(40)虹色★病棟

 

素手で触れるには、そこは相当な抵抗感はあるはずだ。

 

手や背中に触れるのとはわけが違うのだ。

 

心置きなく素肌と素肌を重ね合わせることを、慌てたらいけない。

 

僕のお相手は極めて綺麗な男で、かつ普通じゃない傾向を持った男なのだ。

 

ユノの手は僕の背筋を上下に往復するだけだったから、抵抗があるんだろうなぁと推測したんだ。

 

「手袋...する?」

 

ユノから身体を離し、手袋を取りに温室を出ようとしたら...。

 

「その必要はないよ」

 

ユノは首を振っているけれど、僕を傷つけまいと無理をさせたくない。

 

「僕もするから、ね?」と言った。

 

互いに手袋をするのは、躊躇なく僕に触れて欲しいから。

 

「...イヤなのか?」

 

ユノの固い声に「違う違う!」と、きっぱり否定した。

 

「『ユノが』じゃなくて、『僕が』汚いかもしれない、っていう意味だよ」

 

「僕が」の「が」を力強く発音した。

 

ユノは周囲のばい菌を恐れる以上に、周囲を汚してしまうことに神経を払って生活している。

 

ユノと恋人同士でいるためには、僕も神経を払わないといけない。

 

気が早い僕はもう、ユノと付き合っている気分でいた。

 

「好きな気持ちを交換したばかりで、恋人同士になったとは言えない。

 

でも、今夜の僕らはこれから裸になって抱きあおうとしているのだ。

 

よりによって、LOSTで。

 

いいのかなぁ。

 

背徳感が僕らの興奮を加速させていた。

 

互いのものがユノのパジャマの、それから僕のワンピースの生地を押し上げていた。

 

さすがにコンドームは手に入らない。

 

スタッフステーションの注文用紙に『コンドーム1箱』と書くわけにはいかない。

 

なぜって、不要だからだ。

 

僕に強く勧められ、渋々ユノは手袋をはめてくれた。

 

次いで、僕にもはめてくれた。

 

僕の手は緊張と興奮の汗で湿っており、手袋をはめるのにてこずっていた。

 

伸縮性ある被膜が、指先から順に包み込んでゆく。

 

丁寧にはめてゆくさまが、まるで僕の指がアレにように感じられた。

 

薄い皮膜がぴっちり張り付いた指1本1本が色っぽかった。

 

「はあ...」

 

思わず甘い吐息を漏らす。

 

ワンピースの裾の下から、ユノの手がするりと滑り込んできた。

 

「...っ...」

 

身をすくめてしまった僕に、「大丈夫、俺に任せて」と耳元で囁かれた。

 

怖い。

 

僕が受け入れる側だなんて...初めてなんだ。

 

自分の指の経験はあるけれど、自分以外のモノが僕の中に侵入するなんて。

 

深呼吸を繰り返して、ユノの指が這ってゆく皮膚に意識を集中させた。

 

「...あぁ...」

 

全身の力が徐々に抜けてゆく。

 

興奮で体温が上がったことで、ユノの香りがふわりと鼻腔をかすめた。

 

初めて嗅いだユノの有機的な香りだった。

 

ユノに気づかれないように、すぅっと鼻で空気を吸い込んだ。

 

これからの動物的な行為を前に、石鹸と消毒薬で清められていた肌が生気を帯びはじめる。

 

つるつるした指でお尻を撫ぜあげられるたび、ぞくりぞくりと下腹が痺れた。

 

僕はユノの肩に頭をもたせかけ、3年以上ぶりの喘ぎ声の甘さが新鮮だった。

 

「しーっ」

「ごめん」

 

就寝時間後のフロアは空調の音がするのみ。

 

スタッフの見回りの時間にはまだ間があるけれど、怪しい人声はドアの隙間から容易に漏れるだろう。

 

僕はもともと、喘ぎ声が大きいのだ。

 

僕のお尻で遊んでいたユノの指が、いよいよ下着の下に忍んできた時、彼の指がぴたりと止まった。

 

女性ものの下着が気になるのだろう。

 

