義弟(31-1)

 

 

~ユノ33歳~

 

 

キッチンで誘われた時、Bとする気は全くなかった。

 

チャンミンの絵を見たいと、Bは軽い気持ちでねだったんだろうが、俺は動揺していた。

 

アレはいけない。

 

網ストッキングと真珠のネックレスだけを身につけた、10代の少年。

 

アート作品から大きく脱線してしまった、淫らな官能画だ。

 

チャンミンに抱く愛情を濃厚に漂わせた、非常に個人的なものになってしまった。

 

見る者が見れば、あの作品に込められた念をキャッチするだろう。

 

Bは鈍感な女じゃない。

 

「いいよ」と頷けるはずもなく、かと言って「駄目だ」と拒絶するのもおかしな話だ。

 

Bは俺の妻だ。

 

返答に困った俺は、Bの腕を寝室まで引っぱって、ベッドに押し倒した。

 

その場を取り繕うための行為に、俺はなんて最低だ、と自分自身に嘲笑した。

 

 

 

 

「ユノ」

 

洗面所に向かう俺の背を、Bは呼び止めた。

 

「赤ちゃんが欲しい」

 

思考がストップした。

 

俺の背中が震えたことに、Bが気付かずにいてくれたらいい。

 

「...B?」

 

ゆっくりと振り向いた。

 

Bの表情が微笑みから、目を丸くした驚いたものに変わった。

 

その目元がチャンミンに似ていた。

 

「ユノったら...そんなに驚いた顔しなくても」

 

「いらない、って言ってなかったっけ?」

 

咎める口調にならないよう、慎重に発音した。

 

「言ってたわね。

でも...この前、友だちの赤ちゃんを抱っこさせてもらったの。

私、感動したの。

赤ちゃん...欲しいなぁって」

 

「......」

 

「だから...今度から避妊はしなくていいから」

 

「...そうだな」

 

Bが伸ばした手を優しく握ってやって、その手を放した。

 

Bは気まぐれな女だ、そのうちこの件も忘れるだろう。

 

そう自分の中で締めくくった。

 

 

 

 

俺たちの結婚がきっかけで、陰気で湿った目を持つ、美貌の少年...チャンミンと出逢った。

 

チャンミンに会いたくなった。

 

Bが浴びるシャワーの音を確認し、洗面台に置きっぱなしにしてあったスマホを手に取った。

 

「チャンミン?」

 

『...義兄さん?』

 

電話に出たチャンミンの口調が、意外そうなものだったのも当然だ。

 

俺からチャンミンへ電話をかけるのは、非常に稀なことだったからだ。

 

「今から、こっちに来られるか?」

 

『あの...すみません。

...今、学校です』

 

ひそひそ声に、「そうだろうね」と、非常識な時間にかけてしまったことに思い至る。

 

「これだから、自由業は駄目だな。

曜日感覚が抜けていたよ...ははは。

電話に出て、大丈夫なのか?」

 

『休み時間です。

...義兄さん?

どうかしたんですか?』

 

「チャンミンの絵を描きたくなって...」

 

『さすが義兄さんは芸術家ですね』

 

俺は『芸術家』でも何でもないよ。

 

お前を前にした俺は『芸術家』なんかじゃない。

 

恋に溺れた30男に過ぎないんだ。

 

お前をモデルに描いたあの絵はもう、芸術作品の性質を失いつつある。

 

「急に電話して悪かった。

じゃあ...週末に...」

 

『待って!

行きます、今から行きます』

 

「学校は?」

 

『大丈夫です。

今すぐ行きますから』

 

「待ってる」

 

高校生に学校をサボらせて呼びつける俺は、どうかしている。

 

実は、それくらいBの発言に動揺していたのだ。

 

 

 

 

チャンミンを待つ間、スキャニングした手描きの線画に、PCディスプレイ上で色付けする作業に没頭していた。

 

X氏のカフェの仕事が好評で、多方面から仕事が舞い込んだ。

 

Bへ言い訳した「忙しい」も、あながち嘘ではないのだ。

 

一息つこうとアトリエへ行き、イーゼルに掛かったままのチャンミンの絵の正面に立つ。

 

第3者の目でそれを眺めた。

 

キャンバスの中でチャンミンが、艶やかで不敵な微かな笑みを浮かべて、俺を見つめ返している。

 

コレはいけない。

 

