(4)Hug

 

 

 

「うっうっうっ...」

 

「...もしかして...泣いてる?」

 

胸にしがみついたユノの頭を引きはがして、チャンミンはユノの顔を覗き見る。

 

「チャンミ~ン」

 

薄闇の中で、涙を浮かべたユノの目が光っていた。

 

「たんこぶ、できたでしょ?」

 

チャンミンは、ユノの前髪をかきあげてやる。

 

ユノは昨日、鴨居に一度、床に一度、頭をしたたか打ち付けている。

 

「2個もたんこぶをこしらえてしまった」

 

「可哀そうに...」

 

チャンミンは、腫れた箇所に触れないよう、ユノの頭をなぜてやった。

 

「チャンミン...キスしたい」

 

チャンミンの手が止まる。

 

「......」

 

すがるようなまなざしで胸元から見上げるユノに、チャンミンの胸がキュンとなる。

 

(参ったなぁ。

そんな可愛い顔をしないでよ)

 

「軽くね、1回だけだよ」

 

「えー。

ディープがいい」

 

「ちょっ!」

 

もぞもぞと下から這い上がってきたユノは、チャンミンの頬を捉えると一気に唇を重ねてきた。

 

男っぽい強引さに、チャンミンはくらくらする。

 

チャンミンもユノの両ほほをはさんで、キスに応える。

 

(止められない!)

 

と、ユノの手がチャンミンの股間に回った。

 

「ユノ!?」

 

驚いたチャンミンは、ユノの頭をはたいた。

 

「いでっ!」

 

チャンミンの打ち下ろした手が、ユノのたんこぶに当たってしまったのだ。

 

「こらぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ガタっとふすまが開いた。

 

「!!!」

「!!!」

 

とっさにチャンミンは布団にもぐりこむ。

 

「練習は、昼間にやれって言っただろうが!」

 

ユノは、今しがた起きたといった風を装って、目をこすりながら

 

「う...うん...おじいさん...ですか?

俺は寝言がすごいんです」

 

と言って、大あくびをする。

 

「ったく。

騒がしい奴だ」

 

ぶつぶつ言いながら、ゲンタはふすまをぴしゃりと閉めた。

 

ふすまの向こうに耳をそばだてて、ゲンタのいびきを確認する。

 

「それじゃあ、部屋に戻るね」

 

布団から出ようとするチャンミンの足首を、ユノはつかんだ。

 

「ここで寝ていってよ」

 

「駄目ったら駄目!

ユノを刺激しちゃうから、駄目!」

 

ユノの手を足首から引き離すと、チャンミンは部屋を出て行ってしまった。

 

「はぁ...」

 

ユノは、キスの余韻に浸りながら枕を抱きしめ、布団の上を右へ左へと寝返りを打った。

 

(拷問だ!

若くて健康な男にとって、これは拷問だ!)

 

(全く、僕たちったら高校生みたいなことしてるんだから!)

 

チャンミンは暗い廊下を忍び足で歩きながら、高校時代を懐かしく思い出したりしていたのだった。

 

 

 


 

 

翌朝。

 

1つのテーブルを囲むには11人は多すぎるため、昨夜と同様に、居間のテーブルと台所のテーブルと分かれての朝食風景だった。

 

チャンミンの祖父ゲンタ、祖母カツ、父ショウタ、母セイコ、ギプス足の兄リョウタ、兄嫁ヒトミ、甥っ子カンタ、ケンタ、ソウタ。

 

そして、チャンミンとチャンミンの職場の後輩ユノ(実は彼氏)。

 

早く遊びたくて仕方がないケンタとソウタは、ガツガツとご飯をかきこみ、兄嫁ヒトミに叱られている。

 

弟たちとは正反対に、カンタはのんびりと箸を動かしている。

 

朝の情報番組釘付けなのは、父ショウタと兄リョウタ、祖母カツ。

 

母セイコはユノのお代わりをよそっている。

 

「なんだかお祭りみたいですねー」

 

納豆かけご飯を口いっぱいにほお張ったユノは、明るい声で言う。

 

「ふん、祭りは明日だよ」

 

ずずずっとみそ汁をすすりながら、祖父ゲンタはしゃがれ声で言う。

 

「お前さんは、張り切りすぎなんだ。

うるさいったらありゃしない」

 

寝不足気味のゲンタは不機嫌そうだ。

 

「ゲンタさん、ごめんなさい。

俺って寝言やいびきがひどいんです。

ユノとは一緒に寝られないって、チャンミン先輩によく言われるんです。

ねー、先輩?」

 

ユノは隣のチャンミンに同意を求める。

 

「ぶはっ!」

 

コーヒーを飲んでいたチャンミンは、吹き出す。

 

(この子のことだ。

うっかり口を滑らしたふりをして、暴露しそうな予感がする。

って内心ヒヤヒヤしていたら、悪い予感は的中しちゃったじゃないか)

 

「やだなぁ、先輩、汚いですね」

 

ティッシュをとってチャンミンの顔を拭こうとする。

 

「じ、自分でできるから!」

 

チャンミンはユノの手を押しのけると、そばにあった台ふきんで口元を拭いた。

 

「先輩!

