保護中: チャンミンせんせ!

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(30)僕を食べてください(BL)

 

 

~花火~

 

 

普通の恋人同士みたいなことをしたいと望んだ僕が間違っていた。

 

ユノがあまりにも人間みたいな姿形をしているから、ユノが時折見せる優しさに僕は多くのことをうっかり期待してしまう。

 

花火を見に行こうと誘ったときユノは渋い顔をした。

 

この日は、処理場まで空のポリタンクを返しに出かけ、その帰り道で林の中で交わった。

 

幹に両手をついて屈んだ僕の背後にユノは重なった。

 

頭上からセミの鳴き声がわんわんと響き渡っていた。

 

熱くなった身体を冷やすため谷川に身を浸しながらも、僕らは交わった。

 

気怠い身体でマットレスに横になっていた時、僕はユノを花火大会に誘ったのだ。

 

「人混みは好きじゃない」

 

ユノは首を横に振った。

 

「でも、夜だし。

きれいに見られる絶景ポイントがあるんだ。

誰も知らない場所だし、暗いし...」

 

必死な僕の様子に根負けしたユノは、僕の頭を撫ぜると「分かったよ」と頷いた。

 

X5に乗り込もうとするユノを制して、「歩いて行こう」と。

 

ユノと2人並んで歩いてみたかった。

 

普通の恋人同士のように手を繋いで。

 

それが間違いだった。

 

「仕方がないなぁ。

俺の足腰は丈夫だけど、チャンミンの方こそ大丈夫か?

ま、いっか。

その時は俺がおぶってやるから」

 

隣を軽快な足取りで歩くユノに見惚れる。

 

神様がこしらえたかのような美しい人形...喋って、歩いて...。

 

月明かりに照らされたユノの青白い頬にキスをする。

 

くすぐったそうにユノは笑い、僕の手を強く引き寄せて、よろめいた僕の唇を塞ぐ。

 

懐中電灯は後ろポケットに突っ込んでいた。

 

ユノがいるから夜道も怖くない。

 

ユノの手の中に僕の手はすっぽりとおさまっている。

 

心の底から僕は...幸せだった。

 

ぱっと山が白く光った。

 

木々の枝葉がくっきり分かるくらい照らす。

 

遅れてどーんという轟音が響く。

 

「あがった!」

 

山と山の隙間から白い光の粒が、ぱらぱらと音をたててこぼれ落ちる。

 

「へぇ...いい場所だね」

 

ガードレールにもたれたユノのシャツが、ぼうっと白く浮かぶ。

 

毎年、僕はこの場所で両親と花火を見ていた。

 

当時の僕は、花火よりも出店のりんご飴や水風船に心惹かれていたから、花火が終わるのを今か今かと待っていた。

 

視界が開けたここは花火の全景を見ることが出来る。

 

花開く爆発音が、山々に反響する。

 

「帰りに買ってあげるからね」

 

虫よけスプレーをたっぷりと吹きかけられた脚を、アスファルトの上に投げ出していた僕に母は声をかけた。

 

「やった!」

 

無邪気だった僕は、飛び起きて車に乗り込んだ。

 

花火見物の後、祭り広場まで向かう道中で僕らの車は事故に遭ったのだ。

 

 

 

 

通り過ぎる車のライトが、僕らを舐めるように照らし出していく。

 

「奇妙に思わないか?

