(18)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

ユノとチャンミンはキスをした。

 

今夜のキスはムードに欠けていて、それ以上先には進めなかった。

 

「......」

「......」

 

どちらからともなく身体を離すと、何事もなかったかのようにリビングに戻ったのだった。

 

晴れたかと思われたぎこちない空気が、再び2人の周囲にたれこめてしまった。

 

遠慮という霞で、互いの姿がクリアに見えない。

 

最終的に、チャンミンへ差し入れた料理はユノの胃袋にほぼおさまってしまった。

 

「食べないのですか?」と勧めても、チャンミンは「お腹の調子が...」と断ったからだ。

 

雑談をはさみながらユノは箸を動かし、チャンミンはビールをすすっていた。

 

 

「俺、帰ります」

 

ユノは立ち上がった。

 

「こんな時間ですか。

そうですね、そうした方がいいですね」と、チャンミンは現在時刻に驚いた風に言った。

 

そしてチャンミンはユノを引き留めることなく、「せんせ、おやすみ」と手を挙げたユノを玄関先で見送った。

 

 

(今夜のせんせは、早く俺に帰って欲しかったのかな)

 

ユノは建物から出ると、駐輪所に停めておいた愛車にまたがった。

 

(この前なんて、帰って欲しくない感じがだだ洩れだったのに)

 

スロープを下りきると、出てきたばかりのエントランスドアを振り返った。

 

(花火大会のこと...俺から『ごめん』って謝った方がよかったんだろうか?

...でも、謝った時点で、悪いことをしていた自覚があったことを認めたことになる。

とっさに隠してしまったのは、そこに女の子がいたからじゃない)

 

ユノは長い脚はペダルにかかっていたが、もう片方は地面についたままだった。

 

考え事にふけっていた。

 

(今年初めての花火大会は、せんせと一緒に行きたかったんだ。

もしせんせも同じことを考えていたら、俺だけが一足早く花火大会に行ってしまったと知った時、がっかりするんじゃないかって...それだけだったのに。

...俺はそのつもりでいても、普通の感覚だとその場に異性がいたかいないかが問題なんだ。

そうなんだよ~!

まるちゃんに叱られるまで、そのことに気付かないなんて!

馬鹿だぁ、俺は!)

 

今夜もチャンミンに会いたくて、バイト帰りの疲れなど何のそのだった。

 

わくわく気分でエレベーターを降り、出迎えたチャンミンの固い表情に「?」となり、ぎこちない空気の中ひとり夕飯を摂り、押し倒してみたら拒まれ、チャンミンの大人の玩具を発見してしまい、アダルトなキスをして...。

 

あらゆる面で自信喪失。

 

ユノはへとへとだった。

 

「ユノさん!」

 

自分の名を呼ぶ声に、(『ユノさん』と呼ぶのはひとりしかいない)振り向くと、ユノを追ってきたチャンミンがいた。

 

「せんせ?

どうしたんすか?」

 

自分を追いかけてきたチャンミンに、ユノは「救われた」と思った。

 

「はあはあ...ユノさん」

 

万年運動不足のチャンミンは両膝に手をついて、息が整うまでに時間を要した。

 

「よかった...はあはあ...間に合って」

 

チャンミンが追いかけてくるとは全く期待していなかったユノは、嬉しさよりも戸惑いの方が大きかった。

 

「忘れ物...しましたっけ?」

 

ユノはスマートフォンでも置き忘れたのかとバッグの中を探りかけたが、チャンミンは部屋の鍵を握りしめているだけだった。

 

 

ユノを見送った後のチャンミンはどうだったか、というと...。

 

チャンミンの目の前で、玄関のドアがカチャリとラッチの音をたてて閉まった。

 

「ふうぅ...」

 

肩の力が抜けた。

 

(ひとりになりたかった。

頭と感情の整理をしたかった)

 

ホッとしたのもつかぬ間突如、猛烈な切迫感に襲われた。

 

それは、「今すぐユノを追いかけないと、僕らは駄目になってしまう!」といった、説明のつかない切羽つまった感情だ。

 

チャンミンはシューズラック上が定位置の鍵をひっつかむと、サンダルを引っかけ部屋を飛び出した。

 

「...ユノを想って部屋を飛び出すパターン...何度目だろう」と思いながら。

 

(自転車だからきっともう、遠くまで走り去ってしまっているだろう。

間に合わないだろうな)

 

半ば諦めていたが、ユノがマンション前でぼんやりしていたおかげで、捕まえることに成功したチャンミンだった。

 

「忘れ物じゃなくて...はあはあ」

 

チャンミンは手を伸ばし、ハンドルを握るユノの手に重ねた。

 

「せんせ?」

 

「ユノさん、明日は何時待ち合わせにしましょうか?」

 

「待ち合わせ?」

 

「会う予定にしていたでしょう?