それは雑巾ですよ」

 

「ユノ、うるさい」

 

「ゆうべは俺が先輩を寝かさなかったせいですね。

寝不足で頭が回ってないんですね」

 

「なっ!

別々に寝たでしょう?」

 

「結果的には別々でしたけどね。

仕方なく別々でしたけどね」

 

「!」

 

(ユノの馬鹿馬鹿!

意味深なことを言わないでよ!

やっぱり、昨夜のことを根に持ってる)

 

と、チャンミンはテーブル下のユノの脚を蹴る。

 

「痛いです!

会社の『後輩』に暴力をふるったらダメですよ」

 

ユノは『後輩』に力を込めて言うと、クロワッサンをちぎって口に放り込んだ。

 

「うるさいなあ」

 

「先輩!」

 

ユノはチャンミンの脚を蹴った。

 

「痛いなぁ!」

 

チャンミンはムキになってユノを蹴り返す。

 

(チャンミン!)

 

ユノはチャンミンの耳元でささやく。

 

「何?」

 

(じゃれつかないでったら。

『職場の後輩』設定だっただろ?

バレちゃうよ?)

 

「!」

 

チャンミンは周囲がしんとしていることに気づいた。

 

「え...っと...」

 

3人の子供を除いた、大人たちが箸を止めてユノとチャンミンを注目しているのだ。

 

「......」

 

ユノは立ち上がった。

 

「えーっとですね、皆さん」

 

コホンと咳ばらいをした。

 

「ゆうべは、お見苦しいものをお見せしてしまいまして、あのー、

申し訳なかったです」

 

ユノは頭を下げる。

 

「気にすんな!

俺の方が立派だけどな、ハハハっ」

 

「お父さんったら」

 

はやしたショウタの肩を押して、セイコはいさめる。

 

(う...恥ずかしい!

覚えていない分、恥ずかしい!)

 

「おじちゃん!」

「遊ぼ―」

 

食事を終えたケンタとソウタが、ユノの背中に飛びついた。

 

「は~や~く~!」

「おじちゃん、のろま~」

 

「ケンタ!ソウタ!」

 

兄嫁ヒトミの叱責がとぶ。

 

「俺は『おじちゃん』じゃないよ」

 

ユノは小さなモンスターたちに、ぐらぐらと背中を揺さぶられる。

 

「『お兄さん』って呼ばないと、遊ばないよ」

 

「やだ~」

 

ソウタがユノの首にかじりついた。

 

「仕方がないなぁ」

 

「ごちそうさまでした」とユノは席を立ち、ソウタをおんぶし、ケンタの手を引いて部屋を出ていった。

 

真っ赤な顔をしたチャンミンは、下を向いてぼそぼそとトーストをかじっていた。

 

(ユノの馬鹿!馬鹿!)

 

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

(3)Hug

 

 

 

「頭をぶつけるなよ!」

 

ユノは素っ裸のまま、チャンミンの父ショウタ、母セイコ、祖父ゲンタ、兄嫁ヒトミに抱えられていた。

 

長風呂でのぼせて、ぶっ倒れてしまったからだ。

 

おろおろしたチャンミンは、彼らの後をついていく。

 

「えらく大きい奴やな」

 

ユノの両脇を抱えた父ショウタは苦しげだ。

 

「丸太を運んでるみたいやぜ」

 

「チャンミン並みにでかい奴やな」

 

と、ユノの両足首をもった祖父ゲンタ。

 

「今どきの子は、大きいんやって」

 

ユノの生尻を下から抱え込んだセイコが答える。

 

「ピーポーピーポー!」

 

「救急車!」

 

甥っ子ケンタ、ソウタは、大人たちの周囲を面白がって駆けまわっていた。

 

2人の兄カンタは、金打ちの練習で留守にしている。

 

「あんたたちがずっと遊んでいるから、お兄さんはのぼせちゃったのよ!」

 

兄嫁ヒトミは、子供2人を叱りつけた。

 

チャンミンは股間に載せただけのタオルが、落ちやしまいかと冷や冷やしていた。

 

(まさかこんな形で、ユノの裸を見ることになるなんて!)

 

初対面のチャンミンの家族に、醜態をさらしてしまったユノを気の毒に思う。

 

「お、おっ!滑る!」

 

「お父さん!」

 

「あともうちょっと!」

 

「む、無理だ!」

 

ユノの脇が汗でぬるついているせいで、ショウタの指が脇から滑ってしまった。

 

「きゃぁぁっ!」

 

どたーんと音をたてて、ユノを頭から落としてしまった。

 

「わぁ!ユノ!」

 

「す、すまん!」

 

「頭を打ったか!?」

 

「お父さんったら、もう!」

 

憤慨したチャンミンは、ユノの頭を膝に乗せた。

 

「大丈夫?」

 

「ううぅぅ...」

 

うめき声をあげて、ユノが目を開ける。

 

「星が...星が飛んでる...」

 

(よかった)

 

「ここは...天国?」

 

「!!!!」

 

わずかに隠していたタオルが落ちたはずみでずり落ちて、総勢7人の面々にさらされていることにチャンミンは気づく。

 

(大変!)