夜半に山道を歩く者がいるなんて?」

 

「今夜は花火大会だから、似たような人たちがぞろぞろ歩いてるよ。

だから、気にしなくていい」

 

「ふうん」

 

さっと僕らをかすめるように、1台の車が走り去った。

 

「危ないなぁ」

 

「ここの峠道は走り屋たちの聖地なんだよ」

 

ブレーキ音をきしませながらカーブを曲がる度、山のあっちこっちとライトが光で木々を照らしている。

 

「縦に並んで歩こうか」

 

「うん」

 

閃光が僕の視界を奪った。

 

「チャンミン!」

 

どんと背中を突き飛ばされた。

 

ブレーキ音と鈍い音。

 

ガードレールに腹を打ち付けた僕は、首がもげるほど素早く振り向いた。

 

道の中ほどに、白い塊が転がっていた。

 

手足が奇妙な格好に折れ曲がっている。

 

光に弱いユノの目は眩んでしまったんだ。

 

だから、敏捷に動けなかった。

 

のろまな僕が近くにいたから。

 

どうして歩いて行こうなんて言ったんだろう。

 

花火大会に誘った僕が悪かったんだ。

 

「ユノ!」

 

凶器となったその車は、タイヤをきしませて走り去ってしまう。

 

追いかけようとか、ナンバーを記憶しようとか、そんな余裕はゼロだった。

 

僕の腕の中でぐったりとしたユノを、揺さぶった。

 

「ユノ!」

 

懐中電灯で、ユノの身体をあらためた。

 

髪がぐっしょりと濡れている。

 

「ああ...ユノ...!」

 

ごぼっと嫌な音がして、ユノの口から血が噴き出した。

 

「ああ...ユノ...なんてこと...」

 

ユノの血の色は、僕と同じ色。

 

...でも、病院には連れていけない。

 

僕はユノをおぶって、廃工場までの500メートルの距離を歩く。

 

ぞっとするほどユノは軽かった。

 

一歩前に進むごとに、ユノの魂を道程にこぼしているかのように。

 

僕のTシャツが、じわじわと濡れていく。

 

マットレスの上にユノを下ろした僕は、ユノの損傷を確かめる。

 

凹んだ側頭部から、血があふれ出ている。

 

「ユノ!」

 

ユノの頬を叩く。

 

「ああ...」

 

かすれた声と共に、うっすらと目を開けた。

 

人間だったら即死だっただろう。

 

よかった...ユノが人間じゃなくて...本当に良かった。

 

でも...。

 

ユノの瞳の色が、淡い水色になっていた。

 

生き物が棲めないほど透明に、澄んだ池のように。

 

ここまで明るい瞳の色は、初めて見た。

 

どう猛な気性の時は黒く、悦びと好奇心に満ちると青に近づく。

 

白に近づいた時...ユノはどうなってしまうんだ?

 

出血がひどい。

 

「ユノ!」

 

僕は手首の内側を、ユノの唇に押しつけた。

 

「ユノ!

噛みつくんだ!」

 

力がみなぎるという、人間の生き血だ。

 

「やめろ、チャンミン!」

 

ユノはイヤイヤをするように、小刻みに首を振った。

 

「やめろ...」

 

ユノの唇に力いっぱい手首を押しつけたが、彼は顔をそむけ、唇を引き結んでしまった。

 

「噛め!」

 

ユノは口を開けない。

 

僕は勢いよく立ち上がると、事務室のスチール製デスクの引き出しを、かきまわした。

 

ユノを助けないと!

 

3つ目の引き出しで目的のものを見つけると、ユノの側に戻った。

 

カッターナイフで、容赦なく手首を切りつけた。

 

カッと焼けつくような激痛が走った。

 

肘をつたった血がぼたぼたっとマットレスに染みを作る。

 

僕はどうなっても構わなかった。

 

ユノを死なせるもんか。

 

砂を噛むような毎日だった僕の世界に、突如現れた男神。

 

最初は、肉体だけの繋がりだった。

 

彼がもたらす快楽に溺れ、それを愛だと勘違いしていた。

 

でも...今は、違う。

 

ユノの首の下に腕を通し、身体を起こす。

 

温かいものが僕の腕を濡らしていく。

 

僕の力では到底かなわないほど力強かったユノの腕は、だらんと垂れたまま。

 

「ユノ!」

 

僕に揺すられるがままのユノ。

 

ユノの呼吸は弱弱しく、うっすらと開いたまぶたの下の瞳はうつろだった。

 

