(15)恋人たちのゆーふぉりあ

 

 

~ユノ~

 

閉じた入口から目を離せずにいる俺の様子を、チャンミンはじっと見つめていたが、起き上がると、俺の腕を引っ張った。

 

「チャンミン?」

 

壁にもたれるよう促され、その通りにした俺の前に、チャンミンはすっぽり収まるように腰を下ろした。

 

俺は大股広げたチャンミンを後ろから抱える格好となった。

 

なるほど...。

 

まともにそこを目にして、怖気付く俺を気遣ったのだろう。

 

チャンミンの方も、俺の手の動きを見守ることができて恐怖が和らぐのだろう。

 

チャンミンは邪魔になるものを、両手ですくいあげている。

 

「チャンミン、ケツを持ち上げられる?

この姿勢はやりづらい」

 

「うん」

 

チャンミンは腰を前にずらし、両膝を抱えてそこを露わにした。

 

チューブの中身を、肘まで垂れるほどたっぷりと指にからめとった。

 

その指で巾着の口の周りを芋虫のように這わせた。

 

未経験の俺には、そこがほぐれているんだかいないんだか分からない。

 

チャンミンはくすぐったいらしく、腰をもぞもぞさせている。

 

「入った!」

 

数日前とは比べものにならないほどあっさりと、俺の中指は飲み込まれた。

 

チャンミンは後ろを振り向き、俺と目を合わせるとこくん、と頷いた。

 

「すごいな...特訓したんだ?」

 

「...うん」

 

チャンミンの健気さに、じんとしてしまう。

 

突っ込んだ指を中でぐるりと回転させてみたら、チャンミンは「うぐぐ」と呻いた。

 

「どう?」

 

「う...ん。

分かんない」

 

「自分でやってみてどうだった?」

 

「ユノのが入るサイズに広げることで精いっぱい。

気持ちいいと思えるには、まだまだ」

 

指先の感触に神経を研ぎ澄ませた。

 

温かくぬるぬるとした粘膜が吸いついてくる。

 

女の子の中よりも柔らかくはない。

 

俺の指の付け根をきゅうきゅう締め付ける入口は狭いけれど、中は広い。

 

俺なりに仕入れたハウツー通りに、中を探ってみた。

 

「ここは?」

 

「...んっ...。

...変っ...な感じ」

 

「ここは?」

 

「んふっ...ぞくっとした」

 

360度、順に小刻みに壁を刺激し、チャンミンの反応をみているのだ。

 

緊張しているらしいチャンミンの背中は強張っており、自ら膝を抱える腕も筋張っていた。

 

俺の方も全身が熱い。

 

チャンミンのものがどうなっているかは、腹と太ももにサンドされていて確かめられない。

 

「2本目...いってみる?」

 

「うん、いってみよう」

 

先日、小道具を取り寄せてはしゃいでいた俺たちの会話を思い出した。

 

「実験みたいに楽しもう」って。

 

今の状況こそまさしく『実験』だ。

 

チャンミンの反応を確かめながら、俺は彼の中をまさぐる。

 

チャンミンは、俺の指がもたらす感触に『気持ちいい』を見つけようとしている。

 

入口の縁を傷つけないよう、中指を追加した。

 

「...入った...!」

 

「きつくない?」

 

「う...ん、大丈夫」

 

「きつかったら教えて?」

 

「うん」

 

チャンミンの熱い肌と俺の汗が交じり合って、半径1メートルが熱帯のように蒸していた。

 

「動かすぞ?」

 

さっきと同じように、中を探っていこうとした時...。

 

「ユノ...」

 

「うそっ!

