(6)会社員-愛欲の旅-

 

 

 

ベッドは1つ。

 

ソファはあるが2シーター。

 

チャンミンはどこで寝る?

 

ひとつベッドで寝たりなんかしたら...何かが始まってしまいそうで、怖い。

 

何かが始まって欲しいけれど、勢いで突き進むには身体がしんどい。

 

チャンミンを床に寝かすわけにはいかないから、やっぱり...ベッドで寝るしかないか。

 

180越えの男2人寝るには、シングルベッドは狭過ぎる。

 

とかなんとか考えていたら、チャンミンはボストンバッグからかさばるものを取り出し、丸めたそれをくるくる広げた。

 

「...寝袋」

 

「やだなぁ、ユンホさん。

病人のユンホさんを襲うなんてできません。

そりゃあね、僕はユンホさんが大好きですけど、欲望に任せてそんなこと...できませんよ。

聞いたことがあるんです。

熱がある人とえっちすると温かくて気持ちいんですって。

ぐふふふ。」

 

ちょっぴり残念。

(話の後半部分はスルー)

 

「残念」だなんて口にしたら、チャンミンを大喜びさせてしまい、俺をどすけべ扱いする台詞のオンパレードになりそうだったから、黙っておいた。

 

「ユンホさん、辛くなったら僕を遠慮なく起こしてくださいね」

 

「オッケ」

 

広げた寝袋に横たわったチャンミンのために、ファスナーをあげてやった。

 

手足が寝袋の中におさまり、顔だけぴょこんと出した姿に、か、可愛い...。

 

可愛すぎて、チャンミンの額にキスしてしまっても仕方がない。

 

「駄目です!」

 

チャンミンの鋭い声に、2度目のキスの間際で俺は止まる。

 

照れた上での制止じゃないようだ、チャンミンの眼が怒ってる。

 

チャンミンの逆鱗ポイントが分からずにいると、

 

「ユンホさんの風邪が僕に伝染っちゃいます!」とのこと。

 

「あ...悪い。

そうだよな」

 

「僕が風邪を引いたら、ユンホさんの性格だと『俺のせいだ』って自分を責めますよね?

自己嫌悪でユンホさんを苦しませるわけにはいきません!」

 

...そこまで思い詰めたりはしないけれど、拒絶の理由が分かって安心した。

 

怖い目をして「駄目」と言われて、少しだけ傷ついてしまったから。

 

ナイーブになってしまうのは、チャンミンが俺と同じ男だからだ。

 

女性相手だと、俺じゃあ理解不能かつ理不尽な言動された時、「女性のことはよく分からん」のひと言で片付けられる。

 

男と女、違う生き物、理解できなくて当然だから、くよくよ悩んでも仕方がない...極論を言うと、俺は悪くない。

 

ところが、男のチャンミンの言動は、同性だから理解できる。

 

どうしても俺基準で、言葉の真意をとってしまうから、「嫌」と言うからには、本当に嫌なんだろうと。

 

...ん、待てよ。

 

チャンミンは、『嫌よ嫌よも好きのうち』タイプだ(そうに違いない!)

 

チャンミンの「いやん、馬鹿ぁ」は、「カモーン」かもしれない。

 

チャンミンを相手にするのは難しいなぁ。

 

 

 

 

「ユンホさんって...左利きですよね?」

 

「...うん」

 

「ご兄弟は?」

 

「妹がいるよ」

 

「え...お兄さんはいないんですか?」

 

俺の回答が予想外だったらしい。

 

「ユンホさんは僕のこと...女っぽいと思ってます?」

 

「...いいや」

 

「...嘘ですね」

 

(ぎく)

 

「じゃあ、僕のこと...男っぽいと思うことありますか?」

 

「男っぽいも何も、チャンミンは男じゃん」

 

「そうですけど...。

男らしい僕に...ドキドキすることありますか?」

 

「あるよ」

 

恋の媚薬を飲まされた夜と、昨夜のエレベーター内で抱き寄せた腰の固い感触に、ムラムラに近いドキドキ感を覚えたことを思い出した。

 

実際は「ドキドキ」というより、「こいつ、男なんだなあ」と再確認みたいな感覚だ。

 

嬉しそうにしているチャンミンのために、詳しく説明するのは止めにした。

 

「世の中出回っている情報は、玉石混交です。

正しい知識だけを注意深くゲットしますからね。

僕は何でも疑ってかかる質ですから、おかしな情報をつかんだりはしませんからね。

そこのところは安心してください」

 

「?」

 

「好きな人には、気持ちよくなってもらいたいんです。

僕...頑張りますから」

 

チャンミンはおそらく、アレのことを話しているんだろうけど、理解が追い付かない。

 

「ユンホさんは男らしいですし、俺について来いって感じです。

...でも、僕は分かってますからね。

僕に任せてください」

 

分かってるって...何をだ?

 

任せてくれ...って何をだ?

