(36)あなたのものになりたい

 

 

~ユノ~

 

『お客さんになってみたかったのでは?』

 

チャンミンの推測に、「なるほど、そうだったのかもしれない」と気付かされた。

 

「買い主を失った俺は、彼から譲り受けた有り余る金を持て余しており、使い道を探していた。

ボストンバッグに金を詰め、日がな一日街をうろついていた。

いわゆる高級ブランドといわれる店を回り、店員に進められるまま包ませた。

行きつけの店では、買い主を連れずに一人で来店した俺に、あからさまに驚いて不躾にならないようにしていたようだが、丸くした目が既にあからさまだった。

帰宅して、山積みされた紙袋や箱を前に、虚しい気持ちに襲われた。

買えるものは何でも買った。

寂しさを埋めるために、物を手に入れていった。

俺はびびりだから、不動産やクルーザーには手は出せなかった。

身に余るんだ。

自分の二本の腕で抱えられるもの...俺が把握できるサイズのものに限っていた。

こうやって...チャンミンのように」

 

俺はチャンミンを後ろから抱きしめ、彼の後頭部に唇をつけた。

 

「勘違いするなよ?

お前を俺の所有物にしようと思って、金を払ったんじゃないからね」

 

「ふふふ、分かっています」

 

チャンミンは、胸の辺りで組まれた俺の腕に口づけ、舐めた。

 

その舌づかいがいやらしいのは、小一時間前の濃厚だった行為の余韻を引きずっているからだろう。

 

「僕を自由にしたかった...でしょ?」

 

「ああ。

身請けされて以来、一度も足を踏み入れたことのない古巣へ向かった理由。

チャンミンの言うとおりだ。

客になりたかった。

素晴らしい『飼い主』になりたかった。

庇護される立場からする側に立ちたかった。

誰かひとり、気に入りの『犬』を見つけて、金を払うんだ。

そいつの首輪を外して、放してやる。

ひと目で気に入った『犬』を見つけられればラッキー。

助けてやるに値する『犬』が見つからなければ、店内の『犬』全部買い取る」

 

「......」

 

「こんな風に、あの店を訪れる客たちと俺は変わらない。

軽蔑して欲しい。

人助けのように見えて、傲慢で偽善の行為。

寂しさを埋めるための、利己的な行為だ」

 

「ねえ、お兄さん」

 

チャンミンは俺の腕の中で、くるりと身体の向きを変えると、俺の頬を両手で包み込んだ。

 

「僕も他の『犬』も自由になったんだから、それでいいじゃないですか?」

 

「......」

 

「お兄さんは賢い人でしょ?

何度もおんなじこと言うんだもの。

ま、いいですよ。

『お兄さんは間違っていない』って、僕が教え続けてあげますから」

 

チャンミンの瞳が、ぬれぬれと光を放っていた。

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

世の中には、いろんな種類の「好き」があるそうだ。

 

今僕が観ているTVドラマでも、女優さんが『あの人が好きなの!』って叫んでる。

 

「ふぅん」

 

僕はソファにもたれて、スナック菓子を食べながら外国のドラマ番組を見ていた。

 

世間を知る為と言葉の上達の為、テレビは僕の先生だった。

 

僕の語学力はまあまあ、上達したけれど、よちよち赤ちゃんレベルだと思う。

 

画面下に表示される字幕を読みながらだったため、置いてけぼりにされないよう、一瞬でも目を離せない。

 

「ふう~ん」

 

油と塩の付いた指を1本1本しゃぶってから、2袋目のスナック菓子の封を開けた。

 

 

今日のお兄さんは外出中で、留守番の僕は悪い子になる。

 

裸ん坊になって、チョコレートとスナック菓子と、アイスクリームをお腹いっぱい食べる。

 

お兄さんにバレたくなくて、普段は控えているひとりえっちもいっぱいする。

 

お兄さんを想いながら道具を使って、思う存分ひとりえっちする。

(ゆるんだお尻に、お兄さんにバレてしまうんだけどね)

 

お菓子をいっぱい食べておきながら、鏡に全身を映して、お腹とお尻の肉付きをチェックする。

 