顎をつかんで無理やり唇を開かせ、その隙間に手首から滴るものを含ませる。

 

「飲め!」

 

僕の声が、廃工場に響き渡る。

 

 

(つづく)

 

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(29)僕を食べてください(BL)

 

~もっともっと~

 

 

僕らは交わりながら、体位を変える合間に会話をする。

もしくは、激しく互いを貪るようなセックスの後に裸のまま。

 

「人間の血の味に慣れると、大変なんだってさ。

もっともっと欲しくなるんだって。

力がみなぎって感覚が研ぎ澄まされて...人間でいうと、麻薬をやったみたいになれるんだって。

これは、同じ種族の者に聞いた話」

 

ユノはするすると僕の股間まで頭を下げて、勃ち上がりかけた僕のペニスの亀頭にちゅっとキスをした。

唇を離すと、つーっと僕の先走りが糸を引き、ユノはそれを舌で舐めとった。

 

「チャンミンの味がする」と耳元で囁いたりするから、僕は赤面するしかない。

 

「飢えて苦しむのは目に見えてるから、人間の血にだけは手出ししないようにしてた。

俺はせいぜい、恋人のものを一滴舐めるだけ。

...何度も噛みついてしまってごめん」

 

僕を射精に導いたユノは、口を拭いながら枕の高さまで戻ってきた。

 

「本当は、飲んでみたいんでしょう?」

 

「そうだなぁ...。

でも、俺は生きている人間から直接飲んだ経験はないからなぁ。

その魅力がどれくらいのものなのかは、俺は知らない。

憧れるけどね」

 

「僕を...もっと美味しくしてから、食べるってどういう意味なんだ?」

 

「愛する恋人っていうのを、食べてみたかったんだ」

 

「恋人?」

 

「食べるって言い方はおかしいな...。

恋人の生き血を飲んでみたかったんだ。

老いさらばえて死を迎えるのを待つことに、ウンザリしていた」

 

心など摩耗してしまったとユノは言うけれど、本当は恋人を亡くし続けて悲しくて仕方がないんだ。

ユノの言う「ウンザリ」とは、そういう意味に僕は捉えていた。

 

「一度だけでいい。

自分の手で恋人の命を奪ってみたかった。

若く、美しい姿でいるうちに」

 

ユノの指が僕の顎を捕らえた。

顎の骨が砕けそうな力加減ではなく、ふわりとしたタッチで。

ユノの中に残る優しい気持ちのあらわれなんだ、きっと。

内出血で青黒い痣が浮かびかけた両手首をさすりながら、僕はそう思った。

 

「チャンミンを惚れさせ、服従させ、怯えた視線を浴びながら、じわじわと少しずつ血を抜いてやろうと思った。

残忍だろ?」

 

ユノが言うと、全然残忍じゃなかった。

僕はごくりと喉を鳴らす。

恐怖じゃない。

ユノの小さな頭が僕の肩にもたせかけられた。

その軽さがユノの命の重さなんだと想像して、哀しくなる。

命を節約しながら生きているユノは、僕らから見ると、生きているとは言えないくらい薄い命なんだ。

 

「でも、途中で気が変わった。

俺は、チャンミンに惚れた。

生かしておきたい」

 

僕もユノに惚れている。

命がけで。

 

 

 

近くまで『調達』しに来るというユノと、僕は街中で待ち合わせることもあった。

ユノの廃工場には電話がないから、ユノから誘いの電話がかかってくるのを、僕は寮で待つ日々だった。

僕は毎日でも交わりたかった。

がむしゃらだった僕のセックスも、コントロールする術を身につけてきていた。

 

「チャンミンもうまくなった」とユノに褒められると僕は赤面してしまい、そんな僕の様子をユノは笑った。

 

ユノのX5のラゲッジスペースには大きなクーラーボックスとスーツケースが積み込まれていた。

ユノの食糧調達に必要なもの。

(Sさん経由のものだけじゃ足りない時は、それなりのルートを通して手に入れているんだって)