夜勤明けって言ってましたよね」

 

「はい。

...でも...」

 

今夜のハプニングと意味深なぎこちない空気から予想するに、明日の約束など自然消滅するのでは?と、ユノは諦めていたのだ。

 

「あの約束...有効なんすか?」

 

「当たり前でしょう」

 

チャンミンは微笑すると、ハンドルから引き取ったユノの手と、指を絡めて繋いだ。

 

気まずい雰囲気にしてしまったのは、ストレートに尋ねられなかった自分の臆病さだと、チャンミンはちゃんと分かっていた。

 

(分かっていたけれど、気まずい雰囲気を自ら作ることで、ユノにイジワルをしていたのだ...多分。

僕って、卑怯で弱虫だ)

 

「どこかに連れていってくれるんすか?」

 

「まあ...そんなところです。

映画なり買い物なりして、外でご飯を食べませんか?」

 

「はい!」

 

ユノは電話やメッセージで済むのに、直接伝えようと自分を追いかけてきたチャンミンにじんとした。

 

チャンミンは、デートの誘いに顔を輝かせたユノを見て、自分に向けられる好意はやはり本物だと思ったのだ。

 

2人の間に漂っていた、ぎくしゃくとした空気の靄が再び晴れた。

 

実のところ、「気にするのは止めておこう」と、容器に靄を詰めて蓋をしただけだが...。

 

(せんせは俺に何か言いたいことがあるみたいだ。

でも、それを隠しているのは俺に遠慮しているせいだ。

これだけのことで気まずくなっちゃうなんて...俺たちはまだまだだなぁ)

 

ささいなことで心の距離ができたり、不安定になったり。

 

ささいなことで距離が縮まったり、愛情が深まったり。

 

「せんせ、おやすみ」

 

「ユノさん、気を付けて」

 

2人は手を振り合い、その場で解散したのだった。

 

 

その後。

 

ユノの自転車はアパートの方へ...ではなく、ある場所へと向かっていた。

 

到着したのはレンタルDVD店...チャンミンとの出逢いの場所だ。

 

ユノには目的があった。

 

(つづく)

 

 

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(15)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

ユノとチャンミンは分かってしまった。

 

「自分たちの間には、まだまだ距離がある」ことを。

 

チャンミンの場合、ゲイである自分と付き合わせてしまっているユノへの負い目が作っている距離だ。

 

そしてユノは、チャンミンが負い目を抱いていることに気づいている。

 

ところが、どういう言動がチャンミンを傷つけてしまうのか分からず、まるちゃんに教えを請わないといけない自分を情けなく思っていた。

 

(ひとつ分かったのは、女子がらみのことはNGだということだ)

 

涙付きでドラマティックに結ばれた2人だが、交際スタートしてみたら現実はぎこちないものだった。

 

特に、「先生と生徒」の関係であったから、普段着の付き合い方がイマイチよく分からないのだ。

 

ユノはユノなりに、チャンミンと過ごす時間を増やそうと、積極的になってはいるのだが...。

 

ユノの懐っこさは真のものなのか、それとも自分を気遣っているのか、どちらなのかはかれずチャンミンはモヤモヤしていた。

 

...浴衣女子の手をひき、鼻緒で血がにじむ小さな白い足、彼女をおんぶしてやったり、イチゴ飴を仲良く2人で...。

 

(きき~~~!)

 

心の中で、チャンミンはバリバリと頭をかきむしっていた。

 

チャンミンの想像の暴走は止まらないのだった。

 

 

「せんせ、すんません。

俺、気が急いちゃって...」

 

「いえいえ。

僕も驚いてしまって...。

今夜は体調があまりよくなかっただけです。

だから、ユノさんが嫌、とかじゃないのです」

 

そう言ってチャンミンは、しゅんと肩を落とすユノを慰めた。

 

「それなら、いいんすけど」

 

「今夜が『駄目』というだけですから。

ね?

