(31)会社員-愛欲の旅-

 

 

チャンミンの頭の重みを意識し過ぎて、身動ぎできずにいた。

 

生肌同士がくっついている。

 

無言だから余計に緊張した。

 

照れくさいのだ。

 

両手は湯に沈め、ゆらゆらと泳がせていた。

 

熱めの湯を梳く時の、指と指の間にくぐる感触に意識を集中。

 

「......」

 

「......」

 

(頼むチャンミン!

いつものように場の空気を無視した会話を始めてくれ!

俺はいくらでもお相手をしてやるから!)

 

俺が先ほどから迷っていたのは、「肩を抱くべきかどうか?」という初歩的なことだ。

 

チャンミンは100%、肩を抱かれることを期待している。

 

俺の肩へ「頭こてん」してから、チャンミンは静止したままで、その首はガチガチに力が入っているからだ。

 

それから、チャンミンはBL漫画愛好家で、男同士のアレコレの詳細に詳しいはず。

 

温泉に浸かる男二人、周囲には誰もいない、上気した肌、衣服で隠されていた身体は逞しくて...的な状況下で、俺はどうすべきなのか?

 

チャンミンの期待に応えてやりたい!

 

でも、ここは貸し切り風呂じゃない。

 

いつ他の客たちがやってくるかヒヤヒヤだ。

(同じ社の者だったら最悪だ)

 

だから俺の両手は、無意味に湯をかいているのだ。

 

チャンミンのキャラクター的に、色っぽい雰囲気が似合わない。

 

俺が知っている限り、チャンミンの話し言葉も思考回路も普通じゃないと言わざるを得ない。

 

エロと結びつきにくい。

 

しかし子供っぽいのとは違うから、やる時はやる男に違いない。

 

...つまり、エロスイッチが入った時の話。

 

キスは何度か交わした。

 

SAのトイレでのキスは、烈しくエロかった。

 

仮に今、チャンミンの肩を抱いたとしよう。

 

肩を抱かれたチャンミンは、「ユンホしゃん...」とか言って、俺の胸にしがみつく。

 

俺はチャンミンの顎をつまんで仰向かせ、ぶちゅっとキス。

 

そのキスは熱を帯び、べろべろなものにとなっていく。

 

チャンミンは胸に2個ある小さなポッチをいじられることが大好きだから(『情熱の残業編』より)、ここばかり執拗にいぢめる。

 

浴場にチャンミンの「あんあん」声が響く。

 

俺の手は、チャンミンのアソコ周辺をまさぐる。

 

足の付け根の辺りに俺が探していたもの、取り去るべきものが、指に触れた。

 

(これだ!)

 

 

 

...以上が、俺の妄想シーンだ。

 

(現実では、チャンミンを引き寄せ唇を奪っていないし、股間をまさぐってもいない)

 

「僕の好きな小説でね、主人公が好きな人と温泉にはいるシーンがあるんです」

 

ふいにチャンミンは話し出した。

 

「へえ、どんな?」

 

「二人はね、交際しているんです。修学旅行です。示し合わせて真夜中に温泉に入りにきたんです。お互い裸を見せあうのは、これが初めて。ドッキドキです。『キャッ、逞しいお胸。抱かれたいわ』『色が白いな。華奢なんだな。細い腰だな』とか、裸身をチラ見するんです。逞しっ子が『そんな端っこにいないで、こっちに来いよ』と華奢っ子を手招きするんです。『でも...恥ずかしい』って、もじもじする華奢っ子は手を引っ張られて、逞しっ子の足の間にすっぽりおさまっちゃうんです。それくらい華奢っ子は小さいんです。バックハグ。『お前の肌、すべすべだな』って、逞しっ子は華奢っ子の耳元で囁きます。そして、ぺろって華奢っ子の首筋を舐めるんです。ぺろぺろ。華奢っ子の身体は震えます。そして、「あん」って声が出ちゃうんです。『今の声、なんだよ?』って、逞しっ子の手は華奢っ子の胸のポッチにまわります。(ポッチ、って分かりますよね?過去に捕まって連行されたことがありましたよね?それは困ります)華奢っ子のポッチはきゅーって引っ張られたり、くりくりって転がされたり、先っぽをコソコソされたり。いじられるんです。華奢っ子は可愛い声をいっぱい出すんです。華奢っ子の声の可愛らしさとエロさに煽られて、逞しっ子さんのムスコさんはむくむく成長してゆきます。華奢っ子はドキドキです。だって、逞しっ子のムスコさんがお尻に当たってるんです。位置をずらしたら、ホールインワンしそうです!『ポッチが勃ってるぞ?』『そんなこと...な、なぁぁぁぁぁ、あん』『ちゃんと喋れていないぞ?』逞しっ子はポッチをぐりっと捻ります。『だって...そこばっかり...いやっいや、そこばっか、だめぇぇ』逞しっ子の手はいよいよ華奢っ子の前にまわり、自分のモノより2周り小さいモノをむぎゅっと掴むんです。『だめ、恥ずかしいっ!』華奢っ子は暴れたけれど、逞しっ子は逞しっ子ですからね。当然、逃れられないわけですよ。『俺のがどんな風になってるか...気付いているだろ?』『う、うん...』

