(17)ぴっかぴか

 

 

~ユノ~

 

駅までの道順が分かんないとうるさいから、道案内がてら送っていくことになってしまった。

 

通勤時間を過ぎた頃の駅への道中、人通りは少なくなっていた。

 

俺は自身の容姿に無頓着な方だ。

 

そうであっても、20代半ばで金髪頭でいるのは、社会人になるのを逆らって若者ぶってるみたいで、気恥ずかしい。

 

俺はTシャツにスウェットパンツ、チャンミンは俺が貸したTシャツと黒パンツ。

 

かちっとした革靴にジャージパンツは似合わないと、伊達男チャンミンはうるさかった。

 

自分のボトムスに、『部屋着』と筆文字がプリントされたTシャツを合わせるのは嫌だと、文句ばっかり言ってるんだ。

 

洗濯が間に合ってなかったし、比較的新しいのがそれしかなかったのだ。

 

つくづくチャンミンという遊び人は、面倒くさい。

 

ラフな恰好をさせて、俺はほっとしていた。

 

乳首が透けたシャツとぴっちぴち革パンといった、発情期の雄(雌じゃない!)を刺激するような恰好じゃ、マズいだろう?

 

だから隣を歩く俺は落ち着かない。

 

俺が貸したTシャツをくんくん嗅ぐチャンミン。

 

「臭くて悪かったなぁ」

 

「ユノの匂いがする」

 

「当たり前だろ?

俺の服だから。

あんたのかーちゃんの匂いがしてたら変だろう?」

 

「ねえ、ゆの。

首の後ろ、くんくんしていい?」

 

「ば、馬鹿!」

 

「舐めたりしないから。

くんくんさせて?」

 

「こら!

近寄るな!

しっ、しっ、しっ!」

 

「ちぇっ」

 

「俺相手に発情すんなって!」

 

「発情だなんて...。

男の人を見る度、見境なくお尻を突き出してるみたいに言わないでよ」

 

「あんた...!

ケツって言ったか?」

 

俺は目を剥いて、反射的にチャンミンの尻に目をやってしまう。

 

それから、風呂場で観察してしまったチャンミンの、ピュアピンクのあそこを思い出してしまった。

 

「マジか...」

 

「マジマジ」

 

小首を傾げて「うふっ」ときた。

 

「...へぇ...」

 

「ねえ。

『この子だ!』と思えた子とはエッチしてもいい、って言ってたよね?」

 

「ああ。

男なのに貞操観念が高い、と馬鹿にしたければしていいぞ」

 

開き直った風の口ぶりに、「あれ?」と。

 

俺が童貞であることは、男友達にも話したことはない。

 

単に馬鹿にされるだけだと分かっていたからだ。

 

『この子だ!』と確信が持てた子としかしたくない、と説明しても、彼らには理解できないだろうし、仲間内でゲラゲラと笑われるのがオチだ。

 

けれども、チャンミンにカミングアウトして以来、その信念も揺らぎ始めた。

 

何をこだわっているんだ?と。

 

セックスを拒んだせいで、フラれたことも堪えてきたんだろうな。

 

経験人数20人プラスα(絶対に少な目にサバを読んでいるに違いない!)の性の達人と、経験人数ゼロの俺。

 

ギャップが甚だしい。

 

「じゃあさ、『この子だ!』って子が現れて、いよいよえっちをするってなった時。

ユノはどうするの?」

 

「え?」

 

「経験なしで、彼女をリードできるの?」

 

俺の不安をズバリ言い当てたよ、この玄人は!

 

「やり方は知ってるし、その時はその時だ。

身体が自然と動くものじゃないのかな?

それに、彼女の方がリードしてくれるかもしれないじゃん」

 

「へえぇ。

彼女が処女かそうじゃないかは、こだわらないんだ」

 

「う~ん、そうなんだよなぁ...」

 

「つまりだよ?

