(16)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

(まずい...)

 

ユノの脳内に黄色ランプが点滅していた。

 

(ここは、思いっきり目撃したことをせんせの目の前で知らせた方が一番だ。

俺は嘘が苦手だ。

知らなかったフリをしようにも、結局は顔が緩んでしまう。

そもそも、洗面台の上に置いてあったんだ。

目をつむって手を洗ったってか?

気付かないフリは無理がある。

...とにかくせんせには、気まずい思いをさせたらいけない)

 

「すんませんすんません!

タオルっすよね。

ありました~」

 

ユノはリビングに向けて声を張り上げた。

 

そしてこの直後、ビックリ仰天なことが起こる。

 

棚に納められたタオルに手を伸ばした時、タオルに引きずられた何かが床に落下したのだ。

 

「ユノさ...」

 

ちょうどその時、チャンミンは足元に転がったモノに目を丸くするユノと対面した。

 

(あ゛あ゛~~~!)※チャンミン

 

(なんだこの数珠みたいなものは...!?)※ユノ

 

2人は数秒、悪さを目撃された子供...じゃなくて、カンニングがバレてしまった生徒のような表情で顔を見合わせていた。

 

ユノの手にはアレが、床にはソレが転がっている。

 

「え~っと...えっと...」

 

言い訳をこしらえる前に目撃現場を見られてしまい、ユノはもごもご言うしかできない。

 

チャンミンの脳内もめまぐるしい。

 

(僕の馬鹿馬鹿!

指だけじゃ物足りない時の愛用品。

ビーズ型のアレ!

ユノと付き合うようになってから、奥を埋められる感覚をリアルに想像してしまってたまらなくなって...。

酔いに任せてポチってしまったサイズの大きいヤツ...)

 

言い訳案を必死にいくつも絞り出す。

 

(『これは僕のものじゃない...突然、ここに現れた』は無理があるな。

じゃあ、これは?

『友人の忘れ物なんだ』

『実は大人の玩具の卸しを副業でやってるんだ』

『前の住人が置いていったんだ』

『モニターをやっているんだ』

『どんなものかなぁって、興味があって買ってみただけ。まだ使ったことないよ』

ああ~!

全部、馬鹿らしい嘘ばかりだ!)

 

「......」

 

誤魔化せば誤魔化すほど、かえって恥が増すだけだと分かっているため、ここは黙るのが最善だった。

 

ユノは単刀直入に訊ねた。

 

「これ、何ですか?」

 

ユノがそれの用途が思いつかなかったのにはワケがあった。

 

それは取っ手も含めて長さ30センチほど、シリコーン製のしなる細い棒に球体がいくつも繋がっている。

 

(何だ...これ?

便利グッズ?

掃除道具...排水口とかの?)

と、ユノは想像した。

 

「こ、これは!

子供が見るものじゃありません!」

 

チャンミンはユノの手から、それを奪い返した。

 

「子供って...!

俺は成人してますって!」

「いいえ!

ユノさんが見るものじゃありません!」

 

「どうしてです?」

「どうしてもったら、どうしても...です!」

 

チャンミンの顔は、怒りと羞恥で茹でタコになっている。

 

「で、...これって何です?」

「...ぐっ」

 

ユノは素朴な質問を投げかけたが、素直な疑問こそ返答に困るものなのだ。

 

それは、入口に刺激を与えるよう、1つ1つのパーツがただの球体ではなく、いびつな形をしている。

 

色は赤色。

 

じっくり見ると、1つ1つがイチゴの形状になっている。

 

こうした遊び心を加えることで、営みを盛り上げる演出効果が期待できる逸品だ。

 

「どうやって使うんすか?」

「...っ!」

 

ユノはここまできてようやく、うっすらとだがコレの使用方法を想像することができた。

 

言葉に詰まるチャンミンにユノは慌てて、

「ですよね、ですよね。

あ~なるほど、“そういうヤツ”ですよね」

とフォローしてみたのだけど...。

 

「......」

 

絶望と羞恥のあまり、チャンミンは床に伏せて大泣きだす寸前だった。

 

(ああ...穴どころか海溝に沈みたい。

絶望の淵に墜落してして、姿を永遠に消してしまいたい...!)

