(12)僕の失恋日記

 

20歳になったばかりの僕。

「好きだから付き合おうか」の合図無しで、いわゆる深い仲になった。

僕らは友人同士だった。

それぞれが、失恋中だった。

映画やドラマで見る、寂しさを紛らわすための、慰め合いの行為。

僕らの行為も、この類のものだったんだろうか?

いよいよ、この疑問に取り掛かることにしたようだ。

1度や2度なら、成り行きと勢い任せのもので、深い意味はなかったと、ぎりぎり忘れることができた。

さすがに、4度、5度となると、明確な理由が欲しくなる。

 

「なぜ、僕らは抱き合ってしまうのか?」

 

最初のうちは、戸惑っていたんじゃないかなぁ。

僕もユノも軟派じゃない。

関係性に名前をきちっと付けたいタイプだと思う。

僕らは『いい子』過ぎて、身体だけの関係だと割り切ることができなかった。

ユノの場合は特に、未だ彼氏と別れていないうちに、僕と寝てしまったんだ。

それなのに、罪悪感を抱いてもおかしくないのに、ユノの表情からその片鱗を見つけることができなかった。

罪悪感どころか、僕との行為をとても楽しんでいる様子で、僕は嬉しかった。

CCのことで落としどころを見つけようと、さんざん使ってきた頭を、ユノのことに使う時がきたようだね。

 


 

ー15年前の4月某日ー

 

僕の失恋はリアル恋愛のそれと同じくらい、真剣で辛いものだと見なしていた。

僕はCCが好きで好きでたまらなかった。

でも、この好きは常に一方通行のものだ。

告白する機会は現れないし、僕がCCをもっと好きになろうと冷めようと、彼には影響を与えない。

リアクションを得られないということはつまり、CCの反応をドキドキ窺う必要がないのだ。

 

このことに気づけたのは、もちろん...ユノのおかげだ。

 

『僕らの関係って...何だろう?

どうして抱き合っているんだろう?』

 

ユノの気持ちを知りたい。

その前に、僕の思いも紐解いておかないと。

僕の言葉にユノはどんな反応を見せるのかな。

僕の言動と表情は、ユノに影響を与えるし、その逆も同様。

ここがCCへの恋愛とは大きく異なる点だ。

 


 

ー15年前の4月某日ー

 

生温かい夜。

雲で半分隠れた月。

ベランダの床にあぐらをかいて、二人でビールを飲んだ。

 

350ml缶ビール

計5本(うち僕3本)

おつまみ

ポテトチップス

キュウリ丸かじり

 

 

【ユノとの会話】

 

僕「彼氏はどんな人だった?」

 

ユノ「見た目は熊で、性格はリス」

 

僕「彼のどこが好きだった?」

ユノ「悲しいかな、過去形。

そうだなぁ...好きだったところかぁ。

...どこかなぁ。

う~ん...全体。

全体、かな」

 

僕「全部好き、ってこと?」

 

ユノ「それとはちょっと違うなぁ。

どこが好きとは言えないけど、

嫌いになる理由がない、と言った方が近いかなぁ」

 

僕「へえぇ」

 

ユノ「チャンミンはCCのどこが好きなんだ?」

 

僕「...顔」

 

ユノ「はははっ!

正直でいいねぇ」

 

僕「だって...判断材料がそこしかないんだ。

会ったことがないんだ、性格や気質なんて分かんないよ。

薄っぺらいかな?

歌声も好きだけど、演技は下手だと思う」

 

ユノ大笑い。

 

ユノ「好きな理由が、顔であってもいいんじゃないの?

その『好き』が上っ面なものだなんて、俺は思わないよ」

 

僕「ユノって、考えをしっかり持ってるね」

 

ユノ「それは自分のことじゃないから、冷静に俯瞰して見られるだけの話だ。

...で、俺が思うには、惚れた理由がルックスだった場合、そのルックスの劣化が、その恋の終わりを早めるかもしれないね。

誰でも老化には逆らえないだろ?