人に見せられるものじゃない。

 

描き始めの当初は浅黒い肌をしていたのに、今じゃ桃色に肌を染め、引き結んでいたはずの唇は、半開きになり濡れて光ってた。

 

情事の後の脱力した気だるげさと、湿った濃い空気を漂わせている。

 

誰にも見せたくない。

 

「はあ...」

 

俺は嘆息し、キャンバスをイーゼルから下ろし、アトリエ奥に裏返しに置いた。

 

出品予定の展覧会の趣旨から外れ過ぎている。

 

「駄目...か...」

 

その直後、チャイムの音に俺ははじかれるように玄関ドアへ走る。

 

昨日会ったばかりなのに、まだ足りないんだ。

 

チャンミンへの想いを深く分析し過ぎて、難しく考え過ぎていた。

 

チャンミンが囁いた数えきれない「好き」に答えずにいたのも、理詰めで導かれる答えを探っていたからだ。

 

もうそんなことは、どうでもよくなった。

 

求められたら、何倍にもして求め返す。

 

俺はチャンミンに恋をしている。

 

開けたドアの向こうに、無表情のチャンミンが立っていた。

 

ところが、俺の顔を見た途端、不安で揺れた眼がぱっと輝いた。

 

そんな顔を見せられたりしたら...。

 

吸った息を吐くのも忘れてしまうくらい、感激していた。

 

 

 

(つづく)

 

 

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義弟(30)

 

~ユノ33歳~

 

あの午後を境に、チャンミンは俺の愛人となった。

 

チャンミンには申し訳ないが、今のところこれ以上の相応しい言葉が思いつかないのだ。

 

 

「僕は後でいいです」と遠慮するチャンミンを、浴室に押し込んだ。

 

チャンミンが身動きする度、尻の割れ目に当てがったティッシュペーパーも動いて、欲情を誘う光景だった。

 

制服をきっちり着込んでオフィスに戻ったチャンミンと入れ替わりに、俺もシャワーを浴びる。

 

後頭部でシャワーを受け止めながら、頭の隅にぽっと浮かんだ違和感と対峙していた。

 

男相手のセックスは初めての経験だった。

 

チャンミンとの行為は、成り行き任せ勢い任せなものだった。

 

それでも、なんとかなるもんだと満足していたところが、気になることがあったのだ。

 

女とは勝手が違うくらいの知識はあった。

 

痛がりもせず、俺のものを易々と受け入れていた。

 

...ということは、俺とこういう関係になることを見越して...準備をしていたのか?

 

繋がりやすい体位を既に知っているようにも見えた。

 

その手の情報サイトから仕入れた知識なのだろうか?

 

いや...まさか。

 

男相手は俺が初めてじゃないという可能性もある。

 

そう思い至ると、胸が焼け付きそうに痛んだ。

 

Mちゃん相手に感じたのとは比べ物にならない程の痛みだった。

 

まだ16歳だぞ?

 

人付き合いが苦手そうなあの子が、いつの間に...。

 

でも、あり得ると思った。

 

チャンミンの美しさにある程度の免疫がついていた俺でさえ、彼に手を出してしまった。

 

あれほどの美少年だ。

 

その手の趣味がある者だったら、裸に剥いて己のものにしたいと望んでもおかしくない。

 

「...くそ...」

 

浮かんだ疑問をチャンミンにぶつけていいものかどうか、俺は迷っていた。

 

 


 

 

~チャンミン16歳~

 

目に映る何もかもが、色鮮やかに息づいている。

 

研ぎ澄まされた僕の五感は、義兄さんの全てを吸収する。

 

あの日から、僕の目には義兄さんしか映っていなかった。

 

「好き...」

 

つぶやいた僕は、人差し指で義兄さんの身体の窪みを、ひとつひとつ確かめた。

 

ほっそりとしているのに、デッサン彫刻のように逞しく美しい義兄さんの身体。

 

「くすぐったいよ、チャンミン...」

 

くくっと笑って、義兄さんは僕の首筋を甘噛みする。

 

僕の心は幸福で満たされて、溢れたそばから「好きです」と言葉に紡ぐ。

 

義兄さんのお腹に、胸の谷間に、耳朶に...そして唇にキスをした。

 

脱ぎ捨てたズボンから、義兄さんを呼ぶ着信音。

 

「義兄さん...電話...?」

 

