(22)時の糸

 

 

~チャンミン~

 

 

僕は耳に装着してあるイヤホンの位置を、何度も直した。

 

ふうとひと息ついてから、リストバンドを操作する。

 

僕はユノに電話をかけようとしていたのだ。

電話番号はMに教えてもらった。

​「なんでまた、どうして?」と、Mは理由を知りたがって、「どうしちゃったの~?」としつこくて、参った。

​呼び出し音が鳴っている。

ドキドキと鼓動が早い。

手の平は汗ばんでいる。

 

(いい年した大人なのに)

呼び出し音が鳴っている。

(出ない...)

ごくっと唾を飲み込んだ。

​(まだ出ない...)

イヤホンから聞こえる、呼び出し音に集中する。

(......)

​これ以上呼び出したら、執拗だと思われるかもしれない。

終了ボタンを押そうとしたら、

『どちらさんだぁ?』

​ユノの声。

ただ、怒っているような、尖った声だ。

心の準備ができていなくて、うまく言葉が出てこない。

「あの...」

​『もしもーし!』

(もしかして、電話したらマズいタイミングだったかな)

『おい!

どちらさんか?って聞いてんだよ、こっちは』

苛立っているユノの声。

​「ぼ、僕です」

『僕って誰だぁ?

さっさと名乗れ!』

(そっか、ユノは僕の番号知らないんだった!)

すっとひと息ついて、僕は言う。

「チャンミンです」

「......」

​沈黙。

​固唾をのんで、待つ。

『どうした、どうしたチャンミン?』

「......」

​(Mと同じ台詞を言わなくても!)

ムッとした僕。

​電話をしたことを後悔してきた。

『なあ、チャンミン?』

ユノの声のトーンが、優しくなった。

『電話をもらえて嬉しいよ』

「...ユノ」

 

 


 

 

~ユノ~

 

 

「疲れた...」

​俺はブーツを脱ぎ捨て、ソファに倒れ込む。

格納ベッドを出す時間も惜しいくらい、ヘトヘトだった。

(明日で終わる。

あと1日だ!)

会議の日程は2日間だったが、俺は準備委員会のメンバーだったため、設営準備も含めて、3日間缶詰状態だ。

(テレビ会議で済むのに、どうしてわざわざ一同を集める必要があるわけさ。

ったく、時間とエネルギーの無駄だとしか思えない)

「おしっ!

酒だ、酒のも!」

俺は勢いをつけて起き上がって、備え付けの冷蔵庫から缶入り酎ハイを取り出した。

「ん?」

リストバンドが振動しだした。

ディスプレイを見る。

 

(知らん番号...無視だ無視!)

酎ハイをガブリと飲む。

(......)

酎ハイをゴクゴクとあおる。

(......)

酎ハイを飲み干す。

(しつこい、しつこい、しつこいぞ!)

通話ボタンをタップして、不機嫌さを前面に出して応答する。

​「どちらさんだぁ?」

 

『あの...』

​(男か)

​「もしもーし!」

『......』

(ん...?)

嫌な予感がする。

「おい!

どちらさんか?って聞いてんだよ」

 

(もしや...)

​『ぼ、僕です』

​(はあぁ?)

嫌な予感は膨らむ。

「『僕』って誰だよ!」

(こいつ...変態野郎だ!

​はぁはぁ言って、いやらしいことしてるんだ!)

酎ハイの缶を握りつぶした。

「おい!

どちらさんか?って聞いてんだ、こっちは」

​『あの...』

​相手の息づかいが聞こえてくる。

(こいつ、興奮してやがる!

...変態野郎確定だ!)

​「僕って誰だぁ?

さっさと名乗れ!」

『チャンミンです』

(え...えええぇぇぇぇ!!)