...みたいな流れです」

 

「...凄いな」

 

認める。

 

チャンミンの話を聞いていて、ちょっとだけ、俺のムスコが反応してしまったことを。

 

 

(つづく)

 

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(30)会社員-愛欲の旅-

 

 

大浴場は空いていた。

 

脱衣所は俺たち2人だけだ。

 

チャンミンは脱衣棚にバスタオル、巾着袋と化粧ポーチ(お肌のお手入れかな?)をおさめると、浴衣を脱ぎ始めた。

 

背を丸め、こそこそとした脱ぎ方で、「こっちを見たら駄目ですよ」と何度もしつこい。

 

ジョークのつもりでガン見するフリをしたら、浴衣の帯が飛んできて、俺の額を打った。

 

「いてっ!」

 

「わわわ、ごめんなさい!」

 

「男同士じゃないか。

何を恥ずかしがってるんだよ?」

 

「懸想している殿方に裸体を見られるのは...恥ずかしい、です」

 

「俺と同じモノをぶら下げてるんだし」

 

「そこが大大大問題です。

僕とユンホさんの共通点は『男』であることだけ。

『男』を突き詰めていった時、僕らの差は広がるばかり」

 

いつものことだけど、チャンミンの話す内容を理解するには、深い思考が必要だ。

 

(チャンミンのこだわりポイントは、俺のそれとはまるで違うので、見当がつかないのだ。心のチャンミン録にそう記録した)

 

「見た目とか出身地や性格じゃなくて?」

 

「違います」

 

「意味わかんね~」

 

俺は浴衣を脱ぎ捨て、下着に指をかけた。

 

すると、「きゃっ」とチャンミンは両手で目を塞いだ。

 

(『きゃっ』って何だよ...。たまに女子のような声を出す、と心のチャンミン録に記入)

 

「『男』と言ったでしょうが?

『男』と言えば、ぺ〇〇でしょう」

 

「!!」

 

「ユンホさんがバットとしたら、僕のはパラソルチョコです。

あれ?

こんな会話、以前もしたことありましたっけ?」

 

(この手の会話は、『会社員』に限らず他のお話でも繰り広げているので、アレのサイズについての会話がなされたかどうかは確認できず。調べればいいのですが、時間がなくて...。すみません)

 

「さあ...。

そもそも、パラソルチョコが分からない」

 

「ふん。

ご自身で調べてください」

 

期待した反応がもらえなかったことで、機嫌を損ねてしまったようだ。

 

チャンミンはくるりと背を向けて、脱いだ浴衣を畳み、棚に置いたタオルとポーチを抱えた。

 

下着はまだ穿いている。

(黒のボクサーパンツ。普通過ぎて意外だった)

 

チャンミンが下着を脱ぐ瞬間を、待ち構えた。

 

「ああっ!」

 

突然のチャンミンの悲鳴に、俺はとび上がった。

 

「何!?」

 

チャンミンの指につられて、天井を仰いだ。

 

「ほら!

