(17)僕を食べてください(BL)

 

~僕は奴隷だ~

 

上では互いの舌を出入りさせ、下ではユノのものが出入りする音をたてている。

ユノと繋がっている感動と、昼間の屋外で行為に至っているふしだら感が合わさって、僕は興奮の真っ只中だった。

それでも、昨日のように無我夢中になり過ぎないよう、快感を逃すためたくし上げたTシャツを噛んだ。

 

「んっ...んっ...」

 

ひと振りされるごとに声が漏れ出てしまって、噛みしめていたTシャツがぱさりと落ちた。

僕の腰をつかんだユノの手が、僕の胸を這う。

 

「やっ...そこは、だめ!」

 

ユノの爪先に両胸の先端をひっかかれ、僕の背中が痙攣する。

 

「きっつ...。

締めすぎだよ。

感じすぎ」

 

僕をからかうように言って、ユノは全体重を僕の背に預けると、僕の身体をガクガクと前後に揺する。

ユノの腰の律動に合わせて、僕はひんひん喘ぐ。

川のせせらぎ、頭上を走り去る自働車、蝉の鳴き声...これらの音のおかげで、どれだけ大声を出したって大丈夫だ。

強弱つけて前後するユノの腰骨が、僕のお尻に打ちつける音もそう。

コンクリートブロックに両手をついて、崩れ落ちないよう必死で身体を支える。

項垂れた僕の目に映るのは、足首までずり落ちたデニムパンツと下着と、踏ん張るスニーカーの足先だけ。

ユノは「服が邪魔だ...」と苛立たし気に言った。

僕のTシャツは胸上までまくし上げられ、完全に脱ぎ切らないままでユノは手を放してしまった。

僕の頭はTシャツに覆われて、胸下を裸にさらした格好となった。

Tシャツに包まれて、目に映るものは真白な生地だけで、周囲の音からも遮られた。

自然と僕の全神経は、ユノと繋がるあの一点だけに集中することとなる。

 

「...あん...あっ...あん...ああ、ああっ...」

 

歓喜の呻きが、布地の中に閉じ込められて、僕の耳にダイレクトに届く。

自分の喘ぎ声に興奮してどうするんだよ。

ここは外だぞ?

 

「気持ちいいか?」

 

耳元でユノの低音に囁かれ、僕は振り子のように頷く。

 

「...うん、もっと...もっと、頂戴」

 

ずくんずくんと腹底から弾ける痺れ。

 

「これは...?」

 

腰を高く引き上げられて、僕の両手は支えを失い宙に浮いてしまう。

 

「ひゃぁっ...ん!」

 

入り口直ぐの底面ばかりを狙って、浅突きされた。

 

「そこっ...そこ、だめ...そこ、だめっ...だめだめだめぇ」

 

くの字に折った僕の身体は、玩具のようにぐらぐらと揺れる。

立っていられるのも、やっとだった。

遮二無二に肉欲を受け止める自分の、濫(みだ)りがましさを軽蔑する。

日常の僕は常識的で大人しくて、できるだけ道徳的な人物であろうとしていた。

冷静沈着さを装い、醒めた表情を取り繕いながら、むくむくと、密かに育ててきたものがあったのだ。

辱められたい、いたぶられたい、はしたなく乱れたい。

心の奥の襞と襞の間に、ひた隠してしてきたそれを、今ここで吐き出せる自分に悦んでいた。

真昼間に、屋外で、ガードレールから身を乗り出して見下ろせば見られてしまうかもしれない状況にも興奮した。

僕はユノに耽溺していた。

絶頂の際に口をついて出てしまった「好きだ」の言葉。

その返答は得られず、逆に諌められた。

にもかかわらず、ユノは僕の色欲を煽って、浅ましい僕の中に侵入してくる。

混乱する。

宙ぶらりんとなった僕の気持ちの始末に困っていた。

それならばと、ぽっかりと空いた心の隙間を埋めたかった。

言葉で通じないのなら、僕の身体をもって恋情を伝えるしかない。

前戯のイロハを知らない僕だった。

ユノを愛撫する余裕もなかったし、その隙も与えられていない。

やみくもに穴を差し出すことしかできない、自分の青臭さと不器用さにつくづく呆れる。

僕の中に渦巻く不安と焦燥、そしてユノへの恋情をぶつける方法が、今はこれだけしか思いつかない。

 

「くっ...」

 

ユノの喉から、くぐもったうめき声が漏れた。

それを耳にした僕の入口が、きゅっと閉まったようだ。

 

「締まるなぁ。

チャンミンのここ...女みたいだ」

 

両膝はがくがくになっており、今にも崩れ落ちそうな僕の爪先が、足元の川砂を乱す。

 

「だめっ」

 

僕のものに伸びてきたユノの手をかわそうと、身体を捻った。

勢いで、ユノのものがずるりと抜け去ってしまった。

脱ぎかけのボトムスが僕の足首をもつれさせ、バランスを崩した僕は尻もちをついてしまった。

視界を覆っていたTシャツを脱ぎ捨てた。

裸のお尻に、日光にあぶられた川石が熱い。

見上げた先に、濡れそぼったユノのものがてらてらと天を向いている。

たまらず、飛び起きた僕は正面から彼に抱きついた。

 

「チャンミン...どうした?」

 

たまらなくて、ユノの喉に吸い付いた。

息を荒げることなく、余裕たっぷりなユノを征服させたい。

その肌のきめ細かさと、静脈が透けて見える薄い皮膚を間近にすると、赤い痣でいっぱいにしたくなる。

 

「興奮し過ぎだろ」

 

「...うるさいっ...!」

 

ユノの喘ぎ声を聴きたくなった。

むしゃぶりつく僕のうなじをつかまれ、引きはがされた。

ユノの眼は濃いサングラスで覆われている。

白い顔にそこだけぽっと色づく唇を、片端だけくいっと持ち上げた。

 

「服が邪魔だ。

脱げよ」

 

「......」

 

...ユノには逆らえない。

 

命じられた僕は、デニムパンツを下着ごと脱ぎ捨てた。

裾にひっかかったスニーカーも脱いだ。

橋脚の間を吹き抜ける風が股間をなぶる。

真昼間の屋外で、僕はなんて恰好をしているんだ。

滑稽で情けないやら...それなのに、ぞくぞくと興奮した。

触れてもいない僕の先端から、透明な水滴が光っている。

ユノは僕の腰を抱えて持ち上げると、擁壁に押し付けた。

僕はユノの首にぶらさがり、両脚で彼の腰を抱え込む。

僕のお尻が左右に割られ、露わになった箇所にユノの先端が円を描いて遊ぶ。

 

「挿れて欲しいか?」

 

「...っうん、挿れて...早く!