元気出してください」

 

「はい」とユノは頷くと、勢いよく立ち上がった。

 

「せんせ、トイレ借ります」

「どうぞ」

 

 

トイレのドアが閉まる音と共に、ユノは深いため息をついた。

 

(はあぁ...。

どうしよう)

 

ユノはショックを受けていた。

 

それはチャンミンを押し倒した時の、自分の感情と身体の変化についてだ。

 

(あれは勢いでしかなかった。

モヤモヤ消えるかもなんて、ちょっと思ってしまった。

もぐもぐせんせが可愛かったってのもあるけど)

 

ユノは便座に腰掛けた。

 

(途中でフリーズしてしまったのは、こういうことなんだ。

せんせを前に勃つだろうか?

ちらっと不安がよぎったからなんだ)

 

「......」

 

便座シートに蓋カバー、ペーパーホルダーカバーにマット...すべてにバンビのシルエットがプリントされている。

 

(めっちゃ可愛いんですけど)

 

ユノは清潔そうなトイレの個室内を見回した。

 

(勃つかどうかを今は心配しなくていい。

その時はその時だ。

その時になれば、勃つ!

ゲイ同士じゃなくてもアレする奴らはいる、ってどこかで聞いたことがある)

 

自信を取り戻したユノは用をたし、手を洗おうと洗面所まで移動した(トイレも洗面所も何度か借りたことがある為、動線は覚えている)

 

(さっすが、せんせ)

 

洗濯機に洗い物が山になどなっていないし、鏡に歯磨き粉が飛び散った跡のない、几帳面らしい洗面所。

 

ユノの視線が洗面台に映った時、彼の切れ長の目が大きく見開かれた。

 

「!!!!」

 

そこでユノが見つけたものと言えば...!

 

(これって、これって...!!)

 

ユノはゴクリと唾を飲みこんだ。

 

(初めて見る)

 

ユノの視線を釘付けにしたものとは、いわゆる『大人の玩具』だ。

 

几帳面かつ清潔好きのチャンミンにより綺麗に洗浄された玩具が、洗面ボウルの縁に置かれていた。

 

直置きせず、玩具の下にきちんとタオルが敷かれている。

 

「......」

 

形状はグロテスクだが、透明でピンク色をしているため、ぱっと見はいかがわしい物だと分かりにくい。

 

(なるほどね。

せんせは...これを使ってるんだよな)

 

チャンミンが裸のお尻を突き出して、そのピンク色のものを埋めている姿を想像した。

 

(せんせは挿れられる側だって言ってたけど...。

俺のMAXサイズよりデカくね?)

 

まじまじと眺めることすでに1分以上。

 

そしてユノは気づく...これを発見してしまったがために、面倒な状況に立たされていることに...。

 

(やべやべ、どうしよう!

せんせは絶対に、ここにブツを置きっぱにしてること忘れてるんだろう。

後になって、俺に見られたことを知ったとき、せんせ、恥ずかしいだろうなぁ...。

穴が合ったら入りたい、ってやつ?

せんせの場合、穴に入ったまま永遠に出てこなかったりして)

 

ユノはじわりと額にうかんだ玉の汗を拭った。

 

さっさと手を洗ってチャンミンの元へ戻るべきなのに、好奇心を押されられないユノの手はそろりと、ピンク色のブツへと伸ばされた。

 

(よくこんな物が入るよなぁ~)

 

持ち手のところにスライド式のスイッチがあり、『バイブ』『ウェーブ』『バイブ+ウェーブ、一番端が『MAX』とあった。

 

ユノの親指がスイッチにかかった時...。

 

「ユノさん?」

 

リビングの方から名前を呼ばれて、ユノは飛び上がった。

 

水洗の音の後、一向に戻ってこないユノを心配してチャンミンが声をかけたのだ。

 

「は~い」と、とりあえず良い返事をしておく。

 

「タオルはありますか?」

「え~っと」

 

洗面シンク下のタオルハンガーは空だった。

 

この時チャンミンは、洗面所に“ブツ”を放置していたことを完全に失念していた。

 

ユノの花火大会という名の、合コン参加疑惑に気をとられていたせいだ。

 

「ユノさん?」

 

洗面所の様子をうかがいに、チャンミンは立ち上がった。

 

(つづく)

 

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(最終話)会社員-愛欲の旅-

 

