義弟(44)

 

 

~チャンミン17歳~

 

義兄さんの部屋に通されて、コートを脱ぎバッグを下ろした僕は、物珍しげに室内を見回した。

 

僕の部屋より広くて、ソファセットがあったり、ベッドもキングサイズで...イベントの主役だもの、さすが義兄さんだ。

 

でも、2つ並んだベッドにズキリ、と胸が痛んだ。

 

姉さんのためのベッドだ。

 

義兄さんと姉さんは夫婦なんだから当然のことなのに、その事実に押しつぶされそうだった。

 

「姉さんと別れないで」と頼んだくせに、彼らが夫婦である事実に打ちのめされた。

 

これは嫉妬だ。

 

僕がはっきりと嫉妬の念を覚えた瞬間だった。

 

週に一度だけ義兄さんのアトリエで時を過ごし、彼は姉さんの待つ家に戻り、僕も高校生に戻って両親と夕飯のテーブルを囲んでいた。

 

それだけで十分だったのに。

 

義兄さんを独り占めしたいのが本音なのに、先日、真逆の発言をした自分に後悔した。

 

でも今は駄目なんだ。

 

僕には片付けなくてはならない問題があるし、単なる高校生男子に過ぎないし、もっと自分に自信がついて、もっと大人になって、もっともっと義兄さんと繋がって...それからそれから...それからの話だ。

 

大きく深呼吸をして、自分の中に渦巻くもやりを逃した。

 

ルームサービスを依頼する電話をかけ終えた義兄さんは、突っ立ったままの僕に「落ち着かないから、座ったら?」と、ソファを指し示した。

 

「...すみません」

 

腰を下ろした僕は義兄さんを正視できなくて、膝にのせたクッションの刺繍に見入るフリをして誤魔化した。

 

つい3,4時間前に、服を脱ぐのももどかしくて、肝心なところだけ出した格好で僕らは抱き合った(僕の方は下を全部脱がされてしまっていたのだけれど)

 

アトリエでは当たり前の行為でも、場所が変わり我にかえると気恥ずかしさが勝ってしまうのだ。

 

「何か飲む?」

 

ミニバーの冷蔵庫を覗く義兄さんに尋ねられ、「み、水を」とどもってしまって、彼に笑われた。

 

「なにを緊張してるの?」

 

「...はい」

 

僕の隣に腰を下ろすかと思ったら、義兄さんは僕にミネラルウォーターを手渡しただけだった。

 

「シャワーを浴びてくるよ。

会場は暖房が効きすぎていて...汗をかいて。

...ん?」

 

僕の表情に、義兄さんには僕が考えていることなんてお見通しだったんだ。

 

「チャンミンと一緒にお風呂に入りたいけれどね。

それは後にしよう。

揃って裸になったりしたら、したくなってしまうだろう?」

 

「...あ」

 

「それは後のお楽しみにとっておこう。

腹も減ったし、チャンミンにサプライズもあるし、ね」

 

義兄さんとヤルことしか考えていなかった自分が恥ずかしい。

 

火照った頬が義兄さんの両手で包み込まれた。

 

「ここではチャンミンがお客さんだったね。

チャンミンが先に入ってくる?」

 

「義兄さんがお先にどうぞ」

 

義兄さんは僕の額に唇を押しつけ、頭をくしゃくしゃと撫ぜると、浴室へ行ってしまった。

 

「ふう...」

 

ホントは今すぐ義兄さんと抱き合いたかった。

 

それは、性欲によるものだけじゃない。

 

不安に押しつぶされそうになっている僕は、義兄さんに抱かれることで安心したかった。

 

義兄さんを失ってしまうかもしれない恐怖心が、この2、3時間の間に芽生えたのだ。

 

念入りに愛された夕方のひととき、そして義兄さんの代表作品と共に並んだ僕の絵。

あんなものを見せられたら...現在進行形で僕がやっている行為の汚らわしいことといったら。

 

義兄さんは姉さんの夫であること。

 

僕に愛想をつかして、姉さんの元に戻ってしまうかもしれない。

 

僕が恐れているのがまず、これだ。

 

 

会場でX氏に声をかけられて、身体の芯までぞっとしたことを思い出していた。

 

ホテルまで戻る道すがら、義兄さんに「いつからだ?」と尋ねられた。

 

全身の体温が失われた。

 

とうとうバレてしまった。

 

あまりに唐突だったから、「あの...」だの「その...」だのと言うのがやっとだった。

 

でも、いい機会だと思った。

 

義兄さんに全部、ぶちまけてしまおうって。

 

会場で僕に近づいてきたX氏から逃れられなかった理由は、無下に彼の腕を払いのけたり、拒絶の言葉を吐いたりしたら、僕らのやりとりが目立ってしまうからだ。

 

何よりX氏がどんな行動に移すのか読めなかった。

 

だから大人しく従った。

 

10分か15分くらい辛抱すれば、X氏は満足するだろうから。

 

X氏とエレベーターを待っていた時...人のいない所に連れていって、コトに及ぼうとしていたんだと思う...義兄さんが僕を助け出してくれた。

 

あの時、どれだけ安堵したことか!

