(1)「抱いて」とねだった罪

 

「上書きしてやるよ」

 

そう言って、首の付け根を強く吸われた。

 

背中にのしかかった彼の重み。

 

腰をきつくひき寄せられて、これ以上はない程ぴったりと密着して。

 

「いいか?」

 

許可なんていらない。

 

頷いた直後、僕の目の前で光が弾けた。

 

マットレスに組んだ腕で口を塞ぐ。

 

悦びの声なのか苦痛の声なのか、どちらともとれる、おかしな声をあげてしまいそうだったから。

 

嬉しいのか、怖いのか、悲しいのか、幸せなのか...いろんな想いがいっしょくたになって、何がなんだか分からない。

 

時間をかけて腰を沈めたのち、ユノは

「動かすよ?」と、僕に尋ねた。

 

その言い方が優しくて、まぶたの奥が熱くなった。

 

 


 

「チャンミンのことがずっと、好きだったんだよ」とユノは言った。

 

僕にとって、ユノとはどんな存在だったんだろう。

 

立ち止まって、あらためて考えてもみなかった。

 

隣に居て当然の存在だった。

 

面白くて楽しくて、ほっとくつろげて。

 

ユノと居ると、僕は僕のままでいられた。

 

「気持ち悪い」と眉をひそめる者も多い中、初めて会ったときからずっと、ユノは平然とユノのままだった。

 

「で、男が好きって、どんな感覚なの?」と尋ねられた時は、

 

「女の子を好きになったことはないから比較はできないけど...。

胸がドキドキして、いっつもその人のことを考えていて、近寄りたい、仲良くなりたい、って思うかなぁ。

好きになるって、そういうものじゃないですか?」と答えた。

 

「ふぅん...」

 

僕の話を興味深げに聞いた後、ユノは僕に問う。

 

「男のどういうところを見て、ムラムラっとくるのさ?」

 

「えーっと。

もちろん、顔でしょ。

身体のパーツで言うと...腕の筋肉とか、ぷりっとしたお尻とか、髪をかきあげるときとか...。

いっぱいありますよ」

 

僕はその当時好きだった、パソコン教室の講師のことを思い浮かべながら答えた。

 

「ふぅん...。

じゃあさ、チャンミンは俺を見てもムラムラっとくるときがあるのか?」

 

その時..まだ2年生だった頃だ...ユノの真顔にドキッとした覚えがあった。

 

ユノのパーツを挙げて...例えば、笑った時の目尻や、大笑いした時の声とか、「どうした?」って僕に尋ねる時の頼もしさとか...。

 

そうじゃなくて、ムラムラっときたとき...実はいっぱいあった。

 

ユノに気付かれないように、そうっと観察していた。

 

たまに、股間が大変なことになりそうな時があって、ユノにバレないようにするのに苦労した。

 

ユノの中に男を感じてムラっとくるのは、男が好きな僕の嗜好のせいだって、片付けていた。

 

ユノは男だもの。

 

実はそれだけじゃなかったのかな。

 

スリムなパンツを履いたユノの、あそこばかり目がいってしまうのは、ユノと裸で抱きあって、あそこに顔を埋めたい、そして僕の中に埋めて欲しいと望んでいたからなのかな。

 

でも、具体的に挙げたらユノを引かせてしまうのが心配だった。

 

だから僕は、こう答えた。

 

「ユノ相手にムラムラくることはないですよ。

だって、ユノは親友なんですよ。

そういう目で見たことはありませんよ、安心してください」

 

ホッとするのかなと思ったら、ユノはちょっとがっかりした顔をしていたから、「あれ?」と思ったんだった。

 

もしかしてあの時、正直に答えていればよかったのかな。

 

僕の大事な人...それはユノ。

 

そんなユノに対して、恋愛じみた想いを持ったり、性的な視線を注いだらいけない気がしたんだ。

 

ユノを汚してしまいそうで。

 

いやらしい気持ちを持っていると知られたら、僕の隣を歩いてくれなくなるかもしれない。

 

ユノはユノ。

 

女でも男でもない、友人以上の存在、でも恋愛感情は差し挟まない関係。

 

僕の大事な人...それはユノ。

 

 


 

 

僕を抱きしめていた腕をほどいて、「医者にいかなくていいのか?」と訊いた。

 

「行きたくないです」

 

僕は首を横に振った。

 

身体じゅう痛くて仕方がなかったけれど、問診での説明、処置室のベッドに横たわる自分を想像したら、自分の恥をさらすことになる。

 

行けるはずがない。

 

「このままはよくないよ。

俺もついていってやるから、な?」

 

「嫌です」

 

「俺のためにも、『うん』と言ってくれ。

一緒に行こう。

頼むから」

 

「ひどい顔をしてるし...大ごとになったら困ります。

行きません」

 

「俺がやったことにすればいい。

俺もひどい顔してるし。

派手な喧嘩をしてしまいました、って」

 

ユノは自身の顔を指さし、僕の頭を引き寄せてぐしゃぐしゃと髪を撫ぜた。

 

これまでにどれだけ、ユノのぐしゃぐしゃに安心してきたんだろう。

 

「言えないよう。

ユノは悪くないのに...」

 

頑として譲らない僕を前に、ユノはしばらく考え込んだのち、「わかった」とため息をついた。

 

「チャンミンちに泊まるよ。

心配で一人にしておけないからな」

 

「え...?

