(5)僕を食べてください(BL)

 

 

~見られながら~

 

 

ユノに射すくめられた僕は拒めない。

おずおずと、熱く硬く脈打つものを握る。

僕の先走りとユノの唾液が合わさって、とろとろと滑りが良かった。

普段、自分でそうするように上下にしごく。

ユノは僕の脇ににじり寄ると、耳の穴に舌先を差し込んだ。

 

「あ...」

 

温かい舌の感触と柔らかく吹き付けられた息に、背筋まで震えが走った。

ユノは僕の耳たぶを甘噛みした。

一瞬噛まれるか、と覚悟したが、今日は違った。

ピストン運動の速度が増す。

ユノは僕の唇を塞いだ。

ぴったりと唇が合わさって、僕は息継ぎが出来ず次第に苦しくなってきた。

首を振って逃れようとしたが、ユノは許さない。

目もくらむほどの快感に支配されていた僕は、ユノの口の中へ喘ぎ声を注ぐ。

 

(苦しい。

でも、気持ちが良すぎて、狂いそうだ)

 

「うっ...」

 

(快感を生んでいるのは、自分自身の手だということ。

自慰の姿を、ユノの視線にさらされていること。

熱っぽくかすれた、自分自身の甘い喘ぎ声。

下半身だけをさらした羞恥の姿。

この状況が興奮を呼んで、たまらない)

 

ユノは僕のつんと勃った乳首を吸った。

 

「あぅっ」

 

「真っ赤になってる。

昨日はいじめ過ぎてゴメン」

 

腫れた左乳首の先を、愛おしそうに舌全体で舐め上げた。

先端が膨らみ固くなってきた。

射精の時は近い。

僕はたまらずユノの手を取ると、自分のものを握らせた。

ユノの手を覆って、一緒にしごく。

 

「チャンミン...いやらしい子」

 

耳元で囁かれて、ユノの後頭部を勢いよく引き寄せて、唇を奪う。

呼吸もままならなく苦しくなると分かっているのに、自分をもっと極限まで追い込みたい欲求に突き動かされていた。

僕の目はうつろで、どこにも視点を結んでいない。

 

「イクな」

 

「無理っ」

 

歯をくいしばる。

 

「あっ...」

 

快楽から気を反らせようとしたが、限界だ。

 

「い...くっ...」

 

握ったユノの指の間から、僕の精液が勢いよく飛び出る。

 

「っく...っ!」

 

何度か下腹を痙攣させる。

ユノの上腕に、白濁した粘りが跳ね跳んだ。

僕はまた、ユノの手で達してしまったのだった。

下半身だけ露わにして、大股を広げて、胸を大きく上下させて呼吸が荒い。

ユノは僕のまぶたにキスをし、汗で張り付いた僕の髪をかき上げると額にキスをした。

僕はユノの胸にもたれ、彼に髪を撫でられるままでいた。

虚脱感いちじるしいのに、僕の心は幸福感に包まれていた。

 

(美しいこの人にすべてを見られ、

欲望を吐き出し、

受け止められ、

僕は、幸せだ)

 

息が整いつつある僕は、ユノの腕の中で問う。

 

「ユノ...君は、誰だ?」

 

順序が逆になっていた。

ユノにすべてを見せる前に知るべきだったこと。

ユノは、腕の中の僕を覗き込む。

 

「知る必要がある?」

 

その目は墨色で、平坦で固い声だった。

 

 

 

「腹減っただろ?」

 

ユノは裸足のまま、隅に置かれた真新しい冷蔵庫を開けると、戻ってきた。

マットレスの上でぐったりとしている僕に、よく冷えたミネラル・ウォーターを投げて寄こした。

乾ききった喉に、冷たい水を流し込む。

 

「飯を食いたいだろ?」

 

ふわりとほほ笑んだユノが、胸に染み入るように綺麗だった。

洋服を身につけて、建物の外へ出る。

初夏の太陽がまぶしくて、目がチカチカした。

艶めくボディの車が僕の前に横付けされた。

目にも鮮やかな赤のX5だった。

高級車の登場に驚きを隠せない僕に、ユノはあごをしゃくって乗るよう合図する。

ドアを閉めると高級車らしい重低音が響き、僕はブラック・レザーシートに身を沈めた。

 

「汗をかいてる。

暑いだろ?」

 

ユノはセンター・コンソールを操作して、設定温度を18℃まで下げた。

僕の隣でハンドルを握るのは、名前しか知らない人。

そんな彼に、僕は全身をさらして身を任せたんだ。

エアコンの涼しい風で、徐々に汗は引いていった。

サイドウィンドウを流れ過ぎる景色を見るともなく、気だるい頭で眺めていた。

全身が重だるかった。

わずか2時間の間、2回も達した僕だった。

30分前の自分を反芻していた。

 

 


 

 

 

ユノの手でイカかされた僕は、さらに命じられた。

 

「チャンミン、服を脱いで」

 

僕は両腕をあげて、Tシャツを脱いだ。

これでようやく僕は全裸になった。

 

「綺麗だ。

チャンミン...綺麗...」

 

僕の鼻梁を指でたどると、後ろ髪に手を差し込んだ。

間近でユノと僕の目が、ぶつかる。

ユノの群青色の瞳と澄んだ白目が、くっきりとしたコントラストを作っている。

僕は馬鹿みたいに口を半開きにさせているだろう。

ユノは僕の胸に頬を寄せ、僕の筋肉がつくるくぼみをひとつひとつなぞった。

僕の顔を身体を、舐めるように目で楽しみ、撫ぜて愛でていた。

僕はユノのいとおしむような愛撫を受けて、深い愛情を注がれていると錯覚していた。

 

(ユノと心の通い合いはまだ、ない。

でも僕はこんな状況を、受け入れている!)