...うっ...んんっ...」

 

僕の返事を待たず、押し入ってきたものに僕の内臓が持ち上がる。

抜けるギリギリまで腰を引いたのち、ずんと一番奥まで刺し貫かれる。

 

「ふ...あっ」

 

背筋に強すぎる快感の電流が走る。

どうして僕を攻めるの?

僕の身体がいいから?

僕はね、ユノの雄を刺激している自分が気に入っているんだ。

ユノを煽っている自分に悦んでいるんだ。

ユノの腰に絡める両膝に力を込めると、同時に入口にも力が入って引き締まる。

それまで固く引き結ばれていたユノの唇が開いた。

そして、低く掠れた湿っぽい呻き声が...。

ユノの感じている表情を見るのは初めてで、勇気づけられ、肉欲が煽られた。

ここは屋外で、川石がゴロゴロ転がるところで横たわることもできない。

限られた体位でしか繋がることができない点がもどかしくて、かえって興奮材料となった。

 

「...チャンミン。

誰かに見られちゃうぞ?」

 

「!」

 

ユノの囁きに、一瞬我に返った。

 

「誰かこっちにくるぞ?

渓流釣りの人かなぁ...」

 

「えっ...!?」

 

ここは川遊びに絶好の場所だけど、大の大人が水着もつけずに全裸でいるのは不自然だ。

しかも、性交の真っ最中なのだ。

 

「やっ...離して!」

 

腕を突っ張っても、足を揺らしても無理だった。

 

「ガードレールから、下を覗いているぞ。

チャンミン...どうしてお前は、服を脱いでいるんだ?」

 

「!」

 

ユノの腰に絡めていた両脚を下ろそうとしたが、彼の強靭な腕にそれを阻まれた。

 

「だって、ユノが...脱げって」

 

「嫌なら、イヤだって拒めばいいのに。

脱いだのはチャンミンなんだぞ?」

 

外気は暑く、前髪から汗がしたたり落ち、ユノの指摘に羞恥で熱くなった全身からさらなる汗が噴き出るのだ。

 

「...梯子を下りて来たぞ。

どうする、チャンミン?

見られちゃうぞ?」

 

ユノに命令されたからその通りにしたんだ、服が邪魔だったから脱いだんだ...それから、恥ずかしいことをしたかったから裸になったんだ。

そう認めなくても、ユノにはお見通しなんだ。

 

「締まってきた。

いやらしいなあ、チャンミンは...」

 

うねる僕の中が狭まったのか、ユノのものが膨張したのか、その両方なんだろう。

 

「見られちゃうぞ?

どうする?

おっと...また締まった」

 

「んっ...離して...見られちゃうから」

 

ユノは抱えた僕の腰を、ゆさゆさと揺らす。

 

「...あぁ、ダメだって...あっ...そんな...」

 

「早く終わらせないと、見つかるぞ?

厭らしいなぁ、チャンミンは?

興奮してるのか?」

 

僕の腰をきつく引き寄せて、奥深くまで挿入したままで、ぐるりと円を描く。

ダメだと思えば思うほど、止めないで欲しいと請う。

 

「どスケベだな。

お前はど変態だ」

 

「...ひっ...や、やっ...見られちゃう、見られちゃう!」

 

「チャンミンのはしたない尻の穴も、丸見えだぞ?

チャンミンは男にヤられてるんだ。

太いものを突っ込まれて、悦んでるところを見られちゃうなぁ?」

 

青い空、四方は濃い緑の山々に囲まれた、涼し気な水音を立てる清流。

僕の目には、風光明媚な景色など一切、映っていない。

中が苦しい。

気持ちよすぎて、苦しい。

僕は何をしているんだ?

前を出しただけの青年に、僕はカエルになってしがみついている。

ユノを前にすると、何でもできてしまう自分にくらくらする。

もっと辱めて欲しい。

僕はユノの、奴隷だ。

 

 

(つづく)

(16)僕を食べてください(BL)

 

 

~心もあげる~

 

 

木陰のおかげで日差しは避けられるが、気温は高く、汗がとめどなく噴き出す。

 

(しまったな...喉が渇いた)

 

立ち止まって、汗に濡れた前髪をかきあげ、ガードレール下の川を見下ろした。

 

廃工場の谷川と、他の支流が合流したものが、今見下ろしている川だ。

 

僕の陰毛に埋もれた美しい青白い顔が、パッと脳裏に浮かんだ時、ディーゼルエンジン特有のガラガラ音が後方から聞こえてきた。

 

ガードレールにくっつくほど身を寄せた。

 

アスファルトの隙間から生える雑草を踏みつけたスニーカーに視線を落として、車が通り過ぎるのを待っていた。

 

深いレッドが目に飛び込み、はっとして顔を上げた。

 

サイドウィンドウがゆっくりと下りて、サングラスをかけた白い顔が白い歯を見せて笑っていた。

 

「チャンミン」

 

この時の僕は、馬鹿みたいに惚けた顔をしていたと思う。

 