あそこ、あそこ!!」

 

竹を編んだ天井をすみずみと見渡しても、そこには虫も染みも、奇妙なオブジェもない。

 

「お先に~」

 

「え?」

 

視線を戻した先に、小走りで浴場の引き戸を開けるチャンミンの後ろ姿。

 

ほっそりとした腰に、温泉タオルをミニスカートの様に巻いている。

 

俺が天井を向いている隙に、チャンミンは下着を脱いだのだ。

 

チャンミンに遅れて俺も全裸になり、タオルを肩に引っかけて浴場の引き戸をあけた。

 

場内の照明は控え目なうえ、真っ白い湯気で場内を見渡すことはできない。

 

湯船に注ぎ込む水音が場内に響いている。

 

周囲をキョロキョロ見渡すと、一番奥の洗い場にかけ湯をしているチャンミンを見つけた。

 

大きな成りをしているくせに、小さな腰掛けにきちんと尻がおさまっている。

 

(か、可愛い...)

 

思わず内心、くすりとしてしまった。

 

濡れた床に足を滑らせないよう慎重に歩き、チャンミンの隣の蛇口前に腰掛けた。

 

背中や腹をシャワーの湯で流しながら、横目でチャンミンの様子をうかがった。

 

チャンミンはシャンプー中だった。

 

目をぎゅっとつむり、背中を丸めて頭皮を丁寧にマッサージしている。

 

(シャンプーはもちろん、持参してきたもの。几帳面にミニボトルに詰め替えている)

 

両膝を揃えた座り方で、下腹部はタオルで隠されていた。

 

『ウメコに仕込まれた物を回収する』

 

俺にはミッションがあった。

 

今日は一日バタバタと忙しく、後回しせざるを得なかった。

 

俺の見込みでは、仕込まれた場所はチャンミンの左内もも。

 

タオルと閉じた内ももで確認することができない。

 

チャンミンが髪を洗い終えるのを待った俺は、彼の二の腕を掴んだ。

 

「わわっ!

なんですか!?」

 

「湯につかろう」

 

「は、はい。

ちょ、ちょっと待ってくださいね」

 

チャンミンは腰に素早くタオルを巻きつけた。

 

(ガード...高いな)

 

じろじろ見て警戒されないよう、俺はチャンミンの下半身から目を反らし、先立って湯殿に入った。

 

自覚はなくても、身体は冷えていたらしい。

 

やや熱めの湯温で肌がびりびりしたが、次第に慣れ、血流が全身をめぐり出す。

 

気持ちよさ思わず「うう~ん」と唸ってしまう。

 

俺たちは並んで湯に沈み、大理石の縁に頭をもたせかけた。

 

俺とチャンミンとの間の1メートルは、彼の葛藤の距離なのだろう。

 

「ドタバタな1日だったなぁ」

 

「はい。

ユンホさんとしっぽりできなくて、フラストレーションが溜まっていました」

 

「今、しっぽりしてるじゃん。

ここ...だぁれもいないし」

 

「...はい。

僕ら二人きりですね」

 

「貸し切り状態だ」

 

「ユンホさん...もっと近くに寄ってもいいですか?」

 

「あ、ああ」

 

チャンミンはにじりより、俺の肩にぴったり身を寄せた。

 

(ち、ちかっ!)

 

「ユンホさん...お疲れ様です」

 

チャンミンの濡れた頭がこてん、と俺の肩にもたせかけられた。

 

急に恥ずかしくなってきた。

 

 

(つづく)

 

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(29)会社員-愛欲の旅-

 

 

「宴もたけなわでございますが、そろそろお開きの時間がやって参りました」

 

チャンミンの締めの挨拶が終わるや否や、社員たちはどやどや会場を出て行った。

 

会場の片付けがあった実行委員と俺(チャンミンの恋人だから)は後に残った。

 

と言っても特にすることはなく、くホストたちに派遣費を支払ってしまえば即解散だ。

 

俺たちつんつくりん浴衣2人組は、部屋にむかって歩く。

 

ここは開業数十年の老舗温泉宿で、度重なる増築のせいで複雑な造りをしている。

 