 

母セイコが素早くタオルで隠す。

 

「おじちゃん、毛がぼーぼー」

 

大喜びのケンタとソウタ。

 

チャンミンは額に手を当て、大きくため息をついた。

 

(ユノったら、可哀そうに)

 

 


 

 

その夜。

 

チャンミンは忍び足で廊下を歩いていた。

 

築50年を超す田舎家だったから、足を踏み出す度きしむ音にヒヤリとし、周囲に耳をそばだてた。

 

(僕が夜這いをかけてどうするんだ!)

 

ユノは仏間に寝かされている。

 

(一番の難所は、おじいちゃんたちの部屋)

 

祖父母の枕元を通らないと、仏間へは行けない。

 

すーっと障子を開ける。

 

チャンミンは息を止めて、抜き足差し足で彼らの布団の脇を通り過ぎる。

 

途中、寝返りを打った祖父にビクリとしたが、熟睡しているようでチャンミンは胸をなでおろした。

 

建付けの悪いふすまを小刻みに開けると、常夜灯だけの薄暗い部屋で、仏壇の前に延べた布団が真正面に見えた。

 

「ふうっ」

 

息を止めていたチャンミンは、ここでようやく息をつくことが出来た。

 

(あれ?

ユノが寝ているはずの掛け布団が、平らなような気が...?)

 

「ユノ?」

 

そろそろと、布団に近づき、掛け布団をめくろうとしたら...。

 

「ひゃっ!」

 

突然、チャンミンの肩にポンっと手が乗った。

 

「くくくく...」

 

ふりむくと、ユノが口を押えて笑いをこらえている。

 

「ちょっと!」

 

チャンミンは、きっとユノを睨みつけた。

 

(心臓が止まるかと思ったじゃないか!)

 

どうやらユノは、チャンミンを驚かそうと、ふすまの陰に隠れていたらしい。

 

(やることなすこと、子供みたいなんだから!)

 

隣室で、「なんだ、今の悲鳴は?」という声とともに、ごそごそと祖父母が起き出す物音がする。

 

「!!!!」

「!!!!」

 

「お父さん、もしかして...?」

 

「泥棒か?」

 

がたがたっとふすまが開いて、祖父ゲンタが部屋に飛び込んできた。

 

「こんばんは...です」

 

ゲンタの目前には、正座をしたユノが。

 

「俺です。

おじいさん、そんな物騒なものは下げて下さいな」

 

「なんだ、ユノ君か...」

 

ゲンタは振り上げた竹刀を下すと、仏間を見回す。

 

ゲンタの背後から、祖母カツが首をのぞかせている。

 

「さっきの声はなんだ?」

 

「すみません。

祭りの掛け声の練習をしていました」

 

「練習?」

 

「はい。

俺の役目は重要なので」

 

「熱心なのは感心するが、真夜中だぞ。

明日一日あるんだ、昼間にやりなさい!」

 

ゲンタは吐き捨てると、竹刀を引きずりながら仏間を出て行った。

 

ユノの布団にもぐり込んだチャンミンは、ユノとゲンタのやりとりをびくびくしながら聞いていた。

 

ゲンタたちが寝入るまでたっぷりと待ってから、ユノは布団をめくる。

 

「チャンミン、大丈夫だよ」

 

できるだけ平らになるよう、チャンミンはうつぶせで大の字になっていた。

 

「危なかったねー」

 

すると、ユノが布団の中に滑り込んできた。

 

「ユノ!」

 

「チャンミ~ン」

 

ユノの腕が伸びて、チャンミンの腰に巻きついた。

 

「ずっとこうしたかった...」

 

チャンミンは、自分の胸に頬をこすりつけるユノの頭をなでる。

 

「...チャンミン」

 

「なあに?」

 

「我慢できなかったんだね?

だから、夜這いに来ちゃったんだね?」

 

「違うよ!

ユノが心配だったから、様子を見に来ただけ。

ほら、頭を2回も打ったでしょ?」

 

「嘘だね」

 

「嘘じゃないよ!」

 

「チャンミンの胸...ドキドキしてる」

 

「!」

 

(だって、だって。

ユノの脚が僕の脚にからまっているんだもの。

こんなに密着するのは初めてだし...)

 

チャンミンの身体はぐんぐん火照ってくる。

 

「興奮してるんだ?」

 

「ユノの馬鹿!」

 

チャンミンはユノの脚を蹴飛ばした。

「痛いなぁ!」

 

「この脚をどかせ!」

 

「嫌だ。

ぎゅー!」

 

ユノは、チャンミンの背中にまわした腕に力を込めた。

 

「痛い痛い!」

 

(チャンミン...辛い...)

 

チャンミンの固く逞しい身体を抱いているうちに湧いた、抜き差しならぬ欲求とユノは闘っていたのであった。

 

 

 

 

ヤバい!

