義弟(29)R18

 

 

~チャンミン16歳~

 

僕の背中で鋭く痙攣した直後に、どっと虚脱した義兄さんがのしかかった。

もっともっと突かれたかった僕は、肩透かしをくらったみたいに残念だった。

僕の中から引き抜いて、義兄さんはソファに深く座って、振り仰いだ顔を片手で覆ってしまった。

やっぱり、男の僕じゃ駄目だったんだ...。

絶望感と焦燥感にかられたけれど、呼吸荒い義兄さんにそう問うことが出来なかった。

代わりに、僕の上に覆いかぶさって欲しくて、義兄さんの両腕を引っ張った。

 

「チャンミン...?」

 

義兄さんの切なさそうな表情に、僕の方こそ切なくなってしまう。

 

「義兄さん...好きです」

 

義兄さんは僕の「好き」に応えてくれない。

でも、いいんだ...今のところは。

一度だけでも義兄さんは僕の中に入ったのだから。

それだけじゃ足りないから、僕はもう一度義兄さんと繋がりたい。

力なく垂れ下がった義兄さんのものを、手の中で育てる。

 

「チャンミンっ...よせ」

 

僕は首を振って、義兄さんの手を払いのけ、彼のものを頬張りしゃぶり上げた。

 


 

~ユノ33歳~

 

 

チャンミンを初めて抱いてしまったあの日のことは、忘れられない。

こちら側へ足を踏み入れた決定的な日だったからだ。

これまで経験してきたいくつかの恋愛でも、そういう「初めて」の時は必ずあるが、後になってしみじみと思い起こすことなどない。

いちいちその瞬間を重要がることはしない。

関係を深めるために必要で、ごく当たり前な行為に過ぎないからだ。

ところが、チャンミンが相手の場合はそういう訳にはいかなかった。

未成年のチャンミンとそういう行為に及ぶこと自体が、罪深い。

俺もとうとう、ここまで堕ちたか、と愕然とした。

実年齢より幼さを感じる目元...瞳を潤ませ、目尻を赤く染めたもの...に、俺は理性で抵抗するのを放棄した。

どうにでもなれ。

我慢を強いる方が無理な話だ。

チャンミンの腰を引き寄せ、その中に深く埋めた時の、まぶたの奥で火花が散るほどの、暴力的な快感に襲われた。

無様にも1度目の時は早々と果ててしまい、それだけでは全然足りていなかった。

俺のものを頬張ったチャンミンの誘いにのり、再び彼の両腿を割った。

異常過ぎる快感と興奮は、背徳感ゆえのものなのか。

チャンミンが妻の弟だったから。

チャンミンが未成年だったから。

チャンミンが男だったから。

それから...チャンミンを「恋人」にするつもりはさらさらなくて、その場限りの関係だと見なしていたせいなのか。

いや...それはない。

ところが、「好きです」と繰り返すチャンミンに、「俺も好きだ」と答えられなかった自分がいた。

軽々しく口したらいけない気がしたんだ。

俺たちの間には、「好き」を越えた愛情の通い合いが確かに存在する。

それの正体が分かるまでは、保留にしておきたかった。

「好きです」を無邪気に言えるチャンミンが子供っぽかった。

後先を考えない、想いを伝えただけで満足するような子供っぽい恋。

とは言え、チャンミンの性格に詳しくないが、「好き」を易々と口にできる子じゃないと思う。

それから、「どうしよう」と途方にくれた。

肉体関係を結んでしまった、義弟のチャンミンの今後の扱いに困った。

俺たちの関係に相応しい言葉を、見つけられなかった。

繋がり合った瞬間の充足感には抗えない。

なんだ、これ...?