お兄さんのために痩せた体形でいたいから。

 

 

「ふぅ~ん...」

 

「好き」について、しばし考えてみた。

 

僕の中ではお兄さんしか思い浮かばない。

 

女優さん演じる人には子供がいて、その女の子が「私は犬が好きなの」と言っている。

 

世の中は「好き」が溢れているなぁと思った。

 

昨晩のお兄さんとの会話を思い出していた。

 

「チャンミンを俺の所有物にするために金を払ったわけじゃない。自由にしたかっただけだ」とお兄さんは言っていた。

 

昨夜初めて聞かされた台詞ではなく、僕らの会話の中で何度も何度も、話題にされる内容だ。

 

お兄さんの家で暮らし始めた頃は、僕はお兄さんのショユーブツです、と宣言していた。

 

でも、お兄さんと暮らすうち、それが彼の心を傷つけてしまう台詞だと学んだんだ。

 

だから、言わない。

 

そう思っていても、言わない。

 

お兄さんを悲しませる言葉は、僕は口にしない。

 

 

 

僕のお腹の中で、内臓が窮屈そうにしている。

 

僕ばっかりずるい。

 

お兄さんは呻き声ひとつあげていない。

 

お兄さんは、僕をイカせてばかりいる。

 

お兄さんはベッドについていた両手を離すと、僕の首を掴んだ。

 

その指に力がこもってゆく。

 

「...ぐっ...んぐ...」

 

酸素不足で視界は真っ白になった。

 

耳鳴りとは蝉の鳴き声のようだと聞いたことがあるけれど、その通りだった。

 

声が出せず、「かっ、かっ」と喉が鳴る。

 

その上で、ガツガツ深く突かれたりなんかしたら、天国行きになりそうだ。

 

気持ちよくて気持ちよくて気持ちよくて...。

 

僕らのえっちはアブナイ。

 

だから好き。

 

お兄さんに好きなようにされる僕が好き。

 

酸素不足でパクパクさせた僕の唇を貪るお兄さん。

 

「僕はお兄さんのショユーブツです」

 

心の中でつぶやいて、朦朧とする意識の下、お兄さんの萎えかけたそれを握りしめた。

 

 

(つづく)

 

 

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(35)あなたのものになりたい

 

 

~ユノ~

 

気づいてるかな?

 

チョーカーを付けない日が増えていることを?

 

すうすうして落ち着かない、と言っていたお前が。

 

色素沈着した肌を隠す用途もあった。

 

突如自由の身になって、身ぐるみはがされて放り出されて、途方にくれたチャンミン。

 

「僕はこれからどうしたらいいの?」

 

チョーカーという首輪でもって、不安でたまらない心を繋ぎ止めて欲しい。

 

こちらの理由の方が大きかったんだろうと思う。

 

『犬』時代は、自分の肉体でありながら、自分のモノではなかった。

 

数時間だけ、お前の肉体は買い主のモノになるが、それも数時間かひと晩のこと。

 

残りは店の所有物、誰のものにもなれずに待機する肉体。

 

いざ、身も心もすべて自分の元に返却されても、困ってしまうのだ。

 

俺を追いかけてきてくれて、俺の方が救われた。

 

『犬』でしかいられないお前を、自由という名の試練に放り出すような真似を俺はした。

 

現実社会でひとり生き延びることの難しさを、知り過ぎている俺だったのに。

 

首輪を外され放たれるチャンミンを、店先で待つべきだったのに、らしくない行為...いわゆる『いいコト』をした自分に動揺していて、出来なかった。

 

「お兄さん!」

 

俺を追うチャンミンの必死な表情に、肉欲と征服欲ではない動機で求められたかったのだと、知ったのだった。

 

 

イヌみたいに俺の脇に鼻をうずめ、寝息をたてているチャンミンの頬を指の背で撫ぜた。

 

俺が放心している間に、チャンミンは寝入ってしまったようだ。

 

俺たちの行為は回を重ねるごとに、より濃厚にエスカレートしていっている。

 

今夜のものも、受け手のチャンミンの負担は相当だっただろう。

 

