(81)時の糸(ミンホ)

 

 

【ミンホVersion】

 

ユノの片手は、チャンミンのみぞおちまで落とされた。

 

ところが、チャンミンはその手を握って捉えると、自身の腰に巻きつかせた。

 

「?」

 

「ユノはじっとしていて」と、チャンミンは唇を合わせたまま囁いた。

 

チャンミンの右手はユノの胸を揉むように撫ぜた。

 

手の平が感じる、ほどよい弾力。

 

(へぇ...ユノって、華奢なタイプに見えたのに、意外と筋肉ついているんだな)

 

揉むかたわら、チャンミンの指はユノの胸先をとらえていた。

 

「ユノのここ...柔らかかったのに...」

 

「...え?」

 

「ユノのここ...女の子のみたいに...」

 

チャンミンの指の腹で転がされ、ユノのそれは硬さを増してゆく。

 

「やわくてふっくらしてて...それなのに」

 

ユノの胸先を強弱つけて摘まんでは、引っ張った。

 

「んんっ...」

 

(待て待て。

あんたの触り方...エロい)

 

「硬くなってきた」

 

「...やっ...あ」

 

チャンミンは摘まんだ二本の指を擦り合わせた。

 

「んっ...あ、は」

 

(俺...ここが弱かったっけ?

知らんかった)

 

自身の全神経がチャンミンの指にいたぶられた一点に集中し、そこから走る電流が足の付け根の緊張を高めてゆくのだ。

 

ユノの掠れた喘ぎ声に、チャンミンは勢いづいてしまうのだが、戸惑ってもいた。

 

(初めてなのに、ユノを前にすると、自然と身体が動いてしまう。

なんだろ。

自分が自分でないみたいだ)

 

「次は舐めてあげようか?」

 

「!!」

 

ユノの下唇を食んでは、ひとことひとこと、言葉で煽るチャンミンだった。

 

「っああっ...」

 

「ユノは男なのに、そんな可愛い声、出すんだ」

 

「ば、馬鹿!」

 

(チャンミン!

どうしちゃったんだよ!)

 

普段のチャンミンとのギャップにユノは驚かされ、最初はキスや愛撫から気が反れてしまっていた。

 

ところが、女性の胸のように扱われ、次第にドキドキと胸が高まってきたのだ。

 

ユノの口内で踊っていたチャンミンの舌が、今度はねっとりとスロウな動きになっていた。

 

(キスも...エロい、エロいぞ!)

 

「ここ。

触られて...どう?」

 

「...そこっ...ダメっ...ダメみたい!」

 

(くすぐったいのに、ゾクゾクする!

...俺って、ここが弱いみたいだ。

それに、この感じだと、予想通りの流れになってしまいそうだ)

 

「どう?」

 

「っんん!

ダメだ、ダメだって。

そこばっかは!」

 

(ユノが可愛い!)

 

ユノの胸先ばかり攻めて、その反応を楽しんでいるらしいチャンミン。

 

チャンミンの手を払いのけるたび、執拗にチャンミンの手はユノの弱いところにリターンしてくるのだ。

 

爪でひっかいてみると、喉をみせてのけぞった。

 

小さな1点をなぶられただけで呼吸を乱すユノの姿に、チャンミンの欲は炎をあげる。

 

ユノの方も、自身の甘く切なげな声に、「俺って...可愛い声を出すんだな」と新鮮な気持ちを抱きつつ、その喘ぎ声に煽られてゆく自分に驚いていた。

 

(この流れ...イヤじゃない。

チャンミンに好きにされる感じ...イヤじゃないぞ)

 

チャンミンは唇を、ユノの耳の下から喉元、そこから鎖骨へと落としていった。

 

わずかに開けた唇から舌をのぞかせ、舌先でつつつ...っと、ユノの肌を味わった。

 

ユノの全身に快感のさざ波が伝播してゆき、肌が粟立った。

 

(ぞくぞくする!)