 

「僕は頼りないかもしれませんけど、いちお、男ですからね」

 

「そうだな。

チャンミンは立派な男だよ」

 

「では。

おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

俺は数分ばかり寝付くことが出来ず、目を開けていた。

 

「...チャンミン?」

 

ベッドの下の、長々とした塊に声をかけてみたけれど、返事がない。

 

看病する側がとっとと寝てしまうなんてなぁ...いかにも、チャンミンだなぁと思った。

 

「ふう...」

 

じっと耳をすましていれば、チャンミンの可愛い寝言が聞けるかもしれない。

 

と思いついたものの、夕食後に服用した風邪薬が効いてきたのか、重だるい眠気に襲われてきた。

 

「...にく...」

 

俺がキャッチできた寝言はこのひと言だけ。

(焼き肉の夢でも見ていたんだろうか)

 

 

 

 

寝袋チャンミンの語りの意図が、やっとで理解できた!

 

意気込んでいるチャンミンの方こそ、無理をしているんじゃないか?

 

こういうことは最初の印象でなんとなく決まるんじゃないかなぁ。

 

どう見たってチャンミンは、そっち側なイメージだ。

 

いや...待てよ...。

 

これはあくまでも、俺が勝手に抱いているイメージだ。

 

実のところ、チャンミンは征服欲が強い質かもしれないんだ。

 

なんせ、呪文でトラになってしまった時、チャンミンは攻めまくっていた。

 

勢いにタジタジとなった俺は、チャンミンに襲われるがままだった(馬鹿力だった)

 

あれが本性だとすると...。

 

スラックスの前にくっきりと浮かんだアレ...なかなか立派なサイズだった。

 

アレが俺の..............................................................無理無理無理無理、無理!

 

俺の部屋に泊まった夜の「僕に任せて宣言」

 

さらに、ウメコの助言を真に受けたりなんかしたら...素直なチャンミンのことだ...。

 

俺の脳裏に、チャンミンに組み敷かれ、彼の身体に四肢を絡めた俺のアヘ顔が浮かんだ。

 

ぞっとした。

 

悪い、チャンミン。

 

俺はこれっぽっちも、押し倒される気はないんだ。

 

俺の方こそチャンミンを押し倒す気満々なんだ。

 

俺の愛撫に「ひゃん」とか喘いだりして、すげぇ可愛いはずだ。

 

 

 

 

カウンターに頬杖をついたウメコは、「なるほどねぇ...」と嘆息交じりにつぶやいた。

 

「ユノもチャンミン君も、挿れる気でいるってことね」

 

「そうなんだ」

 

俺はウメコ製のサラダ(ちぎりキャベツにカリカリベーコンを散らした上に、熱したごま油をかけたもの)を消費していた。

 

(ウメコの店にはメニューがない。客のリクエストに応じて、大抵のものは作ってくれるのだ)

 

「それでユノは困ってるってことね」

 

「ああ」

 

「どっちがそっちになるかは、その人の傾向によるものだからねぇ。

あなたたちの場合、前もって確認しておかなかったからねぇ。

勢いでくっついちゃったからねぇ」

 

「くっつけたのはお前だろ!」

 

「酷いわねぇ。

私がいなきゃ、あなたたち未だに同僚止まりよ」

 

その通りだったから、俺は黙るしかない。

 

「ユノ。

諦めなさい」

 

「?」

 

「あなたはチャンミン君に抱かれるしかないの」

 

「どうしてウメコが断言できるんだよ!」

 

「ヤル気いっぱいのチャンミン君を応援したくてねぇ」

 

「ウメコっ...まさか...!」

 

「そうなの」

 

「チャンミンに何を唱えた!?

何を飲ませた!?」

 

 

(つづく)

 

 

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(5)会社員-愛欲の旅-

 

 

「ノンケだった女たらしが、その気のある内気なBOYに押し倒される...。

めくるめく禁断の愛...。

萌えるわぁ」

 

「おい!

女たらしってどういうことだよ!?」

 

俺の抗議など完全に無視をしたウメコは、きつめにひいた太いアイラインの下で、瞳をキラキラと輝かせていた。

 

ウメコはうっとりと「エロいわぁ」と繰り返す。

 

ウメコはああ言ったが、俺は女たらしじゃない。

 

モテまくった経験はないし、とっかえひっかえと女性関係が派手だったこともない。

 

世の30代男性並みに、それなりに彼女がいてそれなりに失恋を味わってきた。

 

そんなごくごく普通の男の俺が、こともあろうに同僚の野郎に恋をすることになるなんて...。

 

通勤電車の中で、業務の合間に、就寝前にと、繰り返しこの思いを噛みしめていた。

 

男のチャンミンを好きになった...これには何か深い意味がある。

 

俺の中の常識を飛び越えてしまうだけの魅力がチャンミンにある、という意味が。

 

「いやらしいこと考えてたでしょう?」

 

ウメコに額を突かれ、俺は現実に引き戻される。

 

知らないうちに顔がにやついていたらしい。

 

ウメコ発言をうっかりスルーしてしまうところだった!