僕を置き去りにして、二度と戻ってこないのではないかと思い込んで泣いたこと。

 

ユノの不在に予想以上に衝撃を受けた自分がいたこと。

 

これまでの逢瀬は夢の出来事だと、半ば本気で信じかけていたこと。

 

これら僕を苦しめていた気持ちが、一瞬で消え失せてしまった。

 

「ユノ...」

 

叫びたいのに、ユノの手を取って頬ずりをしたいくらいだったのに、僕はかすれた声でユノの名前をつぶやいただけだった。

 

「乗る?」

 

僕はこくんと頷いて、助手席側にまわって乗り込んだ。

 

車内はエアコンが効いていて、乾いた涼しい風が心地よかった。

 

「ドライブしようか」

 

言葉が出てこない僕は、こくんと頷いた。

 

「そこに飲み物があるから」

 

助手席の足元にあったビニール袋から、よく冷えた炭酸水を1本とった。

 

ユノは次の退避場でX5の向きを変えると、道を下り始めた。

 

「どこに...行ってたんだ?」

 

ユノの横顔を、サングラスのつるを引っかけた白い耳を見る僕は、恋焦がれる目をしているだろう。

 

「荷物を受け取りに街へ出ていた」

 

「...僕も」

 

「ん?」

 

「僕も...連れていけばよかったじゃないか。

僕は...置いて行かれたかと思って...っく...」

 

「...チャンミン」

 

「もう戻ってこないのかと思って...ひっ...く」

 

言葉は途中から嗚咽交じりになった。

 

「ユノがいなくなって...全部夢だったんじゃないかって...」

 

しまいには、子供みたいに泣いていた。

 

「チャンミン...ごめん」

 

ユノはX5を停めるとシートベルトを外し、腕を伸ばして僕の頭を引き寄せた。

 

「寂しかったんだ」

 

僕の頬や首に触れるユノの腕が冷たい。

 

でも、僕の頭を撫ぜるユノの手が心地よくて、「ごめんな」という彼の声音が優しかった。

 

ユノにまた会えた安堵と、自分の思い込みの激しさに呆れた。

 

とにかく、ぐちゃぐちゃになった感情の処理が追い付かなくて、涙を流すことでしか表現できなかった。

 

 

 

 

ユノが停車した場所は、例の橋のたもとだった。

 

僕らはX5から降りて、眼下数メートル下を流れる川を欄干から見下ろした。

 

「ほら。

ここだけ新しいだろ?」

 

そこだけが塗料の色が濃い箇所を指さした。

 

ユノに問われてもいないのに、僕は滔々と子供の頃に遭った事故のことを、両親を亡くしたことを語っていた。

 

その間僕は、焦げ茶色のくすんだ欄干にシミ一つない白い手を置いたユノの、サングラス越しの視線を感じていた。

 

「...で、これがその時の勲章なんだ」

 

前髪をあげて、生え際の傷跡を見せた。

 

僕は目を閉じて、ユノのひんやりとした指が傷跡をなぞられるがままになっていた。

 

「チャンミンが発見されたっていう場所はどこ?」

 

「こっち」

 

河原へ降りるための梯子へユノを案内した。

 

夏の間、川遊びをする子供たちのために作られた木製の簡易的なものだ。

 

「滑るから、気を付けて」

 

僕らは1歩ごとにしなる足場板を下りてゆき、丸石に足をとられながら橋脚の傍まで行きついた。

 

「この辺りだよ」

 

カワヤナギの茂みを指さした。

 

十数年前、僕はこの茂みの中で、母親のバッグを抱きしめて眠っていた。

 

その時点では、父親の死のことも瀕死の母親のことも、知らずに。

 

「そうか...」

 

薄いブルーのTシャツとホワイトデニムを身につけたたユノは涼し気で、相変わらずスタイルが抜群だった。

 

「眩しいね」

 

僕らは橋脚の真下まで移動した。

 

コンクリート製の橋脚にもたれて、橋げたの真裏を見上げた。

 

時折、橋を渡る車の音がして、かすかに橋げたが揺れるのが分かる。

 

ユノの手が僕の腕に触れた。

 

「なあ、チャンミン」

 

僕の正面に立ったユノは、僕の腰に腕を回した。

 

「悲しかった?」

 

「当然だろ。

大切な家族だし、二度と参観日にも、運動会にも来てもらえないんだ。

家に帰っても『おかえり』と言ってもらえない。

悪さをして頭を叩かれることも、二度とないんだ。

お父さんとお母さんの、生身の身体がなくなっちゃうってことが辛かった。

でも、一番辛いのは、友達のお父さんとお母さんを見る時かな。

どうして僕にはいないんだろうって、羨ましかった。

まだ子供だったから、思い出が少なかったのが幸いだった」

 

ははっと乾いた笑いを浮かべた。

 

「でもね、僕も一緒に死んでしまえばよかったとは思わなかった。

どうして僕だけが助かったのかは謎のままだけれど...」

 

両親を思い出して、センチメンタルなことを話しているのに、僕の腕はユノの身体を力いっぱい抱きしめていた。

 

ユノの後ろ髪に鼻をうずめたら、あの甘い香りを思い切り吸い込んでしまって、抜き差しならない情欲に侵食されてきた。

 

ユノと会ったら、真っ先にしたいこと。

 

ユノの腰を引き寄せて、僕のそれに押し付ける。

 

「俺のことが好きなんだ?」

 

「うん」

 

「好きだから、したいんだ?」

 

「...うん」

 

頷いた僕は橋脚と擁壁が作る空間へユノの手を引いて連れて行き、彼の身体を擁壁に押し付けた。

 

腰を揺らめかせて、既に固く盛り上がったユノに自身のものをこすりつけた。

 

左右に腰を振って押しつけながら、ユノのホワイトデニムの前を緩めた。

 

ユノのものが勢いよく飛び出してきて、それを目にした僕の呼吸は荒くなる。

 

ユノに背を向けた僕は擁壁に手をつき、膝までデニムパンツを下ろした。

 

「挿れて?」

 

ユノのそれに手を添えて、僕のあそこにに誘導した。

 

ユノのものが侵入する。

 

「っんん...」

 

温かく潤ったものでユノのものを包み込み、僕は充足感に低い唸り声を漏らす。

 

ユノのものが、僕の中で脈打っていた。

 

ユノが戻ってきてよかった。

 

夢じゃなくてよかった。

 

ユノの身体が欲しい。

 

代わりに、僕の身体をあげる。

 

でも、僕は初心だから、心はあっち、身体はこっち、といった具合に分けられない。

 

心も一緒に差し出してしまうけれど、それで構わないよね?