出て欲しくないと祈りながら、どうってことない風を装った。

 

義兄さんの腕の中から身を乗り出して、ソファ下のズボンに手を伸ばすふりをした。

 

「出なくていい。

後からかけ直すから出なくていい」

 

蛇みたいに僕の身体に手足をからみつけた義兄さん。

 

義兄さんの爪先が僕の網ストッキングに引っかかり、その個所を確かめたら、案の定、引きつれた筋が出来ていた。

 

「また買ってあげるから」

 

僕の脇腹に鼻づらを埋めて、義兄さんはそう言った。

 

 

週に一度のモデルの日が待ち遠しかった。

 

あらぬ方向を見据えた義兄さんの意識は、おそらく作品世界にどっぷりと浸っているんだ。

 

キャンバスに棲みついたあの少年に会いにいっているの?

 

描かれている自分の姿にすら嫉妬してしまう。

 

作品制作も、細部の描き込みに差し掛かっていた。

 

2時間たっぷり、義兄さんの前でポーズをとる。

 

そして、筆を洗う義兄さんの背後に忍び寄り、背中から抱きすくめる。

 

「ごめん、今日は時間がないんだ」と断られることもある。

 

腕の中でくるりと向きを変え、僕の唇を乱暴に吸いながら、オフィスのソファに押し倒すこともある。

 

本当はもっと会いたかったけれど、聞き分けのない子供みたいな真似はしたくなかった。

 

一度だけ「明日もここに来て、いいですか?」と尋ねた時の、義兄さんの困った顔。

 

がっかりした顔を見せたくなかったから、「冗談です」と誤魔化した。

 

きっと明日も、明後日も、僕じゃない子を描かないといけないんだろう。

 

待って...もしかしたら、再び姉さんを描き始めたのかもしれない。

 

 

不安であっぷあっぷしかけた僕は、Mの部屋を訪ねた。

 

僕を見るなり、服を脱ぎ出したMの手を押さえた。

 

「よかった。

チャンミンのはけ口にされるのも、キツくなってきたのよね。

私ってこんな見た目だけど、結構傷つきやすいのよ?」

 

「...ごめん」

 

Mの言う通りだった。

 

 

 

「ホントにゴメン...」

 

「ちゃんと謝ってくれたから、許す。

私って見た目通り、根にもたないタイプなの」

 

Mは肩をひょいとすくめて、解いた髪を束ねながら僕に尋ねた。

 

「Xさんと...どうだった?」

 

「あー、それは...」

 

「教えてもらった?」

 

「...うん」

 

「それで...ユノさんと...した?」

 

「......」

 

「したんだ...そっか...」

 

平静を保っていたつもりだったのに、あっさりとバレてしまった。

 

喜怒哀楽が分かりやすい人間にだけはなりたくなかっただけに恥ずかしかった。

 

「先越されちゃったなぁ...」

 

ぽつりとつぶやいて、Mは両手で顔を覆って俯いてしまった。

 

泣いてる...?

 

「M...ちゃん?」

 

自分の思い煩いに気をとられていて、Mのことなんて全然頭になかった。

 

恋は当事者以外にはとことん、無神経に振舞えるものらしい。

 

持ち上げた腕の行方に迷った後、ひくひくと震えるMの肩を抱いた。

 

義兄さんの固く分厚い肩とは全く違う...小さく華奢な肩だった。

 

「やだな...もう...。

チャンミン相手じゃ、かないっこないよ...もう」

 

「Mちゃんだって頑張れば...」

 

「馬鹿じゃないの?」

 

「!」

 

「ユノさんを落とせるように、私も頑張れって言ってるの!?

本気で言ってるの?

嫉妬しないの?

私の絵ももうすぐ完成してしまうのよ?

アトリエへ行く口実がなくなってしまうのよ?

