義弟(13)

 

~ユノ33歳~

 

胃の辺りから、ずくんと痺れが立ち昇って、少女のような愛らしいチャンミンの目に射すくめられた。

 

駄目だ。

 

チャンミンは、妻の弟で、子供で、男だ。

 

「ここでとどまるんだ」と理性の声が聞える。

 

ところが...。

 

服を着せてポーズをとらせるか、もしくは毛布をかけてやれば済むことなのに、俺の手でチャンミンを温めてやらないと、と思ったのだ。

 

チャンミンの傍らに、ソファにもたれるように腰をおろした。

 

チャンミンはつかんだままの俺の手を、自身の胸に導く。

 

俺の手は拒むどころか、自らチャンミンの肌に吸い寄せられた。

 

筋肉の発達していない、固くて平らな胸はしっとりと滑らかだった。

 

「義兄さんに触られて、僕の心臓がどれだけドキドキしているか。

確かめてください」

 

チャンミンの言う通り、手の平は彼の胸の鼓動を感じとっている。

 

早く力強い鼓動は、チャンミンの緊張と熱情を如実に表している。

 

俺の小指にチャンミンの小さな突起が触れていた。

 

この子に操られてはいけない。

 

この子を侮っていたらいけない。

 

誘ってる...と直感した。

 

「温めてくれないのですか、義兄さん?」

 

俺は動いた。

 

理性からの制止なんて、あっさり突破してしまった。

 

 

ごくり、と喉が鳴った。

 

チャンミンは俺を凝視したままで、その眼はにごりなく純真そうだった。

 

白目と黒目の境がくっきりとした、生後間もない赤ん坊のような作り立ての眼。

 

それなのに、とろんと瞼をわずかに落とした色気を漂わせた眼で、俺を見上げている。

 

「僕を...温めてください」

 

「温める...って?」

 

チャンミンの言いたいことが、どういうことなのか察していたが、まさか行動に移すわけにはいかない。

 

「分かってるくせに」

 

くすくすとチャンミンは笑った。

 

美しく妖しい、妖婦の笑いだった。

 

自身の美しさが他人にどう影響を与えるのか、この子は16歳にして気付いている。

 

「もっと触って下さい」

 

胸に置いた俺の手首をつかむと、誘導するようにその手を動かし始めた。

 

人差し指にチャンミンの突起が触れ、彼は小さく円を描くように俺の手を動かす。

 

指の腹の下でそれは徐々に尖り、たまらず指先でそれを押しつぶした。

 

「あっ...」と、チャンミンの口から短い声が漏れた。

 

常時不機嫌そうに引き結んでいる唇が、うっすらと開いている。

 

「もっと、触ってください」

 

薄く固い胸を女にするように、手の平全体で揉みしだき、往復する度に尖りを指先で引っかけた。

 

すると、それに合わせてチャンミンは、かすれ声を漏らす。

 

視界の端で、チャンミン股間の変化を捉えていた。

 

十代後半を迎えたチャンミンの身体は、ほぼ大人と同じ。

 

けれども、見てはいけないものを目にしてしまった気まずさがあった。

 

視線を先に延ばすと、網ストッキングを履いた両脚が膝をすり合わせるようにうごめいていた。

 

たまらない...。

 

でも...こんなの、間違っている。

 

逃げる俺の手を、チャンミンはつかんで離さない。

 

それどころか、俺を傍に引き寄せようとしている。

 

こんなやせっぽっちの少年の力くらい、簡単に引き離すことができるはずなのに、チャンミンにされるがままだった。

 

「チャンミン...駄目だよ」

 

喉がからからで、その声はひどくかすれていた。

 

「駄目じゃないですよ。

眺めるだけじゃ、傑作は描けませんよ。

義兄さんには、僕のありのままを描いて欲しいのです」

 

その解釈にのっかってみようと、俺の心が動いた。

 

チャンミンは、俺の本心を見抜いている。

 

チャンミンに対して、淫らな欲望を隠し持っていることを、知っているのだ。

 

彼は本心で俺を誘っている。

 

一瞬、チャンミンの視線が下りた時、俺の高まりを確認したに違いない。

 

