(3)俺の彼氏はオメガ君

 

 

<ナプキン事件の巻>

 

 

チャンミンの両親も妹たちも祖父母も、現存している一族全員、ベータ属だ。

 

一般的で多数派の、珍しさの欠片もない、ごく普通のベータ一族にオメガが誕生した。

 

世の人間だれしも過去を辿れば、アルファやオメガのご先祖にいきつく可能性はあるため、ユノだったから、チャンミンだったから特別に、ファンタジーな現象が起こったのではない。

 

17歳にして突如、本来の属性が顔を出し、変異してしまう現象は、世界各地で報告されている。

 

ただし、それは非常に稀なケースだが。

 

 

 

 

オメガになって3か月目、チャンミンに初潮が訪れた。

 

タイミング悪く学校で“その時”が訪れた。

 

2人は男性であり、生理用品なんて当然持ち合わせていない為、その調達に学校を抜け出すしかなかった。

 

チャンミンをコンビニエンスストアの前に待たせて数分後、ユノは堂々と目当ての物を手に入れてきた。

 

茶色の紙袋を抱えている。

 

(ユノ...すごい勇気と度胸だ。

『姉に頼まれて』とか、言い訳しながら買ったのかな)

 

「公園のトイレに行こう」

 

2人揃って個室に籠る不自然さは、コンビニのトイレよりも公園のバリアフリートイレの方がまだマシだ。

 

ユノはもぞもぞ歩くチャンミンのペースに合わせ、ゆっくり歩いた。

 

公園には、遊具で遊ぶ子供たちとその親らしき男女、縄跳びをするご老人がいるだけだった。

 

チャンミンは彼らを遠目に、こう思った。

 

(あの男...オメガだったりして...。

あの女の人がアルファだったりして...)

 

現実には、そう簡単にオメガをお目にかかることはない。

 

(...まさかね)

 

「チャンミン、早くしろ!」

 

ユノはチャンミンの襟首をむんずとつかむと、個室へと引きずり込んだ。

 

「これはふつうの日用で、これが夜用。

へぇ、羽根つきってこういう感じなんだ」

 

ユノは紙袋から取り出したものを、洗面台の上に次々と並べていった。

 

パッケージ入りのボクサーパンツもある。

 

ファンシーな色と柄のオンパレードに、チャンミンはくらりと眩暈を覚えた。

 

「どれがいいか分からなくて...。

お店の女の子に訊いたんだ」

 

「ユノ!?

キミって人は!」

 

「店ん中でぐだぐだ迷って、ウロウロしてる方がハズイだろ。

こういう時は先輩に訊くのが、一番早い」

 

「う~、そうだけどさ...」

 

「オメガ用のナプキンは、さすがにコンビニに売っていなかった。

やっぱ専門店じゃないと駄目か...」

 

「そんなの、コンビニも...ドラッグストアだって同じだ。

そんなの並べたって、買う奴なんていないよ!

 

オメガなんてちょびっとしかいないんだ」

 

チャンミンの言う通りだった。

 

「後で買いに行こうか?

今んとこ、応急処置だ」

 

「う...ん」

 

大いに気が進まん、と言った風に渋々、チャンミンはレース模様のものを手に取った。

 

「タンポンも勧められたんだけど、それじゃあ...」

 

ユノは、チャンミンの尻をちらっと見ると、「塞いじまう」と言った。

 

「ユノ!!

なんて無神経な奴なんだよ!」

 

チャンミンは手にしたナプキンを、ユノに投げつけた。

 

「僕はこんなの...こんなのしたくない!

僕は男なのに。

男なのに...。

ユノは自分のことじゃないから、平気なんだよ。

僕がどれだけ落ち込んでいるか、分かんないんだよ!

ナプキンナプキンって!」

 

チャンミンはパッケージからナプキンを取り出すと、次々とユノに投げつけた。

 

「チャンミン!」

 

ユノは器用に、そのひとつひとつをキャッチした。

 

「ナプキンナプキンって!」

 

その光景は、まるで運動会の玉入れ競争のようだった。

 

「俺が悪かった!」

 

「ユノのバカバカ!」

 

濡れたお尻が気持ち悪かった。

 

チャンミンは情けなかった。

 

オメガになるとは...妊娠できる身体になるとは、こういうことか...。

 

投げつけるモノが無くなると、うな垂れて黙り込んでしまった。

 

ユノはかける言葉が見つからず、チャンミンを見守るだけだ。

 

チャンミンはひとつ深呼吸をつくと、ユノが腕に抱えたものからひとつを取った。

 

覚悟を決めたのだ。

 

「自分で出来るか?」

 

「出来る」

 

「外で待ってるよ」

 

チャンミンは、個室を出ようとするユノの襟首をひっつかんだ。

 

「ここに居て!