X5はホテルの地下駐車場のスロープをゆっくりと下りていく。

この日のユノは、ダスティブルーのサマーニットとホワイトデニムという爽やかないでだちで、係員にキーを預けた。

僕はユノにもたれて腰を抱かれる。

エレベータの中で、股間をつかまれた。

デニムパンツの上からでもくっきりと、僕のものが浮かび上がるくらい、高ぶっていた。

部屋に入るなり、互いの唾液でどろどろになるような深いキスを交わす。

互いに性急に衣服を脱ぎ捨てる。

 

「あっ...あ...あっ...」

 

ユノの白い腰の中心で猛々しくなったものに、僕は欲情で沸騰しそうになる。

ユノは僕を仰向けにすると、お尻をこちらに向けてまたがった。

心得ている僕は、開脚して腰を浅く持ち上げた。

僕のお尻を割ったユノは、「おやおや」と呆れ声を出す。

 

「...だって...」

 

「準備万端じゃないか。

いつから入れてた?」

 

「...あ、朝から」

 

「チャンミンは、どスケベのど変態だ」

 

その口調は嬉しそうだった。

ユノと会えない期間が空くし、僕の手だけじゃ限界もある、会ったら直ぐに繋がりたかった。

 

「おい。

口が留守になってるぞ」

 

「...うんっ...」

 

上からぶら下がるユノのペニスを喉をのけぞりながら咥え、破裂音を発せながらしゃぶった。

ペニスの先をしごきながら、ユノの睾丸を口いっぱいにふくんだり、柔く吸ったりする。

 

「フェラチオは下手クソのままだな」

 

僕のお尻はバシッと叩かれ、かっと熱く広がる痛みが快感に変わる。

 

「...だって...だって」

 

ユノは、僕の穴を塞いだプラグをねじったり、抜けるぎりぎりまで引いたかと思えば押し込んだりする。

 

「んあっ!」

 

それを使ってのピストン運動が始まった。

僕のお尻をユノの手の平が叩く音が、室内にリズムを刻む。

僕の膝が小刻みに震えている。

 

「だめぇっ」

 

ユノの手が僕のペニスに回ってきたから、跳ねのけた。

イキそうになって、自身の根元を指で締め付けた。

 

「それ、やだっ...やだ...。

ユノの...ユノのでイキたい!」

 

ユノの両ももの間から抜け出た僕は、傍らに膝まずいて彼のペニスを頬張り直した。

頭を前後に動かし、手も舌も使って愛撫する。

ユノも僕の後頭部を押しつけながら、かくかくと腰を前後させる。

 

「んっ...んぐっ...ぐっ、んん...!」

 

ユノのペニスが喉奥に当たり、窒息しそうになるけど、ユノはこれ程度じゃ解放してくれない。

えずきを堪えて、涙をにじませながら僕は必死で奉仕する。

ぐぐっとユノの腰が痙攣して、喉奥に注ぎ込まれた熱いものを、僕はごくりごくりと飲み込んだ。

ユノのものは未だ臨戦態勢で、粘液にまみれて光っている。

僕の喉が、ごくりと鳴る。

気付けば僕は、うつぶせになって尻を高く突き出した姿勢でいた。

 

「欲しくてたまらないんだな。

ゆるゆるだぞ?」

 

僕のお尻に刺さったプラグを、くいくいと引っ張るから、それに合わせて僕はおかしな声をあげてしまう。

 

「このまま挿れてやろうか?」

 

ユノは信じられないことを言った。

 

「やっ!