キツい?」

 

「キス...」

 

歯を食いしばって耐え忍んでいる表情を予想していたのに、背後へ振り仰いだチャンミンときたら。

 

ぽかんと開いた口、とろんと下がった目尻をピンク色に染めていた。

 

ごくり、と喉が鳴った。

 

チャンミンに埋めた指はそのままに、もう片方で彼の顎を引き寄せ口づけた。

 

「『いい』の?」

 

「まだ分かんないけど...。

ユノのが入っていると思うと...ドキドキする」

 

「そっか...」

 

チャンミンの言う通り、それがブツじゃなく指であったとしても、好きな奴の大事なとこへの侵入を許されたと思うと、感動に値する。

 

チャンミンの肩を抱き、彼の首筋に口づけつつ、探検を再開した。

 

指を動かすごとに、チャンミンの喉仏が震える。

 

この探り合いは...なんだ?

 

一体全体、どこの誰が、本来「出す」ところに挿れようと思いついたのだろう?

 

「特訓」すると、アレが挿いるサイズになるなんて、誰が最初に試してみたんだろう?

 

「開発」すると、そこは強烈な快感を覚える場所だなんて、誰が発見したんだろう?

 

そうか...人類の飽くなき性への探求心、さらなる性感を求めて試行錯誤の末、たどり着いたココ。

 

変態心がこのプレイに行きついたんだな、うん。

 

まずい...。

 

俺の悪い癖が出てしまった。

 

つまり、今この時、自分がしている行為について熟考し始めることだ。

 

後ろ抱きにしているチャンミンに意識を戻す。

 

俺はこの男が好きだ。

 

好きな奴とは裸になって抱き合いたい。

 

恋人同士が抱き合うとはつまり...挿入を伴うものなわけで...。

 

何度も言い聞かせていること...俺たちはそれぞれ穴が1つずつ足りない。

 

凸と凸同士が繋がりたければ、1つしかない凹に入れるしかないわけで...

...そこまでしないといけないのだろうか?

 

マズい...。

 

エロい気分が消えてしまった。

 

俺は首を振って、意識を「今」「ここ」に戻した。

 

予習で得た知識通り、「この辺りかな?」とそれらしい箇所をこすった直後。

 

「ひゃぅっ...!」

 

びくんとチャンミンの身体が跳ね、その肩が俺の顎を直撃した。

 

「!」

 

チャンミンは前方へ身を投げた。

 

「え...?」

 

たった今まで中に入れていた、2本の濡れた指だけが残された。

 

打ちつけた顎の痛みよりも、その場で突っ伏した姿勢でいるチャンミンが心配だった。

 

「どうした?

痛かったのか?」

 

「...違う。

すごかった」

 

「あそこか!

正解だったんだな!」

 

「ヤバいよ、そこ。

初めてだよ...あんなの」

 

「気持ちよかった?」

 

「そうなのかな?

とにかく、ヤバイ感じ」

 

「ヤバいんだ」

 

「うん。

あれはヤバい」

 

「もうちょっとやってみるか?」

 

「う~ん...。

怖いなぁ...。

心臓がもたないかもしれない」

 

「そんなに凄いんだ」

 

「ユノもやってみる?」

 

「な、何言ってんだよ!?」

 

「冗談だよ。

ユノんとこに入れたい興味はないんだ」

 

「へえ。

不思議だよなぁ。

どっちがそっちになるってのは、相手次第なのか、そいつの素質なのか」

 

「ホント、不思議だねぇ」

 

 

...その日、俺たちは無事に果たせたかというと...延期となってしまった。

 

下準備に全エネルギーを使い果たしてしまったのだ。

 

萎えてしまった俺はその後、うんともすんとも言わなくなった。

 

焦ったチャンミンは、こすったり口に含んだりと、頑張ってくれた。

 

チャンミンから施される初めてのエフだったのに、くすぐったいばかりで復活してくれない。

 

チャンミンのものも、ぐったりとしていたからおあいこだ。

 

焦らなくていい。

 

俺たちには時間はたっぷりとある。

 

夜ならば毎晩だって、会おうと思えば会えるのだ。

 

未知なる世界への扉はあまりにも大きく、これまでドアノブに手が届かなかった。

 

今の俺たちは、そのドアノブに届いたのだ。

 

次はそれをひねるだけ。

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

(14)恋人たちのゆーふぉりあ

 

 

~チャンミン~

 