 

義兄さんの全身から青白い炎が揺らめいているのが、目に見えるほどだった。

 

それくらい、義兄さんは怒っていた。

 

その怒りが僕に向けられているものなのか、X氏に向けられているものなのか。

 

どちらであっても、義兄さんが腹を立てる理由が直ぐには分からなかった。

 

でも義兄さんのことだから、僕の肩を抱くX氏に下心があったのを見抜いたんだ。

 

義兄さんは背中で僕を隠してくれ、「大丈夫か?」と案じる目で僕を見てくれた。

 

だから、義兄さんの怒りは僕ではなくX氏に向けたものだと知ってホッとしたのだ。

 

そして、ニヤつくX氏に僕は確信した。

 

僕の好きな人は義兄さんだと、見抜いたのだと

 

今後会う度、X氏は義兄さんの名前を何度も持ち出しては、うろたえる僕を見て愉しむだろう。

 

X氏の前からさらうように、僕を外に連れ出した義兄さん。

 

会場をほっぽりだして大丈夫なのか、と尋ねたら、「チャンミンは心配しなくていい」と答えた。

 

義兄さんは僕を振り向きもせず、先をずんずんと歩く。

 

やっぱり僕に対しても怒っているんだ。

 

でも、ちょっとだけ嬉しかったのは本音だ。

 

義兄さんが僕を守ろうとしてくれた行動は、僕のことを大事だと思ってくれているこそ。

 

コートのポケットの中で、義兄さんの温かい手に包まれた時、僕の中に罪悪感が湧いてきた。

 

義兄さんの作品がここまで評判を集めるようになったのは、X氏から引き受けた仕事の成功もあるからだ。

 

展賞をさらうだけじゃ注目はされない。

 

X氏がオーナーを務めるカフェの内装を任されたこと、そのカフェがTVドラマの舞台となり、メディアに取り上げられたこと。

 

これをきっかけに義兄さんの作品は注目を浴び、高級ブランドの旗艦店内の壁画を手掛けるまでになった。

 

義兄さんの商業的な作品は、線画とビビッドなカラーが特徴的で、キャンバスに描かれる緻密で繊細なものとは大きく異なっている。

 

僕はもちろん、後者のものが好きだ。

 

恩があるX氏に対して、子供の僕から見ても失礼な態度をとってしまった義兄さんの立場が心配になった。

 

僕のせいだ。

 

「いつからだ?」の義兄さんの問いかけに、僕は曖昧な言葉しか返せなかった。

 

ホテルにたどりつくまでの数分間、何度も口にしかけたけれど、いま一歩踏み込んだことが言えず仕舞いだった。

 

でも、心に決めたことがある。

 

X氏にきっぱり断ろう。

 

そして二度と抱かれない。

 

ここにいる間に、「もう会わない」と伝えよう。

 

明日中にそうしよう。

 

義兄さんに例の写真を見せると揺すられたら、「どうぞご自由に」と言ってやろう。

 

それを目にして、義兄さんは僕を軽蔑すると思う。

 

もうひとつの僕の恐れが、これだ。

 

その時は、「義兄さんのためしたことだ」って、X氏に抱かれるに至った理由も全部、打ち明けよう。

 

X氏とそういうことをしていても、義兄さんのことしか考えていなかったって。

 

同情を買おうとする僕は、つくづく狡い。

 

僕は必死なんだ。

 

何度も謝って、好きだと何度も言って、許してもらおう。

 

義兄さんだって結婚してるんだ。

 

 

姉さんを抱くこともあるはずだ、だって夫婦なんだもの。

 

義兄さんたちが抱き合っている光景を思い浮かべてしまって、その想像図に僕の胸がキリキリと痛んだ。

 

息ができないほどに。

 

義兄さんは結婚してる...だから僕の方だって義兄さん以外の男に抱かれていても、「おあいこ」だ。

 

...そんな幼稚な考えを、ほんの少しでも抱いていた僕は馬鹿だ。

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]

義弟(43)

 

 

~ユノ34歳~

 

そこまで要注意人物だとマークしていた訳じゃない。

 

男に馴れたチャンミンの身体と、男女の区別なく奔放な性生活を繰り広げているX氏の噂を耳にするうち、いずれX氏の餌食になるのでは、と勝手ながら心配していたのだ。

 

X氏に誘導されるように、この場を去るチャンミンの背中。

 

耐えられなくなった俺は、熱弁をふるう母校の講師を遮って、2人を追った。

 

失礼なふるまいだったが、それどころじゃなかったのだ。

 

X氏はチャンミンを狙っている。

 

チャンミンの腰に回された腕に、いやらしい気配を感じとった。

 

チャンミンを抱いたばかりの俺は、色に酔っているせいか、その手のことに敏感になっていた。

 

昼間はごったがえしていたホールも、閉館後のためがらんとしていて、エレベータ前に立つ2人は直ぐに見つかった。

 

エレベータでどこに行くつもりなんだ?