 

「せんせ?」

 

ユノは微笑を浮かべたが、それはからかう笑みではない。

 

質問攻めにしたのは、チャンミンを動揺させて面白がるためではなく、純粋な疑問だった(ピュアな子供からの質問こそ、回答に困ってしまうものなのだが...)

 

「俺、こんくらいじゃ引きません、って。

むしろ...」

ユノはチャンミンの肩を引き寄せると、力一杯抱きしめた。

「人間っぽくて、すげぇ可愛いと思いました」

 

「え?」

 

「実は俺、せんせって性欲なんか無いんじゃないかって思ってたんすよ」

 

「...そんなこと...ないですよ。

なぜ、そう思ったのです?」

 

「何かあるとあたふたしてるし...行動が可愛いんです。

だから、せんせとエッチぃことが結びつかなくて。

でも、そうじゃなかった!

めちゃギラギラじゃないっすか!?」

 

「ギ、ギラギラ!」

 

「せんせのそこ...こんぐらいは余裕なんすよね?」

 

ユノはピンク色のブツをちらっと見た。

 

「な、な...なんてこと言うんですか!!」

 

チャンミンは腕をつっぱってハグするユノの口を塞いだが、ユノはその手を易々と引きはがした。

 

「や~です」

 

そして、ずいっと顔を寄せ、チャンミンの耳元で囁いた。

 

「これ使ってみます?一緒に?」

「!!!!」

 

ユノは目を剥くチャンミンの頬に唇を押し当てた。

 

「ユノさっ...!」

 

キスされた頬を押さえるチャンミンに、ユノは「せんせ...俺のキス...嫌なんすか?」と泣き真似した。

 

チャンミンはまんまと騙された。

 

「...ごめん、ごめんね」

 

オロオロし出したチャンミンに、ユノの顔は緩むのだ。

 

(あ~、せんせって可愛いなぁ)

 

「嫌じゃないですよ」

「知ってます」

 

「ユノさん!

僕の真似をしないでください!」

(この返しは、教習中のチャンミンの口癖)

 

少しだけ空気が和んだことに、ホッとした2人だった。

 

 

(つづく)

 

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(14)チャンミンせんせとイチゴ飴

チャンミンは焦っていた。

 

(話題が何も思いつかない!

TVでも付けておけばよかった...)

 

ユノもチャンミンも、相手に探りをいれられずにいた。

 

チャンミンはユノに、「女の子と一緒に花火大会に行ってたんだって?どういうこと?」と。

 

ユノはチャンミンに、「言いたいことがあるなら、言ってくださいよ。もしかして、花火大会のことですか?」と。

 

それが出来ない。

 

なぜなら、無駄に話を振って墓穴を掘りたくなかったからだ。

 

その静寂を破ろうとユノは、「せんせもひと口どうすか?」と、ハンバーグの欠片を刺したフォークを、「あ~ん」とチャンミンの口元に近づけた。

 

「...っ」

 

チャンミンは気持ちでは突っぱねようと迷ったくせに、無意識で口は大きく開けていた。

 

ユノは大き目に切り分けたハンバーグを、ふざけてチャンミンの口の中に押し込んだ。

 

「ユノさっ...!」

 

チャンミンの口の中はハンバーグでいっぱいになり、口の周りにデミグラスソースがたっぷり付いている。

 

リスみたいに頬をふくらませ目を白黒とさせているチャンミンに、ユノの中で何かのスイッチが入った。

 

「せんせ!」

「ユノさっ...!」

 

ゴツン、という鈍い音。

 

フォークが床を転がる固い音。

 

ユノはチャンミンを床に押し倒していた。

 

床についたユノの両腕の間で、チャンミンは目を大きく丸く見開いている。

 

「......」

「ユノさん!

ちょっと...!」

 

ユノが腰の上に乗ってチャンミンの動きを封じている。

 

「下りてください!」

「いやです...!」

 

ユノの力強い両手で肩を掴まれて、身じろぎも拒まれた。

 

自分を見下ろすユノの真剣な1対の目に、チャンミンはたじろぐ。

 

(ユノの目...)

