(47)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

「はあはあはあはあはあはあはあはあはあ」

 

200mを全速疾走し、ゴールで崩れ落ちた陸上選手のように、ユノとチャンミンは荒々しい呼吸で全身を揺らしていた。

ユノはチャンミンに覆いかぶさる格好で、チャンミンはユノの腰に両脚を巻き付けた格好でそのままじっとしていた。

数分ののち、チャンミンの意識は夢から現実へと徐々に戻ってゆき、ユノの腰を拘束していた両膝を解いた。

ユノは装着していたゴムを外した。

その中に溜められた液体をしばし見つめた後、口を結びティッシュペーパーでくるんだ。

チャンミンは未だぐったりと放心しているようだった。

 

(ふっ。

せんせ、可愛い)

 

ユノはチャンミンの隣に横になると、しみじみとチャンミンを眺め、汗で濡れた彼の前髪を額からのける。

 

「せんせ?

大丈夫っすか?」

 

頬をつつかれて、うつろだったチャンミンの眼はユノの顔に焦点が合っていった。

 

「ユノさん...?」と、パチパチと瞬きした。

(『ユノさん』呼びに戻ってる...残念)

「失神してたっしょ?」

「...どれくらい?」

「う~んと、5分かそれ位っす。

せんせ、そこ汚れてます」

 

ユノはティッシュペーパーでチャンミンの腹と胸に飛び散ったものを拭きとった。

 

「めっちゃ飛んでますね。

しかもすげえ量」

「ユ、ユノさんこそどうなんですか?」

「見ます?

ゴミ箱にありますよ。

え~っと」

 

ユノがベッド下のゴミ箱に手を伸ばした時、チャンミンの目前に、ユノの股間がさらされた。

 

「ユノさん!

隠してください!」

チャンミンは両手で目を覆った。

「目のやり場に困ります!」

 

ぷい、と真っ赤な顔を背けてしまったチャンミンを見て、ユノは「仕方ないっすね」とため息をつくと、ハンガーラックに引っかかっていた下着を身に付けた。

 

「男同士なんすから、恥ずかしがる必要ないのに...」

「!」

 

チャンミンも自分こそ全裸のままだったと思い出し、大慌てでベッド下に丸まっていたタオルケットで股間を隠した。

 

「今さら、なに隠してるんすか?

さっきまで見せまくりだったじゃないっすか」

「あれはあれ。

今は今です!」

あっちこっちに放り投げられた衣服を身に付けていった。

アルコールは大量の発汗とともに抜けてしまったようだった。

 

「!」

 

素面に戻ったチャンミンが思い出したこととは...「そんなことより!」突然叫んだかと思うと、ベッドを駆け下り部屋のドアに飛びついた。

 

「......」

 

耳を澄ますと、階下からはTVの音と、父親の笑い声がするだけ。

父親に話しかける母親の陽気で高い声もしてこない。

(よかった~)

 

行為に没頭している間はお互いしか見えていないし、快楽の追求にのめり込んでいることから、ドアノブが回る音にも、室内で繰り広げられる光景を目の当たりにして「ひっ!」と息をのむ声にもまるで気づけなかっただろう。

 

(それはない...よね?

父さんは足の怪我で2階に上がってくるのは困難。

母さんは帰ってきていない...いないと言い切れるのか!?

実は帰宅していて、僕らを呼びに上がってきていたかもしれない!?

花火大会に行くのかと、僕らに声をかけようとしていたかもしれない!?

そして、見てはいけない光景を目にしてしまい知らんぷりを決め込もうとしているのかもしれない!?)

 

チャンミンは青ざめた。

 

「どうしたんすか?」

「えっと...僕らがアレしてたこと...バレてたらどうしようと思って」

「さあ...。

俺、ドアに背を向けてたし、せんせの声はうるさいし、全然わかんないっす」

「嘘っ!」

「声がデカかったのは確かっす。

『ヤバい』と思って口を塞いだら、手を噛みつかれるし」

ユノは赤く点々と付いた歯形をチャンミンに見せた。

「すみません」

「いいって。

そんだけよかったってことですからね。

俺たちのセックス...見られてないっすよ」

「どうして分かるのですか?」

「俺はせんせより理性保っていたから。

せんせってば、あっちの世界にいっちゃってたし」

 

チャンミンはユノの言葉を否定できず、「...そうですね」と認めざるを得なかった。

 

「あの...ユノさん」

「はい?」

「あの...あの嫌じゃなかったですか?