 

チャンミンの舌はユノの谷間をたどり、ようやく敏感な1点に到達すると、すかさずきつめに吸い上げた。

 

「んんっ!」

 

(ユノの低いのに、甘くて可愛い声...色っぽい)

 

(...チャンミンのえっちは、攻めな感じになりそうだ。

YKさんも情熱的っぽいから、さぞかし盛り上がったえっちをしていそうだ。

そんなの...嫌だ!)

 

「なあ、チャンミン」

 

「ん?

痛い?」

 

チャンミンはユノの胸先から唇を離した。

 

(しまった...。

夢中になり過ぎたかな)

 

「痛くない、痛くないけど...」

 

「よかった」

 

安心したチャンミンは、ユノのもう片方を味わおうとしたところ、ユノの手によってそこを覆われてしまった。

 

「嫌だった...?」

 

(しつこかったかな)

 

「あのさ、俺。

もう一個、チャンミンに言いたいことがもう一個あるんだ」

 

「どうしたの?」

 

先ほどまでの攻めの態度から一転、普段の不器用で優しいチャンミンの口調だった。

 

「えっと...俺、そっちは初めてなんだ」

 

「そっち...」

 

「俺はあっちなんだ」

 

ユノの言葉の意味が分からず、チャンミンはしばし沈黙した。

 

「あっち...?」

 

「あっちは『攻め』

そっちはその逆って意味だよ」

 

「...ああ!」

 

理解が追い付いたチャンミンは、ふうと大きく息を吐き、ユノを力いっぱい抱き締めた。

 

「優しくするから...安心して」

 

「!!」

 

(チャンミン!!

なんて台詞!)

 

「僕も初めてだけど、ユノのこと大事にするから。

優しくするから、ね?」

 

「...チャンミン」

 

(感動するんですけど)

 

チャンミンもユノも感じ取っていた。

 

やわらく押しつぶされていた前が、むくむくと堅さと長さを増していって、跳ね返さんばかりになっていることを。

 

(よかった)

 

特にユノは、ノンケのチャンミンが男の身体でどこまで興奮してくれるかを、気にかけていたから、心の底から嬉しくなった。

 

興奮の度合いを物理的に肌で...それも、最も敏感な箇所で...如実に表れて、意志の力ではごまかせない箇所で...感じ取ったことで、いよいよスイッチが入った。

 

「ねえ、チャンミン。

チャンミンの元気なとこ...触ってもいい?」

 

「ええっ!?」

 

「それ...触ってもいい?」

 

チャンミンの慌てた反応に、ユノは心の中で吹き出した。

 

(可愛いなぁ。

攻めてはみるけれど、恥ずかしがるキャラクターもちゃんとあるんだ。

安心したよ)

 

ユノはチャンミンの背中から前へと、その手をじりじりと移動させた。

 

それから、チャンミンの手をユノ自身に誘導した。

 

 

(つづく)

 

 

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(81)時の糸(ホミン)

 

【ホミンVersion】

 

 

一旦みぞおちまで落とした片手を、今度は喉元へと上昇させてゆき、途中でひっかかったそこでその手を止めた。

 

「...っん!」

 

ユノの中指の爪に弾かれた時...小指の先より小さな箇所から、みぞおちへと走った痺れ。

 

(なんだ、これ?)

 

チャンミンは初めての感覚に戸惑った。

 

ユノの口内で踊っていたチャンミンの舌が停止したことに、ユノは嬉しくなった。

 

「チャンミン...ここ、もうちょっと触ってもいい?」

 

「...どこ?」

 

普段のユノだったら、「とぼけるのはお止め」と言っていた。

 

ユノは「ここ」と言って、チャンミンの胸でつんと尖った突起をくすぐった。

 

「っん!」

 

「ここ。

触られて...どう?」

 

ユノは指の腹でくるくる転がすと、次第にそれは硬さを増してゆく。

 

縮こまったチャンミンのそれを、強弱をつけて摘まんでみせた。

 

「...そこっ...ダメっ...ダメみたい!」

 

自身の全神経がユノの二本の指に挟まれた一点に集中し、そこから走る電流が付け根の緊張を高めてゆくのだ。

 

(くすぐったいのに、ゾクゾクする!

...僕は、ここが弱いみたいだ)

 

「ここ?」

 

「っんん!

