(10)あなたのものになりたい

 

 

 

~チャンミン~

 

 

お兄さんの指に導かれて、僕はイってしまった。

 

張り詰めた前に指一本触れられることなく、イってしまった。

 

その場に崩れ落ちそうになるのを、とっさに伸ばされたお兄さんんの腕で支えられた。

 

太くて逞しい腕に腰を抱かれただけで、僕の身体はびくびく震える。

 

僕の肌という肌は、全身粘膜になったかのように敏感になっていたから。

 

お兄さんの胸に頬をくっつけて、彼の鼓動の早さに嬉しくなった。

 

「...お兄さん」

 

僕の汗がお兄さんのTシャツに沁み込んでいく。

 

お兄さんの背中に回した両腕いっぱいに、彼の体温と背中を形作る背筋と骨を味わった。

 

僕の呼吸が整った頃、お兄さんは僕を真っ直ぐ立ち上がらせて、こう言った。

 

「...チャンミン。

洋服を着ようか?

このままじゃ風邪をひく」

 

僕はぶんぶん首を振った。

 

「やだ。

服は着ない。

このままがいい」

 

僕は裸に慣れている...何年も何年もそうだったから、寒くもなんともないのだ。

 

それから、恥ずかしくもなんともない...裸を見られることが仕事だったから。

 

お兄さんは、「はあぁ」とため息をついた。

 

困った風を見せても、僕はびくともしない。

 

お兄さんの背中を抱く腕に力を込めた。

 

「俺が落ち着かないんだ。

俺のために、着てくれる?」

 

お兄さんの両腕は宙に浮いたままで、しがむつく僕の背を抱きしめてくれないのだ。

 

僕は駄々っ子になっていた。

 

お兄さんの指は素晴らしかった。

 

やみくもにかき回すことなく、僕の快楽スポットをすぐさま見つけ出してしまった。

 

かつての客たちは、やみくもに出し入れするしか能がない。

 

僕が感じているかどうかなんて、どうでもいいのだ。

 

自分だけが気持ちよくなればいいのだ。

 

そんな客ばかりだったのが、お兄さんは違った。

 

お兄さんが客として僕を買い、客として僕を抱いたあの夜のことだ。

 

前戯なしで始まった行為だったけど、お兄さんは僕の後ろの具合を確かめた上での行為だった。

 

2本3本と増やしていった指。

 

お兄さんの長い指でも到達できないそこを、刺激して欲しい。

 

きっと、お兄さんのものなら届くだろう。

 

お兄さんの指で念入りに、強引そうで優しく攻められ、僕は我を失った。

 

快感のあまりよだれを垂らした僕は、お兄さんの前を握る余裕がなかった。

 

でも、果てて抱きついた時、僕の前とお兄さんの膨らみが重なった。

 

よかった、と思った。

 

そして、指だけじゃ足りない、と思った。

 

その欲求不満が、「服は着ない」と僕を駄々っ子にさせたのだ。

 

「下着だけでもいいから付けろ」

 

「やだ。

このままでいる!」

 

「はあ...」と、お兄さんはもう一度ため息をついた。

 

お兄さんは辛抱強い。

 

「わかったよ」

 

お兄さんは、さらにもう一度ため息をついた。

 

「そのままでいなさい。

チャンミンは好きなように、したいようにしなさい」

 

そう言って、僕の後頭部の髪をくしゃくしゃにした。

 

「...え...でも」

 

「ソーダ―で割ってあげるから、あのお酒を一緒に飲もうか」

 

僕の腕からすり抜けて、お兄さんはキッチンに行ってしまった。

 

僕は途端に不安になってしまって、くしゃりと床に落ちていた下着をとった。

 

「チャンミンは未成年じゃないよね?」

 

「はい...多分」

 

成人しているのは確かだ...でも、本当の年齢なんて分からなかった。

 

大きなグラスとソーダ―水のボトルを持って、お兄さんが戻ってきた。

 

「おいで」

 

手招きされて、僕は素直にお兄さんの隣に座った。

 

イチゴを漬け込んだリキュールをグラスにとろりと落とし、ソーダ―水を注ぐ。

 

しゅわしゅわと泡が弾ける綺麗なピンク色。

 

芯まで透明な氷。

 

指先を濡らすグラス表面に浮いた水滴。

 

冷たく甘い液体が、さっきまでの興奮で乾いた喉をすべり落ちる。

 

細かな泡が僕の舌と喉を刺激する。

 

「おいしい...」

 

「おかしいなぁ?

裸でいるんじゃなかったっけ?」

 

下着をつけた僕の姿に、まるで今気づいたみたいにお兄さんは言った。

 

「寒かった...からです」

 

ぼそっとつぶやいて、僕はピンクのお酒の残りを飲んだ。

 

「ずっと裸でいてもいいんだぞ?」

 

「...僕は、大人の男です」

 

「そうだね。

チャンミンは大人の男だ」

 

お兄さんはさすがだ。

 

僕はお兄さんを困らせたくないんだもの。

 

 

(つづく)

 

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(9)あなたのものになりたい

 

~ユノ~

 

俺の自制とは頼りないものだったんだな。

 

チャンミンによって導かれた指は、彼の谷間に埋められてゆく。

 

俺の背にチャンミンの両腕がまわり、肩に頬を摺り寄せた。

 