 

ここは1階、この上は多目的室があるだけ、地下は駐車場。

 

「!」

 

チャンミンはX氏に肩を抱かれていた。

 

目にしてしまった俺は、思わずその場で足を止めてしまった。

 

大人しく従うチャンミンに腹が立ったが、その怒りはすぐ消えてしまった。

 

巨躯のX氏と並ぶと、痩躯のチャンミンは頼りなく、あの腕を振りほどくのはきついかもしれない。

 

チャンミンを覗き込む顔の距離が、あまりにも近い。

 

やっぱり...X氏はその気だ。

 

全身がかぁっと熱くなり、腹の底からムカムカとした。

 

エレベータの扉が開き、間に合わないと思った俺は叫んだ。

 

「チャンミン!」

 

本来、俺の雇い主にあたるX氏の名を呼ぶべき場だった。

 

振り向いたチャンミンの顔が、X氏の肩の影からひょっこり覗いている。

 

駆け寄る俺を認めて、固かった表情が和らいだ。

 

「ユンホ君?」

 

X氏はチャンミンの肩からゆっくりと腕を下ろした。

 

落ち着いた口ぶりで、慌てた素振りを見せない。

 

「そんなに慌てて...何かトラブルでも?」

 

脂でてかった鼻の頭と額が不快だった。

 

「いえ」

 

怒りを押し殺して、穏やかな口調を努めてみたけれど、そうじゃないことをX氏は察したと思う。

 

「セレモニーは明後日...だったよねぇ?

私の出番はないはずだが?

ああ!

なるほど、私じゃなく、この子かい?」

 

X氏のぎょろ目がいやったらしく、俺とチャンミンを一往復した。

 

「ええ。

3日間は私が保護者代わりなんですよ。

遊びに来たんです。

彼の親御さんから頼まれていますので...」

 

嘘八百をすらすらと述べて、チャンミンに目で合図した。

 

チャンミンはこくん、と頷くと、X氏の身体の陰から抜け出して俺の背後に回った。

 

「Xさんこそ、どちらへ行かれる予定だったのですか?

どこも...」

 

俺はわざとらしく、ホールを見渡し、エレベータに目をやって、

 

「閉館時間ですし?」と、咎めの目線を送る。

 

X氏の方も、わざとらしく肩をすくめた。

 

「くっくっく...ユンホ君も失礼だなぁ。

まるで私がチャンミン君をとって食おうとしているみたいな言い方だ」

 

その通りだろう、と思ったが、口に出すわけにはいかない。

 

「チャンミン君は綺麗だからねぇ。

その気が起きてもおかしくない。

でも...チャンミン君は男だからね。

男なのが残念だよ。

あいにく私は、男は相手にしないんでね」

 

「嘘をつけ!」と俺が内心で吐き捨てていることを、X氏は分かっているに違いない。

 

俺がチャンミンに対して義弟以上の想いを抱いていることも。

 

X氏は鋭い。

 

平静を装った俺の表情の下に、煮えくり返る怒りを隠していることを。

 

青ざめたチャンミンに向ける俺の眼に、深い情がこもっていることにも。

 

バレたな、と思った。

 

今後仕事がやりにくくなることなんて、どうでもよかった。

 

嫌な予感は的中した。

 

気付いて連れ戻せて、間に合ってよかった、と思った。

 

 

 

 

コンベンションセンターに併設されたホテルまでの5分を、チャンミンと肩を並べて歩いていた。

 

俺の斜め後ろにうつむき加減のチャンミンがいる。

 

コートのポケットの中で、俺は怒りと焦燥感で固くこぶしを握っていた。

 

「...義兄さん、ごめんなさい」

 

俺のコートの背中をチャンミンがつんと引っ張った。

 

「怒ってますか?

油断してて...」

 

ポケットから出した手で、コートをつかんでいたチャンミンの手を握った。

 

俺の手の中で、チャンミンの冷たい指はぴくりと震え、俺の指の間に絡んできた。

 

ぎゅっと力を込めて握り返してやった。

 

手を繋いで歩く俺たちは、不自然に見えるだろうが、ここは地元じゃない。

 

チャンミンの手ごと、俺のポケットに突っ込んだ。

 

「...いつからだ?」

 

「え...」

 

俺の言葉に動揺した証拠に、チャンミンは急に立ち止まってしまった。

 

「嫌なことされてないよな?」

 

「...あの...」

 

「あの人はね、噂が絶えない人なんだ。

女性関係が...だけじゃないんだ。

若い男も好きでね。

お小遣いをたっぷりあげたりしてね。

もっと前に、教えておけばよかったね。

俺がうっかりしていたよ」

 

「義兄さん...あの...」

 

歩みの重いチャンミンに、俺は彼の肩を抱いた。

 

俺がかつてプレゼントしたマフラーに、チャンミンは鼻の上まで埋めている。

 

鼻下を隠すと、余計に幼く見える。

 

これで何百回目になるんだろう、俺の方こそ10代男子に手を出している事実への罪悪感。

 

X氏を軽蔑できる資格はないのだ。

 

「我慢していないで、俺に教えてくれればよかったのに。

そっか。

俺の仕事を心配してくれてたんだろ?」

 

「義兄さん、あの...僕は」

 

俺の気付かないうちに、X氏はチャンミンに接近をはかろうとしていたのだ。

 

嫌な予感が的中した。

 

今夜のうちに気付いてよかった。

 

「どこか食べに行く?」

 

「そう言ってるくせに、もうホテルに着きましたよ。

僕はどこにも行きたくありません」

 

チャンミンはふふふっと笑った。

 

「俺も同じ。

部屋で食べようか?

熱い風呂に入って温まろうか?

チャンミンにいいものを用意してあるんだ」

 

「はい」

 

囁くような声であっても、チャンミンの二重瞼の下の眼がきらきら輝いていた。

 

じんと感動してしまい、知らず知らず見入ってしまっていたようだ。

 

「そんなに見られたら...っ、恥ずかしいです」

 

ぷいと顔を背けてしまった。

 

絵のモデルを務めているくせに、アトリエを離れたチャンミンは、俺にじっと見つめられただけで耳を赤くする。

 

俺を置いて早歩きでエレベータへ向かうチャンミンに、もっとからかってやりたくなってしまった。

 

「もっと恥ずかしいところを見られたのに?