行かないで。

僕のそばにいて」

 

「ああ。

ここに居る」

 

チャンミンはベルトを手早く外し、すとんとスラックスを落とした。

 

「......」

 

下のものを全部脱いでしまうと、「新しいパンツ、取って」と手をひらひらさせた。

 

「おっ、おう」

 

ユノは慌ててパッケージを破ると、真新しいボクサーパンツを手渡した。

 

「......」

 

パンツに足を通し、「それ、取って」と再びユノへ手を伸ばした。

 

チャンミンの顔は怒っていた。

 

ぺりぺりと開封した中から現れたものを摘まみ上げ、無言でそれを眺めていた。

 

「......」

 

(ああ...ベータだった僕はとうとう、消えてしまった)

 

「チャンミン...できるか?」

 

勝手が分かっていない手つきは不器用そのもので、よれたり、折れ曲がったり、2個無駄にした。

 

「もう!!」

 

「チャンミン?

俺がやったろか?」

 

「やだ!」

 

チャンミンを手伝おうと伸ばしたユノの手は、払いのけられた。

 

「いくらユノだって、手伝ってもらうわけにはいかないよ」

 

「わかった...ごめんな」

 

「...ムカつく。

自分がムカつく。

ムカつくけど、僕はオメガだ。

とっても珍しい人種なんだ。

ぐすっ...負けないもん」

 

 

 

「帰ろうか」

 

ユノはチャンミンの肩を抱いた。

 

自分のことなど二の次で、チャンミンのことが心配でたまらなくても、ユノはチャンミンの哀しみを代わってあげることは出来ない。

 

「家に帰ろう」

 

「学校は?」

 

「サボる。

チャンミンにアレが来た日に、体育なんてできるかよ」

 

ユノの隣を歩くチャンミンは、笑顔になっていた。

 

「う~ん。

体育は辛いね」

 

(分かる...女子たちの気持ちが今の僕なら分かる)

 

チャンミンはそっと下腹を押さえた。

 

朝から悩まされているこの鈍痛は、自身の肉体の奥底で、想像がつかないことが起き始めている徴だ。

 

「1日目って辛いっていうじゃないか。

だるいとか、腹がいたいとか。

うちの妹も、毎月寝込んでるよ」

 

「うん...うちの妹も、月に一度、扱いにくい奴になってる」

 

「俺は、お前の心の痛みとか、身体の変化についてゆけなくてもがいたり...そういうのを真の意味で理解してやることはできない。

でも俺は、お前を全力で守るから。

アルファの名をかけて」

 

「うん。

僕を守ってね」

 

ユノはチャンミンの手を取り、指を絡めた。

 

「今から専用のやつを買いに行く?」

 

「ううん。

家帰って寝る。

だるいんだよね~。

だって1日目だからさ~」

 

「あったかいもの飲むか?

腹を温めるといいんだって」

 

「僕んちに来ても、生理中だからアレできないからね」

 

「ばっ!

何言ってるんだよ!」

 

「ふふふ。

冗談だよ~」

 

 

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(2)俺の彼氏はオメガ君

 

 

<アルファ君も大変ですの巻>

 

危機意識の低いチャンミンの無防備さに、ユノは始終ヒヤヒヤドキドキしている。

 

今朝のように、抑制剤の飲み忘れなどもってのほかだ。

 

(ったく、あの馬鹿!)