 

達したばかりなのに、僕のものは再び膨らみ始めた。

 

「まだ欲しいのか?」

 

僕は頷いた。

 

(彼がどんな人なのか、知るのは後だ。

今はただ、彼のいやらしい愛撫を受けたい)

 

ユノに手を引っぱり起こされ、僕はマットレスの脇に裸足で立った。

ユノは床に膝をつく。

ボトムスの裾から、白いくるぶしがのぞいていた。

下腹部に付くほど直立したものの根元をやさしく握って、先端に吸い付いた。

 

「あ...!」

 

腰が震えた。

僕の腰骨が、ユノの手で支えられる。

ユノの大きく開けた口の中へ、僕のものが吸い込まれていった。

 

「ひっ...!」

 

短い悲鳴が上がる。

 

「チャンミン...お前もしかして、フェラチオは初めてなのか?」

 

その通りだった。

ユノにされることすべてが、僕にとって初めてだ。

つい最近、付き合っていた子と別れたばかりだった。

憂鬱で投げやりな気持ちで帰省したのも、このせいだった。

大人しく奥手だった僕は、その子をうまくリードすることができず、挿入にいたらなかった。

その子をひどく失望させてしまった僕は、あっさりふられてしまった。

そんな僕の太ももの間で、ユノの頭が揺れている。

信じられない。

夢みたいだ。

僕の反応を楽しむかのように、時おり卑猥な音をたてた。

ユノに頬張られて、丹念に舐められ吸われ、僕は再び快楽の沼へ背中から沈んでいった。

 

(こんな小さな口の中に、こんなに大きくなったものを突っ込まれて)

 

ユノの口内を犯しているような光景に興奮した。

 

「はっ...うっ」

 

たまらずユノの頭をつかんで、股間に押さえつける。

もっと奥へもっと奥へと、ユノの喉を貫きたい。

ユノはいったん、僕のものから口から出すと、今度は、チロチロと亀頭を舐め始めた。

そうかと思うと、尖らせた舌先で裏筋をやわらかく刺激する。

 

(そこは...弱い...!)

 

僕の全神経が、股間に集中していた。

尿道口からあふれ出る、僕のいやらしい粘液を舌ですくい取った。

じゅっと亀頭を浅く咥えて、強く吸う。

たまらない。

ユノの唇から顎へと、糸をひいたものが垂れていた。

僕のものを握ったまま見上げるのは、妖しい光たたえる美しい瞳。

たまらない。

あんなに激しく僕をしゃぶり続けていたのに、青白い肌色はそのままで、目尻の縁だけ赤くて。

もっともっと、欲しい。

もっと、僕を舐めてください。

強過ぎる快感を堪能しようと、僕は目をつむって天井を仰ぐ。

ユノの小さな頭を、撫でる。

柔らかい髪を指ですく。

こんなにも美味しそうに僕を味わうユノが、愛おしくなってきた。

 

「チャンミン。

気持ちいいか?」

 

「うん。

...すごく」

 

僕の答えに満足したのか、ユノは根本を強めに握り直すと、ピストン運動を始めた。

 

「あ、あぁ...」

 

同時に、亀頭だけが咥えられ、その中で舌がグネグネと踊った。

 

「あっ」

 

ちゅるりと吸われると、僕の喘ぎ声も大きくなる。

喉の奥まで咥えこまれ、強めにスライドされて、強烈な快感が全身を貫いた。

ユノの柔らかな髪を両手でかき乱す。

僕の両脚の間で、上下に動くユノの頭を、愛おしく撫でる。

腰が自然と前後に動き出した。

ユノの頭をつかんで前後に揺らしていた。

 

「あっ...あっ...」

 

ユノを窒息させてしまいはしないか心配になって、途中で突く動きを緩めるが、強烈な快感に支配された僕は、ユノの口を貫こうと、再び腰を揺らしてしまうのだった。

 

「イきそうか?」

 

僕のものを唇を離すと、しごく片手はそのままにユノは低い声で言った。

 

「う、うん」

 

「我慢しろ」

 

僕は激しく首を振る。

 

「いい子だから」

 

「む、むりっ」

 

このままじゃ、ユノの口の中でイってしまう。

 

「イっちゃう」

 

ユノの口の中に放出したい欲求と、それはいけないという、相反した考えで葛藤した。

もう、限界だ。

ユノの口から抜こうとしたが、彼に尻をつかまれる。

僕の尻に、ユノの爪がくいこむ。

その痛みすら快感だった。

僕の理性はふっとんだ。

ユノの頭を股間に押さえつけて、がくがくと小刻みに腰を揺らす。

ジュボジュボと、淫らな音がしんと静かな工場内に響く。

全裸の僕と、膝まずいて股間に顔を埋める着衣の彼。

半分は屋外のような場所で、衣服をまとわず腰を揺らす僕。

なんて光景だ。

目もくらむ快感の大波にさらわれた。

 

「いっ...くっ...!」

 

ユノの喉の奥に、僕の欲望が放出された。

二度、三度と絶頂の震えに襲われた。

 

「は...あぁぁ...」

 

精液を吐ききるまで、ユノは咥えたまま放さなかった。

こうして僕はユノの口の中で、達してしまったのだった。

マットレスに倒れこむ。

まるで全速力の末、ゴールで倒れこんだ陸上選手のようだった。

 

「チャンミンは、いやらしいなぁ。

さっき出したばかりなのに、

こんなに沢山」

 

濡れたユノの唇から、つーっと精液が滴り落ちていた。

 

「ごめん!

中に出しちゃって、ごめん」

 

ユノの唇を覆った。

青臭くえぐみのある味と匂いにまみれても構わず、やみくもにユノの唇を吸った。

 

「ごめん」

 

自分が出した白濁で、互いの口元が汚れてしまっても、全然構わなかった。

僕もユノも一緒に、汚れてしまえばいい。

ユノを汚してしまった罪の意識と、彼を征服した満足感がない交ぜになって、何が何だかわからなくなっていた。

 

「チャンミンは、可愛いね」

 

こう言って、ユノは僕の頭を撫ぜたのだった。

 

(つづく)

 

(4)僕を食べてください(BL)

 

~触って欲しい~

 

 

 

「急だったから、何もご馳走を用意してやれなくてごめんな」

 

「ばあちゃんが作ったカレーは好物だよ」

 

ばあちゃんの作ったカレーは、大きめに切った野菜がごろごろ入っていて、肉の代わりにツナ缶を入れた素朴な味だ。

 

大食いの僕のために、大きな鍋いっぱいにカレーを作ってくれた。

 

「明日、ビールでも買ってこようかね?」

 

「いいよ、わざわざ」

 

ばあちゃんも年をとった。

 

前回帰省した時から3か月も経っていないのに、小さく縮んだように見える。

 

「明日、僕が買いに行ってくるよ」

 

ばあちゃんが買い物に使う軽自動車のことだ。

 

この辺りは、車がないと生活が出来ない。

 

「ありがとね」

 

「あと5日間はいるからさ、僕にできることはやるよ。

何か力作業はある?」

 

「そうだねぇ、

車庫の中を片付けているんだよ。

雨漏りがするんだ、屋根が。

車庫ん中に置いてたものが濡れるから、家ん中に移してる途中なんだよ」

 

「わかった。

僕に任せてよ」

 

「そうだ。

Sさんから猪肉をもらったんだよ。

冷凍庫にあるから、明日の夜、鍋にしようか?」

 

「猪肉?