シワやたるみ、シミ、白髪、禿げに萌えられるのなら話は別だけど。

好きなポイントがルックスだけだと、関係の持続は難しいなぁ。

そいつの人柄や、そいつと作った思い出で補強していかないと、長らく好きでい続けるのは難しいなあ」

 

僕「でもさ、僕も一緒に年を取っていくんだから、見た目の許容範囲もスライドしていくんじゃないかな?」

 

ユノ「そっか!」

 

僕「ユノが今言ったみたいに、人柄や思い出で補強していかないと、好きでい続けるのは難しいかもね。

...CCとの思い出を思い浮かべるとね、登場人物は片方だけなの。

ステージの上でキラッキラなCCの姿か、うわぁ~ってCCに見惚れている僕の感情のどちらか一方。

僕とCCが並んで立つシーンは一切ないんだ」

 

ユノ「そっかぁ...。

CC相手じゃ、人柄を知っていくとか、心と心の通わせ合いは難しいよなぁ。

向こうからのリターンが無い以上、チャンミンの恋は完全自家発電だね。

どこまで恋し続けるかどうかは、チャンミンの判断次第だ。

CCが好きだ~っていうエネルギーを、せっせと発電してるの。

チャンミンが主導権を握ってるんだ。

CCはチャンミンをフルことは出来ない...ざまあみろだ。

だってさ、チャンミンの隣に立つことができないんだぞ?

この辺が生身の人間相手の恋愛とは違うなぁ。

あ!

チャンミンの恋を軽く見てるわけじゃないからな。

そこは誤解するなよ?」

 

僕「分かってる。

ユノ...ありがとう」

 

ユノは僕が楽になれるよう、少しでも気のきいた言葉をかけてやろうと、僕に協力してくれる。

 

今夜はやらずに帰宅する。

ユノも僕もそのことにホッとしていたと思う。

 

 

(※あいまいなものをあいまいなままにしておけるほど、15年前の僕らは大人じゃない。

そろそろ、はっきりさせようとするのでは?)

 

(11)僕の失恋日記

 

ー15年前の4月某日ー

 

腹筋:50回

腕立て伏せ:50回

スクワット:30回

(※ユノに裸を見せたことで途端に、自分のたるんだ身体が気になったのだろう)

 

コインランドリーに行く。

冬物の毛布を洗う。

大学生協へ、教科書の注文。

 

 

今日はユノが恋人と会う日だ。

その結果をわざわざ僕に報告はしないだろう。

ユノは多分、そういう奴だ。

僕から電話をかける。

「どうだった?」と訊いたら、「終わったよ」と返答。

電話を切ろうとするユノに、「これから会えないか?」と尋ねた。

「今日はそんな気分じゃないや。

ありがとう、ごめんな」

そりゃそうだよなぁと思ったけれど、少しだけ傷ついていた。

ユノに断られ、ユノの失恋モードに僕は参加させてもらえないのかと、残念に思った。

傷ついているのはユノなのに、そう思う自分が嫌になった。

ユノの様子を見に、出かけることに決めた。

地元で買った手土産(名物の漬物)を持っていく。

玄関ドアを閉めかけた時、電話が鳴る。

予感がした通り、ユノからだった。

「やっぱり、会いたい」だって。

「独りでいると、いらないことばかり考えてしまうから」、だって。

先日のファミレスで待ち合わせ。

 

 

僕がCCの結婚を知って、特にどん底に落ちていた10日間を思い出してみた。

その頃のページを繰ってみたけれど、大した記述はなかった。

話しかけられても反応のない僕に構わず、毎日僕の部屋に顔を出してくれた。

チャイムを鳴らしても応答しない日は、玄関ドアのノブに食べ物の入った買い物袋がひっかけていった。

見苦しい身なりを見かねて、床屋へ連れて行かれた時もあったなぁ。

苦しい感情の扱いに困っていて、ユノの親切に気を配る余裕はなかったようだ。

ちゃんとお礼は言ったんだっけ?