隠しようがない。

 

鳥肌が立っていた青ざめた肌が、今じゃピンク色に染まっていた。

 

チャンミンの汗の匂いがする。

 

動物的な濃い匂いだ。

 

チャンミンのもう片方の手が、俺の肩に乗った。

 

「...男は、イヤですか?」

 

「...」

 

肩の上の手指に、力が込められてきた。

 

「それとも...子供過ぎて、良心が痛みますか?」

 

「良心」の言葉に、俺は顔を背けた。

 

「義理とはいえ弟。

奥さんの弟です。

...気になりますか?」

 

「!」

 

ぐいと引き寄せられ、チャンミンの胸に追突しそうになった。

 

ソファの背にとっさに手を突いて、免れた。

 

端正なチャンミンの顔と、15センチの距離にある。

 

チャンミンの小さな喉仏が、こくりと上下した。

 

「姉さんが羨ましいです。

義兄さんは綺麗な顔をしています」

 

チャンミンの細い指が、俺のうなじから後ろ髪に差し込まれた。

 

頭皮からぞくぞくっと甘い痺れが走る。

 

この後の行為を容易に想像できて、俺の心は逡巡する。

 

乗るか反るか。

 

「ブランケットをとってくるよ」

 

「......」

 

「......」

 

跳ね起きるように、引きはがすように、俺は立ち上がった。

 

危なかった...。

 

チャンミンに気付かれないよう、深呼吸をした。

 

全身が熱かった。

 

「義兄さん」

 

「何?」

 

俺は振り返らなかった。

 

「残念です」

 

チャンミン。

 

俺の方は、残念じゃないよ。

 

危なかった。

 

直前で引き返せて、心からホッとしているんだ。

 

俺は後先考えず、衝動的に行動できるような子供じゃない。

 

責任がある。

 

お前のような子供にのせられて、現在と将来を複雑にするつもりはないんだ。

 

描きかけのキャンバスに対峙する。

 

見る者と目が合うように描いているから、絵の中のチャンミンもこちらを見ている。

 

作品を仕上げなければならない。

 

キャンバス越しに、ソファで横たわるチャンミンを見ると、いつも通りの不貞腐れた顔に戻っていた。

 

 

(つづく)

 

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義弟(12)

 

 

~ユノ33歳~

 

23時を過ぎても7割方の席が埋まっている。

 

ぐるりと店内を見渡すと、客の大半は男女のカップルだが、その他参考書を広げた勤め帰りの社会人や、読書に夢中な大学生風も。

 

オーナーの狙い通り、深夜2時まで営業しているこのカフェは、騒がしい客のいない大人向けの場となっている。

 

店内に入るとすぐに、真正面の壁のイラスト画が飛び込んでくる。

 

赤いワンピースを着た、Funnyな女の子。

 

「ヘタウマで頼む」との注文に従って、黒の線画にべた塗りで色付けして仕上げた。

 

今夜の俺の目には、ワンピースの彼女がチャンミンに見えてしまう。

 

それもそのはず、このイラストの女性のモデルはBだ。

 

壁画に取り掛かった当時、プロポーズにYESを貰ったばかりだったのだ。

 

デフォルメされてるし、注文主のオーナーも知らないこと。

 

深夜近くのカフェに俺がここにいるのは、当カフェのオーナーとの打ち合わせのためだ(新店舗をオープンする計画があるらしい)

 

到着に30分遅れると当人から連絡を貰った俺は、カフェラテでも飲みながら...カップにプリントされているイラストも俺が手掛けた...待つことにした。

 

頬杖をついてぼんやりと、窓の外の人通りの途絶えた通りを見ることもなく眺めていた。

 

外は夜、窓ガラスには店内の様子が映っている。

 

え?