顔くらい、どうってことないだろう?」

 

「もう!

止めて下さい」

 

くるりと俺に背を向けて、チャンミンはエレベータの角に収まってしまった。

 

赤くなった顔は両手で覆って隠しているのに、ぴょんと立った真っ赤な耳は丸見えだから、可愛くて仕方がない。

 

「ごめん」

 

チャンミンのうなじの髪を...うねりのある柔らかいくせっ毛を...指先でくすぐった。

 

「んんっ!」

 

くすぐったがってあげた声が、甘く色っぽく聞こえてしまう。

 

もっとその声を聞きたくなったけれど、ここまでにしておこうか。

 

チャンミンは首をすくめて、エレベータの隅っこを向いたまま、怒った声で言った。

 

「今日の義兄さんは変ですよ?

僕を恥ずかしがらせて遊んでるでしょう?」

 

「ははっ。

はしゃいでるんだろうね」

 

「え...?」

 

チャンミンは、くるりと身体を回転させた。

 

「チャンミンと2人きりで、旅行みたいだ。

普段、どこにも連れていってやっていなかったし。

嬉しくってさ...。

からかってごめん」

 

「......」

 

黙り込んでしまったチャンミンに、「機嫌を損ねてしまったかな?」と。

 

「...僕も...」

 

聞き取れない程の小さな声だった。

 

「僕も、嬉しいです...義兄さんといられて」

 

そんな言葉を貰ってしまったら、抱きしめるしかないだろう?

 

チャンミンの頭を胸に引き寄せ、がしがしと彼の頭を撫ぜた。

 

身長が伸びたせいで、チャンミンの頭のてっぺんは俺とほぼ同じ。

 

大きな身体をしているのに、チャンミンはまだまだ子供で、この年の差に切なくなる。

 

あと1年待てばチャンミンは18歳になって、俺の罪悪感も和らぐし、より対等に付き合えるようになる。

 

あと1年辛抱すれば、チャンミンの方も身動きしやすくなる。

 

「今夜は俺の部屋においで。

チャンミンの部屋から、着替えをとっておいで」

 

「はい」

 

リュックサックに衣服を詰めるチャンミンを、俺は壁にもたれて待っていた。

 

コンソールテーブルに置かれた参考書とノートを目にしてしまい、胸が痛む。

 

俺の妻Bの弟、チャンミン。

 

17歳のチャンミン。

 

俺がしていることは全部、真っ黒だ。

 

でも、止められない。

 

 

 

(つづく)

 

 

[maxbutton id=”23″ ]

 

義弟(42)

 

 

 

~ユノ35歳~

 

 

チャンミンのおかげだ。

 

もし、チャンミンから「姉さんと別れてください」とお願いされていたら、俺は喜んでBと別れ、正々堂々とチャンミンと会えるようになっていた。

 

でも、邪魔が無くなった途端、きっと俺たちは、早い段階で駄目になっていただろう。

 

「Bと別れないでください」のチャンミンの言葉と、俺の理性が、俺たちの恋の暴走を止めてくれていた。

 

そのはずだったのに。

 

 


 

 

~ユノ34歳~

 

 

声を掛けてくるアート関係者や大学の同窓生と、にこやかさを絶やさず歓談に応じていた。

 

さりげなく腕時計を確認すると、19:15。

 

閉館時間の19:00を過ぎても、彼らは帰ってくれない。

 

この雰囲気からすると、親交を深めるためだと言って、飲み屋へ移動する流れになりそうだ。

 

ここに来てから毎夜のように酒の場を連れ回され、俺は疲れていた。

 

早くこの場を去って、ホテルに戻りたかった。

 

チャンミンに会いたかった。

 

Bが来るのは3日後だから、ここで3泊するチャンミンの部屋で2泊分は眠ることが出来るし、その逆でもいい。

 

2週間以上ぶりのチャンミンをホテルに降ろして、そのまま会場に向かうつもりでいた。

 

ところが、太ももに頬ずりして甘えるチャンミンの姿に...そんな彼を見るのは初めてだったこともあり、抱きしめ彼の中に包まれたくなった。

 

甘えてくる彼が新鮮で可愛らしくて、抑えがきかず会って早々に抱いてしまった。

 

30分だと時間を区切っていたくせに、昂ぶったところをチャンミンに撫ぜられ、同様昂ぶった彼のものを目にしてしまったら止められるはずがない。

 

ひとまずこもった熱を逃すため手短に繋がって、お楽しみは夜へとっておくつもりだったのに。

 

掠れた高い喘ぎ声を聞いてしまい、異常に興奮してしまった。

 

ずるりと容易に俺を飲み込むチャンミンのそこについては、疑惑を差し挟まないようにしていた。

 

初めてベッドの上で及んだ行為だった。

 

真昼間のアトリエで、ソファの上で、べニアの床の上で、時間と来訪者のチャイムを気にしながらの情事ばかりだった。

 

これまでチャンミンに酷いことをしていたなと、彼が哀れに思えた。

 

 

 

 

この日、X氏が来場していた為、会場に来たいとねだるチャンミンに思いとどまるようにと止めたのに、彼はきかなかった。

 