 

 

 

(つづく)

 

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(15)僕を食べてくださいBL)

 

 

~指だけじゃ足らない~

 

ベッドに上がると、壁にもたれて座る。

ティッシュペーパーの箱を引き寄せて、両脚を広げた。

勃ち過ぎて下腹が痛いくらいだ。

手の平全体でゆるく握ると、前後にピストン運動させた。

 

「はっ...はっ...」

 

すぐさま股間から弾ける快感に、夢中になる。

ユノとの絡み合いを思い出す。

一歩進んで、いやらしい恰好をさせたユノを妄想した。

人差し指で親指の輪で、亀頭の縁を摩擦させた。

 

「あっ...」

 

息が熱い。

同時に、指の付け根で裏筋を刺激する。

妄想の中のユノは手首を縛られていた。

 

「うっ...」

 

ヤバイ...もうイキそうだ。

 

イきそうなのを堪えて、根元から手の平を離して、亀頭だけを指でつまんだ。

親指でカリの部分をひっかけるようにこすった。

この自慰行為をユノに見られているのだと想像したら、ピクリと硬くなった。

射精に至るまでの時間が短い僕だ。

あっという間にイかないよう、コントロールする。

弱い刺激で、ゆらめく波のような快感に浸る。

物足りなくなった僕は、Tシャツの下から片手を入れる。

 

「あっ...」

 

固く尖った乳首に指先が触れた途端、上半身がゾクッとのけぞった。

乳首に意識を集中させる。

指先で転がし、ひねる。

 

「は...ん」

 

むず痒い電流が走る。

引っぱると、手の平に包み込んだ僕のものがさらに膨張した。

 

「チャンミンは感じやすいね」

 

耳元で囁くユノの声が聴こえたような気がした。

 

「っく」

 

背を反らし、頭頂部が壁をこするたびに、壁に掛けた賞状の額がカタカタと音をたてた。

輪にした二本の指に、透明な粘液が垂れる。

 

「はあはあ...」

 

前だけじゃ足りない。

全然...足りない。

再び襲われた波をやり過ごした僕は、ベッドに横向きに寝っ転がった。

お尻に手を伸ばして、過敏な箇所に指を突き立てる。

1本2本と容易に、飲み込むいやったらしい穴だ。

昨夜、たっぷりと注ぎ込まれたローションのおかげで、滑りはよい。

かぎ型に曲げた指の背で、中をぐるりとかき混ぜた。

 

「...んっは...」

 

ユノのものが出し入れする錯覚を楽しんだ。

僕の入口は柔らかくて、女の人のあそこに触れた経験はないけれど、きっとこんな感じなんだろうと思った。

 

ユノが好きだ、好きだ。

無茶苦茶にされたい。

 

『今なんて言った?』

 

フラッシュが瞬いたかのように、喉を締め付けたユノの冷たい指を思い出した。

喉ぼとけが押しつけられて、息が詰まって、殺されるのではと恐怖が沸いた瞬間を思い出した。

ユノの強靭な指と握力があれば、僕の首くらい簡単にへし折ってしまえるだろう。

 

「好きだと言って、悪いのか!」

 

絶頂の際、口走ってしまった言葉を咎められた。

腕をついて身体を起こして、ベッドから足を下ろした。

 

「はぁ...」

 

両膝に両肘をついて、両手で両目を覆った。

 

「なんだよ...」

 

僕の気持ちのやり場はどこなんだよ。

僕の身体を舐めたり触ったりしてくるくせに。

僕の身体に突き立てるばっかりで。

 

...それに。

 

指を挿入して気付いたこと。

ユノは達していないのでは?...ということだ。

ユノが放ったものの気配は、僕の中にはない。

快楽に溺れるばかりで、ユノの方はどうだったのか...。

僕の身体じゃ、物足りないのか...。

 

「...そんな...!?」

 

悶える僕を眺めるのを、ただ愉しんでいるだけなのだろうか。

萎えてしまったものを下着におさめ、デニムパンツを履いた。

よろめいてドア枠に肩をぶつけてしまい、その痛みによって不発に終わった苛立ちが消えた。

 

二の腕は全然痛くない。

ほどけかけた包帯を、むしり取った。

恍惚としたユノの視線を浴びた傷口がなくなってしまった。

僕は傷の周囲を舌先でたどられた感触に、ゾクゾクと感じたんだった。

開いた傷口をユノの指でなぞられて、激痛の中に快感を感じたんだった。

快感によがる僕を、ユノの身体を求める僕を、面白がってんじゃないよ。

下半身に支配された自分を抑えられないんだよ。

前夜、3回もヤッたくせにまだまだ足りないんだよ。

よろけたはずみで戸口に肩をぶつけてしまったけど、気にならない。

僕の腕はもう、痛まない。

 

 

「おーい!