 

入店してきた新しい客に、俺の焦点が合う。

 

あの頭の形、ひょろりとした長身とあの身体付き、あの歩き方。

 

見間違えようがない...チャンミンだった。

 

暗色のコートを脱いだ中は、パーカーと細身のパンツ姿だった。

 

シンプルな装いが、より彼の美しさを際立たせていた。

 

それにしても...16歳の子供が外出していい時間帯じゃないだろう。

 

こんな場所で遭遇した偶然が嬉しくて、声をかけようと腰を浮かせた。

 

「...あ」

 

チャンミンは一人ではなく連れがいて、その相手がMちゃんだった。

 

どっと、腹の底が冷えた。

 

浮かせかけた尻を椅子に戻し、俺は何てことなかった風に、気持ちを落ち着かせるためにカップを手にした。

 

カップを持った指が震えていた。

 

彼らは店奥にいる俺に気付かず、顔を寄せ合って会話に集中しているようだった。

 

「偶然だね」と2人に声をかけてしまえばよかったのに、そのタイミングを失ってしまった。

 

胸が詰まってしまって呼吸がしづらく、深呼吸をする。

 

動揺していた。

 

タブレットに視線を落として、彼らに全く気付いていないふりをするしかなかったのだ。

 

先に気付いたのが俺である点が、癪だったのだ。

 

加えて、頬のひきつりを隠して、余裕ある微笑みを彼らに見せられる自信がなかった。

 

恰幅の良い身体を揺らして約束人が現れ、俺は頭を切り替えた。

 

声の大きいオーナーに、彼らがこちらに気付くのでは、とヒヤヒヤしながらの打ち合わせが始まった。

 

オーナーの肩ごしに、チャンミンの後頭部と背中をちらちらと見る。

 

彼らは気づかない。

 

気付いて欲しいような、欲しくないような、複雑な心境だった。

 

知らぬ間に、彼らはそういう関係になっていたのか...。

 

俺には出る幕はない。

 

16のガキと21の小娘に、なぜこうも気持ちをかき乱されるのか。

 

いい加減認めよう。

 

俺はチャンミンに惹かれている、かなり本気に。

 

絵画制作にかこつけて、美少年を裸に剥き、網ストッキングを履かせ、アクセサリーを身につけさせて。

 

想いの正体が恋心なのか、はたまた性的欲求に過ぎないのか、現段階では判別がついていない。

 

だが、チャンミンに心惹かれているのは確実で、彼をどうにかしたい欲望は抑えきれないところまで膨れ上がっている。

 

どうにかしたいとは、何を指すのか...その通り、アレのことだ。

 

近頃の俺は、新妻のBをその弟チャンミンに重ね合わせて抱いている。

 

酷い男だ。

 

チャンミンは未だ16歳だぞ?

 

いかれてる。

 

しかし...。

 

なあ、チャンミン。

 

俺を煽るだけ煽っておいて、今のは何なんだ?

 

からかっていたのか?

 

新店舗のコンセプトを熱く語るオーナーに頷きながら、頭の片隅では昼間の出来事を振り返っていた。

 

 


 

チャンミンの様子がおかしかった。

 

「体調が悪いのか?」と尋ねても、「何でもないです」と首を振るばかりだった。

 

「寒いだけです...さっさと描いてください。

僕は裸なんですよ?」

 

3月末というのに寒波に襲われた日で、窓ガラスは結露で曇り、エアコンもストーブも最強にしてもなかなかぬくもってくれない。

 

チャンミンは膝を持ち上げ、爪先をぴんと伸ばす。

 

16歳の美しい少年に、網ストッキングを履かせる俺。

 

なんて艶めかしく、淫靡な光景なんだろう。

 

この場をのぞき見する第3者の目を想像してみたら、興奮してきた俺がいた。

 

寒さで小刻みに震えるチャンミンの肌に、この手を隅々まで滑らせたくなった。

 

網目の引っ掛かりと、その下の温かい肌を感じながら、手の平を上へと滑らしていく。

その手は膝の皿、細いが弾力ある太もも、脚の付け根までいき、その内側へ忍び込む...。

 

何をしようとしていた?

 

一瞬浮かんだ淫らな妄想を振り払おうと、俺は弾むように立ち上がった。

 

「義兄さん」

 

ぱしっと手首を捕まえられて、見下ろすとチャンミン三白眼がらんらんと光っていた。

 

「チャンミン?」

 

「さすってくれないのですか?」

 

「え...?」

 

驚きであげた俺の一音は、かすれていた。

 

「この部屋は寒すぎます。

さすってくれないのですか?」

 

この子は何を突然、言い出すんだ?