せいぜい、チャンミンの彼女のフリをしてアトリエに行こうかと考えてたのに。

ユノさんとくっついちゃったチャンミンに、『彼女』がいたら変でしょ?」

 

「僕と義兄さんは、付き合ってるとか、そういうんじゃないんだ。

ただ会っているだけ...それだけだよ」

 

義兄さんとの関係性をMに説明しながら、あらためて思い知らされる。

 

僕らの繋がりはなんて曖昧で、頼りないものなんだろう。

 

欲しくて仕方がない。

 

求められたくて仕方がない。

 

抱きあう関係になれたけど、それだけだ。

 

義兄さんの恋人にはなれない。

 

「苦しそうな関係ね。

でも...ユノさんを好きになるって...そういうことだもんね」

 

「......」

 

義兄さんとこの先、どうなりたいかなんて、具体的なビジョンはなかった。

 

考えたって仕方がないのだから。

 

美しい義兄さんの瞳に、一糸まとわぬ僕の姿が映る。

 

それだけで十分、幸せなんだ...多分。

 

「ねえ、チャンミン。

私、心配」

 

「心配って、何が?」

 

「チャンミンって、思い詰めるタイプに見えるから」

 

「思い詰めるって...何のことだよ?」

 

「私はチャンミンが心配。

必死過ぎるチャンミンが心配」

 

Mの心配は見当違いで心外だ。

 

したいようにしているだけだし、僕はいたって冷静なんだ...多分。

 

 

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義弟(29)R18

 

 

~チャンミン16歳~

 

僕の背中で鋭く痙攣した直後に、どっと虚脱した義兄さんがのしかかった。

もっともっと突かれたかった僕は、肩透かしをくらったみたいに残念だった。

僕の中から引き抜いて、義兄さんはソファに深く座って、振り仰いだ顔を片手で覆ってしまった。

やっぱり、男の僕じゃ駄目だったんだ...。

絶望感と焦燥感にかられたけれど、呼吸荒い義兄さんにそう問うことが出来なかった。

代わりに、僕の上に覆いかぶさって欲しくて、義兄さんの両腕を引っ張った。

 

「チャンミン...?」

 

義兄さんの切なさそうな表情に、僕の方こそ切なくなってしまう。

 

「義兄さん...好きです」

 

義兄さんは僕の「好き」に応えてくれない。

でも、いいんだ...今のところは。

一度だけでも義兄さんは僕の中に入ったのだから。

それだけじゃ足りないから、僕はもう一度義兄さんと繋がりたい。

力なく垂れ下がった義兄さんのものを、手の中で育てる。

 

「チャンミンっ...よせ」

 

僕は首を振って、義兄さんの手を払いのけ、彼のものを頬張りしゃぶり上げた。

 


 

~ユノ33歳~

 

 

チャンミンを初めて抱いてしまったあの日のことは、忘れられない。

こちら側へ足を踏み入れた決定的な日だったからだ。

これまで経験してきたいくつかの恋愛でも、そういう「初めて」の時は必ずあるが、後になってしみじみと思い起こすことなどない。

いちいちその瞬間を重要がることはしない。

関係を深めるために必要で、ごく当たり前な行為に過ぎないからだ。

ところが、チャンミンが相手の場合はそういう訳にはいかなかった。

未成年のチャンミンとそういう行為に及ぶこと自体が、罪深い。

俺もとうとう、ここまで堕ちたか、と愕然とした。

実年齢より幼さを感じる目元...瞳を潤ませ、目尻を赤く染めたもの...に、俺は理性で抵抗するのを放棄した。

どうにでもなれ。

我慢を強いる方が無理な話だ。

チャンミンの腰を引き寄せ、その中に深く埋めた時の、まぶたの奥で火花が散るほどの、暴力的な快感に襲われた。

無様にも1度目の時は早々と果ててしまい、それだけでは全然足りていなかった。

俺のものを頬張ったチャンミンの誘いにのり、再び彼の両腿を割った。

異常過ぎる快感と興奮は、背徳感ゆえのものなのか。

チャンミンが妻の弟だったから。

チャンミンが未成年だったから。

チャンミンが男だったから。

それから...チャンミンを「恋人」にするつもりはさらさらなくて、その場限りの関係だと見なしていたせいなのか。

いや...それはない。

ところが、「好きです」と繰り返すチャンミンに、「俺も好きだ」と答えられなかった自分がいた。

軽々しく口したらいけない気がしたんだ。

俺たちの間には、「好き」を越えた愛情の通い合いが確かに存在する。

それの正体が分かるまでは、保留にしておきたかった。

「好きです」を無邪気に言えるチャンミンが子供っぽかった。

後先を考えない、想いを伝えただけで満足するような子供っぽい恋。

とは言え、チャンミンの性格に詳しくないが、「好き」を易々と口にできる子じゃないと思う。

それから、「どうしよう」と途方にくれた。

肉体関係を結んでしまった、義弟のチャンミンの今後の扱いに困った。

俺たちの関係に相応しい言葉を、見つけられなかった。

繋がり合った瞬間の充足感には抗えない。

なんだ、これ...?