いいんですか?」

 

「いいに決まってるだろ?」

 

ユノは僕の大好物なものを沢山、買い込んできてくれて僕を喜ばせた。

 

湿布を貼ってくれたり、軟膏を塗ってくれたりしてくれた。

 

甘えてばかりの自分。

 

「俺は床で寝る」

 

「どうしてですか?」

 

「あのなー、チャンミン。

分かんないかなー?

チャンミンのベッドは狭いからな。

好きな奴にくっついていたら、たまらない気持ちになってしまうから」

 

はははっと、ユノは乾いた笑い声をたてた。

 

 

夜、カーペット敷の上で背中を丸めて眠るユノに、僕の方がたまらない気持ちになってしまった。

 

ベッドを抜け出し、ユノの背中に沿うように横たわり、そっと腕を回した。

 

ユノはびくっと身体を震わせて、「チャンミン...」と低い声で僕を呼んだ。

 

固い床の上だもの、寝付けなくて当然だ。

 

でも、優しいユノは僕を気遣って寝ているフリをしていたんだ。

 

「僕もここで寝ます」

 

「駄目だって!」

 

「ここで寝ます」

 

「駄目だ」

 

僕はベッドから敷布団を引きずり下ろして、床に敷いた。

 

「俺を困らせないでくれ」

 

僕のぎくしゃくとした動きを案じて、途中からユノが手伝ってくれた。

 

ユノは優しい。

 

泣きたくなるくらい、ユノは優しい。

 

僕はこれまで、ユノの何を見てきたのだろう。

 

どれだけユノの優しさに甘えてきたのだろう。

 

どうして僕の顔を見てすぐ、ユノは「ごめん」と僕に謝ったんだろう?

 

ユノが僕に謝ることなんて、何もないのに。

 

謝るのは僕の方なのに。

 

再び横たわったユノの胴に、腕をぐるりと巻きつけて、彼の胸に顔を押しつけた。

 

「...チャンミン...」

 

ユノの腕が僕の背中に回されると思ったら、彼の手は僕の頭にのせられただけだった。

 

「...ゴメン...ユノ...」

 

「どうした?

何が『ゴメン』なんだよ?」

 

「ユノ、ゴメン」

 

僕はユノに、謝ることがいっぱいある。

 

「チャンミンのことがずっと好きだったんだよ。気付かなかっただろ?」と言ったユノ。

 

うん。

 

気付かなかった。

 

じゃない、気付けなかった。

 

ユノの優しさを、まんま受け取るだけだった僕。

 

ユノにはいっぱい、謝らなければならないことがある。

 

 

(つづき)

 

 

[maxbutton id=”26″ ]

[maxbutton id=”23″ ]

(10)抱けなかった罪

 

「僕の不幸話を聞いてください」

 

「聞くよ」

 

「僕...ひどい顔してるでしょ?」

 

チャンミンが言う通り、目を背けたくなる顔をしていた。

 

「チャンミン...」

 

「僕がね、こんなにボロボロになっちゃったハプニング話です」

 

「ああ」

 

「すっごく悲しい話だから、あとで僕を慰めてください」

 

「もちろん」

 

 


 

 

「本当に怖かった。

痛かった。

男の力には敵わないから。

あ...僕も男ですけどね...ハハハ」

 

「チャンミン...」

 

震えるチャンミンの手を握りしめた。

 

「でも、

ユノが初めての相手でよかったです。

あんなケダモノが初めてだったら、死にたくなる」

 

「チャンミン...」

 

あの夜、「チャンミンを抱いていないこと」は口が裂けても、チャンミンには言えなかった。

 

絶対に。

 

一生、言うもんか。

 

「ユノ...この手」

 

「ん?」

 

「血が出てる...どうしたのですか?」

 

「あ...」

 

指の付け根に血がにじんでいた。

 

「ボコボコにしてきたんだ」

 

「誰を?」

 

「ヤツを」

 

たった1発殴っただけだったから、ボコボコは大げさな表現だったけど。

 

「...ユノ...ヤツから聞いたんですね」

 

「だから、ボコボコにしてきた」

 

「顔は?

殴られたんですか?」

 

前カノの兄に殴られた痣に、チャンミンの細い指が触れた。

 

「後始末してきたんだ」

 

「あらら、バイオレンス・ユノですねぇ」

 

微笑んだチャンミンが可愛らしくて、痛々しくて。

 

「お酒をいっぱい飲まされてたから、あまり覚えてなくてよかったです。

2人...3人...だったかな。

...覚えてないです」

 

俺は立ち上がって、ベッドに上がる。

 

チャンミンの小さなベッドが、ぎしっと軋んだ。

 

そして、横向きに寝るチャンミンを後ろから抱きしめた。

 

ビクリとチャンミンの身体が強ばった。

 

「大丈夫だから。

俺は何もしないよ、安心して」

 

4年間ずっと、好きで好きで。

 

触れたい欲求を抑えて、友情関係を守ってきた相手が今、俺の胸の中にいる。

 

チャンミンの身体から、力が抜けた。

 

「ユノ」

 

「ん?」

 

「よかった?」

 

「なにが?」

 

「気持ちよかった?

