(12)僕を食べてください(BL)

 

 

~縛られて~

 

 

目尻に涙を溜めて、僕はユノに哀願の眼差しを向けた。

能面のように無表情だったユノの頬がきゅっと上がって、笑ったのが分かる。

 

「チャンミンの願いを叶えてあげるよ」

 

「願い?」

 

仰向けになった僕は、両腕を頭の上で固くきつく縛られている。

こんな風に拘束された自分の姿を、第三者の目で想像してみたら、とても興奮した。

僕の性癖は、歪んでいるんだろうか?

誰もが皆、縛られて興奮するものなのだろうか。

 

「チャンミンのって小さいけど、真っ直ぐで硬くて、美しい形をしているね」

 

ユノは僕のペニスをゆらゆらと揺らしていたかと思うと、ぺろりと先端を舐めた。

 

「ふっ...!」

 

腰が反応して、ぴくりと震えた。

少しずつ少しずつ、僕のものがユノの口内に飲み込まれていく。

僕のものを飲み込みながら、ユノは僕から目をそらさない。

欲を浮かべたユノの目を見返す僕の目も、同様に違いない。

僕自身がユノの中に飲み込まれていくのか、それとも僕自身がユノの中を貫いているのか。

この眺めだけで、イッってしまいそうだった。

 

「ふぅ...」

 

快感のひと波をやり過ごした。

僕の根元まで咥え込んだユノは、きつく吸い上げた。

 

「ひっ...あっ...」

 

ユノのねっとりとした動きに合わせて、僕は嬌声を上げる。

アイスキャンディーのように、美味しそうに頬張るユノの瞳がギラギラと光っている。

どう猛なのに、美しい眼だ。

 

「...はっ...ああっ...!」

 

「チャンミンはフェラチオに弱いなぁ...」

 

ユノはくすりとほほ笑む。

 

「ああっ!

ダメ!」

 

悲鳴をあげたのは、僕の睾丸を握られたからだ。

 

「潰れる...潰れるって...!」

 

じわじわと力を込めるユノの指に、恐怖が喉までせり上がってきた。

 

「痛いか?」

 

「やめっ...ダメ...ううっ...!」

 

両手を拘束されている僕は、身をよじるしかなく、ユノを蹴り飛ばしたくても、僕の膝に腰を落とした彼に動きを封じられていた。

 

「潰れっ...痛いっ...いたっ、駄目っ...ああーーっ、駄目っ!!」

 

涙がにじんできた。

 

「本当に駄目なのか?

痛いだけか?

...本当は...気持ちいいんじゃないのか?」

 

「うっ...」

 

苦痛の先に待っていたのは、愉楽の世界への扉。

恐怖の裏側に潜んだ卑猥な快楽の境地に、1歩足を踏み入れた瞬間だった。

 

「...いいんだろう?」

 

ユノは先端を咥え、片手で陰嚢を握り、もう片方でペニスを素早く上下に動かす。

 

「やーっ...やめっ...やめっ...おかっ...かしくなっる!」

 

緩んだ入り口から体内に残されたゼリーがとめどなく、お尻を汚す。

 

「変に...っ変、変になる、なるからっ...イクっイクっ、イっちゃうっ...駄目っ、やっ...ああーーっ、あっ...」

 

僕の視界は真っ白で、わけのわからない言葉を発し続けた。

 

「...はあはあはぁ...はっ...はあぁはぁ...っく...っ...」

 

「...チャンミン、もうイっちゃったのかぁ...。

やれやれだ」

 

耳の穴を唾液が濡らす。

 

「仕方がないなぁ」

 

呆れたように首を振り振りユノは立ち上がり、彼の肌の上を艶めかしい黒い影が舐める。

戻ってきたユノは、僕の傍らに膝をつき、力を失った僕のものに何かを施し始めた。

 

「なにっ!?

何するんだ!?」

 

「射精コントロールしてやるしかないな」

 

窮屈感に下を見下ろすと、僕の根元が白い紐のようなもので縛られている。

 

「嘘だろ...」

 

それは僕の傷を覆っていた包帯だった。

 

「頭がおかしいんじゃないの!?」

 

ユノを非難するそばで、実は卑猥な期待感で腹の底がぞくぞくとしていたのだ。

僕の方こそ、変態で頭がおかしいんだ。

 

「こうでもしなきゃ、すぐにイっちゃうんだから。

まだまだ終わっていないんだよ」

 

そして僕の身体は、うつ伏せにひっくり返された。

 

「ぼさっとしていないで、尻を突き出せよ」

 

お尻を叩かれて、慌てて四つん這いになった。

手首を縛られているから、両肘をつくしかなくて、自然とお尻を高々と突き出した格好になってしまう。

額から汗がぽたぽたと、手首の革ベルトに落ちる。

 

「何もしなくても、穴がぽっかり...そんなに挿れて欲しかったんだ?」

 

「っ!」

 

ふり返ると、僕のお尻を覗き込んでいたユノと目が合った。

ユノと肌同士を重ねたいのに、彼は僕の身体をいじりまわすだけなんだ...それだけが不満だった。

腰をつかまれ、僕の胸は期待で踊る。

 

「かっ...はっ」

 

ずぶずぶと僕の穴に埋められる

僕の中が美しい人のもので満たされた。

ユノは腰を深く沈めたまま、円を描く。

 

「ん...あっ...あっ...」

 

うねるように四方から締め付ける粘膜を擦られて、これはこれで気持ちがいいのだけれど、もっと背筋を貫くような刺激が欲しい。

 

「はあはあはあ...」

 

物足りなくて、お尻を左右に揺すった。

 

「駄目だ、チャンミン。

じっとしてて、いい子だから」

 

と、僕の肩をマットレスに押しつけた。

僕のお尻はもっと高く突き出された。

立ち上がったユノは僕の腰を抱え直したことで、突き刺さる角度が変わり、彼のペニスの先が僕の底面に当たっているのが分かる。

 

「んふっ...」

 

でも、腰は振らない。

とんとんと軽く刺激するだけだ。

ユノに従って、頭も肩もマットレスに付けて大人しくしていても、すぐにじっとしていられなくなる。

 

「ユノっ...!」

 

両手を握り締める度、腕の傷に痛みが走った。

 

「...お願いだから...うっ...」

 

身をよじりたくてもユノに制された僕は、熱い喘ぎをこぼすだけだ。

焦れている僕を面白がって、ユノは腰を左右にくねらす。

 

「は...ぁっ...!」

 

「可愛いね」

 

焦れる僕の表情に満足したのか、ユノは僕の背中に覆いかぶさってきた。

ユノの重みが加わり、腕に傷口に痛みが走る。

そして、僕が待ち望んでいたピストン運動が開始された。

 