チャンミーン、いるかあ?」

 

玄関先から呼ぶ声に出てみると、近所のNさんだった。

 

「おお、チャンミン、久しぶりだなぁ。

お前が帰ってきていると聞いてな」

 

Nさんは、両親の事故の際、行方不明だった僕を血眼に探しまわった末、灌木の影にいた僕を見つけてくれた人だ。

血まみれの顔でぼーっとしている僕を抱きしめて、「よかった、よかった」とおいおい泣いていたことを、よく覚えている。

 

「せっかくの休みのところを、すまないな。

男手が必要になったんだ。

ちょっとだけ手を貸してくれないか?」

 

「いいですよ」

 

僕は即答して、靴を履いてNさんを追った。

何かしら手を動かしていないと、頭の中がユノのことでいっぱいで、爆発しそうだった。

Nさんの車に便乗し、舗装されていない林道を数分ほど進んで着いた先は、捕獲獣処理場だった。

建って間もないここはシャッターを開けると直接建物の中へ、車を乗り入れることができる構造をしている。

車を降りた途端、けたたましい吠え声を浴びせられて、脚がすくんだ。

建物脇に繋がれた4匹の猟犬が、尖った歯をむき出しに、唾液をとばしながら、僕に向かってぎゃんぎゃんと吠えたてている。

 

「近づくなよ。

食い殺されっぞ」

 

「はあ」

 

「あの檻にも近づくな。

瓜坊を連れてたから、気が荒い」

 

鉄製の檻の中に子牛ほどある猪が、己を閉じ込める鉄棒目がけて突進し、助走をつけては突進しを繰り返している。

 

「汚れるからこれをつけろ」

 

手渡されたゴム製のエプロンと、手袋をつけゴム長靴に履きかえた。

コンクリート床の上に、大型犬サイズの猪がころがっていた。

 

「これは...?」

 

「罠にかかってたんだ。

まさか今日捕れるとは思わなくて、連れがいなくてな。

早く血抜きをしないと、使い物にならない...」

 

Nさんは天井に取り付けられたフックの位置を調節すると、僕に手招きした。

 

「小さい方だが、重いぞ。

腰を落として持ち上げるんだ」

 

僕とNさんが抱えたその猪を、いったんステンレス製の台に置くと、後ろ脚にワイヤーを巻き付けた後、天井から下がる杭にひっかけた。

ハンドルを回すと、猪の身体がくいくいと持ち上がっていく。

僕は、猟犬の牙や、黒々とした猪の死体や、意外に清潔な造りの処理場内や、全てに圧倒されてしまって、終始無言だった。

猪が放つ獣臭に鼻を押さえていると、

 

「もういいぞ。

ここまできたら、あとは一人でできるから」

 

そう言って、Nさんは巨大な金属たらいを、ぶらさがる猪の真下まで足で蹴り寄せた。

この金属たらいを満たすのは何なのか想像して身震いした。

 

「他に手伝えることは...?」

 

「ここからは、グロいぞ。

そんなに青い顔をしてたら、無理だ」

 

血の匂いを嗅ぎつけて、興奮した犬たちが唸り声をあげ、長い爪で壁をガリガリいわせていた。

 

「あいつらには、褒美にモツを投げてやるんだ」

 

「それじゃあ...僕...帰ります」

 

Nさんは、先が曲がった刃物を持った手を上げて、「助かったよ、じゃあな」と、日に焼けた顔で笑った。

外に出た途端、また猟犬に吠え付かれてビクついたが、建物内の生臭い空気から解放されてホッとした。

ばあちゃんちからこの処理場は車だと数分かかるが、山の中を突っ切れば徒歩で10分そこそこの距離にある。

スニーカー履きだったし、やぶ蚊に刺されるのは嫌だった僕は、来た道を辿って帰ることにした。

森林管理の車が通れるよう急場ごしらえした砂利道だ。

帰省して4日目。

2日後には、街に帰らなければならない。

怪我を負ったはずの二の腕を、反対側の手でさすった。

初めからユノとは出会っていなかったのかもしれない。

怪我などしていなかったのかもしれない。

到着したあの日は、山道で転んだだけで、頭を打つかなんかしてボーっとしてたんだ。

僕が密かに抱いている卑猥な欲望を、夢の中で実現させていたに違いない。

この3日間の僕は、夢の世界に生きていたということ。

夢精だったんだ。

そうに決まっている。

夢だったらいいのに。

夢だったら、ユノを恋しがっても仕方がないと諦められる。

砂利道は舗装道路にぶつかり、右に行けばばあちゃんち、左に行けば廃工場だ。

確かめてみないと。

あそこを目で見て、現実だったのかどうか確かめてみないと。

僕は左折し、くねくねとした坂道を歩いて行った。

ユノとの初めての出会いまでの時を巻き戻した。

仰向けに突き倒された時、頬を叩いた雨水と僕を見下ろしたユノの墨色に沈んだ瞳。

目覚めた時の乾いたシーツの感触、噛みつかれた唇の痛み。

 

「チャンミンは、いやらしい子」と耳元で囁かれた声音。

 

ユノがしたこと、ユノにしたこと、僕が漏らした喘ぎ声、身を貫くほどの快感を、ひとつひとつ反芻してみた。

こんなにはっきりと五感で覚えているのに、これが夢だと言いきれるのだろうか。

 

(つづく)

(14)僕を食べてください(BL)

 

~置いていかないで~

 

 

ユノはすやすやと眠るチャンミンの寝顔をじっと見つめていた。

 

顔から肩へ、呼吸で上下する胸へ、細く引き締まった腰へと視線を移す。

 

立ち上がると、毛布をチャンミンの背中にかけてやり、脱ぎ捨てた衣服を拾い集めた。

 

腕や胸、脚に乾いた血が付着していて、腕に付いたそれを舐めて顔をしかめた。

 

ケーブルドラムに置いた水筒を伸ばしたが、飲み干してしまっていたことを思い出して冷蔵庫に向かった。

 

冷蔵庫の中を覗いて、「ちっ」と小さく舌打ちをした。

 

(参ったな...)