体液まみれの身体を洗い流したかったが、俺に頭を預けているチャンミンを起こしたくなかった。

 

その無防備さに胸をつかれ、まぶたの裏が熱くなったことに慌てた。

 

俺たちの下でくしゃくしゃになったシーツを引っ張り出したとき、

 

「...お兄さん」

 

眠っていると思っていたチャンミンが、俺を呼んだのだ。

 

俺を見上げていた。

 

覗く者などいないからカーテンもブラインドも必要ないが、寝室だけは分厚い遮光カーテンを取り付けている。

 

そのカーテンも開け放ったままだった。

 

高層の俺たちの住まいから、眼下のイルミネーションは遠い。

 

せいぜい、赤く点滅する航空障害灯だけだ。

 

それでも、チャンミンの顔も形も、俺にははっきりと見える。

 

丸っこい眼で...俺の何もかもを信じ切った犬みたいな眼で、俺を見上げていた。

 

「寝たふりしてた?」

 

「...はい。

寝てしまうのが勿体なくて。

...だって、お兄さんと仲良くしたのに...いろんなお話したいです」

 

降り注ぐ陽光で真っ白になった寝室で、真っ白なシーツの上で抱きあった。

 

色味は俺たちの肌と髪だけで、そこは無音の世界。

 

どれほどみだらな行為であっても、その性交は神聖なものに思われる...大袈裟な表現だけど。

 

「...どんな話をしようか?」

 

チャンミンを負の過去を刻みつけた『あの店』へ連れていってから2か月程が経過していた。

 

季節は初冬へと移り変わっていた。

 

その間、『あの店』についての話題が出ることは一度もなかった。

 

多くを占めていたのは、後ろめたさ、罪の意識だった。

 

「お前にきちんと説明していなかったね。

なぜ、あの店に行ったのか。

忌み嫌っていたあの店なのに、軽蔑していたあの店なのに。

そのワケを俺は曖昧にぼかしていた。

知りたいだろ?

『どうして?』って思っていただろ?」

 

「...ちょっとは。

怒らないでくださいね。

お兄さんはもしかして、お客さんになってみたかったのかな?って。

どんな気持ちになるんだろう?って。

知りたかったのかな?って。

...僕はそう思っていました」

 

チャンミンはガラスケースに閉じ込められ、世間も正常な人間関係も知らずに生きてきた。

 

にもかかわらず、いつの間にか他人の気持ちを探る術を得ていたとは。

 

俺と共に暮らしたからって、思っていいよな?

 

 

(つづく)

 

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(34)あなたのものになりたい

 

 

~チャンミン~

 

僕のお尻から生暖かいものが溢れだし、内ももから膝へと滴り落ちる。

 

排出したいのを耐えてきたけど、もう限界だった。

 

恥ずかしさのあまり、涙がにじんできた。

 

お兄さんはちょうどよい温度のシャワーと優しい手つきで、僕の中を綺麗にしてくれた。

 

さらには、緩んだ穴にお兄さんの舌がぬるりと忍び込んできさえした。

 

「生きる術の不足した者を、自由にした。

俺がしたことは、ありがた迷惑だったかもしれない」

 

それは独り言のようだった。

 

僕に聞かせるというよりも、自分で言い聞かせているかのように聞こえた。

 

お兄さんが心配になって後ろを振り返ると、彼は泣いていた。

 

「...お兄さん?」

 

「でもね、あそこはいけない。

あんなところにいたら、いけないよ」

 

その理由は、あの場に居たことのある者じゃなければ理解できない。

 

分かるよお兄さん、僕なら分かる。

 

僕はお兄さんの気持ちを、もっと分かってあげたい。

 

なぜなら、お兄さんは頭が良すぎて、心配ごとや悩みごとを僕の何倍も沢山、抱えてしまう人だ。

 

僕の能天気さをモノサシの基準にしてしまったら、「お兄さんったら、難しく考え過ぎですよ」と豪快に笑って背中を叩いてしまいそうだ。

 

...そうじゃなくて、想像力を働かせるんだ。

 

隣の誰かが何を思い、何を感じているか無関心に生きてきた。

 

さらには、僕が何を思い、何を感じているのかも意識の外に追い出してしまっていた。

 