 

ユノはカリカリしながらレモンを齧っていた。

 

(可愛すぎるんだよ、こんちくしょー)

 

チャンミンから愛らしい笑顔を見せられると、ふにゃりと顔が緩み、甘々になってしまうのだ。

 

ユノは3個分のレモン果汁を吸い尽くすと、カラカラになった皮をゴミ箱に投げ捨てた。

 

吐き気がおさまった後、ユノにはやるべきことがあった。

 

トイレの個室に籠ると、三つ折りポーチを水洗タンクの上に広げた。

 

ポーチにはペン型の注入器とカートリッジが収められており、ユノはその二つをセットした。

 

シャツの裾をたくしあげると、露わになった引き締まった腹に注入器の針を突き立てた。

 

「...っ」

 

カートリッジの中身を注入し終えると、使用済みの針とカートリッジをジッパー付きのビニール袋にまとめた。

 

職場の他、職員寮のゴミ箱に捨てるわけにはいかないので、後でしかるべき場所にまとめて廃棄する。

 

ユノが体内に取り込んだ薬剤は、ざっくり言うとアルファのオーラを消す効果があるもの。

 

まだ治験段階のものだが、これまでアルファだと見破られていないから、ある程度の効果があると言っていいだろう。

 

ユノもユノなりに、ベータ社会に生き抜くために、苦労を味わっているのだ。

 

(いつまでこれを続ければいいのだろう)

 

ユノの頭に『番(つがい)』の文字が浮かんだ。

 

(チャンミンと番になってしまえば話は早い。

俺と番契約を結べば、チャンミンがアルファに襲われる危険性も減る。

しかし、安全と安心の引き換えに、失うものも多い。

オメガであると公になった途端、チャンミンは世間から隔絶された生活を送らなければならない)

 

ベータ属よりも身体的能力に劣るだけでなく、自己制御のできない発情期に襲われるオメガ属は『性欲に支配された劣った者』と見なされ、世間的に冷遇されてきた。

 

ところが昨今、オメガだけが持ち得る特殊能力が珍重されるようになり、オメガと聞くと、人々は目の色を変える(その理由は後述する)

 

ユノにとってアルファ属性とは不要なもので、なれるものならベータに戻りたかった。

 

(俺だけがチャンミンを守れる。

ベータだったら守り切れないだろう)

 

チャンミンを想うと、アルファ属でよかったと思い直すのだった。

 

 

 

ユノとチャンミンはお隣同士で幼馴染だ。

 

ユノが7歳の時、父親の転勤に伴い一家全員渡航したため、2人は一度離れ離れになった。

 

10年後、父親の任期終了に伴い、ユノ一家はかつての街に戻ってきた。

 

ユノとチャンミンは10年ぶりの再会を果たした。

 

驚くことに、高校生だった当時、2人はれっきとしたベータ属だったのだ。

 

誕生時と、10歳(初潮と精通を迎える)、15歳(アソコに毛が生えはじめる)の節目に実施される遺伝子検査が、義務付けられている。

 

生まれ持った属性が成長に伴い変わる者がごく稀にいるためだ。

 

特に、15歳の検査結果が自身の属性が進路を決める指針になる。

 

言い換えると、アルファはアルファらしく、ベータはベータらしく...オメガはオメガの運命を受け入れた人生を歩め、という意味だ。

 

そのいずれの検査でも、2人はれっきとしたベータ属だったのだ。

 

ところがある日突然、ユノがアルファ、チャンミンがオメガにと変性した。

 

滅多の滅多に起こらない現象が、ユノとチャンミンには起きたのだ(その経緯についても後述する)

 

 

 

チャンミンがオメガだと分かった時の、2人のエピソードをひとつ紹介する。

 

彼らが高校生だった頃の話。

 

チャンミンは、遅かれ早かれにバレるだろうけど、オメガになった事実を可能な限り、周囲に隠し通すつもりでいた。

 

しかし、早い段階で家族にだけ真実を...「僕はオメガになってしまいました」と打ち明けるしかないと考えをあらためた。

 

ひとつ屋根の下で暮らしている以上、隠し切れないと観念したのだ。

 

隠しきれないものとは、女性なら当たり前に経験する生理現象。

 

生理が始まったのだ。

 

よりによって、学校で。

 

チャンミンは前夜から腹痛を覚えていて、2時限目の休憩時間になるやいなや、トイレの個室に駆けこんだ。

 

(昨夜、食べ過ぎたのかな...?)

 

ズボンとパンツを下ろし、便座に腰掛けようとしたその瞬間。

 

パンツの有様を見た直後。

 

(あ゛あ゛~~~~!!!)