 

 

俺の手から、酎ハイの缶が転げ落ちた。

 

 

 

 

チャンミンとは共通の話題なんてないから、会話が続かないったら。

俺が一方的に、会議のバカバカしさや、肉まんの食べ過ぎで腹が痛いとか、どうでもいいことばかり喋ってしまった。

チャンミンはいちいち相槌をうってくれた。

チャンミンが何の用事で、電話をしてきたのかは分からない。

普段の彼を知ってるから、​ウブで『僕ちゃん』な彼だから、さぞ勇気を振り絞っただろうなぁ、って。

​チャンミンと話しながら、そう思った。

温かな気持ちになった。

チャンミンとの距離が近くなって、たったの数日なのに、無表情で無口な彼の変化が、微笑ましく思った。

不意打ちの電話は、嬉しかった。

 

 

(つづく)

 

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(21)時の糸

 

 

~チャンミン~

 

 

「チャンミンさん、ため息ばっかりっすよ」

僕は砂利をならしながら、知らず知らずのうちため息を漏らしていたらしい。

カイ君はスポーツドリンクを喉をならして飲むと、口元を手首で拭った。

今日で、第3植栽地の復旧作業は終わりだ。

カイ君が助っ人で入ってくれたおかげで、作業は随分とはかどった。

カイ君は線が細そうにみえるが、タフで、暑い重い作業にも関わらず、弱音を吐かず楽しそうに仕事をしていたのが、好印象だった。

 

 


僕がため息をついていた理由は、ユノがいないから。

2泊3日の出張で不在だという。

職場が一緒だからと言っても、顔は合わせはしても、案外会話ができる機会は少ないものだ。

 

だから、ユノがいてもいなくても変わりはしないのだろうけど、​無意識で彼を探している自分がいた。

​近頃は自分の心境の変化に、いちいち驚かなくなっていた。

(ユノに会いたい。

顔が見たい!)

素直にそう思う。

​ユノは今夜帰ってくるとのこと。

昨夜、僕は一大決心をして、あることをした。

 

思い出すだけで、汗が出てくる。

「チャンミンさん、顔が赤いですよ、恋わずらいっすか?」

カイ君が、冷たい飲み物を僕に渡しながら言った。

「えっ?」

​「今の言葉で動揺したみたいだから、当たりでした?

チャンミンさんが、心ここにあらずなとこは、元々ですけどね」

僕はよっぽど驚いた顔をしていたんだろう。

「かまかけてみたら、図星だったんですね」

カイ君は、やれやれと首を振って、

「いつもポーカーフェイスだから、チャンミンさんって分かりにくいけど、

僕って、けっこう人のこと観察してますから、変化に敏感なんです」

僕の肩を叩く。

「スピードが大事です、チャンミンさん!」

(恋わずらい...なのか、これは?)


 

僕は、薬局の売場で立ち尽くしていた。

これは、3日前の仕事帰りのこと。

ネット注文してもよかったが、香りを確認できないのがネックだ。

実際に手に取って購入できる実店舗は少ないから、職場の近くのこの薬局は珍しい。

 

カラフルなボトルを手に取ったり、元に戻したりしているから、防犯カメラは僕にピントを合わせていたに違いない。

どれがいいのだろう?

『高原を吹き抜ける風のように爽やかで、フレッシュな香り』って?

​全然イメージがわかない。

 

頭を抱えていると、見かねて近くにいた買い物客の女性が、「どうしました?」と声をかけてくれた。

「どれを選んだらいいのか、分からなくて...」

候補の3本を指し示す。

「香りで迷っているのね」

「はい」

「甘ったるくて色っぽいのと、お花のように華やかなもの、ハーブ系のリラックスできるもの、の中から選べばいいのね?」

彼女は、説明書きを読んで、僕にも分かりやすいようかみくだいて説明してくれた。

「うーん」

 

(この3つとも、何か違う...イメージに合わない)

黙り込んでしまった僕を見て、彼女は助け舟を出してくれる。

「これはどうかしら?」

商品棚から別の1本を手に取って、僕に渡した。

「これは柑橘系だから、レモンやグレープフルーツの香りね。

​ただ、香りは残りにくいわよ?」

 

「これです、これにします!」

僕が求めていたイメージにぴったりだった。

「よかったわね」

 

「ありがとうございます」

深々とお辞儀をする僕に、その女性は「いいのよ」と笑って、自分の買い物に戻っていった。

レジに通して、僕は足取り軽く家路を急いだ。

 

 

(つづく)

 

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(20)時の糸

 

 

「チャンミンたら、顔が真っ赤だったわね~」​

Mは可笑しそうに言って、ユノの脇腹をつつく。

「お礼ってなんだったの?」

「病院に付き添ってあげた」

ユノはチャンミンからもらった袋の中身を、膝の上に出している。

7種類の中華まん。

(チャンミンったら、的が外れているというか、なんというか...)