相手が純潔を捧げてくれることに悦びを見出すんじゃなくて、

ユノが純潔を捧げるに値する相手を待っているんだね」

 

「そういうことに...なるね」

 

そこまで深く追求してみたことはなかった。

 

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

ユノの隣を歩く僕は得意げだった。

 

昼間の太陽の下で見るユノは、よだれが出そうになるくらいいい男だった。

 

180センチ超えの高身長、頭が小さいせいで9頭身?

 

ジャージパンツにサンダル履きといった1マイルファッションなのにね。

 

白金に近い髪が陽光に透け、キメの細かい白い肌と相まって、北欧の人みたいなのに、顔立ちは塩顔なんだ。

 

う~ん、いいねぇ。

 

おっと、ユノとチェリー談義の途中だった。

 

「その子にしてみたら、重いねぇ。

ユノの初めてを奪っちゃってさ。

責任重大だねぇ」

 

「う~む...」

 

「『この子だ!』って子とえっちをした後の話だよ。

ユノにしてみたら、意味ある子なんでしょ?」

 

ユノとはその子と粘膜同士で繋がることに、深い意味を求める男だ。

 

ユノにとってえっちは、愛情の交換なのだろう。

 

さぞかしその子は、ユノのことを重いと思うだろうなぁ。

 

もっとライトな付き合いをすればいいのに...例えば僕のように。

 

「さあ...。

そんな子と出会ったことがないから」

 

ユノはいい男で、さらに性格もいい。

 

女の子がぞろぞろと寄ってきそうなのに、大勢の彼女たちから未だ『この子だ!』を見つけられずにいるなんて...。

 

僕が『この子だ!』になれる見込みはあるのかな...。

 

あれ?

 

あれれ?

 

ユノをひと晩のお相手にするつもりだったのに。

 

ガードの固いユノをいかにして落とすか、ゲーム感覚でいたのに...。

 

おかしいぞ。

 

「駅についたぞ」

 

会話と思考に夢中でいる間に、目的地に到着してしまったようだ。

 

「ありがと。

あとでね」

 

僕の「あとでね」発言を受けたユノのびっくり顔といったら!

 

連絡先の交換を済ませていたことを、ユノは忘れていたらしい。

 

「...あ、ああ」

 

うふふ、可愛い。

 

「じゃあな」

 

あっさり言い放ち、くるりと背中を見せたユノを呼び留めた。

 

「お金を貸してください...」

 

「は?」

 

ユノと関わるための作戦じゃない。

 

僕の財布は、ユノの部屋に脱ぎ捨てたままの革パンの後ろポケットに入れっぱなしだった!

 

「あんたなぁ...。

ドジっ子過ぎるんだよ。

まてよ...」

 

ユノはスウェットパンツのポケットをごそごそした後、紙幣と小銭を...ポケットの中身を全部、僕に渡した。

 

「え...こんなにいっぱい...」

 

「メシも買わないといけないだろ?」

 

「うん...。

ありがとう」

 

「じゃあな」

 

きびすを返したユノを、再び呼び止めた。

 

「今度はなんだよ?」

 

ユノは当然、ムスっとしている。

 

僕は顔を寄せ、ユノの頬に唇を押し当てた。

 

「......」

 

ぽぉっと立ち尽くすユノに、「またね」

 

僕は手を振り、駅構内へと駆けていった。

 

うふふ。

 

キスしちゃった。

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

(16)ぴっかぴか

 

 

~チャンミン~

 

入浴を終えた僕とユノは、「さて、何をしようか?これといってすることもないなぁ...」と言った感じ。

 

ユノを押し倒してパンツを脱がすわけにもいかず、押し倒した末、ユノの上にまたがるわけにもいかず、僕らはこうしてテーブルを挟んで座っている。

 

ユノの股間にちらりちらりともの欲しそうに視線を送っているのも、早々とバレてしまったしね。

 

ユノはスケジュールを確認しているのか、壁に掛けたカレンダーに目をこらしているけど、そこは真っ白だ。

 

