(7)僕を食べてください(BL)

 

 

~埋められた指~

 

 

ユノはそそり立った僕のものを、ゆらゆらと揺らした。

ユノの指が僕の先端から離れると、糸が引く。

 

「挿れたいか?」と僕に問う。

 

「ああ」と僕は答える。

 

拒むわけない、僕が待ち望んでいることだから。

 

「挿れたいって...どこに挿れたいの?」

 

「...っ」

 

欲の炎でぎらついた目をしたユノに問われ、僕は言葉を失ってしまうのだ。

僕に厭らしいことをしてくるくらいだから、ユノは男同士の行為に馴れているものだと思っていた。

僕の方も何ら、抵抗はない。

だから僕は、ユノを太ももの上に座らせて「ここに」と言って、彼の尻の割れ目を指でなぞった。

 

「そっか...チャンミンは挿れたいんだ」

 

ユノはにたりと笑うと、僕の首に両腕を回した。

僕はユノの顎をつまんで唇を開かせると、舌を伸ばして彼の口内を探った。

口づけながら、ユノのボトムスのボタンを外し、ファスナーを下ろす。

緩んだウエストから片手を滑り込ませて、ユノのすべらかな腰の奥の奥を探った。

 

「慌てるなって」

 

今まさにユノの入口に指がかかったとき、僕の手首ははねのけられてしまった。

 

「俺たち...凄いことになってるよ?」

 

ユノの視線の先につられて真下を見下ろした時、目に飛び込んできた光景にくらくらしてしまう。

天を向くユノのものと僕のもの。

似たようなシチュエーションは初めてではない。

お互いが初めて同士で、直前で怖気づいてしまった僕のせいで、場が白けてしまったのだ。

同級生の尻を前に、僕のものは急速に萎れてしまった。

僕の膝にまたがるユノ。

前だけを寛げたところから、さらけ出されたユノ自身。

ユノはとても...興奮している...僕以上に。

ユノの尻にまわした僕の手は震えていた。

僕は...うまく出来るのだろうか。

 

「どうする、チャンミン?

俺たち...こんなだよ?」

 

ユノは自身のものを揺らして、僕のものをとんとん叩く。

 

「...っ」

 

「チャンミンは、挿れたいのか?」

 

「...うん」

 

「お前...俺の尻に突っ込みたいわけ?」

 

こくりと頷く僕に、ユノは唇の片端だけゆがめて、再びにたりと笑った。

妖しくて美しいダークブルーの瞳。

 

「その前に...俺のも満足させてくれよ?

しごけよ」

 

そう言って、握らされたユノのもの。

その太さと固さに、僕の喉はごくりと鳴る。

自慰の時のように、手を動かしたんだけど...。

 

「下手くそ。

そんなんじゃ、いつまでたってもイケないよ」

 

ユノの言葉に、僕はぎくりとして彼を見上げた。

 

「ごめん...」

 

ユノをがっかりさせてしまったと、僕の顔はしょげ返った。

ユノは僕の上から降り、僕の腰をつかんだかと思ったら、今度は僕の方が彼の両腿にまたがっていた。

 

「こうやるんだよ」

 

ユノは人差し指をしゃぶって、それにたっぷりと唾液をまとわせた。

この後の展開が読めず、唾液でぬめぬめとした人差し指から目が離せずにいた。

 

「あっ...!?」

 

腰にまわされた両手が、僕の両尻を左右に押し広げたんだから、驚いてしまう。

ユノが何をしようとしているのかが分かった。

 

「なにすっ...!」

 

「チャンミンにやり方を教えてやるんだよ」

 

「やっ...駄目だっ...そんなっ...!」

 

そして容赦なく、僕のそこでグネグネと指先をうごめかすのだ。

 

「駄目っ、汚い...っから!」

 

ぞわぞわとその一点から、悪寒のようなものが走る。

 

「何で僕が...ここをっ...!?」

 

くすぐったいのと、未知への恐怖と慣れない感触に、僕のものは急速に勢いを失っていく。

挿入するのは僕の方だと決めてかかっていたから、ユノに尻をいじられるなんて予想外の流れで、ついていけないのだ。

 

「気持ちよくさせてやるよ」

 

腕をつっぱっても、膝から降りようとしても、どんなに抵抗しても、僕の腰を抱えたユノの力は凄まじいのだ。

びくともしない、とはこういうのを言うのだろう。

僕はもう、観念して、虎ばさみにかかった動物のように、ユノに身を預けることにした。

尻をいじられるなんて、おかしな展開になってしまったけど、ユノは経験豊富に見えるし、彼に任せていればいい、きっと...きっと、いい思いをさせてくれる。

それにしても、尻を触られるなんて...初めてだ。

未だ経験がないのだとしても、挿れるのは僕のはずだったから。

途中何度か唾液を足しながら、入り口を緩めていくユノの指。

差し出されたユノの人差し指を...僕の穴に突っ込んでいた指...僕は何の躊躇もなく咥えた。

 

「いい子だ」と、ユノはふっと優しい微笑を見せると、僕の唇を塞ぐのだ...まるで穢れた僕の口内を清めるように。

尖らせたユノの舌を、僕は咥えて前後に頭をスライドさせる。

ユノの首筋からあの甘い香りが、ふわっと漂った。

僕はギュッと目をつむり、それを胸いっぱいに吸いこんで、頭の芯がしびれるのに任せた。

ぺちゃぺちゃと湿った音が、車内に満ちる。

時折、車が通り過ぎる。

 

「...チャンミンのここ...慣れてないね。

自分でいじったこと...ないの?」

 

僕は勢いよく、首を左右に振る。

緩みかけた穴に、ユノの指先がじりじりと埋められていく。

 

「...っ...ふ...ああっ...駄目」

 

尻から広がる感覚に変化が訪れるまでに、大した時間はかからなかった。

いつの間にか僕は、甘い悲鳴をあげているのだ。

ユノの指に合わせて、僕は全身をビクビクと震わせていた。

なんだ...この感覚は...!?

 

「...ひゃ...あ...あ、あ、あ、あ、あ...」

 

苦痛に近いんだけど、痛いわけじゃない。

ユノの冷たい指が、僕の中へ逆流していく。

 

「...んぐっ...ダメっ...奥...もうダメ」

 

「大して挿ってないぞ?