思考を...人間を捨てて、感覚と欲だけに生きる犬になろうとしていた。

 

僕はもう、『犬』じゃない。

 

お兄さんが何を思って、犬たちを解放したのか、その結果、何に思い悩んでいるのか...想像しろ。

 

僕はお兄さんとえっちをするために、ここに居るんじゃないだ。

 

お兄さんから与えられる強烈な快感に溺れるだけが、彼の隣にいる幸せじゃないんだ。

 

同じ境遇に生きてきた僕らだけど、それについての感想文がそれぞれ違う。

 

お兄さんは優しい。

 

『犬』を続けてゆくには、優しすぎた。

 

優し過ぎるあまり、『犬』を卒業した今も苦しんでいる。

 

僕のお尻を洗いながら、昔のことを思い出してしまったんだね。

 

「...お兄さん」

 

僕はお兄さんの手からシャワーを取り上げ、その場にしゃがんだ。

 

むせび泣くお兄さんの肩を抱き寄せて、その小さな頭を撫ぜた。

 

 

 

湯上りの僕たちは、バスタオルを腰に巻いただけの恰好で、バルコニーのデッキチェアに横になっていた。

 

星がきらめいているはずの夜空は、人口500万人都市の灯りで霞んでいた。

 

僕もお兄さんもよく冷えたビールのグラスを傾けていた。

 

涼しい夜風が、シャワーを長く浴び過ぎて茹だった身体を心地よく冷やしてくれる。

 

ざわざわと屋上庭園の草木の葉がこすれる音も、小池にちょろちょろと注ぐ水音も耳に涼やかだった。

 

「自由とは心細いものだ。

俺は金という力で、その心細さをシールドした。

その心細さを知っていながら、この店の『犬』たちを野生に放した。

恋は盲目だな。

俺にいくら金があっても、この世の全ての『犬』を身請けすることはできない。

どこかで聞いたことがある考えだな、これは?

全ての捨て猫を、俺一人で救うことはできないけれど、一匹の猫なら引き受けることができる。

たかが一匹されど一匹だ」

 

この台詞も独り言のようだった。

 

「お兄さん、もう言い訳しなくていいですから」

 

「え...」

 

「僕にはギゼンとかどうでもいいし、意味が分かりません。

先の先まで心配してしまったら、身動きできません。

店を出た時、そこからどうするかは彼らの責任です。

あの店の中で生き残れたんですから、彼らはそこまでやわじゃないですって。

大丈夫です」

 

僕は力強くうなずいてみせた。

 

「僕はお兄さんに賛成です。

お兄さんのすること全部に、大賛成です」

 

「『自分だったら、こうされたら嬉しい』と思うことをしたんだ。

俺だったらあんなところ、出たくてしかたがなかった。

だから、彼らを自由にしたんだ」

 

強い口調だった。

 

「それでいいのではないでしょうか?」

 

お兄さんのホッとした顔に、僕の方こそホッとした。

 

今夜の僕は、お兄さんのお兄さんみたいだった。

 

 


 

 

~ユノ~

 

 

あの類の店を手に入れて解散させるには、少々ヤバ目なこともする必要があった。

 

独りだった時なら、捨て身な覚悟でいられたが、今は違う。

 

チャンミンがいる。

 

身辺を気を付けなければ...。

 

俺に何かあったらチャンミンが困るし、チャンミンに何かあったら、俺は苦しむ。

 

 

(つづく)

 

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(33)あなたのものになりたい

 

 

~ユノ~

 

息も絶え絶えなチャンミンを、浴室まで運んだ。

 

出しっぱなしのシャワーで温めておいた浴室は、湯気で真っ白に煙っていた。

 

チャンミンを床に下ろし、ぐったりとした彼の身体を浴槽にもたせかけた。

 

口は半開きで、目は閉じていた。

 

「チャンミン?」

 

頬をひたひた叩くと、小さく呻いてうっすらまぶたを開けた。

 

「おにぃ...さん?」

 

両頬はピンクに染まり、涙で濡れたまつ毛が黒々としていて艶っぽかった。

 