僕とヤって、気持ちよかった?」

 

「ああ」

 

「ホントに?」

 

「気持ちよかったよ」

 

「よかった」

 

チャンミンの髪が、俺のあごをくすぐる。

 

「研究室は決まったか?」

 

「今その話をするんですか?

決めました。

提出してきました」

 

「どこ?」

 

チャンミンが挙げた研究室は、一番人気で、かつ実験続きで泊まり込み覚悟のところだった。

 

「大丈夫か?

ハードなところだぞ?」

 

「頑張ります。

僕、心を入れかえました。

ユノに叱られましたよね。

やっているうちに、何かしら目標が見つかるって。

...でも、激戦だろうから、入れないと思います」

 

「第2希望は?」

 

チャンミンが挙げた研究室名を聞いて、俺はため息をつく。

 

「ユノと同じ所なら、ユノも安心でしょ?」

 

腕の中でチャンミンはくるりと寝返りをうって、俺の方を向いた。

 

「卒論も手伝ってあげないと」

 

「お前なぁ...俺を甘やかすつもりか?」

 

「僕は、こういう人間なのです」

 

「しょうがないなぁ。

せいぜいバックアップしてくれよ」

 

チャンミンの顔はみるみるゆがみ、目尻に涙が溜まってきた。

 

「ユノ。

頑張って一緒に卒業しましょう」

 

「ああ」

 

 

 

 

口に出すなら、今しかないと思った。

 

「俺の独り言を聞いてほしいんだけど...?」

 

「何?」

 

「こんな時に話す内容じゃないのは、分かってる」

 

涙のせいでつやつやと光ったチャンミンの瞳が、俺を射る。

 

「チャンミンは、俺にとって...大事な友達だ。

一緒にいて楽だし、面白いし...」

 

胸の鼓動が早い。

 

「...そんなことが言いたいんじゃなくて...」

 

ふぅっと一息つく。

 

 

「俺は、チャンミンが好きなんだ。

信じられないと思うだろうけど、

チャンミンのことが、ずっと好きだったんだよ。

気付かなかっただろ?」

 

全身が熱い。

 

俺の顔は、真っ赤になっているだろう。

 

「チャンミンのことが好きでいながら、他の子とヤリまくっていたなんて、おかしな話だ。

チャンミンはいつも誰か、好きな奴がいただろ?

そばで見ていて、俺は苦しかった。

だって、チャンミンのことが好きだったから、ずっと」

 

「ユノ...」

 

「しー」

 

口を開きかけたチャンミンの口を、片手で塞いだ。

 

「返事はいいから。

今は、いいから。

俺が誰かに...男に告白するのは初めてなんだ。

フラれることに慣れてないから。

返事はもうちょっと後で聞かせて」

 

チャンミンの目尻に溜まった涙を、俺は親指でぬぐってやった。

 

「もし、駄目でも、

俺は玉砕するつもりはないから。

何度でも言うから。

チャンミンが好きだって、何度でも言うから」

 

俺はチャンミンの頭を胸に引き寄せて、抱きしめた。

 

「こんな俺でごめんな。

俺はチャンミンの彼氏になりたい。

そんな資格が俺にないのは分かってる。

あっ、安心しろよ。

俺のユノは、これからはチャンミンにしか使わないから」

 

「ぷっ」

 

チャンミンが吹き出した。

 

肩を震わせて笑っている。

 

「チャンミン、俺の独り言を聴いてくれて、ありがとう」

 

チャンミンの長い腕がそろそろと、俺の背にまわった。

 

それだけでもう、十分だった。

 

 

 

 

ドイツ語事件の日。

 

白衣の彼を恍惚の眼差しで見送るチャンミンの横顔に、俺の心はさらわれた。

 

チャンミンは賢くて心根の優しい、そして強い精神を持った子だ。

 

俺なんかとはとても比べ物にならないくらい、いい男だ。

 

それでいて、ふわふわと危なっかしいんだ。

 

不安になったチャンミンが振り向く先に、俺は必ずそこにいてやりたい。

 

「ユノ...」と俺の胸のなかでもごもご言うチャンミンの背を、いたわりの心を込めて撫ぜた。

 

 

一生かけて償う。

 

 

一生をかけて、この子を守ろうと思った。

 

(おしまい)

(『抱かれたがった罪』につづく)

 

 

[maxbutton id=”26″ ]

[maxbutton id=”23″ ]

(9)抱けなかった罪

 

あの日以来、

チャンミンと一週間会っていなかった。

 

例の2年生の子との別れ話がこじれて、彼女の兄やら友人やらも登場しての修羅場だった。

 

責められても、悪いのは100%俺の方だ。

 

ひたすら謝るしかなかった。

 

一度、チャンミンから着信があったが、それどころじゃなかった俺は「また後で」とそそくさと切ってしまった。

 

長い春休みに突入していて、大学に行く必要もなかったから、バイトのシフトを増やした。

 

今朝も着信があって、バイトに遅刻しそうだった俺はそれを無視をした。

 

出勤してきた俺と、帰り支度をしていたSとロッカールームで鉢合わせした。

 

Sは、俺の顔を見ると、ニヤリと口の端をゆがめた。

 

「ユノ、その顔どうした?女か?」

 

「ああ」

 

別れ話ののち、逆上した彼女の兄に何発か拳で殴られたのだ。

 