この季節に、鍋?」

 

「猟師の有志で、処理場を建てたんだとさ。

最近は、ジビなんとかが流行りだそうだよ」

 

「ジビエ?」

 

「そうそう、ジビエ料理。

観光客を呼ぼうと、町も必死なんだよ」

 

「そうなんだ」

 

ばあちゃんと会話を交わしながら、僕の頭の中はセックスのことでいっぱいだった。

 

僕くらいの年の男なんて、こんなものなんだろうけど、今夜は度が過ぎている。

 

やばい。

 

スウェットパンツを、僕のものがくっきりと押し上げてきた。

 

ばあちゃんに気付かれないよう、背を向けて席を立ち食器を片付けると、まっすぐ自室へ向かった。

 

自慰では、足りない。

 

全然足りなかった。

 

 

 


 

 

翌朝、朝食を終えると、そそくさと僕はあの廃工場へ向かっていた。

 

雨の山道で突き倒された時の僕はまさしく獲物で、廃工場で指だけでイかされた僕もやっぱりユノの獲物だった。

 

恐怖におののくどころか、滅茶苦茶にされたいと望んでいた。

 

僕は喜んでユノに身体を差し出すよ。

 

貪られたかった。

 

快楽に狂いかけていた。

 

僕は車を停めると、廃工場に向かって大股に歩く。

 

自宅から車で5分、徒歩だと15分もかからなかった。

 

繁殖力旺盛なつる草が、割れた窓ガラスから工場内に侵入している。

 

1メートルほど開いたシャッターの下を、僕は膝をついてくぐって入った。

 

(自分はどうかしてる。

もの欲し気に、訪れたりして)

 

「ユノ!」

 

(でも、自分を抑えられないんだ)

 

僕の声だけが、広い空間に響く。

 

床はコンクリート敷で、鉄骨に吹き付けた際に漏れた塗料が赤く染めている。

 

「ユノ!」

 

もう一度大声で叫ぶと、

「こっちだよ!」

声がした工場の裏手に回る。

 

「おはよう」

 

サングラスをかけたユノが、僕に向かって手を上げた。

 

この日のユノは、朱色の半袖Tシャツと濃灰色のパンツといった装いだった。

 

細身のそれは、ユノのスタイルのよさを際立たせていた。

 

ユノは全身のバランスが、素晴らしくよかった。

 

血の気のない肌がTシャツの色のおかげで、心なしか血色があるように見えた。

 

洗濯ロープに、真っ白なシーツがはためいていた。

 

「昨日、チャンミンが汚しちゃっただろ?」

 

「ごめん」

 

恥ずかしくなって僕はうつむいた。

 

工場の裏手は谷になっていて、下には谷川が涼し気な水音をたてている。

 

風に飛ばされないよう、シーツを洗濯ピンチでとめ終えたユノが、僕のそばにゆっくりとした足取りで近づく。

 

「俺に会いたかったの?」

 

ユノは僕の真ん前に立つ。

 

サングラスが瞳の色と目の下の隈を隠していた。

 

僕は頷いた。

 

ユノを前にすると、僕はとたんに無口になってしまう。

 

事実、昨日も喘ぐ声しか漏らしていなかった。

 

僕の喉がごくりと鳴る。

 

これから何が始まるのか期待が膨らんだ。

 

それも、エロティックな期待に。

 

ユノは僕の全身を上から下へと眺めまわすと、腕をすっと持ち上げた。

 

僕の視線は、ユノの指先に釘付けになる。

 

ユノの指先が、僕の手の甲から二の腕に向かって撫で上げる。

 

腕の産毛だけをかするような、羽のようなタッチで、それだけでぞわっと鳥肌がたち、ため息が出てしまった。

 

僕の胸が大きく上下した。

 

「ここじゃなんだから、中に入ろうか?」

 

ユノは僕の腕から手を離すと、親指を立てて工場裏手のドアの方を指した。

 

「......」

 

 

 

 

明るい外から室内に入ったため視界は暗く、僕は戸口に立って目が慣れるのを待つ。

 

ユノは歩調をゆるめることなく、あちこちに放置された鉄骨の間をすり向けて行った。

 

サングラスを外したユノは、遅れて来た僕に対面した。

 

(やっぱり...)

 

気が動転し、欲情に支配されていた昨日は、後回しにしていた疑問。

 

(ユノとどこかで会ったことがある)

 

ユノに襲われた時、僕の胸をかすめた考えが確信に変わる。

 

(どこで会ったんだろう...?

そんなことより、今は...)

 

これから何が始まるかは、分かりきっている。

 

僕の胸に、欲の炎がともる。

 

ユノの片頬に手を添えて、唇を重ねた。

 

今日は拒まれなかったことに安心しながら、ユノの唇の柔らかさを楽しんだ。

 

触れた時はひやりとしていたユノの唇は、何度も顔の向きを変えて重ねているうちに、温かくなってきた。

 

半分閉じられたユノの長いまつ毛や、短い前髪の下の形のいい眉毛が間近に迫っている。

 

(美しい人だ)

 

うっすら開けたユノの唇の隙間から、僕は舌を侵入させた。

 

ユノの舌を追いかけながら、これも拒まれなかったことに安堵していた。

 

口腔を舌先でくすぐられるたび、僕の下腹に熱い疼きが走る。

 

ねっとりと舌をからめ合い、味わい尽くす。

 

ユノとのキスは甘い味がした。

 

ユノは僕の首に、腕をまわす。

 

興奮で火照った首筋に、ユノの冷たい腕が心地よかった。

 

ふっとあの甘い香りが漂ってきた。

 

その香りを胸いっぱいに吸い込んだ僕の頭に、陶酔の壺に後ろ向きでダイブする映像が浮かんだ。

 

いつしかキスは激しくなり、僕の全身はますます熱く火照ってきた。

 

ユノは僕の耳元に唇をよせ、ささやいた。

 

「こんなに勃たせちゃって」

 