僕とのその...あれ。

男とヤッて、気持ち悪くなかったですか?」

「はあ?

何言ってんすか?

あんだけ盛り上がったのに」

 

ユノは顔を覆ってしまった チャンミンの手をどけた。

 

(泣いちゃった!?)

「僕...ユノさんが好きなんです」

「知ってますってば」

「男で、すみません」

「そういうの、もう止めましょうよ」と、ユノはチャンミンの頭を抱いた。

 

チャンミンはユノの肩に頭を預けた。

 

「俺だって、正直ちゃんとできるか不安でしたよ。

昨日みたいになるんじゃないかってね。

でも、そうはならなかった」

「......」

「好きな人と繋がりたい

せんせ、すげぇ色っぽかったし。

女の子のつもりで抱いたわけじゃないから」

「はい...分かってますよ」

 

チャンミンは涙をぬぐい、笑った。

涙をぬぐった後に見せた笑顔に、ユノのハートは撃ち抜かれたのだった。

 

「よし!」

ユノは手を叩いた。

「そろそろ行きましょうか?

お祭りに」

「はい。

そうですね」

 

真夏の日没はしばらく後だが、窓の外は薄暗くなりかけているようだった。

ユノとチャンミンは立ち上がった。

 

(つづく)

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(46)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

大好きな恋人の裸体を前にしたチャンミンは、機嫌実直四角四面公明正大誠心誠意そして温和勤勉な外面は、かなぐり捨ててしまった。

チャンミンの猛々しいものに圧倒され後ずさりかけたユノだったが、ベッドヘッドがその背中を邪魔した。

これで何度目になるのか、ユノは閉め切られたドアを見た。

 

(決めた)

 

ユノはチャンミンの手首を握った。

 

「!」

 

力任せに手を引かれたチャンミンは、ユノに覆いかぶさる格好で倒れこみ、至近距離で見つめ合うことになった。

 

「......」

 

2人は互い違いに顔を傾け、口づけた。

唾液の水音をわざとたてながら、息が続かなくなるまで舌を相手の口内で暴れさせ、おもむろに唇を離す。

唾液がとろりと糸を引く。

口づける。

歯茎をなぞり、上あごを舐める。

ふいに、チャンミンは唇を離した。

 

「?」

 

チャンミンの頭が消えた。

かと思ったら、強烈な快感がどくん、とユノの股間を襲った。

 

「せんせ!」

 

チャンミンはユノのものを美味そうに味わった。

チャンミンはちゅっぱちゅっぱ音を立て、裏筋にキスし、塩っぽい我慢汁を飲んだ。

「もっと舐めて欲しくてたまらなくなり、ユノはチャンミンの頭を自身の股間に押し付けた。

チャンミンは膝立ちすると、3本の指をねぶって唾液をからませた。

日頃、大人の玩具でいじっているおかげで、チャンミンの穴は柔らかく指3本などすぐに飲み込まれた。

チャンミンは仰向けになったユノの上に跨った。

そして自身の入り口に...物欲しげにパクパクと緩んだ入口に...勃起したユノのものをあてがった。

ユノのものに手を添え、ゆっくりと腰を下ろしてゆく。

 

 

くねくねくねらすチャンミンの細い腰がなまめかしかった。

情欲にどっぷり濡れたチャンミンの目と、煮えたぎる 冷静さを失いつつあるユノの目が絡み合った。

されるがままでいたユノだったが、右上がりに昂ってゆく快楽にいよいよ耐えられなくなり、激しく腰を突き上げたくて仕方ない。

 

(...でも、アナルは敏感だというから...)