痛みを覚えるほどの強烈な快感だった。

その場限りのつもりにしたくなかったが、いけないことをしていると認識する程に、得られる快感と満足感は増すものだと、俺は考えている。

2度目は女みたいな嬌声を上げたチャンミンと同時に果てた。

10代でもあるまいし、短時間で3度も達せた俺が信じられない。

身体を起こすと、俺の背に回していたチャンミンの手がぱたりと落ちた。

チャンミンを窺うと、喉をのけぞらせたままで口は半開きになっていた。

 

「おっと...」

 

ねばつく感触に、チャンミンが放ったものに気付いた。

余韻に浸っているのか、そのまま眠ってしまったのか、長いまつ毛を扇のように伏せてまぶたを閉じたチャンミン。

チャンミンの額に片手をかざしてみる。

直線的な眉を隠せば少女のようだった。

でも、辺りにむんと立ち込める青い匂いで我に返る。

ソファの足元に脱ぎ散らかされた衣服を掴み、浴室に行きかけたところ、引き返した。

ソファの肘掛けからチャンミンの長い脚がはみ出してしまっている。

余分な脂肪も筋肉も見当たらない、しなやかな鞭のような身体に、俺はスケッチブックを広げる動きを止められなかった。

手負いの美しい獣のようにも見えた。

頭の中には既に完成像が出来上がっていて、そのゴールに近づこうとひたすら絵筆を動かすのが、俺の制作スタイルだ。

たった今目にしたこの光景は、制作過程の作品...若すぎる男娼の表情に凄みを与えてくれるに違いない。

男を誘う淫らなその眼は天性のものではなくて、過去に何者かに凌辱され、そこで図らずも快楽の世界を知ってしまった故...そんな背景が頭に浮かんだからだ。

チャンミンの頭がゆっくりとこちらに向けられた。

俺はスケッチする手を止め、膝に置いたスケッチブックを気付かれないようそっと、床に落とした。

 

「...あ...義兄さん?」

 

きょとんとしたあどけない目に、俺の胸が初めて、罪悪感できしんだ。

 

(つづく)

義弟(28)R18

 

~チャンミン16歳~

 

 

僕は言葉を失う。

裸を見る前に、目にしてしまった義兄さんのもの。

怯むどころか、湧き上がる欲望で鼓動は高まった。

砂漠の放浪者、乾ききった喉、目の前に差し出された果汁滴るフルーツ。

舌なめずりした後、大口開けてぱくりと頬張った。

義兄さんが僕を欲しがっている証なんだもの。

斜め上を向いたもの...自分以外のものを目にする機会は(映像ではあるけれど)ほとんどない。

X氏のものは、手ほどきをしてもらうための謝礼だ。

身体の大きさに比例したサイズだとか、色だとか、匂いだとか...いや、もう忘れよう。

今は目前にさらされた、義兄さんの敏感なものを、もっともっと敏感にさせてやるんだ。

義兄さんは僕の突然の行動に、驚いただろうな。

ガキのくせに大胆だな、って。

こんなことを出来てしまうくらい、僕は貴方のことが好きなんですよ。

僕の気持ち、伝わってますか?

僕より美しい義兄さん。

自分がどれだけ綺麗な顔をしているのか気付いていない風の振る舞いと、からりと明るい表情にムカついて、嫌いで、でも無視できなくて。

近づきたくて、でも馬鹿にされたくなくて...。

僕の中に義兄さんを取り込んでしまいたい。

女性的と評してもいいたおやかな優しい顔をしているのに、下着の中身は男の象徴がグロテスクに主張していて。

どうしよう...ぞくぞくする。

僕の前は痛いくらいになっているし...それから、腰の後ろがずくんと疼いている。

この感覚を教えてくれたのはX氏だ...いや、今は彼のことは忘れよう。

僕の愛撫に義兄さんもたまらなくなったみたいで、彼の腰が小刻みに揺れていて、幸福で満たされる。

この後、僕の中を満たして荒らしてくれるものを、僕は愛撫するんだ。

義兄さんの腰がくくっと痙攣し、僕の口内が義兄さんの熱いもので溢れそう。

 

早く、早く...!