日頃、感情を表に出さないチャンミンらしくない。

 

駄々をこねるチャンミンが、子供っぽくて可愛かった。

 

チャンミンは、俺に何かをねだることはほとんどないのだ。

 

 

 

 

抱き合った後、ごくまれに買い物に連れ出すこともあった。

 

デートらしいデートは、それくらいささやかなものだった。

 

俺の場合は、アトリエで使う日用品だとか買い足したい画材が、チャンミンの場合は、気に入りの作家の新刊だとか文房具だとか。

 

「欲しいものがあるなら、一緒に会計するよ?」と買ってやろうとしても、頑として首を縦に振らない。

 

でも一度だけ、売り場に立ち止まってえらく真剣に見ていたものがあった。

 

胸にあてて鏡に映していた後、値札を確認すると直ぐに棚に戻してしまった。

 

余程欲しかったんだろう、再びその陳列棚まで引き返してきて、広げては胸に当てていた。

 

その一連の行動を、俺は離れたところで全部見ていた。

 

「いいね。

俺も買おうかな?」

 

チャンミンの手の中のものを取り上げ、棚からももう一着取って、彼が何かを言う前に会計を済ませてしまった。

 

こうでもしないと、なかなか金を払わせてくれない子なのだ。

 

「俺とお揃いになるけど、いいかな?」

 

帰り道、助手席のチャンミンは「ありがとうございます」と頭を下げ、はにかんでみせた。

 

チャンミンの膝の上には紙袋があり、その中には揃いで買ったトレーナーがあった。

 

「こんなに高いもの...普段着にはできません」

 

紙袋を持つ手つきや、きっちりと礼を言う育ちの良いところに、じんと感動してしまうのだ。

 

俺はそんな子に恥ずかしい恰好をさせ、恥ずかしがる姿に欲情した。

 

チャンミンを抱いた時、上の洋服を脱がさないでいたのも、それがあの時買ってあげたトレーナーだったから。

 

新品の生地の匂いがしたから、マフラーと併せておろしたてなんだろう。

 

いじらしくて切なくなり、それを誤魔化そうと乱暴気味に腰を打ちつけてしまい、俺の下でチャンミンはひんひんと啼いていた。

 

 

 

 

「Xさんを見かけたら、隠れますから。

義兄さんの絵を見てみたいんです。

僕...ちゃんと見たことがないので...。

いいですか?」

 

電話の向こうで、チャンミンの言葉の語尾が消え入りそうだった。

 

「わかったよ。

受付で俺の名前を言ってくれたら、チケット無しで入れるようにしておくよ」

 

「やった!」

 

余程嬉しかったのだろう。

 

胸がじんと熱くなった。

 

確かにそうだろう。

 

俺たちが恋人同士らしい表情を見せられるのはアトリエに限られていた。

 

いつだったか、隣を歩くチャンミンが指を絡めてきたことがあり、「やめろ」とその手を払いのけたことがあった。

 

その時の傷ついたチャンミンの表情ときたら...。

 

見開いた眼と、茶色いその瞳が一瞬にして影で覆われた。

 

俺のささいな拒絶にショックを受けたチャンミンは、アトリエに戻らず自宅へ直行するよう言った。

 

あれ以降、外出中にチャンミンの方から接触してくることはなくなった。

 

可哀想なことをした。

 

一緒にいるところを見られても...アトリエの中でしていることは別として...変に思う者はいないはずだ。

 

ところが先日の、Mちゃんの言葉が耳に残っている。

 

『見る人が見れば、単なる親戚同士なんかじゃないことを気付くと思います』

 

そういうものなのだろうか。

 

閉場時間30分前にチャンミンが現れた。

 

異常にスタイルのよい青年だと目についたのが、チャンミンだった。

 

頭ひとつ分高い背と、長い手足。

 

俺とBとの結婚披露宴会場で、中学の制服姿で壁にもたれていた姿と重ねていた。

 

大きくなったな、と思った。

 

他のアーティストのブースを素通りして、ここまで直行してきたのか。

 

大きなストライドで、のびやかに歩いている。

 

俺を探しているのか、きょろきょろと周囲を見回している。

 

俺の正面には数人の招待客がいるせいで、ここに居るのにチャンミンは気づけずにいた。

 

選考会の審査基準について熱く語る旧友にひと言詫びて、チャンミンの元に歩み寄ろうとした。

 

ところが呼びかけた名前も、上げた手もそのままになってしまった。

 

あの作品の前で、チャンミンはぴたりと足を止めていた。

 

俺の前で初めてポーズをとった日。

 

毛布にくるまって両手でつつんだマグカップに、ふうふうと息を吹きかける表情が無垢で胸をつかれたんだった。

 

その場でスケッチブックを開くのははばかられて、チャンミンが帰宅した後、記憶を頼りに描いたラフ画だ。

 

口が開いてるぞ。

 

ぴんと立った両耳が赤くなっていた。

 

その姿だけで十分、伝わったよ。

 

俺に向けられた好意の言葉は全部、ホンモノだってこと。

 

絶対に傷つけたらいけない。

 

どれだけ大人顔向けの色気を見せても、10代の男の子なんだ。

 

「ユンホさん?」

 

腕を突かれ、ここでの会話をそっちのけでチャンミンだけを目で追っていたこと気付いた。

 

「すみません、なんでしたっけ?」

 

ところが、視界の隅にさっとかすめた光景に、ひやりとした。

 

心中で舌打ちした。

 

X氏がチャンミンの背後から近づき、不意打ちのように肩を叩いているところだった。

 

チャンミンの身体が大きく痙攣し、背後を振り向いた顔が驚愕のそれに変わった。

 

縦にも横にも大きな身体で、チャンミンの長身瘦躯が隠れてしまった。

 

「ユンホさん!」

 

今度は咎める口調で呼ばれ、意識を正面の者に戻した。

 

ぺらぺらと動く赤い唇を忌々しく思いながら、俺は愛想よく頷いたり笑ってみせた。

 

会話が全く、頭に入ってこない。

 

(あ...!)