 

「...ウメコ。

さっきから、俺が『押し倒される』前提なのはどういうことだ?」

 

「あら?

あなた、チャンミン君を『押し倒す』つもりでいたの?

その根拠はなあに?」

 

「...なんとなく」

 

はっきり問われると、「なんとなく」としか答えられないのだ。

 

「ユノはそのつもりでも、チャンミン君の方は違うかもよ?」

 

ふっふっふっと、ウメコは意味ありげに目を細めた。

 

「?」

 

「私が焚きつけたせいかしら」

 

「はあ!?」

 

「チャンミン君がね、ここに来たのよ」

 

「チャンミンが!?」

 

俺はスツールから勢いよく立ち上がり、カウンター越しに身を乗り出した。

 

「でね、ユノを愛すにはどうやればいいか教えて欲しいって。

あらっ!

これは内緒だったわ。

ごめんなさい、私の言葉は忘れて頂戴」

 

ウメコはわざとらしく、目を丸くして口を両手(まるぽちゃの指にドクロや鎖を模したリングをはめている)で覆った。

 

うっかりポロっとなんかじゃない、ウメコの性格からして、これはわざとだ。

 

「ウメコ...余計なことを吹き込んだんだろう?」

 

「忘れてと言ったでしょう?

言えないわぁ。

...『忘れる』呪文を唱えてあげましょうか?」

 

「い、や、だ!」

 

ウメコの呪文だか魔法の薬は、あらぬ方向に強烈に効いてしまうシロモノがほとんどなのだ。

 

チャンミンを好きだという感情まで忘れてしまったら困る。

 

チャンミンがウメコに会いにきた理由はつまり...ハウツーを習いに来たのか?

 

「...そういうことか」

 

俺の看病をしにやって来たとき、チャンミンの言動がおかしかった。

 

そのせいでこの数日間、俺は悩んできたのだ。

 

犯人は目の前にいる、女装家兼呪術研究家だ。

 

「ユノが私に相談したい事って、つまり『アレのこと』でしょう?」

 

「...まあ...そんなところだ」

 

「それで、チャンミン君があなたの家に来て、何があったの?

はやく本題に入りなさい!」

 

 


 

 

チャンミンの手料理は美味かった。

 

つっかえつっかえのクッキングだったようだが、出来栄えは素晴らしかった。

 

あいにく俺の家には気のきいた食器などないため、鍋やフライパンのままテーブルに並ぶこととなった。

 

お粥は登場しなかったし、土鍋料理もなかった(持参してきた土鍋は用無し)

 

チャンミンの料理がどれだけ素晴らしかったかを説明し出したら、話が長くなってしまうから割愛させてもらう。

 

 

 

 

食事後。

 

「ユンホさん!

体温計を見せてください」

 

と、突き出した手をひらひらさせた。

 

「熱は...38℃...くらいかな?」

 

「僕を騙そうたって、そうは問屋がおろしませんよ?

僕に見せてください」

 

実は熱が39℃近くあるのを、チャンミンに心配をかけまいと低めに申告した...おそらく彼はそう考えたのだろう。

 

チャンミンの逞しく長い腕には抵抗できず、体温計を奪われてしまった。

 

「...あり?」

 

「そうだよ。

今の俺は微熱程度。

チャンミンには心配かけて申し訳ないが、俺は回復に向かっている」

 

37.5℃と表示された体温計。

 

つまり、寝ずの看病をしてもらわなくても、俺は全然平気なのだ。

 

こうまで張り切っているチャンミンに悪くて、つい仮病を使ってしまったのだ。

 

「ユンホさん、僕の出る幕はありませんね」と、がっくり肩を落として、持ち込んだ荷物を背負って、とぼとぼと帰ってゆく...。

 

そうなのだ、チャンミンに帰ってもらったら俺は寂しいのだ。

 

微熱程度であっても、身体が弱っていると独りは心細い。

 

男にはそんな弱さがあると思う、痛みに弱いというか...(女性は強いのだ)

 

「夜中に熱が出るかもしれませんし...。

心配なので予定通り、ユンホさんのお部屋にお泊りさせていただきます!」

 

チャンミン宣言に、すげぇ嬉しかったけど、「そんな...悪いよ」なんて遠慮してみたりして。

 

「さささ。

ユンホさん、お着替えしましょう」

 

「え?

このままじゃ駄目なの?」

 

俺の部屋着兼寝間着は、ジャージパンツにパーカーだ。

 

「汗をかいたでしょう?

お着替えしたら気分もさっぱりしますよ。

微熱があるのだから、お風呂にも入れませんし」

 

「いや...今からシャワーでも浴びようかと...」

 

「いけません!

その代わり、ホットタオルで拭いてあげましょう」

 

「!」

 

チャンミンに身体を拭いてもらうなんて、恥ずかしすぎる。

 

(『ユンホさん、大事なアソコも拭かないと。

手をどかして下さい』

 

『自分で拭けるって!