「ふうん。

例の頭痛?

風邪?

美味しそうね、1個ちょうだい」

 

​「あ、いいよ。

どうぞ」

「僕にも下さーい!」

カイがやってきた。

「あれ?

チャンミンさんは?」

「赤面して、どっかいっちゃったわよ」

Mはカレーまんを頬張りながら、ケラケラ笑った。

「チャンミン、可愛いじゃない!」

​ユノは動揺しつつも、嬉しさで胸がいっぱいだった。

胸がいっぱいになってしまって、これ以上食べられなかった。

(夜、食べよう)

ユノはチャンミンからの「お礼」を胸に抱えて、仕事場に戻った。

(チャンミンが可愛すぎる!)

 

 


 

 

午後の勤務中。

チャンミンは、ぬかるんでしまった畝を鍬でかきならしていた。

摂氏35度のハウスは暑い。

 

5分もしないうちに、汗が噴き出してくる。

(やることリストの1つは果たせた。

次は、ユノにマフラーを返すことだ。

​...おっと、忘れてた)

作業する手を止めて、ポケットから薬のボトルを取り出す。

錠剤を1錠口に含んで、ミネラルウォーターで流し込んだ。

「チャンミンさん、どこか悪いんですか?」

半袖Tシャツになったカイは、吸水ポリマー入りの大きな袋を3袋抱えている。

チャンミンも上着を脱いでも暑いので、Tシャツの袖を肩までまくり上げていた。

「チャンミンさん、頭が痛いんですか?

​...よっこらしょ」

カイはドサリと重い荷物を下ろして、腰をトントン叩いた

「よっこらしょ、なんて、年寄りみたいだな」

「24歳は年寄りですよ、10代に戻りたいっす」

「そういうものかな?」

チャンミンは、袋を水が溜まっている箇所に移動させる。

(よしと、余分な水分はなくなるはず)

カイのウェーブかかった髪も、汗でひたいに張り付いている。

「チャンミンさんこそ、どうなんです?

30歳でしたっけ?」

​「29だよ、悪いかー?」

「ハハハハハ!

チャンミンさんも、10代に戻りたいって思います?」

「10代?」

チャンミンは汗で濡れた前髪をかきあげた後、じっと考え込む。

「チャンミンさんの10代って、どんな風でした?」

(僕の10代の頃って...どうだったっけ?)

気持ちを集中させて、10年以上前の自分を思い浮かべようとした。

「10代...?」

(駄目だ、霞がかかったかのように、曖昧だ)

 

頭をはっきりさせるかのように、チャンミンは頭をぶるっと振った。

(僕は、ぼんやりと生きてきたから、印象に残るようなエピソードなどないのかもしれない)

そう納得させようとした、その直後。

チャンミンの視界が、左右に揺れる。

(まただ!)

チャンミンが、まぶたを覆ってよろけた。

​「チャンミンさん!」

カイは素早く駆け寄って、彼を支えた。

チャンミンはカイに支えられたまま、ギュッと目をつむり、深呼吸を繰り返した。

「平気だよ...ありがとう」

チャンミンの眩暈は一瞬のことだったようで、今はしゃんと立っていられる。

「チャンミンさん、顔が真っ青です。

​休んだ方がいいですって。

​​後は僕ひとりで出来ますんで」

カイは眉をひそめて、チャンミンを心配そうに見る。

「冷たいものを飲めば、気分もよくなると思う。

カイ君、飲みたいものある?

