

 

チャンミンの腰がガクガクと震えている。

 

「ほら!」

 

チャンミンに手首を掴まれ、谷間の奥へと誘導された。

 

「お漏らし!?」

 

「馬鹿ぁ!

違うよ!」

 

ユノは濡れた指先...人差し指と親指...をすり合わせた。

 

「びっしょびしょじゃん」

 

「そうなんだよ。

お漏らしはお漏らしなんだけど、前じゃなくて後ろなんだよ」

 

「見せてみろ」

 

ユノは後ろ抱きしていたチャンミンの背を押し、四つん這いにさせると例の箇所に顔を近づけた。

 

スラックスの後ろが、濡れてグレーから黒に変わっていた。

 

「うむ...」

 

ユノは腕を組むと、「う~ん」と唸った。

 

「濡れてる。

チャンミンのソコから出てる」

 

チャンミンのスラックスは、じわりじわりと内側から湧き出るもので、滴りそうに濡れている。

 

「...これって...!?」

 

チャンミンは、オメガに転性した際に配布された資料を思い出した。

 

通常、男性のそこは分泌液で濡れることはないため、関係を持つ際は潤滑ローションが必須だ。

 

ところが、オメガの男性は違うのだ。

 

性的に興奮した時やヒート期になると、スムーズな挿入のために大量の粘液が分泌される。

 

当てた指を離すと、つーっと糸がひいた。

 

「これがいわゆる『オメガの洪水』だ」

 

「うそだぁ...。

僕...女の子になっちゃったの?」

 

「そんなんじゃない!」

 

「チャンミンは絶対泣く」とユノは予想して、きっぱりと否定した。

 

「チャンミンはオメガになっただけだ。

女の子になったんじゃない。

オメガになるとは、こういうことなんだよ。

受け入れるしかないんだよ」

 

「......」

 

チャンミンは顎をしわくちゃにさせ、唇をへの字にひきむすんでいる。

 

ユノはぼりぼりと頭や首筋を掻き、言葉を探した。

 

「チャンミンのソコがぬるぬるになったってことは、魅力的になったってことさ。

ぬるぬるって、最高じゃないか。

俺もチャンミンも両方、気持ちいいぞ~、きっと」

 

「う~~」

 

「直接触ってもいい?」

 

「だ~め」

 

伸ばしたユノの手は、ぱちんとはじかれた。

 

「お風呂に入ってくる。

べちょべちょで気持ち悪いから」

 

チャンミンはユノを自室に残したまま、シャワーを浴びにいってしまった。

 

(気難しいなぁ...。

でも、気難しくなって当然か。

身体の変化に心がついてゆけなくて辛いんだ。

俺が支えてやらないと)

 

はじかれた手の平がじんじんした。

 

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(4)俺の彼氏はオメガ君

 

 

<俺を煽らないでくれの巻>

 

 

ポジティブな要素しかないアルファに生まれたことを嘆く者は、ほとんどいない。

 

アルファとは力の象徴だ。

 

一方、オメガとは妊娠し子を産むための存在。

 

アルファ(時にはベータ)の力にねじ伏せられ、獣じみた性欲に流され、望まない妊娠を強いられることもある。

 

多くのオメガたちは、オメガ属としてこの世に生まれ落ちたことを嘆いた。

 

特にオメガの男性は、外見が男性であっても、女性を妊娠させることはできない。

 

アルファ又はベータの男性、又はアルファの女性に...言葉は悪いが『種付け』される役目なのだ。

 

ベータだった過去があるが故、チャンミンのショックは大きかった。

 

チャンミンは初潮を迎えた日、夕食も食べずに布団にもぐり込み、さめざめと泣いた。

 

ユノはチャンミンの背中を叩いてあやした。

 

(チャンミンは泣き始めて30分後には寝入ってしまった。

ユノは、チャンミンがいつ目を覚ましてもいいように、一晩中目を覚ましていた。

チャンミンは朝までぐっすり眠っていた)

 

長い期間、オメガ属は他属からの冷遇に耐え忍んできた。

ところがここ数年前ほどから、その状況が変化してきた...。

長くなるのでその解説は後述する。

 

 

(僕はこんな目にあっているのに、ユノは何の変わりがないなんて!

それどころか、前より逞しくなったし、イケメン度が増した。

ユノばっかりズルい...!

 

僕なんて、身体の線が丸くなったような、アレが小さくなってきたような。

ユノのモノなんて、絶対に前よりサイズアップしてる!

ユノばっかりズルい!

ズルいよ!)

 

チャンミンは17歳でオメガに転性して以来、ユノへの妬みがどうしても消えてくれなかった。

 

ユノが全身全霊、チャンミンに尽くしてくれたとしても、オメガであるが故の哀しみを消すことはできないのだ。

 

チャンミンはユノに当たり散らしてしまうのを止められず、ユノはこれまでずっと、チャンミンの嘆きを受け止めてきた。

 

オメガになりたての頃は、怒りの沸点が低くて常にカリカリしていたのが、1年もすれば落ち着いてきた。

 

生理の手当てにも慣れてきた。

 

ユノを伴って、オメガ専門店へ買い物に出かけることもある。

 

ユノは抑制剤を入れるピルケースをワクワクと選ぶチャンミンを、温かい目で見守っているが、内心でため息をつくこともあった。

 

チャンミンを守りきれるか、自信を失いそうになる時がある。

 

アルファは万能な存在ではない。

 

知力や体力、そして精力が優れているだけで、ベータ以上の精神力や愛情を持ち得ているとは限らない。

 

優しさに欠けている者が多い、ということだ。

 