 

壊してしまいそうで怖かった。

過去の彼女から、「ユノ君って丁寧なHをする」と言われたことがある。

ところが、自身の腰の動きに合わせて、ガタイの大きい男が女のように甘く喘ぐ姿を見下ろしていたら、ストッパーが外れそうになるのだ。

ユノが加減していることに気づいたチャンミンはおねだりした。

 

「いい。

もっと強く。

強くしていいから」

 

「わかり...ました」

 

がしがしと突き上げられて、チャンミンは幸福感に満たされた。

 

(そうそう。

これが欲しかった)

 

ユノは、苦しさのあまり浮いたチャンミンの腰を逃すまいと強くつかんだ。

ユノは腰を引き、一気に奥まで突いた。

肉と肉がぶつかる音。

チャンミンは「ひっ」と息をのんだ。

今下腹に触れてみたら、突き上げるユノのものの形が分かるのではと思われるほど、彼のものは大きかった。

 

「お、奥がいい」

 

チャンミンはおねだりする。

ユノはチャンミンの両膝を肩に担ぎ上げた。

星柄のカバーがかかった枕をチャンミンの腰の下にあてがうと、2人の接合部が真上を向いた。

真上から突きおろし、かと思えばチャンミンの腸壁の奥をぐりぐりと円を描くように刺激した。

きゅうきゅうに締め付けられた根元。

熱く、ぬめぬめとうごめく中。

ぬるぬるの腸壁が亀頭を包み込む。

ユノのものがさらに一回り大きくなった。

これから先は、快楽を追求するのみだ。

 

(せんせが可愛い。

可愛いせんせを乱したい。

 

(乱暴にされたい。

愛してほしい。

僕の身体を丸ごと味わってほしい)

 

チャンミンは荒々しいオオカミに変身した年下の彼氏に征服されたかった。

ユノはじれったいほど緩慢に出し入れし、チャンミンが物足りなさそうな表情になったのを見計らって奥まで挿入し、深く埋めたままとんとんとチャンミンの腰を揺らした。

 

「いいの。

奥がいいの」

 

「奥がいいんですね?」

 

ユノは嬉しかった。

挿入場所が違うだけで、愛する行為に性別は関係ないのだ。

 

「気持ちいですか?」

 

「うん、気持ちいい、気持ちいい。

好き。

好き」

 

「俺も好き。

好きっす...」

 

「あんっ、ああっ」

 

気持ちよさと苦しさにチャンミンの目尻に涙がにじむ。

ユノのものが太くて、結合部が裂けそうだった。

ユノのものが長くて、歴代の彼氏たちが到達できなかったスポットまで届きそうだった。

 

「ここは?

ここはどうですか?」

 

敏感になったチャンミンの身体は紅潮し、触れられてもいないのに乳首はピンと勃っていた。

 

「いい。

いいの。

もっと、もっと」

 

ユノはチャンミンの耳たぶを噛み、耳穴をべろりと舐めた。

 

「ああん!」

 

「声が大きい!」

 

ユノは慌ててチャンミンの口を塞いだ。

 

「だって...気持ちいいんだもの」

 

女の子みたいな言い方だな、とユノは思った。

 

「バレちゃいますよ?

約束したじゃないっすか?

声は出さないって?」

 

「ユノが、ユノが気持ちいいんだもの」

 

「ユノさん」呼びだったのが、呼び捨てに変わっていた。

その変化に興奮してしまったのか、チャンミンの中でユノのものが大きくなった。

 

「やだぁ、おっきい」

 

「しー!」

 

階下へ聞かれてはいけないのに、もっと喘がせたい。

普段の姿とのギャップがたまらない。

年上の彼氏を乱す支配感にぞくぞくした。

ユノの腰使いが荒くなってきた。

 

(やべー。

すげー気持ちがいい)

 

「ユノ、ユノっ。

もっと」

 

(せんせの顔、すげースケベ)

 

潤んだ目によだれは垂れ流し、涙がぽろぽろこぼれ、チャンミンの顔はどろどろになってしまった。

 

「んっ、やば。

せんせっ、気持ち」

 

ぎゅんぎゅんユノの亀頭を絞り上げる。

ユノはチャンミンの身体を起こす、膝の上に

 

「せんせ...イって。

俺...限界っす」

 

「んんっ」

 

ユノの根元を握りしめるように、チャンミンの入口がぎゅうっと収縮した。

チャンミンの意識は落ちそうだった。

意識は真っ白な世界を漂っていた。

その物理的刺激は、パンパンに張った水風船が圧迫されるようなものだから、試験問題を頭に浮かべてみたりして、射精までの時間を引き伸ばそうと努力した。

が、無駄な努力だった。

 