どこかの美女たちより、ずっと美人だった。

 

ミネラルウォーターのペットボトルを口にあてがうと、貪るようにごくりごくりと飲む。

 

途中で咳きこむものだから、「慌てるな」と背中を撫ぜてやらなければならなかった。

 

今日は少々...どころか、かなり無理をさせてしまったかもしれない。

 

間断なくイカせ過ぎたし、乱暴に突き過ぎたせいか、例の場所の周囲が赤く擦れていた。

 

下腹を撫ぜるチャンミンに「出したいか?」と尋ねると、彼は困ったように両眉を下げた。

 

「...はい。

そうみたいです」

 

かなり深いところをかき回したから、腹が痛くなっても仕方がない。

 

「トイレに行くか?」

 

「はい...すみません」

 

がくがくに膝を震わすチャンミンに、肩を貸して立ち上がらせた。

 

汗と湯気で肌が滑りそうになる。

 

「悪かった」と謝る代わりに、「今日のチャンミンは特によかった」と言った。

 

「ホントですか?」

 

喜び弾ける笑顔で、チャンミンは俺を振り仰いだ。

 

「最高によかったよ」

 

そう繰り返して、チャンミンのこめかみに口づけた。

 

「僕も...今日のお兄さんは凄かったです」

 

その言葉になぜか、俺は煽られた。

 

チャンミンの身体を労わろうとしたばかりなのに、意地悪をしたくなったのだ。

 

チャンミンの身体をすくいあげ、バスタブの中に下ろした。

 

「お兄さん!?」

 

バスタブから出ようするチャンミンを許さなかった。

 

「僕、お腹が痛いんです。

...行きたいんです」

 

そういうチャンミンを羽交い絞めに抱きしめた。

 

「や、やだ。

もう出ちゃいます。

やだ...やだ」

 

チャンミンは下腹を押さえて、深く屈んでしまった。

 

膝頭をこすりつけ、苦しさでゆがんだ顔で、潤んだ懇願の眼で俺を見上げている。

 

「お願い...お願いです」

 

その切なげな表情に、愛おしい気持ちで溢れそうになる

 

「じゃあ、お兄さんは、出てって。

ここから出てって...!」

 

俺の前で淫乱になるチャンミンなのに、後ろの始末を俺にさせることを好まなかった。

 

「今さら恥ずかしがる必要はないだろう?」

 

チャンミンを辱めて楽しみたいのではなく、純粋に綺麗にしてやりたいといった、愛情からきている。

 

でも、チャンミンは首を横に振るのだ。

 

果てた後のチャンミンは、放心してその場にぐったりしている。

 

いつもの俺たちはこうだ。

 

俺ひとりシャワーを浴びに行って、そのままチャンミンを寝かしておく。

 

べたつきを洗い流してさっぱりした後、チャンミンのところに戻って、眠る彼を横抱きする。

 

チャンミンは寝言とうわ言の間の甘えた声で、「お兄さん」とつぶやき、俺の胴にしがみつく。

 

むにゃむにゃとうごめく口元は、まるで小さな子供のようなのだ。

 

俺の身近に小さな子供がいたためしはないから、この連想はTV画面越しの情報だろう。

 

そのままうとうとしてしまい、ふっと目覚めた時には腕の中のぬくもりが消えている。

 

眠気に勝てず再びうとうととしていると、腕の中にぬくもりが戻ってきた。

 

水気の残る肌とシャンプーの香りから、シャワーを浴びてきたのだと分かる。

 

いつも、このような流れ。

 

一緒に入浴することもあったが、その時は俺に背を向けず、片手で手早く処理を済ませていた。

 

 

「俺の目なんて気にしなくていいから、ここですっきりしろ」

 

「......」

 

チャンミンは迷っているようだ。

 

阻む俺を突破したくても、この時のチャンミンはもう、一歩足を動かすだけであそこが緩んでしまう。

 

引き結んだ唇は口角が下がり、目は真っ赤に充血している。

 

「恥ずかしくないさ。

俺はチャンミンの全部が見たい。

綺麗にするところを俺に見せてよ」

 

「...でも...でも...!」

 

青ざめてきた顔色に、我慢もそろそろ限界のようだ。

 

「俺だって経験がある。

準備もそうだけど、片付けの様子は見られたくないよね。

虚しく寂しい行為だったね。

俺には分かってるよ、チャンミン」

 

「...えっ!?