 

ユノは僕を驚かせる。

 

僕のお尻に怯んでいたユノが、大胆なことをやってのけた。

 

今でもあの瞬間...周囲のざわめきが消えて無音になり、思考も真っ白になったあの瞬間が、夢に出てくる。

 

驚きの次に沸いてくるはずの怒りも忘れた。

 

なぜなら、そのキスがとても素敵なものだったから。

 

今はキスに集中しろ、といった風に、うなじをつかんだユノの手は力強かった。

 

ユノの心の声に、僕は心の中で頷いて、重ね合わせた唇の湿り気と、中で暴れまわる舌同士の感触に集中した。

 

ユノは「目を閉じていろ」と囁いたけど、僕は薄目を開けていた。

 

僕らに注目しているはずの面々を確認するためじゃない。

 

柔らかい唇の感触、密着した頬の熱さと汗の香り、美容院にいきたてのもみあげの髪。

 

全部を確かめたかった。

 

ユノの尖った耳の先や、やわらかさそうな耳たぶの映像が、色濃く記憶に残っている。

 

唇を重ねなおすごとに、僕はどうでもよくなってきた。

 

よそ見している間が勿体ない。

 

僕が注目し、味わい尽くしたいのは目の前の男なのだ。

 

拒絶反応を示したのは現在のところ、AちゃんとD、それからE君やF君と言った、狭い交友関係に限られていた。

 

過敏になり過ぎるあまり、全学生から指さされ心ない噂をたてられていると、妄想を逞しくさせてしまっていたようだ。

 

母数を広げてみれば、キモイと拒否感を示す者はごく一部で、面白がる者もいるけど、大半は無関心だと思う。

 

彼らは忙しい。

 

僕らも含めて若い彼らは、面白いこと珍しいものを常に探している。

 

教授の毛髪事情や、大学生協でコンドームが販売開始になったことだけで爆笑し、それらを飲み会のネタに大いに盛り上がれる人種だ。

 

そして、飽きっぽい。

 

僕のイメージはこうだ...城のバルコニーに立つ王と妃に、広場を埋め尽くした何万人もの民衆が卵をぶつけている。

 

このイメージも大げさだったみたい。

 

並木道を手を繋いで歩く姿も、カフェテリアで食べさせ合いっこしている姿も、駐輪所でこっそりキスを交わしている姿も、そのうち当然の光景になってくれるだろう。

 

僕らを放っておいてくれるだろう。

 

ユノの作戦ったらもう...凄いんだから。

 

 

 


 

 

~ユノ~

 

その日、一旦解散した俺たちは、夜になって俺の部屋に集合した。

 

チャンミンは昼間の一件に触れなかった。

 

「何てことしてくれたんだ」と怒るどころか、それに言及することもなかったため、俺は拍子抜けした。

 

俺も含めてチャンミンも、目下の問題が解消したからなんだろうな。

 

俺の意図をチャンミンがどう解釈したかは分からない。

 

敢えて語り合わなくても、今はいい。

 

すっきりと、リラックスした表情で俺の隣にいてくれるだけで、俺は十分なのだ。

 

いつか、笑い話のネタとして話題に出てくるだろう。

 

計画は成功だった。

 

 

 

 

「ユノ」

 

「うん?」

 

テーブルに広げたコンビニ弁当を食べていると、チャンミンがあらたまった風に俺を呼んだ。

 

「僕んとこ、見てみる?」

 

「?」

 

チャンミンは立ち上がると、ズボンを脱いだのだ。

 

「!」

 

その潔すぎる行動に、俺はあっけにとられてチャンミンを見上げるばかりだった。

 

パンツも脱いでしまうと、くるりと俺に背を向けた。

 

「!!!」

 

チャンミンの中心線のお終いに、蛍光色のワインオープナーが刺さっている。

 

俺の胸はきゅん、としなった。

 

スイッチが入った。

 

飯の最中だったのが、カチッとエロのスイッチに切りかわった。

 

チャンミンの覚悟に応えないと!