 

チャンミンは絶叫しそうになった口を押さえた。

 

心臓がバクバク、痛いくらいに拍動している。

 

チャンミンはスマホを取り出すと、震える指でユノへメッセージを送った。

 

『緊急事態発生。

3階トイレ、左手の一番奥にいます』

 

30秒もしないうちに、バタバタと足音がした。

 

ユノだ。

 

数学が苦手なチャンミンの代わりに宿題を仕上げていたところ、チャンミンからのメーデーに、ユノの顔色が変わった。

 

(オメガになったばかりのチャンミンが心配で、ユノの過保護っぷりが加速し始めた頃だ)

 

ユノはがやがやと生徒たちがうろつく廊下を、1人とも接触せずジグザグに駆け抜けた(さすがアルファ)

 

「チャンミン!」

 

ユノがチャンミンが籠っている個室のドアをノックすると、カチャリと鍵が外れた。

 

用足し中の生徒たちは皆、こちらに神経を払っていないようだ。

 

ユノは個室へと身を滑り込ませた。

 

「ユノぉ...どうしよう?」

 

便座に腰掛けたチャンミンは、半べそ状態だった。

 

「何があった?」

 

ユノの視線はチャンミンが指さす先...足元に落とされた。

 

チャンミンのパンツとズボンは、足首まで落とされている。

 

「!!!」

 

パンツの有様にユノは絶句した。

 

「......」

 

「...どうしよう...。

痔じゃないよね?

痔だったらいいんだけど...違うよね」

 

「これは~...アレだ。

アレだよ。

女の子の日だ」

 

いつか来るだろうと覚悟していても、汚れたパンツを目にしてしまったショックは大きい。

 

「僕は女の子じゃない!」

ムキなったチャンミンの声は大きくなり、慌てたユノの手で塞がれた。

 

「そうだよ、チャンミンは男だ。

ただ、オメガになったんだ、いつ始まってもおかしくない」

 

「やだよ...こんなの」

 

「仕方ないよ」

 

「やだよ」

 

「そうだよな。

分かった。

俺が何とかしてやる」

 

ユノはチャンミンの肩を叩いた。

 

「...どうやって?」

 

「生理については、後で話し合おう。

今はお前のパンツを何とかしないと!」

 

「そうだね。

このままにしておけない」

 

「俺はコンビニまで走るから、チャンミンはここで待ってろ」

 

「これから生理用ナプキンと下着を買ってくる」とユノは言っているのだ。

 

購買部にも販売されているし、保健室へ行けば貰うこともできるが、男のユノが校内でできるはずがない。

 

「え~、ここで?」

 

チャンミンはぷぅ、と膨れる。

 

「そうするしかないだろう?

パンツ汚しちゃったんだし」

 

「でも...トイレだし、ずっと出てこないのを怪しまれて、上から覗かれるかもだし。

授業をサボったって、先生がドアを蹴るかもだし。

ユノはいないし、不安だよぉ」

 

「う~ん」

 

「ユノと一緒にコンビニに行く!」

 

「パンツは?」

 

「脱ぐ」

 

「で、直接ズボンを穿くのか?」

 

「うん」

 

「脱いだパンツは?」

 

「トイレに流す」

 

「詰まるだろ!」

 

「じゃあ、ポケットに入れてく」

 

ユノは駄々をこね始めたチャンミンに、「ふぅ」とため息をついた。

 

(しょーがねーな)

 

ユノはトイレットペーパーをくるくる手に巻き始めた。

 

「何してんの?」

 

ユノはポケットから出したハンカチで、何層にも重ねたトイレットペーパーをくるんだ。

 

「即席ナプキンだ」

 

「......マジですか」

 

「マジに決まってんだろ。

ほれ、股に挟め」

 

「股じゃないよ。

お尻だよ」

 

「引っかかるとこはそこかよ?」

 

「僕はね、現実を受け入れようと必死なの」

 

「エライぞ、チャンミン」

 

 

2人は学校裏口からこっそりと抜け出ると、コンビニへと急いだ。

 

道中、お尻がゴワゴワするだの、ハンカチがずれるだのと文句たらたらなチャンミンを、ユノは「はいはい」と聞き流していた。

 

 

(つづく?)