これくらい...ビビるなよ」

 

「違っ...怖くはっ...ない...!」

 

「これは?」

 

直後、目の奥が真っ白になって、僕の身体は激しく跳ねる。

 

「あああっ...ん!」

 

直に触れたらいけない場所を...例えば、喉の奥を、内臓を触られたような。

 

「...チャンミン。

素質があるなぁ。

ホントにここを使ったことないの?」

 

「...ないよっ...」

 

なんだ、この感じ...。

立っていた地面の蓋が開いて、足からすとんと穴に落ちる感じ。

そして僕は、温かくて甘い蜜の井戸にどぼんと沈むのだ。

 

この時には僕の全身から力が抜け、完全にユノにゆだねていた。

ユノは服を着たままだったけど、僕の熱い頬が彼の冷たい肌に冷やされて気持ちがよかった。

 

「ほら...2本目。

いやらしいなぁチャンミンのここは。

挿れられるためにあるようなものだ。

ゆるゆるだぞ...これは?」

 

「...っは...」

 

「いい反応だ。

これなら、もう少し慣れせば俺とセックスができるぞ?」

 

「え...?」

 

ユノの発言に驚いて、身を起こしてしまった。

 

『セックス』のワードに激しく反応してしまったのだ。

 

望んでいたことなのに、立場が逆になっていた。

昨夜の僕は、僕に貫かれるユノを妄想して抜いていたのに...。

 

「チャンミン。

俺のとこに、挿れたいか?」

 

僕の気持ちを見透かしているユノ。

 

「ううん」

 

「じゃあ...挿れられたいか?」

 

数秒、逡巡した後、僕はこくりと頷いた。

 

「よし、いい子だ」

 

ユノは僕の頬をつるりと撫ぜた。

 

「チャンミン、自分とこ見てみろ」

 

確かに...ゆるく勃ち上がった僕のもの。

 

「ちゃんと感じてて、いい子だ。

イカせてやるよ」

 

顎までつたった僕の唾液をユノは舌で舐めとると、僕の唇を隙間なく覆った。

間近に迫ったユノの紺碧色の瞳と目が合う。

 

「...んっ!」

 

ユノの左手は僕の尻に、右手は僕のものをしごいている。

同時に攻められて、僕の下半身丸ごとどこかへ行ってしまいそう。

首を振ってユノのキスから逃れた。

素早く、複雑にうごめくユノの手の中で、僕のものは硬度を増していく。

と同時に僕の穴の中でも、指の腹で腸壁のある個所がとんとんと刺激されている。

 

「駄目だよっ...

出ちゃうから」

 

レザーシートを汚してしまう。

出したらいけない、出したらいけない、出したらいけない、出したらいけない!

 

「駄目だって...ユノっ!

離して!」

 

「いい子だ」

 

「...あっ...あぁぁぁ!」

 

かすれた悲鳴と共に、僕は射精した。

2日の間に、よくもこう出せるものだと呆れるくらい、放出しきるまで何度も痙攣を繰り返した。

ユノの肩に頭をもたせかけ、僕は息も絶え絶えだった。

 

「チャンミン...お前もしかして...童貞だろ?」

 

ずばり聞かれて、一瞬の間をおいて、僕は頷いた。

 

「どうして、分かった?」

 

「チャンミンの身体は、素直過ぎるからね」

 

にやりと笑ったユノの唇の、そこだけが紅色で、美味しそうだと思った。

 

 

 

「チャンミンはいつまでここにいる?」

 

今になって、自分は帰省中の身で、4日後には寮に戻らなくてはならないことを思い出した。

ユノと会えるのはあと4日。

 

「4日もあるんだ。

ふふふ。

たくさん愛し合おう」

 

ユノは僕の額にキスをした。

僕はユノを深く抱きしめた。

 

 

(つづく)

(6)僕を食べてください(BL)

 

~足の指を~

 

 

最後の一滴まで絞り取られた僕は、ユノに「食べられた」のだろうか。

ユノに問いたいことは沢山ある。

 

「食べるって...どういう意味だ?」

 

サングラスをかけたユノは、じっと前方を向いたままだ。

僕がいつまでも見つめていると、

 

「アハハハハ」

 

と、喉をそらして笑った。

あまりにも大きな声で、僕はぎょっとする。

 

「そんなに可笑しいことか?」

 

「最初に言ったこと、気になってるわけだ?」

 

真っ黒なサングラスで、ユノがこちらに視線を向けているかどうかは分からない。

 

「そうだろうね」

 

ユノは僕の方に顔を向けた。

 

「まだ、食べていないよ」

 

「え...?

それってどういう...意味?」

 

「おいおい教えてあげるよ。

チャンミンを傷つけたりはしないから、安心しろ」

 

ユノは車を減速させた。

 

「ここでいいよな?」

 

ファミリーレストランへ車を乗り入れる。

巧みなハンドルさばきで狭い駐車場に車をおさめると、エンジンを切った。

ファミリーレストランの席につくと、ユノはサングラスを外す。

 

「俺は、チャンミンが気に入ったんだ」

 

そう言いながらも、ユノはまるで整い過ぎた陶人形のようで、揺らめきが一切ない平坦な目をしていた。

僕は、気づいてしまった。

ユノの瞳に浮かぶ色には、「静」と「欲」の2パターンしかないことに。

 

 


 

 

オーダーしたハンバーグ定食を平らげている間、ユノはシーザーサラダをフォークでつつきまわすだけで、その量は減っていかない。

 

「お腹が減っていたんだね」

 

ユノは食べる僕を微笑んで見つめているが、まぶたの下の瞳は揺らめきがなく、感情がない。

 

「美味しいか?」

 

「うん」

 

ユノの指は、ロールパンをちぎっては皿に落とし、ちぎっては落とすばかりで、皿の上はパンくずの山が築かれていた。

 

「いらないの?」

 

「うん、今はいらない」

 

そう答えると、ユノはサラダボウルを脇に押しやってしまった。

僕はそれを手元に引き寄せて、ユノがぐちゃぐちゃにしてしまったサラダの残骸を、食べだした。

 

「ユノは、どこから来たの?

旅行?

ここに引っ越してきたの?」

 

ユノは頬杖をついて食べ続ける僕を見つめるばかりだ。

 

「もったいぶらずに、教えてよ」

 

「そうだね。

謎の男じゃ、チャンミンも気持ちが悪いだろうから。

俺は下見に来たんだ」

 

「ここに?」

 

「ああ」

 

僕は安堵した。

旅の途中だったら、ユノは数日のうちにここを立ち去ってしまうだろうから。

 

「いいところだったら、ここに引っ越してくるってこと?」

 

「そんなところ」

 

「で、どう?」

 

「気に入ったよ。

条件をほぼ満たしているし」

 

ユノはテーブル越しに手を伸ばすと、僕の下唇を人差し指で拭った。

 

「こぼれてる」

 

ドレッシングのついた指を、僕の唇に押し入れた。

 

「!」

 

ユノの長い指が僕の舌に触れた瞬間、思わず彼の指に舌を絡めそうになった。

でも、公衆の面前だと気付いた僕は慌てて、レストラン内を見渡した。

昼食どきにはまだ早い、平日のファミリーレストラン内は、数組の客がいるだけだった。

周囲から、僕らは友人同士に見えるだろうか?