「あ...」

 

僕の股間は、デニムパンツの中で圧迫されてはちきれそうだった。

 

痛いくらい窮屈だった。

 

僕らはキスを再開する。

 

(たまらない)

 

僕らはもつれるように、隅に敷かれた真っ白なマットレスに倒れこんだ。

 

マットレスの上を壁際まで下がった僕に、ユノがのしかかる。

 

ねっとりとしたキスと同時進行に、Tシャツの上からユノの背に腕を回した。

 

これも拒まれなかった。

 

その手をユノの尻まで落とし、引き締まった弾力を楽しんだ。

 

ところが、例の場所に手を這わそうとした時、手首をつかまれ耳の高さに押さえつけられた。

 

僕の力では抗えない、鋼鉄のような力。

 

もう片方の手も、同じように押さえつけられた。

 

ユノは手首から手を離すと、僕のベルトを外しパンツのファスナーを下げた。

 

ユノの拘束から解かれても、僕の両手は万歳のポーズのままだ。

 

パンツの裾を持って、一気に引き下ろした。

 

そしてユノは、下着の上から僕の膨張した部分に手を当てた。

 

腰がかすかにぴくりとする。

 

「今日もこんなに濡らしちゃって」

 

下着の一点が、ジュクジュクに濡れているのが分かる。

 

ユノは満足そうに口角を上げると、僕の最後の場所を覆っていた下着を、一気に引き下ろした。

 

のどがごくごくと鳴る。

 

僕は上はTシャツを着たまま、下半身はむき出しの裸にされた。

 

こんな恥ずかしい恰好も、僕の興奮を煽った。

 

そして、これからはじまるであろうことを思うと、それだけで猛々しくなってしまう。

 

「脚を広げて」

 

「え?」

 

壁にもたれた状態の僕の両膝を、ユノは軽く押す。

 

素直に従い、僕の両腿は大きく開かれた。

 

欲の色が浮かんだユノの瞳は群青色に輝いて、そこから目がそらせなかった。

 

行き止まりまで追いつめられ、あとは襲われるのを覚悟して待つ被捕食者のように。

 

「どこを触ってほしい?」

 

「え...?」

 

「触って欲しいところを教えて」

 

(そんなこと...恥ずかしくて言えないよ)

 

僕は目を反らす。

 

開いた僕の両腿の前に、ユノは腰を下ろした。

 

陶器のようななめらかな白い頬をゆがませて微笑する。

 

「言えないのか?」

 

ユノは僕の睾丸を手の平にのせると、やさしくもみほぐし始めた。

 

「は...あぁ...」

 

深い吐息を漏らす。

 

やわやわと壊れやすいものを扱うように、その動きは優しい。

 

ユノの手が、僕の陰毛を逆立てるように指ですく。

 

ユノは身を伏せると、僕のふくらはぎに唇をつけた。

 

そして、膝裏からつつーっと舌を這わせ、脚の付け根に到達すると、内ももに戻る。

 

その道筋から、さざ波のような震えが広がった。

 

膝裏から内ももをたどり、脚の付け根まで舌を這わせると、またふくらはぎに戻ってしまった。

 

脚の付け根まで到達すると、膝裏まで戻ってしまう。

 

「もっと...」

 

焦らすような動きに、耐えられなくなった僕は口走ってしまった。

 

「もっと...上」

 

「ここ?」

 

「そう、そこを」

 

ユノはそそり立った僕のものに人差し指を当てると、揺らした。

 

指を離した弾みで、バネのように下腹を叩く。

 

「触って」

 

「ふふふ」

 

「あっ...駄目っ」

 

シャワーを浴びていないことに気付いて、自分の股間に顔を近づけたユノを押しとどめた。

 

「汚いから...」

 

「可愛いね」

 

くすっと笑うとユノは僕の先端に、チュッと音をたてて軽いキスをした。

 

「うっ」

 

快感がはじける。

 

昨日から僕が求めていた行為が始まった。

 

ユノはゆっくりと、根本から上に向かってゆっくり舌を動かしていった。

 

「は...あっ...」

 

全身が粟立つ。

 

次は僕の硬さを楽しむようについばむように、唇を動かした。

 

ユノはまだ、咥えない。

 

僕のものの先からは、とめどなく先走りが流れ出る。

 

根元から這ったユノの舌が、先端に戻った。

 

「うっ...」

 

尿道口をちろちろと、舌先で遊ぶ。

 

「あっ...はぁ...」

 

僕の淫らな声が、しんとした工場内に響く。

 

ユノの舌先が離れた瞬間、唇から糸がひいて、僕の興奮は増していった。

 

「可愛い...チャンミン、可愛いよ」

 

先走りとユノの唾液で、僕のものはてらてらと光っている。

 

「いやらしい...濡れ過ぎだ」

 

その言葉に煽られて、全身の血流が沸騰しそうだった。

 

(たまらない。

僕は...はしたない男だ)

 

ふとユノは顔を上げると、身を起こした。

 

首をそらして喉をみせていた僕は、顔を戻す。

 

途中で止められて、お預けをくった僕は、恨めしそうな表情をしているに違いない。

 

「ここからは、自分でやれ」

 

「え...?」

 

「続きはチャンミンがやるんだ」

 

ユノは僕の手をとって、握るよう促した。

 

「俺に見せて」

 

(なんて恥ずかしいことを...)

 

ユノは僕に命じた。

 

「オナニーしているところを、俺に見せろ」

 

 

 

(つづく)

 

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(3)僕を食べてください(BL)

 

~甘い余韻~

 

 

快感の余韻と虚脱感で力が入らない僕の腰を、彼は引き上げた。

 

再び僕は四つん這いにされた。

 

肩を落として、荒い息を繰り返す僕をそのままに、彼は僕の割れ目に指をあてると、すーっと前から後ろへ撫でる。

 

「あっ」

 

指先で、敏感な箇所をつついた。

 

経験したことのない痺れが下腹部を襲う。

 

「開発のしがいがあるな」

 

そう言って彼はくすくす笑った。

 

 

 

 

くったりとマットレスの上で、クの字になって横になっていた。

 

さんざんいたぶられた胸の先端が、熱を帯びていた。

 

全裸の僕と、着衣の彼。

 

僕の脇に座った彼は、僕の髪を何度もかきあげていた。

 

彼の指の間に、髪がすかれる感じが気持ちがいい。

 

