(26)会社員-愛欲の旅-

 

 

フィニッシュを迎えた密会カップルが、下半身の片付けと身だしなみを整え終えるのを、俺たちはじっと待ち続けた。

 

幸い彼らは、照明をつけずにコトを済ませてくれた。

 

照明を点けたら即、俺たちの存在は大バレだ。

 

途中、「もう駄目だ」と観念したのは、 床の間に置かれたティッシュペーパーを取りに、男が部屋を横切った時だった。

 

こんもり膨らんだ俺たちにけつまずいたのだ(つまずいて当然だ)

(もはやコントの世界)

 

フィニッシュを迎えたばかりで意識ふわふわ、足元がおぼつかなかった。

 

加えて、早くこの部屋を出なければと焦りから、そこだけこんもり膨らんだ布団の不自然さに気づかずにいてくれた。

 

ドアが閉まる音から1分待ち、彼らが戻ってこないことを確認してから、俺は布団を蹴っ飛ばした。

 

「危なかった~!」

 

隣の布団に大の字になると、冷えた布団が気持ちよかった。

 

俺は立ち上がり部屋の照明を付け、乱れに乱れた浴衣を整えた。

 

俺のアソコについては、けつまずかれた時の驚きでしゅん、となってしまっていた。

 

「チャンミン?

起きろよ、くじ引きが待ってる」

 

チャンミンの肩を揺すったが、彼はうつぶせ寝のままでいるじゃないか。

 

「...ユンホさんは先に行っててください。

遅れて向かいますから」

 

布団に顔を伏せたまま、もごもごつぶやいている。

 

「?」

 

「ユンホさんが悪いんです...。

ユンホさんの責任です」

 

「何が?」

 

チャンミンの言葉は意味不明、会場では実行委員が待っている、俺は彼の帯をつかんで引き上げようとした。

 

「やだ、やだやだ!」

 

渾身の力で引き剥がされるまいと、抵抗するチャンミンだった。

 

「起きろ!

行くぞ!」

 

「ユンホさんの鈍感!」

 

チャンミンはむくりと起き上がると、近くの枕を抱きしめた。

 

「何が!?」

 

「ユンホさんが悪いんです!」

 

ぷうっと頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向いている(か、可愛い...)

 

「同じオトコでしょう?

分かんないかなぁ~?」

 

「?」

 

「そ~んなんじゃモテませんよ。

歴代の彼女たちから、『ユンホったら鈍感!』って」

 

(ふふん)

 

チャンミンが何を言ってるのさっぱりだけど、過去の恋愛事情を探る手にはのらない。(嫉妬したチャンミンのご機嫌とりは大変なのだ)

 

「『たち』って程、いないよ」

 

「ホントですかぁ?」

 

「ホントホント。

片手もいないよ」

 

チャンミンは目を糸のように細め、疑わし気に俺を見ている。

 

「話が反れてるぞ。

ここから動きたくないのなら、先に行ってるぞ。

くじ引きの棒を貸せ。

俺が代わりに進行しといてやるよ」

 

チャンミンに向かって、手をひらひらさせたら、パチン、と叩かれた。

 

「ユンホさんはどうして大人しくなってるんですか!」

 

「?」

 

「逞しい腕と胸で抱きしめられたりなんかしたら...。

ユンホさんの男根を押し付けられたりなんかしたら...」

 

(だ、男根!)

 

ふすまがガタっと開く音がした。

 

誰か来たと振り向いたその瞬間、

 

「勃起しちゃって大変なことになってるんですよ!」

「チャンミン、しーーーー!」

 

部屋の間口に立っていたのは、同室のヲタク君の一人だった。

 

「......」

 

彼は固まった俺たちを一切無視して、バッグからコミック本を出すと小脇に抱え、部屋を出て行ってしまった。

 

 

(つづく)

 

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(25)会社員-愛欲の旅-

 

 

1人分の布団の中に、2人の男がぴったりと身体を密着させている。

 

俺の浴衣ははだけてしまっているし、布団の外では密会カップルがコトの真っ最中だ。

 

これだけ条件が重なると、興奮するなと言う方が無理な話。

 

「ユンホさん...もしかして...おっきくなってます?(ヒソヒソ声)」

 

俺の耳元で囁くチャンミンの熱い吐息。

 

「馬鹿!(ひそひそ声)」

 

おかしな気分に突入しかけていた俺は、寄せてくるチャンミンの唇を手で塞いだ。

 

今さらながらチャンミンがどっち側なのか、問題にしてこなかったことに気づく。

 

それとは、『チャンミンはストレートなんだろうか?』だ。

 