 

チャンミン、ヤバい!

 

俺のが暴発しそうだ!

 

止められないよ!

 

でも、止めなくては!

 

せっかくのチャンスなのに!

 

ここが仏壇のある部屋じゃなければ、とっくにチャンミンを襲っているのに!

 

場所が悪すぎる!

 

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

(4)1/2のハグ

 

 

 

「チャンミン...腹減った」

 

1組だけ敷いたままにしてもらった布団の中から、ユノがつぶやく。

 

「もう?」

 

読んでいた文庫本から顔を上げて、チャンミンは呆れた声を出す。

 

古民家を改築したこの旅館の名物のひとつが、お粥朝食だった。

 

「またお粥かよ...」と、山菜も一緒に炊きこんだお粥を前に、ユノはがっくりと肩を落としていた。

 

「ここを選んだのはユノでしょ?」

 

「そうだけどさ...」

 

「菓子パンがあるよ」

 

「ちょうだい!」

 

文庫本を閉じるとチャンミンは、バッグからコンビニの袋ごとユノに手渡した。

 

「チャンミンのバッグには、俺のために何でも入ってる」

 

「手がかかる恋人がいるからね」

 

「そうだよー。

俺はチャンミンの『恋人』

いいなあ。

『恋人』っていい響きだなあ」

 

クリームパンにかぶりつくユノを、チャンミンは愛おしげに見つめる。

 

そして、広縁の籐椅子に座らせた巨大なぬいぐるみに視線を移した。

 

「ねぇ、ユノ」

 

「うーん?」

 

「この子、シロクマじゃないよ」

 

「えぇぇ!?」

 

布団から飛び出してきたユノに、チャンミンはぬいぐるみの足裏に縫い付けてあるタグを見せる。

 

「犬だよ、紀州犬だって」

 

「どう見ても、シロクマじゃないか!」

 

「でも、耳がとがってるし、尻尾もくるんってしてるよ」

 

「そんなぁ...」

 

ぺたりと座り込んでしまったユノを見て、チャンミンはクスクス笑う。

 

「どうしてまた、ぬいぐるみなの?」

 

「TV番組で、芸能人がでっかいぬいぐるみを部屋に置いててさ。

確か、クマだったよね。

『僕も部屋に飾りたい』って、チャンミン言ってたよね?」

 

「そういえば、そんなこと言ってたかも」

 

「だろ?

運ぶの大変だったんだよ。

一番大きいスーツケースでも、ぎゅうぎゅうに押し込まないと入らなくて。

まるで死体を運ぶ犯罪者の気分だったよ」

 

「あははは」

 

 


 

 

チャンミンがバスターミナルで買ってきた、牛しぐれ煮弁当の昼食を終えた。

 

チャンミンは文庫本を読みふけり、ユノは部屋付きの浴室でシャワーを浴びて、さっぱりとさせた。

 

「チャンミン、のど飴ちょうだい」

 

「はい、どうぞ」

 

「チャンミン、ここに座って」

 

ユノは広縁の椅子に腰かけた自身の膝を、ぽんぽんと叩いた。

 

「ユノの上に?

僕が?」

 

「うん、俺の上に座って」

 

迷うチャンミンに、ユノはもう一度膝を叩いた。

 

「重いよ?」

 

「平気。

チャンミンは多分、俺より軽いはず」

 

「...わかった」

 

男の膝の上に座る男...なんともいかがわしい光景だ、と思いながら、チャンミンはそろりとユノの腿に腰を下ろした。

 

「うーん、やっぱり変だね。

じゃあ、ここに座って」

 

ユノは椅子に深く腰掛け、広げた太ももの間にチャンミンの腰が収まった。

 

ユノはチャンミンの胸に腕を回した。

 

「チャンミン」

 

「ん?」

 

「今日は何の日かわかる?」

 

ユノの唐突な質問を受けて、チャンミンは考え込む。

 

(ユノの誕生日はつい先日だったし、僕の誕生日は数日後。

ユノと付き合いだして未だ半年も経たないから、何かの記念日でもない)

 

「さあ...分かんない」

 

「だろうね」

 

ユノは、「ふふん」と笑った。

 

「今日は、2分の1誕生日なんだ」

 

「2分の1?」

 

「俺の誕生日とチャンミンの誕生日の間の、2分の1」

 

チャンミンは指を折って計算する。

 

「ホントだ!」

 

ユノはチャンミンの肩に自分のあごをのせた。

 

「俺の誕生日のときは、チャンミンは盛大にお祝いしてくれただろ?

チャンミンの誕生日はもちろん、俺がめいっぱいお祝いしてあげる。

俺たちは未だ付き合ってそんなに日が経っていないだろ?