ロッカールームにいた他のバイト学生たちも寄ってきて、俺の顔を覗き見て笑った。

 

「こりゃ、痛いぜ」

 

「お前、オンナ関係派手だからな、ハハッ」

 

その言葉には無視して制服に着替えていると、Sが話しかけてくる。

 

 

 

「チャンミン、すげーよかったよ」

 

 

俺の着替える手が止まった。

 

 

「最高に締まりがよくってさ。

俺、久しぶりだったし。

何度でもイケるわけ」

 

 

「は?」

 

 

「ヤベーヤベー、

昨日は丸一日、部屋から出なかったな」

 

 

 

「チャンミンに...何したんだよ?」

 

 

 

声がうまく出せない。

 

しぼりだした声がかすれていた。

 

 

「何した、じゃなくて、何回したかって話。

ユノ。

お前の最高記録は何回だ?」

 

 

息が詰まって、呼吸ができない。

 

血の気が引いて、冷汗が噴き出るのが分かった。

 

 

「チャンミンってさ。

目がマジで怖いったら。

萎えるじゃん。

あいつの目を塞いでヤったよ、なぁ?」

 

Sは周囲に同意を求める。

 

なぜSだけじゃなく、小太りのこいつも、ガリガリの不細工も頷いてるんだよ。

 

 

こいつらは一体、誰の話をしてるんだ?

 

 

「ヤりまくりのユノの紹介だからさ。

てっきりお前が先に手をつけてるって思うだろ?」

 

「まさかの、“初めてちゃん”だったとはなー」

 

「俺らが“開発”してやらないとなー」

 

「なー」

 

「暴れるのなんのって、3人がかりだったよ」

 

ゲラゲラと笑い声。

 

 

 

この野郎...。

 

 

 

上半身がカッと熱くなって、気づくとSの胸ぐらをつかんでいた。

 

Sの後ろのロッカーがガシャンと音を立てる。

 

 

全身がたぎるように熱かった。

 

視界が狭い。

 

 

「何てことしてくれるんだよ!」

 

 

「お、落ち着けよ」

 

Sは怯えた目をして、つかみ上げた俺のこぶしを叩く。

 

「放せったら」

 

小太りとガリガリが、俺をSから引きはがした。

 

「お前の男じゃないんだろ、チャンミンは?」

 

Sは首をさすりながら、へらへらと笑う。

 

「じゃなきゃ、なにキレてるんだよ」

 

 

 

吐き気がした。

 

 

 

これまでの自分を、心の奥底から恥じた。

 

何人もの女の子たちをモノにし、泣かせてきた罰が当たった。

 

その罰は俺じゃなくて、チャンミンに当たった。

 

片想いでいるのがやりきれなくて、心と身体がバラバラだった俺。

 

そのせいで、チャンミンの心も身体も両方、めちゃくちゃに傷つけてしまった。

 

 

 

俺は大馬鹿野郎だ。

 

 


 

 

もっと早く、チャンミンに想いを伝えていればよかった。

 

断られたとしても、何度もあきらめずに。

 

いつかは、俺の方をふり向いてくれていたかもしれない。

 

チャンミンを振り向かせていれば、こんなことにならなかったのに。

 

ぞっとするほど怖いくらいのチャンミンの眼差しを、受け止められるのは俺だけなのに。

 

あの夜、チャンミンを最後まで抱いていればよかった。

 

腕の中からすり抜けてしまわないよう、チャンミンの身体に俺を刻みつけてやればよかった。

 

いや、違う。

 

抱く以前の問題だ。

 

キスする前に、「好きだ」と口にしていればよかったんだ。

 

Sのことは諦めて、俺を見てくれ、と。

 

ほらやっぱり、ここに帰結するのだ。

 

 

 

今のチャンミンは...。

 

 

苦しんでいるだろう。

 

 

傷つけたのは...俺だ。

 

 

 

 

階段を3段飛ばしで駆け上がり、チャンミンの部屋のチャイムを鳴らす。

 

ポケットから携帯を取り出して、履歴を確認した。

 

チャンミンから着信があったのは、今朝が最後だった。

 

チャンミンからのSOSの着信を、俺は無視した。

 

かけ直すこともせず、放置していた自分を殴りつけてやりたかった。

 

インターフォンから反応がなく、焦った俺はドアを何度か叩く。

 

「チャンミン!

俺だ!

ユノだ!」

 

カチリとドアが開いた。

 

ドアの隙間からのぞくチャンミンの顔を一目見て、彼にしでかした事の重大さが重く俺にのしかかる。

 

あまりに痛々しくて目をそむけたくなったが、こらえてチャンミンを正面から見つめた。

 

「チャンミン...」

 

俺に身体を鍛えろとからかわれたばかりのチャンミンが、げっそりとやつれていた。

 

端正な顔だけに、余計に痛々しかった。

 

「ユノ...久しぶり」

 

声が嗄れていた。

 

押さえつけられて大声で泣き喚く姿が浮かんで、心臓がぎゅっと縮まった。

 

「あ、ああ」

 

チャンミンについて部屋に入る。

 

「僕...ちょっと調子が悪いから。

横になってて...いいですか?」

 

「あ、ああ、もちろん」

 

柔らかなくせ毛が、今はぺしゃんこにつぶれていた。

 

チャンミンは前かがみになって、小股でそろそろと歩いている。

 