経験...?」

 

「そうだ、俺は両方いける『犬』だった。

珍しいタイプだ」

 

「...そう...だったんですか」

 

 

 

客を迎えるための用意よりも、客を帰した後の始末の方が、何とも言えない哀しい気持ちになった。

 

あの店は当時、シャワールームが1つしかなかったため、他の犬たちと一緒に身を清めることも多かった。

 

『犬』同士、目を合わさず、欲の吐き出し口となった箇所を濯いだものだ。

 

ある日のこと、数人の『犬』たちとシャワーを浴びていた時、バラバラと固い何かが散らばる音がした。

 

音の正体を知り、俺は猛烈な悲しみに襲われた。

 

タイル床に散らばる光るもの...それはビー玉で、次々とその数を増やしていった。

 

その『犬』は泣いていた。

 

他にもこんなことがあった。

 

排水口へと渦を巻く赤く染まったお湯にギョッとしていると、俺の隣で『犬』の一人が崩れ落ちた。

 

プレイの加減を知らない客のせいだった。

 

居合わせた『犬』たちで彼を寝床まで運び、青ざめてゆく様子に店主を呼び、存在自体が秘密の店だったため、救急車も呼べなかった。

 

あの後、俺は買い取られて店を出てしまったから、倒れた『犬』のその後は知らない。

 

彼の客は出入り禁止になっていればいいのだが...。

 

 

 

「よくわかるよ。

見られたくないと思うチャンミンの気持ちはよく分かる。

俺は全部を知っているから。

俺は最初から最後まで...全部、チャンミンを愛したい」

 

「恥ずかしいのもありますけど。

お兄さんのものの場合は違うんです。

客たちのとは全然、違うんです。

洗ったらお尻が空っぽになって寂しくなるんです。

どうして僕の身体は、お兄さんのものを吸い込んでくれないんだろう、って」

 

「それは異物だから仕方がないさ。

俺たちには役に立たない...どころか、そこにあるべきものじゃないからね」

 

「でも...」

 

「難しいことは考えなくていいさ。

ほら、こっちに尻を向けて。

俺は何でも知ってるんだ。

だから、俺に全部を見せて」

 

チャンミンはそろりとこちらに背を向けると、身をかがめた。

 

赤く腫れたそこに指で触れると、ぴくっと震えた。

 

指で押し広げた中を、シャワーのぬるま湯で丁寧に、心をこめて濯いでいった。

 

「生きる術の不足した者たちを、自由にした。

俺がしたことは、ありがた迷惑だったかもしれない。

でもね、あそこはいけない。

あんなところにいたら、いけないよ」

 

つぶやきながら、かつてを思い出しながら涙をこぼしていた。

 

 

(つづく)

 

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(32)あなたのものになりたい

 

 

~ユノ~

 

俺たちはセックスの相性が抜群にいい。

 

そして、新たな繋がり方を探している。

 

ダイニングテーブルの上のチャンミンを、後ろから突き上げるのが最近のヒットだ。

 

両尻を押し広げ、露わになった結合箇所を見下ろしながら、俺は腰を振る。

 

腰を叩きつけるたび、チャンミンの白い尻がふるふると震えた。

 

チャンミンはテーブルの縁をつかんで、突き落とされないよう踏ん張っているが、そろそろ限界だろう。

 

天板にチャンミンの放ったものが飛び散っている。

 

出し切り枯れてしまった今、チャンミンのものは頭を垂れていた。

 

与えられる振動に合わせて、前後左右に激しく揺さぶられ、その先端からたらりと雫が糸を引いている。

 

「...んあぁぁっ...ああぁぁ...ぁぁっ」

 

ああ、またイッた。

 

その瞬間、チャンミンの中の締め付けがきつくなるから、絶頂していることがよく分かるのだ。

 

俺のものを握りつぶさんばかりの凄まじい力だ。

 