「イキましょう。

一緒に」

 

そう囁くとユノはチャンミンのものを握り、素早く扱いた。

 

「せんせ、イって」

 

チャンミンはもう、ユノの声など聞こえていない。

ユノは噛みつくようにチャンミンの唇を塞いだ。

そして、チャンミンの舌を吸った。

そうでもしないと、咆哮してしまいそうだったから。

 

「うっ、うぉっ...おおっ」

「ひっ、ひー、っ...ああーっ」

 

2人の身体がぶるぶるっと痙攣した。

ユノはコンドームの中に、チャンミンは自身の腹の上に吐露した。

 

 

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(45)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

旧式のエアコンは運転音がうるさいばかりで効きが悪く、涼しいとはいいがたい室温のせいもあるが、チャンミンの身体はアルコールと欲情によって熱の塊のようだった。

チャンミンの額からぽたりと落ちた汗は塩辛かった。

 

「ユノしゃ~ん」

 

キスを迫るチャンミンに首をぐらぐら揺さぶられながら、ユノの脳裏に30時間前に起きたあの一件がよぎった。

 

(今の勢いにのったら、うまくできるかもしれない。

でも...。

俺...うまくできるのだろうか?

あの失態を見せてしまうんじゃないだろうか?)

 

「......」

 

半日前の電話口で、「焦らずにいきましょう」と話したのはチャンミンの方だったにもかかわらず、アルコールが彼の理性を軽々と飛ばしてしまった。

チャンミンはユノの上に跨っている。

股間に血流が集まり始めているのをはっきりと、ユノの下腹は感じとっていた。

その存在をあえて分からせようとしているのか、チャンミンは怒張しはじめた自身をユノにこすりつけていた。

 

(くっそ...)

 

ユノは迷っていた。

 

(場所が問題なんだ。

ここが実家ってのが問題なんだ)

 

必死に頭を巡らせているおかげで、ユノのものは力ない。

 

「あれれ?

元気ないですよ?」

チャンミンはユノのそこを人差し指でつつ、っと撫ぜた。

 

「せんせっ...待ってください」

 

ユノはドアを見、耳をすました。

父親は怪我で階段を上がってこないし、母親も妹も外出中。

 

(もしかして...できるんじゃね?)

 

ユノはもう一度、ドアを見、耳をすまし、腕を伸ばして子供くさいサボテン柄のカーテンを閉めた。

 

「声、我慢できますか?」

「はい、よゆーです」

「じゃあ...アレ、持ってるっすか?」

「無くても構いません」

「ダメっすよ!」

「無しで構いません」

 

チャンミンはユノに構うことなく、Tシャツと汗で湿ったズボンをべろんと裏返しにしながら苦労して脱いだ。

ポイっと放られた衣類は、学習机の上に落下した。

 

「いやいやいやいや。

そういうわけにはいかないっす!

待って、待ってて」

 

ユノはベッド下に置いたバッグに手を伸ばし、外ポケットから目的のものを探りだした。

 

「さすが、用意周到ですね。

そうですよね、ユノさんはモテますから」

 

どうやら機嫌を損ねたらしい、チャンミンはつん、と顔をそむけてしまった。

 

「せんせ~、誤解しないでくださいよ。

これ、せんせの為ですってば。

ゴム買うのは久しぶりっす」

「その言葉、信じてあげましょう」

「そうっすよ。

俺は嘘つかないっす」

「ふ~ん。

女の子と花火行ったじゃないですか?」

 

解決したはずの合コン問題もチャンミンにとって言葉上のものに過ぎなかったようで、彼の中でしこりとなって残っていた。

「きっとこの先もずっと、このネタでねちねち言われるんだろうな」と、ユノはため息をついていた。

 

「ホント、あのことはすんません」

「いいですけど」

 

こんな会話を交わす間に、あれよあれよとユノは全裸にされてしまった。

チャンミンは脱がせた衣類を放ってゆき、ユノの下着はハンガーラックに引っかかった。

 

「ユノさん...いいですね。

すごくいい」

 

ユノの引き締まった筋肉の凹凸、がっちりとした腰骨、髪と同色の陰毛に、勃ちあがりかけた中心。

「ああ、絶景」と心の中でつぶやく。

チャンミンは頭のてっぺんから足先まで、ユノの身体を舐めまわすように見ると、にたり、と笑った。

 