「......」

 

僕は息を止めて、じぃっとしていた。

 

ユノも何も言わなかった。

 

しばらくして、ユノの指が再び動き始め、僕はほぅっと息を吐いた。

 

当然だけど、ここに潤いを足すものはない。

 

ユノはワンピースの下から手を引き抜くと、その指を舐めた。

 

「...っ」

 

「チャンミンも...足して」

 

差し出された中指を咥え、たっぷり唾液をからませた。

 

ユノのものも僕のものも、混ざり合ってしまえば、ほら、汚くならない。

 

 

(つづく)

(39)虹色★病棟

 

半裸で外に出るわけにいかないのでパジャマを羽織り、慌てたせいで1段ずらしでボタンをかけてしまっていた。

 

ユノに背中をつつかれてはじめてそのドジに気づき、僕は照れ笑いをした。

 

ユノは手袋とマスクを装着し直した。

 

とんとん拍子に、急速に、願った通りの展開になった。

 

ユノから向けられる好意を手放しで喜べない背景は確かにあるけれど、今夜の僕は忘れていたい。

 

後戻りできないところまで、今夜中に進みたかった。

 

なぜなら僕らには、曖昧な関係性を楽しむだけの時間的余裕がない。

 

今の僕らは冷静を欠いている。

 

勢い任せで、どこまで進められるかを確かめたいのだ。

 

ユノの洗濯ものは残したまま、僕らは洗濯室を出た。

 

夜勤のスタッフは仮眠中なのか、無人のステーションの前を早歩きで通り過ぎた。

 

ユノの部屋へ行く前に、僕は「一度部屋に寄ってもいい?」とお願いをした。

 

何を用意するものがあるのだろう?と、ユノは内心首を傾げていただろう。

 

僕はワンピースを着なくてはならないのだ。

 

 

思いがけないタイミングで訪れたこのチャンス。

 

「何にしよう...」

 

扉を開け放ったクローゼットの前で、僕は目を閉じた。

 

これで何度目になるのか、ファスナーを引き下ろされる時を想像し、足元にぱさりと落ちる瞬間を想像した。

 

その映像は常に無音でスローモーション、鮮やかなのにくすんだレトロな色合いなのだ。

 

うっとりしかけて、ハッと意識を現在に戻した。

 

夜明けまで数時間はあるけれど、ユノをひとりにしておけない。

 

我に返って、僕とどうこうしてしまうことに躊躇してもらっては困るからだ。

 

薄闇の中で行われるだろう営みだ、色合いよりも肌触りを重視しよう。

 

僕が手に取ったのは、古い映画に出てくる淑女が着ていそうなワンピースだった。

 

深みのある紫色で、とろみのある生地感、衿と袖口は白い。

 

 

苦労してファスナーを上げ、共布のベルトでウエストを引き絞った。

 

巡回に来たスタッフ対策として、駆け布団の下に筒状に丸めた毛布を仕込んでおいた。

 

「これで、よし...と」

 

ドアの隙間から廊下の様子をうかがって、誰もいないことを確認してから部屋を出た。

 

ワンピースにふわもこファーのスリッパはミスマッチ、どうせすぐに脱いでしまうから構わないのだ。

 

こつこつ。

 

耳をすましていないと聴き取れないほどささやかなノック音。

 

ドアを開けると、室内に充満した消毒薬の香りでむせかえりそうになった。

 

照明は枕元灯だけだった。

 

ユノはベッドに腰掛けて待っていた。

 

マスクも手袋もしていなかった。

 

ユノに酷い無理を強いているのでは、と小さな罪悪感に襲われた。

 

アクリル製の透明な壁と、出入口は透明ビニールシート...一か月前、僕も手伝って製作した室内温室だ。

 

ワンピースを身にまとった僕の姿を認めると、ユノの目はわずかに拡大した。

 

 

ユノの片手は僕の頬に添えられた。

 

洗濯室で一時中断させたアレへの流れは、キスから再開だ。

 

読書灯の灯りがユノの顔の半分を照らしていた。

 