 

 

目の前に露わになった義兄さんは綺麗だった。

ブラインドから漏れる日光が逆光になって、義兄さんの身体のラインを浮かび上がらせているんだ。

盛り上がった肩の丸みや、広い胸からぎゅっと引き絞られた腰。

MともX氏とも違う。

ああ、男の人なんだなぁ、と思った。

僕は両腕をいっぱいに広げ、伸ばして、義兄さんの背中を抱く。

義兄さんの熱い肌と僕の肌とが密着し、嬉しくなった僕は義兄さんの腰に脚を絡めた。

 

「好きです...」

 

何度も「好き」をつぶやくのは、義兄さんに沁みわたって欲しいから。

義兄さんは「わかってる」と掠れた声を僕の耳元で囁いて、大きな手で僕の脇腹を撫で上げ、撫でおろす。

 

「はあぁ...」

 

たったそれだけで、ゾクゾクと感じてしまう僕に、義兄さんは艶やかな笑みを見せてくれる。

真っ白な歯が清潔そうで、この歯に齧られたいと望む僕はおかしいだろうか。

 

「...あっ...」

 

脇腹に置かれた義兄さんの手が、僕の腰、お尻の割れ目に移動した。

 

「怖くない?」

 

僕は首を左右に振った。

怖いことなんてあるものか。

ところが、初めてじゃないのに緊張してしまい、息を止めてしまった。

大丈夫かな。

男の僕に、直前になって引いてしまわれたらどうしよう。

だから、腰をくねらせしなを作り、両膝で義兄さんの腰をきつく挟んだ。

 

「あ...!」

 

お尻の谷に埋もれた義兄さんの指は、僕の敏感なところを通り過ぎた。

そして、前から睾丸をすくい上げたかと思うと、その後ろを指の腹でこすられた。

 

「ああっ...!」

 

びくりと腰がはねてしまう。

下をのぞきこむと、僕らの下腹にはさまれ天をむく二つの亀頭。

どうしよう...僕と義兄さんはいけないことをしている。

同性同士で、義理とはいえ兄と、夕方前の昼間に、寝室じゃない場所で、こんなはしたないことをしている。

一寸の間、天井から見下ろす視線に立ってみて、想像した僕はもっともっと、興奮した。

 

「...義兄さん...早く」

 

僕の睾丸と穴の間を行ったり来たりするだけの義兄さんの指。

僕はその手をつかむと、そこまで誘導した。

 

「...チャンミン...?」

 

僕の真上に迫る義兄さんは、少しだけ困った表情をしていた。

そりゃそうだろう。

僕は頬の内側にたっぷりと含ませた唾液を、手の平に落として、それを穴の周辺になすりつけた。

その間、義兄さんは僕の行為を無言で見守っていた。

義兄さんの指が再び、僕の入り口をまさぐり始め、その先がつつっと埋められていく。

 

「...んんっ...ん...」

 

ゆっくり大きく息を吐く度、義兄さんの指が奥へと侵入していく。

 

「平気なのか?」

 

掠れた義兄さんの問いに、僕は「はい」と答えた。

義兄さんの遠慮がちな指使いに、僕を傷つけまいとする愛情を感じた。

 

「あ...ああ...あっ...」

 

刺激が足らなくて焦れったいけれど、「もっと激しく」ってねだったりしたら、駄目なんだ。

義兄さんを驚かせてしまう。

僕がX氏に近づいた訳。

いざ抱きあう時に、ひるんだり痛がったり、そんな姿を見せたら、義兄さんは直前で止めてしまうだろう。

それから、うまく挿入できなくて、義兄さんに恥をかかすわけにはいかない。

僕の身体は男のもので、女の子のようにはいかないのだ。

両膝裏をひき寄せて、僕の入り口をもっと露わにして義兄さんをアシストした。

僕の中でうごめく指が2本になった。

僕はこの時を待ち望んでいた。

綺麗な義兄さんを独り占めにしたかった。

僕は男だけど、義兄さんとひとつになりたい。

早く僕の中に、これを埋めて欲しい。

僕の手の中で固くなった義兄さんのペニス...早くこれを埋めて下さい。

 

 