...それで、記念日をいっぱい増やしたくて...思いついてみたんだ」

 

ユノは頬をチャンミンにぴたりとくっつける。

 

ユノがほお張ったのど飴のミントの香りがする。

 

「この日めがけて日程を合わせたの?」

 

「チャンミン、思い出して。

俺たちの予定を合わせるのだけでも、大変だったじゃないか」

 

「そうだったね」

 

「旅行の日にちがいつだろうと、何でもいいんだ。

この旅行そのものが、俺にとって大事な記念日なんだよ」

 

「...ユノ」

 

「たまたま今日が、2分の1だったからこじつけてみただけ。

 

俺はね、チャンミンと旅行に行けて、ほんっとーに嬉しかったんだ」

 

チャンミンの胸に、じわじわと熱いものが湧き上がってきた。

 

「誕生日プレゼントとは違うものを、贈りたかった。

アクセサリーとか、洋服とか...。

何がいいだろうって、たくさん考えた。

でも、チャンミンは大人だから、これまでいろいろなものを贈られてきていると思うんだ。

チャンミンが今までプレゼントされたことのないものを、俺は贈りたかった。

だからこその『ぬいぐるみ作戦』だったわけ」

 

 

 

 

(まったく、この子ったら。

 

この子ときたら。

 

涙が出そう。

 

心根の優しい年下の彼氏。

 

僕の可愛い可愛い恋人だ)

 

 

 

 

「ねぇ、ユノ」

 

「んー?」

 

チャンミンは、ユノの手の甲の骨をひとつひとつなぞる。

 

微熱のあるユノの手は熱かった。

 

「今日は僕らの2分の1誕生日なんでしょ?

ってことは、

2分の1誕生日記念日になるね」

 

「そっか!」

 

チャンミンの髪のいい香りや、髭剃り後の頬を感じて、ユノは勢いづいた。

 

ユノは、自分の方を振り向かせようとチャンミンの顎に手を添える。

 

「だ~め」

 

間近まで寄せた唇がチャンミンの手で阻まれた。

 

「えぇ...」

 

「風邪が伝染るからダメ!」

 

「のど飴で殺菌したから大丈夫!」

 

「のど飴は、そのつもりだったんだ?」

 

「ふふん」

 

「ユノの風邪が治ってからね」

 

「俺は、健康な若い男なんだよ?

もう我慢できない!」

 

「『不』健康でしょ」

 

「うるさいなあ」

 

ユノは強引に、けれども優しくチャンミンの唇を塞いだ。

 

チャンミンもユノの熱い頬に手を添える。

 

「チャンミンが熱を出したら、俺が看病してあげるよ」

 

唇をようやく離したユノはそう言って、片目を細めてニヤリと笑った。

 

「めちゃくちゃワガママな病人になってやる」

 

「チャンミンって、そんな感じ」

 

「さっさと寝てなさい!」

 

「もう一回、キスしたいなあ」

 

「ダメ!」

 

「ちぇっ」

 

 

 

 

見るはずだった。

観光客が少ない早朝を狙って、ひたひたと静かな水面に鏡面反射した山を。

 

手を浸すはずだった。

川底の丸石も、泳ぐアユもくっきりと見えるほど透明な冷たい水に。

 

頬に受けるはずだった。

つり橋を吹き抜けるきりりと冷たい北風を。

 

俺のせいで、チャンミンに体感してもらえなかったあれこれ。

 

困った顔をしながらも、甲斐甲斐しく俺の我がままに付き合ってくれて、くすぐったい気持ちになった。

 

チャンミンのことが、ますます好きになった。

 

シロクマを見た時の、チャンミンの真ん丸の目ときたら。

 

可愛かった。

 

俺の可愛い可愛い、年上の彼氏。

 

実は、観光に行くよりこうやって、チャンミンと2人きりで室内にこもる方が嬉しい。

 

次は、俺の部屋に遊びに来るんだぞ。

 

わかった、チャンミン?

 

 

 

(『1/2のハグ』終わり)

本編『Hug』に続く

 

[maxbutton id=”23″ ]

(3)1/2のハグ

 

 

目覚めると、離したはずの布団がぴったりと寄せられていた。

 

ユノの小さな抵抗に、チャンミンはくすりとしてしまう。

 

寝起きのぼんやりとした頭で、隣の布団に視線を移すと...。

 

(あれ?)

 

ひょろ長いユノにしては、妙に布団がこんもりしているような。

 

「ユノ?」

 

腕を伸ばして、えいっと掛布団をめくると...。

 

「ひゃっ!」

 

現れたのは、ふわふわの、毛むくじゃらの白い大きな塊。

 

チャンミンは尻もちをついたまま、理解が追い付かないまま、口を開けたまま。

 

「くくくく」

 

広縁の籐椅子に体育座りをしたユノが、笑いこけていた。

 

「ユノ!」

 

「チャンミン、びっくりした?」

 

キッと睨みつけるチャンミンを見るほど、クツクツと笑いがこみあげてくる。

 

「びっくりした?」

 

「.....」

 

「俺がいなくなって」

 

「......」

 

「シロクマになってて...。

驚いた...よね?」

 

「......」

 

「怒った?」

 

「......」

 

応えず黙ったままのチャンミン。

 

「怒った...よね?」

 

「......」

 

「ごめんなさい」

 

チャンミンはため息をついた。

 

(反則だよ。

尖らせた口も、上目遣いも)