ユノの顔面の造形美を、灯りで作る濃い陰が表現していた。

 

次に唇を重ね合わす。

 

塞いだ唇の下で、互いの舌先を触れ合わせた。

 

「んっ...んっ...」

 

キスは次第に熱を帯びる。

 

スカートの中へと侵入したユノの手は、まずは僕のお尻をがしっと掴んだ。

 

「!」

 

「運動不足の尻をしている」

 

そうつぶやくと、ユノはふふふっと笑った。

 

「仕方がないよ」

 

おあいこに、僕もユノのお尻をがしっと掴んでやった。

 

すごい...弾力抜群、ルックス最高、美味しそうなお尻だった。

もっと触りたくて、パジャマのズボンの中に手を突っ込もうとしたところ、その手首はユノに捕らわれてしまった。

 

「大人しくしてて。

触るのは俺の方だから」

 

「...いいけど」

 

僕は大人しく従い、ユノの肩にもたれかかった。

 

お尻から前へと移動していたユノの指が、ぴたりと止まった。

 

下着のデザインがボクサーパンツ型じゃなくて、ビキニ型だと分かったんだね。

 

おへその下の辺りを触ってみて、リボンがあるでしょう?

 

足ぐりはレースになっているんだよ?

 

ビキニパンツどころか、僕が今穿いているのはパンティなんだよ。

 

女性もののショーツに身を包んだ僕を、ユノはどう思うかな。

 

気持ち悪い?

 

そうだよね。

 

嫌われるかもしれないドキドキと、見てもらいたいドキドキ。

 

触って確かめなくても、ショーツの一点がじゅくりと濡れているのが分かっていた。

 

僕のものは鼠径部に沿って天を向き、小さな生地の中で窮屈そうにしているだろう。

 

わずかにずらせば、足ぐりから頭が出てしまそうだった。

 

ユノの片手は迷っていた。

 

僕に触れられるか否か、迷っていた。

 

素手だ。

 

今、手袋をはめたら僕を傷つけてしまう。

 

僕にはありありと、その迷いが伝わってきた。

 

「いいよ。

手袋。

はめて」

 

僕から勧めてあげれば解決する。

 

ユノと交際するとは、こういうことなんだ。

 

 

(つづく)

(38)虹色★病棟

 

 

濯ぎ段階の洗濯機の丸窓を、水しぶきが一定リズムで叩いている。

 

あと15分は止まらない。

 

「......」

 

方向性について、僕らの間で話はついたのだけど、さてこれからどうしようか?

 

ユノはもじもじと僕のパジャマのボタンをいじっていて、僕は彼の髪を一筋ひとすじ梳いていた。

 

「......」

 

僕らの身体は十分に温まっていて、欲情に突き動かされるまま、この場で始めてしまってもよかった。

 

キスをした、気持ちは確かめ合った、アイドリング十分のはず。

 

でも、場所が悪いし、僕のポジションがあっちじゃなくてそっちになったことが予定外で、一呼吸とりたくなった。

 

大急ぎで話題を探した結果、

 

「彼とは結婚何年だったの?」

 

ユノにまたがった状態では相応しくない内容...彼の過去の恋を尋ねてしまう僕とは!

 

「んーっと...2年かな」

 

「式は?」

 

僕の唐突な質問に、ユノはどうってことない風に答えてくれる。

 

「式は挙げなかったんだ。

入籍する前から一緒に暮らしていたから」

 

「そうなんだ」

 

僕はユノの頭を抱きしめた。

 

心身のガードが一度外れると、僕は途端に甘えん坊になる。

 

こっぱずかしくて他所さまにはとても見せられない、聞かせられない。

 

マイナス距離となった今、僕は調子にのっていた。

 

我慢と遠慮をしてきた分、ユノに触れたくて仕方がないのだ。

 

「チャンミンっ...重い」

 

のしかかった僕を引きはがすと、ユノは驚く行動をとった。

 

「!」

 

ユノは手袋の履き口を咥えると、するんとそれを脱いでしまったのだ。

 

床にぺしゃりと落ちた手袋は、脱皮した殻みたいに見えた。

 