痛みを覚えるほどの強烈な快感だった。

その場限りのつもりにしたくなかったが、いけないことをしていると認識する程に、得られる快感と満足感は増すものだと、俺は考えている。

2度目は女みたいな嬌声を上げたチャンミンと同時に果てた。

10代でもあるまいし、短時間で3度も達せた俺が信じられない。

身体を起こすと、俺の背に回していたチャンミンの手がぱたりと落ちた。

チャンミンを窺うと、喉をのけぞらせたままで口は半開きになっていた。

 

「おっと...」

 

ねばつく感触に、チャンミンが放ったものに気付いた。

余韻に浸っているのか、そのまま眠ってしまったのか、長いまつ毛を扇のように伏せてまぶたを閉じたチャンミン。

チャンミンの額に片手をかざしてみる。

直線的な眉を隠せば少女のようだった。

でも、辺りにむんと立ち込める青い匂いで我に返る。

ソファの足元に脱ぎ散らかされた衣服を掴み、浴室に行きかけたところ、引き返した。

ソファの肘掛けからチャンミンの長い脚がはみ出してしまっている。

余分な脂肪も筋肉も見当たらない、しなやかな鞭のような身体に、俺はスケッチブックを広げる動きを止められなかった。

手負いの美しい獣のようにも見えた。

頭の中には既に完成像が出来上がっていて、そのゴールに近づこうとひたすら絵筆を動かすのが、俺の制作スタイルだ。

たった今目にしたこの光景は、制作過程の作品...若すぎる男娼の表情に凄みを与えてくれるに違いない。

男を誘う淫らなその眼は天性のものではなくて、過去に何者かに凌辱され、そこで図らずも快楽の世界を知ってしまった故...そんな背景が頭に浮かんだからだ。

チャンミンの頭がゆっくりとこちらに向けられた。

俺はスケッチする手を止め、膝に置いたスケッチブックを気付かれないようそっと、床に落とした。

 

「...あ...義兄さん?」

 

きょとんとしたあどけない目に、俺の胸が初めて、罪悪感できしんだ。

 

(つづく)

義弟(28)R18

 

~チャンミン16歳~

 

 

僕は言葉を失う。

裸を見る前に、目にしてしまった義兄さんのもの。

怯むどころか、湧き上がる欲望で鼓動は高まった。

砂漠の放浪者、乾ききった喉、目の前に差し出された果汁滴るフルーツ。

舌なめずりした後、大口開けてぱくりと頬張った。

義兄さんが僕を欲しがっている証なんだもの。

斜め上を向いたもの...自分以外のものを目にする機会は(映像ではあるけれど)ほとんどない。

X氏のものは、手ほどきをしてもらうための謝礼だ。

身体の大きさに比例したサイズだとか、色だとか、匂いだとか...いや、もう忘れよう。

今は目前にさらされた、義兄さんの敏感なものを、もっともっと敏感にさせてやるんだ。

義兄さんは僕の突然の行動に、驚いただろうな。

ガキのくせに大胆だな、って。

こんなことを出来てしまうくらい、僕は貴方のことが好きなんですよ。

僕の気持ち、伝わってますか?

僕より美しい義兄さん。

自分がどれだけ綺麗な顔をしているのか気付いていない風の振る舞いと、からりと明るい表情にムカついて、嫌いで、でも無視できなくて。

近づきたくて、でも馬鹿にされたくなくて...。

僕の中に義兄さんを取り込んでしまいたい。

女性的と評してもいいたおやかな優しい顔をしているのに、下着の中身は男の象徴がグロテスクに主張していて。

どうしよう...ぞくぞくする。

僕の前は痛いくらいになっているし...それから、腰の後ろがずくんと疼いている。

この感覚を教えてくれたのはX氏だ...いや、今は彼のことは忘れよう。

僕の愛撫に義兄さんもたまらなくなったみたいで、彼の腰が小刻みに揺れていて、幸福で満たされる。

この後、僕の中を満たして荒らしてくれるものを、僕は愛撫するんだ。

義兄さんの腰がくくっと痙攣し、僕の口内が義兄さんの熱いもので溢れそう。

 

早く、早く...!