 

期待していたことが実現したシチュエーションだったのに、チャンミンの今の心境では喜んで受け入れるのは難しい。

 

(モヤモヤを晴らすために、言葉では解決できないからとセックスに持ち込むパターンが多かった。

『一緒にしたいことが特にないから』、といった理由の時も多かった。

ムラっときたからヤる。

そういうものなんだけど...)

 

ユノを見上げるチャンミンの目が、動揺で揺れていた。

 

(どうしよう!)

 

ユノがチャンミンを押し倒してしまったワケ...ぎこちない空気感を晴らす方法が見つからず、焦れた結果である。

 

「どうしたの?

ユノさん?」

 

もぐもぐ食べるチャンミンの顔が可愛くて、ムラっときてしまった結果でもある。

 

ところが、押し倒した後になってその勢いがしゅん、と消えてしまったのだ。

 

(このままじっとしていたら、変に思われる!

押し倒した次は...。

そうそう...キスだ!)

 

チャンミンはめざとく、ユノの目から困惑の色を見つけてしまった。

 

「!!」

 

顔を近づけたユノの顎は、チャンミンの手の平で押しのけられてしまったのだ。

 

「どうしてですか!?」

 

「こういうの...今夜は止めておきましょう」

 

ユノの顎を押しのけたチャンミンの力は案外強く、ユノは傷ついた気分で顎をさすった。

 

「なんで?」

「今は駄目です」

「なんでですか!?」

 

掴まれた両肩が自由になったためチャンミンは起き上がり、唇の端に付いたデミグラスソースを手の甲で拭った。

 

「『恋人ができれば、裸で抱き合いたいと望む男です』って言ってたのは‘せんせ’じゃん」

 

「覚えてましたか?」

 

「忘れられるわけないっすよ」

 

「そうですね。

ユノさんを煽るようなことを言ったのは僕でした。

あの時はあなたを傷つけてしまいましたね」

 

不貞腐れて頭をくしゃくしゃ掻くユノに、チャンミンはなだめるように言った。

 

「ユノさんは知っているかどうか...。

アソコには直ぐに挿れることは出来ないのです。

そのぉ...慣らさないといけなのです」

 

「ならす?」

 

男女間でも行われているプレイのひとつではあるが、その経験がないユノには知識が足りないことも多い。

 

きょとんとしたユノを前に、チャンミンは「無知なユノに呆れた顔をしたらいけない。彼を傷つけてしまう」と、表情に気をつけた。

 

「あそこはアレを挿れるには、とても狭いのです。

だから、前もって拡げておかないと...」

 

「そうなんすか!?」

 

ユノのきょとんとしていた表情がふむふむと、まるで教習中のような真剣なものに変化した。

 

「そりゃそうですよ。

普通はこれくらいの狭さです」

と言いながら、チャンミンは指で輪っかを作ってみせた。

 

丸めた指の間には隙間はない。

 

「これを最低でもこれくらい拡げないと」

と、チャンミンは輪っかをひと回り大きくした。

 

「拡げるには時間がかかります」

 

「拡げないと?」

 

「“ぢ”になります」

 

ユノの顔がゆがんだ。

 

「でも...せんせはその~、あの~...経験があるんでしょ?

挿れられる側だって、言ってたじゃないっすか?」

 

自分で言っておきながら、チャンミンの顔がボンっと真っ赤になった。

 

「そうでしたね」

 

毎日のように慰めている後ろ...いつでも受け入れることが出来るのに、「今すぐはできない」と断ってしまったチャンミン。

 

ユノには、花火大会という名の合コンに参加したかもしれない疑惑がある。

 

(疑惑が晴れないまま、ユノに抱かれるのはなぁ...イヤだ。

それからもうひとつ、心配なことがある。

いざ、僕の身体を目の当たりにした時、それまでイキっていたユノのものがしぼんでしまったら...!

しぼんでしまったことに焦るユノを目にしたら...男である自分が嫌になる)

 

自信喪失してしまう心情を想像してみて、チャンミンは心の中で青ざめるのだ。

 

恋にのめり込むハズのチャンミン、今回の恋はいつもの調子になれずにいる。

 

(不安の根源はユノがノンケであることだ。

それから、年の差!