タオルを貸してくれ』

 

『恥ずかしがらないで。

僕はユンホさんの恋人なんですよ。

全てを僕に見せて下さいな』

 

『...分かった。

でも、見てビックリするなよ?』

 

『心配ご無用!

優しく拭きますから。

さささ、その手を退けて下さいな』

 

『...』

 

『(チャンミン心の声)

ユユユユユユ、ユンホさん!

なんて立派な!

...どうしよう...はいるかな...ドキドキ』

 

『チャンミン。

そんなソフトタッチじゃ汚れが落ちないぞ。

もっとガシガシ拭いてくれ』

 

...みたいな?)

※まずいな...俺の妄想力がどんどん鍛えられてきている。

 

「いいって!

身体は濡らさないから頭だけ洗わせてくれ」

 

「う~ん。

仕方がないですねぇ」

 

渋い顔のチャンミンを置いて、俺は浴室に駆け込んだ。

 

チャンミンが...付き合いたての恋人が、俺の部屋にいる!

 

あれやこれやで、しみじみ実感する間がなかった。

 

チャンミンが待っていると思うと落ち着かなくて、慌ただしいシャワータイムとなった。

 

俺と入れ替わりにチャンミンも風呂に入るのかと思ったら、「家で入ってきた」とのこと。

 

(俺の部屋に来るまで時間がかかったのも納得。荷造りに入浴、食材調達。さぞ忙しかっただろうに)

 

チャンミンのリュックサックから、タオルだの洗面ポーチだのパジャマだのが出てくる。

 

洗面所から(俺の前で着替えるのは恥ずかしいんだって)出てきたパジャマ姿が可愛いのなんのって。

 

お次は、チャンミンはどこに寝るかでひと悶着あった...。

 

 

 

 

こんな具合に『チャンミン看病日記』を事細かに説明していったら、なかなか本題に入れない。

 

これでも端折ったつもりだ。

 

イチゴ柄のパジャマだったとか、化粧水を塗ってテカテカに光った顔が可愛かったとか、洗いっぱなしの髪になるとやっぱりいい男だったとか...のろけ話なんてウメコにはどうでもいいのだ。

 

俺とチャンミンはひとつベッドで就寝したのかどうか...これもウメコにとってどうでもいいことなんだ。

 

俺たちがヤッたのか、その直前まで進んだのか、その内訳と感想も含めてウメコは知りたいのだ。

 

結論から言うと、ヤッていない。

 

省略しようにもヤッていないのだから、どんなベッドタイムを過ごしたかなんて話しようがないのだ。

 

「なぜ本番まで至らなかったのか?」までを説明していたら夜が明けてしまうので、後回しにさせてもらう。

 

そろそろ本題に入りたいと思う。

 

ウメコなんて半眼になってウトウトしている。

 

微熱はあるが俺の体調はまあまあで、その気になればヤろうと思えばできたし、本番までいかなくてもいちゃいちゃは出来たはずだ。

 

ところが、それが出来なかった。

 

ちなみにあの夜は、俺はベッドに、チャンミンは持参してきた寝袋で寝た。

 

 

(つづく)

 

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(4)会社員-愛欲の旅-

 

「ちょっと熱があるだけだよ!」

 

俺の額に当てられたチャンミンの手の平に異常に照れてしまって、払いのけてしまった。

 

直後、「しまった!」「フォローせねば!」と思ったところ...。

 

(チャンミンはガラスのハートの持ち主なのだ。俺基準だと)

 

「おおっ!?」

 

視界が1段下がり、俺の両足が空に浮いた。

 

「待てっ、チャンミン!」

 

チャンミンの奴、俺をお姫様抱っこしたのだ。

 

「暴れないで下さい!

ちゃんとつかまって!」

 

びしっと言われて、俺は大人しくチャンミンの首に腕を回した。

 

玄関先からベッドまでのわずか数メートルを、なぜかお姫様抱っこで運ばれている俺。

 

鍛えているらしいチャンミン、長身の俺を軽々と持ち上げた。

 

チャンミンは俺をベッドに下ろすと、

 

「ユンホさん。

このシムチャンミンに全てをゆだねて下さい」

 

と、「任せとけ」とばりに胸を叩いてみせた。

 

重病人扱いされているが、実は大してキツくないとは言い出せない。

 

「滋養に満ちたものを作りますね」

 

チャンミンは腕まくりをし、持参してきたエプロンをつけた。

 

鼻歌を口ずさみながら、スーパーの袋の中身をキッチンカウンターに取り出している。

 

「ホームパーティでも開くのか?」レベルの食材の多さは予測通りだったが、ボストンバッグから土鍋を出してきた時には、「マジか...」とつぶやいてしまった。

 

(バスタオルに包んだ黒い土鍋を目にした時、一瞬スッポンかと思ってしまった。

 

『滋養』の言葉と、何事も極端なチャンミンならスッポンくらい調達してくるのでは?と。

 

『ユンホさん。

スッポンの生き血は精力に効くそうです』

 

『俺はただの風邪。

精力つけてどうすんだよ?』

 

『そうりゃあ、もう...ごにょごにょ...』

 

『え!?