 

確かにチャンミンの全身に鳥肌がたっていて、彼のものも小さく縮こまっていた。

 

「温めてください。

寒いのです」

 

下がった口角、引き結ばれた青ざめた唇なのに、なぜか目の縁は赤くて、今にも泣き出しそうなチャンミンだった。

 

 

(つづく)

 

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義弟(11-2)

 

~ユノ35歳~

 

「義兄さん、どうでした?」

 

チャンミンは俺の肩や耳たぶを、ふざけて甘噛みしながらそう尋ねた。

 

「新しいクリーム、どうでした?」

 

「いいんじゃないかな?

乾きにくいし」

 

「ふふふ。

そうでしょう?」

 

チャンミンが言うクリームとは、男同士のアレに使うもののことだ。

 

知人から手に入れたものをぜひ試してみたいと、放課後に尋ねてきたチャンミン。

 

そしていつものように、事務所のソファの上で絡み合う。

 

俺に揺さぶられて揺れるチャンミンの胸が、ブラインドが作る夕日で縞模様になっている。

 

「俺はもうギブだ」

 

チャンミンは、弛緩した俺の股間に顔を埋めている。

 

「ふふふ。

そう言わないで」

 

チャンミンは10代らしく、溢れんばかりの体力と精力を持ち合わせていて、会えば毎回求められる。

 

「チャンミン」

 

「はい」

 

「知人って...そっち関係のか?」

 

「義兄さんには関係ないことです」

 

どこで覚えてきたのか、舌を巧みに使って俺のものを育てていく。

 

「関係ないって言ってもなぁ...」

 

チャンミンにはチャンミンの世界...俺の知らない世界がある。

 

チャンミンが何を見て考えているのか、今もつかみきれていない。

 

尋ねても俺が知るべき情報の10分の1も聞かせてくれない子だから、チャンミンが自ら話し出すのを待っていたら、彼に近づけない。

 

出会って3年近く経ったのに、俺にとってのチャンミンは未知で、神秘的な生き物なのだ。

 

想像したとしても、それは俺基準のモノサシで見ているから、生身のチャンミンの思考とは大きく乖離していると思う。

 

疎ましがられても、チャンミンの眼を覗き込み、優しい口調で根気よく尋ねなければならない。

 

そして、チャンミンの言葉を鵜呑みにしてはいけない。

 

寂しいことに、俺たちは肉体の深いところで結びつきあっているのに、心同士もそうだと言い切れなかった。

 

近づいたかと思えば、するりと離れてしまう理由を、チャンミンの屈折した性格のせいにしたらいけない。

 

俺が自らの立場を見失ってしまった結果が、妻の弟と不倫。

 

罪悪感にかられてチャンミンを手放すつもりは、今の俺にはない。

 

迷いと罪悪感だけに感情を支配されていて、チャンミンをほとんど見ていなかった時期があった。

 

あれだけチャンミンの肉体を貪っていながら、彼の気持ちを推し量ることを怠っていた。

 

その結果、チャンミンの心も身体も深く傷つけてしまったことがあった。

 

あの時は辛かった。

 

一途で危なっかしいところだらけのチャンミンの心配をすることが、俺ができる愛情表現のひとつだ。

 

チャンミンは、俺が放っておかないことを知っている。

 

知っていて俺を煽るようなことをする。

 

気持ちを試そうとする子供っぽい数々の言動に、俺は微笑ましく思ったり、自らを傷つけるような行いで冷や汗を流すこともある。

 

「今日はマジでもう、ギブなんだ。

指で勘弁してくれ」

 

「義兄さん...ねえ...もっと、ここを...。

そう...そこです...ああぁ...いいです、そこです」

 

18歳のくせに、どこからそんな色っぽい、女みたいな甘い声を出せるのか。

 

驚きと満足感を味わいながら、チャンミンの中を荒すのだった。

 

 

(つづく)

 

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義弟(11-1)