ちっぽけなことを気にしてしまう僕を、嫉妬深く心が狭い奴だと、いつ軽蔑されてもおかしくない!)

 

(つづく)

 

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(13)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

1日の勤務を終えマイカーに乗り込んだ時、バッグの中のスマートフォンがメッセージ着信を知らせた。

 

「!」

 

ディスプレイを確認すると『ユノ』からのもので、チャンミンは喜ぶよりも複雑な心境になってしまった。

 

明らかに昼間見たSNSの投稿写真の影響を引きずっていた。

 

『今日、せんせんちに遊びに行っていいですか?』

 

チャンミンは既読スルーを決め込んで、自宅への道のりを急いだ。

 

予想通り、無視しきれなかったチャンミンは、

「明日まで我慢できないのですか?」と返答してしまった。

 

『できない』

『せんせに会いたい』

『顔を見たらすぐに帰ります』

『いいですか?』

『せんせ、お願いします!』

 

矢継ぎ早にメッセージが次々と届いた。

 

チャンミンはため息をつくと、『OK』のスタンプを送った。

 

すると、ぴょんぴょん飛び跳ねるウサギのスタンプの返信があった。

 

チャンミンはスマートフォンをソファに放り投げた。

 

(なんだよ...ユノは)

 

バウンドしたスマートフォンは、フローリングの床に落下し固い音をたてた。

 

チャンミンはスマートフォンをそのままに、ソファに身を投げた。

 

ユノに訊ねたいことがあった。

 

(...訊ねたいというより、問いただしたい。

あの女の子たちは誰?)

 

チャンミンは靴下を脱ぐと、部屋の向こうに放り投げた。

 

(心配することないさ。

ユノは友達が多い子だし、複数人だし、U君は意味深なことは何も言っていなかったし。

ユノは途中でいなくなった、って言ってたし。

きっと、僕と合流するためだったんだ。

友達同士でわいわい遊びにいっただけだ)

 

チャンミンは床に転がっていたスマートフォンに手を伸ばした。

 

(僕は何を気にしているのだろう?

胸がモヤモヤする。

ユノが女の子と会っていたこと?

それもそうだけど...)

 

「!!!」

 

勢いよくチャンミンは飛び起きた。

 

(そうだよ!

僕に嘘をついていたことだ!

花火大会に出掛けていたことを黙っていた!)

 

夜になってやっと、モヤモヤの原因が分かったチャンミンだった。

 

ソースを唇の端に付けたままのユノを微笑ましいと思っていたのに、なんだか騙された気分だった。

 

(嘘をついたのは、悪いことをしていた意識があったからだ。

ユノの嘘つき...!)

 

交際期間2週間では、探り合いのところが多くて2人の絆はまだまだ浅い。

 

1枚の写真、ユノの嘘。

 

不安感に支配されてしまったチャンミンだった。

 

 

指だけじゃ慰めきれず、洗面台下の棚から小道具を取り出した。

 

(ホントに僕って...カッコ悪い。

何やってるんだろ?)

 

チャンミンは寂しさとむしゃくしゃした時、小道具に頼ってしまう...そんな自分を浅ましく思うけれど、止められないのだった。

 

(もうすぐユノがやってくる。

急がないと!)

 

 

アルバイトを終えたユノは、真っ直ぐチャンミンの部屋を目指してペダルを漕いだ。

 

途中コンビニエンスストアに寄り飲み物を買うと、茶色のタイルのマンション前に自転車を停めた。

 

ユノの今日いちにちは充実していて、さらに一日の締めくくりに恋人に会えるのだから、気分の良さに鼻歌が自然と出てしまう。

 

(我慢できなくてせんせんちに押し掛けるなんて、強引だったな)

 

チン、と音と共にエレベータの扉が開いた。

 

(俺とせんせは今のところ平穏だ。

バレたら誤解を呼びそうなことしでかしたけど、まるちゃんのおかげで軌道修正できた。

口喧嘩もしていないし...)