今度は僕がお返しする番だ。

 

 

ユノ、ぎこちない笑顔。

泣いていなかった。

(もし僕だったら、恋人と別れた直後は泣いているだろう。

僕は誰かと付き合ったことがないから、そう想像してみただけ)

「話の前に、まずは腹ごしらえだ」

ユノはメニュー表を広げて、「何にしようかなぁ?」とつぶやきながら、注文するものを選んでいた。

僕「僕がおごるから何でも選んで」

ユノ「なんで?」

僕「え~っと、ユノは傷心中だから。

陣中見舞いだよ」

ユノ「お見舞いだろ?」

僕「そうそう。

美味しいもの食べて、身体だけは健康でいようよ」

ユノ「チャンミンはぼろっぼろだったからなぁ。

あの時は酷かった」

僕「ユノに助けてもらったね。

今さらで遅いんだけど、今までありがとう。

ユノのおかげでここまで来られた」

どさくさに紛れて、話の流れを利用して、ユノにお礼を言った。

ユノ「そうだそうだ。

俺のおかげだ。

俺はチャンミンの命の恩人だ。

今日からはチャンミンが俺の面倒をみるんだぞ」

と、いばった風に言ったかと思うと、テーブルに顔を伏せてしまった。

僕は手を伸ばして、ユノの頭を撫ぜた。

ウエイトレスさんが料理を運んでくるまで、ユノは大人しくじっとしていた。

 

 

【注文したもの】

・僕

煮込みハンバーグセット

ビール

・ユノ

エビのトマトクリームパスタ

レモンサワー

・シェア

ベーコンとほうれん草

フライドポテト

ツナとコーンピザMサイズ

キャラメルハニーホットケーキ

時間をかけて、お腹いっぱいになるまで食べた。

 

 

食事の後、その場で解散するのも寂しくて、ユノの部屋まで彼を送っていった。

ここで数秒、僕らの間で迷いの空気が漂った。

僕はこのまま帰るべきか。

 

 

結局、ユノの部屋に寄った。

僕もユノも、何やってんだろう?

だって、やらずにはいられないんだ。

 

 

帰宅してからこれを書いている。

ユノの部屋に泊まるのは遠慮した。

気持を整理したかった。

会話の内容を忘れないように、真っ先にノートを開いた。

PCは購入した日に、セットアップで電源を入れたっきりだ。

小説家になろうと意気込んでいたくせに、肝心なストーリーが下りてこない。

僕はユノのことをどう思っているんだろう。

いい加減、真正面から考えてみないと。

ユノの気持ちを探る前に、僕がはっきりしないと。

そうしないことには、他所様の恋愛ストーリーなんて思いつきっこない。

 

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(10)僕の失恋日記

 

15年前も今も、僕はユノとの会話がとても好きだ。

 

疲れている時や苛ついている時、興味がない時は、適当に聞き流したり、話を遮ってしまうけどね。

 

ユノが言いそうなことは大体予想がつくくらい、彼の隣で日々を送ってきた。

 

どんな返答がくるのかわかっているけれど、僕はユノの言葉が好きなのだ。

 

たまに突拍子もないことを言いだすから、そこも面白い。

 

小説家を目指すと宣言して以来、日記帳に綴られた文章に変化があらわれてきた。

 

ボイスレコーダーを仕込んでいたのでは?と疑ってしまうほど、詳細が記録されている。

 

脚色はしているだろうけど、話題の本質的なものの再現率は高いと思う。

 

だって、今の僕もそうやって日記を書いているのだから。

 

 

「好きが先か、寝たのが先か、どちらだったっけ?」と、あいまいだった記憶がよみがえってきた。

 

僕という人間は、堅物で真面目で、手順にこだわるタイプだと思っていた。

 

アレするのならその前に、気持を確かめ合いたい、って。

 

その順序が逆になってしまったけれど、あの場の雰囲気と湧いてきた欲求に逆らわずにいただけのこと。

 

僕とユノ、同時に同じことを望んでいたこと...これが重要ポイントなんだ。

 

若者らしいなぁと、15年前を振り返っている。

 


 

 

ー15年前の3月某日ー

 

【ユノの部屋に泊まった翌朝】

午前10時まで布団の中で過ごす。

お尻が痛い。

裸でいることが恥ずかしくなって、ユノと顔を見合わせて照れ笑いした。

「君には彼氏がいるだろう?

それなのに、どうして僕と?」

とは、絶対に訊かない。

ユノも昨夜のことに触れない。

代わりばんこに入浴する。

 

 

どうしてユノとしたかったのか、その理由を考えるのは今じゃないと思う。

深く追求したところで、ネガティブな理由しか思いつかないからだ。

 

(※失恋心を引きずる僕を励ますために?

恋人とうまくいっていないユノを慰めるために?

20歳そこそこの青年が、成り行き上で寝てしまったことに、意味深がる必要はない。

『やりたかったから』

それで十分じゃないか?