ダメだ、ダメだって。

そこばっかは!」

 

チャンミンの胸先ばかり攻めてその反応を楽しんでいるらしいユノ。

 

ユノの手を払いのけるたび、執拗にユノの手はチャンミンの弱いところにリターンしてくるのだ。

 

小さな1点をなぶられただけで呼吸を乱すチャンミンの姿に、ユノはどこか新鮮な気持ちになった。

 

チャンミンの方も、自身の甘く切なげな声に、「僕って...可愛い声を出すんだな」と新鮮な気持ちを抱きつつ、その喘ぎ声に煽られてゆく自分の驚いていた。

 

「ぷっ...声が可愛い...」

 

きゅっとつまむ指に力をこめる度、チャンミンの全身が痙攣する。

 

「待って!

そこ、そこばっかは!」

 

爪でひっかいてみると、喉をみせてのけぞった。

 

(...チャンミン...感じすぎだろ。

ちょっとしか触っていないのに、この反応。

YKさんにいじられてきたのかな...彼女、情熱的なキャラっぽいから。

...面白くない)

 

そして、意のままにもだえるチャンミンの姿に、ユノの欲の炎が焔が立ち上がり、今度はそこに吸い付きたくなった。

 

「すごいねチャンミン...。

カチカチになってる」

 

そう言ってユノは、おそらく大赤面しているだろうチャンミンにキスをする。

 

「そういうことっ...言うな!」

 

恥ずかしくて仕方がないチャンミンは、顔を背けてユノからのキスから逃れた。

 

「本当のこと言ってるだけ。

へぇ...ここが弱いんだ。

...舐めてもいい?」

 

「だから、そういうこと言うな!」

 

顔を背けたままのチャンミンの頬にチュッとキスをすると、ユノはその唇を耳の下から喉、首筋へと落としていった。

 

ユノはわずかに開けた唇から舌をのぞかせ、舌先でつつつ...っと、チャンミンの肌を味わった。

 

温かく柔らかいユノの舌は、途中で喉仏へ、鎖骨へと寄り道をしながら、チャンミンの敏感な1点を目指している。

 

いよいよそこに到達したユノは、すぐには口にふくまない。

 

尖らせた舌の先端で、つんつんと弾くだけ。

 

「...あっ、ダメ...!

ダメだよ!」

 

(お~、感度良好。

チャンミン、可愛いなぁ)

 

(マズいマズい、マズいって。

なんだよ、この声は。

自分の声じゃないみたいだ!)

 

チャンミンの反応を一通り楽しんだ後、ユノはようやくそこを食む。

 

「はっ...ああっ...!」

 

指でいたぶられたのとは反対側を攻められて、予想外の刺激にチャンミンがあげた声は大きかった。

 

(ここばっか攻めても、可哀想だなぁ)

 

ユノは胸先から唇を離し、屈んでいた身を起こした。

 

そして、チャンミンの背に腕を回して、力いっぱい抱きしめた。

 

チャンミンもユノも感じ取っていた。

 

やわらく押しつぶされていた前が、むくむくと堅さと長さを増していって、跳ね返さんばかりになっていることを。

 

興奮の度合いを物理的に肌で...それも、最も敏感な箇所で...如実に表れて、意志の力ではごまかせない箇所で...感じ取ったことで、いよいよスイッチが入った。

 

「ねえ、ユノ。

ユノの...触ってもいい?」

 

「は!?」

 

「それ...触ってもいい?」

 

今度はユノが慌てる番だった。

 

チャンミンはユノの背中から前へと、その手をじりじりと移動させている。

 

その手は緊張と恥ずかしさで震えていた。

 

「触って」と答える前に、ユノはチャンミンの手を自身のそこに誘導した。

 

 

(つづく)

 

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(80)時の糸

 

 

向かい合わせに横たわって、二人は互いの頬を両手で包み込んでいた。

 

深いキスに進む前に、確認したいことがあったのだ。

 

ユノは今、チャンミンの右頬に触れた手を下に落としたい欲求を抑えていたし、チャンミンの方も、ユノの腰を引き寄せたくて仕方がなかった。

 