もっと観察眼の鋭い者だったら、単なる友人同士じゃなくて恋人同士なのでは?と疑ってくれたりして。

そうだったらいいな。

だってユノはとても綺麗だから。

 

 

 


 

 

昼間のうちにしなければならない用事を思い出した。

近隣市町村中の買い物事情を支える、生鮮食品も取り扱う巨大ドラッグストアへユノの車で向かった。

買い物カートを押して、缶ビール、野菜、調味料を次々と選んでいった。

そんな僕の後ろを、ユノは興味深そうにフルーツ牛乳のパックやカラフルなグミのパッケージを手にとっては、元に戻している。

 

「欲しいものがあったら、入れていいよ」

 

「色合いがきれいだなぁ、って思って」

 

「サングラスをかけたままで、色が分かるんだ?」

 

可笑しくて吹き出すと、ユノは不思議そうに僕を見た。

 

「チャンミン...やっと笑ったね」

 

そういえば、ユノとまともな会話を交わしたのは、これが初めてだった。

返答の言葉が見つからなくて無言のまま、僕は精肉コーナーへカートを向けた。

豚にしようか鶏にしようか迷う僕の手元を、ユノが覗き込んだ。

僕の二の腕にユノの温かい息がかかって、鳥肌がたった。

ユノの肌は冷たくひんやりとしているのに、唇の中はとても温かいんだ。

思い出した途端、じゅんと下腹部が痺れて、慌てていやらしい記憶を振り払う。

 

(僕ったら、こんなことばかり考えている!)

 

「豚か鶏か、ロースか手羽先か、迷ってるんだ」

 

ぴっちりラップで覆われた、ピンク色の生肉のトレーを両手に持って、ユノに見せる。

 

「そうだなぁ...どれも色が薄くて不味そうだ。

あれはどう?」

 

切り口から真っ赤な血がしたたる、ローストビーフをユノは指さした。

 

「美味しそうだけど、予算オーバーだ。

ユノの欲しい物はない?

レジに行くよ」

 

「欲しいものがある」

 

すたすた先を歩くユノを追いかける。

小さな後頭部が、広い肩幅を際立たせていた。

細身のボトムスの下で、太ももとふくらはぎの筋肉が歩みに合わせて盛り上がる。

いずれもが僕の胸を、甘く切なくときめかせた。

廃工場の出来事に結び付けてしまう。

どうかしてる。

薬局コーナーの陳列棚の中から、ユノは迷いなく見つけると、それを買い物カートに放り込んだ。

 

「!」

 

かごの中にが、キャベツと肉のトレー、めんつゆと一緒に、潤滑ゼリーのボトル。

 

「一度使ってみたかったんだ」

 

「......」

 

(使うって...僕相手にだろ?)

 

いやらしい妄想図が鮮明に浮かんだ。

眩暈がした。

店内の明るすぎる白い光に照らされたボトルが、カートの車輪の振動でカタカタと音をたてている。

 

「きゃー、チャンミン!」

 

前方から見知った顔が手を上げた。

狭い町だ、遭遇してもおかしくない。

進学せず地元で就職した同級生の一人だった。

 

「元気?」

 

「ああ、そっちは?」

 

「元気元気ぃ?

あれ...お友達?」

 

どう説明したらよいか分からずにいる僕をよそに、彼女はユノに向かって会釈した。

 

「えっと...」

 

ユノの方を振り向くと、彼女に向けてお愛想たっぷりの微笑を浮かべていた。

 

「かっこいい...。

ふぅ~ん」

 

ユノに見惚れる彼女の前に、僕は立ちはだかって、買い物カートの中身を見られないよう冷汗をかいていた。

ユノを紹介して欲しそうな同級生に、僕は気づかないフリを貫いた。

同級生と別れて僕は、ため息をついた。

 

(焦った...)

 

ユノの姿を探すと、水筒売り場でひとつひとつ手に取っては、真剣に物色中だった。

 

「ユノ!

欲しいのなら買ってあげるから。

早く帰ろう」

 

 


 

 

山道の道幅は狭く、2台の車はすれ違えない。

そのため、退避場が何か所も設けられていて、そのひとつにユノはX5をガードレールぎりぎりまで寄せると、エンジンを切った。

ユノがここに停車させた理由はわからないけれど、僕の身体はこれからのことを察知しているみたいだ。

だーんと、銃声が山に轟いた。

 

「猟銃の音か?」

 

ユノは運転席のドアを開けると、僕にも降りるよう目で合図した。

 

「この辺りは獣害がひどいんだ。

人を恐れないから、たちが悪い。

夜は一人で外を歩くのは危ない」

 

車から降りた僕は、後部座席に座るようユノに促された。

猟犬たちの吠え声も響く。

子供の頃、はぐれた猟犬の一匹が自宅の庭をうろついていて、外出ができなかったことがあった。

 

「猟犬はな、ペットじゃないからな。

絶対に外へ出るんじゃないよ」

 

ばあちゃんはそう言って、犬が迷いこんでいるとどこかに電話をかけていたっけ。

身体が大きくて、愛玩犬とは違う獰猛な目と、牙がむき出しのよだれだらけの大きな口に、怯えていた。

 

「銃殺した獣は、食用には卸せないらしいね」

 

広々としたX5の後部座席に深く腰をかけると、ユノも僕の隣に乗り込んだ。

 

「自宅で食べる分には構わないけど、お金がからむような場合は、罠猟のものじゃないといけないんだそうだね」

 

「へえ。

そういえば、うちの近くに処理場が出来たんだ、ジビエ料理用の」

 

「らしいね。

散歩してた時見かけた。

死んで1時間以内に血抜きをしないと、使い物にならないそうだね」

 

「じゃあ、処理場ってのは血抜きのための場所か」

 

僕と会話を続けながら、ユノは僕のスニーカーと靴下を脱がせにかかっていた。

 

「ユノ!

何するんだ...あっ...」

 

裸足の僕の親指を、ユノがしゃぶりだしたのだ。

 

「駄目だってっ!

汚い..って...はっ...!」

 

ユノの口内で僕の親指が、丹念に舐め上げられた。

温かくて柔らかいユノの舌が、指と指の間をたどる。

 

「ふっ...」

 

僕は甘くて切ないため息を漏らす。

足の指を舐められるのが、こんなに気持ちがいいなんて。

薬指と小指の間に舌が這わされたとき、身震いした。

足指の愛撫を終えたユノは、唾液で濡れた唇を手の甲で拭うと、

 

「もう勃ってる」

 

と、僕のデニムパンツの股間部分に手の平を乗せた。

ひと撫でだけで僕の腰がぴくりと震える。

僕のものの形がくっきりと浮かんだそこを、ちらりと見やったユノは、

 

「服を脱いで」

と、僕に命じた。

ユノに狂っている僕は、応じる。

贅沢で高級なシートに腰掛けた僕は、一糸まとわない姿になった。

ハザードランプを点けて停車したX5の脇を、時折車が通り過ぎる。

真っ黒なスモークが貼られた後部座席は、覗き込まない限り車内で何が行われているか見られることはないだろうけど。

昼間に、いつ誰かにのぞかれるかもしれない車内で、裸になって。

 

「チャンミン...興奮しているね」

 

僕ときたら、一体何をやってるんだ?