買ってくるよ」

 

心配をかけまいとチャンミンは立ち上がって、そう言った。

 

 

(つづく)

 

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(19)時の糸

 

 

~チャンミン~

 

 

ランチタイム。

 

​​僕はカイ君とハウスを出て管理棟へ戻るところだった。

​カイ君は僕の隣で、カボチャの原種がどうだとか、熱く語っている。

ふと、回廊を目をやると、ユノとMがベンチで昼食をとっているのを見つけた。

(ユノ...)

短い黒髪と、白いトレーナー、黒のスリムパンツとレースアップブーツ。

(モノトーンが、少年のようなユノの雰囲気によく合っている)

鼓動が早くなった。

​今朝はユノのおふざけと、Tさんに邪魔されて、ユノとちゃんと話ができなかった。

「ごめん、また後で話をきくよ。

用を思い出した」

カイ君に断って、回廊に向かって走る。

近づいてくる僕に気づいたユノとMが、走る僕に注目している。

(恥ずかしいな)

「チャンミン、急いじゃって何かしら?」

Mが僕に尋ねたけど、僕は「どうも」とだけ頷いてみせてから、ユノに向き直った。

ユノは、もりもりとサンドイッチを食べている。

「ユノ!

あのっ...」

「どうしたどうした?」

ユノは、口の中の物を飲み込んで言った。

「ユノ、それは食べないで」

「は?」

​「いいから、食べないで。ストップ」

「おい!

これは今朝買ったばっかりだから、悪くなってないよ」

ユノは、サンドイッチのパッケージの消費期限をチェックしているようだ。

​「もう半分は食べっちゃったよ」

「残りは食べないで」

 

「なんで?」

 

「いいから!

食べないで」

「う、うん。

意味わかんないけど...わかったよ」

「ちょっと待ってて」

 

僕は、ぽかんとしている二人を残して、事務所へ急ぐ。

(もう少しマシな言い方ができればよかったのに...!)

自分のロッカーを開けて、今朝用意しておいた袋を持って再び二人の元に戻った。

(絶対、ユノは喜んでくれる)

ユノは食べるのをやめて、僕のことを待っていてくれていた。

「ユノ。

これ...お礼です」

手にした袋をユノに渡した。

「お礼?

よくわかんないけど、ありがと」

その時、僕の顔は多分、無表情だったかもしれないけど、内心ワクワクと楽しい気持ちだった。

「なんなのさ」

ユノは袋の中を覗いている。

隣のMも、ユノの手元を覗き込んだ。

「は?」

あんぐりと口を開けてるユノ。

「チャンミン。

お前、これ一人で食べろってことか!?」

「うん、そうだよ」

​「あのな。

お前さんは、限度ってものを知らんのか?」

「だって、ユノ。

中華まん食べたいって言ってたから。

​あの時は買ってあげられなかったし」

​ユノは迷ったら全種類買うタイプだと知って、僕は中華まんを全種類買ってきたのだ。

誰かにお礼の品を用意する経験がない僕は、正解が分からない。

 

「俺を豚にするつもりか?

ま、いいや。

美味そうだねぇ」

​ユノは文句を言いつつも、嬉しそうだ。

僕も嬉しい。

​とっても。

 

 

(つづく)

 

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(18)時の糸

 

 

~ユノ~

 

 

午前中は、全く仕事にならなかった。​

 

計測の手順を間違えてばかりで、機器のアラーム音を何度も鳴らしてしまった。

(たった2日の寝不足が、三十路にはこたえる...)

コーヒーのがぶ飲みで、トイレも近い。

少し前、作業着を泥だらけにしたカイを見かけたが、クリーンな今の時代、なかなか見られない姿だ。

やることの多くが手仕事、力仕事で、うちの職場の平均年齢が若い理由もうなずける。

催促されている報告書も仕上がっていない。

時刻を確認すると、あと15分でお昼休憩だ。

(ちょっと早いけど)

​俺はランチが入ってるバッグを持って、ドームへ向かうことにした。

ドームの回廊ベンチで、Mは既にランチを終えたばかりのようだった。

(早っ!)