(どきっ)

 

一糸まとわぬ姿を眺められているうち、ユノのものは硬さを増してゆく。

なぜか、女性に見つめられるよりも興奮した。

 

「せんせ...やっぱ、ここはマズいっす」

 

ユノは視線をドアに向けた。

階下から呼ばれたら...あのドアノブが回ったら...。

チャンミンは横座りすると、ユノのすぐそばまで顔を寄せた。

ふっと息を吹きかけた。

 

「せんせっ!」

「ふっ。

ほら、出てる」

「何が、っすか?」

「お汁」

 

チャンミンはこちらを見下ろすユノと目を合わせると微笑を浮かべ、先端にぷくりと膨らんだ雫をぺろりと舐めた。

 

「!!」

 

ユノは呻き声をあげそうになる口を手で塞いだ。

 

(つづく)

 

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(44)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

入浴を済ませたユノはチャンミンの自室へ案内された。

 

「お兄ちゃんが帰ってくるまで、ゆっくり休んでください」

「ありがとう」

 

ユノは『チャンミン』と札がかかったドアを開け、「おじゃまします」と一声かけてから足を踏み入れた。

正面にチェック柄のカーテン、右側に学習机と本棚、左側にシングルベッド、ドア側にクローゼットがあった。

ユノはベッドに上がると、ぐるりと部屋を見渡した。

物置部屋と化していたようで段ボール箱はプラスティック収納ケース、ハンガーラックなどで埋め尽くされている。

 

(せんせが育った部屋...)

 

学習机の上には、古臭いデザインの目覚まし時計、家電製品やクリスマスツリーの箱が置かれ、隣の本棚には教科書や辞書などが並べられている。

ユノは本棚から気になる1冊を抜き出した。

『○○年○○中学卒業アルバム』とある。

ユノはさっそくページをめくり、チャンミンを探した。

 

(せんせは...せんせは...どこだ)

 

15年前ともなると、面立ちが変わってしまう場合が多いものだが、チャンミン一筋のユノは容易に見つけてしまった。(わずか2クラスしかなかったこともあるが)

両目ぎりぎりまで厚く下ろした前髪、大きな目はカメラを睨みつけているように見えた。

 

(ふっ...せんせらしい)

 

集合写真では、とびきり背の高いチャンミンは最後列に立たされていた。

男女比は半々ほど。

(クラスの人気ものっぽいのが彼...クラスのひょうきん者っぽいのが彼...この子はモテそうだな...彼がこの中にせんせの初恋相手がいたりして...な〜んて)

カメラマンがシャッターを切る前に場を和ませたのだろう。

皆が破顔している中、チャンミンの笑顔はぎこちなさそうに見えた。

 

(せんせらしい)

 

満足したユノは、大の字に寝転がった。

ギリギリまで耐えてきた眠気に、いよいよ耐えられなくなってきた。

 

 

「...!」

 

息苦しさに目が覚めた。

 

「ぐっ」

 

ユノの目がパチッと見開いた。

寝ぼけた脳みそでは、自分の居場所を直ぐに把握することは困難だった。

何かで口が塞がれている。

酸素を求めて口を開いたところ、口内が熱くぬるりとしたものでいっぱいだった。

 

「っうぐ!」

 

窒素させようとする何かを押しのけようとした手は緊縛されたうえ、万歳の格好で押さえつけられてしまった。

手がダメなら...と、跳ね起きようとしたくても、ずしりと重いものが腰の自由を奪っていた。

 

(殺される~!)