無理、無理だって...」

 

ユノは自身ののペニスにたっぷりとローションを追加した。

 

「さて...と」

 

根元に手を添えて、シリコン製のものが刺さったままの割れ目に沿って滑らした。

 

「やだっ...抜いてよ、抜いてから!」

 

「どうかなぁ。

やってみないと分かんないよ」

 

「やっ、やっ...ダメっ...ダメだってぇ」

 

どうやらユノは、小道具を埋めたままの入り口に、自らのペニスを突っ込もうとしているようだった。

 

「...そんなっダメ、ダメ、無理無理っ...止めてったら!」

 

ぞっとした僕は叫ぶ。

身を起こそうとしたのを、強靭なユノの手で封じられる。

 

「ふうん。

チャンミンが可哀想だから、これは止めといてやるか」

 

「ひゃあんっ!」

 

勢いよくプラグが抜かれ、全身を貫く電流に僕は前のりに突っ伏してしまった。

ユノは手にしたそれをベッドの向こうに放り投げた。

 

「こいつで勘弁してやるか」

 

「えっえっえっ...?」

 

ぬるっと冷たいものが入り口に当てられ、とまどう間もなく、ユノの指によってその何かが押し入れられた。

振り向くと、僕のお尻からひも状のものがぶら下がっていた。

 

「凄いなぁ...飲み込んでいくぞ」

 

「ああぁんっ!」

 

紐の先の先端のものを装置を操作した。

腰奥で振動する異物...ちょうど弱くて敏感な箇所に位置していたから、視界が真っ白になる。

 

「ひゃぅっ...やー、やっ、壊れるって、壊れるっ!」

 

僕の制止なんて聞く耳を持たないユノは、ダイヤルを最強にしたようだった。

 

「いっ、いいっ...ひっ、ひぃっ...!」

 

快感を逃そうとシーツを握りしめる。

ホテルのシーツはパリッと糊がきいていた。

 

「いい子だから、じっとしていろ...。

もう一個追加だ」

 

「そんな...ダメ...ダメだって...!」

 

「気持ちよくさせてやるから」

 

「それはっ...あっ...あぁぁ...!」

 

ユノはもう1つのそれを僕の奥まで押し込むと、ひも状のものの先端を操作した。

2つの異物がぶつかり合い、振動を増幅させるから、快感もとんでもないことになる。

多分、この時点で一度はイッてしまったと思う。

 

「すごいねぇ。

エロおもちゃだけで、イッちゃったよこの子は」

 

「...っく、ひっく、ひぃっく...」

 

僕はしゃくりあげている。

 

「さてさて、3つ目はどうかなぁ?」

 

返事が出来る状態じゃなかった。

口は開きっぱなしになり、とめどなく唾液が顎を濡らす。

 

「...と思ったけど、可哀想だから止めておく。

その代わりに、お待ちかねのを突っ込んでやるよ」

 

ユノのペニスがみちみと僕の中に侵入してくる。

 

「やーやー、壊れる...!

おっきいの、ダメ...おっきいの、壊れるっ...やー!」

 

ユノの亀頭が入り口をずくずくと刺激する。

加えてユノの根元が、僕の股間の裏を振動する卵を圧迫する。

ユノのピストン運動に合わせて、僕の両ももの間でカチャカチャと2つのスイッチがぶつかっている。

切な過ぎる痺れに、僕は肩からベッドに倒れこんだ。

 

「イっちゃうイっちゃうイっちゃう、イっちゃうってばぁ!!」

 

イキそうになると、僕の尻は叩かれる。

 

「イクな!

...なんて言ってて、もうイッてるじゃないか」

 

「ひぃっ...ひぃっ...ひっ、ひっ...」

 

腰が砕けるような恍惚の世界を知ってしまったら、僕はユノにひれ伏すしかないじゃないか。

叩きつけるユノの腰のスライドも、勢いも加速した。

僕は枕を噛みしめた。

ユノの低い呻き声が、僕を感じさせる。

 

「やめてっ...もう無理無理...!」

 

「止めて欲しいのか?」

 

再びユノにお尻を叩かれた。

 

「や、ヤダっ...止めないで...!」

 

僕らの蜜の池は水深100メートルまで深くなり、黄金色の水面は遠すぎてもう見えない。

浮上したくない。

水面から顔を出したら、モノクロの世界が広がっているだけなのだから。

幸せなのに不幸せ。

僕を混乱させる。

 