 

「怒ってないよ。

ユノが元気になったみたいで、安心したの」

 

本当は、人の心配も知らずに、子供っぽいイタズラをして楽しんでいるらしいユノの呑気さに、少しだけムッとしたのだけれど。

 

ぬるくなったタオルを取り換えてあげたり、湯冷ましを飲ませたり。

 

昨夜は寝たり起きたりを繰り返したため、チャンミンは寝不足気味だった。

 

夜中に、「コーラが飲みたい、スカッとしたい」というユノの要望を受けて、チャンミンはコーラを買いに行った。

 

財布を持って、スリッパ履きで。

 

照明がしぼられ、静まり返ったロビーでは自動販売機のたてるモーター音が低く響いていた。

 

 

 

 

(ユノと2人浴衣を着て、湯殿前のベンチで待合わせて、旅館の小さな売店でくだらない物を買うこともできなかった。

 

でも、ユノの新しい顔を見られた。

 

もともと言動が実年齢より幼い彼だが、言葉は選んで口にする賢明さと、細やかな気配りができる余裕も持ち合わせてる。

 

かいがいしく世話をやくことは、嫌いじゃない。

 

相手がユノだから、むしろ楽しい。

 

ユノの小さなわがままが微笑ましかった)

 

 

 

 

「楽になった?

熱は?」

 

手招きすると、ユノは尻尾をぶんぶん振る大型犬のように、チャンミンのそばまで這ってきた。

 

ユノの額に手の平を当てる。

 

「んー。

まだ熱いなぁ。

朝ごはん食べたら、診療所で診てもらおう」

 

「え~、それはチャンミンに悪いよ。

せっかくここまで来たんだよ?

俺は部屋で寝てるよ。

チャンミンは観光に行っておいでよ」

 

「それはできません!」

 

きっぱり言いきったチャンミンは、怒った表情を作ってユノを睨んだ。

 

きめの細かい白い肌は女の子のようなのに、頬のラインは男らしくシャープなラインを描いていて、そのギャップにチャンミンはくらっとする。

 

(この子ったら、可愛いなぁ)

 

一方ユノはというと、チャンミンの顔が間近に迫ったせいで、先ほどまでのふざけた気分がかき消え、チャンミンを求める熱い想いが湧き上がってきた...。

 

 

 

(昨夜、ふざけてチャンミンの布団にもぐり込んだ。

 

勇気がたっぷりと必要なおふざけだった。

 

交際3か月。

 

チャンミンに手を出したくても、恥ずかしいことに俺には経験がない。

 

チャンミンくらいの男なら、恋愛経験も豊富なんだろうと想像すると、どうしても気後れしてしまって...。

 

初めてのお泊りだったのに、俺ときたらバッド・コンディション過ぎた!

 

せっかくの、せっかくのチャンスだったのに。

 

悔しいったら。

 

はぁ、それにしても、目の前のチャンミンときたら。

 

四角い顎が男らしいな、真ん丸な目が優しいな。

 

彼の焦げ茶色の瞳に、俺の顔が映っている)

 

 

 

 

チャンミンの目前で、ユノの焦点が自分ではないどこかに合っている。

 

「ユノ?」

 

「はい!」

 

考え事をしていたユノは、ハッとして現実世界に意識を戻す。

 

「大丈夫?

横になろうか?」

 

「...そうだね」

 

(あれ?)

 

いつのまにかチャンミンの腰にまわったユノの手が、さわさわと動いている。

 

「こら!」

 

「こればっかりは、どうしようもできないんだ。

チャンミンがあまりに魅力的で...オートマティックなんだ」

 

「冗談だって。

いいよ、ユノ、ハグして」

 

言い終える前に、ユノは力いっぱいチャンミンを胸にかき抱く。

 

「ぎゅー」

 

「痛い痛い!」

 

視線を下げると、浴衣の合わせからチャンミンの裸の胸がのぞいている。

 

(おー!)

 

「......」

 

チャンミンの方も、胸がドキドキだ。

 

(こんなシチュエーション、初めてじゃないくせに。

ユノが緊張していると分かると、こちらまで緊張してしまう)

 

「ユノ」

 

「チャンミン先生、何ですか?」

 

「このぬいぐるみ、どうやって持ってきたの?」

 

チャンミンとほぼ同じサイズの、巨大な白いふわふわの方を、あごで指す。

 

甘い雰囲気になってしまうのに照れたチャンミンは、話を反らしたのだ。

 

「あれ」

 

ユノは、部屋の入口の方をあごで指す。

 

「あれに詰めて持って来た」

 

チャンミンはユノの肩から顔を離して振り向くと、たたきに置かれたスーツケースが見える。

 

「ああ、なるほどね。

2泊3日にしては、大き過ぎるもの。

ユノは、数時間おきに着替える子なのか、とか。

愛用の枕でも入ってるんだろうか、とか。

いろいろ想像しちゃった」

 

ふうっと、ユノはチャンミンの肩の上で息を吐く。

 

(ちぇっ、ハグした勢いでキスしようと思ったのに)

 

「チャンミンが朝起きたら、

隣の布団で寝ていたはずの俺が、シロクマに変わってるんだ。

で、チャンミンがびっくり仰天する...というシナリオだったんだ」

 

「はぁ...?」

 

 

(ちょっと聞きました?