 

手で口を塞がれているわけではないことが分かる。

視界の半分を邪魔しているものは...この耳の形、もみあげ、頬のシルエット。

 

「ぷはっ!」

 

ユノは緊縛された手を力任せにふりほどき、窒息させようとする者の顎をつかんだ。

 

「せんせっ~!」

 

犯人はチャンミンだった。

 

「もしか...酔ってます?」

「ちょっとだけ」

 

顔が真っ赤なのは、暑さや日焼けによるものじゃない証拠に、チャンミンはアルコールの匂いをぷんぷんとさせていた。

イベントの場では、打ち合わせだろうと準備だろうと、なにかと理由をつけてアルコールが登場するものだ。

当然今回もやぐらを組み上げた労いで、缶ビールが振舞われた。

暑く喉が渇いていたチャンミンは、ビールのロング缶を3本空にしていたのだ。

 

「ユノしゃん。

いい子いい子」

 

チャンミンはごしごしとユノの頭を撫でまわした。

 

「せんせったら...はあ...」

 

ユノは額に手を当て、やれやれとばかり大きくため息をついた。

目覚まし時計によると午後も半ばで、ユノは4時間ほど眠っていたことになる。

外はセミの鳴き声がうるさい。

 

 

チャンミンは、健やかに眠るユノの寝顔を目にしているうちムラっとしてしまったのだ。

 

「ユノしゃん...

H...しませんか?」

「はあ?

何言ってんすか!?

ここをどこだと思ってるんすか?」

「う~ん、っと」

 

チャンミンは目をつむり、両こめかみのあたりで人差し指をくるくると回していたが、「布団の上です!」と答え、ケラケラと笑った。

 

「そりゃそうですけど、思い出してください!

ここは、せんせんちっす!

それも、実家っすよ!」

 

すると「ユノさんは真面目なんですねぇ」と、くすくす笑う。

 

「せんせ。

いったん落ち着きましょう」

 

ユノの言葉を無視して、チャンミンはユノのハーフパンツを脱がさんとしている。

 

「せんせも寝不足っしょ?

昼寝しませんか?」

「やだぁ」

「!?」

 

ユノはちらりとドアに視線をやった。

チャンミンの手はユノの股間を撫でさすり始めた。

 

「ちょっ、何すん!?」

「ふふふ」

 

(くっそ~。

場所が悪い。

ここじゃなかったら、せんせに襲い掛かっていたのに!)

 

「あれれぇ?

おっきくならないねぇ」

「勃つわけないでしょう!?」

 

ユノは両手でチャンミンの頬を挟み引き寄せた。

 

「ひとまず酔いをさましましょう。

今は時も場所も悪いっす」

 

チャンミンの顔がくしゃりとゆがんだ。

 

(えっ、えっ!?

泣いちゃった)

 

「僕のこと...嫌いなんですね?」

「なわけないでしょう!?」

 

酔っ払いの戯言であっても、ユノにとって聞き捨てられない言葉だった。

ユノはドアを見、ついで耳をすました。

階下の居間では父親がテレビを見ている。母親はオードブルを受け取りに外出中。妹も彼氏とデートの予定があると出掛けていった。

 

(お父さんが怪我した足で様子を見にくる可能性は低いけれど...かと言って、ここでのセックスは、なんだか集中できなさそうだ)

 

ユノの首にしがみつき、「いいでしょう?」と甘えるに任せながら、ユノは冷静に頭を巡らせていた。

 

(つづく)

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(43)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

 

「まあ!」

 

チャンミン宅の女性陣は、眉目麗しいユノを前にして色めき立った。

食事や風呂を勧め、彼女たちの勢いに押されておろおろうろうろしていたチャンミンに客用布団を部屋に運ぶよう命じた。

 

「せんせのお父さんっすね。

お邪魔してます」

 

父親は横になっていたソファから飛び起きた(息子の『彼氏』とはどんな奴なのかと興味あるくせに、顔を出さなかった)

 

「ど、どうも。

いらっしゃい」

 

威厳ある父親を演ずるつもりでいたのに調子を狂わされ、どもってしまったところが息子チャンミンに似ていた。

 

「お湯がたまるまで、どうぞ食べて」

残り物でごめんなさいね」

 

ご飯に汁物、煮物や揚げ物、肉も魚も果物などなど、ダイニングテーブルに並んだ(今夜の宴会で供される予定のローストビーフも盛り付けられている)

 

「めっちゃ豪華じゃないっすか!

食べちゃっていいんすか?

美味い。

めっちゃ美味い。

生き返ります」

 

ユノは用意された食事をぺろりと平らげ、空になった麦茶のグラスをコトリとテーブルに置いた。

 

「お母さま」

「はい?」

 

ユノはチャンミンの母親を見つめてこう言った。

 

「お若いですね

綺麗なお方ですね」

「あら、やだわ」

 

母親はまんざらでもなさそうに、オホホホと笑う(母校のミス〇〇候補になった過去がある)

チャンミンはユノのリップサービスに呆れ、「調子にのっちゃうからさ、あまり褒めないでください」といなしたところ、ユノは真面目な表情でこう答えた。

 

「何言ってるんすか、せんせ?