「あっ、あっ、あっ...あっ...」

 

揺さぶられるたび、視界が歪むほど気持ちがいい。

ごぼごぼと結合部から厭らしい音が鳴る。

 

「あ...!」

 

僕の中から引き抜かれたかと思ったら、再びひっくり返されて、仰向けになったユノの上に僕は乗っていた。

 

「動いたら駄目だぞ」

 

両手を封じられていて、バランスがとれずにいる僕を見かねたユノに腰を支えられた。

逞しいユノの胸に頬をこすりつけ、乳首を吸い、全身の窪みに指を這わせたいのに...手首を縛られている僕にはそれが叶わない。

激しく突き上げられたい欲求を、ぐっとこらえた。

 

「あ...あ...あっ...」

 

耐えきれなくなって腰を上下に揺らしてしまうと、その度にお尻を叩かれる。

 

「動くな」

 

上擦った声が漏れる。

ユノのものがゆるゆると出入りする粘り気のある音が、聴覚から僕を煽る。

 

(もう...駄目だ)

 

恨めしそうにユノを見上げると、ユノは瞳を揺らめかして僕に微笑みかける。

今のユノの瞳は、紺碧色になっているに違いない。

そうだった。

ユノの瞳は、色を変える。

不思議な肉体の持ち主だ。

ユノの身体が深く沈み込んだとき、ぐりっと固い箇所に当たって、短い悲鳴が出た。

 

「ひっ...」

 

ユノが腰をくねらしながら、大きなスライドで上下し出した。

ぺちぺちとユノの腰が僕のお尻にあたる音が、静寂の廃工場に響く。

 

「あっ...あ...あ...いいっ...いい...」

 

性感のとりこになってしまった僕は、ユノの動きに合わせて切羽詰まった喘ぎをこぼすばかりだ。

 

(もう我慢できない)

 

僕は自身の腰を上下に振り出した。

僕の中に注入されたローションが、溢れ出てユノの陰毛を濡らしていく。

 

「...っく...んっ...」

 

両肘をユノの胸について、お尻を振る。

手が使えないから、バランスを崩してばかりで、思うように動かせなくて苛ついた。

 

「わかったよ、わかったから」

 

ユノは僕の尻をなだめるように軽く叩いた。

 

「しょうがない子だ」

 

ユノは僕と繋がったまま、上体を伸ばして僕の手首に手をかけた。

そして、僕の手首をぎっちりと縛り付けていたベルトを外してくれる。

拘束がとかれて、手指に血流が戻ってきた。

強張ってきしむ肩の痛みに顔をしかめながら、ユノの頬を包み込んだ。

そして、優しいキスを贈る。

ユノと一体になりたい。

なみなみとたたえられた黄金色の蜜の池の底に、静かに沈んでいく光景が浮かぶ。

セックスに支配された僕はもう、浮上できない。

平凡な日常を不満げに生きてきた僕の目の前に、突如として現れた人。

理解が追い付かないまま、僕の身体に刻みつけられた肉体の繋がりから生まれる幸福感。

身体の芯まで貫かれ、目覚めさせられて、僕はもう日常に戻れないと思った。

 

(つづく)

(11)僕を食べてください(BL)

 

~欲しがる~

 

 

愛し合った、と言えたのだろうか。

慣れない僕はやっぱり余裕がなくて、自分だけの快楽に夢中になってしまった。

ユノの喘ぐ声も聴けなかった。

腰を打ちつける荒々しさは、多分、僕を欲してくれていた証しだと思うけど、昂る欲望を堪えている風ではなかった気がする。

そうだとしても...。

初めて愛情をもってユノに触れた、と思った。

僕の手の平に吸い付くほどしっとりとした肌や、鞭のようにしなる背や僕の中を荒す逞しいあれに心震えた。

冷たい肌。

けれども、あれは脈々としていて熱いのだ。

不思議な肉体の持ち主だ。

この行為に愛が宿っているのかどうか、ユノがどう考えているかは分からない。

ほんの少しだけであっても、ユノの実体を把握できたことに安心した僕だった。

これまで出会った男性の中で(なんて言っても、わずか20数年間の人生では)、最も美しい人で、バックグラウンドがいまいち掴み切れない謎な部分に惹かれている。

惹かれてる...なんて言い方はささやか過ぎる。

僕は初めて会ったときから、ユノに夢中だったんだ。

例え性愛からスタートしたものだったとしても、快楽に溺れた末のものだったとしても。

僕の肉体ならいくらでも、ユノに捧げるよ。

雨降る山道で、ユノに襲われた。

ユノは僕の捕食者で、僕はユノの獲物だ。

僕は、ユノの側にいたい。

僕をいくらでも食べていいから。

ユノといられるのは、あと3日。

 

 

「痛いか?」

 

ユノは僕の腕に触れて言った。

割れた窓ガラスから見える外は真っ黒で、月明かりがほのかに場内に差し込んでいる。

マットレスに仰向けになって、一糸まとわぬ僕らは寝ころんでいた。

 

「少しだけ...痛いかな。

でも、平気だよ」

 

実際はズキズキと痛かった。

裂けた箇所は、医療用テープで止めてあるだけだから、もしかしたら傷口が開いているかもしれない。

マットレスの下に転がり落ちた懐中電灯を、手探りで拾い上げてスイッチを入れた。

何枚かのテープが剥がれてしまった箇所から出血し、それが二の腕から脇までこすれた痕を作っていた。

隣のユノの身体に灯りを向けると、彼の腕にも、胸にも、内ももにも真っ赤な血筋が付いていた。

今さっきのセックスで重ねた身体同士で、塗り広げてしまったみたいだ。

アルビノの肌が、僕の流した血液で汚された光景を、官能的だと感じた僕は異常だろうか。

 

「ごめん...汚してしまった」

 

白いシーツにも、赤い痕がところどころにある。

 

「どうってことない。

シーツを洗えばいい」

 

半身を起こした僕は、横たわるユノに問いかける。

 

「ねぇ。

ユノは不思議な身体をしているね」

 

「どこが?」

 

「肌はこんなに冷たいのに...」

 

ユノの下腹に手の平を載せ、そうっと撫で上げた。

厚く盛り上がった胸筋を手の平のくぼみに収めて、手のひらに当たる乳首を転がすように柔く揉んだ。

ユノの肌はやっぱり冷たくて、僕の手の平がいかに熱くなっているかがよく分かる。

 

「死体みたいに?」

 

「僕は死体とヤッてることになるんだ」

 

つんと勃った乳首を突いたら、ユノがくすぐったそうにして、僕は少し嬉しかった。

 

「もし、死体とセックスしているんだとしたら...。

チャンミンはどうする?」

 

「どうするも何も、ユノの中は温かいし」

 

僕はユノの唇の中に、人差し指を押し入れた。

 

「温かいから、ユノは死体じゃない」

 

ユノの舌が僕の指に絡みついた。

口内の粘膜を、ぐるりとなぞった。

その指をユノの舌が追って、軽く指の付け根が甘噛みされた。

それから、指の股をくすぐり、口をすぼめて僕の指を舐め上げたり、出し入れしたりした。

 

「はぁ...」

 

かと思うと、ちゅるっと指先だけが吸われて、ちろちろとくすぐられた。

 

「...っあ、はぁ...」

 

(指一本で、こんなに感じてしまうなんて...)