 

いつまでも悶々と悩んでいる自分が馬鹿らしい、俺より負担が大きいのはチャンミンなのだ。

 

俺も服を全部脱ぎ、チャンミンの首にタックルして、二人もろともベッドに横倒しになった。

 

「刺したまま来たんだ?」

 

「ここまで走ってきたんだけど、奥に響いて仕方がなかったよ。

女の子みたいに内股になっちゃってさ、変な走り方になっちゃった」

 

どうりで、さっきからもぞもぞしていたはずだ。

 

「どんな感じ?」

 

「うーん...悪くないよ。

これって初心者向けのやつだから、想像よりは難しくなかった」

 

階下にじーさんとばーさんがいる部屋で、ドアをカラーボックスで塞いだうえで、チャンミンはこれを仕込む練習をしていたのか...。

 

その姿に興奮できるほど開発されていない俺は、「すげぇな」とチャンミンを褒めるしかない。

 

唇を重ね、熱い吐息まじりにチャンミンは「抜いて?」と。

 

俺は頷いて、横たわったチャンミンの脇に座り直した。

 

オープナーの輪っかに指を引っかけた。

 

深呼吸を繰り返すチャンミンの下腹は、大きく波打っている。

 

ほんの5ミリほど引っ張った瞬間、チャンミンの腰がびくんっと跳ね上がった。

 

「怖いのか?

止めようか?」

 

「いや...平気...。

びっくりしただけ。

一気にいっちゃってよ」

 

ワインオープナーを...20年寝かしたワインのコルクを、慎重にひねり抜く。

 

「どう?」

 

「平気っ。

ゆっくりやられると怖いから、一気にお願い」

 

「ああ」

 

俺はゆっくりゆっくり、オープナーに吸い付く入り口から目を離さず、コルクを抜いていく。

 

「ふっ...」

 

「あと少しだ」

 

俺の全身から汗が吹き出し、胸の谷間をつたう感覚も分かるくらいだった。

 

自分で出し入れするのと他人に任せるのとでは、ドキドキ度が違うのだろう。

 

強がっているのは、シーツを握りしめた手が震えていることから伝わってきた。

 

抜けた...!

 

チャンミンから解放されたそれは、想像より細く短く、納得の初心者用だった。

 

直後は小指ほど開いていたそこも、目を離しているうちにぴたり、と閉じてしまった。

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

(13)恋人たちのゆーふぉりあ

 

 

~チャンミン~

 

 

ユノは一体、どんな作戦を思いついたのやら。

 

ユノの人柄はなんとなく分かってきたとはいえ、1か月も経っていないから、まだまだ知らないことだらけだ。

 

イヤな予感と期待が半々で、怖い気持ちとワクワク待ち遠しい気持ちも半々。

 

ま、いっか...ユノに任せよう。

 

「どんと構えて俺に任せなさい」といった風に、自信たっぷりに胸を叩いていた。

 

そして、僕の唇に「ぶちゅっ」と大きな音を立ててキスをして、ユノは帰宅していった。

 

せっかく会えたのだから、挿入なしのイチャイチャくらいはしたいなぁ、って思っていたから残念だった。

 

あ...イチャイチャ無しでよかったのかも。

 

イチャイチャとしごき合いをしているうちに、えっちな気持ちが加速して、パンツを脱ぎたくなる。

 

僕のお尻がさらけ出された時...はっと我に返って、先日のように「どうする?」状態になるのがオチだ。

 

それは避けたい。

 

それ以前の問題も抱えている。

 

汚い話だが、僕のお尻の用意ができていない。

 

僕のお尻問題は明日の夜に考えよう...よし!