指先が到達したそこは、湯上りの火照りと興奮で、熱く湿り気を帯びていた。

 

いいのだろうか。

 

流れにのって、この指をより深い穴へと埋めていってもいいのだろうか。

 

「...お兄さん。

挿れて...奥に...」

 

囁くようなかすれ声、俺の薄いTシャツ越しに熱い吐息がかかる。

 

俺の迷いを見通したのか、

 

「はあぁ...」

 

そのため息は甘美なものなのに、局部を触れられて、安堵しているかのように聞こえた。

 

よかった...念願叶った、というように。

 

チャンミンはこうされたかったのだろう。

 

俺はチャンミンのために、一か月くらいの期間に過ぎないが、出来る限りのことをしてきたつもりだ。

 

快適な衣食住を用意したのは、感謝の言葉や見返りが欲しいわけじゃない。

 

誰かのために心を尽くすこと...初めてだった。

 

俺のやり方はきっと、的外れだったり、不足していたことも、もしくは過剰だったりもしただろう。

 

でも、俺なりにチャンミンには、何ひとつ不自由のない生活を贈りたかっただけだ。

 

暮らしの過程で、見聞を広め、面白いなぁ、好きだなぁ、幸せだなぁ、と思えることを増やして欲しかった。

 

どんなにささいなことでも、そのひとつひとつに、顔のパーツ全部を使って驚いたり、笑ったりするチャンミンの姿にどれだけ癒されたことか。

 

チャンミンを側に置いているのは、結果的に俺自身のためで、可愛そうな元『犬』を庇護している征服感を得たかったんだろうな。

 

要するに、自己満足を得たいがための施しだ。

 

そんなつもりはなくても、チャンミンは『施し』の匂いを嗅ぎ取っていたのかもしれない。

 

...そんなつもりはなかったんだけどな。

 

俺はチャンミンと同じステージに立っていなかったのだろう。

 

日々の何気ない言葉や行動から、『大事にされている』実感を得にくい者だったとしても、俺がそんな風じゃチャンミンが不安に感じて当然だ。

 

チャンミンは愛玩犬じゃない、人格と個性、思考をもったひとりの成人男性。

 

『俺はチャンミンを買ったわけじゃない』ことを証明しようと、性的な接触を避けてきた。

 

自制してきた。

 

『犬』であった過去から全く抜け出せていないチャンミンを、そこから脱却させるには、見守るだけじゃ足りない。

 

ひとりの人間として...男として対面しないと。

 

俺がしたかったこと。

 

俺が欲しいもの。

 

チャンミンが欲しがっているもの。

 

 

 

 

チャンミンは俺の指を口に含むと、唾液をまつわりつかせて、潤いを足した。

 

俺はチャンミンの下着の中に、手を滑り込ませた。

 

谷間の奥へ到達した指。

 

閉じたままのそこは柔らかく、指の腹でくるくると円を描くうちに口を開く。

 

「あっ...あ、ああぁ...」

 

ふるふるとチャンミンの腰が小刻みに震えている。

 

チャンミンは背中に回していた腕を上げ、俺の頭をしがみつくように抱きしめた。

 

俺の中指が飲み込まれる。

 

その抵抗のなさに、チャンミン自身でそこを慰めていたことが分かった。

 

俺の家に来てからも、日常的にいじってきたのだろうか。

 

『犬』時代、一日に何度も使ってきたそこ。

 

仕事中のそれと、プライベートで行うそれと、チャンミンはうまく区別できているのだろうか。

 

熱くぬめったものが、俺の指を締め付ける。

 

「あ...はぁ...」

 

指の腹で壁をぐるりと擦りあげ、ひねりながらゆっくりと抜く。

 

「もっと...お兄さんっ...。

もっともっと...!」

 

俺の首にしがみついたチャンミンは、切羽詰まった声でそう繰り返した。

 

そして、自ら下着を腰下まで引き下ろした。

 

チャンミンの先端から下着へと、透明な糸がひく。

 

露わになったチャンミンの前が、むくりと正面を向いている。

 

体毛を全て処理してあるせいで、艶めかしい。

 

「...はぁ...」

 

唾液を足した中指と薬指をクロスさせ、入り口へと埋めていった。

 

根元まで埋めたまま、かぎ型に曲げた2本の指で壁を探る。

 

これ以上押し広げたら痛いかもしれない...ところが、3本目もぬるりと飲み込まれた。

 

『犬』だったチャンミンのそこは、女のように柔軟だった。

 

「お目が高い。この子は女のように柔らかいですよ」と言った店主の台詞が蘇った。

 

「...んんっ...」

 

そこを探り当てた時、チャンミンの腰がガクガクっと痙攣した。

 

「あ、はっ...はぁ、気持ちいいです...いいです。

もっと...もっと」

 

チャンミンの熱い吐息が、耳たぶを湿らせぞくりとした。

 

チャンミンの肌は燃えるように熱かった。

 

力いっぱい抱きしめられて、俺はのぼせそうだった。

 

「お兄さん...もっと。

激しくして...もっと...!」

 

チャンミンは一歩後退し、片膝をソファに乗せた。

 

俺は一旦指を抜き、次は前から腕を差し込みそこへ突き立てる。

 

俺はチャンミンの乞いに応え、彼の中に埋まった指のスライドを大きくした。

 