 

まるで自身のものを、口で奉仕されているんだと錯覚してしまう。

僕の下腹部が重ったるく痺れてきた。

僕のものが、首をもたげて勃ちあがってきているのが分かった。

ユノの両頬をとらえようとしたら、手首をつかまれた。

 

(あいかわらず、なんて力だ...)

 

僕はこれ以上逆らわず、両手をマットレスの上に落とした。

 

「いいことしてやるよ」

 

ユノは立ち上がると、何かを持って戻ってきた。

僕の両手首をぐっとつかむと、万歳の恰好で頭の上に持ち上げた。

 

「!」

 

ユノが僕の手首に何か硬いものを巻き付けている。

カチャカチャという音と手首に冷たい金属が触れて、僕のベルトだと分かった。

 

「ユノ!

何をするんだ!」

 

「チャンミンを悦ばせてあげるんだ。

こういうの、好きなんじゃないかって思ってさ」

 

そう言うと、僕にぴったりと寄り添うように横たわった。

 

「やっ...外せ...!」

 

巻き付けられたベルトを外そうとしたが、びくともしない。

 

「もがくと手首を怪我するぞ」

 

そう言うとユノは、僕の手首の内側にキスをした。

手首から怪我をした箇所に向かって、ついばむようにキスをしていった。

 

「はぁ...」

 

そして、傷口には決して触れないよう、ぺろぺろと周囲を舐めた。

 

「ふっ...」

 

ズキズキ痛む傷と、その周囲の温かく柔らかな感触の対比に、腹の底からぞわっとした痺れが生まれた。

二の腕の内側に軽く歯があてられるだけで、ふっと全身の力が抜ける。

脇の下からどっと汗が噴き出した。

ユノの唇が、二の腕の内側を通って僕の脇に到達した。

べろりと僕の脇が舐められた。

身体が跳ねる。

 

「やっ...!

汚いから...駄目...だって」

 

両腕を下ろそうとしたら、すかさずユノに押さえつけられた。

ふふっとユノは鼻で笑うと、舌でとんとんと叩いたり、体毛ごと肌を吸ったりした。

くすぐったいけれど、下腹がじんと痺れる。

 

「はぁ...ぁん...」

 

かすれた喘ぎが漏れる。

 

そんな僕の反応を、ユノは面白がっているようだった。

 

「チャンミンは感じやすいんだな」

 

喘ぐたび、ユノは僕の唇に軽いキスをする。

 

(脇をいじられるのが、こんなに気持ちがいいなんて...)

 

「チャンミンの匂いがする」

 

「あ!」

 

ユノは僕の脇に鼻を押し付けて、思いっきり吸い込むんだから!

 

「駄目...!

臭いから...やめ...て!」

 

一日の終わりで、たっぷりと汗をかいた後で、さぞかし匂うだろうと、恥ずかしくてたまらない。

ふうっと息を吹きかけられて、僕の体毛が震える。

 

「ふ...ん」

 

僕はぎゅっと目をつむる。

股間に血流が集まっているのが分かった。

今夜は2度も達したのに、僕の精は尽きていないみたいだ。

いやらしい。

僕は性欲に支配された卑猥な男だ。

両腕を緊縛されていたため、快感によじる動きを制限されてしまっていた。

こんな状況に、かえって興奮した。

縛られて、身動きできなくて、ユノにいじられるがままで、熱い吐息を漏らすだけで。

自由になる両膝を立てて、寄せた両腿をこすり合わせることで快感を逃す。

両脚をよじるたび、膨張した僕のものが弾んで揺れる。

ユノの視線が、僕の股間に注がれているのが分かる。

見られていると意識したら、ますます怒張していく。

ユノの人差し指が、僕の唇をなぞる。

 

「口を開けて」

 

口内に侵入したユノの指に舌を絡め、指全体を舐め上げる。

 

「そんなんじゃ駄目だ。

もっといやらしく舐めろ」

 

僕が知っている限りの方法で、ユノの指を舌で愛撫する。

 

「下手くそ。

チャンミンは、まだまだだ」

 

僕の額にキスすると、ユノはくすくすと笑った。

ユノは僕の腰の上にまたがって膝立ちした。

マットレスに転がした懐中電灯の灯りが、ユノの身体をぼんやりと照らしている。

ユノの肩からウエスト、そして腰をつなぐカーブを描いたシルエットが綺麗だった。

視線を下に辿ると、ユノの脚の付け根の中心に、ひときわ濃い影があって、ぐんと鼓動が早くなった。

僕は今、対面している。

美しい、裸の男性が僕の上にまたがっている。

性急過ぎた2回のセックスの際は、じっくりとユノの身体を視的に愛でることができなかったから感動した。

ユノに触れたい。

でも、僕の腕は自由を奪われている。

ユノは僕の乳首を、2本の指でぎゅっとつまんだ。

 

「は...ん」

 

ぴくりと僕の腰が浮き上がった。

 

「そうだったね。

チャンミンは、乳首が弱いんだったね」

 

親指で押しつぶされた。

 

「んっ...」

 

両手を強く握る。

敏感な突起を、捻り上げられ引っ張られる。

 

「...んんんっ!」

 

ビクビクと下腹が波打った。

千切れるんじゃないかと、怖くなるくらい捻られた。

 

「いいっ...いいっ...もっと...もっと!」

 

痛いのに...気持ちいい。

もっと痛くして欲しい。

 

「ここに、ピアスしてやろうか?」

 

「...え?」

 

「冗談」

 

僕の唇から、たらたらと唾液が流れる。

 

「縛られて、興奮してるね。

チャンミンはどMの変態だ」

 

ユノは僕の首筋に軽く吸い付いた。

ぞわっと下半身に向かって鳥肌がたつ。

ついばむように、僕の耳の下に、鎖骨の上にと軽いキスを降らした。

膝を立てて腰を持ち上げることで、僕の上に膝立ちしたユノの尻に、僕のものをこすり付けた。

腰をゆらすと、ちょうど僕のものの先がユノの尻に当たる。

 