そのつもりだったの?』

 

『ユンホさんの、馬鹿ぁ。

そうに決まってるじゃないですか。

ぼ、ぼ、僕らも、そろそろ肉体関係を結ぶステージに来ていると思うのであります』

 

『よ~し。

これを飲んで、体力回復、精をつけるよ』

 

『ぐふふふ。

ユンホさんが激し過ぎたら...大丈夫かなぁ、僕?』

 

...みたいな?)

 

妄想力がすごいな、俺...熱に頭をやられたんだな。

 

ベッドに横になっていなければならない程、体調が悪いわけじゃない。

 

食事が出来上がるまでの間、TVでも観ながら待つか。

 

俺が住んでいるアパートは、カウンターキッチンになっている。

 

だから、クッキング中のチャンミンを存分に観察できるのだ。

 

「ねぇ、チャンミン。

何作ってんの?」

 

「内緒です」

 

「ふぅん、楽しみだなぁ」

 

料理本まで持参してきたようで、各工程ごとに手を止め、レシピを確認しているようだ。

 

この時、眉をひそめ、ぶつぶつとつぶやきながらだったから、俺にはメニューがバレバレなのだ。

 

「輪切りにしたキュウリを塩と胡椒で味を調え...三倍酢で和えてごま油で(サラダか?)...香りづけに柚子皮を...ええっ、柚子なんて聞いていませんよ...うーん、オレンジでいいでしょう。

 

くし切りした玉ねぎを透けるまで炒め...乱切りにしたジャガイモと人参を加えて...別のフライパンで焼き色をつけた牛肉を...どうしてここで肉が登場するんですか!?...火を消して、牛肉を炒めましょうか...(カレーか?)

 

弱火にしてヘラ等で焦げ付かないようかき混ぜる...アルコールの香りが消えたところで、あらかじめ溶かしておいた小麦粉を加える...漬け置いたおいたラム肉を(いつの間に!)...落し蓋で煮込んだのち...180℃に温めておいたオーブンで...もぉ、もっと早く教えてくださいよ(一体何を作っているんだ?)

 

あちっ、あっちちち!

 

チーズおろし器で...困りました、持ってくるのを忘れました...普通のおろし金で代用...ごそごそ...ユンホさんちには無いんですか!?...ふむ、根性で刻みましょう。

 

ニンニクをよく炒め、湯通ししておいたウナギに...ふふふ、バッチリです...4の工程で揚げた牡蠣を...4の工程?おお!見落としてました...ざく切りしたニラをさっと炒め...最後に素揚げした丸ごとニンニクを散らす(チャンミンよ...俺に精をつけさせて、どうするんだよ)」

 

風邪っぴきの俺の為の、消化の良いお粥はどこいった?

 

土鍋はどこで使うんだ?

 

「盛りつけたら最後の仕上げ。

LOVE注入...ぐふふ...なぁんてね」

(古い!古いよ)

 

俺と目が合ったチャンミンはペロッと舌を出してみせた。

 

か、可愛い...。

 

 


 

 

「...ユノ。

チャンミン君が手料理を振舞ってくれた...私はね、そ~んな話を聞きたいわけじゃないのよ。

のろけ話をどれだけ憎んでいるか、あなた知っているでしょう?」

 

前置きがやたら長いチャンミンの癖が移ってしまったみたいだ。

 

「悪い。

お前はトラブル話が三度のメシより好きだからなぁ?」

 

「人聞きの悪いこと言わないで頂戴。

私が聞きたいのは、チャンミン君があなたにソーニューしたのかどうか!

ここ『だけ』を微に入り細にわたって教えて欲しいのよ」

 

「お、俺がなんで『ウケ』なんだよ!?」

 

「...面白いから」

 

「おい!

俺とチャンミンで好き勝手に妄想するんじゃない!」

 

「小鹿みたいな可愛い子ちゃんがね、オラ系のあなたにぶち込むのよ。

きゃあぁぁぁ、これぞBLの醍醐味」

 

ここで俺ははたと気付かされる。

 

そっか...俺とチャンミンの恋は、ノーマルな者から見るとマイノリティに属するのか。

 

俺には全く抵抗がない。

 

だって、好きな気持ちは止められない。

 

俺がチャンミンに惹かれるようになった最初のきっかけはルックスだ。

 

綺麗なものは綺麗なのだ。

 

ところが早い段階で、見た目以上に彼のキャラクターから目が離せなくなったのだから。

 

 

(つづく)

 

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(3)会社員-愛欲の旅-

 

 

会社員とは雇われ人なわけで、従順に頭と体を動かせるだけじゃなく、融通をきかせられる柔軟さ、ある程度の適当さが必要だ。

 

さらに、職場での人間関係を円滑にするために、たまにプライベートな面をチラ見せさせる余裕も必要だ。

 

そうでなくっちゃ、週の40時間以上過ごす場、堅苦しいだけで息が詰まる。

 

