(9)Hug

 

 

 

(チャンミン...。

 

気持ちがいい。

 

とろけそう。

 

ゾクゾクする。

 

キスが上手すぎ。

 

さすが、元・既婚者。

 

こんなエロいキス、元夫としていたのか?

 

悔しい。

 

俺のジェラシーの炎がメラメラだ。

 

あ...。

 

キスだけで昇天しそう...。

 

止められない。

 

今すぐ、「もっと先」へ進みたくなったよ。

 

チャンミン。

 

大変だ。

 

俺のユノユノが暴れ出した!)

 

 

 

 

「ひゃあぁ!」

 

「キスしてるー!」

 

「おい、見ろよ!」

 

「!」

「!」

 

弾かれるように離れた2人。

 

川向こうの土手沿いを、自転車に乗った中学生がユノたちをはやし立てている。

 

「男同士でキスしてる!」

 

「ヒューヒュー!」

 

こちらを指さし、顔を見合わせ、遠くの友人たちを呼びよせている。

 

女子中学生は口を覆って、きゃーきゃー。

 

「はあ...」

 

ユノは大きくため息をつくと、立ち上がるチャンミンに手を貸した。

 

「車に戻ろう」

 

「う、うん」

 

ユノもチャンミンも、リンゴのように真っ赤になっていた。

 

 

 

 

さっきのキスで、火がついた2人。

 

車内におさまると、高ぶる気持ちが抑えられず、吸い寄せられるようにキスを再開した。

 

初めての深い深いキスにとまどっていたユノ。

 

自分の口の中で踊るチャンミンの舌に、ぎこちなくからめていただけだったのが、彼を味わっているうちに、勢いがついてきた。

 

(ヤバい!

チャンミンがエロい!)

 

ユノはチャンミンに両頬を挟まれたまま、チャンミンはユノにうなじを引き寄せられて。

 

途中息継ぎをしながら、顔の角度を変えて唇を重ね直す。

 

(チャンミン...

俺はどうにかなっちゃいそうだよ...)

 

ユノもチャンミンの口内に、舌を伸ばす。

 

(気持ちが...いい...)

 

「ぷはっ」

 

チャンミンは、ユノから唇を離した。

 

(え?)

 

ユノの目はとろんと夢心地なものになっていた。

 

そんな顔がチャンミンには色っぽくみえてしまう。

 

「もっと、もっとキスしたい」

 

ねだるユノの口調は子供っぽい。

 

チャンミンを引き寄せようと伸ばすユノの手を、チャンミンは押しとどめた。

 

「チャンミ~ン...お願い」

 

ユノは、頬を膨らませる。

 

「ほらね、こんなところだし!

また見られちゃうかもしれないし」

 

チャンミンはキョロキョロと辺りを見回してみせると、ユノもつられて対岸を確認する。

 

あの中学生たちはいなくなっていて、代わりに祭り太鼓と旗竿を積んだ軽トラックが通り過ぎていっただけだった。

 

山を貫く高速道路の橋げたから、高速で行き交う車の音が、山々に反響している。

 

平和な田舎風景。

 

明日はお祭り、町中がうかれていた。

 

甘い雰囲気を消すかのように、チャンミンは、「母さんを手伝わなくっちゃ!」と言った。

 

(危なかった。

こんなキスしてたら、止められなくなる!)

 

チャンミンは乱れた後ろ髪を整え、火照って紅潮した頬をパシパシと叩いた。

 

「俺も、テツさんを迎えにいかなくっちゃ」

 

(危なかった!

車の中でいたすには、俺の経験値は圧倒的に不足してる!)

 

ユノは、グシャグシャと何度も髪をかき上げた。

 

「今、何時?」

 

ユノに強引に引っ張られてきたチャンミンは、手ぶらだった。

 

「えっとね...1時半」

 

後ろポケットからスマホを取り出して、時刻を確認した。

 

「......」

 

「まだ時間があるね」

 

「うん...」

 

「......」

 

2人の視線が 同じ一点で止まっていた。

 

高速道路のインターチェンジ脇の、ショッキングピンクの建物。

 

(『気まぐれバナナ男爵』...。

なんて...ストレートな...!)

 

ユノの喉がごくりとなった。

 

「......」

 

(行く?

あそこに行っちゃう?

どうする?)

 

(初・ラブホ!?)

 

ユノは「ねえ」と、チャンミンの服を引っ張った。

 

「...チャンミンは、あそこに行ったことある?」

 

「なっ!

なんてこと言うんだよ!

あるわけないだろ!」

 

「ホントかなぁ?」

 

ユノは目を細めて、ニヤニヤする。

 

「もしそうだったら、生々しいな」

 

チャンミンの顔が、一気に赤くなる。

 

「馬鹿!」

 

チャンミンは、ユノの鼻をつまんだ。

 

「いったいなぁ!」

 

チャンミンの手から逃れようと身をよじるユノに、チャンミンはのしかかる。

 

「痛い痛い!」

 

糸のように細めたユノの目尻がキュッと切れ上がっていて、それが可愛らしくて仕方がないチャンミン。

 

ぴんと立つチャンミンの耳が真っ赤になっていて、それが可愛らしくて仕方がないユノ。

 

「チャンミン!