壁一面の窓からは、人口500万人都市の夜景を見下ろすことができる。

 

曲がりくねったチューブの中を、青白い軌跡の光線が一定間隔で走っている。

 

時折、天に向けられたサーチライトを、飛行物体の船体が横切っていく。

 

空の裾野は、無数の人工照明でぼうっと黄色くにじんでいた。

 

これらは今の二人の視界には、当然入っていない。

 

「チャンミン」

 

「ん」

 

ユノはチャンミンの額に唇を押し当ててから、こう尋ねた。

 

「念のため訊いておくけど、チャンミンは...その...経験、あるわけ?

ご存じの通り、俺は同性派なんだ。

生まれてこの方、俺は男としか経験していないんだ。

...どういう意味か分かるか?」

 

(チャンミンがノンケだってことを知っている。

女性経験しかないことも知っている。

でも...半月前のチャンミンは、卵から孵ったばかりのひな鳥みたいだったんだ。

初めて好意を持った者の性別など、関係ないのだ。

もし観察者が女性だったら、彼女を好きになっていただろう。

最も身近にいた人物が俺だったから、好きになったまでだ。

...そう考えると、ちょっとだけ虚しい気持ちになってしまう)

 

ユノの質問に、チャンミンは考え込んでしまった。

 

チャンミンの答えを待つユノの二つの眼は、わずかな灯りを集めて光っていた。

 

片手を頬から離すと、その指でユノの細い鼻梁を...滑り台を滑り落ちるように...上から下へとたどった。

 

ユノの尖った鼻先から宙に放り出された人差し指は、彼の唇の上に着地した。

 

熱を帯びていたユノの唇に触れた時、緊張のあまり自身の指先が冷たくなっていたことにチャンミンは気づいた。

 

ユノの顔に触れながら、チャンミンは思いを巡らせていた。

 

(ユノは「経験はあるのか?」と尋ねている。

経験はない...おそらく。

あるのかもしれないけれど、覚えていないんだから未経験と同じことだ。

女性とはどうやってやるか知っているし、男の場合も同様だ。

知識として知っているだけだ)

 

「...ごめん。

初めて...だと思う...」

 

チャンミンはうつむいて、矢のように射るユノからの視線から逃れた。

 

みぞおちから下は濃い影に沈んでしまっている。

 

彼らが触れ合っているのは、両手で挟んだ頬だけだった。

 

「どうして謝るの?」

 

「経験あるよ」と見栄を張られたとしても、その嘘を信じるつもりでいたユノは、素直に認めたチャンミンのことがいじらしかった。

 

「...いや...やっぱり30歳になるのに、経験がないのも...さ。

ほら、僕って人付き合いが苦手だろ?

だから...ユノが初めてなん...だ」

 

チャンミンの告白の語尾は、消え入りそうだった。

 

(どの時代でも、生身の人間同士の関わり合いに無関心な者も一定数はいると思う。

チャンミンのような人物は特に珍しいわけじゃない。

チャンミンが持つ特殊な事情が、今の彼をこうさせているのだ)

 

「そっか。

身構えなくていいよ。

こうやって...」

 

ユノはチャンミンの肩を抱くと、自身の方へと引き寄せた。

 

「あ」

 

これで、二人のみぞおちから下がぴったりと接触した。

 

「......」

「......」

 

ぷっと同時に二人は吹き出した。

 

「緊張してる?」

 

「うん」

 

「やっぱり?」

 

「すぅぅ...はあぁぁ。

すごい緊張してる」

 

大袈裟に息を吸って吐いてみせるユノに、チャンミンは笑った。

 

二人の脚の付け根は、互いの柔らかく温かいものを感じ取っていた。

 

(最初のキスの時は、苦しいほど元気いっぱいだったのに、今はもう...。

今もまだ、探り合いの段階だ。

どっちがどっちだ?)