それじゃあ、チャンミンはどうかというと、彼の場合、まっとうな会社員の仮面をかぶるのが非常にうまい。

 

オフィシャルな場とプライベートな場とのギャップが著しい。

 

仮面どころじゃない、フルフェイスのヘルメットレベルなのだ。

 

俺のデスクからボールペンが10本以上見つかって、備品を管理しているチャンミンにこっぴどく叱られることもしょっちゅうだ。

 

給湯室のポットの水を空にならないよう気をつけていたり。

 

(『お湯が減ったら補充しましょう』の注意書きなんて誰も守らない。もちろん、その張り紙はチャンミンが掲示したものだ)

 

共用冷蔵庫に突っ込んでおいた徳用アイスクリームの箱を見つけ出しては、「ここはユンホさんのお家じゃないです!」とぷりぷりしたり。

 

USB電源のおひとり様用加湿器をたきながら(女子か?)、目にも止まらぬスピードでキーボードを打つ丸まった背中と丸い後頭部を目にして、俺はきゅんとする。

 

仕事ぶりは真面目、事務能力は抜群だ。

 

課内の誰に対しても敬語で、就活生みたいなスーツを着て、七三分けのダサい髪型をしている。

 

何事もきっちりはっきり、ピンセットでつまむみたいに細かい奴なんだけど、いざ素の姿を見せると面白いのなんのって。

 

ウィットに富んだジョークを飛ばして、遊び心を忘れない...っていうんじゃなくて、ちょいズレているんだ。

 

その微妙なズレ具合はつっこみどころ満載なんだけど、それにいちいち反応を見せてたら疲れてしまう。

 

プライベートタイムを共に過ごしたことは未だないから、職場を離れたチャンミンを早く見たいなぁと思っている。

 

先週、プライベートの片鱗みたいなものを垣間見ることができた。

 

狭い車内で12時間以上の時を過ごしたのだが、全然退屈しなかった。

 

 

 

 

「...遅いな...」

 

「ユンホさんちに駆けつけますから」と通話を一方的に切ってから、はや2時間が経過している。

 

会社からここまで1時間もかからない。

 

俺にお粥でも作ってやろうと、食材を買い込んでいるんじゃないかな、と思ったのは、チャンミンは料理好きな一面があるからだ。

 

俺の為に、愛情弁当を作ってくれるくらいだ。

(初日のピクニック弁当には、ウケたし困った)

 

窓ガラスの向こうは濃い紺色で、真隣に立つマンションの外廊下の蛍光灯が一列に灯っている。

 

周囲の家々では夕飯時、表の通りでは家路を急ぐ者が闊歩しているだろう。

 

俺はベッドから起き上がり、開け放ったままだったカーテンをひき、部屋の照明をつけた。

 

頭も身体も若干だるいが、昼間より楽になっていた。

 

額と首筋にふれると、微熱程度か。

 

酷い風邪をひいたのではと、体調管理のできない大人は常々カッコ悪いと思っていた俺だったから、安堵した。

 

空腹を覚えて、常備しているカップ麺を食べようとお湯を沸かしかけて、

 

「おっと...」

 

すぐさまガスを切った。

 

腹がいっぱいでチャンミンの手料理が食べられないとなったら、困る。

 

落ち着かない俺はTVをつけかけたところで、腰かけたソファから立ち上がった。

 

ソファの背もたれにひっかけた、取り込んだままの洗濯物に気付いたからだ。

 

まとめて抱えてクローゼットに放り込む。

 

そして、キッチンの流しに溜まった食器を洗いながら、初めて彼女を部屋に呼ぶ時みたいじゃないか、と自分にくすりとしてしまう。

 

洗面所の床に落ちていた靴下の片割れを拾い上げていた時、ドアチャイムが鳴った。

 

チャンミンだ!

 

 

 

 

「ユンホさん!!」

 

インタフォンのディスプレイに、チャンミンのどアップの顔が。

 

鼻をくっつけんばかりにカメラを覗き込んでいるらしい。

 

画質の悪いモノクロの映像でも、目鼻立ちのはっきりしたいい顔をしているのがよく分かる。

 

「ユンホさん!

早く開けてください!」

 

電話でもそうだったが、今の口調も怒っている風だったから、何に腹を立てているんだ?と首を傾げながら、ドアを開けた。

 

玄関先に立つチャンミンからは外の匂いがして、まとった空気は冷たく、鼻と頬を冷気で赤くしていた。

 

「ユンホさん!

なんで起きてるんですか!」

 

顔を合わせるなりの咎めの言葉に、

 

「え?

チャンミンが来たから鍵を開けないと...」

 

と答えた。

 

「い~え。

鍵は開いてました」

 

「鍵閉めるのを忘れたんだなぁ」

 

体調が悪すぎて、部屋に入って直ぐベッドに直行したからだ。

 

「無用心、無用心ですよ!」

 

「そのまま入ってこればいいじゃないか」

 

「こっそり入ったらコソ泥に間違われますし、僕らは交際したてのカップルです。

親しき中にも礼儀ありです!