じゃれつかないでよ」

 

「おーい!」

 

「!」

 

「!」

 

2人は弾かれたように離れた。

 

ユノたちの車の脇に、一台の軽トラックが横付けされた。

 

助手席側から、テツが顔を出している。

 

「俺は乗せてってもらうから。

迎えはいらんからな」

 

テツは、ユノの隣に座るチャンミンに気付く。

 

「チャンミン!

こいつに手取り足取り教えてやれよ!」

 

「!」

 

ガハハハと笑うと窓から手をひらひらさせ、テツの乗った車は走り去ってしまった。

 

「......」

 

「テツさんにも、バレてる...」

 

チャンミンは肩を落とす。

 

(恥ずかしくて、穴があったら入りたい...)

 

「そう...みたいだね」

 

ユノはとぼける。

 

(実は、俺からバラしたなんて言ったら、チャンミンに殺される)

 

「あのね、チャンミン」

 

「ん?」

 

「ここじゃ狭いし、2時間じゃ足らないよな」

 

ユノは、キリっと表情を引き締めた。

 

「今夜、夜這いに行くから!」

 

「!」

 

「絶対に行くから、待ってろよ」

 

「わ、わかった」

 

チャンミンが頷いたことに満足したユノは、

 

「それじゃあ、うちに帰ろう」

 

エンジンをかけて、シフトレバーとクラッチペダルを確認した後、車を発進させた。

 

「チャンミン!

シートベルト」

 

「ごめん!」

 

「チャンミン先生、しっかりして下さい!

えっちなことで頭がいっぱいなのは分かるけどさ」

 

「こらっ!」

 

「ふふふ。

楽しみだねー」

 

ウキウキと鼻歌を歌いながらハンドルを操作するユノの首は、また真っ赤になっていた。

 

(ユノったら、可愛いんだから)

 

 


 

 

 

午後4時。

 

台所は戦場だった。

 

チャンミン、祖母カツ、母セイコは、煮物の鍋を焦げ付かないよう火加減に神経をつかい、赤飯用の小豆を水に浸し、大量の天ぷらを次々と揚げていた。

 

ユノもビールケースの運搬や、広間に座卓を広げ、座布団を並べたりと、率先して手伝った。

 

(楽しい!)

 

ユノの心はウキウキ弾んでいた。

 

(みんなが忙しそうで、文化祭の前日みたいだ。

それに...それに...!

ふふふ。

今夜は...今夜こそは...!)

 

「くくくく」

 

ユノの脳裏に浮かんだイメージ図はあまりにも大胆で、敷いた座布団に突っ伏してこみあげる笑いを閉じ込めた。

 

(そうだ!)

 

ユノはむくっと頭を上げると、荷物を置いてある仏間へ向かう。

 

 

 

 

(ない!)

 

リュックサックの中を、逆さにしてみても探しているものは見つからなかった。

 

(ない!)

 

常日頃、持ち物を絞り込めずにバッグをパンパンにしているチャンミンをからかっていたユノだ。

 

(絞り込むどころか、一番大事なものを置いてくるなんて!)

 

ユノの顔色がさーっと青ざめた。

 

「どうしよう...」

 

(荷物を入れるバッグを、行きがけに取り換えたんだった。

ボストンバッグにするか、リュックサックにするか迷ってて。

多分その時、置き忘れてきたんだ!)

 

わーっと泣き出したい気持ちを抑え「よし!」と声を出すと、台所にいるチャンミンの元へ向かった。

 

 

 

(つづく)

 

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

(8)Hug

 

 

「この辺でいいかな」

 

河原の土手際の草むらに、車を乗り入れた。

 

ギッとサイドブレーキを引くと、ユノは運転席を降り、ぐるっとまわって助手席のドアを開けた。

 

「どうぞ、姫君」

 

「ユノがナイト役?

なんだよ、それ」

 

差し出されたユノの手をとって、チャンミンは草地に足を下ろした。

 

(スポーティーな車じゃなくて、軽トラックなんだもの)

 

ユノの気障な仕草に、チャンミンはくすくす笑った。

 

コンクリート製の土手に2人は腰をかけた。

 

数メートル下を流れるその川は、上流にあたるため流れは急で、ごろつく岩の間を白いしぶきが散っていた。

 

ユノはチャンミンの手をとると、指を絡めた。

 

(ユノ...何を言い出すんだろう)

 

ふざけた空気がふっと消えたユノの横顔に、チャンミンはドキドキしながら彼の言葉を待つ。

 

ユノは頭に巻いたタオルを外すと、

 

「チャンミンっ...」

 

泣き出しそうな顔でチャンミンを振り返った。

 

前髪が立ち上がり、白い額がむき出しになって、その下の眉がひそめられている。

 

「まずは、ハグさせて!」

 

「へ?

ユ...」

 

しまいまで言わせず、ユノはチャンミンの腕を引き寄せ、抱きとめた。

 

勢いよく、チャンミンの頭がユノの固い肩に押し付けられた。

 

「チャンミン...あのさ...」

 

とユノは言いかけたが、続きの言葉は飲み込んだ。

 

テツにくぎを刺されたことを、思い出したからだ。

 

「......」

 

「やっとで、2人きりになれたね」

 

代わりにそう言って、チャンミンの額に唇を押し当てた。

 

「うん」

 

(ユノが言いかけて止めた内容って、何だろう?)