 

「......」

 

彼らの背中は呼吸が荒々しくなってきた証拠に、大きく上下している。

 

「ふう...」

 

こくりと頷き合ったのが合図だった。

 

「!!」

 

チャンミンはユノを仰向けにすると、その上にのしかかった。

 

チャンミンの素早い動きに驚く間もなく、ユノの唇はすっぽりとチャンミンの唇で覆い隠されてしまった。

 

チャンミンに応えようと舌を伸ばすのだが、口内を激しく踊るそれの荒々しさに、ユノの舌はチャンミンにゆだねるしかない。

 

(くっ...チャンミン...激しいな)

 

「んっ...んっ...ん」

 

舌同士を重ね合わせたままの息継ぎは、熱く荒々しい吐息のせいで性的に煽られるのだ。

 

ユノの顎をつかんだチャンミンは、唇を重ねなおすごとに右に左にと意のままに、ユノの頭を傾ける。

 

右に左にと操られるユノは、キスするだけが精いっぱい。

 

(は、激しい...。

この感じだと、俺...攻められる方になるんかな)

 

ユノはチャンミンと上下に身体を入れ替え、チャンミンを仰向けにした。

 

そして、背中に回していた手を、チャンミンの正面へと回した。

 

(チャンミンのペースに任せていたらあかん。

俺だって...!)

 

 

(つづく)

 

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(79)時の糸

 

 

すみずみまで明るく照らされて、全てがあからさまになるよりも、影で隠された箇所を想像力で補うのが夜の愉しみだ。

 

寝室はダウンライトのみで、分かるのは身体のシルエットと凹凸のみだ。

 

チャンミンの部屋がモノトーンでまとめられているのは、気取っているわけではない。

 

頭痛に悩まされるようになってから特に、色彩鮮やかなものは目にうるさいからと、機能性のみを求めた結果だった。

 

互い違いに傾けた頬同士が近づく。

 

二人の唇は既に開いており、重なり合うと同時に舌をからませた。

 

(毎度、チャンミンに押されっぱなしだったからなぁ)

 

ユノはチャンミンの後頭部に手を回して、自分の方へと引き付けていた。

 

(もろベッドの上、となると...緊張してしまう)

 

チャンミンはユノの手首で光るライトに気付いた。

 

「あ」

 

チャンミンはユノのリストバンドを外し、サイドテーブルの引き出しにそっと仕舞った。

 

(俺だったら部屋の向こうに放り投げるんだけどなぁ。

こういう丁寧なところ、好きだよ)

 

チャンミンの両手で包み込まれたユノの白い顔と、薄暗い中でもよくわかる、男性にしては紅い唇。

 

(ユノは男なのに...どうして、こんなに可愛いんだろう!)

 

思い余って、挟んだ頬をぐにぐにと上下に揉んでしまうのだった。

 

「おい!

不細工な顔にすんな!」

 

ユノは負けじとチャンミンの両頬をつまんで、左右に引っ張った。

 

「いででで!

痛いよ!」

 

「あんたは何されてもハンサムさんやね」

 

「そうかなぁ?

ユノだって、顔が整ってるよ。

いつも、綺麗だなぁ、って思ってたんだ」

 

チャンミンの頬から素早く手を離すと、ユノは後ろに飛び退った。

 

室内の色味はオレンジ色の光と黒い影のみで、ぼっと赤くなったユノの頬は悟られずに済んでいた。

 

「は、恥ずかしいこと、よく口にできるな~」

 

「ホントのこと言ってるだけじゃないか」

 

「......」

 

照れ屋だったり大胆だったり、チャンミンの性格のふり幅の大きさに、ユノは未だに慣れない。

 

 


 

 

~ユノ~

 

チャンミンちの浴室は、湯船がなかった。

 

湯船の中でこわばった足首を温め、もみほぐす必要があった。

 

パネルを操作すると、四方からスチームが吹き出し、浴室はサウナ状態になった。

 

義足を外した俺は、滑って転んではいけないと浴室の床に座り込んだ。

 

欠損した上をもみほぐしながら、風呂から出た後のことを想像してみた。

 

ここで俺は迷ってしまうのだ。

 

チャンミンは、どっち側になるのだろう?