「え...?」

 

唖然とする僕に構わず、裸になったその手は僕のパジャマの中にするり、と滑り込んだ。

 

「ひゃっ...」

 

僕のすくんで丸まった背中が、ユノの手が肩から腰へと撫でおろされたことで、今度は反りかえった。

 

撫ぜられているうちに気持ちがよくなってきた。

 

うな垂れた先のユノの首筋を、喘ぎじみた息で湿らせた。

 

「手...平気なの?」

 

「んー?」

 

「後で洗わないとね」

 

「ふっ...そうだな」

 

「無理しなくていいよ」

 

「無理させてよ」

 

「後で熱がでるかもよ?」

 

「出たら看病してくれる?」

 

「そんなにキツいんだ!?

ねえ...気になって集中できない」

 

「ごめんごめん、無理していないよ。

触りたいから触ってる」

 

ユノの言葉が嬉しくて、もう一度彼の頭を胸に抱きしめた。

 

「どうして結婚式を挙げなかったの?」

 

「向こうが嫌がったんだ。

俺たちはいろいろ訳ありでね。

駆け落ちみたいな関係だったんだ」

 

「駆け落ちかぁ...。

情熱的だったんだね」

 

「なんとしてでも一緒になろう、という時は、お互いしか見えていない。

情熱的であればあるほど、周囲の人を傷つける」

 

「傷つける...?」

 

「チャンミンは逆の立場だったろう?

婚約者が出て行ってしまって。

ある恋を成立させるには、別の恋が破綻する

つまり、褒められた仲ではなかった、ってことだ」

 

「ああ...そういうことね。

それって、ユノの方が?

それとも、彼が?」

 

「大袈裟に言うと、二人とも罪深い。

略奪愛だね、いわゆる」

 

「あ、そう...」

 

ユノの過去を知って、嫉妬は起きなかったのか?

 

ユノと彼が一緒に暮らしていたと想像すると、焼け付くように胸は痛むけれど、僕にとっての彼は匿名性の高い人物だった。

 

顔を見たことがないからだ。

 

ユノと結婚していた人かぁ...。

 

彼の過去も含めて好き、だなんてとても言えない(言える人って少ないと思う)

 

そうか、LOSTに居るからだ。

 

ここは過去から隔絶された世界だから。

 

「出逢ってどれくらいだったの?」

 

「トータル4年くらいだよ」

 

「そっか...そうなんだ」

 

過去の恋愛を告白しながらの愛撫とは、とてもエロティックだ。

 

パジャマはたくしあげられ、その下にユノはもぐり込んだ。

 

「んはっ...!」

 

焦らすことなく、いきなりそこを吸われて僕の身体は魚みたいに跳ねた。

 

パジャマの裾がずり落ちて、その都度ユノはめくりあげてと、うっとおしそうだった。

 

だから僕はパジャマを脱ごうと、みずからボタンを外した。

 

その動作のひとつひとつを、生地をつまむ指先まで神経を行き届かせた。

 

女の人がランジェリーを取る時みたいに。

 

ユノの眼に色っぽく映るよう、知っている限りの色気をだしてみたんだけど、どうかな?

 

パジャマは肩から床へと滑り落ちた。

 

夜の洗濯室は涼しい。

 

目の前に露わになった僕の胸を、ユノは広げた手で揉むように撫ぜた。

 

「チャンミンのここ、小さくて可愛いね」

 

「えっ!?」

 

『小さい』の言葉の意味を一瞬、勘違をしてしまった。

 

婚約者に僕のアソコは「小さくて可愛い」と、言われたことがあったからだ。

 

(なんだ...こっちの方か)

 

上目遣いになったユノは、僕の乳首をなぶりながら、僕の表情を確かめている。

 

「...あ、は...んん」

 

尖った乳首を、とき解そうとペロペロ緩く舐めている。

 

舐められるほどに、より硬く縮こまっていくことに羞恥している僕の姿は、ユノを煽っている。

 

「...や...はぁ」

 

「チャンミン...声がエロい」

 

「だって...」

 

「ここ」と、ユノは僕の右乳首を摘まんで引っ張った。

 

「あああぁんっ!」

 

「ほら、感じすぎ。

婚約者が開発したのか?