 

「ユノ、ごめんね」

 

ユノのジャージのファスナーを上げ下げしながら、チャンミンは謝った。

 

「大勢で、うるさくて、ゆっくりできないでしょ?」

 

「チャンミン2人になれないのは、大いに不満だけど...楽しいよ」

 

ユノはチャンミンの髪に頬を埋めた。

 

(チャンミン...いい匂い)

 

「皆さん、いい人たちだね。

よそ者の俺に、気さくで。

ゲンタさんには、何度怒鳴られたことか」

 

くくくっとユノの胸が揺れる。

 

「チャンミンは、こんな家族の中で育ったんだなぁって。

知ることができてよかった」

 

ユノが話すたび、チャンミンの首筋に温かい息がかかった。

 

「最初は、嫌でたまらなかった。

チャンミンの家族に会う心の準備ができていなかった。

俺...いちお、チャンミンの恋人だけど。

お祭りに参加するなんて...。

せっかくの休みは、チャンミンとのんびり過ごしたかった。

沢山の知らない人に囲まれるなんて、気が重かった。

でも、来てよかったと、思ってるよ」

 

「強引に連れてきてごめんね」

 

「俺の方こそ、ごめん」

 

 


 

 

~ユノ~

 

 

『彼氏』だって、紹介されなかったことにムカついた。

 

チャンミンが言わないのなら、バラしちゃえって、際どいことを言ってふざけた。

 

チャンミンったら、本気で焦るんだから。

 

それを見て、ますます意地悪な気持ちが湧いてきた。

 

でも、テツさんの話を聞いて、俺がいかに軽率だったか知った。

 

抵抗なく、年下の俺を紹介しづらいチャンミンの気持ちが分かった。

 

それを受け入れがたい家族の心情を、俺は知らなかった。

 

堂々としていないチャンミンに、イラついていた。

 

どんなことでも受け止める、って胸をはったけど、実はちょっとだけ自信をなくしたんだ。

 

だから、無性にチャンミンをハグしたくなった。

 

「ごめんなさい」の気持ちと。

 

「俺を信じて」の気持ちと。

 

それから...不安な気持ちでいっぱいになった。

 

ずっとチャンミンのことが好きだったけれど、俺はチャンミンのことをよく知らないことに気付いたよ。

 

チャンミンは、あまり自分のことを話さないから。

 

いつも俺だけがペラペラ喋ってて。

 

俺にホントのことを話したら、俺が引くと思ったのか?

 

そんなに頼りないかなあ?

 

それくらいで、俺が引いちゃうって怖かったのか?

 

年下だから?

 

なあんだ。

 

俺も年の差を気にしていたみたいだ。

 

チャンミンが俺を信用して、打ち明けてくれるのを待ちたい。

 

うーん。

 

やっぱり、待てないかもしれない。

 

嫉妬の気持ちが湧いてきたから。

 

俺は若くて、人生経験が不足しているから「待てない」

 

チャンミンと俺との間の「壁」を僕がぶち壊していくからな。

 

覚悟していろよ。

 

 

 

 

「俺は人生経験が乏しいけど、心はドーンと広いつもり。

だから、どんなことでも受け止めるよ」

 

俺はそうつぶやいて、チャンミンの首筋に唇を押し当てた。

 

チャンミンの温かく湿りを帯びた肌から俺の唇へ、じじっと痺れが走る。

 

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

「受け止めるよ」というユノの言葉。

 

そっか。

 

家族の誰かから、聞いちゃったんだね。

 

気安くバラすような人たちじゃないから、ユノを試す意味で彼に教えたんだろうな。

 

僕を心配して、忠告のつもりでユノの耳に入れたんだろうな。

 

打ち明けるのは「今じゃない」、もっと僕たちの仲が深まってからにしよう、って僕は思っていた。

 

母さんが心配した通りだよ。

 

幻滅されるんじゃないかって、怖かった。

 

僕に対して抱いているだろうイメージを壊すのが怖かった。

 

だって、ユノはあまりに若くて、ピカピカな新品なんだ。

 

自分はなんて汚れているんだろうって、卑屈になっていたんだな。

 

ごめんね、ユノ。

 

ユノの腕が力強くて、固く引き締まっていて、本当にドキドキする。

 

参ったな。

 

いつもは、からかったり、照れたり、駄々をこねたり。

 

大人っぽく、男らしくされると、困ってしまう。

 

片耳はユノの肩に、もう片方はユノの腕に塞がれているから、川の音は遠い。

 

ユノに閉じ込められて、なんて心地よいんだろう。

 

 

 

 

「ユノに謝らなくちゃいけないことがあるんだ」

 

僕は口を開く。

 

「初めて家族に会わせた時、

『彼氏です』って紹介できなくて...ごめん」

 

「その気持ち、今の俺なら理解できるよ」

 

ユノは僕の首筋に唇をあてたまま喋ると、ふふふと笑った。

 

「ユノ、くすぐったい」

 

「チャンミン、いい匂いがする」

 

ユノがふざけてくれないと、調子が狂うよ。

 

ふぅっと一呼吸ついて、ドキドキする気持ちを落ち着かせて、僕は続ける。

 

「母さんにバレてた、とっくの前に」

 

「そりゃそうだろう?