俺は、男とどうこうなった経験はないけれど、チャンミンを好きになったことに何の抵抗もなかった。

 

だって、美しいものは美しいし、面白かったら尚ヨシ。

 

俺だったら喘ぎ声の主の性別は問わない。

 

俺たちはうつ伏せになっていて、肝心なところは敷布団と腹でサンドされている。

 

かなりの声量の喘ぎ声を聞きながら、チャンミンはどっちなんだろう?と、確かめてみたくなった。

 

狭い空間に密閉された高温多湿な空気。

 

身じろぎするたび、互いの体臭が混じり合い、むせかえりそうになった。

 

頭がくらくらしてきた。

 

押し付けたアソコが苦しくなってきた。

 

密会Hを盗み聞きしているせいなのか、可愛いボーイフレンドとくっついてドキドキしているだけに過ぎないのか、それとも...?

 

ウメコに仕込まれたモノを、チャンミンはいよいよ発動させたのか!?

 

それにしては、今俺に押し倒されるのは、タイミング的にまずいのでは?

 

「ユンホさん、もっとこっちに(ヒソヒソ声)」

 

「!」

 

「布団から出ちゃいますよ(ヒソヒソ声)」

 

俺の腰にチャンミンの腕がまわり引き寄せられ、互いの身体がめり込み気味になる。

 

さらに、「ユンホさんの腕が邪魔です」と俺の腕をつかむと、チャンミン自身の腰の上へと誘導された。

 

...押し倒すんじゃなくて、押し倒されるのは俺かもしれないじゃないか!

 

一刻も早く回収だ。

 

アレが仕込まれていると目星をつけた箇所へ、俺はそろそろと手を伸ばす。

 

「お前の方はどうなってるんだよ?(ひそひそ声」」

 

「僕の?(ヒソヒソ声)」

 

チャンミンの腰の下へ手を突っ込んだ瞬間、俺の手は払いのけられた。

 

「やん!」

 

「しーーーー!

声がデカい!

減るものじゃなし、ちょっとくらいいいだろ?(ひそひそ声)」

(エロ親父が言いそうな台詞だなぁ)

 

「やん」

 

「デカくなってて恥ずかしいんだろ?(ひそひそ声)」

 

「そういうユンホさんはどうなんですか?

触らせてください(ヒソヒソ声)」

 

股間を狙う俺の手と股間をガードするチャンミンの手がぶつかり合う。

 

布団の外では、いよいよフィニッシュを迎えようとしているようだ。

 

「声...おっきいですね(ヒソヒソ声)」

 

「ああ」

 

肌と肌が当たる音と、男の荒い息。

 

勘弁してくれ、と思った。

 

「暗くて見えないのが残念です。声すごいですね...どこからあんな声が出るんでしょう?部屋の外にまで聞こえちゃうでしょうよ。この声、誰なんでしょうね。う~ん、分かりません。

 

ところでユンホさん、人はなぜ性交をするんでしょうか?快楽を得るためでしょうか?気持ちいいっていいますしね。でも世の中には、性交以外にもっと気持ちがいいことがありそうです。それじゃあ、性欲の処理の為?人間の三大欲求のひとつですからね...い~え、それだけのものじゃないはずです!繁殖行為のため?い~え、それだけのものじゃないはずです!ストレス発散のため?2人の肉体がくんずほぐれつ、呼吸を乱し汗をかく。一種のスポーツです。目と目を合わせ、愛の言葉を交わし合う。2人の身体が重なり合う。凸と凹がぴたりと重なり合う。抱き合い、肌同士で温め合いたい。うん、それですね!

ねえユンホさん。どうして性交とは、こそこそするものなんでしょう?(ヒソヒソ声)」」

 

「人前でやったら、捕まるだろう?(ひそひそ声)」

 

「大正解!

もうすぐ終わりそうですね...違ったか。

体位を変えるみたいです...あれは...バックですかね?

...まだかな...なかなか終わらないですね。

お、お...お~!

やった...終わりました、終わりましたよ!」

 

意中の人物と狭いところに閉じ込められるシーンとは、大抵の場合、ドキドキときめきタイムらしい。

 

イチャイチャしたいのにそれが出来ない、反応しているのがバレたら恥ずかしい、相手の身体つきにときめいたりして...確かにその通りだった。

 

俺なんて、心も身体も穏やかならぬ状況だったのに、チャンミンはケロッとしている。

 

なんだよ俺ばかり。

 

ずるいよなぁ、と思った。

 

(つづく)

 

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(24)会社員-愛欲の旅24-

 

 

チャンミンは壁のスイッチに飛びつき、部屋の照明を消した。

 

そして、近くの布団に飛び込んだ。

 

そのすばしっこい動きといったら!