 

(つづく)

(28)僕を食べてください(BL)

 

 

~縛ってください~

 

 

電車の発車時刻ぎりぎりまで、僕らは互いの身体を貪った。

僕が貪られた。

もっと正確に言うと、貪られるのを望んだのは僕の方だ。

互いの性器を丹念に舐め合い、味わった。

前夜見た夢のことを思い出しながら、ユノに貫かれる。

モノクロの世界の中、僕が全身を浸していた池だけ血のように真っ赤で、唇についたその水はザクロの果汁だった。

僕とユノとの恋には、先行きの見えない前途多難の予感しかしない。

僕らを取り囲む世界は灰色と黒色。

甘い蜜の池に沈んでいる間は、そのことを忘れられるんだ。

 

「縛って」

 

「正気?」

 

「僕を繋ぎとめて欲しい。

だから...縛って...」

 

ユノは僕を憐れむような眼で見た。

脱ぎ捨てられたデニムパンツからベルトを引き抜き、配管に通すと僕の手首に巻き付けた。

 

「もっときつく」

 

「痕が残るぞ?」

 

「構わない...っ!」

 

ぎりぎりと手指の感覚がなくなるまでベルトが引き絞られた。

両腕を上げた状態で手を拘束され、自由を奪われた。

腕を下ろすこともできない。

僕の身体はユノに弄ばれるんだ。

僕は狂っている。

 

「チャンミンはやらしいなぁ」

 

そう言って、ユノは僕の額に唇を押し当てた。

 

「可哀想だから脚は縛らないでおく。

ただし、動かしたら駄目だ。

少しでも動かしたら...」

 

ユノは立ち上がるとマットレスを離れ、ボトルを持って戻ってきた。

ボトルを傾けて手の平いっぱいに中身を注ぐと、とろとろになった両手で僕のペニスを包み込んだ。

 

「ああっ...あうっ...」

 

快感を逃そうと膝を動かしたら、ユノは僕のペニスから手を離してしまった。

 

「舐めてあげないし、しごいてもあげない。

...じゃないか!

チャンミンにはペニスは必要なかったんだ!

チャンミンはこっちのほうが...」

 

つぷり、とユノは2本の指を僕の入口にねじこんだ。

 

「...んはぁっ!」

 

がくんと僕の膝が折れる

 

「ひっ...」

 

腰を落としてしまいそうになるのを耐える。

かかとに力を込めて、快感にのたうち回りそうになるのを堪える。

強めに中をこすられて、開きっぱなしの僕の口から唾液が漏れる。

ぷすぷすと入り口から漏れる空気の音が、卑猥過ぎる。

両手を握りしめようとするが、血が通わないせいで力が入らない。

 

「はっ...あっ...」

 

睾丸を握られて、僕は短い悲鳴をあげる。

 

「あぁっ...あぁぁ...」

 

痛みと快感の狭間をいったりきたりして、僕はどうにかなってしまいそうだった。

イキそうになると、ユノは動きを止めてしまう。

ベルトの固い革が僕の手首の皮膚を、傷つけていく。

 

 

 

午前10時の廃工場内に、僕の嬌声が響き渡る。

左右に揺らすだけのユノの動きがもどかしくて、自らも腰を揺らした。

 

「動くなって言っただろう?」

 

乳首が強くつねられて、僕は歓喜の悲鳴をあげてしまう。

 

「いっ...!」

 

「気持ちいいか?」

 

「うん...いいっ...いい...もっと...」

 

「もっと?」

 

僕の口元に耳を寄せて、「ここ?」と乳首をぐりっと押しつぶした。

僕の身体は、激しくのけぞる。

まるで、水槽から引き揚げられた魚が、まな板の上でびちびちと跳ねるように。

 

「あっ...ん...そう...そこを...もっと」

 