不法侵入するわけにはいきません!」

 

「俺がドアを開けなきゃ、チャンミンが入って来られないだろ?」

 

「ふむ。

その通りですけど。

...ああっ!

ユンホさん、裸足じゃないですか!?」

 

ぷりぷりしながらチャンミンは、手にした荷物を床に置いた。

 

(...え...?)

 

「...お前...家出でもしてきたのか?」

 

「やだなぁ、ユンホさん。

僕は一人暮らしなんですよ?

自分しかいない家から家出してどうするんですか?」

 

俺がまるで(チャンミンにちゃんと通じる)ジョークを飛ばしたかのように、チャンミンはくすくす笑っている。

 

俺が一瞬絶句したのは、チャンミンの大荷物っぷりだ。

 

食材がたっぷり詰まったスーパーの袋は予想通りだが...。

 

背中にはリュックサックを背負っているし、大きなボストンバッグもある。

 

「荷物が多すぎやしないか?」

 

「はい。

お泊りグッズと着替えをとりに、一度家に寄ったのです」

 

どうりで時間がかかったはずだと納得した。

 

「チャンミン...俺んちに住みつくつもりか?」と言いかけて止めた。

 

ん...?

 

...お泊りグッズ?

 

「俺んちに泊まるつもりなのか?」

 

「あたぼうです」

 

チャンミンは寝ずの看病をするつもりで参上してきたのだ。

 

胸がきゅんとしてしまうではないか。

 

 

(つづく)

 

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(2)会社員-愛欲の旅-

 

 

チャンミンとの深夜残業を終えた日、俺は風邪をひいてしまった。

 

運転席で眠るチャンミンにコートをかけてやるという、カッコつけた行為の結果が風邪っぴきだ。

 

寝不足、というのもある。

 

ぞくぞくと寒気がする、これはもしかして...と嫌な予感を抱えて、なんとか午前中の業務を終えた。

 

体調は悪くなる一方で、帰社する必要はないと判断した俺は、午後には真っ直ぐに帰宅することにした。

 

無理せず布団にもぐりこんで、さっさと寝るに限る。

 

デキる男チョンユンホ、体調不良を押してのパフォーマンス悪い仕事するべからず、周りに伝染すべからず。

 

とは言え、平日の昼間どきに、自宅のアパートのベッドに横になっているのも落ち着かないものだ。

 

熱を出すと世界が1枚膜を通したかのように、ふわふわと現実じゃないみたいだ。

 

レースカーテンを透かした日光によって、部屋に舞うほこりがよく分かる(休日に掃除をしなくては)

 

今頃チャンミンは、どうしてるかなぁと想像してみた。

 

無遅刻無欠勤だったチャンミンの、初めての遅刻。

 

真っ赤な顔でこそこそと出社して(抜き足差し足で)、PCを立ち上げデスクに散らばったプリント用紙を「未」とテプラを貼った書類ケースに入れる。

 

デスクにぺたぺたと貼られた付箋をチェックし、要点を欠いたメモ書きに、「5W1Hの基本がなっとらん」と眉間にしわを寄せる。

 

そして、七三分けを撫でつけ、肩をぐるんと回し、長い首を左右にこきこきやって、「よし!」と自分に喝を入れたのち、仕事開始だ。

 

うん、きっとこんな感じに違いない。

 

ここまで細かに想像できる俺。

 

やれやれ、やっぱり俺はチャンミンに参っているんだと、あらためて実感した。

 

「......」

 

先ほどから枕元で振動を続けるスマートフォン。

 

これで7回目(しつこい奴だ)

 

得意先からの電話だったりしたら、現場に駆け付けなくてはならなくなる。

 

5コール目で留守電に切り替わるからと、俺は無視を続ける。

 

それくらい俺の身体はしんどかったのだ。

 

電源を切ってしまおうか、と手を伸ばした際、うっかり通話ボタンをタップしてしまったらしい。

 

「ユンホさん!!!!!」

 

スマホを耳から遠ざけねばならないほどの、大声。

 

電話に出るなり怒鳴られて、画面に表示された発信者名に、スマホを取り落としそうになってしまった。

 

(チャ、チャンミン!!!!)

 

「...はい」

 

スピーカーフォンに切り替えた。

 

もっといい感じに出ればいいのに、他人行儀な、営業電話に出るかのような固い声...照れ臭かったのだ。

 

「ユンホさん!!!!」

 

スピーカーの音が割れるほどの大音量。

 

「ああ」

 

「どこいっちゃったんですか!?

まだ帰ってこないんですか?」

 

時刻を見ると17:30で、いつの間にか3時間ばかり眠っていたようだった。

 

「今日は社に戻らないんだ、直帰の予定」

 

「えええっ!!