膝まで下げられたショーツを、引き上げてくれる。

 

さっき僕が濡らした箇所が、冷やりと張り付いた。

 

「風邪ひくぞ」

 

マットレスの足元で丸まっていた僕のTシャツを背中にかけてくれた。

 

「自己紹介が遅れたな。

俺はユノ」

 

僕の前に片手が差し出され、その手を握った。

 

「よろしく」

 

群青色に澄み、凪いだ湖のように穏やかなユノの瞳に、僕は魅入られていた。

 

 

 


 

 

 

手のひらで湯面をなでる音だけが、狭い浴室に響く。

 

半日前の出来事は、夢みたいだったけれど、熱いお湯にしみる胸の先端が、あれは現実だったと教えてくれる。

 

透明なお湯の中で、赤く色づいたそこは自分のものなのに色っぽい。

 

腫れあがってひりひりする痛みすら、甘い余韻だ。

 

「あ」

 

疼きを覚えて股間に目をやると、ゆらめくお湯の中で僕のものが、軽く勃ちあがっていた。

 

あの時の余韻を思い出しただけで、これだもの。

 

強烈過ぎた。

 

我慢できずに、ゆるゆるとしごきはじめた。

 

ユノの手の感触を思い出そうとする。

 

僕のものを握った、ひんやりとした白い指を思い出す。

 

ユノは僕の背後から手を伸ばしていたから、姿は見えなかった。

 

巧みに指をうごめかせて、僕のものを前後させていたあの手を思い出す。

 

「はぁ...」

 

刺激が足りなくて、湯船から上がる。

 

大きく張り詰めたものを、ボディソープを広げた手の平で上下する。

 

滑りがよくなって、快感が増した。

 

「あ...」

 

あの時の刺激を再現しようとした。

 

目をつむって、思い出す。

 

身をよじって、はしたない声を漏らしていた僕を。

 

ユノの爪先が胸の突先にひっかけられて、きゅんと走った疼きを。

 

叩かれた尻の熱さを。

 

「可愛いよ」

「チャンミン、いやらしい子だ」

 

耳元でささやかれた言葉。

 

ゾクゾクした。

 

往復するごとに、大きく硬く育ってきた。

 

「は...あ...」

 

シャツに覆われていた身体を想像する。

 

ボトムスを脱がせてあらわになった、彼の裸を想像した。

 

僕を組み敷く逞しい胸、つんと尖って固くなったその先端を僕は口に含む。

 

僕を舌なめずりするかのように見ていた目が、快楽に酔ってとろんとしたものに変化して。

 

突き出したユノのあそこに、僕のものが深く埋められていく...。

 

「んっ...」

 

往復する僕の手の加速が増した。

 

「んっ!」

 

目をつむって天井を仰ぐ。

 

無音の浴室では、僕がたてる、くちゅくちゅいう音だけが響いている。

 

「んっ!」

 

絶頂の末、吐き出した。

 

「はぁはぁ」

 

肩を揺らして息を整えた後、シャワーで泡やら白濁した粘液やら洗い流していると...。

 

突然、脱衣所から声をかけられた。

 

「チャンミン、着替えを置いとくよ」

 

一気に現実に引き戻された。

 

「あ、ありがとう」

 

「はあ」

 

前髪から汗混じりの水が、ぽたぽた落ちていた。

 

駄目だ。

 

まだまだ、足りない。

 

全然、足りない。

 

 

 

 

突然帰省してきた僕に、ばあちゃんは目を丸くして、その後くしゃくしゃにした笑顔で僕を家に招き入れてくれた。

 

ばあちゃんの家は、すぐ側まで木々が迫る山すそにある。

 

褪せたトタン屋根と、ペンキの剥げた羽目板の壁の古い建物だ。

 

ばあちゃんの家でもあるし、僕の家でもあるこの古い家が、子供の頃恥ずかしかった。

 

僕は18歳でこの家を出るまで、ばあちゃんと2人暮らしだった。

 

僕が小学生だった時、両親を交通事故で亡くして以来、ばあちゃんが僕を育ててくれた。

 

ばあちゃんが唯一の家族なんだ。

 

「チャンミン、口をどうした?」

 

「あ...」

 

僕の唇を指さすばあちゃんの心配そうな表情を見て、ちょっとした罪悪感に襲われた。

 

「ぶつけたんだ。

大丈夫だよ」

 

まさか、見ず知らずの男の人に噛まれたなんて言えないよ。

 

ユノに噛まれた唇は、出血は止まっているけれど、喋るたびピリッと痛みが走る。

 

 

 

 

「ごめんな」

 

そう言って帰り際、ユノが唇に軟膏を塗ってくれたんだっけ。

 

僕の唇に触れるユノの薬指が色っぽくて、ごくりと喉を鳴らしてしまった。

 

湿ったままの洋服を身に着ける間、ユノはマットレスに腰かけ、じーっと僕を観察していた。

 

テーブル代わりのケーブルドラムの上に置いた、紙カップのストローを時おりくわえていた。

 

ごくごくと動く白い喉に目を離せなくて、僕の方もちらちらとユノを観察していた。

 

いくつ位だろうか。

 

僕と同じくらいか、ちょっと上か。

 

身体が泳ぐくらいだぼっとしたシャツを着ているけれど、のしかかれた僕の背中はユノ胸板の筋肉の弾力を感じとっていた。

 

僕に触れさせなかった身体。

 

恐らく、とても逞しい身体をしているのだろう。

 

僕と視線がぶつかると、ユノはあでやかな笑顔を見せた。

 

「そんなに見つめられると溶けちゃうよ」

 

つい30分前まで、このマットレスの上で行われていたことが、夢みたいだった。

 

それくらい、ユノの表情は穏やかだった。

 

あの時の獰猛なぎらついた目が信じられない。

 

今の瞳の色は、青みがかった墨色。

 

最中の時、もっと明るい青色だったような...気のせいだったか?