 

俺と恋愛することに何の抵抗もなかった様子だったのには、俺も驚いた。

 

欲においては希薄な状態で、人格は真っ新で素直、常識や偏見もなくて...ところが、感情が豊かになるにつれ、欲を覚えるようになった。

 

俺の恋愛対象は男で、こういう質は少数派ではあるが隠すことではない為、職場でオープンにしている。

 

(セクハラ言動のボーダーラインを定める意味でも、明確にしておくのが世の常だ)

 

俺にとっては当然なことでも、チャンミンの履歴書を読む限り、彼はノンケだ。

 

だから、「どっち?」と訊くわけにはいかないのだ。

 

ところが、女性経験については...。

 

「う~ん...」

 

俺は腕を組み、唸っていた。

 

YKという女性の登場は大迷惑だった。

 

よりによって、カイ君の姉だったとは!

 

「...マックスかぁ...」

 

YKを思い出すことはないけれど、チャンミンが恐れていたように、手指の感触が記憶を呼びおこすきっかけになるかもしれない。

 

(まさか!

ありえない!)

 

これまでのチャンミンのキスの仕方を思い起こしてみた。

 

記憶にはなくても、身に染みついた本能のようなものが、あの激しさだとしたら!

 

俺はチャンミンに組み敷かれるのだろうか。

 

俺には経験のない側だった。

 

「......」

 

浴室内はスチームで満たされ、玉のような汗が肌をすべり落ちた。

 

流れに任せよう...これが、俺が出した結論だった。

 

 


 

 

チャンミンは震える指で、ユノのパジャマのボタンを外してゆく。

 

(ま、まるで女の子のようなんですけど?)

 

ユノは天井を仰いで目をつむり、チャンミンにされるがままにいた。

 

パジャマの上が脱がされた時、ごくり、とチャンミンが唾を飲みこむ音がユノの耳にはっきりと聞こえた。

 

チャンミンにとって、ユノの裸体を目にするのは初めてだったのだ。

 

ユノにしてみれ、全裸にならなくても、件の行為の妨げにならなければよいのであって...。

 

丁寧に衣服を脱がし合う行為の経験がほとんどなかった。

 

(チャ、チャンミンは、俺を女の子のように扱っている...!)

 

チャンミンの手によって、パジャマの下もするっと脱がされたことが、恥ずかしくてたまらないユノ。

 

(こんな流れ...初めてなんですけど?)

 

下着1枚になったユノの姿に、チャンミンはハッとすると、自身のTシャツとスウェットパンツを手早く脱いだ。

 

何度か目にしたことのあるチャンミンの裸体であっても、「その後」のことが控えている今、ユノのトキメキは上昇するばかり。

 

二人はもう一度、唇を重ね合わせた。

 

片手は相手のうなじに、互いの舌で口内をいっぱいにさせ、もう片方の指は互いの下着にひっかけられていた。

 

これで、邪魔するものは何もなくなった。

 

マットレスに二人の身体が沈んだ。

 

 

(つづく)

 

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(78)時の糸

 

 

~チャンミン~

 

「...っつ」

 

こめかみが疼く。

 

「はあ...」

 

ユノに何度、真っ裸を見られたことか...。

 

見せるものは全部見られてしまった、ってことか。

 

キッチンカウンターに常備している、頭痛薬を水なしで飲み込んだ。

 

ユノのために追加の毛布を用意しようと、寝室へと移動した時...。

 

ベッドが目に入った。

 

今朝ベッドメイクしたそこは、真っ白なシーツと布団カバーでしわひとつなく整えられている。

 

ベッドは2人分、ゆうに横たわれるダブルサイズだった。

 

「......」

 

それから、入浴中のユノを意識した。

 

ちょっと待て...ぼんやりしていたけど、つまり、その...。

 

僕が置かれている状況とは、その、つまり、えっと...。

 

つまり、そういうことだ。

 

困ったな。

 

僕が覚えていないだけで多分、最低2人の女性と恋人関係にあったらしい。

 

つまり僕は...全くの未経験ではないらしい。

 

ところが、そういう行為の手順というか、どういう流れですすむのかとか、さらには「そういうこと」をした時の感覚が、僕の頭には残っていないのだ。

 

さらに問題なのは、ユノが男だということ。

 