振動に合わせてチャンミンのそそり立ったものが、俺の一の腕にぺたぺたとぶつかる。

 

「いいっ...いい、あっ...いいです」

 

今日は、指だけで勘弁してもらおうと思った。

 

女のそこのように、俺の3本の指を締め付けてくるうねり。

 

感じ入るチャンミンの喘ぎに、俺の全身が沸騰しそうだった。

 

絶対に手をつけてはいけないと自制していられたのもわずか1か月のこと。

 

その自制が壊れたからといって、最後までしてしまうのは勢い任せのようで、俺自身が嫌だったのだ。

 

なんだかんだ理屈をこねていたくせに、結局はセックスなんだと。

 

「...ああ...あん...ああああぁ...」

 

今夜は愛撫だけで。

 

チャンミンの反応を見ながら、手加減したものではなく、苦痛をもたらすようなものでもなく、最大限の快楽をもたらす愛撫だ。

 

チャンミンの天国行きへのスイッチも、既に見つけた。

 

『商売道具』だとチャンミンが嘲笑する穴を、俺のかつての『商売道具』のひとつであった指で愛撫する。

 

俺の身体も穢れている。

 

指だけに限らず、唇も舌も、前も後ろも。

 

タチもできる『犬』は珍しかったから珍重された。

 

肌を合わせているその者の、性感を引き出すための道具だった。

 

「お兄さんのえっちは優しかったです」と、うっとりと語ったチャンミン。

 

優しくなんかない。

 

肌を合わせた者の『いいところ』をいち早く見つけて、そこを効果的に刺激してやるコツを会得していただけに過ぎない。

 

俺だって、かつては『犬』だったんだから。

 

 

 

 

俺の胸に伏せたチャンミンの頭が、ずりずりと落ちてきたのを、彼の腰に腕を回して支えてやる。

 

チャンミンの目はあらぬ世界を見つめ、ぽかんと開いた口も唾液で濡れて光っている。

 

チャンミンの先から垂れ続ける潤みの線が、俺の腕へと伸びては切れている。

 

チャンミンのそこをこすり、タップする。

 

「あっ...あっあっあっ...」

 

俺の指の動きにあわせて、背に回したチャンミンの腕に力がこもる。

 

喘ぎはかすれた甲高いものに変わってきた。

 

間断なく喘いで、そして果てた。

 

先から放たれたものが、俺の腕を濡らした。

 

 

 

 

俺たちは『犬』だった。

 

見世物として『犬』同士が繋がり合うこともあったが...。

 

『犬』を離れたところで、プライベートな場で、私情で『元』犬同士が繋がり合うなんて...。

 

俺がチャンミンに手を出すべきじゃないと自制してきた理由の1つなのだ。

 

俺こそ『犬』であったことを、未だに引きずっている。

 

俺の指だけで、肌を紅潮させ、身を震わすチャンミンの背を見て、このことに気付いたのだ。

 

 

(つづく)

 

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(8)あなたのものになりたい

 

 

~ユノ~

 

 

「お前を買い取ったっていう客は...どんな奴だった?」

 

ふと思い立って、尋ねてみた。

 

鬼畜のような奴だったら許せない、と思ったんだ。

 

チャンミンは「...言いたくないです」と言って、鼻にしわを寄せた。

 

「辛いこと思い出させてしまったな...ごめんな」

 

「辛くなんてありませんよ。

別にどうってことなかったです。

お店にいる時よりは快適でしたから」

 

買い主がチャンミンを『返品』した理由はなんだったんだろう?

 

これまでの同居生活で、特別おかしいところはない。

 

「僕んちはまあまあ、マシな家でした」

 

唐突に、チャンミンは語り始めた。

 

「お父さんもお母さんも、お兄ちゃんも妹も、みーんな仲良しでした。

誕生日プレゼントを貰えるくらいマシな家でした。

チョコレートを買ってもらったんです。

1枚全部、僕が独り占め...美味しかったなぁ...。

でも...。

お父さんが大きな借金をこしらえて、怖い人が家に毎日、怒鳴りに来たんです。

で、お父さんはジョーハツしちゃって。

マグロ漁船に乗せられたんだと思います。

お母さんは土下座して、怖い人に謝っているんです。

お父さんだけじゃ、足りなかったみたいです。

僕は...」

 

チャンミンは人差し指と親指で、数センチの隙間を作った。

 

「こーんなに小さかったから、よく覚えていませんけどね。

僕だけが捕まって...売られちゃったんですよねぇ。

身売りって言うんでしたっけ、こういう場合?」

 

「...ご家族とは、それ以来?」

 

「はい。

ずーっと会ってません。

でも、『頑張ってね』『チャンミンのおかげで、幸せに暮らせてるよ』って、手紙をくれるんですよ」

 

ベタ過ぎて、チャンミンの話は半分以上嘘だろう。

 

嘘の中には、「こうありたい」願望が含まれている。

 

半分は真実。

 

チョコレートの話は、本当のことだろう。

 

手紙の話は、嘘だ。

 

胸が痛くなる。

 

 

 

 

入浴を終えた俺は、甘くとろっとしたリキュールをちびちびと舐めていた。

 

「!」

 

突然、背後から抱きしめられた。

 

「お兄さん」

 

背中が湯上りの湿気をまとったチャンミンが密着して熱い。

 

俺の首に腕を巻きつけ、肩ごしに身を乗り出して俺の手元を覗き込んでいる。

 

「お兄さんは、何を飲んでいるんですか?