「いやらしいね、

チャンミンはいやらしい子だ」

 

ユノは後ろ手に、ぴくぴくと小さく震える僕のものを握った。

 

「ふっ...」

 

ユノの親指が、亀頭の上をくるくると円を描く。

ぬるぬるとしているから、さぞかし先走りがあふれているのだろう。

今すぐ自分の穴に、ユノのものを埋めて欲しい衝動に襲われていた。

前じゃなくて、後ろを虐めて欲しいのに。

腰を浮かせようとすると、ユノの両腿で制される。

僕の内面に暴れる肉欲が高まり過ぎて、耐えられない。

拳の中で、爪が手の平に食い込む。

じれったくて、焦らされて、苦しい。

 

「...がい...」

 

「なあに?」

 

「お願い...だ」

 

「何が?」

 

「お願いだから...」

 

ユノが僕の頬を優しく撫でた。

乏しい灯りの元、ユノの1対の眼がぎらっと光った。

見入られて、快楽と焦燥の間で僕の眼は潤んでいるだろう。

 

「挿れて...」

 

「何を?」

 

「ユノの...ものを...」

 

「俺のものって...なあに?」

 

分かっているくせに、ユノは分からないふりをしている。

 

「ユノのを...」

 

(そんなこと...恥ずかし過ぎて言えないよ)

 

でも、ここではっきりと言わないと、ユノは僕のお願いをきいてくれないに決まっている。

 

「恥ずかしいのか...可哀そうに」

 

呆れたような表情をしたユノは、僕の口元に耳を寄せた。

 

「何を挿れて欲しいんだ?

教えてチャンミン」

 

...もう駄目だ...。

 

「言え」

 

ユノが欲しい。

僕はユノに逆らえない。

顔を寄せたユノの耳にむかって、囁いた。

 

「わかったよ。

いい子だ、チャンミン」

 

ユノは僕の髪を優しく撫でる。

僕は堕ちた。

僕の目尻から、涙がつーっと流れ落ちたのが分かった。

 

(つづく)

(10)僕を食べてください(BL)

 

 

~揺さぶられて~

 

 

「ちょっと待って」

 

寄せた僕の唇を押しのけて、ユノは立ち上がるとケーブルドラムの上に置いた白い水筒の中身を飲んだ。

 

「水筒を買ってくれてありがとう。

便利だね、蓋が閉められるからこぼれないし。

冷たいものがいつでも飲めるし」

 

マットレスに腰を下ろした僕の元まで戻ってくると、点けっぱなしだった懐中電灯のスイッチを切った。

 

僕らは暗闇に包み込まれた。

 

 

 

 

 

僕の耳にふぅっと息が吹きかけられた。

 

「は...ぁ...」

 

僕の耳たぶが軽く咥えられ、耳の穴に舌が差し込まれた。

 

「あ...」

 

ぞわっと鳥肌がたった。

 

ユノの頬を両手で挟んで、唇を重ねた。

 

ユノの顎まで覆ってしまうほど大口を開けてできた空間で、互いの舌を絡めた。

 

唇を離して、ユノの舌を頬張り吸う。

 

僕の唇の間から舌を抜いたユノは、

 

「チャンミン...どこでそんないやらしいキスを覚えたんだ?」

 

と言って、今度は僕の舌を咥えこんだ。

 

「ん...ふ...」

 

ユノを押し倒そうとしたら、「待て」と僕を制した。

 

衣擦れの音から、ユノは着ているものを脱いだようだった。

 

僕も慌てて服を脱ぐ。

 

あまりに暗すぎて、互いの身体は見えない。

 

横たわったユノの上に、僕は覆いかぶさる。

 

片肘で上半身を支えながら、ユノの身体の凹凸を把握しながら、手の平で撫ぜた。

 

初めてユノの生肌に直接触れた。

 

体毛もなく、滑らかな触感に感動した。

 

手の平を押し返す筋肉の弾力と、固く頑丈そうな腰骨に僕の体内が沸騰してきた。

 

見えないからこそ、感覚が研ぎ澄まされる。

 

ひんやりとしたユノの肌と興奮で火照った僕の肌が重なった。

 

ユノの両腕が僕の脇から背中へまわされ、お尻を撫ぜ上げたりきつくつかんだりし、ぞくぞくと気持ちがいい。

 

ユノの首筋に唇をつけ、軽く吸い付いた。

 

僕もユノのお尻をすくいあげるようにして揉んだり、指を離してふるっと拡がる感触を楽しんだ。

 

唇を付けたまま、鎖骨をたどってユノの胸先を口に含む。

 

これも初めてだ。

 

舌触りで、その形と硬さを感じた。

 

前歯で軽く、ほんの軽く噛んでみたら、ピクリとユノの身体が震えて、それが嬉しくて、興奮を誘った。

 

ユノの太ももに僕のものが擦れて、あふれ出る先走りが潤滑剤となって、ますます気持ちがいい。

 

「あっ...」

 

僕のものがユノの手で柔く握られ、ゆるゆるとしごかれた。

 

「あ...ぁ...」

 

恥ずかしげもなく漏らす自分の喘ぎ声に、興奮した。

 

ユノを愛撫する余裕が、全くなくなってしまった僕。

 

もう、待てない。

 

ユノの下へ手を伸ばし、はっと驚くほど硬く硬く成長したものを握った。

 

「挿れて?」

 

脈打つそれはあまりに大きくて、これが僕の中を貫くのかと想像すると、恐怖と期待の狭間で...とてもドキドキする。

 

直後、ユノの上になっていた僕は、くるりとひっくり返されて仰向けにさせられた。

 

「膝を抱えて」

 

「え...?」

 

「膝を押さえているんだ」

 

ユノに促されて、両膝を胸に引き寄せた格好にさせられる。

 

恥ずかしすぎる体位なのに、お尻を突き出して「ここに挿れて欲しい」と懇願できた僕だったから、躊躇なく全てをさらけ出せるのだ。

 

「...うん...いい感じだ。

チャンミン...お前はとことんいやらしい男だなぁ。

この柔らかさ...普通じゃあり得ないよ」

 

ユノの指が、僕のナイーブな箇所を突いた。

 

「...んんっ」

 

「穴なんか...ひくひくしてるぞ?」

 

指先で円を描く。

 

「...ん...だって...」

 

「挿れられる為にある穴だなぁ」

 

そうだよ、早く挿れて欲しい。

 

「ああっ、あぁぁっ!」

 

ぷすりと堅い何かが差し込まれ、冷たい何かが僕の中に注入された。

 

「何っ?

何...!?」

 

流れ込む冷たい何かで腹底が満たされた。

 

「冷たかった?