 

「馬鹿!

どうして隠れる!?」

 

「ユンホさん!

早く!」

 

にゅうっと伸びた手に、浴衣の裾を掴まれた。

 

「離せ!」

 

前がすっかりはだけてしまっている俺の浴衣、下から引っ張られて今にも脱げそうだ。

 

「チャンミン!

いい加減にしろ!」

 

「早く!」

 

チャンミンと浴衣の引っ張りっこしている間も、客室のドアは不規則な音を立てている。

 

ノックをしているのとは違う...体当たりのような...鍵は開いているのに。

 

廊下で何してるんだ?

 

照明を付けようとスイッチに手を伸ばした直後...。

 

「おふっ!」

 

布団の上だったからいいものの、顔面から派手に転んでしまった。

 

その衝撃でずしん、と室内が揺れた。

 

「何するんだ!?」

 

チャンミンに足首を掴まれたのだ。

 

(地中から生えてきたゾンビの手に足首を掴まれて...みたいな)

 

「ユンホさん!

早く!」

 

いててて、と顎をさすっていると、チャンミンに布団の中へと引きずり込まれてしまった。

 

「おい!」

 

(塹壕から飛び出してきたのは衛生兵。

負傷した味方兵に肩を貸すと、銃撃の隙をついて塹壕へ戻る。

訓練されたその動きといったら...みたいな?)

 

「隠れたりなんかしたら、余計に面倒なことに...」

 

「し~」

 

照明を点けられたら、布団の中に隠れる男二人、簡単に見つかってしまう。

 

今さら布団から出て、トランプ遊びに興じるフリは出来ないのなら、せめて早々と就寝中のフリはできたのに...。

 

俺とチャンミンはひとつの布団の中で、息をひそめてじっとしていた。

 

廊下からの灯りが、室内へと長く伸びた。

 

「ここなら...」

 

「誰か戻ってきたら?」

 

女性の声!?

 

「中から鍵をかけよう」

 

「あ、駄目...あっ」

 

片方は男の声!

 

二人とも酷く酔っ払っているようだ。

 

あの不審なドアの音は、貪りあうキスをする彼らの身体が、ドアにぶつかり押し付けられたからだったんだ。

 

よりによってひとつの布団に隠れた俺たち。

 

俺たちは揃ってうつ伏せになり、布団の隙間から両目だけ出していた。

 

部屋に忍び込んできたカップル(内緒の関係か?)

 

「!」

 

衣擦れの音と、二人分のふうふういう鼻息、リップ音。

 

(これは...!!)

 

雰囲気的に彼らはコトを始めようとしている!

 

俺たちが潜む布団の2メートル先で!

 

 

盛り上がっている彼らは、布団の中に潜む男たちに当然気付かない。

 

(気付いてもらっても困る)

 

布団の中から抜け出せなくなってしまった。

 

俺はともかく、実行委員チャンミンは速やかに宴会会場に戻らなければならない。

 

こっそり抜け出すのも不可能だ。

 

いくら互いの身体を貪りあうのに夢中になっていても、第3者がすぐそばを通りかかれば分かるだろう。

 

「!」

 

いよいよ男の方が、女性を押し倒したらしい。

 

「最後までやっちゃうつもりなんでしょうか?(ヒソヒソ声)」

 

「それは困る。

でも、そんな感じだよな(ひそひそ声)」

 

彼らは本当に始めてしまったようだ。

 

時間的に余裕のない彼らは、時短で済ませるようだ。

 

耳に毒だから、頭のてっぺんまで布団の中にもぐりこんだ。

 

暑い。

 

食事とアルコールで体温が上がった大柄な男二人。

 

冬用布団の中に頭までもぐりこみ、さらに身体を密着させていたら暑くて当然だ。

 

「誰と誰でしょうか?

うちの社員でしょうかね(ヒソヒソ声)」

 

「さあ...」

 

「広報部のGさんかな...それとも、製造部のKさんかな?(ヒソヒソ声)」

 

「さあ...」

 

「うちの会社の者じゃない可能性もありますよね。

ほら、よくあるでしょう。

部屋を間違えちゃった、っていうやつが(ヒソヒソ声)」

 

「そうなの?(ひそひそ声)」

 

彼らの正体は、絶対に知りたくない。

 

よその客であって欲しいと願った。

 

知人友人、同僚上司、ご近所さん、最悪なのが両親と兄弟姉妹。

 

彼らの濡れ場(言い方が古臭いが)を目撃してしまうことだけは、絶対に避けたかった。

 

ところがチャンミンは、カップルの正体を知りたくて仕方がないようだ。

 