僕のペニスはこれ以上ない程に硬く膨れ上がって、下腹が痛いくらいだ。

動かして欲しい。

引っ張るほど手首に革が食い込むばかりで、強烈な性感から逃れられない。

幸福から逃げたくなる、でも逃げられないから幸福なんだ。

自分がそう仕向けたんだ。

不自由な状況下で一方的に与えられる快感に、目が眩むほど僕はのめり込んでいた。

手首の痛みがもはや、快感になっていた。

さんざん焦らされ、フラストレーションが溜まって爆発しそうだった。

ようやくユノが腰を埋めたときには、僕はイッたのかそうじゃないのか分からなくなっていた。

 

 

「はぁはぁはぁ」

 

まるでシャワーを浴びたかのように、僕の全身は汗びっしょりだった。

これから帰りの電車に乗らなければならないというのに。

手首の拘束を解かれた。

案の定、内側のやわらかい皮膚が帯状に擦りむけ、血が滲んでいた。

しびれた手指を開いたり閉じたりしていると、血の気が戻ってきた。

 

「種明かしをしてあげよう」

 

ユノは僕の手首をとると、自分の方に引き寄せた。

そして、ユノ自身の親指の付け根辺りに噛みつく。

ユノの口が離れると、犬歯がつけた2つの穴からぷくりと血が膨れ上がり、張力を越えたそれはたらりとユノの手首を汚した。

何が始まるんだ?と僕は固唾を飲んで見守る。

ユノはその手を、僕の両手首にこすりつけた。

 

「!」

 

僕の血とユノの血に覆われていて、その変化を確認することはできなかったが...。

タオルで僕らの血が拭われると、

 

「はい、出来上がり」

 

まっさらな僕の手首があらわになった。

消えた二の腕の傷の謎がこれで解けた。

 

 


 

 

乗り換えの駅を知らせるアナウンスに、僕は席を立った。

つい数時間前まで、緑迫る山中にいたことが嘘のようだった。

何の気なしに空虚な気持ちで帰省した結果、僕が陥ってしまったこと。

僕の魂を持っていかれた。

僕はもう狂っていた。

僕はもう一度、ユノに会いたかった。

文字通り骨の髄までしゃぶられたかった。

僕をもっといたぶって欲しかった。

飽くことなく抱き合いたかった。

 

もっと、もっと。

 

 

 

街にもどった僕は、1週間も待てずに再び故郷へ向かった。

 

 

 

週末の度、僕は帰郷してはユノと抱き合った。

遠慮のなくなったユノは僕の前で堂々と「食事」をするし、その傍の僕は自分の弁当を広げるだけの図太さを身につけた。

山中で動かなくなってしまったユノを助けた方法とは実に野蛮な行為で、もう一度やれと言われたら足がすくんでしまうだろう。

 

「ユノ...それはその...美味しいの?」

 

ファストフード店のカップに移し替えたそれを、ストローで吸うユノにおずおずと尋ねた。

初めて襲われた日も、こんな風にユノは「食事」をしていた。

あの時は、ストローを通るものの正体は知らなかった。

 

「まあまあ。

もっと美味しいものを知っているけれど、それは我慢して代わりにこれを飲んでいるだけ」

 

僕は唾を飲み込んでから、おずおずと尋ねた。

 

「ユノは...僕のを吸いたいと思ったことはないの?

でも...噛みつかれたら僕も...ユノみたいになるの?」

 

「あはははは!」

 

ユノのはじけるような笑顔が、工場に響き渡った。

お腹を抱えて笑っている。

 

「酷いな...そんなに笑わなくたって」

 

ムッとした僕に対して、目尻に浮かんだ涙を拭うとユノは、

 

「何回俺に噛みつかれたと思っているの?

その通りだったら、チャンミンはとっくに『変身』してるよ」

 

「確かに...」

 

「チャンミンは、本の読みすぎ、テレビの見過ぎ。

人の血を吸い、日光と十字架とニンニクに弱いって?