何度も掛け時計に目をやっては、1分少々しか経過していないと知ってはため息をついている。

 

僕と目を合わせないよう、警戒したユノは室内のあちこちへ視線を彷徨わせているのだ。

 

そりゃそうだよね...だって、僕は頬杖をついてユノをじぃっと見つめているんだから。

 

顎を上げ潤んだ目でうっとりと...かと思えば上目遣いで...これで多くの男たちを落としてきたのだ。

 

僕の求愛行動に、彼らはころっと騙されてきた。

 

「お、俺の顔に何かついてるのか?」

 

ふふふ、どもちゃって可愛いんだから。

 

僕の大事なトコロを見ちゃって(見せたんだけどね)、ユノはドキドキ、チャンミンという男をもっと意識するようになったね。

 

大抵の男は僕のつるっつるを見て、猛烈に興奮するんだよね。

 

つるっつるなおかげで、汚らしさも男にINする抵抗心が薄れるのだ。

 

「ううん。

ユノのお顔は綺麗なままだよ。

見惚れてただけ」

 

「!」

 

空っぽのグラスを持つユノの手がぴくっと震えた。

 

お友達になろう作戦と並行して、思わせぶり発言でユノを動揺させ、じわじわと彼の意識に刷り込むのだ。

 

僕は君のことを、『男』としてみているんだよ、って。

 

(ここで言う『男』とは、『雄』という意味合いだ。

僕は貴方のために雌になります。

どうぞ、INして突いてかき回してください...)

 

気味悪がってるわりには、洋服を貸してくれたり、新品の下着を用意してくれたり、未だに僕を追い出す素振りは見せない。

 

見込み大アリだ。

 

僕のアソコを見る目がきらっきらに光っていたのを、僕は当然、見逃していないのだ。

 

挙動が落ち着かないのは多分、僕みたいな人種の扱いに慣れていないからだ。

 

「あんた...いつもそうなのか?」

 

「いつもって?」

 

腕を組んだユノの真顔に「あれ?」となった僕は、乗り出していた半身を起こし姿勢を正した。

 

「相手が俺だったからいいものの、『見惚れる』とかさ、褒め言葉。

勘違いする奴もいるんじゃないか?」

 

勘違いして欲しくて、相手の自尊心と性欲をくすぐっているんだけどなぁ。

 

「ユノは勘違いしちゃった?」

 

僕の指摘が図星で、赤くなって否定するかと思ったのに、ユノはやっぱり真顔で「するわけないだろう?」ときた。

 

信念を持って童貞を貫くこの男、一筋縄ではいかぬ...。

 

さて、お次は何といって揺さぶりをかけようか思案を巡らせかけた時、

 

「あんたこそ綺麗な男だ。

その眼付が誘っているものなのか、単なる癖なのか、その辺は俺には分からん。

知り合って早々の俺が言うのもなんだが...気を付けた方がいいぞ」

 

「?」

 

「中にはアブない奴もいるんじゃないかな?

あんたは細っこいし、女みたいに綺麗だし。

...20人も恋人がいたんだったな。

余計なお世話なこと言って悪かった」

 

そう言って頭を下げたユノの、毛先から地肌まで白く清潔そうな頭頂部。

 

その髪に指を絡めそうになり、伸ばした手を引っ込めた。

 

「ありがと。

僕のことを心配してくれたんだね」

 

「...う~ん、まあ、そういうことだ」

 

実をいうと、ユノの台詞にギクっとしていた。

 

「お前に何が分かる?」とイラっとしたけれど、心配の対象が何であれ、誰かに気遣われる経験が不足していた。

 

 

 

 

ユノはしきりと時計を気にしている。

 

「ユノ?

仕事なの?」

 

「いや、今日は休み。

あんたこそ、仕事があるんだろ?