 

ユノを見て、異常なまでの性欲に襲われて押し倒そうとした。

 

僕ひとりが裸で、大の字になったり、四つん這いになったり。

 

僕ひとりが、嬌声をあげて、ユノに導かれるまま射精した。

 

あられもない姿を晒した。

 

そして、めちゃくちゃ興奮した。

 

とにかく気持ちよかった。

 

「気をつけて帰るんだぞ」

 

シャッター前まで見送りに出たユノは優しくそう言って、何度もふり返る僕に手を振ってくれた。

 

雨は上がっていた。

 

時刻はまだ夕方前だったから、廃工場にいたのはわずか3時間ほど。

 

ばあちゃんの家への続く、下草はびこる小道を湿ったスニーカーで歩きながら、思いを巡らす。

 

廃工場の外に出て、そこが近所の見知った建物であったことを知った。

 

何年も前に廃業した鉄工所で、山道から繋がる砂利道が生い茂る雑草で覆われている。

 

ユノはここに住んでいるのか?

 

まさか。

 

電気も通っていないはず。

 

野宿するよりも、雨露しのげるここを一晩の宿代わりに?

 

わざわざここに?

 

クエスチョンが、次々と湧いてくる。

 

今になって、常識的な思考が戻ってきた。

 

ユノって一体、何者なんだ?

 

「美味しそう」だったから拉致して、僕を弄ぶという形で『食べた』のか?

 

じゃあ、『育てる』って?

 

僕の中に潜むマゾっ気を育てるってことかな。

 

まさか!

 

なんだか、頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。

 

ひとつだけはっきり言えるのは、このことを僕が望んでいるってことだ。

 

もう一度、味わいたい。

 

ユノに触られ、舐められて、僕は恍惚の世界を縁から覗きこんだ。

 

身を乗り出して、その世界に飛び込んで、底まで沈みたい。

 

そんな考えを悶々と巡らしているうちに、ばあちゃんちの前にたどり着いていた。

 

 

 

(つづく)

 

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(2)僕を食べてください(BL)

 

 

「服を着ろ」

 

彼に命じられても、僕は湧きあがった欲情を止められない。

 

気付くと僕は、彼の肩を押さえて押し倒していた。

 

彼の首筋に唇を這わせようとした瞬間、彼の手が伸び、火照った僕の首をわしづかみにした。

 

僕の喉ぼとけが、冷たい手の平で圧迫される。

 

「このへんで止めておくんだ。

本当にお前を食べてしまう」

 

彼が放つ甘い香りが、僕の欲情を煽る。

 

僕の真下から見上げる、紺色になった彼の瞳に色気を感じていた。

 

瞳の色の変化を、不思議に思う余裕がなかった。

 

彼のボトムスを脱がせにかかる。

 

気が急きすぎてボタンが外せずイラついた僕は、ウエストの隙間から片手を差し込もうとした。

 

すると、彼は僕の手首をつかんで、僕の動きを制した。

 

手首の骨がきしむ。

 

なんて力だ。

 

ふりほどこうとしても、彼の力の方が勝っていた。

 

「どうなっても知らないよ」

 

「あっ!」

 

やすやすと僕は仰向けにされてしまった。

 

彼は僕の腹の上に、膝立ちでまたがる。

 

僕の顎は再び捉われて、斜めに頬を傾けた彼の口で塞がれた。

 

あまりに強い指の力に屈して、口を開けるとその隙間から彼の舌が侵入してきた。

 

今度は唇を甘噛みされた。

 

ぴりっとした痛みの後、僕の口内を出入りする彼の舌をかき混ぜられて、血の味が口いっぱいに広がる。

 

僕の唇が、舌でなぞられた。

 

僕の唾液と血でてらてらと光った彼の唇に、強烈な色気を感じてごくりと僕の喉がなった。

 

たまらず彼の股間に手を伸ばそうとした瞬間、僕の手はぴしゃりとはねのけられた。

 

「俺に触るんじゃない」

 

ひるんだ僕は、大人しく腕をマットレスの上に落とす。

 

彼は僕を見すえたまま、僕の胸の先端をもてあそび始めた。

 

触れるか触れないかのタッチで、乳首の上を行ったり来たりする。

 

じんじんと疼く。

 

彼の人差し指と親指が、そっとつまんだ瞬間、

 

「あっ...」

 

と声が出てしまった。

 

自分の口から洩れた、かすれた甘い声音に僕は驚く。

 

僕の反応に、彼はふり返って僕の股間を確認すると、うっとりと甘い微笑みを見せた。

 

そして、顔を伏せると、僕の乳首を口に含んだ。

 

ゆるゆると舌先で転がし始める。

 

「んっ」

 

彼の前髪がさらさらと、僕の胸や腹をかする感触さえ、怒張させる刺激になった。

 

彼の舌が往復するたび、じんじんと下半身が疼く。

 

先ほどの冷たかった彼の唇が、熱くなっていた。

 

ちろちろとくすぐったかと思うと、時折強く吸った。

 

「いっ、やぁっ!」

 

その度、僕の呼吸が荒くなる。

 

(たった...これだけで...頭が真っ白になる!)

 

僕のを舐めながらも、彼は僕から目をそらさない。

 

「...はっ...!」

 

きゅっと少し強めにつままれる度に、声がもれ出る。

 

(ヤバい...気持ちがいい)

 

「やっ...!」

 

軽く歯をあてられる度に、短い悲鳴が出てしまう。

 

「声出しちゃって...気持ちいいのか?」

 

首を縦にふる。

 

敏感になった乳首を、強弱をつけて執拗にいじめられた。

 

僕の全神経が胸の一点に集中してしまっている。

 

「こんなに乳首を勃たせて。

チャンミンは敏感だね。

可愛い」

 

そう言うと、僕の乳首をぴんとはじいた。

 

「はっ...」

 

今、自分が置かれている、奇妙で理解不能な状況のことなんか、吹っ飛んでしまった。

 

僕の思考は、めくるめく陶酔の泥の底。

 

両手足の動きを封じられてもいないにも関わらず、僕は仰向けのまま『でくの坊』になって、快感の吐息を漏らすだけだった。

 

胸しか触られていないのに、僕の下腹部のうずきは最高潮だった。

 

そこには指一本触れられていないのに、どうしてこんなに興奮してしまうんだ?