ウメコめ...。

股間に忍ばされたモノを目にした俺は、心中で呻いた。

旧友ウメコは30余年、真面目に生きたのは大学受験の時だけだと言っても過言ではない。

残りは自分に関わる者達を、面白おかしくからかい続けて年をとってきた。

ウメコの本性を知っているにもかかわらず、呪物の実験台にされては、まんまと騙されて続けてきた俺。

今回も俺はウメコに担がれた。

ついでにチャンミンも担がれた。

真っ赤に塗った唇を歪め、不気味にせせら笑うウメコが目に見える。

しゃんと床に正座した俺に、「ユンホ...さん?」とチャンミンは心配げに訊いた。

 

「どうしました?」

「.....」

 

「...もしかして...取れないとか!?」

「見た感じ...」

 

俺はもう一度、チャンミンの股を覗き込んだ。

 

「...簡単には取れそうにない」

「そんな~~っ!」

「このままにしておくしか...」

 

内腿の柔らかな皮膚を、爪先でこすってみた。

 

「ひゃっ」

「...ない。

放っておけば大丈夫だと思う。

そのうち落ちるよ」

「やだ、ユンホさん。

何ですか?

これって何ですか!?」

 

チャンミンは身をかがめ、カエル脚になって自身の股ぐらを覗き込んでいる。

 

「もったいぶらないで、教えてくださいよ」

「チャンミン、何が書かれているのか、本当に知らないのか?」

 

「やっぱり呪文が書かれているんですね。

ウメコさんに、悩みごとの相談を持ち掛けたからですね」

「相談?」

「ユンホさんとの性交渉についてです」

 

やっぱり...。

「ユンホさんとベッドインした時、僕はどう振舞えばいいのか分からなくて。

ユンホさんに押し倒されるにはどうしたらいいのか。

あらかじめお尻の用意をした方がいいのか、当日ユンホさんに施してもらった方がいいのか。

僕は処女なのに、受け入れ準備OKなお尻にユンホさんはドン引きするかもしれないって、ぐるぐる心配ごとばかり膨らんで」

 

「そんなの...BL漫画で勉強してるじゃん」

 

と、言ったすぐ後、「からかっている風に聞こえなければいいのだが」とヒヤッとしたけれど、チャンミンは気にならなかったようだ。

 

「そうですけど、いざ本番となった時、勇気がしぼんじゃうと思うんです。

大好きなユンホさんを前に、知識も消えちゃうと思うんです。

ぼ、僕...童貞だし処女ってこともありますし...」

 

「俺だって...こういうの初めてだし、どうしたらいいか分からないよ」

 

「初めての夜はロマンチックにしたかったから、百戦錬磨のウメコさんにご教授願ったわけです。

そうしたら、『私に任せて、チャンミンくんが余裕をもって初夜に挑めるよう、力を貸したげる』って。

『私が教えた通りに振舞っていれば問題ない』って」

 

「そういうことか...。

タトゥーシールみたいだもんな、これ」

 

「やっぱり...そうだったんですね」

 

チャンミンの袋から足の付け根にかけて、赤いタトゥーシールが貼られていた(一瞬、本物のタトゥなのかと疑った)

 

「どうりで。

凸凹していないし、何かが張り付いている感じもしない。

擦ったら効果が発動すると言われていたので、触ることもできない。

ウメコさんの説明だと、ここをコシコシすると、フェロモンがぱぁ~って出るんですって。

ユンホさんのを受け入れられるように、あそこが柔らかくなるんですって」

 

ウメコの奴め。

俺が聞いた話と真逆じゃないか!

 

「だから、雄になっちゃうフリをしてすみません」

 

「わかった。

身体、冷えるぞ。

先に風呂に入っていろよ。

頭を洗ったら追いかけるから」

 

そうチャンミンに声をかけ、俺は髪を濡らし始めた。

 

「いえ。

ユンホさんを見ていたいので、ここで待ってます」

 

「ご自由に」

 

チャンミンのようにこだわりのない俺は、浴場のリンスインシャンプーで髪を洗った。

腰骨のあたりにちりちり痒みを覚えるのは、チャンミンが俺のをガン見しているせいだ。

チャンミンの行動パターンはとっくに読めているから、別段驚くことではない。

次の台詞も読めていたけど、先を越してみた。

 

「今度、明るいところで、ゆっくり見せてやるよ」

 

「!」

 

「ここじゃ二人きりになれないだろ?