 

 

目の前に露わになった義兄さんは綺麗だった。

ブラインドから漏れる日光が逆光になって、義兄さんの身体のラインを浮かび上がらせているんだ。

盛り上がった肩の丸みや、広い胸からぎゅっと引き絞られた腰。

MともX氏とも違う。

ああ、男の人なんだなぁ、と思った。

僕は両腕をいっぱいに広げ、伸ばして、義兄さんの背中を抱く。

義兄さんの熱い肌と僕の肌とが密着し、嬉しくなった僕は義兄さんの腰に脚を絡めた。

 

「好きです...」

 

何度も「好き」をつぶやくのは、義兄さんに沁みわたって欲しいから。

義兄さんは「わかってる」と掠れた声を僕の耳元で囁いて、大きな手で僕の脇腹を撫で上げ、撫でおろす。

 

「はあぁ...」

 

たったそれだけで、ゾクゾクと感じてしまう僕に、義兄さんは艶やかな笑みを見せてくれる。

真っ白な歯が清潔そうで、この歯に齧られたいと望む僕はおかしいだろうか。

 

「...あっ...」

 

脇腹に置かれた義兄さんの手が、僕の腰、お尻の割れ目に移動した。

 

「怖くない?」

 

僕は首を左右に振った。

怖いことなんてあるものか。

ところが、初めてじゃないのに緊張してしまい、息を止めてしまった。

大丈夫かな。

男の僕に、直前になって引いてしまわれたらどうしよう。

だから、腰をくねらせしなを作り、両膝で義兄さんの腰をきつく挟んだ。

 

「あ...!」

 

お尻の谷に埋もれた義兄さんの指は、僕の敏感なところを通り過ぎた。

そして、前から睾丸をすくい上げたかと思うと、その後ろを指の腹でこすられた。

 

「ああっ...!」

 

びくりと腰がはねてしまう。

下をのぞきこむと、僕らの下腹にはさまれ天をむく二つの亀頭。

どうしよう...僕と義兄さんはいけないことをしている。

同性同士で、義理とはいえ兄と、夕方前の昼間に、寝室じゃない場所で、こんなはしたないことをしている。

一寸の間、天井から見下ろす視線に立ってみて、想像した僕はもっともっと、興奮した。

 

「...義兄さん...早く」

 

僕の睾丸と穴の間を行ったり来たりするだけの義兄さんの指。

僕はその手をつかむと、そこまで誘導した。

 

「...チャンミン...?」

 

僕の真上に迫る義兄さんは、少しだけ困った表情をしていた。

そりゃそうだろう。

僕は頬の内側にたっぷりと含ませた唾液を、手の平に落として、それを穴の周辺になすりつけた。

その間、義兄さんは僕の行為を無言で見守っていた。

義兄さんの指が再び、僕の入り口をまさぐり始め、その先がつつっと埋められていく。

 

「...んんっ...ん...」

 

ゆっくり大きく息を吐く度、義兄さんの指が奥へと侵入していく。

 

「平気なのか?」

 

掠れた義兄さんの問いに、僕は「はい」と答えた。

義兄さんの遠慮がちな指使いに、僕を傷つけまいとする愛情を感じた。

 

「あ...ああ...あっ...」

 

刺激が足らなくて焦れったいけれど、「もっと激しく」ってねだったりしたら、駄目なんだ。

義兄さんを驚かせてしまう。

僕がX氏に近づいた訳。

いざ抱きあう時に、ひるんだり痛がったり、そんな姿を見せたら、義兄さんは直前で止めてしまうだろう。

それから、うまく挿入できなくて、義兄さんに恥をかかすわけにはいかない。

僕の身体は男のもので、女の子のようにはいかないのだ。

両膝裏をひき寄せて、僕の入り口をもっと露わにして義兄さんをアシストした。

僕の中でうごめく指が2本になった。

僕はこの時を待ち望んでいた。

綺麗な義兄さんを独り占めにしたかった。

僕は男だけど、義兄さんとひとつになりたい。

早く僕の中に、これを埋めて欲しい。

僕の手の中で固くなった義兄さんのペニス...早くこれを埋めて下さい。

 

 