ローションだ。

じきに温まるよ」

 

「...っ!?」

 

「穴を閉じてろ。

こぼれるだろう!」

 

「...だって...無理...!」

 

カランと音をたてて転がった物を目にしてしまい、僕はぞっとした。

 

嘘だろ...あの中身を全部、僕の中に入れてしまったんだ。

 

「垂れてるだろうが!

締まりの悪い尻だな!」

 

バチンとお尻を叩かれた。

 

その熱さと痛みに声をあげそうになるのを、歯を食いしばってこらえた。

 

直後、快感の電流が背筋を駆けのぼる。

 

叩かれて気持ちがいいだなんて、僕は変態だ。

 

「...んっ...」

 

漏れださないよう、必死で入り口に力を込めた。

 

力を抜くととろりと溢れてしまい、ユノにお尻を叩かれた。

 

ユノの両膝で僕の腰が持ち上げられた。

 

「ご希望のものをあげるよ」

 

緊張と期待でバクバクする心臓、上ずった呼吸を整えるため、深呼吸した。

 

「んん...っ、あっ、ああぁぁぁ!」

 

ずぶずぶとめりこむものに、未知の感覚に僕は怯えた。

 

「きつっ...!」

 

ユノの舌打ち。

 

めりめりと音がしそうだった。

 

ユノの低い唸り声。

 

「...大丈夫か?」

 

「うんっ...うん...だ、いじょうぶ...」

 

僕は大きく息を吸って吐いた。

 

根元まで沈めて、ユノはそこで動きを止め、もう一度「大丈夫か?」と僕に尋ねた。

 

「チャンミン、触ってみて、ここ」

 

膝を抱えたままの僕の片手をとって、ユノに誘導された箇所を触れてみる。

 

「...すごい」

 

「チャンミンの中に全部入ってるよ。

分かる?」

 

ユノの固く平らな下腹部と柔らかな毛、その下の太い根元が僕の中に埋められている。

 

「すごいね、チャンミンのここは。

俺のを突っ込まれてるんだよ」

 

僕の入口はユノのもので目一杯押し広げられていて、こんなに大きなものが刺さっているなんて...。

 

「動かすぞ」

 

「...うんっ」

 

僕の膝裏をつかみ、腰を前後に揺らし始めた。

 

ぐっぐと突かれる度に、腹底が押し上げられて苦しい。

 

くちゃくちゃとねばついた音が、静寂の場内に響く。

 

目がきかない暗闇で、ユノの荒々しい呼吸と僕のため息、マットレスの軋む音が、過敏な僕の聴覚を刺激する。

 

音だけで感じてしまう。

 

苦しい...苦しいけど、熱くて気持ちがいい。

 

滑らかに絡みつくユノの固さを味わい尽くそうと、感触に集中する。

 

美しいこの人を取り込む幸せを、穢され征服される悦びを味わい尽くす。

 

違和感と圧迫感が、快感に変わる瞬間をキャッチする。

 

「あっ...あっ...あっ、あっ...」

 

ぐりぐりと睾丸の裏側を刺激されて、僕はのけぞった。

 

なんだ、これ...やばい...。

 

気持ちいい。

 

ユノの首にしがみつく。

 

マットレスのスプリングの弾みを利用して、ユノはリズミカルに腰を振る。

 

「はぁ...はぁ...」

 

ユノが放つ甘ったるい香りを胸いっぱいに吸い込んだら、快感は増して頭の中が真っ白になった。

 

突き刺される角度を変えたくて、ユノの腰にぶらさがる。

 

「どう?」

 

「...っうん...いいっ...いい...すごく!」

 

「いい子だ」

 

尻の割れ目から垂れ落ちるものは、僕の中で温められたローションだ。

 

ユノのものが出入りする度、たらりたらりと溢れ出る感覚も、僕の欲を煽った。

 

「チャンミン...いい、いいよ。

お前の中は...最高だ」

 

ユノの低く、上ずった声。

 

たまらなくなって、ユノの頭を引き寄せて口づける。

 

「あっ...!」

 

先を握られ僕の背がびくりと震えた。

 

僕の内ももを濡らすものをなすりつけ、輪にした指でくびれの部分ばかり刺激される。

 

「はぅっ...」

 

のけぞる僕を、強靭なユノの腕で封じられる。

 

穴奥の刺激に、先端の刺激が加わって、快感を逃すコントロールがきかなくなってきた。

 

「...やっ...ダメっ...」

 

ユノは唇から離すと、僕の乳首に吸い付いた。

 

「くっ...駄目、駄目だって!

イっちゃうから...離せっ!」

 

ユノを押しのけようと腕をつっぱったが、彼の力は凄まじい。

 

「怖い...怖いっ!」

 

3方向から攻められて、強すぎる快感に足元をすくわれて足場を失い、どうにかなってしまいそうな恐怖に襲われた。

 

「怖い...怖い...やっ...やめてっ...もう!」

 

僕の懇願を完全に無視したユノは、顎をつかみ、歯を食いしばる僕の口をぴったりと覆った。

 

息継ぎが出来ず顎を緩めた隙に、ユノの舌が侵入してきた。

 

ユノの舌を追いかける余裕もなくて、なぶられるがままでいた。

 

ずるりとユノの口内に舌が引きずり込まれたかと思うと、甘噛みされる。

 

(噛まれる!)と覚悟したら、案の定、ユノの歯が瞬間的に食い込んで、パッと口の中いっぱいに血の味が広がった。

 

どちらが流した血か分からないくらい、口内を混ぜあう行為で、僕の下半身へ流れ込む血流が増したようだ。

 

ぐっと睾丸がせりあがってきたのが分かった。

 

「も...うっ、駄目...駄目!」

 

限界が近づいてきた。

 

「イっちゃうイっちゃうイっちゃう!」

 

まぶたの裏に赤い光が瞬く。

 

「いい...チャンミン...いいよ...」

 

ユノの首にかじりついていられる余裕を失った。

 

射精まで、あと少し。

 

ユノの腰のスライドが激しくなった。

 

がくがくと揺さぶられた...玩具のように、がくがくと。

 

ユノの腰を抱えた足首に力がこもる。

 

股間の筋肉が収縮した。

 

「イくっ...イくっ...くっ......!」

 

ふるふるっと腰が震えた。

 

そして、僕の上にユノの身体が崩れ落ちた。

 

 

 

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(9)僕を食べてください(BL)

 

 

~絶頂の末~

 

 