ぽとり...ぽとり...。

押し広げられた僕の入り口に、義兄さんの唾液が落とされる。

尻を高く突き出した姿勢。

恥ずかしい場所を全部、義兄さんにさらけ出している自分の姿に、快感を覚えた。

たまらず自身のペニスに、手が伸びてしまう。

X氏に慣らされた身体を、僕の大好きな人に捧げる時がきた。

 

「んっ...んん...」

 

焼け付く痛みはすぐ消えて、みっちりと内臓が押し上げられる感覚が。

深呼吸を繰り返して入り口を緩めるごとに、僕の腰奥が義兄さんを迎い入れる。

 

「んんっ...」

 

これは義兄さんのうめき声。

 

「ああ...」

 

この低くて太い吐息も義兄さんのもの。

伸びをした猫みたいになった僕は、腰と腰を結合させた義兄さんを振り返る。

義兄さんの猫みたいな目は、ギラっとした光をたたえていた。

興奮のせいか、義兄さんの呼吸は浅く早く、下腹が波打っていた。

 

「あ...っ...あっ...」

 

こんなに高く、甘ったるい声...自分でも初めて聞いた。

 

「ああぁ...あー、っあぁ...あ」

 

深く突き刺されたまま、ぐいぐいと奥底を揺らされて、喘ぎっぱなしだ。

義兄さんと繋がった身体の奥の奥で、彼のものを僕の熱で溶かしてしまいそう。

 

「いい...いいよっ...チャンミン...」

 

もっと僕の名前を呼んで。

 

「好きっ...義兄さんっ...好き」

 

義兄さんに打ち込まれるごとに、僕は愛の言葉を吐く。

胸を押しつけたソファの革が、僕らの熱を吸って柔らかく肌になじんだ。

僕の腰をつかむ義兄さんの指が、肌に食い込んでいる。

義兄さん、僕のこと...好きですか?

 

 

(つづく)

義弟(27)R18

 

~ユノ33歳~

 

 

「あ...義兄...さんっ...」

 

塞がれた唇の下で、チャンミンは苦し気に俺の名前を呼ぶ。

チャンミンの熱い息がふうふうと、合わせた唇の隙間から漏れた。

俺の両頬をもっともっとと引き寄せられて、チャンミンの背後にあるソファへ彼を押していく。

後ずさりするチャンミンの足がもつれ、体勢を崩しそうになるのを抱きとめる。

チャンミンは背中から、俺は彼の上に重なりどさりとソファにダイブした。

チャンミンの指が頬に食い込むほどで、俺を求める欲情の強さに、俺のそれも火力を増すのだ。

チャンミンの背中をまさぐりながら、より深く口づけようとうなじを引き寄せる力も増していく。

勢いの激しさに、歯同士ががちりと当り、どちらのものかわからない血の味。

互いのあごまで食らいつこんばかりの、口という穴を征服するキス。

 

「...んっ...ふっ...ふ...」

 

チャンミンの口は俺のもので密閉されているから、彼の鼻息が不規則に吹きかけられる。

もっともっと、違う角度で繋がりたくて、一旦唇を離した。

 

「好きです...」

 

チャンミンのつぶやきに、俺は頷く。

俺も好きだ...だが、口に出したらいけない気がするんだ。

好きのひと言で片付けられるような感情じゃないんだ。

それから、狡くて申し訳ないが、責任がとれない。

チャンミンとは、今この時、今この場所で、どろどろに塗れ合いたいんだ。

好きだから抱きあいたいのか、抱きあいたい気持ちが先にきているのか、保留にしているんだ。

真正面に鼻頭を合わせ、唇は触れ合わせず、舌先だけを繋ぐ。

焦らしたのち、チャンミンの舌を咥え、前後にしごく。

 

「...んんっ...んっ」

 

俺の口内にチャンミンの舌を引きずり込んで、きつく吸うと彼の喉が鳴る。

胸が苦しい。

この後の本命の行為に期待を馳せた。

 