ぽとり...ぽとり...。

押し広げられた僕の入り口に、義兄さんの唾液が落とされる。

尻を高く突き出した姿勢。

恥ずかしい場所を全部、義兄さんにさらけ出している自分の姿に、快感を覚えた。

たまらず自身のペニスに、手が伸びてしまう。

X氏に慣らされた身体を、僕の大好きな人に捧げる時がきた。

 

「んっ...んん...」

 

焼け付く痛みはすぐ消えて、みっちりと内臓が押し上げられる感覚が。

深呼吸を繰り返して入り口を緩めるごとに、僕の腰奥が義兄さんを迎い入れる。

 

「んんっ...」

 

これは義兄さんのうめき声。

 

「ああ...」

 

この低くて太い吐息も義兄さんのもの。

伸びをした猫みたいになった僕は、腰と腰を結合させた義兄さんを振り返る。

義兄さんの猫みたいな目は、ギラっとした光をたたえていた。

興奮のせいか、義兄さんの呼吸は浅く早く、下腹が波打っていた。

 

「あ...っ...あっ...」

 

こんなに高く、甘ったるい声...自分でも初めて聞いた。

 

「ああぁ...あー、っあぁ...あ」

 

深く突き刺されたまま、ぐいぐいと奥底を揺らされて、喘ぎっぱなしだ。

義兄さんと繋がった身体の奥の奥で、彼のものを僕の熱で溶かしてしまいそう。

 

「いい...いいよっ...チャンミン...」

 

もっと僕の名前を呼んで。

 

「好きっ...義兄さんっ...好き」

 

義兄さんに打ち込まれるごとに、僕は愛の言葉を吐く。

胸を押しつけたソファの革が、僕らの熱を吸って柔らかく肌になじんだ。

僕の腰をつかむ義兄さんの指が、肌に食い込んでいる。

義兄さん、僕のこと...好きですか?

 

 

(つづく)

義弟(27)R18

 

~ユノ33歳~

 

 

「あ...義兄...さんっ...」

 

塞がれた唇の下で、チャンミンは苦し気に俺の名前を呼ぶ。

チャンミンの熱い息がふうふうと、合わせた唇の隙間から漏れた。

俺の両頬をもっともっとと引き寄せられて、チャンミンの背後にあるソファへ彼を押していく。

後ずさりするチャンミンの足がもつれ、体勢を崩しそうになるのを抱きとめる。

チャンミンは背中から、俺は彼の上に重なりどさりとソファにダイブした。

チャンミンの指が頬に食い込むほどで、俺を求める欲情の強さに、俺のそれも火力を増すのだ。

チャンミンの背中をまさぐりながら、より深く口づけようとうなじを引き寄せる力も増していく。

勢いの激しさに、歯同士ががちりと当り、どちらのものかわからない血の味。

互いのあごまで食らいつこんばかりの、口という穴を征服するキス。

 

「...んっ...ふっ...ふ...」

 

チャンミンの口は俺のもので密閉されているから、彼の鼻息が不規則に吹きかけられる。

もっともっと、違う角度で繋がりたくて、一旦唇を離した。

 

「好きです...」

 

チャンミンのつぶやきに、俺は頷く。

俺も好きだ...だが、口に出したらいけない気がするんだ。

好きのひと言で片付けられるような感情じゃないんだ。

それから、狡くて申し訳ないが、責任がとれない。

チャンミンとは、今この時、今この場所で、どろどろに塗れ合いたいんだ。

好きだから抱きあいたいのか、抱きあいたい気持ちが先にきているのか、保留にしているんだ。

真正面に鼻頭を合わせ、唇は触れ合わせず、舌先だけを繋ぐ。

焦らしたのち、チャンミンの舌を咥え、前後にしごく。

 

「...んんっ...んっ」

 

俺の口内にチャンミンの舌を引きずり込んで、きつく吸うと彼の喉が鳴る。

胸が苦しい。

この後の本命の行為に期待を馳せた。

 

上の...唇と舌...粘膜同士の接触といたぶりで、焦れ合うのだ。

俺の腹に、弾力ある固いものが押し当てられている。

チャンミンは衣服をまとわない姿で、すべてを俺にさらけだしていたから。

切っ先に雫がぷくりと浮いていた。

この子は、男だ。

立てた両膝が俺の腰を挟んでいる。

股間が引き締まる緊張は高まり、チャンミンの背に回した手を彼の正面に移した。

女の曲線をたどるように、チャンミンの敏感なものをたどる。

太く浮いた血管と折りたたまれた柔らかい皮、窪みとでっぱりを、指の腹でたどる。

 

「...や...あ...義兄さん...」

 

俺の身体の下で、チャンミンの腰がびくびくと震えた。

うなじを押さえていた手を放し、チャンミンの細いウエストに回した。

 

「ああっ...あっ...」

 

俺はこの子をどうしたい?