 

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(1)俺の彼氏はオメガ君

 

 

<βの中のαとΩ>

 

『この世には、男女のほかにアルファ(α)、ベータ(β)、オメガ(Ω)の3つの性がある。

 

①アルファの男、②アルファの女、③ベータの男、④ベータの女、⑤オメガの男、⑥オメガの女の計6種類の性別がある。

30年前まではアルファ属とオメガ属はそれぞれ全人口の10パーセントを占めていたが、年々減少の一途をたどり、現在は全人口の5パーセントとなった。

内訳としてはアルファ属が4.9パーセント、オメガ属が0.1パーセントで、特にオメガは絶滅を危惧される属種となった。

20××年、『アルファオメガ保護法』が可決され、国は10ヵ年計画で希少種となった2属種の保全活動に乗り出した』...か。

ふん...!」

 

ユノはタブレット端末を脇に押しやり、大きく背伸びをした。

 

「う~~~ん」

 

あと十数分もしたら勤務開始なのに、ユノの全身が重だるく、胃もムカムカした。

 

しょぼしょぼする目に朝日が眩しい。

 

「ぎりぎりまで身体をやすめよう」と、ユノはベンチの背にのけぞったまま目をつむった。

 

(あ~、吐き気が止まねぇ。

レモンはあったっけ...?)

 

共用冷蔵庫の野菜室の奥で干からびかけているレモンを思い出してみる。

 

この吐き気は、二日酔いでも、食中毒でも、さらには神経性のものでもなく、ユノには原因がはっきりと分かっている症状だった。

 

こんな時はレモンをまるかじりすると、胃袋ごと飛び出てきそうな吐き気が和らぐのだ。

(理想はフレッシュイチゴだが、共用冷蔵庫に入れたりなんかしたら、1時間もしないうちに姿を消す)

 

ユノという男は眉目秀麗、長身痩躯、そして、頑健な肉体を持っていた。

 

人々の注目を浴びても仕方がないルックスのため、周囲からは「ユノ君って、アルファ属だったりして」と、半ば本気の軽口を言われることもたびたび。

 

センター長を除いた全員がベータ属の環境下、『アルファだったりして?』のからかいは、ユノの心拍数を容易に上昇させることができるのだ。

 

つまり...ユノはアルファ属。

 

アルファ属である身分を隠して、ベータ属...全人口の95 パーセント...の世界で暮らしている。

 

アルファ属の優位性がかつてより増したことで、かつてより崇め奉られる存在となった。

 

より特別な存在になったことで、アルファの優位性を謳歌する者が多い中、ユノはそれを面倒だと思っていた。

 

(俺はベータとして生きてゆく)

 

これまで、自身の属性をひた隠し、ベータらしく生きてこられたのも、アルファ属ゆえの要領のよさともいえるが...。

 

突如、ユノの視界が丸い影に覆われた。

 

「ばあ」

「わっ!!!」

 

ユノは叫んで弾け起き、自分を驚かせた人物を睨みつけた。

 

その人物は「いないいないばあ」と、両手の平をダンボの耳にしている。

 

「おっはー」

 

シミひとつないなめらかな色白肌に、頬はつやつやと薔薇色、額の真ん中で分けた、ふわふわ癖っ毛は赤銅色...いわゆる赤毛...をしている。

 

男性用の制服を着ているけれど、ワンピースを着せても似合いそうな中性的な雰囲気を漂わせた男。

 

その名はチャンミン。

 

「ガキみたいなことすんなよ!」

 

「てへ、ごめんなさい」

 

チャンミンは首をこてん、と傾け、舌をチラ見せしてみせる。

 

(く...か、可愛い)

 

チャンミンは可愛らしいルックスと言動で、ユノを始終ドギマギさせている。

 

ところが、ユノの心拍数を上げてしまうのは、チャンミンの中性的な雰囲気だけじゃない。

 

幼馴染で、お隣さんで、両親の転勤で離れ離れになったけれど、17歳の時再会し、いろいろすったもんだあった末、『いい感じ』になれただけが理由じゃない。

 

...チャンミンはオメガ属なのだ。

 

アルファ属を惹きつけてやまないオメガ。

 

全人口の0.1パーセントしか存在しないとされるオメガ。

 

「ユノ...顔色が悪いデスネ」

 

「お前のせいだろう?」

 

「スミマセン」

 

ユノは「てへへ」と鼻の頭をかくチャンミンの仕草に、「可愛すぎるんだよ、この野郎」と萌えていた。

 

すると突然、ユノはチャンミンに手首を掴まれ、ある場所へと引きずられていった。

 

「おい、こらっ!」

 

トイレの個室のひとつに押し込められたのだ。

 

「じゅーでん」

 

そう言ってチャンミンは、ユノに抱きついてきた。

 

アルファの背に回したオメガの両腕なんて楽々と払いのけられるのに、ユノはされるがままでいた。

 

「......」

 

ガタンバタン、ザザー。

 

ドアの向こうでは、用をたす者たちが出入りしている。

 

(個室に籠る男2人とくれば、アレしてると思われる!)