綺麗な色ですね」

 

ピンク色をしたグラスの中身に興味津々のチャンミンに、

「これはね、イチゴのリキュールだよ」と教えてやった。

 

「りきゅーる?」

 

「お酒に果物やハーブを漬け込んだものだよ。

このまま飲んでもいいし、ソーダで割ったり、他のお酒と混ぜたりもできる」

 

グラスを手渡すと、チャンミンは恐る恐る口をつけた。

 

「...甘い...美味しい」

 

「砂糖が入ってるからね。

それに...」

 

その小さな小瓶をチャンミンに見せてやった。

 

「イチゴがいっぱい入ってる...!」

 

「綺麗だろう?

外国製だよ。

...一気に飲んだら駄目だ。

甘くて飲みやすいけど、アルコール度数が高いんだ」

 

ボトルのラベルに記載された数字を、とんとんと指で指した。

 

「...ほら、30度もある」

 

チャンミンの前髪から落ちた水滴が、俺の腕を濡らした。

 

「髪がびしょびしょだぞ?」

 

「ドライヤーは音がうるさくて、嫌いです」

 

「仕方ないなぁ」

 

洗面所までタオルを取りに行こうと、椅子から立ち上がったとき、チャンミンの姿にぎょっとした。

 

「...チャンミン」

 

はあっとため息をついた。

 

「服を着ろ。

何度言えば分かるんだ?」

 

「だって...。

お風呂に入ったばかりだし、暑かったから」

 

俺からの注意を受けて、チャンミンは頬を膨らませ、床に視線を落とした。

 

親に怒られた小さな子供のように、裸足の指をもじもじと動かしている。

 

「暑いのならエアコンの温度を下げてやるから。

この家には俺だけしかいないとはいえ、人目を気にしないといけないよ」

 

「お兄さんは、僕が服を着ていないと困るんですか?」

 

頭を上げたチャンミンは、キッと俺をにらんだ。

 

「え...。

困りはしないけど...。

前にも言ったように、目のやり場に困るんだ」

 

下着をとりに大股で洗面所に向かう途中、リビングの入り口に脱ぎ捨てられたそれを拾い上げた。

 

履いていたのを、ここで脱いでしまったのか...でも、なぜ?

 

「履くんだ」と、下着をチャンミンに投げてよこした。

 

チャンミンはキャッチした下着をしばらく、手の中でもてあそぶばかりで、一向に身に着けようとしない。

 

俺は目一杯威厳を込めた目で、チャンミンを見据えていた。

 

「...分かりました」

 

根負けしたチャンミンは渋々、その小さな下着に足を通した。

 

件の箇所が隠れて、ほっとしたつかの間...。

 

「お兄さんは、僕のことが嫌いなんですか?」

 

押し殺した声に、俺ははっとした。

 

これまでの会話の中で、どこに「チャンミンが嫌い」と思わせる言葉があったのか記憶を巡らしていると...。

 

チャンミンに手首をにつかまれ、誘導されたのは彼のあそこだった。

 

「僕の身体は嫌いですか?」

 

俺の手の平に、薄い生地越しの塊がおさまっている。

 

「...嫌いじゃないよ」

 

「じゃあ、どうして僕を抱いてくれないのですか?」

 

「親愛の情を示すこと」イコール「肉体関係を結ぶこと」ではないことを、どうやってチャンミンに教えてやればいいのだろう?

 

仕事で客に抱かれていた時、全てが苦痛に満ちたもののはずはない。

 

快感に意識を飛ばすことも多かったはずだ。

 

チャンミンはきっと、もともとは感受性の豊かな子なはずだ。

 

狭い空間に閉じ込められ、五感にも蓋をされていた生活を送るうちに、感覚も鈍ってくる。

 

唯一、刺激されるところは下半身で、そこの感覚には常人より敏感になる。

 

チャンミンは『頑丈なあそこ』と言って、自身を嘲笑していたけれど...。

 

俺との同居生活が始まって以来、尻を突き出す必要がなくなり、衣食住にも不足しなくなった。

 

際立った刺激のない、こんな普通の生活に何か物足りなさを感じ、欲求不満に陥っても仕方がないかもしれない。

 

チャンミンは不安なんだろう。

 

俺のせいだろうな。

 

努めてチャンミンとは性的な関係に陥るまいと、心も身体も距離をとっていたことに、チャンミンは不安に感じたんだろうな。

 

手を動かすことができなかった。

 

俺の手の下で、チャンミンのものが徐々に膨張していった。

 

「ここは...どうですか」

 

今度は、チャンミンの後ろに俺の手がいざなわれた。

 

筋肉の痩せた、やわらかい女のような尻...でも、小さな男の尻。

 

「こんな僕は嫌いですか?

ここは僕の商売道具です」

 

「...商売道具だなんて...言ったらいけないよ」

 

「その通りでしょう?

仕事でいっぱい使ってきていて、僕はもう『犬』じゃないのに、ここがウズウズするんです。

お兄さんのことを考えていると、おちんちんが元気になってきます。

分かるでしょう?」

 

ここで指を動かしてしまったら、もう後には引けない。

 

チャンミンの心身を含めて、受け止める覚悟はあるのか?