情事の声をよく聞きとろうとしてか、布団から頭が出てしまっている。

 

「チャンミン!(ひそひそ声)」

 

俺はチャンミンの腰帯をつかんで、引き戻した。

 

「後学のためにと...(ヒソヒソ声)」

 

何言ってんだか...と頭を抱えていると、「ユンホさん」と耳元でささやかれた。

 

「ん?」

 

「大きくなってますか(ヒソヒソ声)」

 

『大きく』の意味がすぐにはわからなかった。

 

「アソコのことです(ヒソヒソ声)」

 

「......」

 

自分の身体の一部、どうなっているか触れてみなくても明らかだ。

 

動画で見るのとは臨場感がまるで違う。

 

まさしくアレが間近で行われているのだから。

 

 

(つづく)

 

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(23)会社員-愛欲の旅-

 

 

「んふっ...」

 

チャンミンは椅子に腰かけていて、俺に頭を引き寄せられ身を乗り出した姿勢。

 

俺は立て膝ついたままで、キスし続けるには無理な姿勢だった。

 

「んんっ...ふ...」

 

宿泊棟のここは宴会場から程遠く、どんちゃん騒ぎも届かない。

 

ぺちゃぺちゃと俺たちがたてる唾液の音が、興奮度を加速させる。

 

蛍光灯の灯りですみずみまで明るく、アルコールと興奮でチャンミンの肌が上気している。

 

俺はチャンミンの片衿をつかむと、ぐいっと肩下まで引き落とした。

 

チャンミンの肩と胸が露わになった。

 

「...ん、恥ずかし...」

 

クロスした両手で隠された男の胸。

 

男のごつい身体でも、その気で見るとなかなか色っぽい。

 

膨らみのない胸を手の全体で、女性の胸を扱うように揉んだ。

 

「あ...はっ...」

 

男の声なのに、甘くかすれた色っぽい声...。

 

俺の口の中で、チャンミンの舌の力が緩んだ。

 

固く丸まった突起を、指の腹で転がすと、「ひゃん」と小さく叫ぶからキスが中断してしまう。

 

唇を重ねなおして、お次は摘まんだ上で優しいタッチでこすり合わせた。

 

「あ、あああ...あ」

 

大雪の中、チャンミンと社用車の中に閉じ込められた事件を思い出した。

 

びくびくと身体を震わすチャンミンが面白くて、執拗に胸先を愛撫したっけな。

(パトロールに捕まって飛ばされた)

 

へえぇ...男の乳首も勃つんだ、と感動した覚えがある。

 

「あ、ああ、あ...ん」

 

面白キャラなのに、エロのスイッチが入ると、こうも色っぽい声を出せるとは!

 

チャンミンの全神経は乳首にいってしまっているようで、キスの方がお留守になっている。

 

首筋へと唇を落としてゆき、舌先で鎖骨をたどる。

 

体温が高い胸元は(胸毛はない)...チャンミンの匂いが濃い。

 

もっといじって欲しいと主張する小粒は俺がつまんでいる。

 

乳首を舐めるつもりはなかったけど、浴衣+敷布団の組み合わせに頭が沸騰しかけていた。

 

押し付け合った前は、お互い共に張りつめている。

 

「男同士はどうだかなぁ」と、チャンミンとアレできる気がしていなかったのに、これは案外イケそうだ。

 

それが確認できただけでも、大収穫。

 

今回はここまでにしておこう。

 

おっ勃った状態で宴会場に戻るわけにはいかない。

 

「!」

 

俺の腰にチャンミンの逞しい腕が巻き付いた。

 

そして、俺の浴衣の帯をほどきにかかっている。

 

「待てっ...ここじゃ...」

 

チャンミンの肩を突っ張って逃れようとしたが、伊達に筋トレしていない。

 

「離せっ...

おい、実行委員なんだろ?

戻らないと!」

 

「ユンホさんのが...大事、です!

...んんっ

離してくださいよ!」

 

「誰か戻ってくるかもしれないぞ!」

 

「あ~も~!」

 

チャンミンから逃れたのはいいが、ほどけてしまった帯は彼が握りしめている。

 

「こういうことは...旅行から帰ってからにしよう、な?」

 

「う~ん...そうですけど」

 

「帯を返せ。

びしっとして戻らないとな」

 

「僕はもうちょっと、ステップアップしたかったです。

ユンホさんの、あそ、あ、あそ...こ、アソコを...お触りだけでも...!」

 

「!」

 

部屋の入り口ドアにドン、と何かぶつかる音がした。

 

「!」

「!」

 

誰か来た!?