騒がしいキャピっと女子部屋と、若者部屋は別館に割り振られており、俺たちヲタク部屋は重役部屋と同じ本館だった。

 

他の実行委員の部屋を別館に割り振っているあたり、雑用や緊急事態発生で呼び出される頻度を減らそうとしたチャンミンの策士ぶりが垣間見ることができた。

 

チャンミンとゆっくり過ごせる時間がようやく訪れた。

 

ヲタク部屋は雑談に興じることなく、各々の世界に没頭しているだろうから、しんと静かだった。

 

チャンミンと会話をしたくてもぼそぼそ小声はうるさいし、耳をはばかる内容を口走ってしまいそうなチャンミンにヒヤヒヤするのは容易に予想できた。

 

「ここらで休もうか。

風呂も混んでいそうだから」

 

ずんずん先を進むチャンミンの、浴衣の袖を引っ張って引き寄せた。

 

「きゃっ」

 

後ろに引っ張られてチャンミンはよろけてしまい、俺の胸に抱きとめられた。

 

チャンミンをドキッとさせたくて。

 

チャンミンの勢いに任せていると、どうしてもムードに欠けてしまうから。

 

これまでのキスは全て、チャンミン任せの乱暴なものだった。

 

早朝の集合時間から、ドタバタと息つく間のない13時間だった。

 

俺の方だって、交際相手をときめかせる言動のひとつくらい経験はあるのだ。

 

宴会場とフロントを結ぶ途中にあるラウンジで、スポットライトで幻想的にライトアップされた中庭をのぞむことができる。

 

社内恋愛をしている者にとって、社員旅行とはドキドキと、秘密と色気の香りがするイベントだと俺は捉えている。

 

人目を気にしながらのいちゃいちゃや、いかに自然に振舞えるか試し合い、視線の交わし合い、自由行動では敢えての別行動。

 

(これは俺の場合であって、他所のカップルはどうかは知らない。

 

俺とは恋人がいるという状況や関係を深めていく過程を楽しむタイプらしい。

 

ところが、相手がチャンミンの場合、その状況や過程はハラハラドキドキ度が高すぎて、楽しむ域を軽く超えてしまっている。

 

自然と、これらの状況を作り出すチャンミンのキャラクターに注目せざるを得なくなってしまう。

 

チャンミンとの恋は、過去の恋愛体験や俺の恋愛傾向が全く通用しない...と、心のチャンミン録に書き記しておいた)

 

喫茶タイムは終了した時間帯で、ラウンジは照明もムーディに絞られ、辺りは薄暗かった。

 

気がきくチャンミンは、二人分の缶コーヒーを買ってくると、俺に手渡した。

 

「ありがと」

 

「僕は出来る彼氏なんです」

 

「そうだね。

なあ、4等賞って何だ?」

 

俺は浴衣のたもとに入れていた封筒を取り出した。

 

「残念賞がのど飴。

1等が5世代目のゲーム機(最新機種)、2等が腹筋マシーン(5つの筋トレができる)、3等がお米20kg」

 

「豪華だな」

 

「代わりに4等以下をレベルダウンしました。

貰ったら嬉しいものでしょう?」

 

「5等がトイレットペーパー半年分、6等が有料チャンネルの1カ月視聴コード。

で、俺のひいた4等。

...どれどれ」

 

封筒に入っていたのはチケットだった。

 

2枚ある。

 

「...テーマパーク××の招待券」

 

チャンミンのセレクトにしては、典型的な景品で驚いていた。

 

「分かります?」

 

「遠いな」

 

飛行機に乗らないと行けない場所だった。

 

「それもありますが...『ペア』ですよ?