「...っく...っ...」

 

強烈な痛みと快感が同時に襲ってくる。

 

奥歯を噛みしめ、それらをやり過ごした。

 

チャンミンを焦らそうと、戯れで引き抜くと、俺の形に拡張された穴が口を開けている。

 

細い腰と尻に対して、ぽっかり穿たれた穴があまりに大きくて、怖くなってしまうのだ。

 

「お兄さんっ...早く、挿れて。

挿れてよ!」

 

焦れたチャンミンの声に俺ははっとして、彼の腰を掴み直す。

 

そして、チャンミンの中に取り込まれてゆくのだ。

 

最後のグラスが転がり落ちて、床で砕けた。

 

チャンミンが窓ガラスに映る俺たちの姿、ちらちらと見ていることに気づいていた。

 

「犬だなぁ。

俺たちは盛りのついた犬みたいだなぁ。

どうするチャンミン?

俺たち、犬に逆戻りだぞ?」

 

「...やっ、やだっ...違う、違うもんっ...」

 

その時は窓ガラスから顔を反らしたくせに、見たい欲求に直ぐに負けてしまうチャンミンだった。

 

チャンミンの睾丸の裏辺りを狙って、そこだけ集中して擦りあげた。

 

俺のものが抜けるか抜けないかまでぎりぎりまで腰を引き、待ちわびたチャンミンが後ろを振り向くやなや、力いっぱい打ち付ける。

 

勢いが強すぎて、チャンミンは前に吹っ飛んだ。

 

うつ伏せに倒れたチャンミンをひっくり返し、仰向けになった彼の上に俺は身を伏せた。

 

「脚を持っていろ」

 

うっとり半眼になったまぶたから次々と涙が溢れ出し、酸素を求めた鼻の穴をひくひくさせていた。

 

「チャンミン?

脚を持ってろ。

脚を...だめか」

 

チャンミンの全身は茹でタコのように紅潮しており、意識も朦朧としている。

 

仕方なく、チャンミンの両足首を...本人も持て余し気味な細く長い脚を...高々と持ち上げた。

 

そして、より深く半身を預けてチャンミンの身体を二つ折りにした。

 

腰を揺すりながら、睾丸の裏をぐりりと押してやる。

 

「んんあぁぁっ!」

 

またイッたようだ。

 

「はあはあ...」

 

深呼吸をして、食いちぎられそうだった根元の痛みを逃した。

 

チャンミンの喘ぎが間断ないものに変わってきた。

 

横を見ると、チャンミンの足先が細かく痙攣していた。

 

「お、おに...に...」

 

のけぞった喉を舐め、耳たぶを舐めた。

 

「...どうした?」

 

口をぱくぱくさせているチャンミン。

 

言いたいことがあるのに、うまく言葉が出せないようだった。

 

汗まみれの前髪をかきあげてやり、「ギブアップか?」と尋ねた。

 

「ちが...違う...ちゅう...ちゅう」

 

「ちゅう?」

 

チャンミンは俺の頭を力づくで引き落とした。

 

「ちゅうちゅう」

 

「?」

 

チャンミンの言葉の意味を読み取ろうと、彼の口元に耳を寄せた。

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

この感じ...切なくて、哀しくて...。

 

圧倒的な心細さに襲われて...。

 

お兄さんの汗まみれの顔を力づくで引き寄せた。

 

両手に包まれたお兄さんの頬は、火傷しそうに熱かった。

 

キスをして欲しくて、口をパクパクさせた。

 

「ちゅうちゅう...」

 

お兄さんは意味が分からないようだった。

 

「ちゅうして、ちゅう...ちゅう」

 

「...なんだ」

 

意味が通じるとお兄さんは、両手で僕の顔をすっぽり包み込みこんだ。

 

上はねっとりゆっくりしたキスなのに、下はガツガツ激しく突かれてしまい、イキっぱなしだった僕は、これで何回目になるのか、またイッてしまって頭が変態になってしまった。

 

お兄さんとえっちをしていると、人間から離れてどんどん野蛮になってしまう。

 

難しいことなんて考えず、動物みたいにヤるんだ。

 

 

(つづく)

 

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