 

ドアの前に立ったユノの、チャイムを押そうとする指が止まった。

 

(せんせのことは好きだけど...気を遣ってしまうところがある)

 

ユノは思いを吹き飛ばすように、首を振った。

 

(まだ付き合ったばっかだし。

こういうものだよな。

最初だからぎこちないだけだよな)

 

チャイムを押すと、すぐにドアが開いた。

 

「せんせ、こんばんは」

「ユノさん、いらっしゃい」

 

ユノの目には、チャンミンの表情が硬いように映った。

 

一瞬、嫌な予感が心をよぎった。

 

 

「どうぞ、早かったですね」と、ユノを部屋に通したチャンミン。

 

心に巣食いだした疑念を振り払えず、まともにユノの顔が見られない。

 

幾度か訪れているユノは、部屋に上がると迷わずソファに直行した。

 

ユノは「うちのバイト先でテイクアウト始めたんすよ」と、持参してきたものをローテーブルに広げ出した。

 

「いつもいつも貰うばっかりで、ごめんね」

 

「俺の気持ちですから、気にしないでください」

 

突っ立ったままのチャンミンに、ユノは「座らないのですか?」と声をかけた。

 

「すみません!」

 

慌てたチャンミンはその場に座ったのだが、それが姿勢を正した正座だったため、彼が緊張している心情がありありと現れてしまっている。

 

当然ユノは、ぎこちなさそうなチャンミンの様子に気づいていて、その理由について、スルーした方がいいのか追求した方がいいのか、迷っていた。

 

(せんせ...なんか変だ。

今日の昼間までは普通だったのに...)

 

「あの~。

夕飯まだだったから食べてもいいっすか?」と、容器の蓋を開けた。

 

「もちろんもちろん。

どうぞどうぞ」

 

「いただきます」

 

ユノは白米をもぐもぐ咀嚼しながら、「せんせが言葉を二度繰り返す時は、何かしら動揺している時だ」と思っていた。

 

(ドアを開けた時のせんせの固い表情。

最初は疲労や寝不足が原因なのかと思ったけど...そうではない気がする)

 

チャンミンは容器の蓋を片付けたり、ユノのためにお茶を注いだりと、そわそわ落ち着きがない。

 

目を合わせようとしないチャンミンを前にして、「何か怒らせるようなことしたっけ?」と首をひねったが、「もしかして...」と心あたりもあった。

 

(まさか、花火大会という名の合コンに参加したことを知ってるんじゃないだろうか?)

 

ヒヤッとしたが、すぐに「それは考えにくい」と否定した。

 

(せんせと花火大会との接点がどこにある?

俺を迎えに来た時、せんせの態度は普通だった。

だから、目撃はされていないはずだ。

誰かから聞いたとか?

せんせと繋がりがある奴なんていたっけ?

...免許取りたいって言ってた奴いたっけ?)

 

チャンミンにかまけた半年間、友人らと疎遠になっていたせいで、彼らの最新情報に疎くなっていた。

 

(あいつらは、そっけなかった俺を懲りずに誘ってくれる貴重な学友たちだ)

 

「......」

 

チャンミンは食事中のユノを、ちらりちらりと覗っている。

 

「せんせも食べてください」

「いえ...僕は今は大丈夫です」

 

ユノはチャンミンと目が合うごとに、笑い返したり食事を勧めたりしたが、チャンミンの態度がはっきりしない。

 

「......」

(...なんか...居心地が悪い)

 

(つづく)

 

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(12)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

自動車学校とは指導員にとって出会いの多い場だ。

 

週に1度行われる入校式の度、1~3人の担当教習生が新たに加わる。

 

チャンミンが勤めている自動車学校では、男女関係トラブルを避けるため、男性教習生には男性指導員を、女性教習生には女性指導員が担当するルールになっている。

 

この週の入校式では、チャンミンに1人の教習生がついた。

 

20歳男子の大学生U君だ。

 

ルックスは中の中だが、ファッション雑誌から抜け出したかのように、お洒落上級者だった。

(そのセンスはエッヂがきき過ぎていた。

U君の開襟シャツの袖口がほころびており、裾も擦り切れているように見えた。

『この子は経済的に苦労しているのかな』と、心配してしまったチャンミンだった)

 

(へぇ...ユノと同じ大学なんだ)

 

たったそれだけで、ユノと繋がっている感がしてチャンミンの気分が上がるのだった。

 

 

今日はU君の実車教習第2時限目。

 