 

蛍光灯の紐を引っ張って照明を消し、直線距離にして1km離れた場所にいるユノに、「おやすみ」とつぶやいた。

 

僕は5分も経たないうちに眠りに落ちた。

 

ユノは僕の不安を取り除いてくれる天才だ。

 

僕の様子を見に来てくれてありがとう、ユノ。

 

 


 

 

~ユノ~

 

 

チャンミンには「いい考えがあるから、俺に任せろ」と大きなことを口にしてしまった。

 

確かにアイデアはある...それも大胆なやつが。

 

必ずうまくいくという保証は、ない。

 

けれども、チャンミンにはびくびくとしたキャンパスライフを送って欲しくないし、それは俺も同様だ。

 

教科書を読み上げるだけの退屈な講義など、耳を素通りしている。

 

デスクの上の教科書とノートをバッグに仕舞い、チャイムが鳴るや否や教室を飛び出した。

 

 

 

 

校門前は広場になっている。

 

正面には講堂があり、合格発表の掲示板が設置されたり、学園祭の際には模擬店のテントが並び、卒業式には角帽をかぶった卒業生が溢れる。

 

昼食時間とあって、大勢の学生たちが広場を縦横無尽に行き交っている。

 

約束通り、チャンミンは講堂前の階段に腰掛けて待っていた。

 

そこは広場を見渡せる位置にある。

 

公衆の場で遠目に眺めるチャンミンは、つくづくいい男だなぁと見惚れてしまうのだ。

 

背中を丸め、両膝を抱えるようにしている(内股気味)のは、知った顔から気付かれないようにしているんだな。

 

身を縮めたって、デカいなりは隠せないのにさ。

 

手にしたスマホを操作している。

 

通知音にスマホを見ると、『まだ?』とのメッセージ。

 

『もうすぐ着くよ』と返信。

 

待ってろ、チャンミン。

 

お前の自意識過剰な怯えをぶっ壊してやるから。

 

...これは、俺の為でもあるんだ。

 

 

 

 

近づく俺に気付いて、無表情だったチャンミンの表情が笑顔へと変わる。

 

花のつぼみが満開になる瞬間を、早回しで見ているかのように。

 

俺の元へと階段を下りかけたチャンミンを、手ぶりで制した。

 

1段飛ばしで駆け上がり、チャンミンの二の腕をつかんだ。

 

それを振り払おうとしたチャンミンの腕ごと、背中に手を回した。

 

チャンミンのうなじにもう片方の手を回し、ぐっと引き寄せた。

 

「ユっ...!」

 

驚きのあまり口を開けたチャンミンの歯と俺の歯がガチンと当った。

 

チャンミンの抵抗を渾身の力で、彼の唇を、顎まで食らいつくようなキスで許さなかった。

 

奥に引っ込んだチャンミンの舌を引きずりださんばかりに、彼の口内を舐め尽くす。

 

ガチガチだったチャンミンの顎の力が緩んできた。

 

俺は講堂を、チャンミンは広場を向いている。

 

この位置関係じゃチャンミンが可哀想なので、90度身体を回転させた。

 

目を見開いているチャンミン、「目を閉じてろ」と囁いた。

 

チャンミンの両腕が、俺の背中と腰に巻き付いた。

 

そして、俺以上の力で抱き寄せた。

 

腰同士はめり込み気味に密着している。

 

俺の作戦が読めたらしい。

 

そして、受け入れたんだ。

 

ここは中学や高校じゃない。

 

なんでも有りの自由な大学キャンパスだ。

 

教師に告げ口する奴なんていない。

 

右を味わい尽くしたら左へと頬を傾け、唇を重ねなおす。

 

チャンミンはカッコいい部類に入るルックスで、俺だってミスターなんじゃらにはなれないけれど、悪い方ではない。

 

このキスシーンは、まあまあ絵になるものではないだろうか。

 

一体となった俺たちは、周囲の視線を浴びている。

 

彼らがどんな表情を浮かべているのか、何を考えているのか、何を囁き合っているのか...構うものか。

 

大勢の視線にさらされているという意識は、なかなか刺激的なものだ。

 

俺以上にチャンミンが興奮してきているようだった。

 

下腹は、チャンミンの昂ぶりを感じとっている。

 

そろそろキスを止めにしないと、チャンミンのものがおさまるまで密着した腰同士を離せない。

 

さすがに、元気いっぱいになった下半身まで、公衆の面前に披露するわけにはいかないからな。

 

ふっと唇を離した時、俺たちは至近距離で微笑み合った。

 

「ユノの...馬鹿」

 

「ふん。

よかったくせに」

 

広場の方へと向き直ると、何十人もの学生たちひとりひとりと目が合った。

 

彼らの反応は...想像通り。

 

見てはいけないものを目撃してしまった...この出来事を誰かに話さなくっちゃ。

 

嘘でしょ...すごい...信じられない!