それとも、自分で?」

 

「そ、それは...っんん」

 

「こんな風にいじられてたんだ?」

 

「りょ、両方...」

 

「妬けるね」

 

前が苦しい。

 

後ろも苦しい。

 

心臓がもうひとつあるみたいに、ズクズク脈打っている。

 

ユノと向かい合わせに跨って、僕の前はお互いの下腹に挟まれ、ユノのものは僕の真下を押し上げている。

 

苦しい...股間を開放したい。

 

でも、ここじゃ駄目。

 

「俺の部屋に...来る?」

 

僕は頷くと、ユノの上から下りた。

 

(つづく)

 

(37)虹色★病棟

 

気持ちが盛り上がってきた僕らだ、さっきの確認の質問はあってもおかしくなかった。

 

いざベッドインした時、二人とも『受け』だったり、二人とも『攻め』だったりしたら、ちょっと困るから。

 

「ユノは?」

 

なんとなく...なんとなくだけど、ユノは組み敷かれる方かなぁ、って(僕の経験はお粗末なものだけど、予想してみた)

 

ユノは僕よりもずっと男らしいタイプで、そのイメージ通りにいくと挿入する側だ。

 

でも、人というのは見た目通りなことよりも、「見た目と違って...」と言うことの方が多いと思う。

 

ユノの場合、マッチョな男らしさというより、男装の麗人的な雰囲気を同居させている。

 

「男らしいのに実は...」な部分と、「女性的な見た目も有している」の2つから導き出せれた答え...ユノは『受け』ではないか、と。

 

男の下で喘ぐユノの姿を想像して興奮してしまった僕は、ひとりこっそりと自室で前を刺激せずにはいられなかったんだ(ユノには内緒)

 

(ちなみに、僕はゲイだとカミングアウトすると『あ~、分かる気がする』とよく言われる。なぜだろう?)

 

「俺?

どっちだと思う?」

 

ユノはいたずらっ子な笑顔になった。

 

普段はマスクで覆われている口元も笑っていて、僕の嬉しさは倍増だ。

 

「え~?

どっちだろう?」

 

僕は分からないふりをして、僕らの唾液で濡れたユノの下唇を人差し指でなぞった。

 

ふざけたユノに指を齧られそうになる前に、指を引っ込める、引っ込めたけど、わざとユノに捕まった。

 

(ユノ...凄いよ、僕の指を咥えているんだよ?

反動で寝込んだりしないでね)

 

「イメージ通りだよ」

 

ユノは下唇をもてあそぶ僕の手を包み込み、動きを封じた。

 

「...ということは?」

 

ことがシンプルに運んでほっとしたところ、

(僕のイメージからゆくと...ユノはあっちで、でも、イメージ通りにはいかないだろうから、そっちじゃないかと予想してて...。

結局、どちらなんだろう?

分からなくなってきたぞ)

 

ユノは僕のうなじを引き落とし、僕の耳まるごと咥えた。

 

(ユノ...すごい!

いいのかな、いいのかな?

お風呂で綺麗にしてあるから大丈夫だよね?

僕の耳を舐めちゃって、いいのかな?)

 

「あ...あは...」

 

ユノの口内に僕の耳は包み込まれ、ゴウゴウいう音がうるさい。

 

ダイレクトに耳の穴に息を吹きかけられ、その度に全身の力が抜ける。

 

耳の窪みをひとつ残らず舐め終えたユノは、僕を再び驚かせた。

 

「!!」

 

お尻の割れ目をユノの指先が上下になぞり出したのだ。

 

「くすぐったい...!