上の...唇と舌...粘膜同士の接触といたぶりで、焦れ合うのだ。

俺の腹に、弾力ある固いものが押し当てられている。

チャンミンは衣服をまとわない姿で、すべてを俺にさらけだしていたから。

切っ先に雫がぷくりと浮いていた。

この子は、男だ。

立てた両膝が俺の腰を挟んでいる。

股間が引き締まる緊張は高まり、チャンミンの背に回した手を彼の正面に移した。

女の曲線をたどるように、チャンミンの敏感なものをたどる。

太く浮いた血管と折りたたまれた柔らかい皮、窪みとでっぱりを、指の腹でたどる。

 

「...や...あ...義兄さん...」

 

俺の身体の下で、チャンミンの腰がびくびくと震えた。

うなじを押さえていた手を放し、チャンミンの細いウエストに回した。

 

「ああっ...あっ...」

 

俺はこの子をどうしたい?

睾丸をすくいあげるように包み、片膝でチャンミンの腿を割る。

ブラインドから差し込む午後の光で、チャンミンの産毛が光る。

この後、どうなっても知らないぞ。

きっとチャンミンは、俺にのめり込む。

俺を見つめる目の色が変わるだろう。

俺を求める想いに真剣みが増すだろう。

Bとの結婚生活と並行しながら、チャンミンと会うのか?

 

会うだろう。

 

Bの目、世間の目から隠れて、チャンミンと会い続けるだろう。

俺が結婚していることと、男のチャンミンと関係を結ぶことは別の話だ。

可能な気がした。

いずれにせよ、もう引き返せない。

 

 

チャンミンのペニスを握る俺の手を、チャンミンは押しやった。

そして、俺の喉から舌を引き抜いて、チャンミンは俺の身体の下から抜け出した。

 

「?」

 

今回はチャンミンのその気が萎んだのかと、思った。

 

「!」

 

チャンミンはソファから降り、身を起こした俺の足元に脚を折って座り込んだ。

 

「...チャンミン...」

 

俺のデニムパンツのボタンを外し、ファスナーを下ろした。

チャンミンが何をしようとしているのか察して、下着をずらす。

斜めに勃起した俺のペニスを、チャンミンは咥え込んだ。

躊躇のかけらもなかった。

 

嘘だろ...。

 

大胆な行動に驚いた。

俺の両腿の間で、チャンミンの頭が揺れている。

陰毛に美しい顔を埋めている。

伏せたまつ毛が長く、頬に繊細な影を落としていた。

美味そうに俺のものを味わっている。

静寂のアトリエ。

強烈な快感が、股間から腹へと走った。

 

「...う...ん...」

 

低いうめき声が喉を震わせる。

たまらなくなって、前後に揺れるチャンミンの頭を撫ぜた。

丸い後頭部、伸びすぎた身長のせいで、小さく感じる頭を撫ぜた。

見上げたチャンミンと目が合う。

黒目と白目の境がくっきりとした、あの三白眼だ。

口いっぱいに俺のペニスを頬張っているから、口元をゆがませている。

それでも、美しい顔だった。

そして、悲しいくらいに幼い目元をしていた。

「どう?」と、褒めてもらいたがっている眼だった。

罪の意識がかすめる。

 

「いいよ...気持ちいいよ」

 