 

スマホを向けている者もいる。

 

ミスターなんじゃら並みに、有名人になれたかもね。

 

今まで以上に好奇の視線を浴びるだろうけど、身近な少数の者たちにコソコソ噂されるような中途半端さが、じわりとチャンミンを傷つけるのだ。

 

荒療治にもほどがある。

 

...そうだろうね。

 

俺の作戦は無謀で見当違いで、馬鹿げたことだろうけど、一種のカンフル剤となって、チャンミンの不快感を吹っ飛ばしたんじゃないかな。

 

あとでじっくり、チャンミンに感想を聞いてみよう。

 

グーで殴られたりして。

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

(12)恋人たちのゆーふぉりあ

 

 

~チャンミン~

 

 

ユノはベッドに腰掛けると、僕の手をとり指と指とを絡めてきた。

 

「まあ...俺たちは、世間一般的にみれば少数派だ。

そういう人間の存在は知っていても、身近にいれば物珍しげに遠巻きに見てしまっても仕方ない。

ところが俺たちは、もとはノーマルだ。

これまでの俺たちを知っている者から見れば、

『こいつ、どうしちゃったんだ!』

『これまで隠してきたのか!』

と、驚きと拒絶感が前面に出てきても仕方ない」

 

「...それくらい、分かってるよ」

 

頭では一昨日みたいなことが起こるだろうと、身構えていたけれど、実際に冷ややかな目でみられたら、ショックを受ける。

 

それも、親しくしていた友人に。

 

「噂は...Dかな?」

 

「DちゃんやAが直接言いふらさなくても、2人から話を聞いた友だちが広めた可能性も高い」

 

じっと考えたのち、ユノはため息をついた。

 

「俺たちは彼女たちに恨まれて当然だ。

いつかはこうなるだろうなぁって、予想はしていたから...予想よりは遅かったね」

 

「遅かったからマシとでも言いたいの?

ユノは実際に嫌われていないから、余裕なことが言えるんだよ!」

 

ユノに突っかかり、一昨日に湧いてきた怒りを彼にぶつけてしまった。

 

ユノが悪いわけじゃないのに...。

 

「チャンミンの気が楽になることを教えてやるよ」

 

ユノは座り直して、僕の方に向き直った。

 

「俺もね...一人になっちまった」

 

「え...?」

 

「一人、ってのは大げさかな。

10人いる友だちのうち、7人は失ったかなぁ。

残ったうち1人は女子だ。

面白がったり、恋愛相談をしょっちゅう持ち掛けるようになった。

映画やドラマであるだろ、女子の相談役になってるゲイが?

女子の気持ちを理解してるからって。

俺たちは違うのに...。

...誤解しまくりなんだよなぁ」

 

「あとの2人は?」

 

「同じ高校だったんだ。

俺のことをよく分かってくれてる奴らだよ」

 

「...そうなんだ」

 

ユノも似たような経験を既にしていたのに、僕には一切漏らさなかった。

 

「チャンミン」

 

この後のユノの台詞に、僕は苦しくなった。

 

「俺が男で...ごめんな」

 

「ユノっ...!

男でごめん、なんて言わないで」

 

繋いだ手を離し、ユノの肩を揺すった。

 

ユノはぐらぐらと、僕に揺すられるがままでいた。

 

「僕の方こそ、男でごめんね?

お尻なんて嫌でしょ?」

 

「チャンミ~ン。

俺たちは今、恋愛について話してんの!

話題はケツじゃない!」

 

「分かってるってば!