 

~チャンミン16歳~

 

女の子には人並みに興味がある。

 

僕には相応しくないと散々馬鹿にしているけれど、やっぱり興味がある。

 

学校で、街で、それからメディアで、可愛い女の子や綺麗な女の人を見れば、じっと見てしまう。

 

腰の奥にぐんと力がこもって、抑えきれない波を隠すのに必死だった。

 

自室で、風呂場でトイレでと、彼女たちを想像の中で裸にして、自身の先をいじっている。

 

四六時中、セックスのことばかり考えている。

 

女の子相手にエッチなことをする妄想が、近ごろはおかしな方向にいってしまっているんだ。

 

 

変な夢を見た。

 

僕と義兄さんが裸になって抱きあっていた。

 

義兄さんの肌の温かさや匂い、弾力が夢の中にしてはリアルだった。

 

僕は、義兄さんを抱いたらいいのか、抱かれたらいいのか分からなくてパニックを起こしていた。

 

僕と義兄さんはただ、抱き締めあうだけだ。

 

義兄さんのものが僕の腹に触れていて、僕はそっとそれを握った。

 

でも、その先が分からない。

 

僕の方も下腹の底が痛いくらいに疼いていて、そこに手を伸ばす。

 

そこにはあるべきものがなくて、僕は再びパニックを起こしかけた。

 

義兄さんは「それでいいんだよ」と、僕の背を撫ぜた。

 

そっか、僕は女の子になったんだ。

 

おかげで義兄さんとセックスができるようになった、と安堵と喜びで胸がいっぱいになった。

 

義兄さんを受け入れられる身体になれた僕は、義兄さんを受け止める。

 

どくどくと、たぎっていたものを開放させた直後、僕は目を覚ました。

 

くちゃりと濡れた不快な感触に、舌打ちし、唸るようなため息をついた。

 

何やってんだ?

 

浅ましい自分が恥ずかしい。

 

家族が起き出してこない早朝で助かった。

 

汚れた下着を洗いながら、僕は情けない気持ちと、開き直った清々しい気持ちの両方を抱えていた。

 

夢の中の僕は、どう動いたらよいか流れが分からずに、戸惑っていた。

 

そんな僕をリードした義兄さん。

 

何も知らない僕と、慣れている義兄さん。

 

未だ童貞の僕と、経験豊富な義兄さん。

 

...フェアじゃない。

 

「好きだ、付き合いたい」と僕に近づいてくる者は多くても、そのうちの誰とも付き合ったことがない。

 

僕の方から想いを告げるに価する者と出逢ったこともない。

 

付き合うとはイコール、ヤルことだろう?

 

チャンスはいくらでも転がっていたのに、意にそぐわないと全員退けてきた。

 

「チャンミンはもう済ませたクチ?」

「そんなところ」

「だろうなぁ。

いいなぁ、チャンミンは選びたい放題だもんなぁ」

 

スカした顔してて、実はそれの経験がない僕は、カッコ悪すぎる。

 

エロい想像力ばかりたくましくさせていて、実体験がない。

 

夢の中とはいえ、まごついていた自分はダサすぎる。

 

なんとかしないと。

 

経験の数ばっかりは越えられないけど、全てにおいて経験不足のガキだと思われたくなかったんだ。

 

義兄さんの上になるのか、それとも下になるのか、どっちに転ぶのだろう。

 

彫刻のように美しく逞しい義兄さんを四つん這いにさせるのか。

 

それとも...僕が女の子になればいいのか。

 

夢の中で僕は義兄さんのものを受け入れていた。

 

思い出していたら、僕のものが首をもたげてきた。

 

たまらず僕は下ろした右手で包み込み、しごく。

 

家族がいつ起き出してくるか、ヒヤヒヤしながらの自慰は、僕を異常に興奮させた。

 

自身の手で与える快感しか知らない僕は、カッコ悪すぎる。

 

早くなんとかしないと。

 

 

答えを出すのが怖くて、認識したら最後、本当のことになってしまうと避けていた考え。

 

もう認めてしまおうと、腹を決めた。

 

僕に色めき立った視線を送る女子学生、ときどき男子学生。

 

僕に色めき立った視線を送る教諭をはじめとする、大人たち。

 

僕に相応しくないと、露とも心惹かれなかった。

 

僕に相応しいか相応しくないかの線引きとは、一体何なのか?