聞いてませんよ」

 

「そりゃそうだ、言ってないからな」

 

「ユンホさんのお帰りを待っていたんですよ!」

 

チャンミンと約束していたっけ?と記憶をたどってみたが、それらしい会話はしていないはず。

 

俺の返答に大いにお気に召さなかったらしい、電話の向こうでムスっとしているのが、目に浮かぶ。

 

体調不良の今、チャンミンの相手をするほどの気力がなく、「今、出先なんだ。切るぞ」と通話を打ち切ろうとしたが...。

 

「僕っ...仕事帰りにユンホさんと、カフェーにでも行こうかと...。」

 

「ごめん、そっか...」

 

俺とチャンミンは、そういえば『交際』しているんだった。

 

肩を並べて帰宅する...放課後の高校生かよ、と思ったけど、もちろん口には出さない。

 

「どこにいるんですか?」

 

「えっと...G町のあたりかなぁ(嘘)」

 

「今から、そっちに行きます!」

 

「いや、来なくていいよ。

遠いし...」

 

「いいえ!

行きます!」

 

「来なくていい。

この後、用事があるんだ」

 

「...用事って、何ですか?」

 

「いや...いろいろと...」

 

「いろいろって...仕事に関係することですか?」

 

「...個人的なことだよ」

 

「『個人的』...」

 

しまった...話をややこしくしてしまったようだ。

 

正直に、自宅で寝ていると言えばよかったのだが、チャンミンに心配をかけてしまう。

 

ネガティブ思考のチャンミンは恐らく、「超」心配性とみた。

 

面倒がる俺を、救急外来に引っ張っていきそうだ。

 

「...どなたかと、デートですか?」

 

恨みと不安のこもった低い声で、ぼそっとつぶやいたチャンミン。

 

「はあ?

デートって誰と?

んなワケないだろう?」

 

「じゃあ、どうして僕がそちらへ行くのを渋るんですか?」

 

「だからさ、チャンミンも疲れてるだろう?

ほら、昨夜はちゃんと寝てないし。

寄り道しないで、まっすぐ帰りな、な?」

 

「ユンホさん、僕は胡麻化されませんよ?

遠かろうと、寝不足だろうと、僕はユンホさんに会いに行きます!

お休みの計画を立てないと!

昨日、打ち合わせをしようって、食堂でお話しましたよね?」

 

そんなような会話をしたようなしてないような...。

 

「あ...!」

 

今さらながら思い出す、次の休日つまり明日、チャンミンと初デートの予定だったことを!

 

「思い出しましたか?」

 

「...ごめん」

 

チャンミンのご機嫌が悪くなるはずだ。

 

このまま適当な言い訳で胡麻化すよりも、正直に話してしまった方が話は早いと判断した。

 

「ごめん、今さ、家にいるんだ」

 

「どうしてですか?」

 

「う~ん...。

風邪ひいたみたいでさ、早退したんだ。

だから、今日はごめん、お前とカフェーには行けない」

 

「......」

 

嘘ついたことを怒ってるんだろう、チャンミンは無言だ(冗談とか、取り繕うための嘘とか、チャンミンはいかにも嫌いそうだから)

 

「...僕のせいですね?」

 

「チャンミンのせい?

なんで?」

 

「ユンホさん、僕に上着をかけてくれましたよね?

寒かろうに、って。

そのせいです。

...申し訳ないことをしました」

 

「チャンミンのせいじゃないさ。

最近忙しかったし、不摂生がたたったのかもしれないし。

だから、チャンミンのせいじゃないよ」

 

「......」

 

「チャンミン?」

 

俺の呼びかけに応えないチャンミン。

 

「お前のせいじゃない」

 

「合点しました!」

 

「!!!」

 

「ユンホさん、待っててください。

僕が今から助けにいきます!」

 

「来なくていい!」

 

「どうしてですか!?」

 

「チャンミンの相手ができるほど、俺は元気じゃないんだ。

熱もあるし、横になっていたいんだ」

 

「えええっ!!!!

重症じゃないですか!?」

 

「ただの風邪だって。

明日には治る!」

 

「今から駆け付けます!

ユンホさんの自宅は分かってますから」

 

「え...?」

 

「ユンホさんの誕生日と一緒に、ご住所も記憶してますので。

ほら、免許証のコピーを取った時に、見えてしまったのです。

見ようと思ってみたわけじゃないですからね」

 

「...そっか」

 

チャンミンは視覚的記憶に優れている、と心のチャンミン録に新たなメモ書きが加わった。

 

「超特急で向かいますからね。

ベッドで大人しくしていてくださいね。

あ...!

ユンホさんは敷布団派ですか?

とにかく、布団でネンネしているんですよ」

 

そこまでまくしたてたチャンミンは、ブツッと通話を切ってしまった。

 

「はぁ...」

 

疲れる...疲れるけど、チャンミンにこれから会えるのか。

 

体調不良で心細くなっていたところに、恋人がお見舞いに来てくれるとは。

 

ウキウキしている自分がいた。

 

「そっか...チャンミンは俺の恋人なんだよなぁ...」

 

 

(つづく)

 

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