 

なんなの、この可愛い計画は?

 

なんて可愛い子なの!?)

 

胸の奥底から、愛おしい気持ちが湧き上がってきてたまらなくなったチャンミンは、ユノの背に回した腕に力を込めた。

 

「ぎゅー」

 

「チャンミン!

背骨が折れるって!」

 

「...好き」

 

「?」

 

「......」

 

「聞こえないよ」

 

「......」

 

「もう一回言って」

 

ユノがチャンミンの耳元で囁くものだから、その温かい息にチャンミンの首筋が粟立つ。

 

「チャンミン...もしかして照れてる?」

 

ふふっと笑ったユノの息がまたかかり、びくっと反応してしまったチャンミンを面白がって、ユノは何度もチャンミンの首に息を吹きかける。

 

「ひゃ...」

 

(年下のくせに、年下のくせに!

ふにゃふにゃと甘えん坊になったり、オラオラ系になったり、僕をドキッとさせたり)

 

再び2人の間を包んだ、甘い雰囲気にのってユノとチャンミンは見つめ合って...。

 

キンコンとチャイムが鳴った。

 

「わっ!」

「わっ!」

 

ユノとチャンミンは弾かれたように、離れた。

 

「布団!」

「朝食!」

 

「おはようございます」

 

 

2名の接客係が、布団を上げテーブルに朝食を並べ終えて退室するまで、チャンミンは部屋の隅で正座をして待機していた。

 

耳を真っ赤にしてかしこまっている姿が、ユノにとって可笑しいやら可愛らしいやら。

 

係の者とにこやかに雑談をしていたユノが、目で合図を送っている。

 

「?」

 

胸の辺りを指さし、手を交差するジェスチャーをしている。

 

「!!!!」

 

ユノが伝えたいことが理解できたチャンミンは、大胆にはだけてしまった浴衣の衿を大慌てで直したのだった。

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

(2)1/2のハグ

 

 

「チャンミン、温泉入ってきていいよ」

 

座椅子にもたれて、TV番組表のコピー用紙を見るともなく眺めながら、茶菓子の最中をかじっていたチャンミンの背中に、ユノは声をかけた。

 

「いいの?」

 

「うん。

俺の分まで、温まってきて」

 

チャンミンは、布団から頭だけ出したユノを愛おしげに見つめる。

 

企画・立案したイベントの主催者が伏せってしまっては、さぞかしユノは悔しいだろうに。

 

無理に見せる笑顔がふにゃふにゃだし、からかう言葉に少々キレがない。

 

無言になった隙にそうっと様子をみると、鼻先まで布団をかぶって、眉をよせてギュッと目をつむっていた。

 

(可哀そうに)

 

チャンミンは浴衣と一緒に下着を布バッグにつめた。

 

「お利口さんにしててね」

 

ユノの熱い額に軽くキスをした。

 

ユノは一瞬目を丸くした後、半月型にさせてにっこりと笑った。

 

「口にして欲しいけど、チャンミンに伝染しちゃうから、我慢する」

 

「12時間も一緒にいたんだからとっくに伝染っているよ」

 

交際を始めてまだ3か月の2人は、軽いキスを数回交わしただけ。

 

交際に至るまで1年を要した。

 

亀の歩みのようなペースで距離を縮めていく2人だったから、額のキスだけでもユノの心は弾んだ。

 

マスクのせいで、目の印象が強まった。

 

濃いまつ毛に縁どられた、すっきりと切れ長の上まぶた。

 

熱のせいで潤んだ瞳と、赤く色づいた下まぶた。

 

一心にチャンミンを慕い見上げる青年。

 

全部が愛おしくチャンミンの眼に映る。

 

 

 

 

(彼の瞳は、高性能のレーダーだ。

 

ごったがえす雑踏の中から、秒速で僕の姿をキャッチする。

 

透明でまっすぐな眼差しが、こんな自分に注がれているなんて。

 

いいのだろうか。

 

「大好きです」と繰り返すユノの言葉を、真に受けていいのだろうか。

 

ユノの視線を注がれた僕は、ピカピカの新品に生まれ変われる。

 

ユノは甘えん坊で可愛い可愛い、僕の恋人だ)

 

 


 

 

川魚と山菜が中心の 質素ながらも品数多く並ぶテーブル。

 

無理を言って用意してもらった、とろとろに炊いたお粥はユノ用だ。

 

ユノの額にのった温泉タオルが白くまぶしい。

 

アイスペールには、たっぷりと氷を入れてもらった。

 

「あーんして」

 

布団に寝そべったまま、ユノは大きく口を開ける。

 

「はいはい、あーん」

 

「熱い!