...そう言えるのも、過去のことだからだろうね)

 

 

ユノとバイトに行く途中、ファストフード店で昼食を摂る。

 

【ユノの話】

前夜の電話の相手は恋人だった。

ユノからかけた電話だった。

週末に恋人と会う約束をした。

関係を終わらせると、心に決めた。

「よかったね」と言うのは無神経だから、「そうなんだ」としか言えない。

好きな奴との別れは辛いけれど、怯える関係をおしまいにできるんだから、ユノの為になる。

前に進まないと。

 

 

20:00

バイト終了

ユノと同じ部屋に帰る、変な感じだ。

僕らは前夜のことにはお互い一切触れておらず、何事もなかった顔をしている。

僕もユノも困っている。

 

 

ファミレスで夕飯。

 

 

ユノと2回した。

火がついてしまって止められなかった。

とても気持ちがよかった。

ユノも満足そうだった。

終ったあと、顔を見合せて大笑いした。

ユノは僕に「ありがとう」と言った。

僕も「ありがとう」と言った。

何に対しての「ありがとう」なのか分からなかったけど、ユノにお礼が言いたくて、次いで出てしまった「ありがとう」なのだ。

 

 

【今朝のこと】

目覚めたら、隣にユノがいた。

ユノはまだ眠っている。

いつもなら目を覚まして、頭がクリアになってゆくうちに、胸に靄がかかってくる。

心の中でつぶやく。

「そっかぁ、CCは結婚したんだった」

ふと手を休めた時も、同じ台詞をつぶやいている。

僕の日常に、CCへの嘆き心が組み込まれている。

オートマティックに頭にCCが浮かんでくる。

悲しい辛い感情も、オートマティックだ。

癖になっているんだ。

 

 

今朝は違っていた。

ユノの寝顔を見ていた時に、「あれ?」と思った。

「CCが結婚してしまった、悲しいよ」の感情が湧いてこなかった。

よかった、やっとでCCを忘れられたと喜ぶのはまだ早い。

ユノと肌と肌とをくっつけあっているからだ。

生身の人間ほど凄いものはない。

ユノって...生きているんだなぁ、と当たり前なことに感動していた。

リアルって凄い、って。

CCとは、霞(かすみ)なのだ。

 

 

眠っているのをいいことに、ユノの顔をじっくり観察した。

眉毛・・・弓型のきれいな形。

眼・・・濃いまつ毛

(ユノは一重まぶた?奥二重?)

鼻・・・鼻筋がすっと通っている。

唇・・・小さい。ふっくらとしている。

ユノはとても綺麗な寝顔をしている。

すぐ側にいる者に勝るものはない。

近づけば、見たくないものまで見えてしまうとユノは言っていたけれど、今のところ、ユノからはそういったものは見当たらない。

もっと長い間、一緒にいれば、見えてくるのだろうか。

もしかしたら、誰かと深いかかわり合いを持ったのは、ユノが初めてかもしれない。

(※僕はユノ以外の男と、付き合った経験がない)

初めて関係を持った先輩の顔が思い出せない。

 

駅でユノと別れる。

 

以上が、ユノと過ごした2日間だ。

最後まで書くことができて、ほっとしている。

 

 

明日から3日間、帰省する。

 

 

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(9)僕の失恋日記

 

リアルの世界とは、当然だけど生々しい。

 

温かみや湿り気、弾力。

 

それを素肌で感じて、密着できる間柄に悦びを覚える。

 

 

CCを見つめ続けていられたのは、彼から生々しさが感じられなかったからだ。

 

だから、CCとの思い出には生々しさがない。

 

CCと築いた思い出に浸るものというより、CCを見上げ、追い求め続けた僕自身の感情の記憶に浸っている。

 

最初、あのニュースを知った時、CCと結婚が結びつかなくて混乱した。

 

結びつけるには、ひどい苦痛を伴った。

 

僕を襲った悲しい気持ちを、丁寧に解きほぐしていくと、沢山の種類の悲しいが詰まっていた。

 

その中のひとつに、失望感があった。

 

結婚したいと望むなんて...CCもただの人間だったか。

 

人間臭さは欲しくなかった。

 

ここでもやはり、ユノの言葉が僕の頭にリフレインする。

 

「ウンコしてるCCを見たいのか?」

 