僕が調べた限りだと、同性同士の恋愛は少数派だそうだ。

 

かつての時代よりずっとスムーズに、結婚やお互いが望めば妊娠出産も叶うのだとか。

 

男性の肉体構造では不可能なことを、どうやって可能に変えてゆくのか、その技術に興味をそそられた。

 

でもその時は、妊娠出産云々以前の交際段階について調べ物をしていたため、後回しにした。

 

恋愛関係が深まっていくと、肉体的な接触を求め合うようになる。

 

...ユノにハグやキスを求める僕は、その通りだと頷いた。

 

より深まっていくと、肉体の内部で繋がりあい、共に快感を分かち合いたくなる。

 

...その通りだ。

 

僕が困ってしまうのはここからだ。

 

ユノが女性ならば、僕の経験の有無は問題にならない。

 

だって本能的に身体が動くものだろうからだ。

 

ユノも僕も男だ。

 

ひとつだけ確実に言い切れるのは、ユノの身体にもっと触れたいし、僕に触れて欲しい。

 

答えが知りたくて、手に入る限りの情報を求めてみたが、どこも似たり寄ったりな事ばかり。

 

僕のあそこが形とサイズを変えて疼くのは、身体が欲しているのだ。

 

ユノは男と恋愛するのは初めてなんだろうか...常に恋愛対象は同性なんだろうか。

 

ベッドに腰掛けて、僕は頭を抱えた。

 

僕はユノに触れたい欲に突き動かされて、これまでに何度かユノを押し倒してしまっていた。

 

自分があそこまで情熱的な男だとは、思いもよらなかった。

 

ユノが好きだという感情が、肉体にまで侵食してきたのだろう。

 

ユノに止められてからようやく、性急さにハッとなっていたのだ。

 

...そうか。

 

僕はよほどユノのことが、好きなんだなぁ。

 

でも、男女と同様の行為をしたければ、ひと手間が必要になる。

 

(...今から間に合うかな...)

 

タブレットに手を伸ばした時...。

 

「チャンミン...?」

 

寝室の戸口に、僕が貸したパジャマを着たユノが立っていた。

 

(よかった、サイズはぴったりだ)

 

僕が悶々と頭を悩ませているうちに、入浴を終えていたんだ。

 

右ひざを曲げているのは、義足を外しているからだ。

 

立ちあがった僕はユノに近づくと、彼を肩の上に担ぎ上げた。

 

「こら!

一人で歩ける!

俺は荷物じゃないんだぞ!」

 

胸の位置で抱きかかえるのは、なんだか気恥ずかしかった。

 

「わっ!」

 

ユノったら半身を起こすものだから、バランスを崩してしまう。

 

そして、ユノをベッドの上に、投げ出すように落としてしまった。

 

僕に背負い投げされたユノは、ごろんと一回転して着地した。

 

「あのなー!

荷物じゃないって言ってるだろうが!?」

 

「ユノが暴れるからだよ」

 

「......」

 

立ったままなのは変だよな、とユノの正面に胡坐をかいて座った。

 

「......」

 

「なあ。

チャンミン、もしかしてめちゃめちゃ緊張してたりする?」

 

覗き込むユノの目が三日月型になってるから、明らかに僕をからかってる。

 

「うるさいなぁ。

そう言うユノこそ、どうなんだよ?」

 

薔薇色の頬と濡れた髪のせいか、幼く優しい面立ちになっていた。

 

純粋に可愛い、と思った。

 

「明るいのは恥ずかしいな。

電気を消してくれない?」

 

寝室の中をキョロキョロ見回すユノの声も、上ずっているからきっと、彼も緊張しているんだ。

 

「う、うん」

 

ベッドサイドのパネルを操作して、互いの輪郭と表情がぎりぎり分かる程度まで照明をしぼった。

 

参ったなぁ...ドキドキする。

 

僕とユノが急接近してから一か月ほど。

 

ユノとこんな風になるなんて、思いもよらなかった。

 

僕の太ももに、ユノの手が乗せられた。

 

ユノの顔がすっと、近づいた。

 

僕と同じ香りがする。

 

 

(つづく)

 

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