帰らなくていいのか?」

 

「午後からだから、大丈夫なのだ」

 

「あっそ」

 

「僕がいて邪魔?」

 

「うん、邪魔」

 

うっわ~、正直に言うんだなこの男。

 

「ここって、最寄り駅は××駅?」

 

「ああ」

 

「そっかぁ...。

××駅なら、あと30分後にはここを出ないとね。

ユノに追い出されなくてもね?」

 

「嫌味な言い方をするなよな~」

 

「だって...ゆの...僕を邪魔っけにするんだもの」

 

「事実だから仕方がないだろう?

それよりさ。

あんた、二日酔いは平気なのか?

酒臭いぞ?

そんなんで仕事に行って大丈夫なのか?」

 

ユノは身を乗り出して、僕の顔周りをくんくんする。

 

ひと汗かけば、酒臭さも消えるんだけどなぁ...なんてことは言えない。

 

落ち着かないユノが可哀想になってきた。

 

ユノを動揺させる言動は今日のところ、この辺にしておこうかな。

 

バルコニーに干された、僕のパンツとシャツ。

 

シャツはしわだらけだ。

 

(あのシャツは手洗いしないといけなかったんだ。でも、ユノの好意に文句を言うつもりは全然なかった)

 

ユノのパンツと並んで、ひらひらと揺れている。

 

ふふふ、まるで同棲カップルみたい...ふふふ。

 

これで、ユノに会う口実がひとつ出来た、と内心ほくそ笑んでいたら、

 

「あんたの連絡先、教えて?」

 

と、ユノの方から、嬉しいチャンスを差し出してきた。

 

「うん。

ユノのも教えて」

 

これまでの僕だったら、一夜の相手には絶対に連絡先は教えない。

 

今後も関わり合いになりたくないから。

 

でも、ユノは例外なのだ。

 

ユノなんて、僕と一夜を過ごしたわけじゃないのに。

 

(広義の意味にとらえると、一夜を共にしたと言えるけどさ)

(穴は見せたけどね)

 

僕の美貌に一向になびかないし、僕の嗜好に眉をひそめるのを隠そうともしない。

 

ユノとはセックスしなくてもいいかなぁ、なんて気持ちまで生まれてきたんだ。

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

(15)ぴっかぴか

 

~チャンミン~

 

僕の過去をありのままに教えてしまって、失敗したかな?と思った。

 

だって、浴室ドアの向こうのユノのシルエットが身じろぎひとつしていない。

 

びっくりしただろうなぁ。

 

20人の数字には、真の意味で恋人同士になった男の数は数人しか含まれない(と言いつつも、それぞれ長くて半年の関係だったかなぁ)

 

高校生時代からカウントすると、実際に肉体関係を持ったのはもっといる。

 

さすがにその数はカウントしていないし、教えてあげたらユノはいよいよ僕から距離を置きたくなってしまうだろう。

 

ここで僕は思考を止める。

 

ユノにこれまで関係した男の数を、なぜ正直に教えてしまったんだろう。

 

分かった!

 

ユノは僕のことを気持ち悪いと正直に伝えるし、ドン引きしてるくせに親切にしてくれる。

 

僕の素行の悪さは別にして、僕自身に興味があるんだ、きっと。

 

もちろん、僕の方だって同じ。

 

超絶イケメン25歳チェリーという絶滅危惧種ってとこを抜きにしても、ユノは魅力的な男だ。

 

会話していて楽、というか...いちいちびっくり反応を見せてくれて、一緒にいて楽しい。

 

「...チャンミンって...。

見た目に反して...いや。

見た目通りか...。

遊び人なんだな?」

 

「そう?」

 

「今のうちに言っておくぞ!

俺はあんたの遊びのお相手になる気は、絶対にないからな!」

 

ドキッとしたけど、

 

「ユノ相手にそんなことするわけないよ。

ユノは...昨日会ったばかりだけど...。

面白い奴だし...」

 

と答えた。

 

「ふうん」

 

「僕ね。

ユノとお友達になりたいなぁ、って」

 

あれ?

 

あれれ?