俺は本気で言ってるんすよ?」

 

ユノの言葉はいつでも本心なのだ。

 

「Eちゃんも可愛い。

せんせに似て、可愛い。

モテるっしょ?」

 

ストレート過ぎる誉め言葉に、Eも顔を赤らめた。

 

(ユノって凄いな。

教習初日でも、ぐいぐいきたからなぁ。

でも、強引じゃないんだよなぁ)

 

チャンミンはユノのコミュニケーション能力にあらためて舌を巻くのだった。

 

 

「ごめん、ユノさん。

騒がしくって」

 

チャンミンは浴室のドアの向こうへ声をかけた。

只今入浴中のユノの為に、タオルと着替えを届けにきたのだ。

 

「全~然。

にぎやかでいいじゃないっすか。

...はあ、気持ちいっす。

明るいうちに入る風呂って、新鮮っすね」

 

ぬるめの湯が、長距離運転で凝った全身をほぐしてくれる。

 

「ぬる過ぎませんか?

調節の仕方分かります?」

「ちょうどよいっすよ」

「シャンプーとリンス、分かりますか?」

「分かりますって」

「身体を洗うタオルは...」

「せんせ~。

そんなに心配なら一緒に入ればいいじゃないっすか?」

「え゛!?」

「ははは。

ジョークっすよ」

 

チャンミンがゲイであることを、彼の家族が認知しているのかどうか未確認の状況で、大っぴらな言動は避けるべきである。

 

(内緒にしてるかもしれないし...)

 

恋人の実家で、恋人と共に湯船に浸かるような行為は、大胆かつ非常識極まりない。

 

「二人で入るには、湯船が狭すぎますよ」

「え゛!?」

 

今度はユノが驚く番だった。

 

「せんせが気にするとこって、『そこ』っすか?」

「ええ」

「恥ずかしいとか家族が気になるとかじゃなくて、風呂が狭いことっすか!?」

「ぎゅうぎゅうですよ。

僕らは体格がよいですし...」

「せ~んせ」

 

浴室のドアが開いた。

 

「な、なんですか?」

 

頭だけを突き出しているため、ユノの肝心の箇所はドアと湯気が邪魔をしている。

 

「ふっ...せんせって面白い人っすね」

「どこが、です?」と、チャンミンは首をかしげた。

 

(ちょっとずれてるせんせ、可愛い~!)

 

チャンミンへの愛情が溢れ出てしまい、ユノはたまらなくなってチャンミンにキスをした。

 

チュッと音をたてた、唇を押し当てるだけの子供っぽいキス。

ユノは目を白黒させるチャンミンへ優しい微笑みを見せるのだった。

と、その時。

 

「お兄ちゃ~ん。

時間大丈夫なの?」

 

Eが大声でチャンミンを呼んでいる。

 

(あ!

そうだった!)

 

チャンミンは今日の用事を...慌てて帰省する羽目になった理由...を思い出した。

集合時間まで10分を切っていた。

 

(ユノを後に残しておくのは心配だ)

 

「ほら~、せんせ、行かなくっちゃ。

あ~あ、この後せんせとエロいことしようと思ってたのになぁ。

残念」

「何言ってんですか!?」

「ふっ。

実家の子供部屋でH...すげぇエロくてそそられますが、なんか落ち着かないんで

襲ったりしないから安心して下さい」

「なっ!

ユノさん!」

「ははは。

俺...これから寝ます。

やっぱ、疲れてるみたいっす」

 

ユノは頭を引っ込めると、ドアの隙間からひらひらと手を振った。

チャンミンはその手をぎゅっと握った。

「お利口にしていてくださいね。

終わり次第、すぐに帰りますから」

「いってらっしゃい、せんせ」

 

曇りガラスからチャンミンの姿が消えるのを待って、ユノは湯船に身体を沈めた。

 

このまま寝入ってしまいそうに疲れていた。

 

(つづく)

 

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