ユノのたとえ話はいつも的を得ているけど、色気がない。

 


 

ー15年前の3月某日ー

 

僕はユノと寝た。

どうしてこうなってしまったのか、うまく説明ができない。

とても自然な行為だった。

 

 

僕らのキスはすぐに熱を帯び、とても自然な流れでベッドに横たわった。

身体のあちこちを触る前に、ズボンを脱いでいた。

「ちょっと待って」と言って、僕から離れると、必要なものを持って戻ってきた。

「ああ、そっか、そうだよね。

ユノには恋人がいるんだもの、持ってて当然だよね」と、納得していた。

 

「チャンミンは?

...あるのか?」

 

ユノは僕に、『経験はあるのか?』と尋ねているのだ。

 

「ある」と答えると、ユノは「それなら、よかった」と言った。

(※相手はバイト先の3歳年上の人だった。

なんとなく好意が持てた人で、男同士の行為を経験してみたかった好奇心が大きかった。ユノと出逢う以前の話だ)

 

片方は未経験で、アレするのに挿れられなかったり、手間取ったり、加減したり...が邪魔だったんだ。

僕らは、思いっきりヤリたかったんだ。

とても自然な流れで、僕は受け入れる側となった。

経験があると言っても、慣れた身体じゃなかったし、久しぶりのことで手こずるかな、と心配は不要だった。

ユノがうまかったこともある。

ひとりでする時に、前よりも後ろを使っていたおかげもある。

一度目は下を出しただけの、服を着たままだった。

こんな風にユノは、恋人とヤッてるんだろうなぁ、と寂しい気持ちになったのは確かだ。

不思議なことに、恋人を思って僕とヤっているんだ、と卑屈な気持ちには一切ならなかった。

ユノは、相手が僕だったからヤッてるんだ。

僕もユノと今すぐ、ヤリたかった。

どちらの唾液か分からなくなり、つかまれた腰にユノの爪が食い込んでいた。

リアルな肉体を持ってぶつかってくる感触に、僕は溺れそうになった。

「なんだこれは?」と思った。

 

 

手の届かない世界にいる人物に...果たして、リアルに存在するのか?...恋をし、失恋した。

僕が恋をし、追っていたのは、あくまでもイメージだったんだと、実感した。

責任を持たなくて済む恋だ。

僕が好きになろうと嫌いになろうと、CCには一向に影響はない。

とても自由で、気楽な恋だったんだ、実のところ。

 

 

30分程の休憩ののち、僕らは再び抱き合った。

2度目は服を脱いでヤッた。

3度目は2度目より、時間をかけてヤッた。

イク瞬間、ユノは「チャンミン」と僕の名前を呼んだ。

 

 

夜明けの時間で、白く曇った窓ガラスの外が明るくなりかけていた。

部屋の中なのに、息が白かった。

僕らはユノの小さなベッドで、身体をくっつけあっていた。

ユノの手は僕の背中やお尻をくすぐっていた。

部屋の隅にある、ファンヒーターのスイッチをどちらが入れにいくか、布団の中でじゃれていた。

床には二人分の洋服と、ゴムの空き袋が散らかっていた。

ユノには恋人がいるんだよなぁと、ユノと寝たことでややこしいことになってしまったなぁと思った。

ユノの存在が五感をともなって、グッと接近してきたことで、CCへの失恋どころじゃなくなった。

甘っちょろいこと言っていられるか、って。

以上が、1泊目の話だ。

 

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(8)僕の失恋日記

 

ー15年前の3月某日ー

 

ユノの部屋から帰ってきて、今これを書いている。

頭の中がぐちゃぐちゃだから、ひとつひとつ振り返りながら整理していこう。

 

【気持ちを落ち着かせるために】

・深呼吸を3回する。

・お風呂に入る。

・ハーブティーを淹れて飲む。

(妹が置いていった)

 

 

【一昨日に遡る】

ユノの部屋、想像に反してすっきりと片付いていた。

避難する予定だったCCグッズは無し。

(箱ひとつに収まる量まで、思い切って捨てたおかげだ。

ゴミ袋に詰まったそれらは、ゴミ収集日までベランダに置いておく)

 

 