 

『責任』という言葉が浮かんだ。

 

例え『恋人』という関係性ですら、心を縛るもの。

 

何者にも縛られたくない...そう心に決めていたのに。

 

手首を握るチャンミンの指の力が抜けた。

 

俺の手はそこにとどまったままだ。

 

もう、我慢できない...。

 

腹をくくった。

 

谷間に沿って指を上下させた。

 

チャンミンの腰がぶるっと、震えた。

 

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

「お尻もむずむずしてくるんです。

だから...

汚い自分が嫌になります」

 

僕は思っていることそのまんま、口にした。

 

本当にそう思っていたから。

 

僕は汚れているけど、汚れた僕を抱きしめて欲しい。

 

「チャンミンは...汚くなんかない」

 

お兄さんの言葉だけじゃ、僕は満足できない。

 

言葉は嘘ばっかりだ。

 

だって僕自身が嘘つきなんだもの。

 

お客を喜ばせるために、思ってもいないことをいっぱい言った。

 

喜んだお客は、僕の扱いを手加減してくれるし、次回も指名してくれるから。

 

「...んっ...あ、ああぁ...」

 

お兄さんの優しい指が、僕の敏感なところに埋められる。

 

僕は喉をのけぞらせた。

 

 

(つづく)

 

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(7)あなたのものになりたい

 

 

~ユノ~

 

 

気持ちよく晴れていた。

 

日差しは強いが、湿度が低いため過ごしやすい。

 

ブランコや滑り台など数基の遊具があり、母親を伴った小さな子供たちが遊んでいる。

 

子供の1人が転び、チャンミンは「あっ!」と声をあげ、母親がその子を抱き上げると、チャンミンは「よかった」とこわばらせた肩の力を抜くのだ。

 

優しい目をしている、と思ったのは正しかった。

 

この公園は河川に沿ってあるため、歩を進めるごとに視界が開ける。

 

川幅の広い流れのゆったりとした川だ。

 

数十メートル先の対岸では、ジョギングやサイクリングを楽しむ者たちが行き交っている。

 

吹き渡る風が川面にさざ波を作り、キラキラと無数の光をきらめかせている。

 

川を見下ろせる堤防に腰を下ろした。

 

両足をぶらぶらさせているチャンミンの眼も、同様にキラキラと輝いている。

 

チャンミンの首を飾る青いチョーカーが、醜い傷跡を覆い隠していた。

 

よかった、と思った。

 

スニーカーを脱いでしまったチャンミンのくるぶしが、傷一つなく健やかそうだった。

 

振り向くと高層のビル群がそびえたっている。

 

ここは人口数百万人のこの街の憩いの場で、緑と水が豊かなエリア。

 

「何が食べたい?」

 

食べ物を売るスタンドが並ぶ中、遠慮したり迷ってばかりいるチャンミンに代わって、いくつか選んでやった。

 

ありとあらゆるものが並んでいて、チャンミンは選べなかったんだろう。

 

サンドイッチとフライドポテトを平らげたチャンミンは、デザートのフルーツにとりかかっていた。

 

イチゴを売るスタンドがあり、チャンミンの物欲しげな表情を読んで、1パック買ったのだ。

 

俺の隣に腰掛けたチャンミンは、小粒のイチゴが山と積まれたトレーを膝にのせて、1粒1粒口に放り込む。

 

俺はアイスコーヒーを飲んでいた。

 

「ひゃっ!」

 

チャンミンの悲鳴に驚いたが、なんてことない、地面についた手に蟻が這い上ってきただけのことだ。

 

払いのけることもできず、腕を振り回している姿に大笑いした。

 

「あははははは」

 

チャンミンは、その蟻が無事地面に着地するまで、だらりと腕を垂らしてじっとしていた。

 

連れてきてよかった、としみじみ思った。

 

未だ一人で外出させるのは難しいだろうから、毎日散歩に連れ出してやろう。

 

誰かとこうして、陽光うららかな景色を眺めながら、ゆったりとした時間を過ごすのは、いつ以来だろう?

 

...初めてかもしれないことに気付いて、いかに乾いた生活を送ってきた自分に驚くのだ。

 

俺を追いかけてきたチャンミンに感謝していた。

 

 

 

 

美味そうにイチゴに齧りつくチャンミン。

 

「俺にも頂戴」と冗談まじりにおねだりしてみたら、チャンミンは何をそんな嬉しいのか、顔を輝かせた。

 

最後の1粒となった時、今度は「僕にも食べさせてください」だなんて子供っぽいおねだりをするんだ。

 

真っ赤に熟れたイチゴを、チャンミンの大きな口の中に押し入れた時、その指を素早く咥えられた。

 

指を引っ込めることが出来なかった。

 

チャンミンは俺の人差し指を頬張り、美味そうに味わっている。

 

アレだと錯覚してしまうように舐められた。

 

温かいぬめりに包まれ、柔らかな太い舌が絡まり、指の股をちろちろとくすぐられた時には、発してしまいそうな呻きを堪えなければならなかった。

 

俺の手首を支える細い指。

 

上下に揺れる頭から、シャンプーと汗が混じった香りが漂った。

 

歯をあてたり、ゆるく吸ったり...巧み過ぎる技に、俺は感じるどころか、逆に欲が冷えていった。

 