俺はチャンミンを押し倒したい」

 

「ユンホ...しゃん」

 

「チャンミンからのメッセージ、確かに受け取ったよ」

 

チャンミンは、「メッセージ?」と不思議そうな顔をした。

 

 

転じてここは露天風呂。

 

「ユンホさんは...僕のどういうところが好きですか?」

 

ちらつく雪が、露天風呂の控え目な照明に浮かび上がる。

湯面から湯気がもくもくと立ち昇っている。

凍みた空気が火照った肌に気持ちがよい。

この温泉宿は峡谷沿いにあり、近くに人家はない。

長い一日だった...。

 

「チャンミンの好きなところ?」

 

「はい。

教えて欲しいです」

 

「そうだなぁ...」

 

仕事は完璧、真面目なのにドジっ子。

料理がうまく、ヲタ活趣味を満喫している。

媚薬や呪文に引っかかりやすい。

挙げだしたらキリがなく、心のチャンミン録はまもなく1冊終えそうだ。

俺にしてみたら、チャンミンという人物は不思議な生命体。

俗物に染まらず、純粋さを残したまま、30年以上生きてきた奇跡。

ズバッとひと言で言い表せる言葉はないだろうかと、頭を巡らせてみたけれど見つからなかった。

そうなると、「全部」と答えるしかない。

 

「...嬉しいです」

 

両頬を押さえたチャンミンは、俺の肩にこてん、と頭をもたせかけた。

そんな可愛いらしい姿を見せられたら、キスせずにはいられない。

でもそのキスは、チャンミンの人差し指で遮られた。

 

「お尻の用意はまだ出来ていないので、今夜は勘弁してください」

 

「当ったり前だ。

社員旅行中はマズいだろ。

俺だって、チャンミンとの初めてはリラックスしてしたい」

 

「今度、旅行しますよね?

くじ引きで当てたテーマパークへ。

その時、お泊りするホテルでえっちしましょう」

 

うっわー、はっきり言っちゃうんだ。

照れ屋だったり大胆だったり、非常識だったり石頭だったり、男っぽかったり可愛らしかったり。

 

「ユンホさんも僕も初めてですから、詳しく調べておきます。

だから心配ご無用です!」

 

忘れてた。

チャンミンの勘違いにより、俺は童貞設定だった。

 

「その頃には、エロ呪術のかかったシールは剥がれているでしょうしね」

 

「呪術に影響されない、素のままの俺たち、ってことだな」

 

 


 

 

~チャンミン~

 

「どうだった?」

 

カウンターに頬杖をついたウメコさんは、僕と乾杯したのちビールをごくごく一息であおった。

この日のユンホさんは出先から未だ戻っておらず、これはいいチャンスとばかりに僕一人でウメコさんのバーに向かったのだ。

 

「ユンホさん、焦ってました。

なんとかアレを取っちゃおうと、僕のアソコばかり気にしてて。

ウメコさんのアドバイス通り、ユンホさんを押し倒す設定の台詞を散りばめました」

 

「貴方の望み通りになったでしょう?」

 

ウメコさんは火をつけようと咥えた煙草を、耳に挟んだ。

金髪のウィッグに濃すぎる化粧、大きく胸元のあいたドレスに、似合わない仕草とビジュアルに、吹き出すのをこらえた。

 

「そうですけど。

あんなものに頼らなくても、ユンホさんは僕を押し倒すつもりでいたのに、僕が余計なことを言うから、ユンホさん、固まってました。

だからコレ、要らなかったと思うんですけどね」

 

「そうねぇ、要らなかったかもね」

 

「!」

 

「じゃあ、どうして?」

 

「面白かったから」

 

「ウメコさん!

ひどいです!」

 

しれっと言うウメコさんにびっくりだ。

 

「おほほほほ。

おかげでユノは、あなたの身体を舐め回すように見たでしょ?

あなたって、いい身体してるからねぇ...はぁ」

 

ここにユンホさんがいたら、「チャンミンをいやらしい目で見るな」と怒ってくれるのになぁ。

 

「僕らで遊ばないでください!」

 

ユンホさんもこんな風に、ウメコさんの手の平に転がされてきたんだろうなぁ、と想像できる。

 

「ねえ、チャンミンくん。

ユノはね、ああ見えて慎重で奥ゆかしいところがあるの。

いつまで経っても、あなたに手を出さないでしょうね。

なぜって、男の人を初めて好きになったことに、未だに驚いているようだったから。

あのシールはただのシールで何の効力もない」

 

「やっぱり...」

 

「でも、チャンミンくんの身体に呪物が仕込まれていると知って、あなたとアレする光景が具体的に頭に浮かんだのだと思うわ。

俺は絶対に、ウケにはならないぞ、ってね。

きっかけ作りよ、単なる」

 

「...それって、媚薬の時と一緒のパターンじゃないですか。

まんまとのせられる僕らって...素直ですね」

 

「あなたたち、可愛いわねぇ」

 

「で。

結局、アレに何が書かれていたんですか?