 

背中を丸めて眠るチャンミンの方をふり返った。

 

 

(綺麗な男だ。

 

本当に美味しそうだ。

 

でも...。

 

俺らしくもない...。

 

これから、どうしたらいいのだろう)

 

 

熟睡するチャンミンを、穏やかな表情で見つめる。

 

ユノの瞳の色が一瞬、深い墨色に沈み、再び群青色に戻った。

 

X5のキーを手に取り、白いスーツケースを軽々と持って、裏口から廃工場の外へ出ていった。

 

足音も物音も、ユノはほとんどたてなかった。

 

チャンミンは多少の物音くらいでは目覚めないほど、深い眠りについていた。

 

 


 

 

~チャンミン~

 

 

「う...うん」

 

目の詰まった白いシーツが真っ先に目に入る。

 

シーツの上にだらんと伸ばした腕に視線を移して、指を動かした。

 

(ここは...!?)

 

がばっと身体を起こすと、背中にかけられていた毛布が滑り落ちて、裸の身体が露わになった。

 

(ここは...そうだった!)

 

高い天井、金属製の柱と壁、製造過程のまま放置された錆の浮いた鉄骨、土ぼこりだらけのコンクリートの床、割れた窓ガラスから注ぐ日光。

 

(ユノとヤりまくって、ここで眠ってしまって...)

 

思い出してカーっと身体が熱くなる。

 

(ユノは...?)

 

マットレスの上は僕ひとりで、大声でユノの名前を呼んでみたが、返事はない。

 

喉の渇きを覚えて、工場端に置かれた白い冷蔵庫を開けた。

 

全身が重くだるい。

 

がらんとした庫内は、ミネラルウォーターのペットボトルが数本あるだけだった。

 

(ユノは、食事はどうしているんだろう?

毎食、町へ下りていっているのかな)

 

と、不思議に思った。

 

場内はしんと静まり返っていて、屋外の蝉の鳴き声から、午前9時はまわっているのだろう。

 

(寝坊したな。

...早く家に帰らないと、ばあちゃんが心配する)

 

ペットボトルの中身をあっという間に飲み干して口をぬぐうと、まずは服を着なければと、脱ぎ捨てた服の在りかを探す。

 

僕のTシャツとデニムパンツは、マットレスの隅に置かれていた。

 

丁寧にたたまれている様が、ユノのイメージに合わなくて、嫌な予感がした。

 

もう二度とユノは戻らないのでは、という気がした、なぜか。

 

「ユノ!」

 

僕の声だけが、高い天井に響く。

 

デニムパンツだけを身につけて、もつれる脚で重くてきしむシャッターを押し上げると外に飛び出した。

 

初夏の白い光線をまともに浴びて、目が眩む。

 

廃工場脇にまわってみると、ユノのX5がない。

 

もう一度建物の中へ引き返すと、そこにあったはずの白いスーツケースもない。

 

(ユノがいない!

出て行ってしまったのか!?

僕を置いて行ってしまったのか!?)

 

もうユノに会えないのではないかという考えに取りつかれてしまった。

 

鼻の奥がつんとしてきた。

 

山の遠くから猟犬の吠え声が響いている。

 

続けて、だーんと銃声が、山にこだました。

 

「!」

 

眩しくて顔を伏せた際、下腹に付いた血の跡が目に入って一瞬ギョッとしたが、思い出した。

 

(僕は腕を怪我していて...)

 

「...え...?」

 

今になって、僕は腕の傷が全く痛まないことに気付いた。

 

(嘘だろ!?)

 

血で汚れた肌を情事の際、昨夜のユノが舌を這わせていた腕。

 

血をにじませた裂傷が消えていた。

 

震える手で、傷口があったはずの箇所をなぞる。

 

皮膚は滑らかで、傷跡の凸凹すらなかった。

 

怪我なんてしていなかったのか?

 

だって、一晩で怪我が治るなんてあり得ない話だ。

 

軽い眩暈がして、冷汗が脇を濡らした。

 

負った怪我が完治して、ユノがいなくなった。

 

僕は廃工場に沿って何周も歩き回り、工場の中も隅々まで見て回った。

 

かつては事務所になっていたのだろう、プレハブのような小部屋に新品の収納ケースが積んであった。

 

引き出しを開けてみるまでもなく、中身は空っぽだった。

 

事務デスクの下に、新品の白いスニーカーがタグが付けられたまま転がっていて、少しだけホッとしたが、単なる置き忘れなのかもしれないと思うと、胸が苦しくなった。

 

裏手の谷川へ下りていった。

 

急な斜面を滑り落ちないよう、生える草を握り締めて、石のひとつひとつに慎重に足を下ろす。

 

ユノが「子供みたいに水遊びができるよ」と話していた谷川だ。

 

谷川はさらさらと涼し気な水音をたて、川沿いの樹木の枝葉が日光を遮っていた。

 

上流にあたるこの谷川を数キロ下流に下ると、両親の事故現場になった橋がかかっている。

 

透明で冷たい水をすくって、血で汚れた腕を洗った。

 

ついでに、汗でべとついた顔も洗った。

 

尿意を覚えたが廃工場にはトイレはないから、仕方なく草むらで用を足した。

 

(そうだ!)

 

下る時よりは容易く谷川からよじ登ると、工場へ取って返し、マットレスの脇に落ちた包帯を拾い上げた。

 

(無傷になった腕をばあちゃんに見せるわけにいかない)

 

片手で巻くのは困難で、少々乱れているけれど仕方がない。

 

ユノは、買い物に行っているだけかもしれない。

 

用事を済ませるために、ちょっとの間でかけているだけかもしれない。

 

そう前向きに思うことで不安感をなだめて、僕は小さな車に乗り込んだ。

 

ユノの不在が僕を不安に陥れていた。

 

ぎゅっと目をつむって、ハンドルに額をつけて気持ちを落ち着かせた。

 

ユノなんて、初めから存在しなかったのかもしれない。

 

武骨で埃っぽい無機質なこの空間に、白いマットレスと冷蔵庫だけがあって。

 

そもそも、僕みたいな冴えない男が、ユノみたいな美人とどうこうすること自体が夢みたいなことだったんだ!