チャンミンは分かりやすいんだから」

 

「ユノがバラしたようなものじゃないか」

 

「大正解。

いいじゃないか。

堂々としていようよ」

 

「うーん...。

今さら恥ずかしいんだけど」

 

「皆にもバレてるって。

堂々と『いちゃいちゃ』しようよ。

それに...チャンミンは男が好きだってこと、皆知ってるんだろう?」

 

「うーん...そうだけどさ」

 

 

 

 

ユノの隣を歩くのは、うんと若くて可愛い女の子が似合うのは分かってる。

 

そりゃあね、僕は男だし、若くないし、過去にいろいろあったし。

 

でもね、僕だってすごいんだから。

 

 


 

 

「ユノ」

 

「んー?」

 

「キスしていい?」

 

「は?」

 

予想外のチャンミンの台詞にユノは、固まってしまう。

 

(皆さん。

 

ちょっと...聞きました?

 

チャンミンが、「キスしたい」って。

 

聞きました?

 

初めてなんだけど!

 

チャンミンがこんなこと言うの、初めてなんですけど!)

 

「......」

 

光が当たって茶色く透けたチャンミンの瞳に見惚れていると、チャンミンの片手がユノのあごに添えられた。

 

吸い寄せられるように、2人の唇が接近する。

 

軽く触れるだけのキスを、1回、2回、3回。

 

4回目で、2人は深く深く口づけた。

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

(7)Hug

 

 

神社の駐車場に並ぶ、似たような車の中から記憶にあるナンバーを頼りに、テツの車を見つける。

 

(これだから田舎は物騒なんだから!)

 

鍵が刺さったままのテツの車に、ユノは乗り込んだ。

 

ハンドルにしたたか膝を打ち付けて、舌打ちしてしまう。

 

「あーもー!」

 

温厚なユノにしては、珍しいことだ。

 

(どうしてこんなに狭いんだ!)

 

テツの車は軽トラックだったため、シートを下げることも、背もたれを倒すこともできず、その狭い空間に長い脚を押し込む。

 

クラッチペダルとシフトレバーを確認すると、ユノはそろそろと発車させた。

 

(マニュアル車は久しぶりだから...難しい)

 

途中、何度かノッキングを繰り返していたが、次第にコツをのみこむと、アクセルをふかしてスピードを上げた。

 

目指すはショッピングセンター。

 

午後にはチャンミンに会えるのに、この時のユノはとにかく早く彼に会いたくて仕方なかったのであった。

 

 

 


 

 

ユノはフードコートで、食事中のセイコとチャンミンを見つけた。

 

ショッピングセンターでは、翌日の祭りのために食料品を買い込む家族たちでごった返していた。

 

バーベキュー用の肉や野菜、缶ビールの箱、スナック菓子などを積み上げている買い物カートが行き来している。

 

祭り当日の夜は、どの家庭でも親せきを呼んでの宴会を開く。

 

その間を巧みにすり抜けながら、ユノの登場に目を丸くしているチャンミンとセイコの側まで、小走りで近づく。

 

チャンミンたちも、周囲より頭ひとつ突き出た長身と、頭にタオルを巻いてジャージ姿のユノを、早い段階で見つけていた。

 

(日ごろ意識していない僕だけど、

ユノは、雑踏の中に混じると、スタイルのよさが際立つんだよね。

カッコいいなぁ)

 

「チャンミン!」

 

つかつかと、ユノは2人のテーブルの前まで来ると、

 

「セイコさん、こんにちは」

 

セイコに挨拶をすると、ぽかんと口を開けたチャンミンに、ずいっと顔を近づけた。

 

「俺に見惚れるのは分かるけどさ。

行くよ!」

 

「へ?

行くって、どこに?

今、ランチ中なんだよ?」

 

「俺はまだ、昼メシを食べてない!」

 

「じゃあ、一緒に食べていく?」

 

「そんな時間はないだって」

 

席を詰めようとするチャンミンの手を、ユノはギュッと握る。

 

「ユノ!」

 

隣に座るセイコの視線を意識して、チャンミンはユノの手を振りほどこうとするが、ユノの握力の方が上だった。

 

「離してよ!」

 

「チャンミンに、用事があるんだよ!」

 

「こんなところで何してるの?

準備は?

テツさんは?」

 

「テツさんは神社」

 

「買い物の途中なんだ。

ユノこそ、放っぽりだしてきていい訳?」

 

「こちらはほとんど終わったよ。

みんな、適当にだべってる。

俺ひとりいなくなっても、大丈夫だって」

 

「用事って何?」

 

「あーもー!

チャンミンはうるさいなぁ。

お口にチャックして、俺についてきて!」

 

見かねたセイコが助け舟を出す。

 

「買い物したものを車まで運んでくれたら、行っていいわよ。

夕方までに戻っておいでね」

 

「母さん!」

 

「セイコさん、ありがとうございます」

 

チャンミンの手を握っているのにも関わらず、動じていないセイコの様子に、ユノはぴんときていた。

 

(俺たちの仲...バレてるな、これは)

 

 

 

 

セイコの車のトランクをバタンと閉めると、「チャンミンをしばらく、お借りします」とユノはセイコに頭を下げた。

 

ユノはチャンミンの手を握って、ぐいぐい引っ張っていく。

 

「ちょっと!