 

答えは、僕がその人に興味を持っているか持っていないか。

 

興味を持っている、なんてぬるい言い方をやめて、もっとストレートに言う。

 

その人の側に近づきたいと、望むか望まないか。

 

もっともっと、はっきり言う。

 

義兄さんのことが気になって仕方がない。

 

それだけじゃなく、義兄さんにはもっと僕に興味を持って欲しい。

 

義兄さんは僕に相応しい人だ。

 

だって、僕は義兄さんのことが嫌いだから。

 

僕よりもうんと年上で、成功している大人な義兄さんが嫌いだ。

 

僕の何倍も綺麗な顔をしていて、天使の笑顔を見せる義兄さんがずるい。

 

よりによって僕の姉さんと結婚している義兄さんが憎い。

 

うっとりと目を潤ませて、男の僕を見る義兄さんが嫌いだ。

 

見て欲しい、触って欲しいと僕にそう思わせる義兄さんが嫌いだ。

 

姉さんと結婚している義兄さんが大嫌いだ。

 

嫌いなのに、義兄さんが恋しい。

 

この感情が恋ならば、僕は義兄さんに恋をしている。

 

だから、義兄さんは僕に相応しい人なんだ。

 

 

(つづく)

 

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義弟(10)

 

~ユノ33歳~

 

 

「欲しい物、ある?」

 

夕飯の食卓で、俺はBに尋ねた。

 

「急にどうしたの?」

 

Bはサラダをつつくフォークを止めた(体重管理に情熱を燃やしている)

 

「う...似てる」と、ドキリとした。

 

きょとんとした顔が、チャンミンに似ていた。

 

そっくりとまではいかないが、例えばやや離れ気味の目だとか、太めの鼻筋といった顔のパーツの造りが似ていた。

 

Bも美人だが、チャンミンのような凄みのある端正さに欠けていた。

 

「もうすぐ誕生日だろう?

リクエストがあれば、と思って。

俺が勝手に選ぶより、Bが欲しいものをピンポイントで贈った方が、嬉しいだろう?」

 

「そんなこと言っちゃって、本当はもう用意してるくせに」

 

「えっ!?」

 

思い当たることが全くなかったから、Bが言うことにクエスチョンマークだった。

 

「私、見ちゃった」

 

Bには無邪気なところがあって、そこが彼女の美点であり、俺が惹かれた理由のひとつだ。

 

Bをモデルにした絵画の制作過程で、濃密な時間を共有した。

 

差し込む日差しを逆光にして窓辺に立たせたり、チャンミンに見せたもののように、あのソファに横たわらせたりもした。

 

憑かれるように制作に没頭し、小作品も含めれば、5点ほど完成させた。

 

Bを手に入れて俺は、幸福のはずだった。

 

ところが、初対面から俺をじとりと湿った睨みをきかせたチャンミンに、俺はショックを受けた。

 

ただのガキ相手にムキになる必要はないし、姉弟仲もイマイチなようだったから、親戚づきあいでも大した接点はないだろうと、放っておけばよかった。

 

妻の弟...チャンミンを無視できなかった。

 

幸福な新婚生活から、意識が反れている自分がいて、その度に自分で自分を叱り飛ばす。

 

当初のじとりと湿った睨み目が、最近ではほとんどお目にかからなくなり、微笑してみせることもあり、俺は嬉しかった。

 

怪我して保護した野良猫が、背中を逆立てて唸っていたのが、徐々に気を許し俺の手から餌を食べるようにまでなった...そんな感覚。

 

 

「見ちゃった、って?」

 

Bの思わせぶりなひと言が気になって尋ねたら、彼女は椅子から立ち上がった。

 

食卓テーブルを回って俺の背後に立つと、俺の首に腕を巻きつける。

 

「ユノ...優しいあなたが好きよ」

 