 

二人は言葉を交わしている。

 

嫌な予感がした。

 

 

 

(つづく)

 

 

[maxbutton id=”23″ ]

義弟(41)

 

 

 

~チャンミン17歳~

 

 

ぐたりと虚脱した身体は言うことをきいてくれない。

 

耳の奥がキーンとしていて、目を開けているのかつむっているのかも分からない。

 

僕の意識が現実世界に戻ってくると、ベッドの上には僕ひとりだけで、ジャケットに腕を通す義兄さんの背中が見えた。

 

「気が付いた?」

 

振り返った義兄さんのすっきりとした顔に、「よかった」と思う。

 

溜まっていたものを全部、僕の中に注ぎきった証だから。

 

「もう行っちゃうんですか?」

 

この時の僕は、媚を含んだ、すがるような情けない顔をしていたと思う。

 

「ごめんな」

 

もう一押しすれば、義兄さんのことだ、「あと15分だけ」と言って僕の中に押し入ってくれたと思う。

 

30分のつもりが、行為にのめりこんでしまった末、30分オーバーしていた。

 

「分かりました」

 

義兄さんをマズイ立場に陥らせるわけにはいかないから、僕は聞きわけのよい子を装うのだ。

 

「ほんとにごめん」

 

着がえ終えた義兄さんは、冷蔵庫からミネラルウォーターを取ってきて、そのボトルを僕の頬に付けた。

 

「冷たいです!」

 

義兄さんは、こういった小さな悪戯をしてくることがある。

 

義兄さんの背中に抱きつきたくなった。

 

立ちあがったところ、膝の力がかくんと抜けてしまい、よろめいた僕は素早く伸びた義兄さんの腕に抱きとめられた。

 

「すみません...力が入らなくて」

 

「久しぶりだったから...イジメ過ぎたかな?」

 

義兄さんの眼が弓型になっていたから、僕を照れさせて面白がってるんだ。

 

「...義兄さん...意地悪ですね」

 

照れ隠しに、さっき僕がかき乱してしまった義兄さんの髪を、なでつけてあげた。

 

「今夜、チャンミンにプレゼントがあるから、楽しみにしてて」

 

ここに来る前から既に、その期待と予感がしていたけれど、「なんですか?」と首を傾げてみせた。

 

「おこずかいは足りる?

夕飯は適当に食べてて」

 

財布から紙幣を抜き出して、僕の手に握らせようとした。

 

「そんな!

悪いです」

 

引っ込める手は、素早く伸びた義兄さんの手に捕まり、強引に握らされた。

 

「大人のメンツを立てることも大事だよ。

ルームサービスも遠慮なく取っていいからな」

 

「...でも」

 

「20時には戻れると思う」

 

義兄さんは、チュッと音をたてて僕の頬にキスしてくれた。

 

「行ってらっしゃい」

 

僕はドアから頭だけを出して、義兄さんが廊下の角に消えるまで見送った。

 

奥がむずむずする。

 

力を緩めると、熱いものがとろりと内ももを濡らした。

 

 

 

 

義兄さんは僕をモデルに、いい感じに描いてくれる。

 

絵の中の僕は、淡い光が注ぐ窓辺で穏やかな表情をしているんだ。

 

兄さんの目には、僕はこんな感じに映っているのかな。

 

もしそうならば、いい感じだ。

 

義兄さんを見送った僕は、バスルームに急行して手早くシャワーを浴びた。

 

身を屈めて、じんじんと熱を帯びたそこを洗い流した。

 

自宅のものとは大違いの、分厚いバスタオルで身体を拭いて、白いタイルとガラス張りのスタイリッシュなバスルームを見渡した。

 

ここに居る自分が信じられない。

 

湧きおこるワクワク感に、じっとしていられなくて足をバタバタと踏み鳴らしてしまった。

 

 

 

 

絶対に邪魔はしないからと、駄々をこねた僕は今、イベント会場に居る。

 

義兄さんに電話をかけて、お伺いを立てた。

 

「Xさんと出くわすかもしれないぞ?」と、義兄さんは心配していた。

 

「見かけたら隠れますから」

 

新鋭作家の5人の代表作品展は、D県唯一のコンベンションセンターで開催されていた。

 

入場するにはチケットを購入する必要があった。

 

受付カウンターで義兄さんの名前を出すと、既に話が通してあったらしく、関係者の名札を渡されてそのまま入場を許された。

 

特別扱いに、胸がこそばゆかった。

 

高い天井からのぼりが垂れ下がり、そのうちのひとつが義兄さんの雅号だった。

 

そこを目指して、広大なホール内を大勢の入場者の隙間をぬって歩き進める。

 

どこかで見たことがある作品がそこかしこにあって、注目を浴びる作家の一人に義兄さんが選ばれたことを僕は誇りに思った。

 

勧められたドリンクを遠慮なく貰い、一気飲みした。

 

喉が渇いていたのだ。

 

慣れない場所、初めての体験に、とても緊張していた。

 

 

 

 

僕は「姉さんと別れないで」と、義兄さんにお願いした。

 

「チャンミンの言う通りにするよ」と、義兄さんは答えてくれた。

 

これで不安の一部が解消された。

 

義兄さんが、姉さんの夫でいる間は、僕を捨て去ることは難しいから。

 

ところが。

 

X氏との関係を絶たないといけない大問題がある。

 

義兄さんに正直に打ち明けようか?