ユンホさん、教えてくれないんです。

その時に応えてあげるよ、って。

それだけしか教えてくれないんです」

 

「キザな男だこと。

『その時』って、何なの?」

 

「二人だけで旅行に行くんです。

お泊りですよ。

お泊りであるからには...ぐふふふふ。

そういうことです」

 

「あらぁ、それなら、その時でいいじゃないのぉ」

 

「ヤです。

ユンホさんは既に知っているんです。

教えてください!」

 

「仕方ないわねぇ」

 

ウメコさんがカウンターの下から取り出したのは、2枚の鏡だった。

 

「自分の目で確認してらっしゃい」

 

僕はその2枚の鏡を持って、芳香剤の香りむせかえるトイレに籠った。

ズボンとパンツを下ろした。

鏡に映し出されたのは、真っ赤なハート。

それから...。

 

「!!!」

 

ユンホさんへのメッセージ、そのままだよ。

 

『僕のバージンをあ・げ・る♡』

 

だってさ。

 

(おしまい)

 

 

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(33)会社員-愛欲の旅-

 

 

「一旦、外にでましょうか」

 

チャンミンに手を引かれ、俺は湯船から出た。

 

俺はマナー違反にならないよう、タオルは畳んで頭の上に乗せていた。

 

チャンミンの腰を隠していたタオルは、のぼせた俺を支えるため、滝の岩の上に置いたままだ。

 

俺の目の前で、左右交互に隆起する二つの小山。

 

割れ目を下へと辿っていく。

 

袋と内腿に挟まれた辺りに、目的のものが隠されている。

 

大理石の床は濡れて滑りやすく、すってんころり、ゴツンと頭を打ちつけないように、と慎重に歩を進める。

 

でも...。

 

床に転がった位置から、チャンミンのアソコをまるごと拝めるではないか!

 

アレの正確な位置を把握できるし、取り去ることも可能かもしれない。

 

(馬鹿か、俺は?)

 

さっきからチャンミンのアソコにばかり注目している自分に呆れる。

 

チャンミンをタチにさせたいウメコの悪だくみが、よりによって際どいところに仕込まれているせいだ。

 

ここでいいアイデアを思いついた。

 

「背中を洗ってやるよ」

 

「えっ!

身体はさっき洗いましたよ」

 

「いやいや。

背中はちゃんと洗えていないだろ?」

 

「でもっ」

 

「いいから!

座りな、って」

 

俺はチャンミンの両肩を押して、強引に椅子に座らせた。

 

「ユンホさんたら...もぉ」

 

俺は頭の上からタオルを取って、ボディソープを垂らし泡立てて、チャンミンの背中に滑らせた。

 

「気持ちいいです」

 

チャンミンの背中は体毛も吹き出物もなく綺麗だった。

 

「すべすべだなぁ」

 

「やん...照れちゃいます」

 

「痒いところは?」

 

「お尻...」

 

「!!」

 

「冗談です、うふ」

 

太い二の腕から推測した通り、チャンミンの背中は筋肉質で、肩甲骨辺りの凹凸が芸術的だった。

 

(もしかして...俺よりもマッチョ...?)

 

俺も本気で筋トレせねばと思いながら、「前の方も洗ってやるよ」とチャンミンの正面へとまわった。

 

「!!!」

 

チャンミンのむき出しの本体と御対面することになった。

 

(ほほぉ...。

なるほどなるほど...)

 

小さな椅子に窮屈そうに、膝をくっ付けた内股で座っている。

 

(毛深い方か...ふむ)

 

この位置からだと、内側の付け根は見られない。

 

「ユンホ...さん?」

 

チャンミンは無言で静止した俺を不審がった。

 

そして、俺の目線の行方を辿った末、目を見開いた。

 

「ユンホさん!」

 

チャンミンはババっと、両手でそこを隠した。

 

「恥ずかしいです...見ないでください」

 

チャンミンの胸から首、顎から額へと、ぐんぐん肌が紅潮していった。

 

「恥ずかしくなんてないさ。

恋人同士だろ?」

 

「で、でも...ここじゃイヤです。

二人っきりの時で、『さあ、えっちしますよ』って時に披露したいです。

ぼ、僕のペ、ペ〇〇ではユンホさんを満足させてあげられませんけど...」

 

(やっぱり!