U君は、ユノとは別のタイプのおしゃべりな男子学生だった。

(もしかしたらU君は、ユノのことを知っているかもしれない)

 

2人は同じ大学に通っている...共通項を見つけたチャンミンは、ユノの違う顔を知りたくなった。

 

第3者の口から聞かされる恋人情報...こそばゆく、恋人のことがもっと好きになったりもして。

 

普段、滅多に教習生と雑談をしないチャンミンなのに「つい少し前まで、僕の担当にユノさんという子がいたのですが...」と、U君に話を振った。

 

「U君はまさか、僕とユノが恋人同士だなんて想像つかないだろうな」と、くすぐったい気持ちになった。

 

「Uさんと同じ学校の学生なのですが...?」

 

U君は助手席のチャンミンを向いて、目を丸くしている。

(彼はユノと違って、運転センスが抜群によかった)

 

「ユノ!?

俺の友だちですよ!」

 

「ホントですか!」

 

教習中であることを忘れ、チャンミンの興奮ボルテージが一気に上がった。

 

「Uさん、よそ見運転になってますよ」

「あー、はいはい」

 

チャンミンにはうすうす気づいていたことがあった。

 

ユノほど口うるさく指導をしていた教習生が、これまでいなかったということに。

 

(キング・オブ・下手っぴ...)

 

教習生ごとに差はつけないモットーでいたくせに、ユノが卒業してしまった今になって、彼にだけ手厳しい指導になっていたことに気づいたのだ。

 

今の場合など、「ユノさん!僕ら2人ともあの世ゆきですよ?」と、冷たく言い放っていただろう。

 

指導においてユノだけを贔屓してはいけない、と意識し過ぎた結果である。

 

「あいつ。

カッコいい奴でしょ?」

 

「ええ、そうですね。

イケメンでしたね」

 

恋人を褒められて、チャンミンは嬉しかった。

 

「でも、自分のカッコよさに気づいてないんですよ、あいつ」

 

「そうだろうなぁ」と、チャンミンは思った。

(ユノはそんな感じの男だ。

自分がどれだけいい男なのかを自覚しているのなら、わざわざ僕を好きになるはずがない)

 

ユノの学生の顔はもちろん、プライベートについても、まだまだ知らないことばかりだ。

 

「あれだけのイケメンだったら...やっぱり、モテますよね?」

 

まずは、一番気になっていることを訊ねた。

 

「そりゃモテますよ」

 

U君はさらりと認めた。

 

(!!!)

 

「...そうですか。

ですよね...」

「ですよ~」

 

教習車は場内コースを出、車庫前の乗降場所で停車した。

 

その直後、車庫に取り付けたスピーカーから教習終了のチャイムが鳴り響いた。

 

「お疲れ様です。

Uさんはこの調子で頑張ってください」

 

チャンミンはスタンプを押すと、教習簿をU君に手渡した。

 

「そうだ!

昨日だっけな、ユノと遊びましたよ」

 

「へぇ...」

 

(昨日といえば、花火大会で渋滞に巻き込まれてしまった日だ)

 

「一緒に遊ぶの、凄い久しぶりだったんですよ。

あいつ、ずーっと付き合いが悪かったから」

 

U君の言う事は、チャンミンにとって身に覚えがあった。

 

「僕と出会ってからのユノは、ずっと僕にかかりっきりだったから...」と、申し訳ない気持ちになった。

 

U君はバッグからスマートフォンを取り出し、すらすらと操作をすると、チャンミンに差し出した。

 

「花火大会に行ってきたんですけど...」

「花火大会...?」

 

「☓○川のやつです」

 

このところ、チャンミンの頭の中は来週の花火大会で占められていたため、昨日の花火大会の話を出されてもピンとこない。

 

「そんときの写真です。

SNSにあげました」

 

浴衣姿の女子3人、4人いる男子のうち1人はU君、もう1人はユノだった。

 

「男4人は同じ学校。

女の子たちは××短大の子です。

それなのに、ユノの奴、途中で行方不明。

後ろを振り向いたらいないの」と、U君は笑った。

 

チャンミンは、喉が詰まったかのように息苦しくなった。

「先生?」

 

スマホ画面が滲んでくるし、耳鳴りがし始めた。

 

様子のおかしいチャンミンを呼ぶU君の声が聞こえない。

 

(女子!?