 

今の僕の台詞...かなりガチだったぞ。

 

食虫植物みたいに、甘い汁で誘って、ふらふらっと飛んできたハエを壺に沈め、死の液体でじわじわ溶かしていく...。

 

違う違う!

 

ユノはハエなんかじゃない!

 

今回の例えはキレが悪いなぁ(二日酔いのせいだ)

 

「僕とお友達になってよ?」

 

「......」

 

「イヤ?」

 

「...いいよ。

あんたと友だちになってやる」

 

「うふふ。

嬉しい」

 

「だがな!」

 

ユノはドアの隙間から顔を出した。

 

「俺を押し倒したりするなよ!

俺はあんたと『そういう関係』になるつもりは、全くないからな!」

 

僕が男が好きな質だからって、ユノの偏見と思い込みは凄い。

 

男と見れば、即ベッドインしたくなるものだとみなしている。

 

あ...。

 

ユノの偏見がなくても、僕の派手な男関係を暴露してしまったことで、僕への評価が悪くなってしまったんだ!

 

それなのに、『お友達になって』のお願いに頷いたじゃないか!

 

案外ユノは、偏見と思い込みを抱きながらも、それに左右されることなく、人間性とか相性みたいなものを重視する男なんだ。

 

いい奴過ぎて涙が出てしまうよ。

 

そんなユノに見込まれた僕も捨てたものじゃないな。

 

僕は容姿とベッドテクニックに関しては自信はあるけれど、ホントは気が小さいし、自己嫌悪でいっぱいなんだ。

 

数多くの男たちと肌を重ね、快感の呻きを聞き、彼らのものを食らえ込んでいると、身体が満たされる。

 

「何度も念を押さなくても大丈夫だよ。

その辺は安心して」

 

「パンツも用意したから。

新品だから安心しろ」

 

と、ユノは言った。

 

 


 

 

~ユノ~

 

 

チャンミンの『お友達になって』に頷いてしまった。

 

俺は洗濯機にチャンミンの洋服と下着を放り込んだ。

 

そもそも『お友達になって』だなんて、新学期の小学生かよ。

 

(チャンミンのアソコはぴっかぴかの一年生だけども)

 

つくづく不思議な男だ。

 

あの男は、『遊び人』だった。

 

その言葉を聞いても、さほど驚かなかった。

 

あの人懐っこさは、『遊び人』だからと思えば、納得だったから。

 

ところで...。

 

どうしてまた、俺と『お友達』になりたいんだろう?

 

下心はないと言っていた。

 

(俺にタマだのケツだの見せたのは、単なる無邪気さ?)

 

気づけば俺は、失恋の痛みそっちのけで、チャンミンとの今後の付き合い方に考えを巡らしていた。

 

別れを告げられた時の、ズドンと胸を銃で撃ち抜かれたような衝撃や、心拍数が上がって、背中にいやな汗をかいた感覚。

 

今思い出しても、不快で苦しい瞬間だった。

 

ところが、突如現れたつるっつる男子に驚かされっぱなしで、彼女と積み上げていった出来事のあれこれを、思い出す間がなかった。

 

チャンミンも失恋したばかりだと言っていた。

 

失恋の痛みに直面しないように敢えて明るく、無邪気に装っているんだな。

 

俺たちは失恋組。

 

心に傷を負ったばかりの俺たちが意気投合したのも、自然の流れだったんだ。

 

洗濯槽に洗剤を目分量で投入する。

 

シャワーの音が止み、チャンミンが浴室から出てくる気配を感じ、俺は慌てて脱衣所を出た。

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

(14)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

男の裸を見てドキッとしてしまう経験は、これまでなかった。

 

体育の授業前後、教室で着替える時、部活動でのロッカールーム。

 

ガリガリに痩せた貧相な奴(背を向けてこそこそと着替えている)、ぽっちゃり体型で女子より胸がある奴(ふざけた級友たちに揉まれる)、筋トレに励みだしていい身体に仕上がったのを見せびらかす奴(胸筋触ってみる?)...体形はさまざまだ。