チャンミンは上になるつもりだ!)

 

「満足させるって...。

そんなこと本番になってみないと分かんないだろ?」

 

俺は探るの止めて、ストレートに迫る戦法に作戦変更した。

 

小学生みたいにふざけたフリして、股間を覆ったチャンミンの両手を引きはがしにかかったのだ。

 

「やっ!

駄目ですって!」

 

「いいじゃん」

 

「ユンホさんったら、さっきから僕のアソコしか見てません。

僕のアソコしか興味がないんですか?」

 

「え...?」

 

「『温泉に入ろう』、って時から変です」

 

その通りだったから、二の句が継げない。

 

俺は思った。

 

女性相手の経験しかない俺だった。

 

綺麗なモノには男も女もなく、性別を超えて交際できるだろうと常々考えていたのに、いざ、肉体的に繋がりを持つタイミングが訪れた時、俺は抱く側だと決め込んでいた。

 

俺はあくまでも『押し倒す側』であり、『愛撫する側』であり、『挿入する側』なのだと。

 

チャンミンは女っぽいところがあるから、余計に決めつけていた。

 

「...ゴメン」

 

素直に謝った俺に、チャンミンは「気にしないでください」と言って、隣の椅子を引き寄せてそこに座るよう促した。

 

「僕...知ってますよ」

 

「?」

 

「ユンホさんが気になっていること」

 

「?」

 

「ユンホさんを煽るようなことを言った僕も悪かったんですが。

ウメコさんのアドバイスに従ったんです」

 

「ウメコ?」

 

「ウメコさんから聞いたんでしょう?」

 

「......」

 

「僕が雄々しくなっちゃう呪物ですから、ユンホさんは女の子になっちゃう。

それが僕の身体のどこかにある。

よ~く見ればそれがどこなのか、分かりやすいところにある」

 

「......」

 

「だから、あのサイズの合っていない浴衣だったんです」

 

俺たちのつんつるてんの浴衣と、宴会場でパカッと裾を割って座ったチャンミンを思い出した。

 

「『付ける場所は胸や手足じゃ面白くない、際どい場所じゃなくっちゃ』

あ、これはウメコさんの台詞です」

 

(ウメコめ!)

 

「恥ずかしいけど、お見せします。

この辺りです」

 

「どうして教えてくれるんだ?」

 

「それは...ユンホさんの不自然な態度が嫌だったんです。

僕のアソコやアソコを、えっちな気持ちじゃない目で見られたくなかった。

そりゃあね、ユンホさんを煽る台詞をウメコさんからレクチャーを受けたのは確かです。

僕だって本意じゃなかったんですよ、これを付けるのは」

 

と、チャンミンは自身の股の下を指さした。

 

「え?

そうなの?」

 

「はい。

ユンホさんにぎゅうってハグされたいし、押し倒されたいです。

大好きなユンホさんの指や唇で開発されたいです。

僕のイケナイところに、ユンホさんの秘宝をぶち込んで欲しいのです!

魔術にゆがめられたくないです!」

 

「俺もチャンミンにそうしてやりたいよ」

 

「よかった」

 

チャンミンはこてん、と頭を傾けにっこり笑った。

 

その笑顔が可愛くて、きゅっと胸がときめいた。

 

「これは僕が付けたわけじゃないから、どんなものなのか、どんな呪文が書かれているのか分からないんです」

 

「自分が付けたんじゃない!?」

 

パンツを下ろしたチャンミンの前にしゃがんだウメコを想像する。

 

至近距離で!

 

許せん。

 

旅行から帰ったら、ウメコを締め上げてやらねば。

 

そんな俺の気持ちを読んだかのように、「ウメコさんじゃないです」とチャンミンは否定した。

 

「ウメコさんにやらせたら、嫉妬深いハンサムな恋人に殺されます。

だから、ここに付けてくれたのはウメコさんの恋人です」

 

「そうだろうね」

 

(俺自身も過去に、ウメコのハンサムな恋人に殺されそうになったことがあったっけ)

 

「じゃあ、それ...取っちゃっていい?」

 

チャンミンの股間をつんつん、と指さした。

 

「そうですね」

 

「場所が際どすぎて、僕も見たことがないんです。

手鏡は小さすぎるし、お風呂の鏡は位置が高すぎて...。

端っこしか見えなくて...」

 

「おし。

椅子に片足を乗っけて」

 

チャンミンは俺の指示通り椅子に右足をかけ、よく見えるように邪魔なものを手ですくい上げた。

 

俺はひざまずき、下を覗き込む。

 

「暗くて見えにくい。

脱衣所なら明るいぞ?」

 

「ヤです」

 

「わかった」

 

洗い場の照明の近くに移動して、再チャレンジした。

 

「もうちょっと膝を落として...」

 

「はい」

 

「これか!」

 

「ありました?」

 

赤いものがある。

 

そして...そして...!