 

「誰かに見られるかもしれないよ」

 

僕はいつから羞恥プレイを好むようになったんだ?

 

「こんなに大きくしちゃって。

...いやらしいね、チャンミン」

 

ユノによって、3回イカされた僕。

そのいずれもユノは着衣のままで、彼の素肌を拝めなかったばかりか、生肌に触れることも許されていなかった。

僕はユノの胸に、腰に、脚に直接手を触れ、彼のくぼみや突起に指を滑らせたかった。

そうしようと思えばできたはずだけど、僕の力では到底抗えないユノの馬鹿力と、鋭利な眼光を前にすると、間抜けな“でくの坊”になってしまうのだった。

ユノから一方的に与えられる快楽に溺れている僕だけど、いい加減、彼と一体になって性の悦びを堪能したくなってきていた。

 

(つづく)

 

(5)僕を食べてください(BL)

 

 

~見られながら~

 

 

ユノに射すくめられた僕は拒めない。

おずおずと、熱く硬く脈打つものを握る。

僕の先走りとユノの唾液が合わさって、とろとろと滑りが良かった。

普段、自分でそうするように上下にしごく。

ユノは僕の脇ににじり寄ると、耳の穴に舌先を差し込んだ。

 

「あ...」

 

温かい舌の感触と柔らかく吹き付けられた息に、背筋まで震えが走った。

ユノは僕の耳たぶを甘噛みした。

一瞬噛まれるか、と覚悟したが、今日は違った。

ピストン運動の速度が増す。

ユノは僕の唇を塞いだ。

ぴったりと唇が合わさって、僕は息継ぎが出来ず次第に苦しくなってきた。

首を振って逃れようとしたが、ユノは許さない。

目もくらむほどの快感に支配されていた僕は、ユノの口の中へ喘ぎ声を注ぐ。

 

(苦しい。

でも、気持ちが良すぎて、狂いそうだ)

 

「うっ...」

 

(快感を生んでいるのは、自分自身の手だということ。

自慰の姿を、ユノの視線にさらされていること。

熱っぽくかすれた、自分自身の甘い喘ぎ声。

下半身だけをさらした羞恥の姿。

この状況が興奮を呼んで、たまらない)

 

ユノは僕のつんと勃った乳首を吸った。

 

「あぅっ」

 

「真っ赤になってる。

昨日はいじめ過ぎてゴメン」

 

腫れた左乳首の先を、愛おしそうに舌全体で舐め上げた。

先端が膨らみ固くなってきた。

射精の時は近い。

僕はたまらずユノの手を取ると、自分のものを握らせた。

ユノの手を覆って、一緒にしごく。

 

「チャンミン...いやらしい子」

 

耳元で囁かれて、ユノの後頭部を勢いよく引き寄せて、唇を奪う。

呼吸もままならなく苦しくなると分かっているのに、自分をもっと極限まで追い込みたい欲求に突き動かされていた。

僕の目はうつろで、どこにも視点を結んでいない。

 

「イクな」

 

「無理っ」

 

歯をくいしばる。

 

「あっ...」

 

快楽から気を反らせようとしたが、限界だ。

 

「い...くっ...」

 

握ったユノの指の間から、僕の精液が勢いよく飛び出る。

 

「っく...っ!」

 

何度か下腹を痙攣させる。

ユノの上腕に、白濁した粘りが跳ね跳んだ。

僕はまた、ユノの手で達してしまったのだった。

下半身だけ露わにして、大股を広げて、胸を大きく上下させて呼吸が荒い。

ユノは僕のまぶたにキスをし、汗で張り付いた僕の髪をかき上げると額にキスをした。

僕はユノの胸にもたれ、彼に髪を撫でられるままでいた。

虚脱感いちじるしいのに、僕の心は幸福感に包まれていた。

 

(美しいこの人にすべてを見られ、

欲望を吐き出し、

受け止められ、

僕は、幸せだ)

 

息が整いつつある僕は、ユノの腕の中で問う。

 

「ユノ...君は、誰だ?」

 

順序が逆になっていた。

ユノにすべてを見せる前に知るべきだったこと。

ユノは、腕の中の僕を覗き込む。

 

「知る必要がある?」

 

その目は墨色で、平坦で固い声だった。

 

 

 

「腹減っただろ?」

 

ユノは裸足のまま、隅に置かれた真新しい冷蔵庫を開けると、戻ってきた。

マットレスの上でぐったりとしている僕に、よく冷えたミネラル・ウォーターを投げて寄こした。

乾ききった喉に、冷たい水を流し込む。

 

「飯を食いたいだろ?」

 

ふわりとほほ笑んだユノが、胸に染み入るように綺麗だった。

洋服を身につけて、建物の外へ出る。

初夏の太陽がまぶしくて、目がチカチカした。

艶めくボディの車が僕の前に横付けされた。

目にも鮮やかな赤のX5だった。

高級車の登場に驚きを隠せない僕に、ユノはあごをしゃくって乗るよう合図する。

ドアを閉めると高級車らしい重低音が響き、僕はブラック・レザーシートに身を沈めた。

 

「汗をかいてる。

暑いだろ?」

 

ユノはセンター・コンソールを操作して、設定温度を18℃まで下げた。

僕の隣でハンドルを握るのは、名前しか知らない人。

そんな彼に、僕は全身をさらして身を任せたんだ。

エアコンの涼しい風で、徐々に汗は引いていった。

サイドウィンドウを流れ過ぎる景色を見るともなく、気だるい頭で眺めていた。

全身が重だるかった。

わずか2時間の間、2回も達した僕だった。

30分前の自分を反芻していた。

 

 


 

 

 

ユノの手でイカかされた僕は、さらに命じられた。

 

「チャンミン、服を脱いで」

 

僕は両腕をあげて、Tシャツを脱いだ。

これでようやく僕は全裸になった。

 

「綺麗だ。

チャンミン...綺麗...」

 

僕の鼻梁を指でたどると、後ろ髪に手を差し込んだ。

間近でユノと僕の目が、ぶつかる。

ユノの群青色の瞳と澄んだ白目が、くっきりとしたコントラストを作っている。

僕は馬鹿みたいに口を半開きにさせているだろう。

ユノは僕の胸に頬を寄せ、僕の筋肉がつくるくぼみをひとつひとつなぞった。

僕の顔を身体を、舐めるように目で楽しみ、撫ぜて愛でていた。

僕はユノのいとおしむような愛撫を受けて、深い愛情を注がれていると錯覚していた。

 

(ユノと心の通い合いはまだ、ない。

でも僕はこんな状況を、受け入れている!)