駄目だよ、ユノ!」

 

ユノの太ももの上から逃れようと身動ぎしても、ユノにお尻をがっちりと抱え込まれていて無理だった。

 

「チャンミンはこちらの方が似合う」

 

「え!?」

 

「相手が俺ならば、チャンミンはこっちだ」

 

「......」

 

「こっちの方が気持ちいい思いができるぞ」

 

「え~っと...それは、どういう...意味なのかな...?」

 

「チャンミンは心のどこかで、俺に抱かれたいと望んでいたはずだ。

そうじゃなくても、気付いていないだけの話だよ。

チャンミン。

お前は俺に抱かれる側だ」

 

「えええぇぇ!?」

 

ユノの堂々とした言い方といったら!

 

「そうなんだよ。

チャンミンをこうやって...」

 

ユノは僕を抱き直した。

 

「抱っこしてみて、確信したよ。

俺はチャンミンを抱きたい。

チャンミンも...俺に挿れられたいと思っているはずだ」

 

「どうしてそんなこと分かるんだよ?」

 

「なんとなく、そう思ったんだ。

チャンミンは相手が持つ雰囲気に敏感で、一緒にいる奴と共感しやすい人間だ。

俺も相性を大事にするタイプだ。

相性が合わない奴の身体なんぞ、触りたくもない」

 

ユノは眉間にしわを寄せ、唇を歪めた。

 

「ユノは...根っからの...そっち?」

 

「ああ。

俺は好きな奴を抱きたい男だ。

好きな奴の中で果てたい。

好きな奴を気持ちよくさせたい」

 

(どきどき)

 

「そうは言っても、俺の侵入を許してくれる人なんて...。

裸で抱きあえる奴なんて滅多にいないよ。

生涯では一人だけかな...今のところ」

 

「うそ!?

ユノみたいなら...」と言いかけて、ハッとする。

 

ユノの見た目なら男に不自由しない。

 

でも、ユノと裸で抱きあう資格を持つ者はそうそういない。

 

だってユノは潔癖症。

 

ユノはそのたった一人を失ったのか...そうなのか。

 

ユノの指は僕の溝をなぞっているだけだ。

 

その溝の奥は熱を帯び、もっと奥はうねりながら、触れてもらいたがっている。

 

「こっちの経験は?」

 

ユノは僕のお尻をぺんぺん、と叩いた。

 

「...ない...けど...。

ないけど...ある」

 

「どういう意味だ?」

 

「婚約者とする時は、彼が受けだったから僕はそれに合わせてただけなんだ。

どっちがいいなんて、僕の経験人数じゃ分からない。

ヤッたことがあるのは、一人っきりなんだ」

 

「へえ~」

 

「『ある』と答えたのは、ワンピースを着てみるようになった頃から、自分でするようになった」

 

このカミングアウトも、もの凄く恥ずかしい。

 

「男の人に、そういう風にされたいって、思うようになったんだ。

見よう見まねで...彼にやってたことを、自分のお尻でやってみただけで...」

 

「じゃあ、自分で開発してたんだ?」

 

「...そういうことに、なるね。

『開発』かぁ...言い方がエッチだね」

 

「意見は一致したな」

 

「でも、本番はしたことないんだよ?」

 

「俺に任せていればいい」

 

「...わかった」

 

思いもよらない流れになってしまったけれど、ワンピースを脱がされる夢が叶うのだ。

 

...それも、ユノの手で。

 

 

(つづく)

 

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(36)虹色★病棟

 

ユノの質問の意味が理解できるなり、僕は吹き出した。

 

「ユノこそ、はっきり宣言してよ。

ユノの結婚相手は男だったんでしょ?

ユノも僕と同類なんでしょ?

どうして隠してたの?」

 

僕はユノの膝の上に跨っていて、ユノの両手は僕のお尻に添えられていた。

 

「いっぺんにいくつも質問するなよなぁ。

ああ、そうだよ。

俺もゲイだ。

『なぜ、最初からオープンにしていなかったか?』の理由は単純だ。

出逢いを求めてLOSTに来たわけじゃないんだから、俺の嗜好を敢えて知らせる必要はないだろう?