チャンミンは、ここまで独りで帰って来たのか。

 

今朝の電話は、俺に迎えに来て欲しかったんだ。

 

俺はチャンミンの背に手を添え、ベッドに横になった彼に布団をかけてやる。

 

いつも表情豊かなチャンミンが、能面のようで目がうつろだった。

 

どれくらい泣いていたのだろうか、目が腫れぼったかった。

 

俺はチャンミンのベッドの端に腰かけて、かける言葉がみつからず逡巡していた。

 

「ごめん」

 

「どうしてユノが謝るんですか?」

 

チャンミンの瞳には確かに俺が映っているのに、まるで焦点が合っていない。

 

「Sを紹介したばっかりに...」と言いかけた言葉を飲み込んだ。

 

もしかしたら、チャンミンは俺に知られたくないと考えているかもしれない。

 

 

掛け布団のしわをのばしながら、チャンミンに話しかけた。

 

「...ちゃんと、ご飯食べてるか?」

 

「...ううん...」

 

「食べないと、元気がでないぞ」

 

「お腹を壊したのかな...ハハハ」

 

「牛乳を温めてきてやろうか?」

 

「いらない...」

 

「もっと太った方がいい。

なにか食べたいものはある?買ってくるよ」

 

「いらない。

でも、ありがとう」

 

 

チャンミンの「ありがとう」を聞いた途端、俺の目からボロボロと涙がこぼれ出た。

 

「チャンミン、アイス好きだろ?

買ってくるから、待ってろ」

 

泣いている顔を見られたくなくて、俺は立ち上がった。

 

「行くな!」

 

布団の中からチャンミンの腕が伸びて、俺のシャツを引っ張った。

 

「ユノ...ここにいて」

 

チャンミンの瞳に、わずかだけれど鋭い光が戻っていた。

 

「いるよ」

 

裾をつかんだチャンミンの手をとり、その手を両手で包んだ。

 

 

甲の薄い、俺より小さな手だった。

 

まともにチャンミンの手を握ったのは、これが初めてだったかもしれない。

 

ますます、泣けてきた。

 

俺の理想と逡巡が邪魔をして、チャンミンを守れなかった。

 

自分が情けなかった。

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”26″ ]

[maxbutton id=”23″ ]

[maxbutton id=”2″ ]

(8)抱けなかった罪

 

キスをしたまま俺たちは、ベッドに横倒しになる。

 

「んっ...んっ...」

 

キスに慣れていないのか、絡める舌の動きがぎこちなかった。

 

俺は今、チャンミンとキスをしている。

 

ずっとチャンミンに触れたかった。

 

友人同士のからりとした接触じゃなく、恋情と性をもって愛撫したかった。

 

すんなりと長い首や、まっすぐな背筋に指を滑らせ、やわらかそうな耳朶を食み、一文字に引き結んだ唇をこじあけたくて仕方なかった。

 

固くてまっすぐな、男の身体であっても、チャンミンを恋しく想い続けた俺だから、大丈夫、必ず反応する。

 

溢れんばかりの想い...俺以外の誰かへの...に、身をくねらすチャンミンのとろけた表情を、側で見守り続けた俺だった。

 

俺に触れられて、甘い吐息と恍惚にゆるんだ表情、熱っぽい視線を浴びたかった、ずっと。

 

常に俺以外の誰かへ捧げていた一途な恋心を、どうか俺に注いでくれ。

 

恋愛に関して達観の姿勢を崩さずにいた俺は、どうしてもチャンミンに想いを伝えられず、じりじりと待っていた。

 

いつか俺の想いに気付いてくれと。

 

ところが突然、降って沸いたこの機会。

 

妙な展開になってしまったが、今はこうして堂々とチャンミンに触れることができている。

 

喜ぶべき時なんだろう。

 

チャンミンは、本人が言うように経験のない身体だ。

 

そんな身体に、快感を教えてやるのだ。

 

俺の手は、女の子を愛撫するやり方しか知らないけれど、誠心誠意をもって、これまでひた隠しにしていた想いをこめて、大切に扱おうと思った。

 

片手でチャンミンの顎を支え、もう片方で彼のシャツのボタンを外しかける。

 

と、チャンミンの手が伸びて制された。

 

「...や、やっぱり、

恥ずかしいから...脱ぎたくない...」

 

「恥ずかしいって...どうして?」

 

「僕...おっぱいないし...ユノ、萎えちゃう...っん」

 

唇を重ねたままの会話だから、鼻で呼吸するコツを知らないらしいチャンミンは苦し気だ。

 

唇の隙間から漏れる吐息が、熱い。

 

チャンミンが指摘したように、男の身体に興奮して果たして勃起するのか、はじめは不安だった。

 

「大丈夫」

 

制止していたチャンミンの手をとって、俺の股間に誘導する。

 

「分かった?」

 

「...嬉しい」

 

チャンミンは両腕で俺の首にしがみつき、そこに顔を埋めて囁いた。

 

熱い吐息が首筋を刺激し、ぞくりと肌が粟立った。

 

「ごめんね...ユノ。

僕が男でごめんね」

 

「ばーか。

謝るな」

 

シャツの下から手を忍ばせて、腹から鎖骨へと撫で上げた。

 

「っあ...」

 