Bもチャンミンもすらりと痩せていて、押しつけられた薄い胸を背中いっぱいに感じて、俺の胸が苦しくなる。

 

もちろん、Bの場合は二つの膨らみはあるが、チャンミンの場合はそうじゃない。

 

妻の弟に手を出すなんて淫らなことはしていないし、そもそもチャンミンは子供で、男だ。

 

そうであっても、後ろからチャンミンの姉に抱きつかれて、同じ行為をチャンミンがしたら...なんて想像をしてしまった。

 

チャンミンとどうにかなりたい願望を抱いていることの発見に、困惑していた。

 

Bだけを愛していればよかったのに、俺の心にもう一人加わってしまった。

 

その人物の存在感が増してきた。

 

Bへの罪悪感も増してきた。

 

物事が複雑になってしまった。

 

 

「ユノの耳たぶが好き。

こんなに沢山、いくつピアスを付けていたの?」

 

俺の耳たぶを食みながら、Bはふぅっと熱い息をふきかける。

 

チャンミンと血のつながった女なんだと意識すると、一瞬で湧きあがった欲情は強いものとなる。

 

俺はどうかしている。

 

軽々と抱きかかえられる小柄なBと、長々とソファに横たわったチャンミンの身体。

 

Bの首筋に舌を這わせながら、チャンミンの浅黒く滑らかな肌を想った。

 

可愛らしい声で喘ぐBに、俺の指示に従って浅く開いたチャンミンの唇が浮かんだ。

 

俺の動きに合わせて揺れるBの胸と、振動に合わせて音をたてる真珠の首飾りと、のけぞったチャンミンの喉。

 

Bの中をしつこく荒々しく貫きながら、同様のことがチャンミン相手にできそうな気がした。

 

 

翌朝、Bに見送られ、振り返ると俺に手を振るBが満ち足りた表情で、「そうだった、俺たちは新婚だった」と思い至る。

 

胸がきしんだわけは、もちろん罪悪感によって。

 

車に乗り込んだ時、昨夜のBの「見ちゃった」の言葉の訳を知った。

 

Bに車を貸したんだった。

 

助手席に置いたままだった、某ブランドの紙バッグ。

 

艶やかなネイビーのリボンでラッピングされたその中身は、Bのためのものじゃない。

 

誕生日をとっくに迎えていたチャンミンのために用意したものだった。

 

このことを失念していなければ、「悪い、あれはチャンミンへのものなんだ」と答えていたのに。

 

チャンミンと毎週顔を合わせている俺たちの仲だし、彼はBの『弟』で『子供』で『男』だから、Bが不信がる余地なしだ。

 

でも。

 

どうってことない風に、「チャンミン宛のものなんだ」とさらりと言えただろうか。

 

わずかな動揺の色に、チャンミン宛のものじゃなく、どこかの女宛のものなんじゃないかと、Bは疑うかもしれない。

 

そこまで考えが及んでしまうのは、義弟へ贈るにしては高価なもので、贈り物に込めた想いが決してカジュアルなものじゃないせいだ。

 

チャンミンに何かを贈りたかった。

 

誕生日といういい口実に、のっかってみた。

 

「16になりました」とむすりと答えたチャンミン。

 

チャンミンの誕生日なんて全然頭になかったことに、彼に対して悪いことをしたと思った。

 

馴染みのショップで、じっくり時間をかけて選んだ。

 

大人の男のプライドにかけて選び抜いた、とっておきのものを。

 

ムキになっていたんだ。

 

揃って帰っていったチャンミンとMちゃんの後ろ姿に、お似合いだと思った。

 

制服姿のチャンミンとカラフルなMちゃんとでは、ちぐはぐな感じはしたが、私服になればしっくりとくるだろう。

 

年も近い。

 

「あの」チャンミンがMちゃんと連れだって行くとは、彼女から何か通じるものを感じとったのかもしれない。

 

悔しいが、2人はお似合いに見えた。

 

あらためて、俺とチャンミンとの歳の差を思い知らされた。

 

21の女の子に、妙な対抗意識を抱く俺はやっぱり、どうかしてる。

 

 

(つづく)

 

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