 

1分経過。

 

チャンミンはユノの胸から離れると、

 

「あんがと!」

 

個室にユノを残したまま、たたたっと走り去ってしまった。

 

『ユノ不足』だったらしい。

 

チャンミンはたびたび、「充電」と称して、場所おかまいなしにユノにハグしてくる。

 

(ん...?

この匂いは...)

 

ユノはくんくん鼻をうごめかした。

 

「あの馬鹿!」

 

ユノは舌打ちすると、チャンミンを追いかけた。

 

ユノのポケットにはチャンミンのために、抑制剤の錠剤が常に用意されている。

 

(また飲み忘れたんだな!)

 

一日2回、欠かさず服用し続けなければならない抑制剤を、チャンミンはたまに忘れてしまう。

 

抑制剤が切れた時のオメガ...ヒート(発情期)中...は、アルファに襲われる危険にさらされる。

 

(いい加減、覚えろよな!)

 

オメガ属を隠してベータ属の世界で生きることは危険と隣り合わせ。

 

95パーセントがベータであったとしても、100人のうち約5人はアルファなのだ。

 

どこにアルファが紛れているかしれない。

 

(大抵は、社会的に高い地位についている者が多く、圧倒的なオーラから判別がつきやすい。

しかし、例えばユノの様にベータに紛れている者もいるため、油断ならない)

 

あと数日もしないうちに、チャンミンのヒートが始まる。

 

発情期間中のオメガは、ベータの数千倍ものフェロモンを分泌し、独特の発情臭を発する。

 

この匂いはアルファが特に感知しやすく、チャンミンのうなじから立ち昇るヒート臭(発情臭)にあてられて、ユノは吐き気に苦しんでいたのだ。

 

チャンミンを守らねばならないユノの決意と、ユノオンリでべったりのチャンミンが結託した結果、高校も大学も、就職先も同じで、現在暮らしている社員寮も同じで、隣同士だったりする。

 

オメガバースの世界で、一般大衆に紛れて生きる2人のドタバタ恋のエピソードを覗いてみよう。

 

 

(つづく?)

 

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保護中: 俺の彼氏はオメガ君

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紐パンと運命の君 ~セーラー服と運命の君~

「ちゃんみ~ん」

「はいはい」

「ちゃんみ~ん」

「はいはい」

チャンミンの背後に近づいて、後ろから抱きしめていた。

チャンミンはぴったりとくっついた俺に構わず、ごくごくと水を飲んでいる。

「ねぇ、チャンミン」

俺はチャンミンの耳下に、鼻先をこすりつけた。

「はいはい、何ですか?」

チャンミンは俺の婚約者だ。

俺以上に背が高くて、可愛い顔をしているけど、男だ。

チャンミンの肩にあごを乗せて、何度も彼の名前を呼んでいた。

洗面所正面に取り付けられた鏡に、とろけた表情の俺が映っている。

チャンミンは仏頂面をしているけど、口角がぴくぴくしているから、緩んでしまうのを堪えているんだな...俺には全部、お見通し。

俺たちは男同士。

恋人同士になるまでは紆余曲折あったけど、好きな気持ちが駄々洩れになってしまうまで、そうは時間はかからなかった。

周囲の目が気になる外では、ぎりぎり1センチの距離を保っている(すごく我慢している)

でも、2人きりになった時には凄いんだ。

密着なんてレベルじゃなく、ぎゅうぎゅうに...マイナス20センチ位?...めり込むのだ(どういう意味が分かるよね?)

要約すると、俺はチャンミンに夢中だと言うこと。

チャンミンの妹××ちゃんの結婚式出席のため、昨夜からこのホテルに宿泊していた。

目覚めたところ、隣にいるはずの大好きな人がいなかった。

あれ...?と、部屋中を見回すと、ミニバーにしゃがみこんだチャンミンの顔が、冷蔵庫の灯りに照らされていた。

分厚いカーテンで外の様子は分からないけれど、ヘッドボードのデジタル時計で早朝だと知ったのだ。

「早起きだね?」

「喉がカラカラで...。

昨夜は飲み過ぎました」

チャンミンはアルコールに強い質で、ワイン1本くらいは余裕だ。

ところが、昨日のチャンミンは、披露宴で××ちゃんがお嫁にいってしまったことを、喜んだり、悲しんだり。

加えて、俺にプロポーズされたのだ。

感激のあまり笑ったり泣いたりと、はっちゃけて、そのお守りに俺は料理を食べるどころじゃなかった。

披露宴でしこたま飲み、部屋に持ち込んだシャンパンも「美味しい美味しい」と、俺が止めるのをきかずにがぶ飲みしていた。

それだけじゃ足りないと、ビールや焼酎も追加して、がぶがぶ飲んでいた。

(チャンミンは俺の言うことを聞かない頑固者なんだ。もう慣れたけど)