 

助手席のシートに置いた小さな懐中電灯が、昨夜のことを思い出させた。

 

思い出すだけで下腹部を熱くさせる営みが、遠い過去のように思えた。

 

 


 

 

車庫に車を駐車させていると、野良着を着たばあちゃんが小走りで近寄ってきた。

 

「いつ帰ってくるかと心配してたんだ」

 

家の脇に小さな畑があって、ばあちゃんは自宅で食べられる分だけの野菜を育てている。

 

「飲みすぎてそのまま泊ってきたんだ。

ばあちゃん、車を使いたかったんだね。

遅くなってごめん」

 

無理やり笑顔を作って、ばあちゃんに鍵を渡した。

 

「頭が痛いから、寝直すよ」

 

「ご飯は炊けているし、鍋に汁もあるから」

 

食欲なんてなかったけど、「ありがとう」とばあちゃんに礼を言って、玄関の戸を開けた。

 

僕は一体、何をしに帰省してきたんだろう。

 

唯一の家族であるばあちゃんの存在が、目が入らない。

 

僕の頭の中はユノのことばかりだった。

 

ユノがどこへ行ったのか、皆目見当がつかない。

 

肉欲にとりつかれた最中は、ユノの思惑と素性を問うタイミングもチャンスも後回しにしてしまっていた。

 

ユノと繋がることだけを優先させていた。

 

ユノを思い出したら、股間に血流が集中するのが分かり、指先に触れたものは固かった。

 

この身体の反応が証明する通り、僕とユノを繋げているのは身体だけ?

 

ユノがいなくなって困るのは、ユノとヤれなくなるからか?

 

コンロに火をつけて温めた汁を、器によそって立ったまま食べた。

 

ユノに噛まれた舌が、塩味に沁みた。

 

だしのきいた滋味深い味がうまかった。

 

ひとつに繋がって、何の感情も湧かないのかよ。

 

好きと言ったらいけないのかよ。

 

欲しいものはユノの身体だけじゃないんだよ。

 

気付けば僕は泣いていた。

 

むせながら、ばあちゃんが作った汁をすすっていた。

 

会いたいんだ。

 

僕を置いていかないでよ。

 

次から次へとあふれ出る涙が、僕の頬を濡らしていった。

 

居ても立っても居られず、まっすぐ自室に向かった。

 

耳をすまして、ばあちゃんの乗る車が走り去る音を確認する。

 

そして僕は、デニムパンツと下着を脱いだ。

 

 

 

(つづく)

 

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(13)僕を食べてください(BL)

 

 

「チャンミン!

これじゃあ、動けないよ」

 

ユノの下から両手両足でしがみつく僕に、ユノは呆れた声を出す。

力持ちのユノだから、僕の腕など簡単に跳ね飛ばせるはずなのに、ユノはそのまま僕に抱きしめられたままでいてくれた。

ひと息ついた僕は、自由になった両手をユノの胸についた。

手の平の下で、ユノの心臓がドクドクと打っていた。

互いの腰がぶつかり、ズンと快感の衝撃が僕の脳を痺れさせる。

結合部がにちゃにちゃと厭らしい音をたてる。

力いっぱい突き上げられると、ぐりっと奥底に当たって、その度僕は息をのむ。

その反応が、ユノを悦ばせている...そうあって欲しい。

 

「ふっ」

 

腰のスライドの強弱。

小刻みに揺らしたり、一気に突き上げたり、緩急をつけたり。

 

「...んっ...はっ...はっ...はあ」

 

背筋を突き抜ける快感の波が、ユノの動きに応じて変化するから、夢中になる。

 

「チャンミン...」

 

ユノの息遣いが乱れてきた。

 

「どこでそんないやらしい動きを、覚えた?」

 

僕の中がひくひくと痙攣して、ユノのものを積極的に締め付けたり緩んだりするのが分かる。

 

(これは...ヤバイ)

 

ユノの上で僕はのけぞる。

僕に余裕がなくなってきた。

縛られた根元の圧迫感が苦しい。

むずむずが堰き止められていて、破裂しそうに苦しい。

イキたいのにイケない苦しさ。

頷いたとき、僕の額からぼたぼたっと汗がユノの胸に落ちた。

狂ったように腰を上下に揺すった。

前がどうなっているのか、確認しなくても分かる。

怒張したあそこは、縛ったものが食い込んではちきれそうになっているはずだ。

苦痛の先に待ち構えているあの感覚を得たかった。

 

「あっ...あっ...だめ...もう...っだめっ...!」

 

互いの肌を打ち当たる音が大きくなって、僕の喘ぎは悲鳴に近い。

 

「...苦しっ...やっ...やだぁ...ふっ...」

 

「がむしゃらに動けばいいってものじゃないんだよ」

 

「...だって...」

 

出したいのに出せない。

ユノの白くて小さな顔が僕を見上げている。

潤んだ瞳が揺らめいていて、唇も濡れていて、ぞっとするほど美しかった。

ユノは腕を伸ばすと、両手で僕の頬を包んだ。

ひやりとした手の平が、僕の熱を冷却する。

 

「一生懸命だね...。

可愛いよ、チャンミン」

 

早すぎる鼓動がますます速度を増して、胸が苦しい。

たまらずユノに口づけた。

貪るようなものじゃなく、優しいキスをした。

ユノにも喘いで欲しい。

僕らは両手を繋ぎ、固く指を絡め合った。

ただ腰を上下させるだけじゃなく、角度や強さや速度に注意を払って。

 

「...んっ、んっ...んふっ...ん...」

 

しかし、股間から弾ける快感の調節はどうしようもできず、うめき声は駄々洩れだったし、意識しないとついつい乱暴に腰を弾ませてしまうのだった。

その度に、きつく縛られた根元が悲鳴をあげる。

 