鉄骨に寄り掛かって立った僕の膝が割られた。

僕は抵抗もせず言葉も発せず、ユノになされるがままだった。

僕の中に挿れて欲しくて仕方がなかった。

昨日味わった、ユノの2本の指が生んだ快感をもう一度味わいたい。

ユノの手首をつかんで、僕の尻に導く。

全身の血流が脈動する音が、うるさいほど感じられて、まるで全身が心臓になったかのようだ。

もつれる指でウエストを緩め、下着もデニムパンツもまとめて膝まで下ろした。

 

「挿れて...挿れてよ...!」

 

尻を突き出して懇願した。

 

「昨日の今日には無理だよ」

 

「いいから...!」

 

切羽詰まった僕の口調に、ユノは呆れたように言う。

 

「焦ってできるものじゃないんだ」

 

「あ...!」

 

ぴとり、と僕の敏感な箇所に、ユノの冷たい指先が押し当てられた。

 

「ふっ...ううぅ...」

 

自分でも初めて聞くような、低い唸り声が出た。

 

「...力を抜け」

 

「...ぅん...」

 

大きく息を吐くごとに、僕のあそこはユノの指を飲み込んでいく。

 

「いい子だ」

 

「...はぁ...あぁぁ...」

 

「昨夜...自分でいじった?」

 

「......」

 

その通りだ。

昨日、ユノの指は僕の肉体に潜んだ...ユノと出逢わなかったら決して暴かれることのなかった...スイッチを押した。

ユノの指を想って、あの時の記憶を手繰り寄せようと、自身の指をあそこに埋めてみた。

固く閉じた入口に、そうだよな、そう簡単には受け入れてくれないことくらい、経験のない僕だって知っている。

それなのに、ユノの侵入はあっさりと許して、ひと撫ぜだけで昇天しそうになった。

ユノに触れられると、僕の全身から力が抜け、彼の全てを受け入れてしまうのだ。

どうしても奥まで届かない。

僕のぎこちない指使いじゃ、ぞわりとした痺れを覚えただけで、全然足りなかった。

欲だけはふつふつと沸くばかりで、欲求不満ばかりたぎらせて、悶々とした夜を過ごしたんだった。

 

「...っぐっ...!」

 

ぐるりとかき回されて、おかしな呻きを漏らしてしまう。

 

「っぐ...ん...」

 

この苦しい感じは...2本どころじゃない。

 

「すごいね、チャンミン。

2日目でこんなに柔らかくなって。

普通じゃないよ。

...やらしいね」

 

辱める言葉に、僕の中はユノの指を締め付けるのだ。

 

「うねってる...。

チャンミンのここは、女のものみたいだ」

 

ひやりとしたユノの頬が重なり、囁かれる。

 

「4本目...は、苦しいかな?

もっと深くかがめよ」

 

ユノの命令に従い、一歩後ろに下がり頭を落として尻を突き出した。

僕の後ろがどうなっているのか...押し広げられた口にふぅっと息を吹きつけられて、背筋が震える。

前がどうなっているのか...確かめる余裕はない。

僕の中でユノの指は巧みにうごめく。

 

「...んあっ...あー!」

 

一か所、意識がとびそうになる箇所があって、僕の反応を愉しむかのように、不意打ちにそこを刺激する。

 

「あ、ああぁぁっ...あっ、ああぁぁ...!」

 

かと思えば、そこばかりをぐりぐりと刺激されて、場内に僕の叫び声が響き渡る。

 

「はあ...はぁ...もう、ダメ...やめて...ダメ...もう」

 

がくがくになった膝に、立っているのがやっとだった。

 

「突っ込んでやりたいところだけど...」

 

つかんでいた鉄骨を離してしまい、支えを失った僕はユノによって抱きとめられた。

 

「可哀想に...」

 

おどけているのか、憐れんでいるのか、ユノに頭を撫ぜられた。

ユノの胸に頭をもたせかけ、乱れた呼吸を整えた。

涙と鼻水を拭われて初めて、泣きじゃくっていた自分を知ったのだ。

快感が涙腺を緩ませたのだろう。

 

「指だけでこんなになっちゃって...可哀そうなチャンミン」

 

ユノに抱き上げられた僕は、あの場所...マットレスまで運ばれる。

 

「悪いけど、俺は残酷だから、こんな程度で解放してやるつもりはないんだ」

 

マットレスに下ろされ、膝まで落ちたボトムスを引き上げた。

 

「...あ」

 

ぺちゃりと腹を濡らすもの...Tシャツの裾に気付き、どうやら僕はいつの間にか達していたようだった。

前を刺激しないでイクことができるなんて...驚きだった。

 

「...これ、どうした?」

 

ユノの指が、僕の腕に巻かれた包帯に触れた。

 

「ああ、これは...」

 

昼間トタン板にひっかけて傷を負った件を話すと、ユノは

 

「包帯を外して見せて」

と、耳を疑うようなことを言った。

 

「チャンミンの怪我をしたところが見たい」

 

(やっぱりユノは頭がおかしい人なのかもしれない。

傷口が見たいだって?)

 

「見せて」

 

僕の隣に腰を下ろしたユノへ、怪我をした腕を差し出した。

そして、懐中電灯で自分の腕を照らしながら、包帯をゆっくりと解いていくユノの指の動きをくいいるように見た。

 

「眩しい!

照らすな!」

 

苛立ったユノの声に、僕は慌てて懐中電灯の向きを脇にずらした。

テープを剥がすため、皮膚に爪が立てられる感触に鳥肌がたった。

僕の傷に触れないように ひと巻きひと巻き包帯を解いていく行為を官能的だと思った。

ユノのまつ毛が震え、瞳がキラキラと光っていた。

ユノの温かい息が僕の腕にかかり、さらに鳥肌がたった。

傷を覆っていたガーゼが取り除かれた時、ユノの瞳の色が濃くなったような気がした。

あさってを向いた懐中電灯の乏しい灯りのもとだったから、なんとなくだけれど。

まだじくじくと血がにじむ傷口が、ユノの食い入るような視線にさらされて、僕は猛烈に興奮した。

ユノの白い喉が、ごくんと波打った。

ユノとぴたりと視線が交錯した。

吸い寄せられるように、ユノに顔を近づけたけれど、すんでのところで思いとどまった。

先刻、お尻を突き出し挿れてくれとねだったはしたない自分、下半身に支配された自分を恥じていたからだ。

キスなんてしたら、止められなくなる。

その代わりに、僕はユノに対して抱いている疑問をひとつひとつ、解消させることにした。

 

「ユノは...、ここに住むの?

電気も通っているみたいだし」

 

「そうだよ。

別荘代わりにするつもりだよ。

来週には工事が入る。

こんな状態じゃ...」

 

ユノはぐるりと見渡して、首をすくめた。

 

「あまりにも、酷すぎるだろう?