ユノ、どうしたの?」

 

くるっと振り返ったユノの目は鋭かった。

 

「チャンミン!」

 

「?」

 

「とにかくひと気のないところへ行こう!」

 

「ひと気がないところって...!

ユノ、落ち着いて!

今は昼間だから!」

 

ユノが急に立ち止まったため、その背中にチャンミンが衝突してしまった。

 

「止まんないでよ!」

 

チャンミンは、ユノを睨みつける。

 

「やだなぁ、チャンミン」

 

くるりと振り向いたユノの表情が、ふにゃふにゃと緩んでいた。

 

「何を想像したんだ?

ひと気のないところで、

何をしようって、想像したのかなぁ?」

 

「うっ...!」

 

「屋外で 俺たちの『初めて』をしようってか?

ふふふ。

チャンミンって、えっちだなぁ」

 

目を三日月型にさせて、ユノは肘でチャンミンをつつく。

 

「え、えっちなのは、どっちだよ!」

 

チャンミンは首まで真っ赤になっていた。

 

「ははは!

チャンミンは可愛いなぁ。

俺の可愛い『彼氏』だなぁ」

 

そう言って先を歩くユノの首も真っ赤になっていて、チャンミンは吹き出した。

 

(大胆なことを言いながらも、ホントは恥ずかしくて仕方がないくせに)

 

ユノの均整のとれた後ろ姿の後を追いながら、チャンミンはこう思う。

 

(そんなユノが、僕は大好きなんだ)

 

 

 

 

「ユノ...。

これに乗ってきたの?」

 

駐車場に停められた軽トラックを見て、チャンミンは笑った。

 

「うん、そうだよ」

 

ユノはチャンミンのために、助手席のドアを開けてやる。

 

(ここまで軽トラックが似合わないとは)

 

膝小僧はダッシュボードにぎゅうぎゅに押しつけられている。

 

(僕も似たようなものだけど)

 

「ドライブしよっか?」

 

ユノはシートベルトを締めると、助手席のチャンミンに笑顔を向ける。

 

「テツさんは、乱暴な運転をしているんだなぁ。

クラッチを繋げるのが難しいんだ」

 

そろそろと発進させると、念入りに左右確認をした後、満車状態の駐車場から国道へ出た。

 

「よく考えれば、プライベートなドライブって初めてだ」

 

「確かにそうだね」

 

開けた窓から吹き込む風で、チャンミンの髪はもみくちゃにされる。

 

準備に大わらわな大人たちや、自転車で走り回る子供たちをあちこちで見かけるのは、祭り前日のせい。

 

「チャンミンを助手席に何度も乗せたね。

チャンミンったら、真っ青な顔をしてグリップを握ってた」

 

「そうだったね」

 

チャンミンは、シフトレバーを握るユノの手の甲に、自分の手の平をのせた。

 

「くすぐったい」

 

「ユノは上手いのか下手なのかよく分かんない教習生だったなぁ」

 

「運転が下手なふりをしてたの、気づいてた?」

 

「やっぱり?

僕の時だけ、滅茶苦茶下手なんだから。

他の先生の時は、すいすい運転しちゃって」

 

「『チャンミン先生』を困らせてみたかったんだ」

 

「僕の教え方が悪いんだろうかって、真剣に悩んだんだよ」

 

「ごめんなさーい」

 

「とんだ『不良教習生』だった。

ホント、振りまわされたんだから」

 

「ははは!」

 

窓に肘をつけ頬杖をついたチャンミンは、生真面目な顔で運転をするユノを見つめる。

 

「あまり見られると、緊張するよ。

チャンミン先生、俺の運転はどうですか?

合格ですか?」

 

ユノの頬は真っ赤になっていた。

 

 

 

 

〜チャンミン〜

 

そうだった。

 

ひとつ車内で、何十時間も過ごしたんだった。

 

礼儀正しくて、ユーモアたっぷりな話し方で、ふいにハンドル操作を誤らせるからこちらは冷汗をかいて。

 

こんな風に助手席に座って、真剣な面持ちのユノの横顔を見ていたんだった。

 

この子ったら。

 

本当に綺麗な横顔をしている。

 

僕に向けられる澄んだ黒い瞳は、出会った頃から全然変わっていない。

 

やだな...感動する。

 

 

 

(つづく)

 

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

(6)Hug

 

 

 

前夜、練習に参加できなかったユノは(のぼせてぶっ倒れた事件)、テツから祭事の流れのレクチャーを受けていた。

 

「神さんを山車(だし)に乗せて御旅所(おたびしょ)に運ぶ行列がある。

途中、氏子の家を回るから…そうだな5kmは歩く。

お前さんの役目は、四神旗を掲げて歩くことだ!