 

義兄さんに助けてもらおうかな?

 

義兄さんは怒るかな?

 

怒るだろうな。

 

X氏に対して怒るかな。

 

それとも、僕に対して怒るかな。

 

駄目だ。

 

幻滅されてしまう。

 

嫌われてしまう。

 

愛想をつかされてしまう。

 

そもそも、打ち明ける必要はあるのかな?

 

義兄さんに打ち明けたところで、この問題を解決できるはずがない。

 

X氏からは、ストレートにあの写真をばらまくと言われたわけじゃない。

 

万が一、あの動画や写真が義兄さんの目に触れるようなことがあったら!

 

その前に、僕の口からカミングアウトした方がいいよね。

 

なんとなく...X氏は僕の好きな人は義兄さんだって知っている気がするんだ。

 

X氏は義兄さんに、僕とのことを匂わすことを言いだすかもしれない!

 

義兄さんはX氏から仕事をもらっている立場だ。

 

駄目だ...義兄さんに打ち明けるわけにはいかない。

 

「...あ」

 

足が止まった。

 

呼吸が止まった。

 

女の人だけを描く義兄さんだった。

 

裸婦画ばかりが並ぶ中、それだけがデッサン画だった。

 

僕だった。

 

しばらくそこに立ち尽くしていた。

 

じわっと涙がこみあげてきて、僕は慌てて目をしばたたかせ、トレーナーの袖口で目頭を拭った。

 

義兄さんったら、いつの間に...。

 

初めて義兄さんの前でポーズをとった時のものだった。

 

作品の中で僕は、毛布にくるまってマグカップを手にしていた。

 

デッサンを終え、震える僕に毛布を放ってくれて、熱いココアを淹れてくれたんだっけ。

 

今まで忘れていたけれど。

 

義兄さんに淡い恋心を抱いていた頃の僕が、ぎこちない笑顔を浮かべてこちらを見ていた。

 

あの頃の僕。

 

未だ真っ新だった僕。

 

義兄さんの瞳を通した僕の姿。

 

義兄さんの心が、僕の胸にズドンと飛び込んできた。

 

ますます好きになっちゃうじゃないですか。

 

今の僕は、義兄さんに好かれる価値がない人間なんです。

 

僕は穢れているんです。

 

どうしたらいいか分からないんです。

 

でも、なんとかします。

 

脅迫まがいなことを口にして、義兄さんを困らせて悦んで、僕ときたら何やってんだろう。

 

あんなこと言ったけど、僕は義兄さんを独り占めしたいです。

 

義兄さんが好き過ぎて、胸が苦しいです。

 

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”31″ ]

[maxbutton id=”23″ ]

義弟(40)R18

 

 

 

~チャンミン17歳~

 

 

激しかった。

 

喉から胃袋が飛び出るんじゃないかくらい、奥の奥まで突かれた。

 

出だしはいつもと同じ流れだった。

 

服を脱ぐのももどかしい僕たちは、ボトムスをずらして、肝心な箇所だけを出しただけ。

 

舌を絡めて吸いながら、下着から勢いよく跳ね出た義兄さんのものに、僕の喉が鳴る。

 

僕のものだって、似たような状態だったからおあいこだ。

 

早く繋がりたくて、気が急いてしまう。

 

僕の上になった義兄さんのペニスを、僕の唾液と彼の先走りで混ぜ合わせながら、力強く上下にしごく。

 

その間、義兄さんはたっぷりと濡らした2本の指で、念入りに僕の穴を拡げていく。

 

「チャンミンはエロい高校生だな。

子供のくせに、ここ...いじってただろ?」

 

「...してないっ...!」

 

「嘘ばっかり。

久しぶりなのに...ほら...簡単に入るよ?」

 

「...んっ...それは...はぁ...」

 

「...ここは?」

 

卑猥な言葉に感じてしまう僕を知ってる義兄さんは、陰嚢の後ろを強く刺激するんだもの。

 

「...っはぁ!」

 

僕はエビ反りに跳ねてしまうのだ。

 

 

 

 

義兄さん...ごめん。

 

義兄さんのをいつでも受け入れられる理由は、自分の指だけじゃなく、他の誰かのモノでかき回されているからなんだ。

 

X氏と別れられずにいた。

 

誰かにバラすと、彼から強請られていた訳じゃない。

 

距離を置こうと努力していた時期もあった。

 

その時期もそう長くは続かなかった。

 

なぜなら、一度だけ見せられた、行為の真っ最中の動画、白目をむいた僕のイキ顔。

 

もしあれが、義兄さんの目に触れることが起こってしまったらどうしよう!