 

達したばかりなのに、僕のものは再び膨らみ始めた。

 

「まだ欲しいのか?」

 

僕は頷いた。

 

(彼がどんな人なのか、知るのは後だ。

今はただ、彼のいやらしい愛撫を受けたい)

 

ユノに手を引っぱり起こされ、僕はマットレスの脇に裸足で立った。

ユノは床に膝をつく。

ボトムスの裾から、白いくるぶしがのぞいていた。

下腹部に付くほど直立したものの根元をやさしく握って、先端に吸い付いた。

 

「あ...!」

 

腰が震えた。

僕の腰骨が、ユノの手で支えられる。

ユノの大きく開けた口の中へ、僕のものが吸い込まれていった。

 

「ひっ...!」

 

短い悲鳴が上がる。

 

「チャンミン...お前もしかして、フェラチオは初めてなのか?」

 

その通りだった。

ユノにされることすべてが、僕にとって初めてだ。

つい最近、付き合っていた子と別れたばかりだった。

憂鬱で投げやりな気持ちで帰省したのも、このせいだった。

大人しく奥手だった僕は、その子をうまくリードすることができず、挿入にいたらなかった。

その子をひどく失望させてしまった僕は、あっさりふられてしまった。

そんな僕の太ももの間で、ユノの頭が揺れている。

信じられない。

夢みたいだ。

僕の反応を楽しむかのように、時おり卑猥な音をたてた。

ユノに頬張られて、丹念に舐められ吸われ、僕は再び快楽の沼へ背中から沈んでいった。

 

(こんな小さな口の中に、こんなに大きくなったものを突っ込まれて)

 

ユノの口内を犯しているような光景に興奮した。

 

「はっ...うっ」

 

たまらずユノの頭をつかんで、股間に押さえつける。

もっと奥へもっと奥へと、ユノの喉を貫きたい。

ユノはいったん、僕のものから口から出すと、今度は、チロチロと亀頭を舐め始めた。

そうかと思うと、尖らせた舌先で裏筋をやわらかく刺激する。

 

(そこは...弱い...!)

 

僕の全神経が、股間に集中していた。

尿道口からあふれ出る、僕のいやらしい粘液を舌ですくい取った。

じゅっと亀頭を浅く咥えて、強く吸う。

たまらない。

ユノの唇から顎へと、糸をひいたものが垂れていた。

僕のものを握ったまま見上げるのは、妖しい光たたえる美しい瞳。

たまらない。

あんなに激しく僕をしゃぶり続けていたのに、青白い肌色はそのままで、目尻の縁だけ赤くて。

もっともっと、欲しい。

もっと、僕を舐めてください。

強過ぎる快感を堪能しようと、僕は目をつむって天井を仰ぐ。

ユノの小さな頭を、撫でる。

柔らかい髪を指ですく。

こんなにも美味しそうに僕を味わうユノが、愛おしくなってきた。

 

「チャンミン。

気持ちいいか?」

 

「うん。

...すごく」

 

僕の答えに満足したのか、ユノは根本を強めに握り直すと、ピストン運動を始めた。

 

「あ、あぁ...」

 

同時に、亀頭だけが咥えられ、その中で舌がグネグネと踊った。

 

「あっ」

 

ちゅるりと吸われると、僕の喘ぎ声も大きくなる。

喉の奥まで咥えこまれ、強めにスライドされて、強烈な快感が全身を貫いた。

ユノの柔らかな髪を両手でかき乱す。

僕の両脚の間で、上下に動くユノの頭を、愛おしく撫でる。

腰が自然と前後に動き出した。

ユノの頭をつかんで前後に揺らしていた。

 

「あっ...あっ...」

 

ユノを窒息させてしまいはしないか心配になって、途中で突く動きを緩めるが、強烈な快感に支配された僕は、ユノの口を貫こうと、再び腰を揺らしてしまうのだった。

 

「イきそうか?」

 

僕のものを唇を離すと、しごく片手はそのままにユノは低い声で言った。

 

「う、うん」

 

「我慢しろ」

 

僕は激しく首を振る。

 

「いい子だから」

 

「む、むりっ」

 

このままじゃ、ユノの口の中でイってしまう。

 

「イっちゃう」

 

ユノの口の中に放出したい欲求と、それはいけないという、相反した考えで葛藤した。

もう、限界だ。

ユノの口から抜こうとしたが、彼に尻をつかまれる。

僕の尻に、ユノの爪がくいこむ。

その痛みすら快感だった。

僕の理性はふっとんだ。

ユノの頭を股間に押さえつけて、がくがくと小刻みに腰を揺らす。

ジュボジュボと、淫らな音がしんと静かな工場内に響く。

全裸の僕と、膝まずいて股間に顔を埋める着衣の彼。

半分は屋外のような場所で、衣服をまとわず腰を揺らす僕。

なんて光景だ。

目もくらむ快感の大波にさらわれた。

 

「いっ...くっ...!」

 

ユノの喉の奥に、僕の欲望が放出された。

二度、三度と絶頂の震えに襲われた。

 

「は...あぁぁ...」

 

精液を吐ききるまで、ユノは咥えたまま放さなかった。

こうして僕はユノの口の中で、達してしまったのだった。

マットレスに倒れこむ。

まるで全速力の末、ゴールで倒れこんだ陸上選手のようだった。

 

「チャンミンは、いやらしいなぁ。

さっき出したばかりなのに、

こんなに沢山」

 

濡れたユノの唇から、つーっと精液が滴り落ちていた。

 

「ごめん!

中に出しちゃって、ごめん」

 

ユノの唇を覆った。

青臭くえぐみのある味と匂いにまみれても構わず、やみくもにユノの唇を吸った。

 

「ごめん」

 

自分が出した白濁で、互いの口元が汚れてしまっても、全然構わなかった。

僕もユノも一緒に、汚れてしまえばいい。

ユノを汚してしまった罪の意識と、彼を征服した満足感がない交ぜになって、何が何だかわからなくなっていた。

 

「チャンミンは、可愛いね」

 

こう言って、ユノは僕の頭を撫ぜたのだった。

 

(つづく)

 

(4)僕を食べてください(BL)

 

~触って欲しい~

 

 

 

「急だったから、何もご馳走を用意してやれなくてごめんな」

 

「ばあちゃんが作ったカレーは好物だよ」

 

ばあちゃんの作ったカレーは、大きめに切った野菜がごろごろ入っていて、肉の代わりにツナ缶を入れた素朴な味だ。

 

大食いの僕のために、大きな鍋いっぱいにカレーを作ってくれた。

 

「明日、ビールでも買ってこようかね?」

 

「いいよ、わざわざ」

 

ばあちゃんも年をとった。

 

前回帰省した時から3か月も経っていないのに、小さく縮んだように見える。

 

「明日、僕が買いに行ってくるよ」

 

ばあちゃんが買い物に使う軽自動車のことだ。

 

この辺りは、車がないと生活が出来ない。

 

「ありがとね」

 

「あと5日間はいるからさ、僕にできることはやるよ。

何か力作業はある?」

 

「そうだねぇ、

車庫の中を片付けているんだよ。

雨漏りがするんだ、屋根が。

車庫ん中に置いてたものが濡れるから、家ん中に移してる途中なんだよ」

 

「わかった。

僕に任せてよ」

 

「そうだ。

Sさんから猪肉をもらったんだよ。

冷凍庫にあるから、明日の夜、鍋にしようか?」

 

「猪肉?