 

ブラジャーとそこにおさめられたものにしか興味がなかったから、男どもの身体なんて目に入っていなかった。

 

修学旅行や部活動の合宿では、複数人で風呂に入る機会もある。

 

一番乗りで毛が生えた奴がいたりすると、もう大変だ。

 

「見せろ見せろ」と、恥ずかしがって股間を隠す手を強引に除けて、「うっわ~」とからかってみたり、大人に近づいた彼を羨ましく思ったり...。

 

サイズや形は違っても、同じモノをくっつけている同性同士。

 

「だから、何?」なのだ。

 

湯の温度がおかしいと騒ぐから、浴室に様子を見に行ったんだ。

 

一応、礼儀としてチャンミンの身体をじろじろ見ないようにしていた。

 

床にぺたりと座り込んでいたチャンミンは、乳首と股間を隠している。

 

そして、その手が除けられた時。

 

俺の視線はソコに釘付けになってしまったのだ。

 

 

「!!!!!」

 

 

つ。

 

 

つ。

 

 

つ、つるっつる...。

 

 

そう。

 

チャンミンのアソコはつるっつるだったのだ。

(AV男優でも剃毛してる奴いるよな...)

 

つるっつるだから、当然チャンミンのアレはもろ出しなわけで...赤ちゃんの...とまでは言い過ぎか...ぴっかぴかの一年生のものみたいだった。

 

サイズは俺とそれほど変わらないのに、ピュア感があるのは...色素が薄いせいか。

 

つるっつる...。

 

「ゆの?」

 

スウェットパンツの裾を、つんつんと引っ張られてはじめて、チャンミンのアソコを凝視していた自分にハッとする。

 

「あんた...。

ソコ...。

剃ってるの?」

 

俺は疑問に思ったことを、ストレートに尋ねてしまうところがある(友人たちに無邪気な無神経者だと言われている)

 

チャンミンは自身の股間に視線を落とし、つるっつるのソコを撫ぜた。

 

「これ?

びっくりした?」

 

「うん。

初めて見たよ。

すげぇな...」

 

胸や腰からソコに向けて滑り落ちた泡で、濡れて光る無毛地帯。

 

斜めに崩した座り姿勢のせいで、妙に艶めかしかった。

 

「エロい...」と思ってしまい、だからこそ俺は、学生時代の更衣や入浴時間を思い出していたのだ。

 

チャンミンが俺の「毛」に興味を持ったように、今度は俺の方が興味津々だった。

 

「剃刀?」

 

「ううん。

剃ったら3日もしないうちにチクチクするじゃないの」

 

(...ということは、剃った経験があるんだな)

 

「これね、永久脱毛してるの。

レーザーだよ」

 

レーザーと聞いて、「痛そうだな」と俺は顔をしかめた。

 

「なんでぇ?

パンツがちっさくてはみ出るから?」

 

チャンミンがドアの隙間から俺に手渡した下着が、女もののパンツみたいに小さなものだったから。

 

「んー、それもあるけど...」

 

(銀髪が許される職業!

つるっつるのアソコ。

ちらっと浮かんだ考え...AV男優なのか!?

それなら納得だ。

うん、大いに納得だ)

 

心の中で頷いていると、チャンミンはくすくす笑い出した。

 

「ユノが何を考えているか分かるよ。

僕はそんなんじゃない」

 

前髪は後ろに撫でつけ、額ときりっと真っ直ぐな眉が露わになっていた。

 

水滴をのせたまつ毛は艶やかに長い。

 

「タマの方はどうなってるの?」

 

「デリケートなところだからね。

施術の時、痛かったよぉ」

 

チャンミンは横座りから両膝を立てて座り直した。

 

そして、アレとタマをすくい上げて、俺に無毛地帯を見せてくれる。

 

「ほら」

 

「うわっ~。

つるっつるだ...すご」

 

これぞまさしく、生まれたての姿!