エリート意識が高く、オメガと見ればねじ伏せようとするアルファが多い中、ユノは心優しきアルファだった。

 

(...その優しさはほぼ、チャンミンに注がれている)

 

アルファとオメガの結びつきは、愛情よりも生殖本能...孕ます者と孕まされる者...によるところが大きい。

 

ところがユノとチャンミンは、アルファとオメガになってしまった以降も、愛情で結びついており、立場も対等なままだった。

(ユノのチャンミンへの溺愛度と、チャンミンの姫度がUPした)

 

ベータとして生きてきた過去が、世のアルファとオメガカップルと比較して、精神的な繋がりを強くしているのだろう。

 

 

時は変わって、現在。

 

ここは社員寮のユノの個室。

 

ふたりはベッドに並んで腰をかけていた。

 

ユノは電話中だった。

 

ユノの実家から、次の3連休に、引っ越し作業の手伝いに来るようにと、連絡があったのだ。

 

高齢のひとり暮らしは心配だからと、父方の祖母がユノの実家に身を寄せることになったという。

 

「う~ん、分かった、うん、うん。

じゃあな」

 

電話を切ったユノは浮かない表情だった。

 

「どしたの?」

 

チャンミンは大盛り牛丼をかき込んでいた箸を止めた。

 

早くて明日、明後日にヒート(発情期)を迎えるチャンミンは、食欲を抑えられずにいたのだ。

 

ヒート前のオメガの身体は、妊娠に備えて栄養を欲する。

 

食欲が増したチャンミンは、社員寮の大盛りセットだけでは足りず、テイクアウトをしてきたもので腹を満たしていた。

 

「ユノ...顔が怖い」

 

「あ~、うん。

ちょっとね」

 

「怖い顔をしていても、ユノはカッコいいけどね」

 

小首を傾げて、赤い舌をぺろ。

 

(可愛いんだよ、こんちくしょー)

 

ユノは内心で悶絶する。

 

「チャンミンもカッコいいよ」

(「可愛いよ」と言いたいところを我慢した)

 

「メシ、足りるか?」

 

「食べても食べても、お腹が減るんだよね~。

嫌になっちゃう」

 

「好きなだけ食え」

 

チャンミンは一粒も残さず綺麗に平らげ、「あ~、美味かった」と、膨れた腹を撫でた。

 

食欲が満たされた次は、性欲だ。

 

(ご飯は美味しいし、ユノも美味しそう。

ムラムラする!)

 

「ゆのぉ!!」

 

チャンミンは勢いよく、ユノの首にかじりついた。

 

チャンミンは発情抑制剤を服用してはいるが、完全には性欲とヒート臭を抑えることはできないのだ。

 

特に性欲が高まると、ヒート臭は強くなる。

 

「おっ!」

 

ユノは、不意打ちのチャンミンの動作に、ぶわりと広がったヒート臭をまともに嗅いでしまった。

 

「うっぷ...」

 

とっさに鼻を覆ったが時すでに遅し。

 

胸がムカムカしてきた。

 

ユノは常用している抑制剤の副作用により、ヒート臭過敏症になっていた。

 

胃の腑からこみ上げてくる吐き気で、ユノの顔色は真っ青になっている。

 

「ごめん!」

 

チャンミンは冷蔵庫から、イチゴを取り出してきた。

 

こんなこともあろうかと、牛丼ついでに購入してきたのだ。

 

(ユノの部屋には自前の冷蔵庫がある。この中に、抑制剤のアンプルが冷蔵保管されている)

 

「おえっ、おえっ」

 

「これ食べて」

 

気持ち悪いし、ムラムラするしで、ユノは背中を丸めてうずくまっている。

 

「いきなり抱きついてごめん」

 

チャンミンはユノを抱き起すと、よく冷えたイチゴをユノの口にねじ込んだ。

 

イチゴ果汁で赤く濡れたユノの唇に、チャンミンの後ろがキュンとした。

 

チャンミンはイチゴにかぶりつき、ユノに口づけた。

 

(イチゴの口移し(きゃっ))

 

「チャンミン!

駄目だ!

駄目!」

 

ユノの下半身は、瞬時に膨張率100%の臨戦態勢。

 

(やばいやばい!)

 

このままだと、欲に流されチャンミンを襲ってしまう。

 

「チャンミン!」

 

ユノはぐいぐい唇を押し付けてくるチャンミンを引きはがした。

 

「俺を煽るなよな~」

 

「ごめんごめん」と、チャンミンは両眉を下げて謝った。

 

(危なかった...チャンミンを襲うところだった)

 

ユノは額に浮いた冷や汗をぬぐった。

 

(いててて。

勃ちすぎて痛い...)

 

 

ヒート期中の性欲は、『人間、止めました』レベルの凄まじさだ。

 

(チャンミンは「濡れちゃって困るの」などと、ユノを煽る台詞を吐くから、困ったものだ)

 

オメガのヒート期は、アルファも正気を失う。

 

(チャンミンを襲うわけにはいかない)

 

ヒート期のオメガとの性交は、妊娠率100%。

 

(チャンミンとの将来が未確定な今は、チャンミンを孕ませるわけにはいかない!)

 

アルファとオメガの『番(つがい)』制度についても後述する。

 

(ヒート期のチャンミンを抱きたい!

抱きたい!

抱きてぇ~!)

 

これがユノの本音だ。

 

ユノはその衝動性を抑えるために、チャンミンのヒート期は普段の3倍もの抑制剤を服用しなくてはならなかった。

 

 

実家からの電話に、ユノが浮かない顔をしていた理由については、次回にまわす。

 

 

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