この季節に、鍋?」

 

「猟師の有志で、処理場を建てたんだとさ。

最近は、ジビなんとかが流行りだそうだよ」

 

「ジビエ?」

 

「そうそう、ジビエ料理。

観光客を呼ぼうと、町も必死なんだよ」

 

「そうなんだ」

 

ばあちゃんと会話を交わしながら、僕の頭の中はセックスのことでいっぱいだった。

 

僕くらいの年の男なんて、こんなものなんだろうけど、今夜は度が過ぎている。

 

やばい。

 

スウェットパンツを、僕のものがくっきりと押し上げてきた。

 

ばあちゃんに気付かれないよう、背を向けて席を立ち食器を片付けると、まっすぐ自室へ向かった。

 

自慰では、足りない。

 

全然足りなかった。

 

 

 


 

 

翌朝、朝食を終えると、そそくさと僕はあの廃工場へ向かっていた。

 

雨の山道で突き倒された時の僕はまさしく獲物で、廃工場で指だけでイかされた僕もやっぱりユノの獲物だった。

 

恐怖におののくどころか、滅茶苦茶にされたいと望んでいた。

 

僕は喜んでユノに身体を差し出すよ。

 

貪られたかった。

 

快楽に狂いかけていた。

 

僕は車を停めると、廃工場に向かって大股に歩く。

 

自宅から車で5分、徒歩だと15分もかからなかった。

 

繁殖力旺盛なつる草が、割れた窓ガラスから工場内に侵入している。

 

1メートルほど開いたシャッターの下を、僕は膝をついてくぐって入った。

 

(自分はどうかしてる。

もの欲し気に、訪れたりして)

 

「ユノ!」

 

(でも、自分を抑えられないんだ)

 

僕の声だけが、広い空間に響く。

 

床はコンクリート敷で、鉄骨に吹き付けた際に漏れた塗料が赤く染めている。

 

「ユノ!」

 

もう一度大声で叫ぶと、

「こっちだよ!」

声がした工場の裏手に回る。

 

「おはよう」

 

サングラスをかけたユノが、僕に向かって手を上げた。

 

この日のユノは、朱色の半袖Tシャツと濃灰色のパンツといった装いだった。

 

細身のそれは、ユノのスタイルのよさを際立たせていた。

 

ユノは全身のバランスが、素晴らしくよかった。

 

血の気のない肌がTシャツの色のおかげで、心なしか血色があるように見えた。

 

洗濯ロープに、真っ白なシーツがはためいていた。

 

「昨日、チャンミンが汚しちゃっただろ?」

 

「ごめん」

 

恥ずかしくなって僕はうつむいた。

 

工場の裏手は谷になっていて、下には谷川が涼し気な水音をたてている。

 

風に飛ばされないよう、シーツを洗濯ピンチでとめ終えたユノが、僕のそばにゆっくりとした足取りで近づく。

 

「俺に会いたかったの?」

 

ユノは僕の真ん前に立つ。

 

サングラスが瞳の色と目の下の隈を隠していた。

 

僕は頷いた。

 

ユノを前にすると、僕はとたんに無口になってしまう。

 

事実、昨日も喘ぐ声しか漏らしていなかった。

 

僕の喉がごくりと鳴る。

 

これから何が始まるのか期待が膨らんだ。

 

それも、エロティックな期待に。

 

ユノは僕の全身を上から下へと眺めまわすと、腕をすっと持ち上げた。

 

僕の視線は、ユノの指先に釘付けになる。

 

ユノの指先が、僕の手の甲から二の腕に向かって撫で上げる。

 

腕の産毛だけをかするような、羽のようなタッチで、それだけでぞわっと鳥肌がたち、ため息が出てしまった。

 

僕の胸が大きく上下した。

 

「ここじゃなんだから、中に入ろうか?」

 

ユノは僕の腕から手を離すと、親指を立てて工場裏手のドアの方を指した。

 

「......」

 

 

 

 

明るい外から室内に入ったため視界は暗く、僕は戸口に立って目が慣れるのを待つ。

 

ユノは歩調をゆるめることなく、あちこちに放置された鉄骨の間をすり向けて行った。

 

サングラスを外したユノは、遅れて来た僕に対面した。

 

(やっぱり...)

 

気が動転し、欲情に支配されていた昨日は、後回しにしていた疑問。

 

(ユノとどこかで会ったことがある)

 

ユノに襲われた時、僕の胸をかすめた考えが確信に変わる。

 

(どこで会ったんだろう...?

そんなことより、今は...)

 

これから何が始まるかは、分かりきっている。

 

僕の胸に、欲の炎がともる。

 

ユノの片頬に手を添えて、唇を重ねた。

 

今日は拒まれなかったことに安心しながら、ユノの唇の柔らかさを楽しんだ。

 

触れた時はひやりとしていたユノの唇は、何度も顔の向きを変えて重ねているうちに、温かくなってきた。

 

半分閉じられたユノの長いまつ毛や、短い前髪の下の形のいい眉毛が間近に迫っている。

 

(美しい人だ)

 

うっすら開けたユノの唇の隙間から、僕は舌を侵入させた。

 

ユノの舌を追いかけながら、これも拒まれなかったことに安堵していた。

 

口腔を舌先でくすぐられるたび、僕の下腹に熱い疼きが走る。

 

ねっとりと舌をからめ合い、味わい尽くす。

 

ユノとのキスは甘い味がした。

 

ユノは僕の首に、腕をまわす。

 

興奮で火照った首筋に、ユノの冷たい腕が心地よかった。

 

ふっとあの甘い香りが漂ってきた。

 

その香りを胸いっぱいに吸い込んだ僕の頭に、陶酔の壺に後ろ向きでダイブする映像が浮かんだ。

 

いつしかキスは激しくなり、僕の全身はますます熱く火照ってきた。

 

ユノは僕の耳元に唇をよせ、ささやいた。

 

「こんなに勃たせちゃって」

 

「あ...」

 

僕の股間は、デニムパンツの中で圧迫されてはちきれそうだった。

 

痛いくらい窮屈だった。

 

僕らはキスを再開する。

 

(たまらない)

 

僕らはもつれるように、隅に敷かれた真っ白なマットレスに倒れこんだ。

 

マットレスの上を壁際まで下がった僕に、ユノがのしかかる。

 

ねっとりとしたキスと同時進行に、Tシャツの上からユノの背に腕を回した。

 