ペアです、ペアですよ?」

 

「あ...!」

 

「ペアですよ?」

 

なるほど。

 

「俺と一緒に行ってくれる?」

 

「...はい」

 

ポッと頬を赤らめ、うつむいてしまったチャンミンが可愛らしかった。

 

 

(つづく)

 

 

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(28)会社員-愛欲の旅-

 

 

宴会場は中だるみの様子で、お見合いパーティ形式の席割りも見事に乱れ、皆思い思いの席で飲み食いしている。

 

泣き上戸の上司を慰める者や、説教する上司と喧嘩腰にやり合っている者、派遣されたホストと円座になってゲーム中の者、ひとり手酌の者、酒の場でコミック本を読んでいる者...。

 

人数を数えてみると、全員揃っている。

 

チャンミンの顔を見るなり、「実行委員!余興は?」の催促の声がかかった。

 

疲れのせいか、喧騒と俺の意識が乖離していて、時折あがる笑い声も現実感が乏しく聞こえる。

 

SAの男子トイレでのキスが、遠い過去に思われた。

 

ああ、早く静かなところでのんびりしたい。

 

心の声がチャンミンに伝わったのだろうか。

 

チャンミンは手を叩いて皆の注目を集めると、「くじ引きのお時間が参りました!」声を張り上げた。

 

宴会はとっととお開きにして、ここから解放されたい。

 

旅のしおりによると、本来ならマジックショーとミニゲーム(座布団ツムツム、河童のお皿で玉運びレース)を間に挟むのだが、足取りおぼつかない者率の高さと、時間もおしてきていることから省略することにしたようだ。

 

会場の隅に置かれたテーブルには、目録引換券が並ぶだけで、持ちかさばる景品の姿はない。

 

荷物を増やしたらいけないという、チャンミン幹事の図らいだろう。

 

 

くじ引き...これがチャンミンが実行委員の権力を乱用した3例目だ。

 

ガラガラの玉を忘れてきたせいで、余興のハイライトだったビンゴゲームがくじ引きになってしまったのだ。

 

ハンドメイド感たっぷりのくじ引き棒は割りばし製。

 

マジックペンで線が引いてあり、5本なら5等賞、1本なら1等賞。

 

無地なら残念賞で、一応空くじナシだ。

 

(背中を丸めてコツコツと、1本1本割りばしにペンで印を付けるチャンミンの後ろ姿を想像して、萌えてしまう俺は重症か?)

 

「引く順番は、僕の隣の人からです。

はい、トップバッターはユンホさん」

 

と、俺の目前にずいっと、割りばしの束が差し出された。

 

「俺?

一番でいいの?」

 

適当に選んだ一本を摘まんで引こうとしたら...。

 

「ああっ!」

 

チャンミンの大声に、俺はとび上がった。

 

「...なんだよ?」

 

「いえいえ、思い出したことがあっただけです。

さささ、お気になさらず、ちゃちゃっと引いてください」

 

首を傾げながら、適当に選んだ1本を引き出そうとした...。

 

したが...抜けない。

 

チャンミンが力いっぱい握りしめているせいで、抜けそうにないのだ。

 

「チャンミン!」

 

「......」

 

「力を緩めろよ!

おいっ...。

......ん?」

 

1本だけ飛び出ている。

 

早く引けと、チャンミンは顎をしゃくっている。

 

「これ?」と、視線で問いかける。

 

チャンミンはこくりと頷いた。

 

「ズルだろ?」

 

チャンミンはこくりと頷いた。

 

(チャンミンよ...職権乱用過ぎないか?)

 

俺たちはたっぷり10秒間、見つめ合った。

 

チャンミンの気迫ある眼差しに負けて、俺は共犯の片棒を担がされた。

 

引いたものには4本の線があったから4等賞。

 

景品テーブルに目をやると、4等賞は目録引換券になっていた。

 

果たして景品はなんだろうか。

 

 

(つづく)

 

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(27)会社員-愛欲の旅-

 

 

『勃起』発言をまともに聞かれてしまったチャンミンは、両手で口を覆い、目を真ん丸にしている。

(今さら口を覆っても、ばっちり発言した後だから無駄な行動だ)

 

俺といる時のチャンミンは、心の赴くままの言動で、俺を慌てさせたり笑わせてくれる。

 

世間向けのチャンミンとは生真面目な常識人だ。

 

俺たちのこっぱずかしいやりとりを目撃され、我に返って真っ赤になるしかない。

(嫉妬でちんちんに熱くなっている時は、周囲が見えなくなってしまうが...)