今日のMは、パステルピンクのワンピース姿で、ゆるく巻いた髪を複雑に編み込んだヘアスタイルにしてる。

(一種の職人技やな。

Mこそ、現場仕事が向いてるんじゃないかな)

 

​Mのヘアスタイルを見て、いつもそう思う。

「ユノ!

お先~」

「受付カウンターを無人にしといていいの?」

Mの隣にドスンと腰を下ろして、俺もお昼ご飯を取り出した。

「アポなしで来る人なんてほとんどいないから大丈夫」

俺がノーマルだったら悩殺もののMの笑顔。

「あんたの神経は図太いけど、ちんまりしか食べんのやな?」

「万年ダイエッターですから」

「Mは痩せんでもよろし。

​胸がでかいのは、羨ましいかぎりだって。

カイ君なんかあんたの胸にくぎ付けよ」

「やめてよユノ。

彼、若いからね、24だっけ?

性欲バリバリの年ごろじゃない。

...私は年下には興味がないの。

やっぱり年上よね~...Tさんみたいな?」

Mは不敵な笑みを浮かべて俺を見る。

「本日のTさんは、どうだった?」

「まままままま。

それはまぁ...いただきます!」

Tさんネタを今は振って欲しくない俺だったから、大きな音をたててサンドイッチの封を開けた。

「あら!珍しい...ほらユノ!」

「何?」

ピンクのマニュキュアのMの指さす方向を見る。

​ドームの中央辺りの小道を、チャンミンとカイ君が談笑しながら歩いている。

そういえば、昨日のトラブルの復旧作業をカイ君が手伝うとかなんとか、今朝Tさんが話していた。

あの時、チャンミンはものすごく不機嫌そうな顔してたっけ。

感情をほとんど表に出さないから、珍しいと思ったんだっけ。

Mは二人の様子を眺めながら言う。

「チャンミンと会話が成立するのかな?」

「相手次第なんじゃない?」

「ねぇ、なかなかの光景じゃない?

​二人とも、いい男なんだよねぇ」

「そうかもね」

(興味ないふりも難しい)

 

「カイ君はマメだからモテるよね、絶対。

チャンミンは...むっつり君。

プライベートではオオカミなのよ...こわ~い」

サンドイッチを齧りながら、俺もMと一緒になって眺める。

チャンミンもカイ君も、頭が小さく、抜群にスタイルがいい。

 

二人ともきれいな顔立ちだけど、タイプが違う。

チャンミンの頬骨は高く、目鼻口のパーツが大きくて、鼻筋も太いのに対し、

カイ君は、奥一重なのに大きな目で、女の子のような細くて高い鼻梁。

といった風に。

(って、おい!

ちゃっかりしっかり観察してるんだ、自分ってば)

 

あれこれ考えこんでいたら、Mが俺の背中を叩く。

「Tさんのこといい加減に諦めて、二人のうちどっちかにしなよ、ユノ~」

「うぐっ」

「年下も新鮮でいいかもよ~」

口いっぱいにサンドイッチを頬張っていたから、むせてしまう。

 

「俺は男だぞ?

俺に迫られて、困るのは二人だろうが?」

 

「そんなの、迫ってから心配しなさいよ」

 

「アホか」

 

世の中、Tさんのように人間が出来ている奴ばかりじゃないのだ。

「ユノはどっちが好み?」

Mはとても楽しそうだ。

 

「分かんないよ。

そういう目で見たことないし...」

​「私だったら~、チャンミンかなぁ。

奥に秘めてる感がそそるじゃない?

で、ユノは?」

顔が熱くなっているのが分かる。

(おいおい。

なにドキドキしてんだ!)

「お、俺は...カイ君かなぁ?」

 

「えーそうなんだー」とケラケラ笑うMをよそに、

(なぜそこで、逆を言っちゃうんかなぁ)

​赤面しているのがバレないよう、ゴクリと水を飲んだ。

 

(つづく)

 

 

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