これも拒まれなかった。

 

その手をユノの尻まで落とし、引き締まった弾力を楽しんだ。

 

ところが、例の場所に手を這わそうとした時、手首をつかまれ耳の高さに押さえつけられた。

 

僕の力では抗えない、鋼鉄のような力。

 

もう片方の手も、同じように押さえつけられた。

 

ユノは手首から手を離すと、僕のベルトを外しパンツのファスナーを下げた。

 

ユノの拘束から解かれても、僕の両手は万歳のポーズのままだ。

 

パンツの裾を持って、一気に引き下ろした。

 

そしてユノは、下着の上から僕の膨張した部分に手を当てた。

 

腰がかすかにぴくりとする。

 

「今日もこんなに濡らしちゃって」

 

下着の一点が、ジュクジュクに濡れているのが分かる。

 

ユノは満足そうに口角を上げると、僕の最後の場所を覆っていた下着を、一気に引き下ろした。

 

のどがごくごくと鳴る。

 

僕は上はTシャツを着たまま、下半身はむき出しの裸にされた。

 

こんな恥ずかしい恰好も、僕の興奮を煽った。

 

そして、これからはじまるであろうことを思うと、それだけで猛々しくなってしまう。

 

「脚を広げて」

 

「え?」

 

壁にもたれた状態の僕の両膝を、ユノは軽く押す。

 

素直に従い、僕の両腿は大きく開かれた。

 

欲の色が浮かんだユノの瞳は群青色に輝いて、そこから目がそらせなかった。

 

行き止まりまで追いつめられ、あとは襲われるのを覚悟して待つ被捕食者のように。

 

「どこを触ってほしい?」

 

「え...?」

 

「触って欲しいところを教えて」

 

(そんなこと...恥ずかしくて言えないよ)

 

僕は目を反らす。

 

開いた僕の両腿の前に、ユノは腰を下ろした。

 

陶器のようななめらかな白い頬をゆがませて微笑する。

 

「言えないのか?」

 

ユノは僕の睾丸を手の平にのせると、やさしくもみほぐし始めた。

 

「は...あぁ...」

 

深い吐息を漏らす。

 

やわやわと壊れやすいものを扱うように、その動きは優しい。

 

ユノの手が、僕の陰毛を逆立てるように指ですく。

 

ユノは身を伏せると、僕のふくらはぎに唇をつけた。

 

そして、膝裏からつつーっと舌を這わせ、脚の付け根に到達すると、内ももに戻る。

 

その道筋から、さざ波のような震えが広がった。

 

膝裏から内ももをたどり、脚の付け根まで舌を這わせると、またふくらはぎに戻ってしまった。

 

脚の付け根まで到達すると、膝裏まで戻ってしまう。

 

「もっと...」

 

焦らすような動きに、耐えられなくなった僕は口走ってしまった。

 

「もっと...上」

 

「ここ?」

 

「そう、そこを」

 

ユノはそそり立った僕のものに人差し指を当てると、揺らした。

 

指を離した弾みで、バネのように下腹を叩く。

 

「触って」

 

「ふふふ」

 

「あっ...駄目っ」

 

シャワーを浴びていないことに気付いて、自分の股間に顔を近づけたユノを押しとどめた。

 

「汚いから...」

 

「可愛いね」

 

くすっと笑うとユノは僕の先端に、チュッと音をたてて軽いキスをした。

 

「うっ」

 

快感がはじける。

 

昨日から僕が求めていた行為が始まった。

 

ユノはゆっくりと、根本から上に向かってゆっくり舌を動かしていった。

 

「は...あっ...」

 

全身が粟立つ。

 

次は僕の硬さを楽しむようについばむように、唇を動かした。

 

ユノはまだ、咥えない。

 

僕のものの先からは、とめどなく先走りが流れ出る。

 

根元から這ったユノの舌が、先端に戻った。

 

「うっ...」

 

尿道口をちろちろと、舌先で遊ぶ。

 

「あっ...はぁ...」

 

僕の淫らな声が、しんとした工場内に響く。

 

ユノの舌先が離れた瞬間、唇から糸がひいて、僕の興奮は増していった。

 

「可愛い...チャンミン、可愛いよ」

 

先走りとユノの唾液で、僕のものはてらてらと光っている。

 

「いやらしい...濡れ過ぎだ」

 

その言葉に煽られて、全身の血流が沸騰しそうだった。

 

(たまらない。

僕は...はしたない男だ)

 

ふとユノは顔を上げると、身を起こした。

 

首をそらして喉をみせていた僕は、顔を戻す。

 

途中で止められて、お預けをくった僕は、恨めしそうな表情をしているに違いない。

 

「ここからは、自分でやれ」

 

「え...?」

 

「続きはチャンミンがやるんだ」

 

ユノは僕の手をとって、握るよう促した。

 

「俺に見せて」

 

(なんて恥ずかしいことを...)

 

ユノは僕に命じた。

 

「オナニーしているところを、俺に見せろ」

 

 

 

(つづく)

 

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(3)僕を食べてください(BL)

 

~甘い余韻~

 

 

快感の余韻と虚脱感で力が入らない僕の腰を、彼は引き上げた。

 

再び僕は四つん這いにされた。

 

肩を落として、荒い息を繰り返す僕をそのままに、彼は僕の割れ目に指をあてると、すーっと前から後ろへ撫でる。

 

「あっ」

 

指先で、敏感な箇所をつついた。

 

経験したことのない痺れが下腹部を襲う。

 

「開発のしがいがあるな」

 

そう言って彼はくすくす笑った。

 

 

 

 

くったりとマットレスの上で、クの字になって横になっていた。

 

さんざんいたぶられた胸の先端が、熱を帯びていた。

 

全裸の僕と、着衣の彼。

 

僕の脇に座った彼は、僕の髪を何度もかきあげていた。

 

彼の指の間に、髪がすかれる感じが気持ちがいい。

 

膝まで下げられたショーツを、引き上げてくれる。

 

さっき僕が濡らした箇所が、冷やりと張り付いた。

 

「風邪ひくぞ」

 

マットレスの足元で丸まっていた僕のTシャツを背中にかけてくれた。

 

「自己紹介が遅れたな。

俺はユノ」

 

僕の前に片手が差し出され、その手を握った。

 

「よろしく」

 

群青色に澄み、凪いだ湖のように穏やかなユノの瞳に、僕は魅入られていた。

 

 

 


 

 

 

手のひらで湯面をなでる音だけが、狭い浴室に響く。

 

半日前の出来事は、夢みたいだったけれど、熱いお湯にしみる胸の先端が、あれは現実だったと教えてくれる。

 

透明なお湯の中で、赤く色づいたそこは自分のものなのに色っぽい。

 

腫れあがってひりひりする痛みすら、甘い余韻だ。

 

「あ」

 

疼きを覚えて股間に目をやると、ゆらめくお湯の中で僕のものが、軽く勃ちあがっていた。

 