そして大の字になって眠ってしまったのだ。

最近仕事が忙しい忙しい、と念仏のように唱えていたチャンミン。

疲労がたまった身体は、普段なら余裕のアルコールも処理しきれなかったんだろうね。

チャンミンはぽわん、とした天然野郎だけど、仕事に関しては責任感の強い頑張り屋なのだ。

「蟒蛇(うわばみ)のように飲んでたからなぁ。

あ~あ、チャンミンはさっさと寝ちゃうし、寂しかったなぁ」

パジャマ姿のチャンミンを、もっと強く抱きしめた。

「...ユノの言いたいことは分かってますよ」

「...嘘!?」

「ユノの暴れん坊が、僕のお尻にあたってます」

「チャンミンが欲しい」

非日常的な時間を過ごせる、いい感じのホテルにいるのに、俺たちの昨夜は清い一夜だった。

俺も男だし、チャンミンは可愛いし、焦れていた俺はこうしてチャンミンにくっついて甘えていたのだ。

「...しよ?」

「へ?」

「チャンミン...しよ?」

「......」

「今から...しよ?」

「はっきり、言っちゃいますか?」

「うん。

チャンミンとしたい」

「したくてたまらないんですか?」

「うん」

「したくてしたくてたまらないんですか?」

「うん。

分かるでしょ?」

「...確かに...すごいですね」

「だから...しよ?」

「......」

「イヤ?」

「イヤじゃないですよ」

「駄目?」

「駄目じゃないですよ」

「ホントに?」

「嘘はつきませんてば」

「触ってもいい?」

「もう触ってるじゃないですか!?」

俺の手はチャンミンのパジャマの裾の下に忍び込んでいて、彼の平らなお腹を撫ぜていた。

すべすべの肌で、触っているととても気持ちがいいし、おへその毛をくすぐるのも好き。

一応、いつ肘鉄をくらってもいいように、下腹に力を入れていた。

「ユノ。

僕...寝ちゃったでしょう?」

「寝ちゃってたよね。

夜9時なのに」

「ユノへのサプライズ、用意してたんです」

「俺に?」

「他に誰がいます?

ユノしかいないでしょう?」

「なんでまた『サプライズ』なの?」

チャンミンといると、毎日がサプライズの連続。

(天然過ぎて、俺をフリーズさせる天才なんだ)

「えっと...昨日はユノからサプライズをもらったし...。

僕の方は、特に準備していなかったから...こんな程度ですけど」

俺の頬に触れるチャンミンの耳が真っ赤になっていた。

か、可愛い...と思いながら、「サプライズって何?」と尋ねてみたら、

「ユノが今、触ってます」

やっぱり、そうだったか!

指先に触れるものに、「あれ?」と思ったんだ。

レース生地の細やかな網地。

「!!!!」

チャンミンはいつも、黒オンリーのごくごく普通の下着を付けている。

こんなことがあった。

熱愛報道のあったグラビアアイドルのニュースを、「へぇ」って何の気なしに見ていたんだ。

その画面を俺の肩ごしにチャンミンに見られてしまった。

「...そうですか。

ユノは『そういう』のが好きなんだ...ふぅん」

「しまった!」と思った時には時遅し。

チャンミンはぷいっと顔を背けると、俺を置いてさっさと店を出ていってしまった。

自分が男であることを(俺が男であることに?ま、どっちでも同じことだ)、もの凄く気にしている。

(何年か前なんて、セーラー服を着たんだぞ。信じられないよ)

「やっぱりユノは、若くて可愛い女の子が好きなんだ。

ふぅん...そうなんだ」

「たまたま目について、見てただけ」

「おっぱいが好きなんだ...そりゃそうだよね、ユノは男の人なんだもの。

可愛い下着付けてる若くて、可愛い、女の子が好きなんだ?」

チャンミンは『若い』と『可愛い』と『女の子』を強調してそう言った。

「どうせ僕にはおっぱいはありませんよ~だ」

(俺は女の子のフィギュアのコレクターなんだけど、これに関してはチャンミンはなぜか文句を言わない)