 

「会場に戻ろうか」

 

チャンミンの両脇に腕をくぐらせ、力任せに引っ張り上げた。

 

しゅんと、うな垂れたチャンミンは、その場に突っ立ったままだ。

(チャンミンの前も大人しくなったようだ)

 

「彼の頭の中は二次元女子だけだ。

『ぼっき』を『勃起』と結び付けたりしてないさ」

 

「そうでしょうか?」

 

「ああ」

 

俺は大きく頷いて、チャンミンの丸まった背中をバシッと叩いた。

 

「ほら、シャキッと!

抱き合ってるところを見られたわけじゃあるまいし」

 

「そうですねそうでしたね。

あ~あ、びっくりしました!」

 

乱れた髪を撫でつけていると、「ユンホさん、髪がボサボサです」と、俺に代わって手ぐしで直してくれた。

 

「あらあらユンホさん、乱れきってます」と俺の正面に立ち帯を締め直すと、「お胸も見えたらいけません」と素早く腕をクロスさせ、俺の首を締めんばかりに襟元を詰めた。

 

「目撃したのが俺たちだったからセーフだったな。

もしあの密会カップルだったら、どうなったんだろう?」

 

「そうですね。

さすがにヲタク君も固まったでしょうね。

...ところでユンホさん、セック...」

 

「しーーーー!」

 

俺はチャンミンの口を塞いだ。

 

風呂上がりの女子大生風のグループとすれ違った。

 

ここの温泉ホテルでは、女性客の浴衣は赤い花柄で、その上にえんじ色の半纏を羽織る。

 

上気した頬はつやつやで、着替えの入った袋や飲み物の缶を手にしている。

 

(いいなぁ、温泉か。

宴会が終わったら、チャンミンとゆっくり湯に浸かろう。

『ユンホさん、お背中流しましょう』

『いいの?』

『タオルじゃなく、手で直接洗いましょうね』

『くすぐったいよ、チャンミン』

『ユンホさんの背中、逞しくて広いですね。

次は前を洗いましょうね。

照れないでその手をどかして下さいな。

やだぁ、ユンホさん。

息子さんがえらいこっちゃになってます』

『だめだよチャンミン、こすったらダメだ。

ああぁぁっ!』

...って、おい!

俺はなにを想像してるんだ!?

 

...その前に!

 

忘れていたけど、風呂場で俺はやるべきことがあったんだった。

 

ウメコに仕込まれたものの回収だ)

 

「公衆の場でエロワードを言う時は気を付けろよなぁ。

『アレしてる』とかさ、言い換えないと。

...いでっ!」

 

お尻をつねられて、俺はとび上がった。

 

「どこ見てるんですか!?」

 

「え...?」

 

背後に青白い嫉妬の炎が揺らめかせ、チャンミンの三白眼が俺をぎりりと睨みつけていた。

 

「女子を見てましたね。

ふり返って、ずーっと見てましたね。

浮気認定しますよ?」

 

「違う、違うって!」

 

チャンミンの嫉妬深さにはうんざりすることもある、と心のチャンミン録にメモをした。

 

嫉妬深さは自身の自信のなさのあらわれか?...と、どこかで聞きかじった情報が頭をよぎったが、チャンミン相手に難しい分析は止しておこうと思った。

 

「行くぞ。

実行委員が不在で、収拾がつかなくなっていそうだな」

 

俺はチャンミンの手を取り、指を絡めた。

 

 

 

 

チャンミンを黙らせるにはこれだ。

 

「ユンホさん...」

 

チャンミンの指に力がこもった。

 

俺はとたんに照れくさくなって、正面を向いたままだった。

 

ちらりと横を窺うと、チャンミンの耳は真っ赤だった。

 

こういうところに俺はぐっときてしまうのだ。

 

「さっき言いかけたことは何だったの?」

 

「あのセックス・カップルは誰だったんでしょうね?」

 

「...チャンミン。

そういうワードはまともに使うなって、言ったばかりだろう?

誰かに聞かれるかもしれないんだ」

 

「そうでしたね、すみません。

『性交』ならどうでしょう?」

 

「...セーフだな。

うちの社員だったら嫌だなぁ」

 

宴会会場のぎりぎり近くまで俺たちは手を繋いでいた。

 

 

(つづく)

 

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