 

ウメコ~~~!

 

 

 

(つづく)

 

 

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(32)会社員-愛欲の旅-

 

 

(...俺の...勃ってるかもしれない!!)

 

BL小説のワンシーンを聞かせれて、ムラっときてしまったことは、チャンミンには絶対に知られたくないと思った。

 

驚いてもいた。

 

チャンミンとの密着や深いキスで、アソコを固くしてしまったことは何度かある。

 

でもそれは、肉体的な接触を伴っていたからだ。

 

入浴中のコレは、空想の世界のアレシーンを聞いただけ。

 

話の中の二人が繰り広げている行為は、性別を無視すれば男女のものと変わらず、正直者の俺のムスコは反応してしまった。

 

チャンミンといざコトに及ぼうとした時、勃つかどうかを不安視していたけれど、心配はいらなさそうだ。

 

(よし!

俺はチャンミンとヤれる)

 

ここでいよいよ、ウメコによって仕込まれた物を、チャンミンから回収しなければならないミッションの重要性も増した。

 

チャンミンを前にした俺は、彼を組み敷く側に立つだろうと、感覚的に直感していた。

 

ウメコの耳打ちで、俺を押し倒す気になってしまったチャンミン。

 

さらに、その気を増強させるらしいもの...よりによって際どい所にアレは仕込まれた。

 

まさか、湯の中に沈み、ぶくぶく息を止めて探るわけにはいかない(変態だ)

 

...そうか。

 

時と場所が、俺の理想とは大きくかけ離れている。

 

そんなことお構いなく、チャンミンを押し倒してしまえばいいことだ...!

 

だがしかし、チャンミンこそ俺以上にムードとシチュエーションに拘る男だ。

 

チャンミンだって、社員旅行中に人目を気にして慌ただしく...だなんて望んでいないだろう。

 

...いや...誰かに見られるんじゃないかとハラハラしながらの行為に、興奮してしまうタチかもしれないぞ?

 

 

『ユンホしゃん、早くっ、誰かが来ちゃう』

『そうだね、誰かが来ちゃうかもね?

どうする、チャンミン?

下はすっぽんぽんだぞ?

あれ?

大きくなったぞ?

暴れん棒になってるぞ?

やっぱりね、チャンミンは誰かに見られながらのプレイが好きなんだなぁ?

このぉ、エロ男子ism』

『ユンホしゃんのいぢわる』

 

...とか?

 

話が反れてるぞ!

 

魔術が込められたものを仕込んだまま、社員旅行に参加していることから推測してみる。

 

やはり二泊三日のうちにコトにいたろうと、心に決めている可能性が高い。

 

6人部屋だぞ?

 

二人きりになれるチャンスは、メシの時間だけ。

 

それとも、皆がいるのに布団にもぐって声を殺してやるのか?

 

俺たちは初めて同士なんだぞ?

 

テクニックが必要そうだ。

 

...と、ぐだぐだ考えている間、チャンミンのお気に入りBL的えっちシーンの語りはまだまだ続いていた。

 

話の中の逞しっ子と華奢っ子は、脱衣所に場所を移して第2ラウンドを開始したようだ。

 

 

 

 

俺たちがもたれている岩は、滝を模したものになっている。

 

高い位置にある岩の隙間から湯がどうどうと流れ落ちており、その音は声を張り上げるか耳を寄せないと会話ができないくらいだった。

 

湯しぶきで、すぐそばにいるチャンミンの顔も霞んで見える...。

 

 

「ユンホさん!」

 

肩を揺すられ、ハッとした。

 

「ユンホさん...茹でダコみたいです」

 

「...あ...あぁ」

 

意識が遠のいていた。

 

のぼせてぶっ倒れて、チャンミンに救護されるところだった。

 

チャンミンのことだから、ここぞとばかりに俺の股間を子細に観察するだろうなぁ...。

 

危ない危ない。

 

 

(つづく)

 

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