数多くの客たちのものを、今みたいに奉仕してきたのだろう。

 

今のは、俺の指相手に『奉仕』しているのではないことは分かっていたけれど、なぜだか悲しくなってしまったのだ。

 

チャンミンは俺を欲しがっていることが痛いほど伝わってきた。

 

俺も欲しいよ。

 

こんなことはしなくていいんだ。

 

チャンミンが欲しがっているものを与えたい...そんなんじゃない。

 

俺の方こそ、チャンミンが欲しいんだ。

 

抱いてしまうことは間違っているのでは、と罪悪感を抱いていた。

 

でも、躊躇するあまり、結果的にストレートに好意を表わしてくるチャンミンを焦らし、今のような行為に至らせてしまった。

 

俺たちの後ろを自転車が2台通り過ぎた。

 

遊歩道の向こうから歌声が聞こえる。

 

乳母車を押した母親らしき女性と、3、4歳の子供がこちらへ近づいてきている。

 

「...チャンミン?」

 

チャンミンの肩を揺らしても、俺の指から口を離そうとしない。

 

力を込めて押しのけたら、チャンミンを傷つけてしまうと思った。

 

だから耳元で、「人に見られるよ。それも、ちっちゃな子供に」と囁いてやると、チャンミンは勢いよく頭を上げた。

 

長くうつむいていたせいで赤い顔をしたチャンミンは、果汁と唾液に濡れた口元を手の甲で拭った。

 

「河原に下りようか?」とそこに下りられる階段を指して言うと、ふやけた人差し指を拭う間もなく、チャンミンに手を握られた。

 

「おうちに帰りたいです」

 

チャンミンは俺の手を引いて、ビル群に向かって歩き出した。

 

裸足のままで。

 

 

 

 

ルーフバルコニーに出られる窓の前で、ごろりと寝転がったチャンミン。

 

一瞬で血の気がひいた。

 

「チャンミン!」

 

駆け寄ってチャンミンの肩を揺する。

 

すると、「ああ?」と目覚め、目をこすって「お兄さん、何ですか?」とねぼけ顔で俺を見上げた。

 

眠くなってそのままそこで、寝入ってしまったようだ。

 

窓際のここは、日光で温められ、眠りを誘う。

 

散歩で疲れてしまったんだな。

 

狭いショーケースに押し込まれ、身体を動かすことと言えば、客のため自ら腰を振ることくらいだ。

 

チャンミンが急病にでもなったのかと、恐怖で心臓がぎゅっと縮まった。

 

チャンミンが居て当然の生活に、俺は染まりつつあった。

 

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

「おうちに帰りたいです」

 

するっと出てきたこの言葉に、自分が口にした言葉なのに、じ~んと感動してしまった。

 

僕のおうちはお兄さんのおうち。

 

僕とお兄さんは、同じおうちに帰る。

 

すごいなぁ。

 

お湯の中に、ぶくぶくと顔半分まで沈んだ。

 

頭のてっぺんまで潜ってから、ざぶっとお湯から飛び出る。

 

何度も繰り返して遊んだ。

 

手足をゆらゆら動かして、温かく清潔なお湯の肌当たりを楽しんだ。

 

お兄さんちのお風呂は大きくて、このバスタブも脚を伸ばせるくらいなんだ。

 

お兄さんと一緒にお風呂に入りたいなぁ。

 

そうすれば、裸のお兄さんにくっ付けるのになぁ。

 

お兄さんのことを思っていたら、前も後ろも変な感じになってくる。

 

前に触れてみたら、半分くらい大きくなっていた。

 

後ろにも触れて、つるんと指を飲み込むのを確認し、その柔らかさに満足した。

 

いじりすぎると止められなくなるし、お湯を汚してしまうから、この辺でストップだ。

 

自分で自分を慰める必要がなかった『犬』時代。

 

お兄さんちに来てからは、お兄さんを恋しく思う気持ちがつのるあまり、いじらないといられなくなった。

 

僕はバスタブから立ち上がり、扉から腕を伸ばして取ったバスタオルで濡れた身体を拭く。

 

洗面所に取り付けられた大きな鏡に、僕の全身が映っている。

 

店を出てからの僕は、太ったようだった。

 

あばら骨と腰骨のあたりのとがった感じが減ったし、お腹のあたりも丸みを帯びている。

 

僕はつまんだりさすったりして、全身を点検した。

 

僕のあれにも触れてみた。

 

どうしてお兄さんは僕を抱いてくれないのだろう。

 

もっとはっきり、お兄さんに迫ればいいのかなぁ。

 

「...よし」

 

僕は下着だけを身につけて、洗面所の照明を落とした。

 

 

 

 

『犬』でいることは、楽しいものじゃなかったけど、辛くて仕方がないわけでもなかった。

 

憂鬱なだけ。

 

ヤルことを済ませると、客たちは帰って行く。

 

彼らには帰る場所がある。

 

客を見送る時、羨ましいと思う。

 

不幸だから、羨ましいと思うのだろうか。

 

TVを観ていると、世の中幸せそうないろんな人たちがいて、彼らと比べると、やっぱり僕は不幸な人間なのかなぁと思うようになった。

 

でも。

 

自分が不幸だなんて思っていなかった。

 

僕はずっとずーっと『犬』だったから、『犬』の世界しか知らない。

 

普通の世界がどんなだか知らないから、比較のしようがなかった。

 

「お兄さんの家に連れて帰ってくださいよ」とお兄さんにねだった僕。

 

多分...どんな客にも同じことをおねだりしているんだと、お兄さんは思っている。

 

違うのになぁ。

 

これまでの客に、そんな台詞を言ったことはないのになぁ。

 

お兄さんは特別なのだ。

 

お兄さんは僕をお家に連れ帰ってくれた。

 

僕を連れ帰ってくれた理由は、僕があまりにも不幸そうで、可哀想に思ったから?