 

「お尻もつるつるだよ」

 

四つん這いになったチャンミンは、件の箇所を見せてくれる。

 

「どれどれ?」

 

俺もよく見てやろうと、しゃがみ込んだ。

 

男のケツなんて怖気づいてしまうシロモノなのに、好奇心の方が勝ってしまったのだ。

 

俺の目前にさらされたソコは、チャンミンが言う通りつるっつるだった。

 

「シモの毛、全部ないんじゃん」

 

「そうなの」

 

待て...。

 

待て待て。

 

俺は今、何をやってるんだ?

 

知り合って15時間も経っていない男の、股間事情を知ることになるなんて..!

 

でも、いかがわしい雰囲気がほぼなかったのはやっぱり、チャンミンが綺麗な男で、ごつさのない身体がつるんと中性的だったからなんだろうな。

 

「シモの毛をつるっつるにしたワケは?」

 

「前付き合ってた人がね、つるつるにしろ、って」

 

「はあぁ?」

 

(恋人に剃毛...じゃなくて脱毛を命ずるなんて...一体どんな関係なんだよ!)

 

「つるつるだと興奮するんだって」

 

「うわぁぁ...。

俺には理解できん」

 

童貞のくせに、アレの経験がないくせに、俺はそう言った。

 

つるっつるになったそこに頬ずりする男の姿が浮かんだ...淫猥だ。

 

ドン引きするどころか、エロいと思ってしまった俺。

 

チャンミンはシャワーで泡を洗い流し始め、俺は脱衣所に戻った。

 

数センチ開けたドアの隙間から会話を続ける。

 

「それって...ピアスをくれた人?」

 

「ううん。

また別の人」

 

「...あんた、いっぱい恋人がいたんだなぁ。

これまで何人と付き合ったことあるんだ?」

 

俺はこれまで4人の女の子と、肉体関係抜きで交際してきた。

 

「カウントしたことないけど...。

『付き合った』と言えるのは。

20人...くらいかなぁ」

 

「はあぁぁぁぁ!?」

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

(13)ぴっかぴか

 

 

~チャンミン~

 

 

「あんた、何の仕事してるの?」

 

着ているものを脱ぎ、10㎝だけ開けたドアの向こうへ放ろうとした。

 

ところが、ユノはそれを受け取ってくれる...優しい彼に涙が出てしまうよ。

 

「...うーん。

サービス業」

 

「へぇ。

レストランとか?

それはないか。

あんたの髪色じゃ、職業が限られるよな?」

 

「確かにね」

 

温度高めのお湯を頭からかぶる。

 

「ユノは何の仕事してるの?

美容師か何か?」

 

髪色といいセンスいい服装といい、そんな気がしたんだ。

 

スウェットの上下の部屋着も、スタイル抜群のユノにかかれば、ひとつのファッションとして成立していた。

 

それから、そのスウェット生地にくっきり浮かんだアレのサイズときたら...うふふふ(触っちゃった)

 

「ショップ店員?」

 

ユノのシャンプーは安物と言うだけあって、指どおりがきしきしする。

 

「俺の金髪を見れば、そう思っても当然だろうなぁ。

俺ね、スーパーで働いてる」

 

「えええっ!?」

 

意外過ぎて、大きな声が出てしまった。

 

「ユノってスーパーで働いてるんだ...へぇ...」

 

「そこまで驚くかぁ?」

 

「髪の毛は大丈夫なの?

身だしなみが厳しそうなのに」

 

「厨房で総菜を作ってるんだ。

帽子をかぶってるし、店頭にはほとんど出ることはないから、問題ないんだ」

 

「へえぇぇ」

 

ユノほどの男は、スタイリッシュな場所でこそしっくりくるし、絵になる。

 

ネットのついた帽子をかぶってマスクをして、白衣にエプロンのユノの想像がつかない。

 

...でも。

 

悪くない...。

 

悪くないねぇ...。

 

ユノの見た目とお人好しな性格、チェリーのギャップに大いに萌えてしまった僕だ。

 

白いゴム長靴を履いたユノ...薄ピンクか薄緑の制服の下に、最高のボディが隠されている。

 

いい...すごくいい!