ちゃんと『ふうふう』してよ」

 

「子供みたい」

 

ユノが機嫌を損ねる言葉だけど、時と場合によっては、子供扱いを素直に楽しむこともあって、なかなか扱いが難しい。

 

「イチゴのシャーベット、食べる?」

 

「シャーベットはデザートだから、最後!

湯葉の刺身がいいなぁ」

 

「はいはい」

 

「俺もお酒が飲みたい」

 

手酌で日本酒を飲むチャンミンの浴衣の袖を、ユノは引っ張った。

 

「駄目って分かってて言ってるでしょう?

カモミールティーを淹れてあげるから」

 

「チャンミンのバッグには、何でも入っているんだなあ」

 

「世話が焼けるユノのために、荷物が多いんだよ」

 

(ここまで見事に、浴衣が似合わないとは)

 

浴衣から骨ばった長いすねが突き出していて、可笑しかった。

 

同時に、浴衣の袖からのぞく胸の谷間に、ドキリとしてしまうチャンミンだった。

 

「チャンミンの場合、必要なものを絞り込めないだけだろう?」

 

「こら!」

 

山盛りのシャーベットを、ユノの口に押し込んだ。

 

冷たさでこめかみを抑えるユノを見て笑うチャンミンだった。

 

 


 

 

枕元灯のオレンジ色の灯りに照らされるチャンミンの顔を、ユノはうっとりと見上げていた。

 

チャンミンが動くたび、長く黒い影が畳や壁をなめる。

 

隣の布団で、うつぶせになってページをめくるチャンミンを溶かすかのように、ユノは文字通り熱い視線を送る。

 

つやつや光る高い頬や、洗いっぱなしのあちこちはねた髪、男の人にしては細い手首。

 

ユノは枕の下からスマホを取り出すと、アプリを立ち上げた。

 

シャッター音に気付いたチャンミンは、目をむいた。

 

「盗み撮りしたな!」

 

「ふふん」

 

恥ずかしくなったチャンミンは、枕に顔を伏せてしまった。

 

(僕は写真が苦手なのに...!)

 

「チャンミン、ごめんね」

 

「?」

 

枕から顔を上げて横を向くと、隣の布団のユノが両手で顔を覆っていた。

 

「ごめんなさい」

 

「ブサイクに写っていたら、データを消してね」

 

写真を撮ったことを謝っているのだと思った。

 

「あの...チャンミン」

 

「なに?」

 

「今夜の俺は...無理」

 

「無理、って何が?

身体がつらいの?」

 

額の熱をはかろうと、チャンミンは身を起こしかけた。

 

「チャンミンを抱けない。

力が出なくて...」

 

「ユノ!」

 

「チャンミン、楽しみにしていただろ?

俺はちゃ~んと、知っているんだ。

アレも用意してくれてたのにな...」

 

ユノはにやりと笑う。

 

チャンミンの頬がカッと熱くなった。

 

バッグからはみ出してしまったアレを、高性能レーダーの目で漏らさずキャッチしていたに違いない。

 

「今夜は俺とチャンミンの初めての夜になるはずだったのに...俺は悔しい!」

 

覆った指の間から、三日月形になったチャンミンの眼が覗いていた。

 

「ふふふ」

 

「そんな照れることを、よく言えるよね!?」

 

「鈍感なチャンミンがいけないんだよ?

俺が分かりやすく言わないと、チャンミンは理解できないんだよね」

 

そう言うと、ユノは布団から這い出すと、チャンミンの布団の中に滑り込んできた。

 

「ユノ!」

 

「ぎゅー」

 

にゅうっと腕が伸びてきて、チャンミンの頭を力任せに胸に抱え込んだ。

 

「ぎゅー」

 

「痛い痛い!」

 

「俺は若くて健康な男だから、やっぱり我慢できない」

 

ふざけた風を装っているが、実はユノの心臓はバクバクだった。

 

緊張しているのをごまかすように、ユノは鼻面をすりつける子犬のようにふるまった。

 

ぴったりと押しつけたチャンミンの頬を通して、ドクドクいうユノの胸の高まりが伝わってくる。

 

「今は健康じゃないでしょ?」

 

「ふむ...確かにそうだ」

 

力が抜けた隙に、チャンミンはユノの腕から抜け出す。

 

「チャンミン!」

 

チャンミンは敷布団の端を持つと、ずりずりと部屋の端まで引きずった。

 

「風邪が伝染るし、病人のユノが落ち着いて眠れないでしょう?」

 

「そんなぁ...」

 

「ほら!

さっさと寝る!」

 

「あうぅ...遠い」

 

恨めしい目でじーっとチャンミンを睨んでいたユノだったが、諦めたのかチャンミンに背を向けて横になる。

 

なんだかんだ言っても、やはり身体が辛いのだ。

 

小さな後頭部が可愛らしい。

 

先ほどまでユノが寝ていた布団は、ホカホカと温かかった。

 

(ときめいちゃったじゃないか!

ユノの行動は、予想がつかないんだから!)

 

この日のために、わざわざアレを用意した自分の気合の入れようが恥ずかしかった。

 

同時に無邪気な自分を、微笑ましく思ったチャンミンだった。

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]