チャンミンの両眉が下がり、潤んだ瞳は泣き出しそうに見えた。

愛おしい想いが溢れ、チャンミンの前髪を何度も何度もかきあげてやった。

額を露わにすると、途端に男らしい印象が強まった。

そっか...今、俺は男にフェラチオされている。

それも、義理とはいえ、弟に。

チャンミンの舌による愛撫はぎこちなかった。

きつく吸われ過ぎて、痛みを覚えた瞬間もあった。

それでも、俺を気持ちよくさせようと必死な姿に、胸を打たれた。

罪悪感で萎えるどころか、俺のペニスを頬張り味わうチャンミンの姿に、猛烈に興奮した。

チャンミンの頭を股間に押しつけ、俺の腰はオートマティックに揺れてしまうのだ。

そして、チャンミンの喉奥で絶頂を迎え、彼から引き抜き、たまらずうなじを引き寄せた。

精の香りに包まれた口づけを交わす。

自身のものを味わうのは初めてだったが、チャンミンの舌と混ぜ合いながら、舐め尽くした。

膝に引っかかっていたデニムパンツと下着を、蹴と飛ばし脱ぐ。

ボタンを外すのももどかしく、シャツを脱ぎ捨てた。

これで肌と肌を直に合わせられる。

壁に立てかけられた数十枚のキャンバス。

完成したものも、制作途中のものも。

オイルの匂い、絵の具が飛び散ったフローリングの床。

大型のイーゼル、洗筆バケツ。

真珠のネックレスで胸を飾ったチャンミンの絵。

そして、丁寧に畳まれ置かれた、チャンミンの制服。

 

(つづく)

義弟(26)

 

~ユノ33歳~

 

チャンミンは屈んで、ローファーの上のものを拾い上げた。

 

「...どうぞ」

 

固い無表情に、女への贈り物...例えば、Bへ...だと、誤解させてしまったと、ひやりとした。

 

包みを受け取った俺は、そのままそれをチャンミンに突き返した。

 

「...?」

 

「今さらだけど、チャンミンへのプレゼントなんだ」

 

「...僕に?」

 

「誕生日プレゼント。

遅すぎるだろ?

チャンミンの誕生日を知って、あの後すぐに用意したんだ」

 

それは、チャンミンとMちゃんの交際を知り、渡せなくなってしまったものだった。

 

姉の夫から、それなりのものを贈られたりしたら、重く感じるだろうと気兼ねした。

 

Bが車内でこれを見つけ、自身への贈り物だと勘違いした。

 

翌日、同じショップに走り、店員が勧めるワンピースを購入し、同じように包んでもらったのだ。

 

Bに対して失礼なことをしているとは、露ほどにも思わなかった。

 

チャンミンは抱えた包みにじぃっと視線を落としていた。

 

うつむき加減の額から鼻先へのラインが、美しいと思った。

 

「...義兄さんが?

僕に...?」

 

そうつぶやいて、再び黙り込んでしまった。

 

「季節外れだし、俺からこんなもの貰っても迷惑だよな」

 

チャンミンの無表情と無言に耐え切れなくなった俺は、彼の手から包みを奪い返そうとした。

 

抵抗の力を感じて、俺の手は止まる。

 

「ありがとうございます」

 

会釈したチャンミンは、肩にひっかけていたディパックにそれを詰め込んでしまった。

 

ちらりと見えた教科書と、包み紙がしわにならないよう丁寧な手つきに、胸が痛んだ。

 

そうなんだよ...この子は、子供だ。

 

この場で開封しないのが、チャンミンらしいと思った。

 

彼の性格をよく知っているわけじゃないのに、俺はそう思った。

 

 

アトリエに到着した俺たち。

 

チャンミンに対する雑念を頭から追い出し、作品制作に頭を切り替える。

 

今日のところは、チャンミンとの関係を進めるつもりは全くなかった。

 

チャンミンにみだらな行為をしてしまった過去は事実としてあるし、なかったことにするつもりもなかったが、今日はそういうタイミングじゃないと思っていた。

 

俺は既婚者で、チャンミンの義兄にあたる。

 

未成年の少年に手を出す趣味もない。

 

そんな俺だが、チャンミンが欲しい。

 

チャンミンと結びたい関係性とは、例えば、恋人...じゃないな、愛人?...にしたい、とも違う。

 

Bと別れて、チャンミンを選ぶとか...全然ピンとこなかった。

 

チャンミンにその意思があるのかを、まずは確かめないと。

 

肉欲だけでは説明のつかない、強烈な欲求が渦巻いている。

 

一目見たときから、惹きつけられていて、欲しくて仕方がないんだ。

 

...結局、身体の関係が欲しいだけなのかもしれないな。

 

浅ましい自分に呆れかえる。

 

チャンミン。

 

お前はいいのか?

 

俺とそうなるつもりはあるのか?