 

シャンプーの泡を洗い流そうとうつむいた際、自身の股間が視界に入る。

 

「......」

 

ユノのアソコは金髪かぁ...(頭髪より色は濃い、と言っていたけれど)

 

「うふふふ」

 

(お!)

 

泡いっぱいのボディタオルで身体を洗いながら、僕の頭にナイスなアイデアが浮かんだ。

 

 


 

 

~ユノ~

 

 

「チャンミンは何の仕事してんの?」

 

俺は浴室のドアにもたれて、シャワー中のチャンミンに声をかけた。

 

帰りそびれた友だちが泊まっていくことも度々だったから、俺んちで風呂に入る男なんて、珍しくもなんともない。

 

チャンミンは(現在のところ)友人でもなんでもない。

 

興味深い男だが、俺の中の警報メーターがグリーンとイエローゾーンの間で震えている。

 

俺の朝勃ちを触っていたことで、チャンミンがカミングアウトした内容に真実味が帯びてきた。

 

チャンミンとは、知り合ったばかりの前夜の時点で打ち解け合っていた。

 

俺を誘っているのか、怯える姿を面白がっているのか、その辺の見極めはまだまだ必要だ。

 

俺との肉体的距離の取り方が近すぎる点を除けば、一緒にいて面白い奴なんだ。

 

ん?

 

俺はさっきから、何を言い訳めいたことばかり考えているんだ?

 

ふむ...こういうことか...。

 

チャンミンの嗜好は別として、股間の防御さえ怠らなければ、十分知人付き合いができそうだ。

 

向こうがどう思ってるかは分からないけど...そうでもないか、奴は俺に興味津々らしい。

 

「サービス業だよ」

 

「何のサービス?」

 

(見た目から予想できる

のは、夜の仕事だ。

夜の仕事もいろいろあるしなぁ。

俺はその世界の知識に疎いから、『夜の仕事』としか言えないけど...。

「今日の仕事は午後から」と言っていたしなぁ。

サービス業って、一体なんだよ?)

 

「専門的なサービス」

 

(専門的!?

やっぱり、それ系専門、ってことか!?

俺の偏見に満ちた思考じゃ、それしか思いつかないんだけど!?)

 

言いにくいのなら、無理に聞き出すのも野暮だ。

 

「バスタオル、ここに置いておくから」

 

昨日からベランダに干しっぱなしだった洗濯物でもとりこもうかと、この場を立ち去ろうとした。

 

 

「ひやあぁぁぁぁぁぁ!」

 

浴室からの悲鳴に、俺は引き返すしかない。

 

「ゆの、ゆの!」

 

「どうした?」

 

曇りガラスの向こうに目をこらし、中のチャンミンに声をかけたが、なんてことはない。

 

「シャワーが変なの。

水になっちゃった」

 

だとさ。

 

「温度調整のレバーくらい分かるだろ?

え...そこはかまっていないって?

そんなはずないだろう?

パネルの温度設定は42℃になってる?

浴槽の上んとこにあるだろ?

...え?

わかんないって?」

 

面倒くさい奴だなぁと、浴室ドアを開けた。

 

「きゃっ!」

 

チャンミンは胸とそこを隠して床にしゃがんだ。

 

(なぜ、胸を隠す...?

さんざん乳首を見せてきたのに、今さらなぜ隠す?

『キャッ!』って何だよ?)

 

「あんたのそこなんて見ねぇよ」

 

俺を痴漢扱いしやがって、とムッとしながら設定用パネルを確認した。

 

「こりゃ水になるはずだよ。

ボイラーの電源が落ちてる」

 

「......」

 

返事をしないチャンミンに、振り返った。

 

「!!!!!」

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]