 

彼の神秘的な容貌と、全身から放たれる香気に酔った僕は、みだらな世界にずぶずぶと溺れてしまった。

 

山道で襲われ、

廃工場に連れてこられ、

脱がされ、

得体のしれない男に、馬乗りになられて、

欲情の吐息を漏らす僕。

 

もっと触って欲しい。

 

もっともっと、舐めて欲しい。

 

 

 

 

 

彼の手が背後に伸び、そっと僕のモノを握った。

 

「あっ...!」

 

僕の体が魚のようにはねる。

 

「素直な反応だ」

 

僕を見下ろしながら、くすくすと笑った。

 

「可愛い」

 

じくじくと乳首だけを攻められている間に、僕のものははち切れそうになっていた。

 

彼の指先が羽のように、下着の上から僕の形をなぞった。

 

「はぁ...っ!」

 

目がくらむような快感が、僕の頭のてっぺんまで突き抜けた。

 

「触って欲しかったんだろう?」

 

僕は頷く。

 

根元から先端までつつーっと爪先を滑らす。

 

「うっ...」

 

手のひらをくぼませて、僕の先端をくるくると撫で回す。

 

「やっ...」

 

呼吸もままならないほど、喘いでしまう。

 

指だけなのに。

 

触れられているだけなのに。

 

彼の手が、僕の形に沿って、強弱をつけて撫で上げたり、撫でおろしたりするだけで、身体が震えた。

 

彼の念入りな愛撫に、僕のいやらしい粘液があふれ出る。

 

「こんなに濡らしちゃって」

 

羽のような感触だけでは物足らなくて、知らぬ間に僕は腰を揺らしていた。

 

「チャンミンったら、自分から動かしちゃって」

 

彼の手の平に股間をこすり付けていた。

 

「もっと触って欲しい?」

 

こくこくと頷いた。

 

「挿れたいの?」

 

こくこくと頷いた。

 

「それとも...挿れられたい?」

 

「......」

 

ふふっと笑った彼は、僕をうつ伏せにすると腰を高く持ち上げた。

 

(え?)

 

抵抗もせず、彼になされるがまま従ってしまう僕。

 

四つん這いにされて戸惑った。

 

僕の下着を膝まで引き下ろすと、背後から手を伸ばして僕のモノを握り、ゆるゆるとその手を動かす。

 

「うぅ...」

 

直接触れた彼の手の感触が、あまりに気持ちよくて、涙が滲んできた。

 

僕の先端からあふれ出て濡れたもので、ぬるつかせながら上下にしごきだした。

 

僕の腰が勝手に前後に動きだす。

 

「いやらしい子」

 

彼の言葉に、僕は煽られる。

 

僕の動きに合わせて彼の指が、前後にするするとこすりあげた。

 

彼の指は強弱をつけて握ったり、ぬるついた先端だけを小刻みに動かした。

 

「っあ...」

 

彼の手の中で、僕のものはさらに大きく張り詰める。

 

僕の顔を横から覗き込み、彼はどう猛な笑みを浮かべた。

 

僕は彼の獲物だ。

 

もう片方の手を、僕の背筋を滑らせる。

 

「は...あぁ...」

 

その感触だけで、鳥肌がたつ。

 

あえぐたび、彼は僕の首筋に唇をあて、耳たぶまで舌を這わせる。

 

「チャンミン...可愛いよ」

 

耳元でささやかれたのに反応して、熱く硬くなる。

 

彼を押し倒すこともせず、僕は四つん這いのまま熱い吐息をこぼすだけだ。

 

金縛りにあったかのように、僕の両手、両膝は動かせない。

 

「はあはあ」

 

快感のあまり、がくりと肩を落としてしまった。

 

(気持ちよすぎる...)

 

マットレスに片頬を押し付けて、だらしなく口を開けて。

 

腰を突き上げた格好という、恥ずかしい姿勢で。

 

その背の上に彼は身体をもたせかけ、前にまわした片手で僕の胸を攻め始める。

 

下半身も胸も、同時進行で与えられる刺激に目がくらんで、僕はギュッと目をつむった。

 

(もう...限界だ)

 

彼は僕の尻をつかむと、前後に揺らし始めた。

 

「もっと腰を動かせ」

 

耳元でささやくと、ぴしゃりと僕の尻を叩いた。

 

お尻はカッと熱くなるし、

腰を動かすたび目がくらむほどの快感が全身を走るし、

乳首をさんざんいたぶられて、

もう自分が何をされているのか、分からなくなっていた。

 

頭がくらくらしてきた。

 

僕の顎をつかむと、唇を重ねてきた。

 

彼の舌を追いかける。

 

彼に触れられる唯一の入口だ。

 

下腹部が重ったるくしびれてきた。

 

彼の手の動きが、激しくなってくる。

 

「うっ...!」

 

下腹部が弓なりに、けいれんした。

 

「はっ...!」

 

僕は激しく射精した。

 

2度3度と続いたけいれんに合わせて、僕の精液が吐き出される。

 

「はあはあはあはあ」

 

僕は突っ伏した。

 

僕は彼の手の動きだけで、達してしまったのだった。

 

 

(つづく)

 

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(1)僕を食べてください(BL)

 

 

~プロローグ~

 

「もっと吸って」

 

彼に懇願していた。

 

「もっと...もっと吸って」

 

うわ言のように繰り返した。

 

「お願いだ...吸って...!」

 

彼のためなら命を失ってもよかったんだ。

 

 


 

 

 

大型連休に突入し、多くの同級生たちが家族の元へ帰省していった。

 

僕の場合、行きたいところもない、欲しい物もない、そんな鬱々とした気分だった。

 

かといって、一週間も寮でゴロゴロ過ごしていたら、ますます気持ちが沈み込みそうだった。

 

皆にならって、僕も帰省することにしたんだ。

 

1時間に1本、普通列車がやっと停まる寂れた駅に降り立った。

 

しとしとと雨が降っていた。

 

閉鎖してしまった観光案内所と公衆トイレがぽつんとあるだけの、駅のロータリー。

 

当然のごとく客待ちのタクシーなどないし、ばあちゃんには帰省することを伝えていなかったから、迎えの車もない。

 

荷物はリュックサック1つと身軽だった僕は、徒歩40分くらい歩いて向かうことにした。

 

濡れようが、濡れまいがどうでもよかった。

 

それくらい、自分に対して投げやりになっていた。

 

10分も歩かないうちに、スニーカーの中がぐずぐずに濡れてきて、歩を進める度にキュッキュッと音をたて始めた。

 

ささやかな商店街を抜け、水田を貫く片側一車線の道を20分も歩くと、針葉樹の木立の中だ。

 

間伐されていないせいで、木々は密集しており、伸びるに任せた枝が空を覆っている。

 

緑のコケに覆われた幹が連なる薄暗い道を、黙々と歩き続ける。

 

生い茂るシダから滴がぽたぽたと落ちていた。

 