 

関係を結ぶ。

 

ただそれだけで終始する関係かもしれないぞ?

 

はっきり、認めるよ。

 

俺は卑怯だ。

 

美しいお前を自分のものにしたい。

 

キャンバス上の世界に留めておくだけじゃ、足らなくなってきた。

 

どうしようもなく惹かれてしまうんだ。

 

 

俺に背を向けて、チャンミンは制服のシャツのボタンを外している。

 

俺は網ストッキングを手首にひっかけて、チャンミンの着替えを待っていた。

 

無駄な筋肉も脂肪もない、背骨の浮いた背中。

 

スラックスに次いで、下着を脱いだ。

 

細いウエスト、小さな尻。

 

俺の視線に気づいたのか、こちらを振り返った。

 

俺には分かった。

 

チャンミンは『その気』だ。

 

モデルを務めるために、アトリエに来たわけじゃない。

 

その後の行動は素早かった。

 

俺はつかつかとチャンミンに近づき、彼の手首を引き寄せ胸に抱きとめた。

 

俺の早鐘のように打つ心臓の音を聴け。

 

チャンミンの後頭部を、俺の左胸に力づくで押しつけた。

 

「...分かってるだろ?」

 

「...はい」

 

「俺がどうしたいか...分かってるよな?」

 

「...はい」

 

俺の手の下で、頷くチャンミンの頭が小さく上下した。

 

柔らかな髪が俺の顎をくすぐる。

 

「...僕の気持ち...知ってますよね?」

 

「ああ」

 

チャンミンの両手が俺の背に回された。

 

腕の力を緩めると、上目遣いのチャンミンが。

 

いつの間にか目線がほぼ同じ高さになっていた。

 

残念なことに、チャンミンはもう少年を卒業しようとしている。

 

眼の縁を桃色に染め、わずかに開いた唇。

 

以前、チャンミンを襲ってしまった時とは、比べ物にならないほど、放つ性の香りが濃くなっていた。

 

「...義兄さんは、綺麗です」

 

容姿を褒められてもなあ...と思っていたら。

 

「義兄さんなんて...嫌いです」

 

「......」

 

「そして...好きです」

 

「...っ」

 

「義兄さんが...好きです」

 

完全に堕ちた。

 

俺たちのこれから行うであろうことは...間違っている。

 

「好きです」を繰り返すチャンミンの頭を、再びきつくかき抱いた。

 

この時、俺の口からは「好きだ」が出てこなかった。

 

「好き」のひと言では言い表せない複雑なものだったからだ。

 

憑かれたように「好きです」を繰り返すチャンミンを、深く抱きしめた。

 

愛おしいこの生き物を、どうすれば自分のものにできるだろう。

 

この子は妻の弟だ。

 

背徳感に眩暈がする。

 

俺の頬がチャンミンの両手に包まれ、強引に引き落とされた。

 

開いて待ち構えていた唇に、吸い寄せられるように着地して直ぐに舌が絡みつく。

 

「好きです...義兄さん、好きです」

 

 

(つづく)

 

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義弟(25-2)

 

~ユノ33歳~

 

X氏は俺たちのテーブルの上に視線を向けると、満足そうに笑った。

 

「新メニューはどう?

見た目も華やかでいいだろ?」

 

「若い女性はこういうの好きそうですね」と、チャンミンの前に置かれたアラカルト・プレートを褒めた。

 

X氏のもの言いたげな表情に、慌てて俺はチャンミンを紹介する。

 

ところがチャンミンは、X氏と俺を交互に見た直ぐに、そっぽを向いてしまった。

 

そうだろうな、チャンミンはこういう推しの強い人物は苦手そうだから。

 

「へえ。

私はてっきり、ユンホ君の実の弟なんだと思ったよ。

整った顔なんか、そっくりじゃないか!」

 

「そうですかねぇ...似てませんよ。

あ、チャンミンには絵のモデルをやってもらっています」

 

「え?

君は女専門じゃなかったかな?