僕はユノが好きだから、ユノと付き合ってんの!

後悔はしていない。

ただね、哀しくなってしまっただけなんだ。

う~んと...さっきはごめん。

ユノに話して楽になったよ」

 

「ケツの話は?」

 

「この前、出来なかったでしょ?」

 

「あ~、確かに」

 

「お尻にショックを受けたんだろうなぁって。

構造が違うでしょ?」

 

「穴であることには変わりないじゃん。

え!?

チャンミンは女の子のアソコがどうなってるのか、知ってるんだ?」

 

「...僕だって...知ってるよ。

童貞だからって馬鹿にするな!

ふぅ...。

あそこは排出するところだし、簡単には入らないみたいだし、乾いてるし。

つまりね!

女の子のアソコと違うってこと!

引いてしまったんでしょ?

だからだよ...男でごめんね、って言ったのは!」

 

怒った風の僕の言い方は、「ごめん」と謝ってはいても、開き直りの精神でいたのだ。

 

「うまいこと出来なくて、ごめんな」

 

「いいって。

僕も怖かったし...」

 

僕らはもう一度手を繋ぎ、ぱたんと二人同時に後ろに倒れた。

 

「はあ...なんと世知辛い世の中」

 

「障害があるほど燃えるぜ精神でいこうか?」

 

「うん」

 

繋いだ手に力を込めた。

 

僕らはしばし、黙ったままでいた。

 

「いいこと思いついたぞ」

 

突如、ユノは跳ね起きたので、僕もそれに倣った。

 

「いいか。

俺たちの周りには...」

 

僕の身体のラインを、人型に両手でかたどった。

 

「空気の層がある」

 

「空気の層?」

 

次にユノはもっと大きく、僕のラインをかたどった。

 

「この空気の層は、とても強力なバリアなんだ」

 

ファンタジックな例えに、僕は吹き出してしまう。

 

「笑うところじゃない。

俺は真面目に話しているんだ。

最後まで聞くんだ」

 

「わかったよ」

 

「ごちゃごちゃ言う奴のことは無視しろ。

このバリアのおかげで、俺たちのことを気味悪がる悪口は、俺たちの心には突き刺さらない。

俺がそばにいなくても、チャンミンのことをちゃ~んと想ってるから。

どんと構えていろ」

 

僕は自身の不快感と不安感ばかりに気をとられていて、ユノのことまで考えが及んでいなかった。

 

「友達が減ってしまっても、俺がいるんだ。

メソメソするな」

 

「うん...」

 

「俺はいわゆる...チャンミンの彼氏だけど、俺たちの事情を知らん奴からしたら、友人同士にしか見えない。

ここが男同士のいいところだ」

 

「...でもさ、いつかは噂が広まるんじゃないの?」

 

「チャンミ~ン。

うちの大学に何人学生がいると思ってるんだよ?

俺たちはミスター何じゃらじゃないんだ。

誰も注目する奴はいないって」

 

「でも、分かんないよ?

僕らの名前を知らなくてもさ、『あの子たちよ』って指さされるかもよ?」

 

「でもでもばっかり言うなよ~」

 

「でもっ!」と次いで出てしまった口を慌てて押さえた。

 

「コソコソ言われるのが嫌なら、俺と別れるか?」

 

ユノの台詞に、背筋が凍った。

 

「やだ!」

 

「だろ?

自信を持て。

俺はチャンミンと付き合えて、ほんっとーに嬉しいんだ。

雑魚どもの噂なんて気にするな...なんて、無理だよなぁ」

 

「...うん」

 

しょんぼりした僕の肩を、ユノはバシバシ叩いた。

 

「よし!

俺にいい考えがある!」

 

「?」

 

「決行は明日だ。

午後から会えるよな?」

 

「う、うん」

 

「チャンミンは堂々としていろ」

 

ユノの計画が何なのか、全く予想がつかなかったけど、自信満々の様子に僕は頷いた。

 

 

(つづく)

 

 

[maxbutton id=”23″ ]