茶色い杉葉がアスファルトのあちこちにへばりついている。

 

「!」

 

危険を感じる間もなかった。

 

背中に衝撃を感じた。

 

景色がぐるっと回転したのち、一瞬目の前が真っ暗にになって、視界に光の粒がチカチカと瞬く。

 

僕は硬い地面に叩きつけられていた。

 

雨粒が、仰向けになった僕の顔をたたく。

 

悲鳴ひとつ出せなかった。

 

そして、真っ白い顔が僕を見下ろしていた。

 

一切の音が消滅して、痛いくらいに心臓が拍動するドクドクと音をたてている。

 

喉の奥でせき止められていて、言葉は出ない。

 

僕を見下ろす一対の瞳は、これ以上はないほど真っ黒だった。

 

逆光だったにも関わらず、肌は青白く光っている。

 

男だった。

 

非常事態にも関わらず、唯一血色を感じられる目尻が妖しかった。

 

僕はこの男にタックルされ、突き倒され、組み敷かれていた。

 

なぜ?

 

なぜ?

 

僕の頭はクエスチョンだらけ。

 

地面に打ち付けられた背中が、ズキズキと痛んだ。

 

彼の白い指が、僕の肩に食い込んでいた。

 

肩を押さえつけていた片手が、僕の喉にかかる。

 

冷たい、冷たい手の平だった。

 

彼の指の下で、ぼくの頸動脈がドクンドクンと打っていた。

 

恐怖のあまり、しゃくりあげるような呼吸がやっとだった。

 

彼は蒼白な唇の片側だけで微笑む。

 

彼の顔が近づいてくる。

 

どこかで見たことがある、という考えが頭の片隅をかすめた。

 

僕が覚えているのは、ここまでだ。

 

彼の唇が、僕の左首筋に押し当てられた。

 

溶けかかった氷のような感触だった。

 

 


 

 

大の字に寝ていた。

 

ここは...どこだ?

 

頭だけを動かして、周囲を見回す。

 

見上げると、太い鉄骨の梁、外の光を透かしている波板トタン。

 

鉄工所のような場所だった。

 

僕は真っ白なマットレスの上にいた。

 

砂埃だらけのコンクリート床の上に、直接置かれている。

 

手足をためつすがめつしてみたが、怪我は...していないようだ。

 

上体を起こして、初めて気づく。

 

下着だけの、裸だった。

 

着ていたTシャツもデニムパンツも、近くに見当たらなかった。

 

ますます、訳が分からなくなった。

 

「おはよう」

 

彼がマットレスの端に腰かけていた。

 

手足の長い、伸びやかな細い身体。

 

黒髪。

 

アルビノのように真っ白な肌と、睡眠不足みたいなクマ。

 

切れ長の一重まぶた、青みがかった墨色の目。

 

整った小さな鼻。

 

やたら端正な男だった。

 

黒いシャツと黒い細身のパンツを身につけていた。

 

そこだけポッと紅い目尻を細めて、僕のことを興味深そうに舐めるように見ていた。

 

そして、ファストフードでよくあるような、LLサイズのカップに差したストローをくわえている。

 

「えっと...?」

 

彼の顔を見て、冷たい唇の感触を思い出した。

 

左首筋に手をやったが、怪我の気配はない。

 

「何もしていないから」

 

クスクスと彼は笑った。

 

「お前の名前は?」

 

初対面で「お前」呼ばわりかよ、と思いながら、「チャンミン」と教えてやった。

 

「ふぅん、変わった名前だ」

 

「僕は...どうしてここに?」

 

「俺が連れて帰った」

 

なぜ僕を?

 

抱えて?

 

なぜここに?

 

常識的な疑問が次々と湧いてくる。

 

「美味しそうだったから、連れて帰った」

 

(美味しそう?)

 

僕は絶句する。

 

「ゆっくり味わおうと思って」

 

(味わう?)

 

頭がおかしい人なのかもしれない。

 

「お前って、美味しそうなんだ。

食べちゃおうと思ったけど、もっと美味しく育ててからにしようと思って」

 

「食べる?」

 

「そう」

 

食べるって?

 

育てるって?

 

意味が分からない。

 

彼の瞳が、群青色に変わっていた。

 

「美味しそうだ。

少しだけ食べさせて?」

 

「え?」

 

さっと空気が動いた。

 

強引に両ほほを押さえつけられ、僕の唇に彼の唇が押しかぶさった。

 

冷たい唇、けれど柔らかい唇。

 

息が出来ず口を開けたすきに、彼の舌が僕の口腔内にぬるりと侵入してきた。

 

僕の思考は止まった。

 

鉄の味がした。

 

彼の舌がぐるっと僕の口の中なぞる。

 

僕の舌はくわえられて、彼の歯があたる。

 

彼の口から漂う、甘い香りに酔った。

 

息ができない。

 

でも、気持ちがいい。

 

頭の芯がじんじんと痺れる。

 

全身にぞくぞくと震えが走った。

 

気付けば、僕は彼の首を引き寄せていた。

 

突然、彼は僕を突き放した。

 

その勢いで、僕はマットレスに仰向けに倒れこんでしまった。

 

息が荒い。

 

「美味しい。

今日のところは、これくらいにしておくよ」

 

彼は息が止まってしまうほど、甘い微笑みを見せた。

 

「ごめん。

血が出ちゃったね」

 

「あ...」

 

口の中が、鉄の味でいっぱいだった。

 

舌先がじんと痛い。

 

僕の血がついた彼の唇が赤く染まっていて、その目が漆黒に変わっていた。

 

「......」

 

彼とのキスで、僕の中の何かに火がついた。

 

彼の視線が、僕の顔から胸、腹と移り、腰までいくと止まった。

 

「お前の洋服はまだ乾いていない。

こんな天気だから」

 

トタン屋根を叩く雨音が、うるさいくらいに反響していた。

 

立ち上がった彼の動きで、さっき嗅いだ甘い香りがふわりと漂った。

 

巨大な鉄骨の向こうにいったん消えると、僕の服を腕にかけた彼が戻ってきた。

 

「濡れてて気持ち悪いだろうけど、服を着て。

もう帰っていいよ」

 

ぱさりと僕の膝に洋服が投げられる。

 

それらに手を伸ばす気はなかった。

 

嵐のような欲情が、僕の中で吹き荒れていた。

 

僕は、とても興奮していた。

 

 

 

(つづく)

 

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