肋骨とうっすらついた筋肉の凹凸を、指先でひとつひとつ確かめる。

 

怖がらせないように、ゆっくりと優しく。

 

チャンミンの胸がびくんと痙攣する。

 

手の平を小さく固い突起がくすぐった。

 

それを指の腹で円を描いたり、押したり、軽く摘まんだりした。

 

「あっ...あん...あっ...」

 

その度にチャンミンは短い喘ぎ声をあげて、俺を煽る。

 

感度のよさから、きっと自分でもいじっていたんだろう。

 

尻の方も、既に試しているのかもしれない。

 

大きななりをしたチャンミンが、心底可愛いかった。

 

「チャンミン、本当にいいのか?」

 

「っうん...いい...ユノに任せる」

 

胸先の快感のとりこになっていたチャンミンは、こくこくと頷いて自身のデニムパンツのボタンを外した。

 

焦りのあまり片手でもたつくチャンミンを手伝って、下着ごと膝まで引き下ろす。

 

チャンミンの下腹も腰骨も、尻も...それから、黒々とした陰毛。

 

その茂みの間から、斜めに勃ち上がったもの。

 

そうなんだよなぁ...チャンミンは...男なんだ。

 

女の子の裸は見慣れていたが、男の裸をまじまじと見る経験は初めてだ。

 

先日、偶然目にしたチャンミンのへそに、俺が強い欲情を覚えてしまったのには理由がある。

 

へそからシモへと繋がる毛筋の...あの時は、デニムパンツで隠されてしまっていたが...行き先を目にしたい欲望に襲われたからだ。

 

チャンミンの男である証拠を見たい、って...不思議なことに。

 

「横向きになってくれる?」

 

チャンミンを後ろ抱きにした。

 

俺の下着は、はち切れそうに勃起したペニスで押し上げられ、未だかつてないほど湿っている。

 

チャンミンにも、俺の興奮が伝わっているはずだ。

 

チャンミンの尻を左右に割って、その中心に中指を押し当てた。

 

「っんっ...!」

 

瞬時にチャンミンの尻が跳ねる。

 

アナルの経験があったから、いつチャンミンと『そういう関係』になっても大丈夫のはずだ。

 

大丈夫のはずだったが。

 

乾いた入り口の感触に、そうだった、チャンミンは男だったと、今さらながら思い出す。

 

女の子相手の時は必要ないが、チャンミン相手の場合はそういう訳にもいかないのだ。

 

チャンミンのペニスの先からたらたらと、滴る粘液を指にからめとり、彼の肛門を潤わせた。

 

中指と薬指の腹を使って緊張を解きほぐす。

 

「っああっ...あっ...んっ...」

 

苦痛なのか快感なのかはかりかねる声を漏らすチャンミン。

 

指が1本、次いで2本挿ったのを時間をかけて確かめた。

 

念入りに入り口をほぐす間、チャンミンは膝頭をこすり合わせては、高い声で喘いでいた。

 

その声に俺の下半身は煽られる。

 

「んんっ...んっ...あぁっ...」

 

チャンミンが入浴中、あらかじめバッグから取り出しておいたコンドームを、くわえて封を切り素早く装着した。

 

そそり立ったペニスに手を添えて、チャンミンの肛門にあてがう。

 

「きつっ...」

 

横抱きでは挿入しづらかったため、チャンミンの背を押してうつ伏せにさせる。

 

腰だけ突き出した姿勢にさせ、再度ペニスを押し当てて埋めていこうとした。

 

「?」

 

チャンミンの喘ぎがいつの間に止んでいた。

 

抵抗もせず、俺にされるがままのチャンミン。

 

「チャンミン?」

 

マットレスに片頬を付けたチャンミンの表情を窺う。

 

うっとりと半分閉じられた目は、うつろだった。

 

テーブルの下に空のボトルが転がっていた。

 

俺が入浴中、チャンミンも緊張を解きほぐそうと酒をあおっていたのか。

 

どうりで酒臭いはずだった。

 

「チャンミン、これ全部飲んだのか?」

 

コクリと頷くチャンミン。

 

いくら酒に強いチャンミンでも、この量は多すぎだ。

 

「チャンミン、やめようか?

酒の力を借りないとできないんだろ?」

 

そんなことを言いながらも、俺の高ぶりは引き返せないレベルに達していた。

 

男相手にここまで興奮できるのかと驚くくらい、熱く怒張していた。

 

「怖くないよ...」

 

チャンミンの答えを聞いた間もなく、俺はTシャツを脱いでベッドの向こうに投げ捨てた。

 

「挿れて...早く...」

 

チャンミンを仰向けの姿勢に戻す。

 

顔の向きを何度も変えながら、さっきより荒く口づけ、その唇を徐々に首筋から鎖骨へと滑らす。

 

首の付け根に強く吸い付いた。

 

チャンミンの反応はない。

 

チャンミンの口から、強いアルコールの香りが漂う。

 

横たわったチャンミンの上にまたがった俺。

 

枕元についた俺の両手の間の、チャンミンの寝顔を見下ろしていた。

 

はだけた胸からのぞく薄い胸と、鎖骨から繋がる白くて長い首。

 

俺が強く吸い付いてできた赤い痕から、目をそらす。

 

「......」

 

俺は、チャンミンの上からひきはがすように降りた。

 

このまま進めてしまってもよかった。

 

でも、酔いつぶれた子とヤる趣味は、俺にはない。

 

もしチャンミンが素面だったとしても、俺はできなかったと思う。

 

半勃ちまで鎮まってしまったチャンミンのペニスを下着におさめ、膝まで落ちたズボンを引き上げ、ファスナーを上げてやる。

 

エアコンの温度を上げ、眠るチャンミンを毛布でくるんでやった。

 

「はぁ」

 

深く息を吐いた。

 

チャンミンにお願いされたからヤるなんて、そんなの嫌だと思った。

 

俺はいいさ。

 

俺は好きなコとヤれるんだから。

 

チャンミンはどうなんだよ?