シャワー・ルームもトイレもない。

それじゃあ、チャンミンも困るだろうし。

汁をいろいろと...出しちゃうだろ?」

 

暗いから、カッと顔が熱くなった顔をユノに見られなくて助かった。

 

「ま、いざとなれば下で水浴びすればいいよね?」

 

ユノは裏手の方を立てた親指で指した。

 

「川。

子どもみたいに川遊びできるんだよ。

楽しそうだなあ?」

 

「う、うん。

ユノは...どこに住んでたの?」

 

「世界中、あちこち」

 

「結婚は?」

「独身」

 

「いくつ?」

「いくつに見える?」

 

「僕と同じくらい?」

「そう見えるだろうね」

 

「仕事は?」

 

僕とそんなに年齢が変わらなさそうなのに、高級車とこの建物を買ったか借りるかした資金力について気になっていた。

 

「投資」

 

「トーシ?」

 

「株とか、為替とかいろいろ。

あそこのスーツケースを持っておいで」

 

僕は立ち上がって、壁際に置かれた白いスーツケースを引きずってきた。

相当な重さで、傷を負った腕がひきつれるように痛んだ。

 

「開けてみて」

 

パチンパチンとロックを外して開けた中身を見て、絶句した。

 

「なんだよ、これ...」

 

隙間なく紙幣が詰められていた。

 

「当座の生活資金。

生きていくには、何かとお金がかかるだろう?」

 

「それにしたって...」

 

「欲しければ、いくらでも持っていっていいぞ」

 

「馬鹿にするな!」

 

そりゃあ、僕が呑気に学生をやっていられているのも、両親の事故によって支払われた賠償金のおかげだ。

でも、年をとっていくばあちゃんの面倒も、あちこちガタがきている家もいずれ何とかしなくちゃならないから、余裕はないのだ。

僕を弄ぶ代わりの代償か?

行きずりに出会った『セフレ』に?

僕らは、ただヤるだけの関係なんだろうか...。

...そうだろうな。

複雑にこんがらかった気持ちの処理に困って僕は、ユノの肩に腕をまわした。

僕の我慢も小一時間が限界だった。

 

(つづく)

(8)僕を食べてください(BL)

 

 

~欲しいのは指だけ?~

 

小さな車を運転して、僕はばあちゃんちに戻った。

ユノはレジ袋から水筒とローションボトルだけを抜き出すと、「じゃあな」と僕に手を振って廃工場へ入ってしまった。

ユノの正体についてさっぱり分からないことばかりだけど、少しずつ聞き出せばいいや、と思った。

ユノと抱き合えるのなら、今は満足だ。

食料品を冷蔵庫におさめた後、着古したジャージに着替えて車庫に向かった。

見上げると確かに、錆びきった波トタンからいくつも光が漏れている。

ばあちゃんちは古ぼけていて、どこもかしこも壊れているんだ。

車庫内の物置棚の片づけに取りかかった。

雨水でふやけきった段ボール箱は、抱えるだけで底が抜けそうだった。

絶望的な状態なもの以外は、収納ケースへ中身を移しかえていく。

「あ...」

箱の底から発見されたのは、カビだらけになったワインレッドのハンドバッグだった。

亡くなった母の持ち物だ。

地域で行われた納涼祭りの帰り道のことだ。

両親と僕が乗った車と、対向車線を大きくはみ出した時速120キロの車とが正面衝突した。

この辺りの道路はS字カーブが続く峠道で、運転テクニックを試したい走り屋たちの格好のコースになっている。

100メートル後方の橋の欄干にぶつかるまで押された後、レスキュー隊が到着するまで持ちこたえられなかった僕らの車は、15メートル下の河原に落下した。

引き上げられた車内には父の遺体と瀕死の母だけで、後部座席にいるはずの僕がいなかった。

車外に放り出されて川底に沈んでしまったのだと落胆の空気が漂ったが、河原の灌木の陰に、丸まって眠る僕が発見された。

額を切って頬やシャツを赤く染めていたが、それ以外は無傷だった。

どうやって車外へ出られたのか、と大人たちは首をかしげていた。

衝突の瞬間、車外に放り出されたのでは、とか、墜落する前に自力で窓から抜け出したのではとか、結論付けられた。

前髪の生え際には、その時の傷跡が残っている。

小学生だった僕は、事故直後の混乱ぶりをなんとなく覚えている。

点滅する赤いランプと、クレーン車がたてる轟音、駆けつけたばあちゃんの叫び声。

病院の床に土下座をする青年たちに、怒号を浴びせる親せきの伯父さん。

輸血液が足りないと、近所のおじさんやおばさんたちが駆り集められていた。

同級生のお母さんたちの、沢山の同情の言葉。

母は2日後に息を引き取った。

僕の母は、ばあちゃんの娘にあたる。

僕の親代わりとなったばあちゃんは必死で、娘の死を悲しむ間もなかったと思う。

思い出を封印するため、目につく場所から母の持ち物を一掃した。

ばあちゃんは、何もかも段ボール箱に詰め込んで、車庫の片隅に押しやってしまった。

これら車庫に積み上げられ、10年以上放置されたものを、僕は片付けている。

今僕の手の中にあるハンドバッグを、河原で発見された当時、僕は胸に抱きしめていたそうだ。

このバッグのことを、今の今まで忘れていた。

ばあちゃんったら、形見に近いこのバッグまでこんな場所に置いていたなんて。

思い出を詰め込んだ収納ケースを僕の部屋の押入れまで運び、ごみ袋は車庫の脇にまとめた。

開け放った居間の掃き出し窓に腰かけ、よく冷えた缶ビールをあおった。

生まれ育った懐かしい家にいるのに、もっとばあちゃんを気遣わなければならないのに、ユノのことばかり考えていた。

数時間前に別れたばかりのユノが、恋しくてたまらなかった。

今日一日で、3度もユノに絞り取られた僕だったから、さすがにもう下半身の疼きはない。

それでも、ユノに会いたかった。

 

 


 

「チャンミンが作ってくれたのか?」

 

「うん。

さすがに猪鍋はキツイと思って」

 

ばあちゃんは美味そうに、肉野菜炒めとわかめスープを食べてくれた。

食後、ばあちゃんにお茶を淹れてやりながら、さり気なく質問した。

 

「ばあちゃん、Tさんの鉄工所ってあっただろ?

借金があったとか、後継ぎがいないとかの理由で、廃業したところ」

熱いお茶をゆっくりと飲みながらばあちゃんは、思い出そうと視線をさまよわせていたが、何度か頷いた。

 

「ああ、そんなことあったね」

 

「あそこって、今誰か住んでたりする?」

 

「やっと引っ越してきたのか?」

 

「やっと?