それって合コンじゃないか!?)

 

真っ青な顔色をして黙り込んでしまったチャンミン。

 

「先生...どうかしたんですか?」

 

ショック状態から回復するにつれ、徐々にU君の声が耳に届いててきた。

 

「あっ...すみません。

写真、ありがとうございます。

皆さん、楽しそうですね。

次の教習が始まってしまいますね」

 

校舎に戻るU君の後ろ姿を眺めながら、チャンミンはぼんやりとしていた。

 

ワクワクとした気分は一瞬でしぼんでしまっていた。

 

(つづく)

 

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(11)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

時は遡り、昨夜のこと。

 

エレベータの扉が開くと、とぼとぼと重い足取りのチャンミンが現れた。

 

(寂しいなぁ...)

 

仕事帰りにユノと会ったばかりだったのに、自宅に帰りついた時にはもうユノ不足になっていた。

 

チャンミンは、自分が寂しがり屋であることを知っている。

 

(用意していた話題は沢山あった。

ユノのことを知りたい。

自分のことも知ってもらいたい)

 

気持ちばかりが上ずってしまい、ユノの発言に慌ててしまったりと、言いたいことの半分も口にできていない。

 

それがチャンミンの欲求不満の原因になっていた。

 

「ぷぷっ」

 

唇の端にソースを付けたユノを思い出し、チャンミンは吹き出した。

 

「か~わいい~」

 

感情がつい言葉となって溢れてしまう。

 

帰宅して玄関ドアを閉め、リビングのソファに座り込むまでの間の動作は目をつむっていても、流れるように毎日正確にたどることができる。

 

その一連の行動のひとつが、冷蔵庫を開けビールを1本手に取り、ソファに座るまでに半分は飲んでしまうことだ。

 

ところが、プルタブにかけたチャンミンの親指が止まった。

 

(ん...)

 

チャンミンは脇腹をつねった。

 

「......」

 

ビールを冷蔵庫に戻したチャンミンは、炭酸水を代わりにとり、ユノを送った後に調達した温野菜サラダをテーブルに広げた。

 

1時間のネットサーフィンの末、辿り着いたとあるサイトページにチャンミンは目を輝かせた。

 

ピンポイントな情報を求めて、キーワードを足していく。

 

(こんなのは...どうかな)

 

カチカチとマウスを操作する音、キーボードを叩く音...途中、幾度かその指が止まった。

 

その度、チャンミンの眼の焦点がぼんやりと霞んだ。

 

「......」

 

チャンミンは脳内で、来る花火大会の夜を予行演習をしていたのだ。

 

ユノ以上に来週のデート...夏の思い出といえば花火大会...を待ち望んでいたのだ。

 

「う~ん」

 

腕を組んで目をつむる。

 

(ユノの意見を聞かずに僕が決めてしまってもいいのかな)

 

迷いが生じてしまい、別のサイトへと飛び、さらに幾ページも繰った後、結局元のページに戻る。

 

(どうしよう...決められない)

 

髪をくしゃくしゃとかき乱した。

 

チャンミンは優柔不断な男だった。

 

「う~ん...」

 

頭の整理ができなくなり、プリントアウトしてみたものを見比べた。

 

「どれにしよう...」

 

花火大会は2人にとって初めてのデートといってもよい(チャンミンの部屋に集合したものを回数に入れれば、初めてとは言えないが...)

 

ユノをエスコートする大人の余裕を見せたいし、完璧なデートに仕上げたいし、ユノには笑って欲しい。

 

「う~ん...」

 

こめた願いが深過ぎて、チャンミンは自分で自分の首を絞めていた。

 

瞬きを忘れてディスプレイとにらめっこしていたせいで視界が滲んできた。

 

「ふわぁぁぁ...」

 

大きく伸びをし背面にのけぞった時、上下反対の掛け時計が視界に入った。

 

「はっ!?」

 

初デートプランを練るうちに、いつの間にか日付を超えていたのだ。

 

夜鷹のユノでも深夜1時過ぎの電話は迷惑だろうと、電話をかけるのは遠慮することにした。

 