 

俺のことを信用できるからだって?

 

チャンミンの恋人は、俺じゃないだろう?

 

今みたいに簡単に、自分を差し出すなよ。

 

未経験なことでドン引きするSだったら、そんな奴やめてしまえ。

 

俺は毛布にくるまるチャンミンに沿うように、隣に寝そべった。

 

夢をみているのか、かすかに震えるチャンミンのまぶたに、俺は唇をそっと落とす。

 

チャンミンを守ってあげたかのような、妙な達成感に満たされていた。

 

何やってんだか、俺は...。

 

 

 

 

チャンミンを最後まで抱いてやればよかった。

 

チャンミンと相思相愛になってからなんて、軽い男がこの期に及んで、綺麗ごとをならべたてるなんて。

 

この夜の俺の理想と躊躇が、チャンミンをボロボロに傷つけてしまうなんて。

 

俺ならうんと、うんと優しくチャンミンを扱ったのに。

 

俺は、後悔している。

 

死ぬほど後悔している。

 

 

(つづく)

 

 

[maxbutton id=”26″ ]

[maxbutton id=”25″ ]

[maxbutton id=”23″ ]

[maxbutton id=”2″ ]

(7)抱けなかった罪

 

 

チャンミンの爆弾発言に、絶句した。

 

「チャンミン...とうとう頭がいかれたのか?」

 

息が詰まった後、俺は茶化した言葉を口に出すのがやっとだった。

 

「......」

 

チャンミンは本気だった。

 

なぜなら、ひそめた眉の下のチャンミンの瞳が、怖いくらいに光っていたからだ。

 

「お前...自分が何を言ってるのかわかっているのか?」

 

「わかってます!」

 

「前にお前に言ったよな。

好きな奴としろって。

せっかく『その時』がきたんだろ?」

 

「だからだよ!」

 

「Sのこと、好きなんだろ?」

 

頷くチャンミン。

 

「じゃあ、どうして?」

 

「怖いんです...」

 

「好きな相手なら、怖いことなんかあるもんか」

 

「僕が初めてだって知ったら、S君は絶対に引く...」

 

「ずるずるにゆるい奴よりは、全然マシじゃないか?」

 

「それじゃあ、ユノだったらどうですか?

本番前に、彼女が未経験だって知ったらどうですか?

ありがたります?

それとも、重いって思います?」

 

「...」

 

チャンミンの言う通りかもしれない。

 

初めて俺に身を任せてくれたんだと感激できたのは、まだ経験が浅い頃のことだ。

 

今じゃ、性急にコトを済ませたい俺にとって、処女とは邪魔な条件だった。

 

「ほら、そうでしょ?」

 

「うーん」

 

「ユノには、たいしたことないでしょ?

どんな子とでも出来るでしょ?

経験人数に、一人くらい男が加わっても平気でしょ?」

 

「あのなぁ」

 

チャンミンの言葉に傷いた。

 

「ユノの見境のない下半身、なんとかしてください」と、何度もチャンミンにいさめられてきた俺なのに、今の彼の言葉は聞き流せなかった。

 

4年間ずっと、好きで好きで。

 

触れそうになる手を、何度握り締めたことか。

 

俺にモノにされてきた彼女たちには残酷だが、相手がチャンミンの場合は「どうってことない」わけにはいかない。

 

チャンミンが男であることも、躊躇する理由のひとつではある。

 

ひとつではあるが、それは些末なこと。

 

「ユノは、僕が相手じゃ嫌だろうけど...?」

 

「...嫌じゃないよ」

 

「ユノはストレートだし、僕は男だし。

...やっぱり...気持ちが悪いですよね」

 

「チャンミンのこと、気持ちが悪いなんて思ったことはないよ」

 

心からそう思っていた。

 

出会った日からずっと。

 

「ホントに?」

 

「ああ。

チャンミンはチャンミンだ。

気持ち悪いなんて、思ったことは一切ない」

 

「よかった」

 

固かったチャンミンの表情が少し緩んだ。

 

微笑を浮かべたチャンミンが、可愛かった。

 

俺たちは歩き出した。

 

「『俺』で、いいのか?」

 

「ユノだから、お願いしてるんだよ」

 

「どうして、『俺』なんだ?」

 

「ユノを...信用しているからだよ」

 

「やっぱり、Sとした方が...?」

 

「S君の名前をここで出さないでください」

 

「相手が『俺』じゃ、変じゃないか?」

 

「ユノとがいいんです」

 

「なんで『俺』がいいんだ?」

 

「ユノ、しつこいですよ」

 

俺は、チャンミンの口から何を言わせようとしているんだろう。

 

「ユノのことが好きだから」の言葉が欲しいのか?