噛まれた人間は、吸血鬼になっちゃうって?

そんなんじゃないよ、俺は」

 

「じゃあ、何だよ?」

 

「動物の血を食糧としている、寿命の長い、人間の姿をしたバケモノ。

野生動物みたいなものだから、夜行性なんだ」

 

ユノは顔を寄せると僕の唇を塞ぐ。

血の味がするキス。

その血は僕のでもユノのでもなく、イノシシの血なんだから怖気がたつ。

ちょっとしたことでは驚かなくなった僕は、この程度では怯まない。

 

 

あの朝、Sさんは檻の中の猪を僕に手伝わせて、処理場内まで運搬した。

そして、その喉をナイフを一突きし、勢いよく吹きだす血液を巨大なたらいで受けた。

ここからが凄かった。

ユノに大きな漏斗を咥えさせると、なみなみとたらいを満たしたものをひしゃくですくって、漏斗に注ぐ。

ユノの口から外れないように漏斗を支えるのが僕の役目だった。

最初のうちはただ、ユノの口を溢れさせるだけだった。

ごぼっと一度むせた後はごくりごくりと喉を鳴らして飲み込むユノの様子に、僕は安堵したし、ぞぅっとした。

ここで踏ん張らないと、生まれて初めてつかんだ恋を失ってしまう。

立ち去るのも、留まるのも全て僕の次第なのだ。

 

「生き血が一番いいんだ」と、Sさんは言っていた。

 

SさんとSさんの伯父さん、ユノがどういう繋がり方をしたのかは、僕は知らない。

 

「ギブアンドテイクの関係」だとSさんは言っていた。

 

過去に何らかの形でユノに助けられたことがあったんだろうけど、僕には関係のないことだ。

 

獣を「処理」する際に出る、捨てられるだけの大量の血液をSさんはポリタンクに詰め、それを指定の場所に置く。

 

ユノはそれを定期的に回収していく。

 

「魅入られてしまったら、もうお仕舞いだ」のSさんの言葉通り、僕は「なかったこと」にして立ち去ることは出来なかった。

 

「あの日、僕を襲ったのは、僕の血を...吸おうとしたから?」

 

僕はユノを横抱きにして、柔らかくて冷たい耳朶を舌先でくすぐった。

 

「半分は正解、半分は外れ」

 

「と、言うと?」

 

「あの時は、空腹だったんだ。

若くて美味しそうなチャンミンを見つけて、後を追っていた」

 

ユノの足音も気配も、一切なかったことを思い出した。

 

「僕を殺そうと?」

 

アハハハと、またユノが笑った。

 

「失血死するまで吸うのは、大変だよ。

4リットルも飲めるわけないだろう?

ちょっとだけ、舐めてみたかっただけ」

 

戯れ程度に舌や唇、耳たぶに噛みついていたのは、僕の血の味を楽しむためだったのだ。

 

「チャンミンが小さな坊やだった時。

あの頃、処理場の案は既にあった。

Sさんの仲介でね。

当初は、この工場を活かして建設する予定だった。

でも、お前のご両親の事故があって、周囲が騒がしくなったから延期することにした。

下見に来ていた時...血の香りに誘われて行ってみたところ...お前に会った、というわけ。

血まみれのお前が美味しそうだった。

でも、止めた」

 

「止めたのは...なぜ?」

 

「子供過ぎたから」

 

僕の割れ目にユノの手が伸び、中指を挿入してゆっくりとかき回した。

 

「...んっ...あ...はあぁぁ...」

 

ユノの指が僕の弱いところをかするたび、僕の下腹が波打った。

 

「ねぇ、思ったんだけど...。

僕の側にずっといたら、ユノは飢えずに済むよ」

 

「それが出来たらいいのになぁ...。

でも無理だ」

 

哀しそうに苦しそうに、ユノは笑った。

群青色の瞳に、僕の顔が映っている。

切れ長のまぶたの下の、青い星。

 

 

(つづく)