男も描くようになったのか...そうか...やっぱり、ヌードか?」

 

X氏の好色そうな物言いとにやけ顔に、嫌悪感が表に出ないようにするには努力がいった。

 

「まあ...そんなところです」と、チャンミンの方を窺う。

 

俯いたままのチャンミンの両耳が赤くなっていて、X氏への自分の回答を後悔した。

 

「完成したら見せてくれないか?」

 

「審査会が終わるまでは、ちょっと...」

 

俺は元々、過去作品も含めて制作中の作品をわりと気軽に見せるタイプの作家だった。

 

ところが、X氏には披露したくない意志がなぜか湧いてきて、曖昧な返事で濁した。

 

チャンミンを見るX氏の目がいやらしく感じるのも、しばしば耳にする噂のせいだ。

 

「チャンミン君」

 

「!」

 

X氏に呼ばれたチャンミンは、勢いよく顔を上げた。

 

「ここでバイトしないか?

イケメンがいたら、話題になって繁盛しそうだ。

時給もいいぞ?」

 

「Xさん。

チャンミンは私のモデルなんですから、引き抜かないで下さいよ」

 

俺の言葉に何をそんなに可笑しいのか、ガハハハッと笑い、「あのラフ案は今一つだから、頼むよ」と俺の肩を叩くと去っていった。

 

ほっと一息ついて、向かいのチャンミンに「大丈夫だ」の意を込めて頷いて見せた。

 

余程X氏が嫌いなタイプの人間だったんだろう、青ざめているように見えたから。

 

「義兄さん...」

 

食事の続きに取り掛かっていた俺は、囁き声で呼ばれた。

 

「この後、用事ありますか?」

 

今日のところは、X氏に依頼されていたデザインの練り直しに取り掛かる予定でいた。

 

チャンミンから何かしらの誘いの文句の予感に、「特にないよ」と答えた。

 

「ずっとサボってばかりだったから、もし義兄さんがよければですけど。

今日、モデルします」

 

「え...試験期間とかじゃないの?」

 

「赤点とらなければいいので、試験勉強なんて別にいいんです。

駄目ですか?」

 

「助かるよ。

制作がストップしてたからね。

モデルがいなきゃ描けないから」

 

実際はモデルがいなくても、ある程度は想像で描けてしまうのだ。

 

ところが今回の作品に関しては、想像力で補うとたぎる想いが溢れそうになって、作品の本質から外れてしまいそうで、続きを描けずにいたのだ。

 

来年の展覧会に間に合うか、間に合わないかの瀬戸際にきていた。

 

俺の答えを聞くなり、チャンミンは立ち上がった。

 

席を離れると俺を急かすように、振り向いた。

 

むすりとした無表情の反面、切羽詰まったようなチャンミンの眼の色に、俺はたじろいだのだった。

 

 

チャンミンを乗せるため、助手席に積み上げてあった荷物を後部座席に移す。

 

展覧会のパンフレット、丸めたラフ画、空になったペットボトル、クリーニング店に出しそびれている冬物。

 

「意外ですね。

アトリエは整理整頓しているのに」

 

チャンミンはぷっと吹き出した。

 

笑みを浮かべると、年相応の幼い顔になる。

 

「そうなんだ。

几帳面な俺と、ガサツで大胆な俺がいるんだ。

しょっちゅうBに...」

 

口に出してしまってから、「しまった」と思った。

 

チャンミンの姉の名前を出すことに、後ろめたさを感じてしまうはやはり、チャンミンのことをそういう対象で見ている証拠だ。

 

チャンミンの方を振り返れず、荷物を片付けに戻る。

 

シートの足元に押し込まれていた紙袋を引っ張り出した時、

 

「あ!」

 

腕に抱えた紙袋から中身が滑り落ちて、チャンミンの黒のローファーの上に落下してしまった。

 

それは、艶やかなネイビーブルーのリボンで美しくラッピングされた包み。

 

「これ...?」

 

それは、渡しそびれていた、チャンミンへの誕生日プレゼントだった。

 

 

(つづく)

 

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