 

「好きだ」と言い出せない俺の代わりに、チャンミンに言わせようとしているのか?

 

「僕...ユノのこと大好きだよ」

 

「え?」

 

踏み出した脚がぴたりと止まった。

 

立ち止まった俺に気付かないチャンミンは歩き続ける。

 

「モテ男のユノがさ、ホモの味方になってくれて...」

 

「自分のことを、そんな風に言うのはよせよ」

 

隣に俺がいないことに気付いて、チャンミンはふり返った。

 

「チャンミンはいい男だよ。

もっと自信をもてったら」

「ホント?」

「うーん、強いて言えば、もっと筋肉つけてぴったぴたな服着てさ、いかにも...って!」

 

飛びついたチャンミンの両手に頬を挟まれた

 

背が高いチャンミン...俺と同じくらい...の顔が真正面にあった。

 

「ユノ...ありがと。

真剣に僕を叱ってくれるユノが、好きですよ」

 

「......」

 

俺は口がきけず、チャンミンを凝視するばかりだった。

 

口の中がカラカラだった。

 

その「好き」には、恋愛感情は混ざっているのか?

 

「...好きって...男としてか?」

 

ずっと聞きたくてたまらなかったことの、ほんの一片を口に出すのが精いっぱいだった。

 

チャンミンは俺の頬から手を放すと、数秒考えこんだのち、

 

「ユノは男じゃないですか、当然ですよ。

でも、好きなのは確かだよ」

 

と言って、肩をすくめた。

 

「よし!

さっさと、ユノんちへ行きましょう!

僕らにはこれからやることがある!」

 

チャンミンは、俺の手首をつかむとずんずんと歩き出した。

 

俺は何を期待していたんだ?

 

でも、完全に否定されなかったことが嬉しかった。

 

これまで俺は、チャンミンのちょっとズレたところに魅力を感じていた。

 

初彼との初夜のために、男友達に「初めて」を奪ってくれと頼むチャンミンのズレっぷりに呆れた。

 

そんなチャンミンのことが、俺はより好きになっていた。

 

「ユノ、うんと優しくやってね」

 

「あ、ああ」

 

それにしても...。

 

参ったな。

 

この展開は、一体なんだよ。

 


 

チャンミンが浴室から出てくるまでの間、俺はカーテンを閉め、シーツを伸ばし、くずかごの中身を空けてと、そわそわしていた。

 

なに緊張してるんだ。

 

こんな展開、慣れているはずだろ?

 

慣れてるけど、男相手は初めてだ。

 

挿れる場所が違うだけで、後は女の子とのセックスと同じはず。

 

それから...男の裸を見てちゃんと勃つかどうか自信がなかった。

 

だめだ、アルコールの力が必要だ。

 

落ち着かない気持ちを鎮めるため、買ってきたばかりのワインを開ける。

 

ふわっと温かい湿気とシャンプーの香りが漂ってきて、俺は振り向いた。

 

「ユノ、お先」

 

「チャンミン...」

 

浴室から出たチャンミンを見て、僕はまた息が詰まる。

 

「服を着てきてどうするんだよ?」

 

「駄目でした?」

 

「駄目じゃないけど」

 

これまでチャンミンは、俺んちでシャワーを浴びていくことも、泊まっていくことも何度もあったから、湯上りのチャンミンを見るのは初めてではない。

 

意識し出すと、どうしてこうもチャンミンが色っぽく見えるんだろう。

 

濡れ髪に上気して赤くなったチャンミンを、俺は上から下まで舐めるように見てしまった。

 

「上は脱ぎましょうか?」

 

「いいよ、着たままで」

 

ボタンを外しかけるチャンミンの手を制した。

 

「俺もシャワー浴びてくるから、待ってて」

 

狭いユニットバスで壁に手足をぶつけながら、手早く服を脱ぎ、勢いよく出したシャワーの下に立った。

 

俺も迷った末、着てきた服をそのまま身に着けて浴室を出た。

 

チャンミンはベッドにもたれて床に座っている。

 

俺はチャンミンに、ぎりぎり触れるか触れないかの距離に腰を下ろす。

 

「......」

 

参ったな...。

 

めちゃくちゃ緊張するじゃないか。

 

いつものペースを思い出せ。

 

俺はチャンミンの耳の下からうなじへと手を差し込んで、彼の顔をこちらに向かせた。

 

いつもは真一文字に引き結ばれている唇が、うっすらと開いていて俺を誘う。

 

「ホントにいいのか?」

 

コクリとチャンミンが頷いたのを合図に、俺は頬を傾けてチャンミンの唇にそっとキスした。

 

男とキスをするの初めてだった。

 

チャンミンの唇は柔らかく、温かく、押し当てた後、やわく食んだ。

 

喉の奥から、「あぁ...」と漏らしたチャンミンの吐息が甘くて、ぐっと股間の高まりを意識した。

 

ヤバい...。

 

まだ、キスの段階で...。

 

チャンミンはじっとしている。

 

チャンミンも緊張しているんだろうか。

 

唇を合わせながら薄目を開けると、チャンミンの閉じたまぶたとまつ毛が間近で見えた。

 

俺の心臓はもう、爆発しそうだった。

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”26″ ]

[maxbutton id=”23″ ]