重いぞぉ。

そんなひょろっとした身体じゃ、心配だな...」

 

テツは疑わしい目でユノの身体を舐めまわす。

 

「心配ご無用!」

 

ユノはドンと胸を叩く。

 

「俺、こう見えて鍛えているんですよ。

テツさん、見ます?」

 

テツは、Tシャツの裾をまくろうとするユノの手首を押えた。

 

「馬鹿たれ!

男の裸なんぞ、見たくもない!

お前の女に見せてやれ!」

 

「『女』ですか...」

 

ユノは、がっくりと肩を落とした。

 

(見せたよ。

チャンミンに、俺のすべてを見せたよ。

のぼせてひっくり返って、恥ずかしい恰好で。

チャンミンだけじゃなく、お母さんにも、お義姉さんにも...。

俺の『生まれたままの姿』を見られちゃったよ。

丸ごと見られちゃったよ。

朝ごはんの時、何でもないふりをするのが大変だったんだから!)

 

「どうした?」

 

黙りこくっているユノに気付くテツ。

 

「女はいねぇのか?

そりゃ気の毒だな。

孫を紹介してやりたいが、中学生だしなぁ...」

 

ぶっきらぼうで口は悪いが、テツは面倒見がよく、初対面なのに気兼ねなく会話ができる。

 

ユノは煙草をうまそうに吸うテツの方を、ちらりと見る。

 

(よし!)

 

ユノはひざを叩いた。

 

(チャンミンには悪いけれど、暴露してやる)

 

「実はですね。

俺はチャンミンの『かれし』なんですよ」

 

テツの耳元でユノは囁いた。

 

「何だって!?」

 

テツの口からぽろりとタバコが転げ落ちた。

 

「そうです。

俺たちは、熱愛中なんです。

あ...びっくりしますよねぇ...。

男同士ですから」

 

「ほほぉぉ」

 

テツはニヤニヤしながら、ユノの耳元で囁いた。

 

「お前たち...もう...寝たのか?」

 

「テツさんも好きものですねぇ。

言い方がえっちですねぇ。

えっ!?

ええっ!!

テツさんは驚かないんですか!?」

 

「チャンミンが女に興味がねぇ話は、ここらじゃ有名な話さ」

 

「へぇ...そうなんすか...」

 

ユノは言葉をいったん切って、こほんと咳ばらいをした。

 

(それならば...

これも暴露しちゃおう)

 

「実はですね...『まだ』なんです」

 

「何だってぇ!?

お前の...使いものにならないのか?」

 

テツは視線を下に向ける。

 

「テツさん!

俺のは正常です!

いつでも準備オーケー、臨戦態勢です!

ただ、タイミングというか、いろいろと障害がありまして...」

 

ごにょごにょつぶやくと、ユノは頬をふくらませた。

 

「そりゃ、気の毒だなぁ...」

 

テツはユノへ憐れみの眼差しを向けると、ペットボトルのお茶に口をつけた。

 

2人は神社の階段に座り込んで、女性陣が配り歩いた茶菓子でひと休憩中だった。

 

強い日差しが境内の巨木の枝に遮られて、そよ風が涼しく、力仕事でかいたユノの汗はひいていった。

 

実は、ユノの心の奥底には『あること』がしこりとなって、ユノを落ち着かなくさせていた。

 

(初日の夜、

ケンタ君とソウタ君とお風呂に入った時、聞き逃せないことを2人は話していた。

のぼせて頭が回っていなかったから、深く考える余裕がなかったけれど。

チャンミンとゆっくり2人きりになれていないから、チャンミンに問いただすこともできなかった。

怖くて聞けないってことも、あるんだけれども...)

 

再び黙り込んだユノに、テツは口を開いた。

 

「チャンミンはべっぴんだからなぁ。

年は離れているだろうが、大人の男に手ほどきしてもらうのも、男冥利につきるんではないかい?」

 

そこで口を切ると、

 

「チャンミンを支えてやれよ。

あの子も、苦労したからなぁ...」

 

「...苦労って、チャンミンに何かあったんですか?」

 

ユノは身を乗り出す。

 

「うーん。

直接本人の口から、聞くのが一番だと思うんだけどなぁ」

 

「いいえ!

俺は『今』、知りたいです!

 

(これこそが、俺の心のしこりの核心に違いない!)

 

ユノはテツの二の腕をぎゅっとつかんだ。

 

「お前、チャンミンとどれくらいになる?」

 

「7か月と10日です!」

 

「まだそれくらいか?」

 

テツは渋る。

 

「チャンミンを好きになって、2年になります!」

 

「うーん」

 

「俺はチャンミンのことが大好きなんです。

どんなことでも、受け止めますよ」

 

テツはユノをじっと見据え、ユノも目をそらさない。

 

「わかったよ。

だがな、チャンミンを問い詰めたりするなよ。

おいおい打ち明けてくれるだろうからな」

 

「はい!」

 

ユノは汗でべとつく手のひらを、ジャージのパンツで拭く。

 

テツが口を開こうとした時、「待ってください!」とユノは大声を出した。

 

「待ってください...もしかして...。

カンタ君は、チャンミンの実の子ってことは...ないですよね?」

 

(カンタ君は騒がしい弟たちの正反対の性格の持ち主で、大人しくのんびりとしている。

きれいな顔をしているし、目のあたりがものすごく似ていた!)