 

 

(つづく)

 

 

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(22)会社員-愛欲の旅-

 

 

宴会は中盤戦。

 

チャンミンはガラガラと景品を並べたテーブルへ、ビンゴゲームの用意を始めた。

 

ところがすぐに戻ってきて、つんつん俺の浴衣の袖を引っ張った。

 

「...ユンホさん。

僕はポカしました」

 

「どうした?」

 

「ガラガラの玉を忘れてきました」

 

「はあぁぁ?

玉がなくっちゃガラガラ持ってきた意味がないだろ?」

 

「じゃらじゃらうるさいから、球だけ袋に入れてたんです。

スーツケースの隙間に詰めて持ってきたはずです。

部屋まで取りに行ってきます」

 

「ああ」

「......」

 

振り向くとチャンミンは、まだそこに突っ立っている。

 

「?」

「......」

 

 

「......」

「......」

 

「一緒に行ってやるよ」

 

俺はため息をつき、立ち上がった。

 

部屋に忘れ物を取りに行くだけのこと。

 

二人がかりで運ばないといけない物でも、館内を探し回らないといけない物でもない。

 

つまるところ、チャンミンは俺と二人きりになりたいだけなのだ。

 

しょうがないなぁ、とボヤキながら、チャンミンに付き合ってやってる自分が嫌いじゃない。

 

我が儘な彼女の言いなり...とは全く次元が違う。

 

チャンミンの我が道を貫く姿勢を、我が儘と捉えてしまうような浅い見方をしたらいけない。

 

本人は俺を振り回すつもりも、甘えてるつもりもない『素』の姿。

 

30を過ぎてもいい意味で『純粋』、悪い意味で『イタイ子』

 

チャンミンは、自分がズレてる子であると、ちゃんと分かっている。

 

「普通っぽくならないと!」と直そうとしなくていいからな。

 

パタパタとスリッパを鳴らして、小走りのチャンミンを追いかけた。

 

 

「どうだ、見つかったか?」

 

俺は部屋の入り口にもたれて、スーツケースをかき回すチャンミンを見守っていた。

 

濡れ縁の窓ガラスの外は真っ暗だ。

 

6組の布団は既に延べられており、白いシーツが眩しい。

 

「あれ?

あれれ?」

 

スーツケースの中身も全出し、着替えの入ったリュックサックもひっくり返しているあたり...忘れてきたのだろう。

 

「どうしましょう!?」

 

チャンミンはムンクの叫びポーズになって俺を見上げた。

 

すとん、と藤椅子に腰を落とし、がっくり項垂れてしまった。

 

綿密に準備を重ねてきた出し物が、肝心要なところで台無しになりそうだった。

 

「ないものは仕方ないぞ」

 

チャンミンが気の毒過ぎて、俺は彼の足元に膝まづき肩を抱いた。

 

「どうしてもビンゴにしないといけないのか?」

 

こくん、とチャンミンは頷いた。

 

「チャンミンが適当に数字を読み上げるってのはどうだ?」

 

「...ふふふ...」

 

「?」

 

くつくつと、チャンミンの肩が震え出した。

 

「こんなこともあろうかと思いまして、ちゃあんと代替策を用意してあるのです」

 

がばっと顔を上げ、チャンミンはウィンクした(か、可愛い)

 

「さっすが、チャンミン委員長!」

 

チャンミンはスーツケースから、割りばしの束を取り出した。

 

「じゃあぁぁあん!」

 

「?」

 

それはチャンミン自作のくじ引き棒だった。

 

「割りばしの先に、線を付けています。

1本が1等賞、2本が2等賞。

10等賞まで用意しています」

 

「せっかくガラガラを持ってきたのになぁ。

残念だったな」

 

「残念ですけど、忘れん坊の僕が悪かっただけです。

くじ引き棒を忘れたら、紙に数字をかいて皆さんにひいてもらう方式もとれます」

 

最初からその方法をとれば手間もなかっただろうに。

 

演出にこだわるチャンミンは、ガラガラをチョイスした。

 

人付き合いは苦手で、社内ではどちらかというと馬鹿にされているのに、参加者を楽しませようと一生懸命なチャンミン。

 

健気過ぎて、「よくやった」と褒美をあげたくなる。

 

(何を?

何がいいだろうね。

何をあげても喜びそうな、逆に気に入ってもらえなさそうな。

そんな難しさがチャンミンにはある)

 

社員たちは宴会場。

 

ここはヲタク部屋で、団体行動に耐えかねて早々と同室の者が戻ってくる恐れはあったけれど、今の俺たちは二人きり。

 

チャンミンにキスしてしまっても仕方がない。

 

(つづく)

 

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