睾丸をすくいあげるように包み、片膝でチャンミンの腿を割る。

ブラインドから差し込む午後の光で、チャンミンの産毛が光る。

この後、どうなっても知らないぞ。

きっとチャンミンは、俺にのめり込む。

俺を見つめる目の色が変わるだろう。

俺を求める想いに真剣みが増すだろう。

Bとの結婚生活と並行しながら、チャンミンと会うのか?

 

会うだろう。

 

Bの目、世間の目から隠れて、チャンミンと会い続けるだろう。

俺が結婚していることと、男のチャンミンと関係を結ぶことは別の話だ。

可能な気がした。

いずれにせよ、もう引き返せない。

 

 

チャンミンのペニスを握る俺の手を、チャンミンは押しやった。

そして、俺の喉から舌を引き抜いて、チャンミンは俺の身体の下から抜け出した。

 

「?」

 

今回はチャンミンのその気が萎んだのかと、思った。

 

「!」

 

チャンミンはソファから降り、身を起こした俺の足元に脚を折って座り込んだ。

 

「...チャンミン...」

 

俺のデニムパンツのボタンを外し、ファスナーを下ろした。

チャンミンが何をしようとしているのか察して、下着をずらす。

斜めに勃起した俺のペニスを、チャンミンは咥え込んだ。

躊躇のかけらもなかった。

 

嘘だろ...。

 

大胆な行動に驚いた。

俺の両腿の間で、チャンミンの頭が揺れている。

陰毛に美しい顔を埋めている。

伏せたまつ毛が長く、頬に繊細な影を落としていた。

美味そうに俺のものを味わっている。

静寂のアトリエ。

強烈な快感が、股間から腹へと走った。

 

「...う...ん...」

 

低いうめき声が喉を震わせる。

たまらなくなって、前後に揺れるチャンミンの頭を撫ぜた。

丸い後頭部、伸びすぎた身長のせいで、小さく感じる頭を撫ぜた。

見上げたチャンミンと目が合う。

黒目と白目の境がくっきりとした、あの三白眼だ。

口いっぱいに俺のペニスを頬張っているから、口元をゆがませている。

それでも、美しい顔だった。

そして、悲しいくらいに幼い目元をしていた。

「どう?」と、褒めてもらいたがっている眼だった。

罪の意識がかすめる。

 

「いいよ...気持ちいいよ」

 

チャンミンの両眉が下がり、潤んだ瞳は泣き出しそうに見えた。

愛おしい想いが溢れ、チャンミンの前髪を何度も何度もかきあげてやった。

額を露わにすると、途端に男らしい印象が強まった。

そっか...今、俺は男にフェラチオされている。

それも、義理とはいえ、弟に。

チャンミンの舌による愛撫はぎこちなかった。

きつく吸われ過ぎて、痛みを覚えた瞬間もあった。

それでも、俺を気持ちよくさせようと必死な姿に、胸を打たれた。

罪悪感で萎えるどころか、俺のペニスを頬張り味わうチャンミンの姿に、猛烈に興奮した。

チャンミンの頭を股間に押しつけ、俺の腰はオートマティックに揺れてしまうのだ。

そして、チャンミンの喉奥で絶頂を迎え、彼から引き抜き、たまらずうなじを引き寄せた。

精の香りに包まれた口づけを交わす。

自身のものを味わうのは初めてだったが、チャンミンの舌と混ぜ合いながら、舐め尽くした。

膝に引っかかっていたデニムパンツと下着を、蹴と飛ばし脱ぐ。

ボタンを外すのももどかしく、シャツを脱ぎ捨てた。

これで肌と肌を直に合わせられる。

壁に立てかけられた数十枚のキャンバス。

完成したものも、制作途中のものも。

オイルの匂い、絵の具が飛び散ったフローリングの床。

大型のイーゼル、洗筆バケツ。

真珠のネックレスで胸を飾ったチャンミンの絵。

そして、丁寧に畳まれ置かれた、チャンミンの制服。

 

(つづく)