 

そうじゃないといいな。

 

可哀想と思われていることこそが、不幸だと思った。

 

 

 

 

帰るおうちができた今、『犬』だった頃を思い返してみる。

 

...僕は不幸だったのかもしれない。

 

なぜって、今がとても幸せだから。

 

 

(つづく)

 

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(6)あなたのものになりたい

 

 

~ユノ~

 

 

チャンミンから仕掛けられるキスは、回数を重ねるごとに深くなっていく。

 

一度は肉体関係を結んだが、あの時は『客と犬』

 

俺は金を払ってチャンミンを抱き、彼の中に精を吐き出し、チャンミンは報酬をもらって(彼の手元に渡ることは永遠にない。店で衣食住を得るために )俺に抱かれた、に過ぎない。

 

俺とチャンミンはもう、『客と犬』ではなく、キスといった性的な接触はすべきではないと思ったから。

 

チャンミンは、「お兄さんとのえっち、優しかったです」なんて言っていたが、そこには愛はなかった。

 

愛か...最後に愛情をもって誰かの素肌に触れたのはいつだっただろう?

 

拒まずチャンミンの唇を俺は受け止めてきた。

 

最初は戸惑いもあったし、無下に押しのけてしまったらチャンミンの気持ちを傷つけてしまう。

 

チャンミンがどんな感情を持って唇を重ねてくるのか、推しはかることができない。

 

チャンミンと交わすキスに、愛があるのかどうか探るなど...キスひとつに深い意味を見出せないほど、俺は汚れている。

 

『犬』を続けてきたチャンミンにとって、キス程度は大したことではないだろう。

 

かつて『犬』だった者...俺もチャンミンも...は、セックスへの抵抗が著しく弱いのだ。

 

気前よく身体を差し出すことができる。

 

俺たちの身体は、『道具』だったから。

 

チャンミンにはキスといった形でしか、好意と感謝の気持ちを表わせないのだろうな。

 

キスの回数を重ねるごとに、接触した唇から温かいものが伝わり、俺の心を刺激するのだ。

 

チャンミンに青いチョーカーを贈った日のキス。

 

いつものような唇同士が重なるだけのものだったが、斜めに傾けられたチャンミンの頬に俺の鼻は塞がれ、呼吸がままならなかった。

 

チャンミンに頭を押さえられていたから、酸素を求めて口をわずかに開けた隙に、彼の舌がぬるりと侵入してきた。

 

舌同士が重なった時、「ああ、もう駄目だ」と心中でつぶやいた。

 

自制もそこまでだった。

 

チャンミンからキスをねだられ、俺の方から積極的に動かなかったのは、自制のタガが外れ、彼を押し倒してしまうかもしれなかったからだ。

 

出会った日。

 

チャンミンを1人の人間として、ではなく、欲を放つための身体として抱いたのだ。

 

見た目も綺麗だが、いい身体...つまり穴、をしていた。

 

今でも、あの時の頭の芯がしびれるほどの快感をいくらでも思い出せる。

 

俺の動きに合わせて揺れていた細い腰と、繋がったそこから次々と与えられた強烈な刺激。

 

チャンミンを抱きたくて仕方がなかった。

 

 

 

 

チャンミンを連れて、念願の散歩にでかけていた。

 

チャンミンから外出をねだったわけではなく、俺が出掛けたかったのだ。

 

店を飛び出してきた時に着ていたTシャツとデニムパンツを身にまとい、スニーカーを履いたチャンミン(靴擦れ予防に、かかとに絆創膏を貼ってやった)

 

Tシャツデニムといったありふれた格好をした青年。

 

ところが、街中を歩かせてみると違和感があった。

 

奇抜なファッションをしているとか、派手な髪色をしているわけじゃない。

 

確かに、背も高く手足が長いスタイルは、一般人にしておくのは勿体ないほどだ。

 

単にスタイルがいいだけじゃない何か...普通じゃない空気をチャンミンをまとっていた。

 

異空間で生まれ育った者が、ある日突然ぽん、とこの世界に送り込まれた...そんな空気だ。

 

きょろきょろと周囲を見わたし、足を止めてしまうチャンミンに合わせていたため、徒歩10分ほどの公園にたどり着くまでに日が暮れてしまう。

 

「チャンミン、口が開いてるぞ」と、ぽかんと口を開けて、大型ディスプレイ広告に見入っていたチャンミンの背中を叩いた。

 

「すみません。

すごいなぁ、って思って」

 

人混みの間を縫って歩くのは、チャンミンには難しかったようだ。

 

通り過ぎる者にしょっちゅうぶつかってしまっては悪態をつかれ、「ごめんなさい、ごめんなさい」とペコペコ頭を下げていた。

 