 

テツは、目を丸くしてユノを見た。

 

「チャンミンと関係をもって、カンタ君を産んで...その女の人はカンタ君を置いてどっかへ行ってしまったんです。

そこで、ヒトミさんが代わりに育てているのでは...?」

 

「馬鹿たれ!」

 

テツはユノの頭をはたいた。

 

「いでっ!!!」

 

「なんでそこまで話が飛躍するんだよ!

カンタはヒトミさんのれっきとした、実の子だよ!」

 

「痛いなあ。

俺の頭は負傷してるんですよぉ。

テツさんが、深刻そうな顔をするからですよ」

 

「馬鹿たれ!

にこにこ笑って話せるわけないだろうが!」

 

ユノはたんこぶに直撃した頭をさすりながら、テツの話を聞いた。

 

 

 

 

 

(チャンミンに会いたい!

チャンミンにハグしたくなった!)

 

ユノは立ち上がると、砂がついたお尻をはたいた。

 

「あっ、こらっ!

どこ行くんだ!」

 

「テツさん、ごめん!

緊急事態が起きました」

 

「馬鹿たれ!

準備の途中だぞ!」

 

「2時間後に戻ってきますから!」

 

そう言うと、ユノは駆けていった。

 

 

 


 

 

「チャンミンはどこですか!」

 

縁側で爪を切っていたゲンタは、突然ふってきた大声にびくりとする。

 

玄関からチャンミンを呼んでも応える声がなかったから、どうやら皆はそれぞれの持ち場に散っているようだった。

 

チャンミンの実家は高台にあるため、坂道を駆けてきたユノの顔中、汗まみれだった。

 

「指を切っちまうところだったぞ!」

 

ユノに驚かされて、ゲンタは仏頂面だ。

 

「ゲンタさん、ごめんなさい...はあはあ」

 

ユノはひざに手をついて、荒い息を整える。

 

「チャンミンは...はあはあ、

チャンミンは...どこですか?」

 

「ああん?

チャンミンは、セイコさんと買い物に行ってるよ」

 

「どこですか!!」

 

ゲンタに教えられた先は、車で20分先にあるショッピングセンターだった。

 

「いつ戻ってくるって言ってましたか!!」

 

「知らん!

そんな大声出されるほど、耳は遠くない!!」

 

「そんなぁ。

あ、でも、もうすぐお昼ですよね。

お昼には戻ってきますよね?」

 

「どうだろうなぁ。

台所に握り飯が用意してあったから、

向こうで昼めしを食ってくるかもしれんぞ?」

 

「わかりました!」

 

ユノはゲンタに軽く頭を下げると、踵を返した。

 

(俺は今、チャンミンを抱きしめたくてたまらないんだ!)

 

ユノは神社まで取って引き返す。

 

境内から子どもたちの声が聞こえ、ユノはとっさに身をかがめた。

 

(ふぅ...。

危なかった)

 

今ここでケンタたちに見つかると面倒だ。

 

ユノはわずか1日で、子供たちにべったりと懐かれていた。

 

今朝は、鬼3人に追い掛け回されている途中、隙を見て大人の全速力を発揮して、逃げ出してきたのだ。

 

(逃げるのは俺ひとりで、鬼が10人に増えたら、俺は抜け殻になってしまう!)

 

ぞっとして、ユノは両腕をさすった。

(そんなことより、チャンミンだ!)

 

子どもたちに見つからないよう、手水舎の裏を回って社務所へ向かうと、中で油を売っているテツがいた。

 

「テツさん!」

 

「もう戻ってきたんか?」

 

「いいえ、まだ済んでいません。

テツさん、車を貸してください」

 

「はぁ?

何で車が必要なんだ?」

「いいから!

鍵を渡してください」

 

ユノの剣幕に押されてテツは、

 

「鍵は付いたままだよ。

...おい!

車を持っていかれて、俺はどうするんだ?」

 

「歩いて帰ってください。

いい運動になりますよ」

 

ユノはテツの突き出たお腹に、冷たい目線を送る。

 

「...仕方がないですねぇ。

ここで2~3時間おしゃべりしててください。

後で迎えにきますから。

じゃあ、急いでいるんで!」

 

会釈すると、ユノは駆けていった。

「なんだい、あいつは...

騒がしい奴だな...」

 

 

 

(つづく)

 

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

(5)Hug

 

 

~ユノ~

 

 

チャンミン、ごめんな。

 

チャンミンをからかうのが楽しいんだ。

 

ちょっとやり過ぎたかな?

 

いちいちムキになるチャンミンが可愛いんだ。

 

確かに俺は、チャンミンと比べると若い。

 

チャンミンが、年の差を気にしていることは、十分わかってる。

 

俺がその壁を壊してあげるからな。

 

でもね、俺も年の差を気にしてるんだ。

 

年相応にみられない自分がコンプレックスなんだ。

 

 

 


 

 

朝食後は、翌日の準備にとりかかるため、それぞれが持ち場に向かった。

 

からりとよく晴れ、機材をのせた軽トラックが走り回り、祭り旗を揚げる掛け声が遠くから聞こえる。

 

学校が休みの子供たちは、いつもと違う雰囲気に興奮を隠せず、まとわりついては大人たちの邪魔をしている。

 

チャンミンは母セイコと共に、宴会会場になる広間を掃除していた。

 

ふすまを外して、畳敷きの2部屋をつなげて広々とさせた。

 

縁側の雨戸も開け放ち、空気を入れかえた。

 

「チャンミン」

 

日光にあてるため、座布団を縁側に並べていたチャンミンにセイコが声をかけた。

 

その固い声に、チャンミンは「とうとうきたか」と気を引き締めた。

 

「そこに座りなさい」

 

正座をしたセイコの正面に、チャンミンも座る。

 

(何を言われるか、想像がつく!)