「ん...?」

 

メッセージを送ろうと手に取ったスマホの通知ランプが点滅している。

 

『せんせ、おやすみ(ハート)』

 

「ふふっ」と笑みがこぼれ、チャンミンの口角が上がった。

 

『おやすみ』のメッセージを羊イラストのスタンプと共に送信した。

 

すると、10秒もしないうちに、『まだ起きていたんですか?』と返信が来た。

 

『はい。

今から寝ます』

 

『それがいいです。

せんせは若くないんですから、睡眠は大事ですよ』

 

ユノの軽口にいちいち乗ったりしたら大人げない。

 

『どうせ僕はおじさんですからね(泣)』といじけてみせると、土下座するウサギのスタンプが返って来た。

 

それから、『おやすみなさい』のメッセージの後、「大好き」とハートが散りばめられたスタンプが送られてきた。

 

クスクス笑いながらチャンミンも、お揃いのスタンプを返信した。

 

スタートして2週間あまりの2人の恋は、お祭りで売られているレインボーカラーの綿菓子みたいにふわふわとドリーミーだった。

 

イチャイチャも未経験。

 

チャンミンはそのきっかけを自ら作ろうとしていた。

 

 

チャンミンはソファからゆらりと立ち上がり、食べ終えた温野菜サラダの空き箱を捨て、洗面を済ませると、布団にもぐりこんだ。

 

(明日も仕事だ...)

 

長時間ディスプレイを注視し、集中し過ぎたことで若干興奮状態にあった。

 

すぐに寝付けそうにない。

 

(明後日は休み。

その次の日は、ユノを部屋に招待しよう。

美味しいものを作って、お腹が膨れたら近所を散歩するのはどうかな。

散歩の後はDVDを観たり。

...映画館で観た方がいいのかな...)

 

ごろりと寝返り打った。

 

(やっぱり、どこか買い物に出かけた方がいいのかな。

20歳そこそこの男って、どういう所に遊びにいくんだろう。

ゲームセンター?)

 

再び、チャンミンの脳内でぐるぐると、デートプランが練られていった。

 

(ゲームかぁ...今は何が流行っているんだろう?

ゲームセンターに行ったとする。

その後食事をして、すぐ解散するのはつまらないから、僕んちかユノんちに移動する。

...そこでダラダラ過ごして...それから...それから...)

 

チャンミンの思考は必ずと言っていいほど、「ある」一点で行き止まりになるのだ。

 

そのシーンを妄想していると...。

 

(ここ2,3日、抜いていなかったからなぁ)

 

その手はそろそろと、ハーフパンツの中へ滑り込んだ。

 

(最後に生身のオトコとセックスしたのはいつだったっけ?

...もう思い出せない)

 

それはむくむくと育ってゆき、チャンミンはうずくまると右手は後ろへとまわる。

 

(ユノには絶対に言えないけれど...)

 

人差し指を舐めた。

 

「...っ...っ...あっ...は」

 

目をつむり、背中にのしかかったユノの重みと、打ち付けられる固い腰、コリコリと刺激されて目の前が真っ白になる感じ、奥を攻められて悲鳴をあげる...。

 

『あの』感覚を記憶から掘り起こす。

 

片頬をマットレスに押し付け、腰は高々と突き上げたチャンミン。

 

「あっ...いっ...いっ...っ...いっ...!」

 

イケそうでイケなくて、握りしめていた左手をシーツからあそこへと移動させた。

 

後ろと前、高速にスライドさせるうち、昇りつめていって...ぶるりと腰が震えた。

 

放たれたものは、用意していたティッシュペーパーでキャッチ。

 

「はあはあはあはあ...」

 

(花火大会の後...きっと、そういう流れになる。

僕らは大人だ。

ユノはきっと、尻込みするだろう。

だから僕はリードして

...怖い。

ユノに引かれたらどうしよう。

でも、大好きな人と抱き合う時の幸福感を味わって欲しい)

 

可愛いメッセージのやり取りをしたばかりだから余計に、自分を慕ってくれるキラキラなユノの眼に嫌悪の影が差すことが怖くなった。

 

(つづく)

 

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