 

誘われ断ると、X氏は「そう。残念だ」と、あっさりと引き下がる。

 

かえって怖くなった。

 

結局、あの時の恐怖がこびりついていたこともあって、X氏に呼ばれれば馳せ参じるようになった。

 

未成年と性交しているX氏を、訴えることもできた。

 

そんなことをしたら、僕のやってきたことがつまびらかになってしまう。

 

X氏に反旗を翻したら、マズイことばかりしか起こらない。

 

そもそも、X氏を誘ったのは、僕の方だったのだ。

 

淡々と行為に応じていれば、そのうち僕に飽きてくれるだろう。

 

しばらくの間の辛抱だ。

 

だから、X氏と繋がっている間は、ずっと義兄さんのことばかり思い浮かべていた。

 

X氏を義兄さんだと思って、ありとあらゆる体位でも応じた。

 

新しい小技をX氏から仕入れたりもして...。

 

 

 

 

僕の準備が整うと、ベッドに両肘をついてお尻を高くつきあげた格好で、義兄さんの侵入を待つ。

 

両尻を割って露わにしたそこに当てがって、くるくると焦らすように滑らしたのち、ゆっくりと時間をかけて埋めていく。

 

性急に突っ込んでくるX氏とは、天と地ほどの開きがある。

 

義兄さんの行為には愛がこもっている。

 

僕の反応を見ながらじわりと攻める時もあれば、とんでもなく恥ずかしい恰好をさせて、恥ずかしがる僕を見て愉しむ時もある。

 

今日の義兄さんは、いつもとちょっと違った。

 

優しいのだけれど、荒々しいのだ。

 

仰向けになった僕の両脚は、左右に大きく開かれた。

 

「...やだ...恥ずかしい...」

 

僕のボトムスはとうの前に脱がされてしまっていた。

 

上はトレーナーを着たままだったから、滑稽で恥ずかしくてたまらない。

 

それなのに、義兄さんは着衣のまま、前を出しただけだ。

 

僕ばかり、ずるいよ。

 

腰の下にクッションをあてがわれ、もっと高く腰を突き上げた姿勢にさせられた。

 

「...やっ...これ、恥ずかしい...やだ」

 

僕の「止めて」なんて、義兄さんは本気にしない。

 

「ホントにいや?」

 

「......」

 

義兄さんは僕の両膝をマットレスにつくまで押し下げた。

 

「やだ...義兄さん...や...」

 

ずんと衝撃の後、強烈な痺れが脳天を貫いた。

 

真っ直ぐ奥深く突かれるその体位は、強烈過ぎる快感を与えてくれて、たちまち僕はとりこになった。

 

僕の恥ずかしい場所が義兄さんに全部、見られている。

 

途中でわけがわからなくなってしまい、おかしな声を出しっぱなしだった。

 

パクパクさせた僕の口を、義兄さんは斜めに塞ぐ。

 

「んっ...やっ、やっ...ああぁっ...ああ!」

 

義兄さんの口の中で、僕は止められない喘ぎを漏らし続け、首を振って彼の唇から逃れた。

 

無理な姿勢で腰が痛かったのも、すぐに気にならなくなった。

 

「んっ..んーっ、んぐっ...んんーっ!」

 

義兄さんの息がいつも以上に荒く熱い。

 

ふうふう言ってる。

 

いつもと違う環境と、僕の恥ずかしい恰好に興奮しているのかな。

 

僕の足首を持って、上下前後と奥までぐいぐいと突き刺す。

 

「やっ、いやっ...壊れる!

壊れる...やっ、やっ!」

 

静かな部屋にクチクチと嫌らしい音。

 

「んーっ、んんーっ...んんっ、んーっ」

 

下腹から容赦なく弾ける快感を、手探りでつかんだ枕を噛んで逃したのだった。

 

アトリエのソファで慌ただしく抱き合う時とは違う。

 

今だって制限時間30分で、時間に余裕があるわけじゃない。

 

僕だけ2度も達していて、放ったもので胸を汚した。

 

再び後ろから突かれる。

 

ぐりぐりと、あの辺りばかり攻められる。

 

良すぎて苦しい。

 

口は開きっぱなしで、唾液をダラダラと垂れ流していた。

 

最後にひっくり返されて、義兄さんの上にまたがった。

 

その時には、恍惚と快感を貪欲に追い求めて、自ら腰を振っていた。

 

真下から突き上げられる。

 

弓なりにのけぞる。

 

おかしくなる!

 

おかしくなっちゃう!!

 

もっともっと突き上げられて、僕の身体が大きく跳ね上がる。

 

「あー、ああー、あっ...あああぁぁぁぁ!!!」

 

視界が真っ白になった瞬間。

 

喘ぎ声の大きさに慌てた義兄さんは、僕の口を塞いだのだった。

 

もちろん唇で。

 

初めてベッドの上で抱かれて、僕は幸せいっぱいで涙をこぼした。

 

鼻水も出てきて、ひどい顔をしていたと思う。

 

そのどろどろを、義兄さんの大きな親指で優しく拭われた。

 

「好きだよ」

 

義兄さんは僕の耳元で囁き、僕はこくりと頷いた。

 

「僕も...好きです」

 

義兄さんは微笑する。

 

艶やかな天使の顔で。

 

目尻から頬へつつっと滴り落ちた涙を、義兄さんはぺろりと舐めてくれた。

 

とても素敵だった。

 

 

 

(つづく)

 

[maxbutton id=”23″ ]