俺も『犬』を卒業したばかりの頃は、今のチャンミンみたいだった。

 

チャンミンの場合、都会に出てきたばかりの田舎者より酷かった。

 

もしかしたら、街を歩くことすら初めてなのかもしれない...その可能性が高い。

 

見かねた俺は、チャンミンと手を繋いで歩くことにした。

 

俺の手を強く握り返すチャンミンの手。

 

街には様々な人間で溢れているのだから、大の男同士が手を繋いで歩く光景は珍しいことじゃない。

 

ここがオフィス街だったとしても、俺はチャンミンと手を繋いだだろう。

 

チャンミンを守ってあげたい。

 

そして、チャンミンに触れていたい。

 

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

お兄さんが客として僕を抱いた時、「あれ?」と気付いたのだ。

 

僕の扱い方はとても優しかったのに、僕を埋めるものは凄く固かったのに、お兄さんの気持ちはここにあらず、だった。

 

大抵の客たちは、僕の身体に夢中になるのに。

 

お尻を洗いながら、客たちは何が楽しくて僕のお尻にシューチャクするんだろう、といつも疑問に思う。

 

すっきりとした表情になって帰っていく客たち。

 

僕の中にどろどろを吐き出して、すっきりしたんだろうな。

 

客たちは僕の中に何を吐き出したいんだろう。

 

どろどろをいっぱいいっぱい、僕の中に吐き出されても...僕は平気だ...多分。

 

もの凄く気持ちよくしてくれる客もいることにはいる。

 

僕の身体はびくびく震えているけど、僕の心はエロ部屋の片隅からえっちの光景を眺めている感じなのだ。

 

変な顔して変な声を出して腰を振る客たちの、なんと間抜けなことよ。

 

 

 

 

「外で食べるメシは美味いだろう?」

 

お兄さんに尋ねられて、僕は「はい」と元気いっぱいに答えたけど、お兄さんと一緒なら場所がどこだって美味しい。

 

僕らはご飯を食べていた。

 

目を閉じて、鼻からいっぱい空気を吸い込む。

 

まぶたの透かした日光がオレンジ色に明るくて、ぽかぽかと温かい。

 

お兄さんの家の方が空に近いのに、地面に足をつけたここの方が、太陽が近い気がするんだ。

 

不思議だね。

 

秘密の花園から見下ろす世界は、遠くぼやっとした薄青い靄に過ぎなかったものが、今はこうして近くにある。

 

刺激が強すぎて、なんだか嘘みたいで、本当のことじゃないみたいだ。

 

今みたいに、女の人や子どもがいて、ボールを投げたり、草の上に寝転がってたり、走っていたりする。

 

世の中にはいろんな種類の人がいて、誰もが僕のことなんて気にせず、いろんなことを楽しんでいるのがいいと思った。

 

皆がみんな、僕の身体を触ったり、へんな恰好をさせたり、お尻の中に出したいわけじゃないんだな。

 

お尻の下のコンクリートは熱いくらいで、お兄さんは片手をかざして太陽の光を遮っていた。

 

細めた目元が優しかった。

 

川の方から時折、ふわ~っと風が吹いてきて、お兄さんの前髪を揺らす。

 

僕はイチゴをパクパク食べながら、隣のお兄さんの横顔を飽くことなく眺めていた。

 

お兄さんと僕は同じ人種のはずだけど、肌の白いことといったら!

 

綺麗だなぁ。

 

つんとした鼻の先も柔らかそうな下唇も、ぺろって舐めたくなる。

 

キスしたいなぁ、と思った。

 

お兄さんにもっともっとくっ付きたい。

 

Tシャツとデニムパンツといった僕と同じ格好をしているのに、お兄さんは断然、カッコいい。

 

触ったらだめかな?

 

そうっと手を伸ばして、筋肉の形をひろったデニムパンツの太ももに触れた。

 

手の平の下の、固く引き締まった太ももに繋がる箇所を思うと、僕のお尻はむずむずする。

 

「チャンミン」

 

怒られるかなぁ、と思って、そうっと見上げると...あれ?笑ってる。

 

「俺にも頂戴」

 

そう言ってお兄さんは、僕の膝の上のイチゴを目線で指した。

 

僕一人で全部を平らげるところだった!

 

お詫びのつもりで、お兄さんの口元までイチゴをひと粒ひと粒、運んであげた。

 

イチゴを齧る前歯の白いことといったら!

 

3粒目のイチゴがお兄さんの口の中に消えた頃、いいことを思いついた!

 

「僕にも食べさせてください」

 

もっと早くこれを思いついていれば!

 

お兄さんは「甘えん坊だな」とくすくす笑って、その最後の1粒を食べさせてくれる。

 

素早くお兄さんの指をくわえた。

 

僕の口の中でお兄さんの指が一瞬、引っ込みかけたけど、そのままでいてくれた。

 

嬉しかった。

 

お兄さんの人差し指を、僕は丹念に舐めた。

 

舌先で指の腹をくすぐり、指先まで戻ったかと思うと深く咥え込んでみたり、頭を上下させた。

 

お兄さんの指をまるで、アレのように。

 

僕の片手はお兄さんの太ももに乗ったまま。

 

違う場所に手を滑らせたかったけど、ここは我慢だ。

 

 

(つづく)

 

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