どんな人?」

 

「さあ。

芸術家だか、その後援者だかが、買い取ったって噂だよ。

作品を作るのに、ああいう広い建物がいいとかって、アトリエにするんだと。

でも、ずいぶん前の話だよ。

買ったものの、不便なところだから住むのは諦めたんだろう、ってみんな話してた。

あそこがどうした、チャンミン?」

 

「いや、あそこの前を通りかかったから」

 

廃工場を購入したのはユノなのだろうか?

 

「その誰かが買ったって、いつの話?」

 

「そうだねぇ...」

 

ばあちゃんは思い出そうと、しばらく目をつむって唸っていたが、

 

「10年は昔の話だよ」

と言った。

10年か...。

その誰かが買ったあの建物を、ユノは借りるか買うかするつもりなのだろうか。

ユノの愛車といい、彼は経済的に余裕がありそうだ。

謎だらけのユノ...色気の塊みたいなユノ...。

ユノに会ったとたん、肉体の全てを捧げ出したくなってしまう僕。

わずか2日で、僕はユノにのめりこんでいる。

ユノに会いたかったけど、今夜の僕の下半身はもう、使い物にならない。

心の通い合いはまだ、ない。

ユノに差し出しているのは、僕の身体だけ?

僕が欲しいのは、快楽をもたらすユノの手指だけ?

そう言いきれない自分がいた。

 


 

翌日。

廃屋レベルに壊れかかった車庫を、少しでもマシな状態にしようと、ごたごたと放置されたガラクタを片付けることにした。

軍手をはめて、劣化して穴のあいたプランターや、廃棄しそびれた灯油ストーブ、僕がかつて使っていた子供用自転車など、もっと早いうちに捨てるべきだったものを、取り除いていく。

斜めにぶら下がってしまった波板トタンを、真っ直ぐに直そうとした時、

 

「あっつ!」

 

トタン板の鋭くめくりあがっていた箇所に、腕をひっかけてしまった。

カッと熱い激痛が走った後、スパッと切れた傷口から血が流れた。

ばあちゃんは酷く心配して、医者に診てもらえと譲らなかった。

診療所で消毒をしてもらい、その後、ばあちゃんの買い物に付き合ってやった。

遠くのホームセンターまで向かって、雨漏りする屋根の応急処置として養生シートなどを購入した。

その帰り道、昨日遭遇した同級生につかまって食事に誘われた。

解放されたときには夕方になっていた。

「飲みに誘われちゃって」と、ばあちゃんに電話を入れる。

 

「帰りは?

車は運転できないだろう?」

 

「飲めない奴も一緒だから、送ってもらうよ」

 

ユノに会いたくてたまらなかった僕は、はやる気持ちを抱えて廃工場へ向かったのだった。

夕暮れから夜への狭間の時刻で、足元はまだ明るいけれど、建物を囲む木々は闇に沈んでいる。

ここには外灯などないから、グローブボックスから懐中電灯を取り出した。

廃工場に繋がる小道脇に車を停めると、蛙の鳴き声に包まれ、手足に群がる羽虫をよけながら、砂利道を歩く。

既に僕のあそこは熱くなっていた。

いやらしい奴だ。

なんて僕は、いやらしい男なんだ。

やりたくてやりたくてたまらないだけの、性欲の塊だ。

ユノを求めるこの感情は、肉欲によるものだけなのか?

今の僕がはっきりと言い切れることは、とにかくユノに触れたいということだ。

 

 

シャッターが下まで閉まっていた。

工場脇を見ると、ユノのX5は停まっている。

裏手まで回って裏口のドアのノブをまわすと、開いた。

 

(よかった)

 

ホッとして足を踏み入れたが、中は真っ暗だった。

 

暗くて当然だ、電気が通っていないんだから...。

いや、違う。

ユノが僕に冷たいミネラルウォーターを投げて寄こしたことを思い出した。

あちこちに横たわる鉄の塊に、ぶつかったり脚をひっかけたりしないよう、懐中電灯の乏しい灯りを頼りに進んだ。

薄闇の中で冷蔵庫の白が浮かび上がっている。

電源が来ている...ということは、電気工事は済んでいるのか。

冷蔵庫の扉を開けようとした時、

 

「!」

 

僕の肩に手がかかった。

その力強さに、一瞬で体の向きが180度変わって、背後にいたユノと対面した。

 

「びっくりした!」

 

足音もしなかったし、気配も一切感じられなかった。

 

「そろそろ来るんじゃないかと、思ってたんだ」

 

懐中電灯の灯りに照らされて、ユノの眼が赤く光っていた。

 

「眩しいよ」

 

「ごめん」

 

ユノの顔に向けていた懐中電灯のスイッチを、慌てて切った。

途端に視界が暗くなって、ユノの顔もぼんやりとしか判別できなくなった。

ユノの腕を掴んだ。

暑いくらいの気温なのに、ひんやりと冷たい肌だった。

 

(もう...駄目だ...我慢できない...)

 

自分の方に引き寄せて、ユノの首筋に吸い付いた。

ユノの冷えた皮膚に、僕の体温は吸い取られていく一方のはずなのに、欲にかられた僕はどんどん熱くなっていく。

反して、ユノは口角だけを上げただけの微笑みをたたえている。

首筋から唇を離して、間近に迫ったユノの表情を窺った。

暗くて瞳の色はわからないけれど、しんと醒めた眼差しをしているのだろう。

 

「そんなに俺に会いたかったの?」

 

ユノの手の平が、僕の耳のうしろに差し込まれた。

僕は頷いた。

 

「得体のしれない不気味な俺でも...。

チャンミンは、いいわけ?」

 

いいのか、悪いのか、そんなこと今はどうでもいい。

ユノの腕をとって、奥に据えられた白いマットレスを目指す。

何が何でも今すぐ、ユノによって乱されたい焦燥に駆り立てられていた。

昨日、ユノのX5の中でもたらされた、狂気に満ちた快感をもう一度味わいたかった。

ユノが漂わす香りがあまりにも甘くて、酔っぱらったかのようになった僕は、鉄くずのひとつに足を引っかけてしまった。

 

(危ない!)

 

大きくつんのめってしまい、転倒する間際に、鉄骨にしがみついた。

廃工場を斜めに横切るように放置された、巨大な鉄骨だ。

僕はそれにしがみついた。

ひんやりとしていて、ざらざらした表面、鉄臭さ。

背中から抱きしめられた。

ユノは僕のウエストに腕をまきつけて動きを封じると、僕を振り向かせ唇を覆いかぶせた。

 

「ふ...ふっ...」

 

ユノの唇に重ねる。

軽く触れて、すぐに離す。

また重ねる。

(つづく)