「やーっ...やっ...キツっ、キツいっ...取って、ここ取って」

 

絶頂を迎えたくて腰を振るのに、それが許されない。

 

「やだっ...取って...苦しっ...苦しっ...やだ...」

 

もどかしさから逃れたくて、腰を振るのを止められない。

上下に跳ねるしか能がない玩具になってしまった。

縛られた前が痛い。

 

「イキそ...やっ...痛...痛いっ...苦しいよ...」

 

ユノの放つ甘い、百合のような、はちみつのような香りに包まれて、僕の欲情が沸点を迎えた。

 

「...取って...やだっ...苦しっ...やだ...これ...取って、取って」

 

両手を握られて、緊縛を解きたいのにそれが出来ずにいた。

ユノの爪が僕の手の甲に食い込んでいる。

 

「やだっ...取って、取ってよぉ...やだ...イキたい...イキたい」

 

まぶたの裏がチカチカしてきた。

 

「可哀想に...」

 

瞬間、前がふっと緩んだ。

僕の根元を縛っていた包帯が解かれたのだ。

腰を持ち上げられたと思ったら、猛スピードで浅突きされた。

 

「あーーーっ、あっ、あーっ...やっ、イく、イっちゃうーー!」

 

手前の固い部分ばかり、高速でこすられて意識が吹っ飛ぶ寸前だった。

 

「あーーーーーーっ、あっ、あぁぁーーーっ...そこダメ、そこダメぇ...」

 

ぐらぐらになってしまった僕は、ユノの上に崩れ落ちた。

すかさず口づけられた。

僕の下敷きになっているこの人が愛おしくてたまらなくなった。

 

「だめっ...も、だめ...っあーーっ、あ、あああぁぁーーー」

 

ユノと唇を合わせたまま、僕は悲鳴をあげる。

これじゃあ狂ってしまう!

上も下も絡みついて、突いて突かれてぐちゃぐちゃになった末、口走っていた。

 

「...好きだ...!

ユノっ...好きっ...好き...ユノ...好き...!」

 

ユノの身体が一瞬強張った。

 

「す...好き...あぁぁぁっ...」

 

意識がどこか遠くへ飛んでいくような感覚に襲われた後、僕は絶頂を迎えた。

ユノのお腹の上に放った後も、腰が何度も勝手に跳ねた。

ユノの上に崩れ落ちて、はあはあと乱れに乱れた呼吸を整える。

 

「...んぐっ!」

 

突然、息が出来なくなって目を剥く。

 

「今...なんて言った?」

 

「く...くる...」

 

低く、固い声だった。

 

「ユノ...く、るし...」

 

ユノの頑丈な指が、僕の喉を締め上げた。

 

「チャンミン...何て言った?」

 

喉仏を圧迫する手を引きはがそうと、指をかけるが石のようにびくともしない。

 

「ユノ...!」

 

殺される...と、覚悟した。

視界が暗くなり、耳鳴りがしてきたところで、解放された。

喉をおさえて、ゲホゲホと咳き込んだ。

 

「僕を...殺す気か!」

 

涙を手の甲で拭いながら、ユノを睨みつけた。

 

「...何て言った」

 

マットレスの脇に全裸で立ったユノを、横向きで寝転がった全裸の僕は見上げる。

 

「好きだって...言ったんだ」

 

ユノは無表情で、しんとした眼差しで僕を見下ろしていた。

せき止められていた血流が頭に流れ込んで、僕の思考も回復してきた。

 

「悪いか!

好きだと言って、悪いのか!」

 

「そっか...」

 

ぽつりとつぶやいたユノは、哀しそうに微笑んだ。

ユノの表情の意味が僕にはわからなかった。

ユノの瞳の色を確認したくなって、懐中電灯に手を伸ばそうとしたが、セックスの振動でマットレスの反対側に落ちてしまっていた。

 

 

「傷が開いてしまったね」

 

急に優しくなったユノは、マットレスに腰を下ろし僕の腕をとった。

虚脱感著しい僕は無言だった。

絶頂の際、口走ってしまった言葉について考えていた。

僕は性的にいたぶられているけれど、貶められている気は全然しない。

密かに僕が望んでいたことを、心の襞の奥底に潜んでいた僕の本性を、ユノが引っ張り出したのだと思う。

いちいちものごとを難しく考えるのが僕の性だ。

お尻への刺激がもたらす恍惚感だけに惑わされていてはいけない。

僕が快楽の嬌声をあげるためには、ぴたりとユノの身体に接触していなければならない。

僕は初心な男だから、心と身体を切り離せるような器用な真似はできない。

ここまで、どろどろに身体を繋げておいて、心だけを他所に置いておくなんてことは、僕には出来ない。

身体の繋がりに引きずられて、心をユノに向けてしまっても仕方がないだろう?

僕の傷は熱を持って、ズキズキとうずいている。

 

「可哀そうに」

 

ユノは自身の指をくわえると、くっと噛みついた。

ユノの指が、濡れて光っていた。

 

「っつ!」

 

ズキリと傷口に痛みが走った。

ユノの指が僕の傷口をつーっとなぞった。

顔をゆがめている僕を、慈しむかのような優しい表情だった。

こんな表情をするユノを、初めて見た瞬間だった。

全身がだるくて、重くて、とにかく僕は眠かった。

 

「眠りなさい」

 

ユノの指が僕のまぶたに触れた。

眠りにつきながら、僕はこんなことを想像していた。

絡み合う僕らの姿を、窓の外から覗く自分の姿を。

廃工場の割れた窓から、中で営まれている行為を覗き見る。

たよりない懐中電灯の灯りが、僕らの裸の凹凸の影を作っているだろう。

それはそれは美しく、なまめかしい光景だろうと僕は思った。

 

(つづく)