早速、酒盛りを開始。

レンタルしてきたDVDを観ながら、飲み食いする。

(映画『ラブアクチュアリー』

登場人物19人の恋愛が同時に展開していくもの。

ぱあっと気持ちが明るくなるような、くすっと笑えるような、そんな映画を観たかった)

(※僕は恋バナがとても好き)

笑っているのに目が笑っていないユノが気になった。

 

 

以前、「元気がないね、どうしたの?」の質問はかわされ、その後も気になってはいたけれど、追求しなかった。

失恋心を引きずる僕のために、ユノは自身の考えや指摘をストレートにぶつけてくれ、僕はそれを素直に受け取っていた。

僕らは打ち解け合った関係に見えるけど、ここで僕は気づいたのだ。

僕らの距離が近づいたきっかけはCCの結婚で、僕らの話題は自然と僕の失恋ネタになってしまう。

失恋相手がCCだと、ユノに打ち明けた以降、口を開けばCCのことばかりだった。

ユノは僕の話にじっと、耳を傾けてくれた。

僕はユノのことをよく知らない。

ここ数カ月の僕は、「CCの結婚」に支配されていて、身近にいてくれたユノを知ろうとしなかったんだ。

ユノは優しい。

率直な物言いをする彼だけど、ちゃんと相手を見ている。

ユノの恋人は幸せ者だと思う。

 

 

【ユノから聞いた話】

ユノは恋人とうまくいっていないのだとか。

僕がどん底にいた11月頃から、ぎくしゃくとしていたのだとか。

恋人から「別れたい」と告げられ、ユノは「別れたくない」と譲らなかったのだとか。

食い下がった結果、恋人は別れ話を撤回してくれたのだとか。

それ以降ユノは、「いい彼氏」になろうと、恋人に心を尽くした。

高価なクリスマスプレゼントを贈ったのも、そのためだ。

僕は全然、知らなかった。

教えてもらわなかったのではなく、僕が質問しなかっただけ。

 

 

僕「僕を部屋にあげたりなんかしていいの?

ヤキモチを妬かないかな?

そっか!

ヤキモチ妬いて、ユノを獲られるものか、って焦ったりしてね」

 

ユノ「彼にヤキモチを妬かせるために、チャンミンを利用してるってことか」

この時のユノの言葉で、恋人が男だとはっきりした。

 

僕「ユノには助けられてばかりだから、次は僕の番だよ。

僕のことをいくらでも使ってくれていいから」

 

 

いつ別れ話を蒸し返されるか、ユノは恐れを抱いている。

 

ユノ「怯えるようになったら、その恋愛は終わりだと言ったことがあったよね?」

 

僕の場合も似たようなものだ。

CCの結婚相手や結婚生活についての情報が耳に入ることを恐れている。

それを知った時の苦しみも想像できるし、何よりも、CCから離れる理由の決定打になってしまいそうで怖かった。

 

ユノ「あれは、俺自身について言っていたようなものなんだ」

 

ユノのためになるのはどちらなんだろう。

応援してあげるべきなのか、

ビクビク怯えて、恋人が何を言い出すのか、顔色を窺うような恋は、あまりいいものだと思えない。

 

ユノ「いい加減疲れてきた。

でも、別れたくないんだよなあ」

 

ユノだったらどうしてたかな?と思い返してみた。

失意にくれる僕に、ユノは第3者の視点で考えを述べてくれたり、指摘をしてくれた。

そこには押しつけがましさはなく、判断はあくまで僕にゆだねられていた。

僕はどうしてあげたいんだろう。

 

 

【23:00頃】

映画を2本観終わり、お風呂を借りた。

入浴を終え部屋に戻ってきた時、ユノは受話器を電話に下ろしたところだった。

ユノはあやふやな表情をしていた。

あまりいい内容の通話じゃなかったようだ。

思わず...とても自然な動きで、僕はユノを抱き締めていた。

ユノも僕に抱きついてきた。

至近距離にユノの顔があった。

思わず...とても自然な流れで、ユノにキスをしていた。

そうせずにはいられなかったんだ。

 

 

一気に書いて疲れたから、続きは仮眠を取った後にする。

ユノとの関係に大きな変化が訪れた大事な日だ。

ささいなことでも、とりこぼしたくない。

 


 

(※僕らが初めて寝たのは、僕の部屋だったとずっと思いこんでいた。

実際はユノの部屋だったのか...)

 

 

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