「チャンミンも可愛いよ」

その通りだったから、そう答えたのにチャンミンの機嫌は直らない。

「想像してみてください。

もし僕がすっけすけのランジェリーを着ていたらどうです?」

そんな姿を想像する前に、

「男で悪かったですね!」

チャンミンはぴしゃっと会話を打ち切ってしまった。

その夜、チャンミンが紫色のすっけすけのランジェリーを身につけた姿を想像してみた。

...悪くない...いいじゃん。

チャンミンは両手で顔を覆っている。

その指にプラチナが光っている。

耳だけじゃなく、ほっぺも真っ赤になっている。

チャンミン...可愛いなぁ。

鏡に映るチャンミンのパジャマのボタンが、俺の指によってひとつひとつ外されていく。

そっとパジャマの上を脱がして、そのまま床に落とした。

メンズもののランジェリーを身につけたチャンミン。

う...か、可愛い...。

透けた生地が、彼の大事なところをおさめている。

しかも!

お尻側が紐なんだぞ!?

え、えろい...。

たまらなくなって、俺はチャンミンを力いっぱい抱きしめて、彼の喉に噛みつくようにキスをした。

「んんっ...」と漏らすチャンミンの声が甘い。

フィギュア作りが趣味のヲタクなチャンミンだけど、そういう時の彼は色っぽい。

そんなギャップもチャンミンの魅力だ。

俺の腕の中でくるりと身体の向きを変えると、俺の首にぎゅうっとしがみついてきた。

その気のスイッチが入ったチャンミンと、貪るようにキスをしながら、部屋中央に鎮座した巨大なベッドに背中からダイブする。

チャンミンの手が俺の下着にかかり、俺も彼のパジャマの下を脱がせる。

いつもなら下着もいっしょに脱がせてしまうことも多々あるが、今夜はチャンミンのランジェリー姿をとっくりと眺めたい。

仰向けに寝かされたチャンミンは、両手で顔を覆ったまま「恥ずかしー!」を連呼している。

もじもじとこすり合わせている両膝のてっぺんに、キスをした。

見下ろすチャンミンの身体がとても綺麗で、エッチな気持ちも忘れて見惚れてしまった。

チャンミンは高すぎる身長や痩せた身体を気にしているけれどね。

チャンミンのサプライズは、俺をとろとろで甘々な気分にさせてくれるもの。

きっと明日には、チャンミンの下着はシンプルなものに戻ってしまうだろうけどね。

エロパンを脱がそうと手を伸ばしたら、「駄目です!」と拒まれた。

「履いたままじゃ、出来ないだろう?」

と尋ねたら、

「せっかくの可愛いパンツです。

履いたまま、です!」

「!!!」

チャンミンのえっちなお願いに、胸がキュッとした。

「ここをこうずらして...」

真っ赤になって恥ずかしがってるのに、言うことやることが大胆なんだって。

チャンミンの前髪をかきあげ、小さな顔を両手で包み込んだ。

絶頂を迎えたのち、俺の下敷きになったチャンミンの様子を窺うと...。

あらら...。

どうやら失神してしまったようだ。

チャンミンは感じやすい質なのだ。

可愛いなぁと思うところのひとつ。

俺の脇の下に鼻を突っ込んで、むにゃむにゃと何かをつぶやいている。

腕も痺れてきたし、トイレにも行きたい。

そぅっとチャンミンのうなじから腕を抜いた時、

「ゆのぉ...好き...」

だなんて寝言を言うなんて...。

ノックダウンだよ。

頼むからそんな可愛いことを、言わんといて。

ますます好きになっちゃうじゃん。

チャンミンには内緒にしてること。

××ちゃんからセーラー服をプレゼントされたんだ。

俺とチャンミンのキューピッドを果たした、××ちゃんのセーラー服。

ここにはもう1泊する予定。

今夜はチャンミンにセーラー服を着せてみようと思う。

本人は超恥ずかしがって嫌がるだろうけど、俺がしつこくお願いしたら渋々頷いてくれるはず。

それに、チャンミンは照れ屋さんなんだけど、スイッチが入るともう...凄いんだ。

 

(おしまい)

 

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