あの時の余韻を思い出しただけで、これだもの。

 

強烈過ぎた。

 

我慢できずに、ゆるゆるとしごきはじめた。

 

ユノの手の感触を思い出そうとする。

 

僕のものを握った、ひんやりとした白い指を思い出す。

 

ユノは僕の背後から手を伸ばしていたから、姿は見えなかった。

 

巧みに指をうごめかせて、僕のものを前後させていたあの手を思い出す。

 

「はぁ...」

 

刺激が足りなくて、湯船から上がる。

 

大きく張り詰めたものを、ボディソープを広げた手の平で上下する。

 

滑りがよくなって、快感が増した。

 

「あ...」

 

あの時の刺激を再現しようとした。

 

目をつむって、思い出す。

 

身をよじって、はしたない声を漏らしていた僕を。

 

ユノの爪先が胸の突先にひっかけられて、きゅんと走った疼きを。

 

叩かれた尻の熱さを。

 

「可愛いよ」

「チャンミン、いやらしい子だ」

 

耳元でささやかれた言葉。

 

ゾクゾクした。

 

往復するごとに、大きく硬く育ってきた。

 

「は...あ...」

 

シャツに覆われていた身体を想像する。

 

ボトムスを脱がせてあらわになった、彼の裸を想像した。

 

僕を組み敷く逞しい胸、つんと尖って固くなったその先端を僕は口に含む。

 

僕を舌なめずりするかのように見ていた目が、快楽に酔ってとろんとしたものに変化して。

 

突き出したユノのあそこに、僕のものが深く埋められていく...。

 

「んっ...」

 

往復する僕の手の加速が増した。

 

「んっ!」

 

目をつむって天井を仰ぐ。

 

無音の浴室では、僕がたてる、くちゅくちゅいう音だけが響いている。

 

「んっ!」

 

絶頂の末、吐き出した。

 

「はぁはぁ」

 

肩を揺らして息を整えた後、シャワーで泡やら白濁した粘液やら洗い流していると...。

 

突然、脱衣所から声をかけられた。

 

「チャンミン、着替えを置いとくよ」

 

一気に現実に引き戻された。

 

「あ、ありがとう」

 

「はあ」

 

前髪から汗混じりの水が、ぽたぽた落ちていた。

 

駄目だ。

 

まだまだ、足りない。

 

全然、足りない。

 

 

 

 

突然帰省してきた僕に、ばあちゃんは目を丸くして、その後くしゃくしゃにした笑顔で僕を家に招き入れてくれた。

 

ばあちゃんの家は、すぐ側まで木々が迫る山すそにある。

 

褪せたトタン屋根と、ペンキの剥げた羽目板の壁の古い建物だ。

 

ばあちゃんの家でもあるし、僕の家でもあるこの古い家が、子供の頃恥ずかしかった。

 

僕は18歳でこの家を出るまで、ばあちゃんと2人暮らしだった。

 

僕が小学生だった時、両親を交通事故で亡くして以来、ばあちゃんが僕を育ててくれた。

 

ばあちゃんが唯一の家族なんだ。

 

「チャンミン、口をどうした?」

 

「あ...」

 

僕の唇を指さすばあちゃんの心配そうな表情を見て、ちょっとした罪悪感に襲われた。

 

「ぶつけたんだ。

大丈夫だよ」

 

まさか、見ず知らずの男の人に噛まれたなんて言えないよ。

 

ユノに噛まれた唇は、出血は止まっているけれど、喋るたびピリッと痛みが走る。

 

 

 

 

「ごめんな」

 

そう言って帰り際、ユノが唇に軟膏を塗ってくれたんだっけ。

 

僕の唇に触れるユノの薬指が色っぽくて、ごくりと喉を鳴らしてしまった。

 

湿ったままの洋服を身に着ける間、ユノはマットレスに腰かけ、じーっと僕を観察していた。

 

テーブル代わりのケーブルドラムの上に置いた、紙カップのストローを時おりくわえていた。

 

ごくごくと動く白い喉に目を離せなくて、僕の方もちらちらとユノを観察していた。

 

いくつ位だろうか。

 

僕と同じくらいか、ちょっと上か。

 

身体が泳ぐくらいだぼっとしたシャツを着ているけれど、のしかかれた僕の背中はユノ胸板の筋肉の弾力を感じとっていた。

 

僕に触れさせなかった身体。

 

恐らく、とても逞しい身体をしているのだろう。

 

僕と視線がぶつかると、ユノはあでやかな笑顔を見せた。

 

「そんなに見つめられると溶けちゃうよ」

 

つい30分前まで、このマットレスの上で行われていたことが、夢みたいだった。

 

それくらい、ユノの表情は穏やかだった。

 

あの時の獰猛なぎらついた目が信じられない。

 

今の瞳の色は、青みがかった墨色。

 

最中の時、もっと明るい青色だったような...気のせいだったか?

 

ユノを見て、異常なまでの性欲に襲われて押し倒そうとした。

 

僕ひとりが裸で、大の字になったり、四つん這いになったり。

 

僕ひとりが、嬌声をあげて、ユノに導かれるまま射精した。

 

あられもない姿を晒した。

 

そして、めちゃくちゃ興奮した。

 

とにかく気持ちよかった。

 

「気をつけて帰るんだぞ」

 

シャッター前まで見送りに出たユノは優しくそう言って、何度もふり返る僕に手を振ってくれた。

 

雨は上がっていた。

 

時刻はまだ夕方前だったから、廃工場にいたのはわずか3時間ほど。

 

ばあちゃんの家への続く、下草はびこる小道を湿ったスニーカーで歩きながら、思いを巡らす。

 

廃工場の外に出て、そこが近所の見知った建物であったことを知った。

 

何年も前に廃業した鉄工所で、山道から繋がる砂利道が生い茂る雑草で覆われている。

 

ユノはここに住んでいるのか?

 

まさか。

 

電気も通っていないはず。

 

野宿するよりも、雨露しのげるここを一晩の宿代わりに?

 

わざわざここに?

 

クエスチョンが、次々と湧いてくる。

 

今になって、常識的な思考が戻ってきた。

 

ユノって一体、何者なんだ?

 

「美味しそう」だったから拉致して、僕を弄ぶという形で『食べた』のか?

 

じゃあ、『育てる』って?

 

僕の中に潜むマゾっ気を育てるってことかな。

 

まさか!

 

なんだか、頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。

 

ひとつだけはっきり言えるのは、このことを僕が望んでいるってことだ。

 

もう一度、味わいたい。

 

ユノに触られ、舐められて、僕は恍惚の世界を縁から覗きこんだ。

 

身を乗り出して、その世界に飛び込んで、底まで沈みたい。

 

そんな考えを悶々と巡らしているうちに、ばあちゃんちの前にたどり着いていた。

 

 

 

(つづく)

 

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