 

緊張のあまり、チャンミンの手の平はすでに汗ばんでいた。

 

「ユノ君とは、どういう関係なの?」

 

(やっぱり母さん、単刀直入にきたか)

 

「単なる『後輩』じゃないでしょ?」

 

「...うん」

 

チャンミンは観念して、あっさり認めることにした。

 

「付き合っているの?」

 

「...うん」

 

「いつから?」

 

「半年くらい前」

 

「彼はいくつなの?」

 

「いくつだっていいじゃないか」

 

「彼といくつ年が違うの?」

 

「母さんには関係ないだろう?」

 

「彼は、学生?」

 

「『後輩』だって言っただろう?

社会人してるって」

 

(まるで尋問みたいだ。

母さんが引っかかってるのは、

僕とユノとの年齢差、それだけなんだ!)

 

予想はしていたが、やっぱりショックだった。

 

『職場の後輩』設定にしておかないと、セイコにつっこまれる要素を増やすだけになるので、実際のところはぼかしておくことにした。

 

ユノはチャンミンの『元教習生』だ。

 

チャンミンが先生でユノが生徒だった。

 

ユノが若すぎることに加えて、教え子に手を出したと誤解されてしまうと、頭の固いセイコの拒絶反応を煽ってしまう。

 

実際のところ、ユノと個人的な連絡を交わすようになったのは、彼が卒業してから。

 

正式に交際するようになったのは、それからずっと後のことだ。

 

あと一歩のところで奥手な2人だったから、交際半年になっても軽いキスを交わしただけの関係だ。

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

「いい年して、若い子に手を出して...」

 

母さんの言葉に、僕の全身がカッと熱くなった。

 

一番言われたくない台詞だった。

 

「そんな言い方...ひどい!」

 

たまらず大声を出した。

 

「その通りでしょう?」

 

僕の目に涙がふくらんできたのが分かる。

 

「若い子にのぼせて...。

母さんは、チャンミンに泣いてほしくないだけよ」

 

「......」

 

「男の子を連れてきたことを、責めてはいないからね。

そこは誤解しなくていいからね」

 

僕の恋愛対象が女性じゃなく男性であることを、僕は10代の頃から家族には隠さなかった。

 

僕の家族は最初は驚いていたけれど、どうってことない風を貫き通してくれた。

 

事情を知らない親戚や知人が、お節介に女の子を紹介してくることもあったけど、父さんや母さんがシャットアウトしてくれていた。

 

実際は複雑な心境だったと思う。

 

僕は泣き虫なところがあって、失恋の涙を家族に見せたことも1度や2度の話じゃない。

 

僕の性的嗜好がご近所や親せきに知られるようになってからは、家族は嫌な思いをしたこともあっただろうに。

 

分かってる...お母さんが咎めているのは、ユノの年齢だってことは。

 

「チャンミン...悪い言い方をして悪かったね。

母さんはチャンミンが心配なんだよ。

あんなことがあったでしょ?」

 

「......」

 

「ユノ君は、知ってるの?」

 

僕は首を振る。

 

「知られたら、ユノ君に逃げられると、思ってるの?」

 

「そんなんじゃないもん。

ユノは...っ...そんな人じゃないもん」

 

しゃくりあげる僕をしばらく見つめていた母さんは、僕の背中をなぜた。

 

「ユノ君が、ちゃんとした人だってことは、ちゃんと分かってるよ。

少し心配だっただけよ。

母さんの言い方が悪かったね」

 

母さんは立ち上がると、首にかけていたタオルで僕の涙をぬぐった。

 

「さあさあ、10時のお茶にしようかね。

皆を呼んでおいで」

 

 

僕は大きく頷いた。

 

 

 

 

気持ちをストレートに表現するユノだけど、実は相当な照れ屋さんだ。

 

人付き合いが得意な質だけど、いきなり彼氏の実家に連れてこられて、彼なりに緊張して、明るく人懐っこくふるまっているに違いない。

 

ごめんね、ユノ。

 

「彼氏です」って紹介してあげられなくて。

 

ユノのことが恥ずかしかったわけじゃないんだ。

 

自分が恥ずかしかった。

 

ユノと2人きりのときは全然意識していないのに、いざ第三者の目を意識すると、自分が恥ずかしくてたまらない。

 

自分ってば、まだまだだね。

 

ユノの邪気のない澄んだ目に映る自分が、少しでも彼にふさわしい姿でいてあげたい。

 

ユノは賢いから、僕が教えてあげられることは何もないよね。

 

少しでも若く、カッコよくいられるように努力するからね。

 

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]