たまたま、男が好きな奴と遭遇してしまって...つまりチャンミン、お前だ...やたら俺に懐いてくるし、面倒くさいことになりたくないなぁって。

だから、黙っておいた」

 

「嘘...やっぱり、うっとおしかった?」

 

ユノと関わりたくて、入所初日に彼の部屋を押しかけたことを思い出した。

 

これまでしたことはなかったけれど、「もし逆の立場だったら?」と想像してみたら、とても鬱陶しい行為していたとあらためて知る。

 

「最初のうちはね。

彼のことを思い出そうとすると、ドアがノックされる。

泣こうにも、俺のテリトリーの中でひらひらした恰好をしているし。

俺はドキドキさ」

 

「なんか、ごめん...」

 

「いいさ。

チャンミンの食い気味の態度にびびっていたこともある。

チャンミンが自らカミングアウトした時、俺の気持ちはどっちつかずだった。

『ちょっと待てよ、お前はLOSTにいる目的を見失っていないか?

死んだ奴のことはもういいのか?』と何度も自答していたんだ」

 

「僕もそのことばかり考えていた」

 

「単なる好意でとどめておいた方がいいのか、それとも踏み込んでもいいものか。

チャンミンが俺に近づいたのは、たまたまなのか、実は駄々洩れだったゲイの空気を嗅ぎ取って、真の意味の下心だったのか。

ゲイだと宣言した時点で、俺たちは止められないだろう、と」

 

「『俺たち』?」

 

「そう。

俺とチャンミンは、その気になったら凄いことなりそうだ。

...なんだ、その顔は?」

 

「凄いって...凄い...って」

 

僕の脳裏に、とてもいけないことをしている僕らの光景が浮かんだ。

 

(ごくり)

 

「まさか変なこと想像していないよな?

凄いことってのは、恋愛に溺れそうなタイプだってところだよ。

エロいことじゃないぞ?」

 

「...なあんだ」

 

「俺はお前が好きだ。

お前も俺のこと...勘違いじゃなければ...?」

 

「うん。

勘違いじゃない。

ユノの言うとおりだよ」

 

僕の胸のあたりにユノの顔があった。

 

僕らは接近している。

 

「ユノが言いたいのは、もし僕らがその気になったら、とても情熱的になるっていうことだよね?

そんな気がするんでしょ?

うん、僕もそう思う」

 

LOSTは恋愛を失った者が、その思いを徹底的に失うための場所だ。

 

何か得るための場所ではない。

 

退所間際だった僕は、暇つぶしに新人の顔を真っ先に見たくて、出迎えてみただけだ。

 

ところが、ユノの魅力に撃ち抜かれた。

 

ゴーグルにマスク姿と、奇妙ないでだちだったにも関わらず。

 

他人からの物理的な接近を好まないユノの方も、僕のアプローチを拒まなかった。

 

「あ...」

 

僕は吐息を漏らし、うなじに鳥肌がたった。

 

自分でビックリしてしまうほどの、甘い声だった。

 

ユノが僕の後ろ髪に、片手の指をもぐりこませたからだ。

 

ハグなんてお子様レベル、ディープなキスでも足りない。

 

早くて今夜、もしくは明日、僕らは深いところで繋がり合う。

 

予感どころか、決定事項だった。

 

僕のお尻は弾力があるのに固いものを感じ取っていた。

 

僕の前も、パジャマの生地を押し上げている。

 

ところが場所が悪い。

 

ここは愛を育み、何かを繋げ合うところじゃないのだ。

 

さらに、後ろもウズウズしてきた。

 

なんだろ、この感覚。

 

ユノといるよ、なぜかこの感覚をここで覚えるのだ。

 

「ワンピースを『脱がせる側』がいかにも攻めっぽいイメージなんでしょ」

 

「で、どうなんだ?」

 

「気になるの?」

 

「ああ」

 

「どうして?」

 

「......」

 

「僕がどっちだったかを知って...ユノはどうするの?」

 

ぐっと空気を飲み込んで、固まってしまったユノが可哀想で、これ以上からかうのは止めにした。

 

「そのままのイメージ通りさ」

 

ユノの切れ長の目がわずかに丸くなった。

 

「...じゃあ?」

 

「うん。

僕は『攻め』だ」

 

 

(つづく)

 

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